日本消化器内視鏡学会雑誌
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欧米と日本における好酸球性食道炎の臨床像の類似点と相違点
石村 典久沖本 英子柴垣 広太郎長野 菜穂子石原 俊治
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2022 年 64 巻 4 号 p. 1048-1061

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要旨

過去20年の間に好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)の罹患率および有病率は特に欧米諸国において急激な増加を示しており,日本においても近年,症例数の増加傾向が示されている.しかしながら,欧米と日本におけるEoEの臨床像の類似点および相違点については,これまで十分に評価されていない.現在のEoEの診療ガイドラインでは,食道機能障害に起因する症状および食道上皮における密な好酸球浸潤の存在が含まれている.日本においては,健診の際に偶発的に診断される症例が大半であり,EoEに見られる典型的な内視鏡像を認めるものの無症状の症例にしばしば遭遇する.日本人のEoEの臨床的特徴は欧米人と同様である.日本人に認められる最も頻度の高い症状は嚥下困難であるが,食物嵌頓は非常に稀である.また,内視鏡像では縦走溝が最も頻度の高い所見であるが,食道狭窄や内腔の狭小化は稀である.EoEの治療方針には薬剤,食事療法に加え,食道狭窄を認める際は内視鏡的拡張術が含まれる.日本においてはプロトンポンプ阻害薬単剤で多くの症例で症状および組織学的な改善が認められるが,薬剤や除去食療法などの有効性を検討した前向き無作為化比較試験は行われていない.全体として,日本人と欧米人のEoEの臨床像は同様であるが,日本人の症例の方が疾患の重症度が軽い傾向にあると思われる.今後,遺伝子要因,疾患の自然経過,薬剤や除去食療法の効果に関して欧米人と比較したさらなる検討が必要である.

Ⅰ はじめに

好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)は臨床的に食道機能障害に起因する症状および組織学的に食道上皮への好酸球浸潤を示す慢性的な免疫関連疾患である 1),2.過去20年の間にEoEの罹患率および有病率は特に欧米諸国において急激な増加を示しており,現在では臨床の場においても一般的な疾患として認識されている 3),4.一方,日本においては好酸球性胃腸炎の方が頻度が高く,EoEは非常に稀な疾患としてこれまで報告されてきたが 5),6,近年,EoEの報告例が徐々に増加傾向にあることが示されている 7),8.しかしながら,欧米と日本におけるEoEの臨床像の類似点および相違点については,これまで十分に評価されていない.本稿では,日本におけるEoEの現状について詳述するとともに,欧米と日本におけるEoEの臨床像および発症機序に関する類似点と相違点について考察する.

Ⅱ 診断基準

EoEは臨床病理学的な疾患であり,診断基準では以下に示す臨床所見および病理所見の両方について適切に満たすことが必要となる:(ⅰ)嚥下困難,食物嵌頓,胸やけ,胸痛など食道機能障害に起因する症状;(ⅱ)食道に好酸球優位の炎症所見があり,高倍率視野あたり15個以上の好酸球浸潤を認める;(ⅲ)好酸球性胃腸炎や好酸球増多症候群,クローン病などの全身性や二次性の食道好酸球浸潤の除外(Table 1).以前のガイドラインではプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)投与による反応性不良が診断基準に含まれており 9)~11,PPIに反応して病態の改善する症例はPPI反応性食道好酸球浸潤(PPI-responsive esophageal eosinophilia:PPI-REE)と診断されていた.しかしながら,欧米および日本における検討でEoEとPPI-REEは臨床的にも病理組織学的にも同様の病態であり,PPI投与前に両者を区別することは困難であることが示された 12)~16.したがって,最新のガイドラインではPPI治療への反応良好例もEoEに含まれることとなり,PPI-REEという用語は削除されている 1),2

Table 1 

欧米と日本における好酸球性食道炎の診断基準.

好酸球性消化管疾患は2015年に厚労省の指定難病となり,その際にWeb上に診断基準が示された( https://www.nanbyou.or.jp/entry/3955).これは全体としては国際的なガイドラインに従ったものであるが,食道好酸球浸潤の基準が20個/高倍率視野である点が異なっている.最近の報告では,好酸球浸潤を15個/高倍率視野をカットオフ値とすると感度100%,特異度96%でEoEの診断が可能とされている 17.さらに日本の基準では国際的なガイドラインと異なり,参考項目にPPI治療への反応不良が含まれている(Table 1).実際のところ,日本で行われているほとんどの研究は,一般に国際的なガンドラインに基づいて行われている.したがって,日本のガイドラインも国際的なガイドラインに沿って改訂する必要がある.

臨床的にEoEが疑われる場合,内視鏡的に食道粘膜の変化がなくても,食道から生検を行う必要がある.食道好酸球浸潤の分布は不均一であるため 18)~20,改訂された国際ガイドラインでは内視鏡的に粘膜面に変化を認める部位を中心に異なる部位から最低6カ所の生検が必要とされている 2.しかしながら,多数の生検を行うことについては,特に健診受診者が対象の場合,検査時間の延長や費用の増加,侵襲が大きくなるなどのデメリットがある.日本で行われた最近の検討では,食道好酸球浸潤を検出するための最も適切な部位は下部食道でEoEを示唆する内視鏡所見を認める部位であり 21,欧米で報告された結果と同様であった 22),23.これらの結果から,適切な部位からであれば,より少数の生検であっても正確な組織学的診断が十分に可能であることが示唆される.重要な点として,現在の欧米および日本のEoEのガイドラインともに食道機能障害に起因する症状の存在が診断基準に含まれており,無症状例は診断基準を満たさないということが挙げられる 24.しかしながら,食道機能障害に起因する症状の頻度や強さについてはガイドラインでは規定されていない 1),2.加えて,多くの患者は食事に時間をかけ,つかえやすい食事を控えたり,食事の際に多くの水分を一緒に摂取するなど,症状を軽減させるために潜在的に食事の習慣を変更している場合もあるためにEoE患者の症状の評価に関しては困難な場合もある 25

Ⅲ 疫  学

欧米では1990年代後半までにEoEが認知されるようになり,一般診療の場や内視鏡を契機に診断される症例が増加してきた.現在では,本疾患は胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)に次いで2番目に多い慢性食道炎の原因疾患であり,また,青年期~成人における嚥下困難や食物嵌頓の最も多い原因疾患に挙げられている 26)~28.本疾患は欧米では成人と同様に小児でも多く診断される.北米と欧州の一般集団を対象とした疫学調査の最近のメタアナリシスでは,有病率は全体で人口10万人あたり34.4人で,成人の方(42.2人/10万人)が小児(34/10万人)より高い結果であった 29.また,集積された本疾患の罹患率は小児で6.6/10万人・年,成人で7.7/10万人・年であり,4つの設定された期間ごとでも同様の傾向であった.

本邦において典型的な内視鏡像と組織所見を示す本疾患の最初の症例は2006年に報告されたが 30,最近まで本疾患は非常に稀であったため,疫学や病態生理についての詳細は十分に検討されていなかった.2011年に報告された本邦初の内視鏡検査受検者を対象とした本疾患の前向きの頻度調査では,有病率は17.1人/10万人(0.02%)であることが示された 31.その後,内視鏡受検者における本疾患の有病率に関して複数の検討が報告されている 32)~36.それらの結果から本疾患の有病率は2011年の0.02%から2018年には0.34%と著明に増加しており,一般集団を対象とした有病率調査は行われていないものの,日本人においても本疾患が徐々に増加傾向にあることが示唆されている.最近10年間の日本における本疾患に対する興味や意識の向上も本疾患の有病率の増加に関与している可能性もある.さらに,本邦においては大半の症例が人間ドックなどの健診時の内視鏡を契機に診断されている 24.そのような症例ではごく軽度の症状のみであることが多いため,欧米での疫学調査結果と直接比較することはできない.本邦で行われた有症状者を対象とした前向きの多施設コホート研究では本疾患の頻度は2.5%(8/319)であり 33,欧米での検討よりも低い結果であった 28),37.まとめると日本における本疾患の有病率は現在でも欧米よりも低いと考えられる.

Ⅳ 病  態

本疾患の正確な病態については,これまで十分明らかにはされていないが,Th2免疫応答の異常が,食事や空中の抗原に対して過剰な好酸球性炎症を引き起こしたり,自己免疫的な機序に関与していると推測されている 38),39.本疾患の発症には遺伝的要因と環境要因の両方が重要であると考えられているが,双生児研究などの結果からは環境要因がより重要であることが示されている 40.新生児期の抗菌薬の使用,帝王切開,早産,人工乳のみの栄養などの出生早期の状況が発症のリスク因子として挙げられており 41,これらが個体の腸内細菌叢や免疫システムの形成に影響を与える可能性が示唆されている.

Helicobacter pylori感染は他のアレルギー疾患と同様にEoEの発症と逆相関の関係にあることが示されている 42.本邦においては近年のH. pylori感染率の急激な低下がEoEの増加傾向と関連している可能性がある 43),44.実際に症例対照研究において,H. pylori感染者の割合は健常者に比してEoE患者で有意に低値であった(オッズ比0.22) 45.その一方,最近,スペインで行われた多施設前向きの症例対照研究においては,EoEとH. pylori感染の間の逆相関に関して統計学的な有意差は認められなかった 46.したがって,日本人においてEoEとH. pylori感染の逆相関についてはより大規模な追加検討での評価が必要である.

抗原除去食療法によってEoEの多くの症例で臨床的にも組織学的にも病態の改善が認められることから,食事抗原が最も一般的な発症要因として挙げられている.その一方,花粉の飛散量の増加に関連してEoEの発症に季節性があることも報告されており 47,空気中の抗原も病態に重要な役割があると考えられている.空気中の抗原の食道への局所的な曝露が発症に関連することは花粉症に対する舌下免疫治療(sublingual immunotherapy:SLIT)によってEoEが誘導され,中止によって改善したとの症例報告からも裏付けられている 48),49.さらに日本の最近の報告からスギ花粉に対するSLITがEoE発症の潜在的な要因であることが示されている 50

EoEの病態を明らかにするために行われた遺伝子発現解析の結果,食道上皮においてインターロイキンIL-5,IL-13といったTh2サイトカインやeotaxin-3,periostinの過剰発現が認められた.さらに,IL-13はdesmoglein 1やepidermal differential complex proteinであるfilaggrinの発現を抑制することによって上皮バリア機能を破綻させる 38),51.これらの結果と一致して,日本人のEoE患者のマイクロアレイ解析ではIL-13誘導遺伝子や好酸球関連遺伝子の発現変化が同様に観察された 52.即ち,欧米と日本におけるEoEの病態形成は同様のものと考えられる(Figure 1).

Figure 1 

好酸球性食道炎の病態生理.

食事および空気中の抗原が食道上皮に曝露されるとTh2型の炎症反応が誘導され,好酸球優位の炎症を生じる.EoEの発症には遺伝的および環境要因の両方が関与していると考えられる.しかしながら,疾患関連遺伝子や環境要因を含めた日本人における病態生理は十分に評価されていない.H. pylori未感染およびそれに伴う胃酸分泌能の維持はEoEの発症のリスク因子である可能性がある.CAPN 14; calpain 14, TSLP; thymic stromal lymphopoietin.

EoE患者のゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)ではthymic stromal lymphopoietin(TSLP)やcalpain 14(CAPN 14)を含むいくつかの遺伝子の多型が疾患関連因子として挙げられている 53)~55.最近,EoEの発症にも関与すると考えられる免疫関連疾患に関連するリスク遺伝子座が新たに報告されている 56.これまで日本人のEoEを対象としたGWASの結果は示されていないが,遺伝的要因を明らかにするために,検討結果が強く求められる.

Ⅴ 臨床的特徴

EoEはどの年代でも発症しうるが,30-40歳代に最も多く発症し,男性が女性の2-3倍多いことが示されている 3),29.EoEはアレルギー疾患との関連がしばしば報告されており,約70%の症例でアレルギー疾患の既往がある.症状は年齢や人種によって大きく異なる 4.最近の欧米における成人のEoE患者を対象としたシステマティックレビューでは最も一般的な症状は嚥下困難,食物嵌頓,および胸やけであった 57.嚥下困難は成人患者の60-100%に認められ,食物嵌頓も25%以上に生じる.一方,小児患者では,嘔吐や胸やけ,逆流,腹痛がより一般的な症状であり,食物嵌頓は稀である.人種もEoEの臨床像や病型に影響する可能性がある.白色人種に比して,アフリカ系米国人では,EoEに典型的な所見である食物嵌頓やリング状変化・狭窄などの内視鏡所見を示すことが少ないとされる 4

最近,日本で行われた検討では,EoE患者の約80%が男性であり,30-50歳代で最も多く診断されており,アレルギー疾患の併存もしばしば観察された 6),24),58.最も一般的な症状は嚥下困難であるが,欧米の患者でしばしば認められる食物嵌頓の既往はほとんど認めなかった 59.本邦では小児のEoE患者に関する報告は少ない.全体として,EoEの臨床像は日本人と欧米人とで大きな差は認められないが,疾患の重症度は日本人の方が軽度であると思われる.

Ⅵ 内視鏡および組織所見

上部消化管内視鏡検査はEoEの診断の際に必須であり,内視鏡検査の際に食道から生検を行い,組織学的に食道上皮への好酸球浸潤を評価することで診断が確定する.したがって,内視鏡医にとってEoE患者の特徴的な内視鏡所見を認識することは重要である.頻度の高い所見として縦走溝,リング状変化,白色滲出物,浮腫,狭窄,脆弱な粘膜(クレープ紙状食道)が挙げられる(Figure 2).EoEに関する前向き検討では評価を行った症例の90%以上でこれらの特徴的所見のうち,少なくとも1つの所見が認められた 60.同様にアジアのEoE症例に関する最近のシステマティックレビューでは,80%以上の症例でEoEに認められるいくつかの内視鏡的異常が認められた 61.その検討では,縦走溝が最も頻度が高い内視鏡所見であり,52%の症例で認められ,次いで白色滲出物とリング状変化であった.さらに,別の報告でも日本人の患者においてEoEに認められる内視鏡所見のうち,縦走溝が陽性的中率,陰性的中率とも最も高いことが示されている 33.一方,食道狭窄や内腔の狭小化は日本を含むアジアのEoE患者では稀である 61)~63

Figure 2 

好酸球性食道炎患者に認められる特徴的な内視鏡所見.

A:縦走溝とリング状変化.

B:敷石状所見を伴う縦走溝.

C,D:白色滲出物.

E,F:蒼白調の粘膜および縦走溝.

E:白色光観察像.

F:インジゴカルミン撒布像.

縦走溝は放射状に下部~上部まで広範に存在し,食道の縦襞の溝の部分に認められる 58.この所見は逆流性食道炎に認められる粘膜傷害の所見とは大きく異なる(Figure 3-A,B,D,E 64)~66.さらに食道の縦襞上よりも溝に認める縦走溝において好酸球浸潤数が多いことが示されている.組織学的に基底細胞過形成,上皮の海綿状変化はEoE,逆流性食道炎ともに一般的に認められる所見であるが,好酸球浸潤の程度と分布は両疾患で異なる.EoEでは上皮の上層優位に密な好酸球浸潤が認められ,好酸球性膿瘍や好酸球の脱顆粒像もしばしば観察される.一方,逆流性食道炎患者では少数の好酸球浸潤に留まることが一般的である(Figure 3-C,F 67

Figure 3 

(A,B)EoE患者における縦走溝の特徴的な部位.

A:白色光観察像.

B:NBI像.

(D,E)逆流性食道炎患者における粘膜傷害の特徴的な部位.

D:白色光観察像.

E:NBI像.粘膜傷害は右前壁方向に好発し,粘膜縦襞上に位置する.

(C,F)EoE(C)および逆流性食道炎(F)の組織所見.

C:上皮の上層に密な好酸球浸潤(49個/高倍率視野),好酸球性膿瘍,基底細胞過形成,海綿状変化が認められる.

F:少数の好酸球浸潤(2個/高倍率視野)および基底細胞過形成,海綿状変化が認められる.

現在,EoE内視鏡基準スコア(endoscopic reference score:EREFS)がEoEの標準的な内視鏡分類法として用いられており,様々な臨床経験レベルの消化器病医の間で中等度~良好な診断一致率であることが示されている(Table 2 68),69.EREFSにはEoEで認められる炎症(浮腫,滲出物,溝)と線維化(リング,狭窄)に関連する5つの主要な所見が含まれている.EREFSはEoEの活動性の評価および臨床医間の情報交換,治療効果の評価の際に内視鏡所見の比較を容易にするための標準的な活動スコアとして利用されている(Figure 4 70),71.最近,アンキロサウルスの背中様所見(Ankylosaurus back sign:ABS)と呼ばれる新たな内視鏡所見がEoEの一部の症例で認められることが報告された.これは,恐竜のアンキロサウルスの背中のように縦走する白色調の小結節がほぼ等間隔で認められる所見である(Figure 5 72.この新たな内視鏡所見は内視鏡時にやや脱気することで観察が容易となり,日本人のEoE患者の16.4%に認められた.興味深いことに,ABSが認められた症例はすべてPPIの有効例であり,EoE患者のPPI有効性と関連した所見である可能性がある.

Table 2 

好酸球性食道炎 内視鏡基準スコア(Endoscopic Reference Score:EREFS) 64

Figure 4 

プロトンポンプ阻害薬による治療前後の内視鏡像と内視鏡基準スコア(EREFS).

A:治療前:E1R1E1F1S0(総スコア:4).

B:治療後:E1R1E0F0S0(総スコア:2)E; edema, R; rings, E; exudates, F; furrows, S; stricture.

Figure 5 

好酸球性食道炎患者に見られるアンキロサウルスの背中様の内視鏡所見.

所見は中部~下部食道に認められる.

内視鏡所見の分布に関して,EoEの一部の症例では,食道胃接合部直上のわずかな範囲に限局して内視鏡所見が認められる(Figure 6 73.最近,Sawadaらは,限局型とびまん性の食道好酸球浸潤症例の比較を行い,限局型では全例,PPI治療によって臨床的にも組織学的にも改善が認められた 74.このことから,限局型の食道好酸球浸潤はPPI治療反応性良好であることが示唆される.

Figure 6 

A:組織学的に食道好酸球浸潤が確認された食道胃接合部直上に限局する縦走溝(矢印).

B:同症例の中部~上部食道には特徴的な内視鏡所見は認められない.

EoEを示唆する内視鏡的な異常所見は通常の白色光の観察で描出可能である.狭帯域光(narrow band imaging:NBI)を用いた拡大観察(magnification endoscopy combined with NBI:NBIME)は非侵襲的な光学技術であり,食道粘膜の微細な血管を描出することが可能で食道腫瘍の発見に幅広く用いられている.これまでEoEのNBIMEで(ⅰ)ベージュ色粘膜,(ⅱ)上皮乳頭内血管ループの増加および点状うっ血所見,(ⅲ)粘膜下血管の不可視の3つの所見が特徴的であり,これらの所見は内視鏡的な診断一致率が良好であったことが示されている 75),76.しかしながら,EoEの診断におけるNBIや他の画像強調観察の有用性についてはまだ十分な検討が行われていない.

近年,好酸球性食道筋炎(eosinophilic esophageal myositis:EoEM)と呼ばれる筋層主体型の食道炎がEoEとは異なる病態として報告された.EoEMは縦走溝などの特徴的な内視鏡所見を示さないが,高解像度食道運動機能検査で評価するとアカラシアやジャックハンマー食道などの様々な食道運動機能異常を呈する 77),78.好酸球性胃腸炎と同様にEoEにおいても臨床的特徴の異なる粘膜主体型と筋層主体型に分けられることが示唆される.

Ⅶ 治  療

EoEの治療目標は重篤な病態となりうる食道狭窄を予防するために症状および生物学的な寛解を得ることである.欧米における現在の治療戦略は3Dと呼ばれる薬物治療(drugs),食事療法(diet),および拡張術(dilatation)の3つからなる.食事制限に加えて薬物治療は食道好酸球浸潤を改善させる.また,拡張術は食道狭窄や狭小化の患者を対象に行われる.一方,日本で報告されているEoEの大半は薬物治療単独で治療および管理が行われている.

PPIはEoEに対する第一選択薬に挙げられる薬剤であり,胃内のpHを上昇させることで食道への酸曝露によるダメージを軽減する.さらにPPIにはTh2反応を抑制することによって抗炎症作用を示し,炎症性サイトカインの発現を抑制し,酸曝露によって影響を受けた上皮間隙のバリア機能を改善する作用も持つ 79)~81.治療効果に関するメタアナリシスでは,PPI治療は対象のEoE患者の60.8%で臨床的寛解を示し,50.5%で組織学的寛解に至ることが示されており 82,日本で行われた検討でも同様の結果であった 24.近年,新たなカリウムイオン競合型アシッドブロッカーであるボノプラザンが日本においてGERDの治療選択肢として使用可能となった.ボノプラザンは従来のPPIに比してより早く安定して強力に酸分泌を抑制することが示されている.少数例の検討ではあるが,興味深いことにPPI治療に抵抗したEoE症例の半数以上でボノプラザンが有効であった 83.このことから,ボノプラザンは強力な酸分泌抑制効果によってPPIよりも有効性が高い可能性がある.しかしながら,PPI抵抗性のEoE患者におけるボノプラザンの機序については今後明らかにする必要がある.

PPIが無効であった場合には,局所ステロイド薬投与,あるいは除去食療法が行われる.局所ステロイド薬の治療効果については,これまで多数のランダム化比較試験(randomized controlled trials:RCTs)で検討されており,複数のメタアナリシスでその結果が解析されている 84),85.局所ステロイド薬には吸入用のフルチカゾンやブデソニドが用いられるが,中止すると高率に再燃することが報告されているため,長期間の継続が必要となる.欧州医薬品庁(European Medicines Agency)は最近,EoEに対するブデソニドの錠剤の使用を承認した.また,ブデソニドの懸濁液は現在,米国で第3相試験中である 86),87.一方,日本においては経口投与可能な局所ステロイド製剤は使用できず,EoEに対する局所ステロイド薬のRCTや長期投与の効果についての評価が行われていないのが現状である.

EoEの病態に食事抗原が重要な役割を果たしていることから,食事療法は成人および小児のEoEの非薬物療法の選択肢に挙げられる.食事抗原除去食療法の治療効果は用いられる方法によって異なる 88.現在,最も用いられる頻度の高い抗原除去食療法は,乳製品,小麦,卵,大豆,ナッツ類,魚介類の6種類の食材を除去する6種抗原除去食療法である.抗原除去食によって寛解が得られた場合には,除去した食材の再開を行っていく.IgE依存性の即時型食物アレルギーと異なり,EoEのようなIgE非依存性の食物アレルギーの典型的な症状は,原因食材の摂取後,数時間から数週後に生じる.本疾患の活動性を示す有用なバイオマーカーがないため 89),90,各食材の除去や再導入の期間は確立されていない.日本では,成人のEoEに対する抗原除去食療法の効果については十分な評価が行われていない.しかし,日本の小児例で5日間の短い間隔で6種抗原除去および再導入を行い,治療が奏効した症例が最近報告された 91),92

内視鏡的拡張術は食道狭窄や狭小化を伴うEoE患者に行われており,慎重に施行すれば効果的で安全性も高いことが示されている.この手技は嚥下困難を改善させるために重要な治療戦略であるが,食道の好酸球性炎症を改善させるわけではない.メタアナリシスの報告では,専門施設での検討であるが,EoE患者の拡張術後に生じる穿孔のリスクは0.3%と示されている 93.日本における本疾患に対する内視鏡的拡張術の報告はほとんどない 62

上記に示した治療によって寛解の誘導が得られた後に内服を中止すると,ほぼ全例でEoEは再燃する 94.したがって,効果的な維持療法と活動性のモニタリングが必要となる.しかしながら,国際的なガイドラインにおいても本疾患における適切な内視鏡的評価の間隔については明示されていない 1),2

Ⅷ 結  語

欧米と本邦で行われた検討結果からはEoEは同様の臨床的特徴を示しているが,疾患の重症度は明らかに日本人患者の方がより軽度である.近年,欧米では食道壁の伸展性(コンプライアンス)を評価することが可能なエンドフリップ(EndoFLIP)といったさらなる診断モダリティが導入されたり 95,特異的な免疫反応を標的とした新たな治療薬の臨床試験が行われている 25.無症候性食道好酸球浸潤例に対して治療が必要かどうかはまだ明らかにされていない.欧米での症例と比較して日本人においても追加の検討を行い,無症候性食道好酸球浸潤を含めたEoE症例の遺伝的,環境要因,自然経過,バイオマーカーおよび薬物治療,除去食療法の効果について明らかにしていく必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

資金調達情報:この論文への資金提供はない

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