日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
鋸歯状腺管周囲の間質に神経周膜腫の増殖を認めたSessile Serrated Lesionの3例
田村 恵理 田村 智九嶋 亮治
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2022 年 64 巻 12 号 p. 2509-2515

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要旨

神経周膜腫(perineurioma:PN)は,消化管には稀な神経周膜細胞由来の良性腫瘍である.このPNとsessile serrated lesion(SSL)が同一病変内で認められる症例は更に稀で,どちらが先行して発生したのか,未解決のままになっている.今回われわれは,同一病変内にSSLとPNを認めた3病変を経験した.3病変共,間質に増殖した紡錘形細胞で,3種類のperineurial cell markerが陽性〜弱陽性であることからPNと診断した.3病変のうち,2病変は,5mmと小さく,laterally spreading tumor病変では,小隆起部でのみPNが認められた.今後,この様な症例の蓄積が,両病変併存理由解明の一助となるのではないかと考えられた.

Abstract

Perineurioma (PN), a benign tumor derived from perineurial cells, rarely occurs in the gastrointestinal tract. PN and a sessile serrated lesion (SSL) observed in a single tumor is extremely rare; the lesion that originated first remains unknown. We describe three lesions with SSL and concomitant PN within the same lesion. Histopathological evaluation of all three lesions showed interstitial spindle cell proliferation. Immunohistochemical analysis revealed cells with weak-to-strong immunopositivity for epithelial membrane antigen, glucose transporter-1, and Claudin-1. Therefore, we diagnosed PN in all three lesions. Of the three lesions, two measured 5 mm in size, and it was difficult to determine the lesion that had originated first. However, based on observation of a laterally spreading tumor lesion, PN was detected only in a small bulge. Further accumulation of these lesions is needed to elucidate the origin of PN accompanied by SSL.

Ⅰ 緒  言

Sessile serrated lesion(SSL) 1は,日常の大腸内視鏡検査に際して,比較的頻繁に発見される病変で,大腸近位側に多いが 2,遠位側にも認められる.一方,神経周膜腫(perineurioma:PN)は,消化管に発生するのは稀な神経周膜細胞由来の良性腫瘍である.大腸に発生したものは,Eslami-Varzanehらによって 32004年に,良性線維芽細胞性ポリープ(Benign Fibroblastic Polyps of the Colon:BFP)として報告されたが,その後の検討からBFPとPNは同一病変であるため,PNとして報告されることが多くなっている 4),5.このPNとSSLが同一病変内で認められる症例が病理学的に検討されているが,間質病変と上皮病変のどちらが先行して発生しているのかが未解決のままになっている 6.本邦ではPN単独の症例報告が多く,両者が同一病変内に合併した症例は稀である 4),7)~11.今回われわれは,同一病変内にSSLとPNを認めた3病変を経験し,Laterally Spreading Tumor(LST)病変では平坦病変の一部の小隆起に一致してPNの存在を確認したので,報告する.なお本稿では,2010年のWHO分類 12でsessile serrated adenoma/polyp(SSA/P) without cytological dysplasiaと呼ばれていた病変を2019年のWHO分類 1に従って,SSLと表記する.

Ⅱ 症  例

症例1:56歳,男性.

主訴:ポリペクトミー後の経過観察.

既往歴:1年前に早期大腸癌(Tis癌)を内視鏡的に治療.

現病歴:内視鏡治療後の経過観察目的で,大腸内視鏡検査を施行した際にS状結腸に,5mmのIs病変を認めたため,内視鏡的に切除した.

現症:特記すべき所見なし.

血液検査:異常なし.

大腸内視鏡検査所見:S状結腸近位側に,径5mmの正色調で粘液付着を伴う隆起性病変を認めた.通常観察では,病変全体に緊満感があり,隆起部表面には周囲粘膜類似の樹枝状毛細血管の増生も観察された.Narrow Band Imaging(NBI)観察では,腺管周囲の血管は認識できないため,The Japan NBI Expert Team(JENT)分類 13 Type1と判断した.インジゴカルミン散布像では,粘液産生が盛んな病変に認められる“開Ⅱ型”pit pattern 14が確認された(Figure 1-a).以上からSSLと診断したが,通常経験するSSLに比し腺管密度が低下しているのが,特徴的であった.Cold polypectomyにて内視鏡的に切除した.

Figure 1 

症例1.

a:大腸内視鏡検査所見.インジゴカルミン散布像:径5mmの粘液付着を伴う隆起性病変を認めた.弱拡大像では“開Ⅱ型”pit patternが確認された.病変は,白線部で割を入れ,黄線部のH&E染色を次に提示する.

b:病理組織学的所見(H&E染色:×100).腺底部で拡張する,蛇行した陰窩を有する鋸歯状腺管が観察され,粘膜固有層には紡錘形細胞の密な増殖が認められた.

c:免疫組織化学染色所見.EMA(×200):粘膜固有層において増殖した紡錘形細胞で陽性を認めた.

病理組織学的所見(Figure 1-b):上皮内には,腺底部で拡張する,蛇行した陰窩を有する鋸歯状腺管が観察され,SSLと診断した.また,粘膜固有層には紡錘形細胞の密な増殖が認められ,間質が広くそのため腺管密度が低下していた.HE標本での最終診断は,SSL with perineurial-like proliferationであった.

免疫組織化学染色所見:粘膜固有層に増殖する病変の診断のために,免疫染色を追加した.epithelial membrane antigen(EMA)陽性(Figure 1-c),glucose transporter-1(GLUT-1)陽性,Claudin-1陽性であり,増殖した紡錘形細胞はPNと診断した.また,v-raf murine sarcoma viral oncogene homolog B1(BRAF)遺伝子変異の有無を検索するために,免疫染色でBRAF(V600E)変異タンパクの発現をみたところ,SSL上皮で弱陽性であったが,PNでは陰性であった.

症例2:53歳,男性.

主訴:便潜血陽性.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:便潜血陽性に対する精査目的で,大腸内視鏡検査を施行した際にS状結腸に,5mmのIs病変を認めたため,内視鏡的に切除した.

現症:特記すべき所見なし.

血液検査:異常なし.

大腸内視鏡検査所見:S状結腸遠位側に,径5mmの隆起性病変を認めた.通常観察では,やや退色調を呈する病変で,隆起部表面には樹枝状毛細血管の増生が観察された.NBI観察では,腺管周囲の血管が認識できる部位があり,JNET分類Type2Aと判断した.インジゴカルミン散布像では,一部の腺管開口部で“開Ⅱ型”pit patternや,伸びたⅡ型pit patternが確認された(Figure 2-a).以上からSSLと診断した.通常経験するSSLに比し腺管密度が低下していた.Cold polypectomyにて内視鏡的に切除した.

Figure 2 

症例2.

a:大腸内視鏡検査所見.S状結腸に,径5mmの隆起性病変を認めた.インジゴカルミン散布像では,一部の腺管開口部で粘液産生が盛んな病変に認められる“開Ⅱ型”pit patternや,ⅢL様に伸びたⅡ型pit patternが確認された.

病変は,白線部で割を入れ,黄線部のH&E染色を次に提示する.

b:病理組織学的所見(H&E染色:×100).上皮内には,腺底部で拡張する,蛇行した陰窩を有する鋸歯状腺管が観察され,粘膜固有層には紡錘形細胞の密な増殖が認められ,間質が広く,腺管密度が低下していた.

c:免疫組織化学染色所見.GLUT-1(×400):粘膜固有層において増殖した紡錘形細胞で陽性を認めた.

病理組織学的所見(Figure 2-b):上皮内には,腺底部で拡張する,蛇行した陰窩を有する鋸歯状腺管が観察され,SSLと診断した.また,粘膜固有層には紡錘形細胞の密な増殖が認められ,間質が広くそのため腺管密度が低下していた.HE標本での最終診断は,SSL with PNであった.

免疫組織化学染色所見:粘膜固有層に増殖する病変の診断のために,免疫染色を追加した.EMA弱陽性,GLUT-1陽性(Figure 2-c),Claudin-1弱陽性であり,増殖した紡錘形細胞はPNと診断した.また,BRAF遺伝子変異の有無を検索するために,免疫染色でBRAF(V600E)変異タンパクの発現をみたところ,SSL上皮で陽性であったが,PNでは陰性であった.

症例3:42歳,男性.

主訴:便潜血陽性.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:便潜血陽性に対する精査目的で,大腸内視鏡検査を施行した際に横行結腸に,約20mmのLaterally Spreading Tumor(LST) 15を認めたため,内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行した.

現症:特記すべき所見なし.

血液検査:異常なし.

大腸内視鏡検査所見:横行結腸中央近傍に,径20mmのLSTを認めた.通常観察では,周囲粘膜との色調差が乏しい平坦病変として観察された.NBI観察では,腺管周囲の血管が認識できないため,JNET分類Type1と判断した.インジゴカルミン散布像では,比較的境界明瞭な平坦病変で,病変中央からやや辺縁に寄った部位で5mm弱の小隆起を認めた(Figure 3-a;矢印).小隆起部の腺管開口部では,“開Ⅱ型”と伸びたⅡ型pit patternが確認された.以上からSSLと診断した.EMRにて内視鏡的に切除した.

Figure 3 

症例3.

a:大腸内視鏡検査所見.横行結腸中央に,径20mmのLSTを認めた.インジゴカルミン散布像では,比較的境界明瞭な平坦病変で,病変中央からやや辺縁に寄った部位で5mm弱の小隆起を認めた(矢印).病変は,小隆起が出る白線部で割を入れ,黄線部のH&E染色を次に提示する.

b:病理組織学的所見(H&E染色:×100).上皮内には,腺底部で拡張する,蛇行した陰窩を有する鋸歯状腺管が観察され,SSLと診断した.また,小隆起部に一致して粘膜固有層には紡錘形細胞の密な増殖が認められた.

c:免疫組織化学染色所見.EMA(×400):小隆起部の粘膜固有層において,増殖した紡錘形細胞で陽性を認めた.

病理組織学的所見(Figure 3-b):上皮内には,腺底部で拡張する,蛇行した陰窩を有する鋸歯状腺管が観察され,SSLと診断した.また,小隆起部に一致する粘膜固有層では,紡錘形細胞の密な増殖が認められた.HE標本での最終診断は,SSL with PNであった.

免疫組織化学染色所見:粘膜固有層に増殖する病変の診断のために,免疫染色を追加した.EMA陽性(Figure 3-c),GLUT-1陽性,Claudin-1弱陽性であり,増殖した紡錘形細胞はPNと診断した.また,BRAF遺伝子変異の有無を検索するために,免疫染色でBRAF(V600E)変異タンパクの発現をみたところ,SSL上皮で弱陽性であったが,PNでは陰性であった.

Ⅲ 考  察

大腸の鋸歯状病変のうち,sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P) 12は,本邦では,大腸癌取扱い規約 15に従って診断されてきた.2019年にWHOから第5版のClassification of Tumours 1が出版されてからは,SSLとして定義され,以後SSLという名称で呼ばれることが多くなってきている.WHO第5版では,以下の,明確な歪み(distorted)のある鋸歯状腺管が1個以上あればSSLと診断すると定義している 1,即ち,粘膜筋板に沿った水平方向の腺管増殖,腺底部での腺管の拡張,陰窩基底部へ伸展する鋸歯状突起,非対称的増殖である.上記定義に従えば,本症例も,SSLとして合致するし,これまで本邦で診断されたSSA/P 12),15も,SSLの範疇に入ると考えられる.2007/11/12~2020/6/30の期間にわれわれの施設で内視鏡的に切除し病理組織学的に診断された病変で検討すると 16,SSLは,1,262病変であり,管状腺腫は,11,339病変であった.この結果から,SSLの頻度は,管状腺腫の約10%であり,日常診療で頻繁に経験する病変であると言える.大腸に発生したPNは,Eslami-Varzanehらによって 32004年に,BFPとして報告された.その後,EMA,GLUT-1,claudin-1などのperineurial cell markerが陽性になることから,PNとして分類されている 4)~6),17.PNの特徴については,山之内らの 10,国内外の論文からの集計によれば,頻度は2018年までに山之内らの自験例を含め102例で,本邦からは5例と非常に稀な疾患であると報告している.好発部位は,S状結腸で平均腫瘍径は5mmと比較的小さいポリープとして発見されている.また,Ki-67陽性率も1%未満と低く,転移再発例が無いことから,良性疾患として認識されている.その診断には,先に記載したEMA,GLUT-1,claudin-1の発現が重要だが,感度の問題もあり2個以上のマーカーを用いることが推奨されている 6.本邦からの報告例で,PubMedとJ-STAGEで検索し得た限りではPNにSSLが併存している可能性が示唆されているのは2例で 4),11,非常に稀と言える.PNに併存した鋸歯状病変は,1例は鋸歯状腺管はSSA/Pに似ているserrated lesion 4,もう1例はmimicking a colonic hyperplastic polyp 11と記載され,2例とも直腸S状結腸に発生した,約5mmの病変である.Table 1に自験例を含めた5例のPNと鋸歯状病変の併存例の大腸内視鏡所見と病理学的検討結果をまとめた.症例が少ないため,限定的であるが特徴的な内視鏡所見としては,間質細胞の増殖を反映して,緊満感と腺管密度の低下があげられる.

Table 1 

鋸歯状病変とPNが同一病変内に併存した,自験例(症例1~3)を含めた本邦報告の5例.

しかし,これまでの病理学領域からの集計では,128病変のPN中81%にserrated cryptsが同一病変の上皮に併存して認められた,と報告されているが,上皮に管状腺腫を認めた例は記載されていない 6.また,別の報告では,198病変のsessile serrated adenoma中13病変(6.5%)で,perineurial-like stromal proliferationを認めた,と報告されている 18.この様なSSLとPNの併存例の存在は,臨床医に十分認識されているとは言えない.今後SSLの病態を更に解明するためにも,その診断は臨床的に意義があると考えられる.

PNは,四肢体幹に発生することが多く,消化管では稀である.松井ら 19の26例の集計によれば,大腸が73%を占め,腫瘍径は10mm未満が77%である.小腸の2例が45mm,50mmと大きく,1例は腸重積を起こして発見されている.その他の消化管では,良性疾患であるため症状発現前の小腫瘍径のうちに内視鏡検査で発見される例が多いと考えられる.

当院での頻度を検討すると,全SSL(2019年以前は,大腸癌取扱い規約に従ってSSA/Pと診断された病変,2019年以降は新しいWHO診断基準に準じて診断)は1,515病変(2007/11/12~2021/7/2)で,PN合併は3病変であるが,この3病変が診断された1年間(2020/7/3~2021/7/2)でのSSLは253病変であり,PN合併病変の頻度は,3/253(1.2%)であった.

今回われわれの経験した3病変のうち,2病変は,5mmと小さく,SSLとPNが混在しているため,どの病変が先行したかの判断が困難である.しかし,LST病変では,平坦なSSLの小隆起部でのみPNが認められた.SSL内にPNが発生する機序は不明であり,Agaimy Aら 6,Pai RKら 18は,その考察で,a yet unknown epithelial-stromal interactionと記載している.Pai RKら 18は,BRAF変異のあるSSL上皮で産生される因子が“何らかの反応”を惹起している可能性があると述べているが,未だに不明なままである.

今後,今回経験した様な症例の蓄積が,その原因解明の一助となるのではないか,と考えられた.

Ⅳ 結  語

PNを併存したSSLの3病変を経験した.両病変の併存は,稀であると考えられてきた.今回の病変は,病理学的な詳細な検討によって発見された.今後は,通常と異なるpit patternや腺管密度の低下したSSLを確認した場合,内視鏡医から病理へPNの併存の有無を依頼することで,併存病変発見の頻度が上がると考えられた.

(本論文の要旨は,第127回日本消化器内視鏡学会四国支部例会:2021/11/21,徳島,において発表した.)

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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