2022 年 64 巻 2 号 p. 172-178
症例は86歳男性,咳嗽発熱を主訴に当院受診.精査目的に施行したCT検査にて肺炎と総胆管内に20mm程度の線状の高吸収の構造物が確認されたため精査を行った.MRI検査にて総胆管に細長い欠損像,超音波内視鏡検査にて総胆管内に高エコーの構造物を認めたため,魚骨を核とした総胆管内結石と考えた.肺炎が改善した後,親子式の経口胆道鏡を用いて詳細に観察した後愛護的に回収した.回収した異物に対する病理検査と結石分析の結果から,植物組織とそれを核にした総胆管結石と診断した.Vater乳頭に対する未処置例において植物による胆管内異物の症例は非常にまれであると考えられるため文献的考察を加えてこれを報告する.
総胆管異物を核とした総胆管結石の報告はまれである.今回われわれはVater乳頭への処置歴がないにもかかわらず植物を核とした総胆管結石を認めた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
患者:86歳,男性.
主訴:倦怠感,咳嗽,呼吸困難感.
既往歴:高血圧症,慢性閉塞性肺疾患,不眠症.
内服:アスピリン,アジルサルタン,アムロジピンベシル酸塩,エチゾラム,センノシドA・Bカルシウム塩,フルニトラゼパム,ラベプラゾール,ゾルピデム酒石酸塩.
アレルギー歴:特記事項なし.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:2020年9月に1週間前からの咳嗽,喀痰と呼吸困難のため救急搬送となった.胸部CT検査にて肺炎の診断にて入院加療となった.
入院時現症:身長165cm,体重73.7kg,体温37.1度,意識清明,眼球に黄染なし.
右胸部にラ音聴取を認める,腹部は平坦,軟で自発痛や圧痛は認めなかった.
入院時の臨床検査所見:来院時の血液検査では白血球上昇,軽度のCRPの上昇を認めた.軽度肝機能障害を認めたが,胆道系酵素の上昇は認めなかった(Table 1).

臨床検査成績.
腹部CT検査:総胆管下部に径が細く,長さが20mm程度の高吸収の構造物を認め,中心部に比べると周囲は低吸収であった(Figure 1).構造物の中心部のCT値を測定すると177HUであった.

腹部CT検査所見.
(冠状断)総胆管下部に径が細く長さが20mm程度の高吸収域を認めた.
腹部MRI検査:下部胆管に径が細く,長さが20mm程度の欠損像を認めた.DWIでは異常信号を認めなかった.
内視鏡超音波検査(EUS)所見:総胆管の径は4.8mmと拡張を認めなかったが下部胆管に高エコーの構造物を認めた.
臨床経過:CT,MRI,EUS検査にて魚骨等の胆管内異物とそれに伴う総胆管結石が疑われた.肺炎が軽快した第10病日に内視鏡的逆行性胆管造影(ERC)を施行した.Vater乳頭の観察では乳頭の腫大や開大,傍乳頭憩室や乳頭周辺に瘻孔等を疑う所見は確認できなかった(Figure 2-a).胆管造影では下部胆管に20mm程度の三日月状の欠損像を認めた(Figure 2-b).管腔内超音波検査(intraductal ultrasonography:IDUS)にて総胆管内を観察したところ下部胆管に高エコーの構造物を認めた(Figure 2-c).これまでの検査結果から総胆管結石を伴った魚骨に矛盾がないと考え,先端が鋭利であれば穿孔の可能性もあるため親子式の経口胆道鏡を用いて観察を行うこととした.内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)を施行した後,経口胆道鏡を親スコープの鉗子口から挿入した.直接内視鏡で観察することで胆管内の結石の先端は鋭利でないことが確認された(Figure 3).胆道鏡からのバスケットで取り除くことを考えたが,把持困難であったため通常のバスケットカテーテルで一旦十二指腸内に排石したのち把持鉗子を用いて回収した(Figure 4-a).回収した黒色物は19mmの細い構造物の周囲に黒色の付着物を伴っていた(Figure 4-b).外見からは魚骨を疑い病理組織学的検査を依頼した(Figure 5).

逆行性胆管造影.
a:Vater乳頭の観察では乳頭の腫大や開大,傍乳頭憩室や乳頭周辺に瘻孔等を疑う所見は確認できなかった.
b:胆管造影では下部胆管に20mm程度の三日月状の陰影欠損を認めた.
c:管腔内超音波検査に総胆管内を観察したところ,総胆管下部の中心部に高エコーの構造物を認めた.

経口胆道鏡による観察.
胆管内の結石の先端は鋭利でないことを確認した.

胆管内異物の回収.
a:バスケットカテーテルにて一旦十二指腸内に排石したのち鉗子にて把持して回収した.
b:回収した黒色物は19mmの細い構造物の周囲に黒色の付着物を伴っていた.

顕微鏡画像.
細胞壁を認め植物が疑われ,棘の存在等から植物の茎あるいは葉柄の可能性が考えられた.
病理組織学的検査所見:病理組織検査では構造物内に細胞膜を有するため植物が考えられたが当院では確定診断が困難であった.そのため組織標本を京都大学農学研究科の冨永達教授,杉山淳司教授に拝見頂いた.今回得られた検体のみでは確定は困難であるが,木片は否定的であり,病理学的な最終所見としては茎あるいは葉柄等の植物組織の一部と考えられた.周囲に付着していた黒色の構造物を結石成分分析に提出したところビリルビンカルシウムが98%以上であり胆管内に迷入した植物を核とする総胆管結石と診断した.
術後経過:第16病日に退院となり,現在に至るまで総胆管結石の再発は認めていない.
これまでも胆管内異物は多数報告されている.Banら 1)が1972年に報告した胆管内異物63例の検討では30例が手術時の遺残,21例が経口摂取物の遺残,12例が体外からの侵入物であるとしている.手術時の遺残物としては近年腹腔鏡下胆嚢摘出術の増加に伴い金属クリップの迷入による報告 2)が増加傾向にあり,経口摂取物としては近年魚骨を核にした総胆管結石の報告が散見される 3),4).体外からの侵入物としては弾丸等の金属片が被弾後30年から50年後に胆管閉塞を起こした症例 5)等がある.
医学中央雑誌にて「胆管」「異物」「植物」,PubMedにて「foreign body」「bile duct」「plant」で検索すると植物による総胆管異物の症例は自験例以外で9例 1),6)~12)のみであった(Table 2).なおConroyらの報告にある2症例は外科処置等が行われず剖検にて植物による総胆管異物が明らかになった症例である.近年植物による総胆管異物の報告は減少傾向にあるが,原因としては内視鏡治療の進歩による影響が考えられる.総胆管結石に対しては内視鏡的治療が第一選択とされることが多く,術前に異物を疑わない場合は体外へ回収せず腸管内へ排石されるため,報告数が減少している可能性も否定できない.

植物による総胆管異物の報告例.
経口摂取物が胆道内へ逆流するリスクとして胆道再建や乳頭括約筋不全,乳頭切開後,消化管と胆道の瘻孔形成,atropin,butylscopolamine bromide,nitroglycerin,Ca antagonist等の乳頭括約筋に弛緩を来す薬剤内服歴 13)が考えられる.自験例では乳頭切開,腸管の損傷,傍乳頭憩室の存在,繰り返す胆石治療のエピソードや上記薬剤の使用歴は認めず乳頭機能不全を疑う所見は認められなかった.乳頭機能が保たれているのにも関わらず異物が迷入する機序としては回虫等の自動性があるものを除くと外力による物理的な力が必要となる.Vater乳頭の未治療症例に対する魚骨の迷入の症例は多数報告されており 3),14)~16)異物の長さは15-38mmと比較的長く,形状はどれも針状であった.ある程度の長さを有する針状のものであれば腸管の蠕動運動によりVater乳頭の対側から押し上げられ,その反動により狭い入口部を通る可能性も考えられる 17).自験例も19mmで針状の形態であり,これまでの植物迷入の報告例(Table 2)でも総胆管空腸吻合後の症例を除くと30-70mm程度の長さをもつ細い茎や繊維成分を有していた.魚骨迷入の報告と同様に乳頭の治療歴がなくてもある程度の長さをもち,針状の細い構造物は胆管へ逆流する可能性があることを裏付けるものであった.
魚骨の画像診断は超音波検査にて点状や線状の高エコー陰影,CT検査では高吸収な線状陰影とされ,魚骨による消化管穿孔の報告では魚骨の描出率はCT検査にて60-81.5%,超音波検査では35-40%と報告されている 18),19).自験例でもCT検査にて線状の高吸収の構造物であることから魚骨と考え治療方針の一助とした.一般に骨や石灰化成分を含む構造物のCT値は100-1,500HU程度とされる 20)が,植物は多孔質な物質であり,主としてセルロースから成るためCT画像では比較的低吸収となる.しかし植物であっても体内にとどまる間にCT値が上がるという報告 21)やCT値が低い爪楊枝を水浸させると数日で100-150HU程度にまでCT値が上昇するといった報告 22)もありCT検査のみでは魚骨と植物の鑑別には困難であると思われる.
先端が鋭利な構造物は腸管内通過時に消化管穿孔や損傷のリスクがあると考えられるため,胆管から除去するだけでなく回収する必要がある.異物回収時において透視下でバルーン等を用いて胆管に押し当てると胆管損傷に繋がる可能性があるため,回収前にはできる範囲で非侵襲的な検査を行う必要がある.CTやMRI検査に加えてIDUSやEUS等の検査を行い,胆管内の構造物が鋭利で処置による穿孔の可能性がある場合は胆道鏡を用いる治療も選択肢に挙がる.異物は直視下で把持鉗子やバスケットカテーテル等を用いて回収することで安全性の向上が見込める.本症例では胆道鏡での観察下で使用できるバスケット鉗子では排石困難であったため透視下での処置となったが,可能であれば直視下での処置が望ましいと思われる.
未処置乳頭を介して迷入した植物が核となった総胆管結石のまれな1例を経験した.初診時にCT,MRI,EUS検査等で針状の構造物を考えた場合は異物を念頭に置き可能な限り多角的な評価を行うことで愛護的な処置が可能になると考えられた.今後も症例の蓄積により異物迷入の発生機序が解明され,より確実な検査や治療に繋がることを期待したい.
謝 辞
組織標本の考察に関して,大学農学研究科農学専攻雑草学分野の冨永 達教授,京都大学農学研究科森林科学専攻樹木細胞学分野の杉山淳司教授に深く御礼申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:安藤 朗(武田薬品工業株式会社,ヤンセンファーマ株式会社)