日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
Image Enhancement Endoscopy(画像強調内視鏡)時代における小型大腸ポリープの取り扱い
米田 頼晃 樫田 博史
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2022 年 64 巻 12 号 p. 2465-2471

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要旨

1cm未満の小型大腸ポリープの取り扱いについて解説する.過形成性ポリープ,腺腫,癌の鑑別のためには,画像強調内視鏡や拡大観察が有用であり,特にcold polypectomyでは癌を除外することが重要である.cold polypectomyは後出血が極めて稀であり,穿孔もほぼ皆無であり安全に実施できることが証明され急速に普及している.ただし,微小であっても癌を疑う病変においてはEMRを選択すべきである.人工知能診断を含めた最新機器の活用によって,精密な診断,治療が,より簡便に実施可能となっている.

Abstract

We describe the management of small colorectal polyps of less than 1 cm size. Image enhancement endoscopy and magnifying observation are useful for the differentiation of hyperplastic polyps, adenomas, and cancers, and it is especially important to exclude cancers with cold polypectomy. Cold polypectomy is rapidly spreading because postoperative bleeding is extremely rare and perforation is almost non-existent. However, EMR should be chosen for lesions suspected of being cancerous, even if they are minute. The use of the latest equipment, including artificial intelligence, has made precise diagnosis and treatment easier.

Ⅰ はじめに

大腸において小型ポリープは1cm未満で微小ポリープは5mm以下(1~5mm)を指す.これらの取り扱いについて解説する.

大腸ポリープの内視鏡切除の意義として大腸癌は前駆病変と考えられている腺腫性ポリープを内視鏡切除することにより,その罹患率を76~90%抑制可能であり,さらに53%の死亡率抑制効果が得られるという米国NPS(National Polyp Study)からの報告がある 1.欧米のガイドラインでは,すべての腺腫性ポリープの内視鏡切除が推奨されており,いわゆるクリーンコロンを目指す方針である.

一方,日常診療において,発見される病変の大半は径5mm以下の微小病変であるが,微小病変における癌の頻度は0.03~0.3%と極めて低いことが報告されている 2.本邦では径5mm以下の微小病変を切除するかに関しては一定の見解は得られていないが,大腸ポリープガイドラインでは将来の癌への進展予防を目的として内視鏡切除を弱く推奨するということになっている.ただし,患者の年齢,全身状態,併存疾患や個人の希望によって,径5mm以下の隆起性腺腫は経過観察も容認されている 3

Ⅱ ポリープ切除の使い分け(Figure 1) 4
Figure 1 

ポリープ切除方法の使い分け(文献より改変).

有茎性病変(Ⅰp)においては,茎内に動脈を有することが多いのでcold snare polypectomy(CSP)の物理的な剪断力のみでは切除困難なことが多く,噴出性出血をきたす可能性が高いので,hot snare polypectomy(HSP)での治療が望まれる.

亜有茎・無茎性病変(Ⅰsp,Ⅰs)や平坦病変(Ⅱa,LST)に対しては,これまで主として内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われてきたが,熱損傷による後出血,遅発穿孔が散見される 5

近年,CSPが注目され,後出血は極めて稀であり,穿孔もほぼ皆無であり安全に実施できることが証明され急速に普及している 6),7

また,抗血栓剤服用中の患者におけるCSPの有効性・安全性が報告されている 8),9.ただし,CSPは粘膜筋板の一部までしか切除できていないことが判明し,cautery effectも期待できないことから,遺残・再発が危惧される 10

CSPでは病変を見失って回収できないことがある 11.またトラップへの吸引回収に伴って標本が挫滅しやすく,標本が伸展貼布されないことにより断端評価が困難である.これらの特徴のためCSPの適応は,癌を疑わない10mm未満の非有茎性病変とされている 12

スネアで握っても切れない場合はスネアの選択や使用法が不適切,病変が大きすぎ(1cm以上),太い血管・線維化などの存在により通常より固いなどの可能性がある.その場合は病変を把持したまま,スネアを鉗子孔にシースに引き込む方法 13や局注してみて挙上されればEMRに切り替えるのが良い.穿孔をきたす可能性があるので通電はしない 14.CSPは5mm未満の微小病変にも有用であるが,cold forceps polypectomy(CFP)も許容される.その場合,通常の生検鉗子を使うのではなくジャンボ鉗子を用いるべきである 12.ただし,微小であっても癌を疑う病変においてはEMRを選択すべきである.

Ⅲ 画像強調内視鏡(IEE:Image Enhancement Endoscopy)を用いた実臨床における観察方法について

過形成性ポリープ,腺腫,癌の鑑別のためには,IEEや拡大観察が有用であり,特にcold polypectomyでは癌を除外することが重要である(Figure 23).小型大腸ポリープでも通常観察で緊満所見,面状陥凹,粗造所見,NPG(non polypoid growth)様の立ち上がりの所見を伴う病変は注意が必要である 15

Figure 2 

a:白色光観察にて直腸に病変周囲に白斑を伴う発赤調のⅡa 5mm病変を認めた.

b:CSPが施行された.

c:治療後の病理結果で粘膜内癌,垂直断端陽性のため追加治療目的で当科紹介となった.追加ESDを行ったが遺残病変は認めなかった.

Figure 3 

a:白色光観察でS状結腸にⅠs 6mm病変を認めた.

b:NBI拡大観察でJNET Type 2Bを認めた.

c:Pit pattern診断ではVI高度不整を呈しSM高度浸潤が疑われたが小型ポリープのため患者の希望もあり診断的EMRを実施した.病理結果はadenocarcinoma(tub1),pT1b(SM 2,450μm)であった.

JNET type1であれば概ね非腫瘍であるが,開大した腺管開口部や拡張した血管所見を認める場合はSSL(sessile serrated lesion)の可能性があるので色素観察を行い確認する.JNETtype2Aを呈すれば良性腺腫の可能性が高いが,低異型度癌の可能性が残る.Narrow Band Imaging(NBI)拡大観察でJNET type2Bを呈する部分があれば癌を疑う所見である.この場合は色素拡大観察を行ってⅥ型軽度不整であればTis~T1a,高度不整やVN型であればT1bの可能性が高い 16),17

さらに診断に迷う場合は,メチレンブルー染色を行ってEndocytoscopyを用いた超拡大内視鏡観察 18や,超音波内視鏡観察による深達度診断を実施する 19.複数の診断法を駆使して最適な治療のための最終診断を行うことが大切である.

また2012年に発売されたLaser光源を用いた内視鏡システムでのBLI(Blue Laser Imaging)/LCI(Linked Color Imaging)による内視鏡観察の有用性が報告されている 20.JNET分類の応用が可能であり,腫瘍-非腫瘍の鑑別,癌の深達度診断についてNBIと同等の診断能を有すると報告されている 21),22.最近は,光源としてLaserの代わりにLEDを用いたBLIが市販され,正式にはBlue Light Imagingであるが略称は同じBLIと表現される 23

2020年オリンパス社からEVIS X1シリーズが発売され,多くの改革がなされている.光源の変更,遠景の明るさの向上,画像強調 TXI(Texture and Color Enhancement Imaging)が含まれ白色光に近い色味のTXI Mode2 と色調を強調したTXI Mode1がある.病変の視認性の向上が期待され,ポリープ検出や診断率の向上に関して,今後の研究結果が待たれる.

Ⅳ 鋸歯状病変の取り扱い

大腸鋸歯状病変は,過形成性ポリープ(Hyperplastic polyp),SSL(sessile serrated lesion),TSA(traditional serrated adenoma)に大別される 24.過形成性ポリープは直腸・S状結腸に好発し,径5mm以下の白色調の平坦または半球状の内視鏡所見を呈することが多い 25.NBI観察ではJNET type1,色素観察でⅡ型pitが特徴である.将来の癌発生との関連性はみられないため,直腸,S状結腸の病変に関しては原則,放置してよいとされている 3

SSLは,右側結腸に優位に存在し,平坦な病変が多く,褪色調で粘液付着していることが多い.NBI観察ではJNET分類でType1を示し,開大した腺管開口部や拡張血管を認める 26.色素観察では開Ⅱ型pitを基本とする腺管開口部が開大する所見を呈する 27.TSAは,左側大腸,直腸に好発し,発赤調で隆起性病変が多い.表面構造が松毬様所見を呈する.色素観察では,シダ様所見を呈する 28

SSLの癌化率は1.5~20%の報告 29がされているが,治療適応や切除方法に関しては,まだコンセンサスはない.ポリープ診療ガイドラインでは「10mm以上は治療適応としている施設が多い」とされるが,実際には6~9mmでもコールドポリペクトミーがなされている.5mm以下では過形成性ポリープ(HP)との鑑別困難であり経過観察も許容されると思われる.TSAも腺腫と同様の癌化のリスクを有するため治療適応である 3

Ⅴ 大腸ポリープにおけるAI診断の現状

人工知能(AI:Artificial Intelligence)技術を活用した大腸内視鏡の役割は,コンピュータ検出支援CADe(computer-aided detection)とコンピュータ診断支援CADx(computer-aided diagnosis)に大別される.

2010年までは従来型の機械学習の手法が用いられていたが良好な成績が得られていなかった.2010年代後半よりdeep learningが普及し,Endocytoscopyを用いたCADe(computer-aided detection)の開発報告がされた 30.筆者らも2017年,顔認証AIシステムを応用しCADx(computer-aided diagnosis)を用いた腫瘍性病変,非腫瘍性病変の区別ができることを報告(診断精度が75.1%) 31し,2021年に改良版(診断精度が92.8%) 32を報告している.

近年,CADeとCADxを併せ持ったシステムの報告がされており臨床に不可欠な有望なシステムといえる.この研究によると,感度89.4%,特異度98.9%,正診率94.1%で浸潤癌が鑑別できたことを報告している 33.その機能を搭載した機器がオリンパス社からEndo BRAIN,Endo BRAIN-Plusとして薬機法承認を取得し,本邦で市販された.

2021年にNEC社からWISE VISIONがリリースされた.WISE VISIONTM EndoscopyのCADeの感度は97.3%,特異度は99.0%と報告されている 34.また富士フイルム社のCAD-EYEが市販されている.CAD-EYEのCADeの感度は92.9%,特異度は90.6%,正診率は91.7%と報告されている 35

Ⅵ おわりに

IEE時代における小型大腸ポリープ(1cm未満)の内視鏡診断,治療に関するを含め取り扱いについて解説した.最新機器の活用によって,精密な診断,治療が,より簡便に実施可能となっている.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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