日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
胃粘膜下腫瘍として経過観察中に急速増大を来した高リスクGastrointestinal stromal tumorの1例
中村 祐介 唐木 洋一福田 啓之阿部 径和
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2022 年 64 巻 12 号 p. 2489-2495

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要旨

症例は67歳男性.健診で胃穹窿部に10mm大の粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)を指摘され,経過観察とされた.その後経年的に緩徐な増大傾向を認めていたが,特に精査は追加されず,4年目の定期検査で病変部に急速な増大を認め,当院へ紹介となった.当院での生検の結果消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:GIST)の診断となり胃部分切除術が施行され,切除検体に対する病理組織検査で高リスクGISTと診断された.経過観察とされた小サイズ胃SMTにおける急速増大の報告はこれまでに僅かであるが,その多くが高リスクGISTと診断されていることから,稀ではあるが留意すべき病態と考えられたため文献的考察と共に報告する.

Abstract

A 67-year-old man was referred to our hospital for evaluation of rapid growth in a small gastric submucosal tumor (SMT) during annual surveillance. Endoscopy revealed a large SMT with a giant ulcer in the fornix of the stomach. Evaluation of biopsy specimens confirmed diagnosis of a gastrointestinal stromal tumor (GIST), and we performed partial gastrectomy. Histopathological evaluation of the resected specimen revealed a high-risk GIST. Clinically, small gastric SMTs that show rapid growth are rare; however, most such SMTs are categorized as high-risk GISTs. Although rare, rapid growth detected during surveillance should be considered a clinically significant change. We report a rare case of a rapidly progressive high-risk gastric GIST, together with a literature review.

Ⅰ 緒  言

消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:GIST)は消化管由来の間葉系腫瘍で,本邦では胃に発生する頻度が高く,上部消化管内視鏡検査時に粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)として偶発的に観察されることが多い.しかし,本邦の診療ガイドラインでは腫瘍径2cm未満で無症状,臨床的悪性所見のない胃SMTは経過観察することが可能とされ,年1~2回の内視鏡検査±超音波内視鏡検査(以下,EUS)での経過観察が推奨されている 1.今回われわれは3年間の内視鏡検査で緩徐な増大傾向を呈しつつも腫瘍径2cm未満であった胃SMTが,4年目に急速増大を来し,高リスク胃GISTと診断された1例を経験した.自験例の経過は胃SMTの経過観察において留意すべきGISTの稀な病態と考えられたため,文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:67歳,男性.

主訴:特になし.

既往歴:高血圧症,前立腺肥大症.

現病歴:他院での健診時に上部消化管内視鏡で胃穹窿部に10mm大のSMTを指摘され,以降1年毎に同院で内視鏡検査による経過観察を受けていた.3年目の経過観察の時点でSMTに軽度の増大(約15mm大)を認めていたが,特に精査は追加されず,4年目の経過観察の際に同部に著明な増大と潰瘍形成を認め,精査加療目的に当院へ紹介となった.

臨床検査所見:ヘモグロビン濃度9.6g/dLと貧血を認めた.他の検査項目には異常を認めなかった.

上部消化管内視鏡(Figure 1):健診時に胃穹窿部に約10mm大のSMTを指摘された(Figure 1-a).その後1年目(Figure 1-b),2年目(Figure 1-c),3年目(Figure 1-d)の経過観察では病変部に緩徐で持続的な増大傾向を認め,特に3年目には約15mm大までの増大と表面の凹凸を認めていた.4年目に当院へ紹介となった際には,病変部は約60mm大にまで増大し,潰瘍形成を伴っていた(Figure 1-e).病変周囲には凝血塊が付着していたが,観察時には明らかな活動性出血は認めず,潰瘍部から生検を行った.

Figure 1 

a:胃穹窿部に約10mm大のSMTを認めた.

b:1年目の経過観察時.病変部に緩徐な増大傾向を認めた.

c:2年目の経過観察時.緩徐な増大傾向の持続を認めた.

d:3年目の経過観察時.約15mm大までの増大と表面の凹凸を認めた.

e:4年目の当院紹介時.著明な増大(約60mm大)と潰瘍形成を認めた.

病理組織検査:生検検体に対する病理組織検査では,ヘマトキシリン・エオジン染色で紡錘形細胞の増殖を認め,免疫染色でKIT陽性,CD34陽性,smooth muscle actin陰性でありGISTと診断した.臨床経過も踏まえ,発見時から緩徐な増大傾向にあった胃GISTが3年目以降に急速な増大を来したと考えられた.

腹部造影CT検査(Figure 2):胃穹窿部に造影効果を伴うびまん性壁肥厚像を認めたが,遠隔転移や腹膜播種を示唆する所見は認めなかった.画像所見より切除可能胃GISTと判断されたため,胃部分切除術を施行した.

Figure 2 

腹部造影CT.

胃穹窿部に造影効果を伴うびまん性壁肥厚像を認めた(矢印).

病理組織検査(Figure 3):肉眼像では胃穹窿部に径60mm大の中心潰瘍を伴う充実性SMTを認めた.組織像では密な紡錘形細胞の束状・錯綜配列を認め,多数の細胞分裂像(3~5/HPFs)を呈しており,Modified Fletcher分類より高リスク胃GIST(腫瘍径>5.0cmかつ核分裂像数>5/HPFs,もしくは核分裂像数>10/HPFsで該当)と診断された.またKi-67陽性率も20~30%と高率であった.

Figure 3 

病理検査所見.

a:肉眼像.胃穹窿部に径60mm大の中心潰瘍を伴う充実性SMTを認めた.

b:組織像.密な紡錘形細胞の束状・錯綜配列を認め,多数の細胞分裂像を呈していた(HE染色).

c:Ki-67免疫組織化学染色像.陽性率は20~30%であった.

術後経過:術後経過は順調であり,術後8日目に退院となった.退院後は術後補助化学療法として3年間のイマチニブ治療が開始され,現在までに約2年6カ月が経過するが,明らかな再発兆候は認めず,加療継続中である.

Ⅲ 考  察

GISTは消化管筋層由来の間葉系腫瘍であり,カハール介在細胞と同様の起源から発生すると考えられている.臨床的には消化管SMTとして認められ,本邦では胃に発生する頻度が高く,病理組織学的に免疫染色でKIT陽性(95%前後),またはCD34陽性(70~80%)となることでその他の間葉系腫瘍から鑑別される.本邦のGIST診療ガイドライン 1では,現時点でGISTに対する良悪性鑑別の診断根拠がないことから,組織学的診断がついた切除可能な原発GISTについては外科切除が治療の第一選択とされている.そのため消化管SMTを認めた際にはサイズに関わらずGISTか否かの鑑別が必要となり,ガイドラインにも上皮性腫瘍の除外も含めて内視鏡下生検は必須であると明記されている 1.自験例では経過中に病理組織学的な評価は未施行であり,本来であれば発見時や経過観察時に施行すべきであったと考えられた.またガイドラインには胃SMTで腫瘍径2.0 cm未満であった場合には,無症状かつ組織学的に未診断であり,明らかな悪性所見(潰瘍形成,辺縁不整,増大)を伴わなければ年1~2回の経過観察とする方針が推奨されており 1,観察中に悪性所見が疑われた場合にはCT,EUSおよび可能であれば超音波内視鏡下穿刺吸引法(以下,EUS-FNA)による精査を行うことも記載されているが,自験例では経過中1~3年目にかけて緩徐な増大傾向を認めていたものの精査は施行されずに,そのまま経過観察となっていた.

経過観察とされた胃SMTが経過中に増大を来す頻度については,Fangら 2が50例の胃SMTに対する後方視的検討おいて,EUSによる経過観察(平均観察期間39.2カ月)中に14例(28.0%)に増大が認められたと報告している.更に本邦でもMiyazakiら 3が,経過観察中に増大傾向を呈した23例の胃SMTにおいて切除後の病理組織像を検討し,21例(91.3%)がGISTであり,内2例(8.7%)は高リスクGISTであったと報告している.これらの報告から経過観察とされた胃SMTの約3割程度にはその後増大が認められ,増大例にはGISTが多く,更に一部には高リスクGISTも含まれると考えられた.

そこで,経過観察とされた腫瘍径2.0cm以下の胃GISTにおける急速増大についても過去の報告を検索した.医学中央雑誌を用いて2002~2021年までの期間で「胃GIST」または「胃粘膜下腫瘍」,「増大」をキーワードとして,またPubMedを用いて「gastric gastrointestinal stromal tumor」,「size enlargement」または「rapid growth」をキーワードとしてそれぞれ検索(会議録を除く)したところ,腫瘍径2.0cm以下の胃SMTが急速増大したとする報告例を計12例(自験例を含む) 4)~13認めたため,それらについて検討した(Table 1).報告例の内訳は男性6例,女性6例で,年齢の記載があった10例の平均年齢は65.3±10.4歳であった.これらの報告例では初回検査時に病変を認めなかった1例を除き,11例で初診時に経過観察とされたが,その後予定通りに経過観察が施行されたのは6例のみであり,他2例は次回検査までに急速増大を来し,3例は患者の自己判断によって経過観察が中断となり,その後腫瘍が増大し,症候化したために再診となって診断に至っていた.初診時の腫瘍径は平均13.7mm(4~20mm)であり,増大後の腫瘍径は平均62.4mm(28~130 mm)であった.また各報告から算出した腫瘍のdoubling timeの平均は5.7カ月(0.6~12.0カ月)であった.増大前直近(1.5年以内)の経過観察について記載のあった2例と自験例については,増大前腫瘍径も表に併記した.これら3例では直近の経過観察の時点で既に緩徐な増大を認めており,本来であればその際に精査を行うべきであったと考えられた.すべての症例で超音波内視鏡下穿刺吸引生検(以下,EUS-FNAB)もしくは外科的切除術が施行されており,採取検体に対する病理組織検査からGISTと診断されていた.GISTのリスク分類については,腫瘍径・核分裂像数より9例(75.0%)でModified Fletcher分類での高リスクと診断された.またKi-67陽性率についても自験例を含む5例で記載されており,2例で30%以上の高値を認めた.

Table 1 

経過観察中に急速増大を来した胃GIST例の報告例.

腫瘍径2.0cm以下の胃GISTにこのような急速増大を認める機序については未だ十分に解明されていないが,報告例でも急速増大例の多くに病理組織検査所見で多数の核分裂像を認めていたことから,極めて高い増殖能を持つに至った腫瘍細胞が急速増大の一因となっている可能性が示唆された.胃GISTの進展機序についてKawanowaら 14は,c-kit遺伝子の変異によって生じた顕微鏡的GISTがその後に更なる遺伝子変異を獲得していくことで,臨床的低リスクGIT,更には臨床的高リスクGISTへと多段階的に進展していくという仮説を示しており,低リスクGISTに比して高リスクGISTでより高頻度に認められる変異としてTelomerase の再活性化や染色体喪失,マイクロサテライト不安定性の増加などを挙げている.自験例を含む急速増大例についても観察期間中にそれらの変異が獲得され,腫瘍増生がより促進された可能性が考えられた.またGISTの腫瘍径と核分裂数との関連性についてもRossiら 15が,腫瘍径1.0cmを超えるGISTでは1.0cm以下のGISTと比較して核分裂数が急激に増加していることを報告しており,このような病理学的背景も小サイズ胃GISTの急速増大に関与している可能性も考えられた.

一方,急速増大例の診断については現時点でも有効な検査法は確立されていない.しかし,大半が増大後に高リスクGISTと診断されていることから可能な限り早期にGISTを診断すべきと考えられる.一般に胃SMTを経過観察する場合には,GISTかどうかの鑑別を第一に行うべきであるが,それが難しい場合は大きさや形態の変化に注意してフォローし,少しでも変化を認めた場合には,腫瘍径が2cm未満でもEUSや数カ月間隔での内視鏡検査を行って壁外発育型のSMTやGISTを早くに診断し,腹腔鏡内視鏡合同胃局所切除術などで低侵襲に切除することが基本と考えられる.自験例でも急速増大を来すまでの経過観察中に緩徐な増大を認めており,その時点で精査を追加していれば,急速増大前にGISTの診断が得られた可能性があったと思われる.一方,臨床的に緩徐な増大を呈することなく,初診時より短期間の内に急速増大を来したとする報告例もあることから,少なくとも初回の経過観察については,より短期間の内に行うことを検討すべきと思われた.また,Fangら 2は小サイズ胃SMT(平均腫瘍径1.1cm)の増大傾向について,EUSによる経過観察を行い,腫瘍径が1.4cmを超え,かつ画像所見で辺縁不整像を呈する症例はその後有意に増大を来すことを報告しており,より早期のGIST診断につながる可能性が示唆された.自験例でも3年目に約15mm大の腫瘍径となった時点でEUSを施行していれば,辺縁不整像を得られた可能性があると考えられた.今後はこのような腫瘍径2.0cm未満の胃SMTにおける,増大を含む悪性所見の出現を予測する因子について更なる検討が必要と考えられた.更に病変の局在についても,胃中・上部領域はGISTの好発部位とされていることから 16,同部に単発性のSMTを認めた場合もより積極的にGISTを疑い,EUSの追加を検討してもよいと思われた.

Ⅳ 結  語

胃SMTとして経過観察中に急速な増大を来した高リスクGISTの1例を経験した.胃SMTに対する経過観察の際には,腫瘍径2.0cm未満であっても急速増大を来し,高リスクと診断されるGIST症例が存在することを念頭におき,僅かでも変化を認めた際には,積極的にEUSの追加や観察期間の短縮を検討し,GISTの早期診断を心がけるべきと考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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