日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
小児の胆膵内視鏡治療に対する取り組み
石井 重登藤澤 聡郎伊佐山 浩通
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2022 年 64 巻 5 号 p. 1147-1157

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要旨

小児に対する胆膵内視鏡は技術的難易度が高く,重篤な偶発症リスクも高い.頻度が低く専門家も少ないために施行体制が構築されていない施設も多いと考えられる.また,専用の内視鏡,治療デバイスがないことも問題である.当科では,比較的多数の症例を定期的に治療している.その際には成人用のスコープ,デバイスを使用し,小児科・小児外科のサポートにより鎮静下で施行している.また,全身麻酔の際にも院内の連携によりスムースに手術室が使用できる体制も構築している.今回は治療内容の説明と同意,麻酔,実際の手技,などについて解説し,われわれが取り組んでいる院内連携について紹介する.また,小児においては身体面のみならず精神面においても成人以上に配慮する必要があり,実際に注意している点についても言及する.

Abstract

Pancreatobiliary endoscopy (PBE) on a child is a technically difficult and high-risk procedure with the possibility of severe postoperative complications. Due to the rarity of the performed procedure and a shortage of qualified specialists, several institutions lack the adequate infrastructure needed to conduct a PBE. However, despite lacking dedicated endoscopes and other devices in our institution, we regularly perform a relatively large number of PBEs on children. We employ standard endoscopes and devices for adult patients to perform PBE on children, under conscious sedation, in the presence of a pediatrician/pediatric surgeon. Procedures are performed smoothly in the operation theatre under general anesthesia with the aid of a well-constructed PBE performance system. In this article, we have elaborated on our methods of obtaining informed consent, anesthesia, procedural details, and the introduction of the PBE collaborationsystem in our institution. Furthermore, we have laid prime emphasis on addressing the emotional ordeal of the children undergoing the procedure, apart from the physical discomfort experienced by them.

Ⅰ はじめに

小児において消化器内視鏡治療の中でも胆膵内視鏡治療は技術的難易度が高く,合併症が重篤なものになりやすい治療である.成人と比較すると対象となる手技数も限られており,技術習得が難しいことから消化器内科の胆膵専門医が小児胆膵内視鏡を施行している施設が多いと思われる.われわれは小児に対して小児科,小児外科と連携しながら小児胆膵内視鏡治療を施行してきておりその工夫と現状について,小児特有の視点を含めながら説明する.

Ⅱ インフォームドコンセントについて

インフォームドコンセントとは患者やその家族が予定される治療に関して医療者から十分な説明を受け,その説明を理解した上で治療に同意をすることである.成人においてインフォームドコンセントは基本的には患者自身の意思が最優先されるが,十分な意思決定がまだできないような小児においては保護者を含めて十分な説明を行う必要がある.2017年に発行された小児消化器内視鏡ガイドライン 1において,インフォームドコンセントに含むべき説明内容としては成人と同様に1)病名あるいは症状から疑われる疾患名,2)検査の目的,方法,必要性,期待できる効果,3)予想される危険性(偶発症)の内容とその対処法,4)代替検査方法,5)検査を受けない場合に想定される事態が挙げられている.これらの内容は成人の場合でも同様であるが,小児自身が十分な理解をすることは難しく,保護者に同意をいただくことが多い.しかし,インフォームドコンセントの際には保護者のみを対象にしたような説明の方法ではなく,対象となる小児に対してもなるべく分かりやすい説明の仕方を心がける必要がある.十分に時間をかけて,言葉だけでなく図をかいて説明をし,医療用語を少しでも分かりやすい言葉に置き換えながら説明をして,なるべく実際に治療を受ける小児にも分かりやすく説明するように心がける.そのような姿勢は小児との信頼関係を築く上で非常に大切である.患者である小児との信頼関係が築けなければ,術後に起こった症状や違和感などを積極的に話してくれようとしなくなり,診療を安全に円滑に進めていくことはできないと考えている.

また,胆膵内視鏡治療は一度で完結することは少なく,例えばわれわれの施設でも頻度の高い膵管狭窄の症例などに対しては複数回の内視鏡治療を要することが多い.毎回担当する医師が変わると治療の説明の仕方や内容にばらつきが生じてしまい,患者側の不信感につながってしまうことが予想されることから,われわれの施設では消化器内科における主治医は毎回同じ医師となるようにしている.主治医が変わらないことで,小児,保護者と信頼関係を構築しやすく,毎回同じ医師が担当し治療内容について説明をすることで,これまでの治療経過,小児の性格,保護者の考え方などについても十分理解しながら治療を提案できると考えている.

Ⅲ 麻酔法

内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)や超音波内視鏡検査(EUS)関連の胆膵内視鏡では麻酔が必須となる.麻酔の方法は非挿管下に静脈麻酔を用いて行う鎮静と,挿管下の全身麻酔に分けられる.2015年に日本消化器内視鏡学会誌に小児消化器内視鏡検査の前処置・鎮静・スコープ選択における専門施設実態調査が報告された 2.この報告によるとERCPは乳児から中学生までの全年齢層で全身麻酔が最多の比率を占めた(乳児:66.7%,幼児:71.4%,小学生:66.7%,中学生:60.0%).小児期は扁桃やアデノイドが生理的に腫大していることが多く,5~7歳で最大となるといわれており気道閉塞のリスクとなりえることは留意しておく必要がある.児が睡眠時にいびきや無呼吸になったりする場合には扁桃やアデノイドの生理的腫大に伴うことも多いため,両親に睡眠時の状況を確認することが大切である.全身麻酔では気管挿管により気道が確保されているため安全性は高い.2010年以降の小児ERCPの報告のうち100手技以上の多数例の16編をTable 1にまとめた 3)~18.これらの中で鎮静方法について記載のあったものが10編あったが,非挿管下の鎮静を主として施行していたものは2編のみであり,多くは全身麻酔下に施行されていた.しかし,胆膵内視鏡は予定外の,いわゆる緊急症例も少なくなく,また非挿管下の鎮静で施行していた2編においても鎮静関連の重篤な偶発症は報告されていない.後の“われわれが取り組んでいる院内連携”の項で詳細については述べるが,全身麻酔を行うには手術室,麻酔科医の確保などが必要であり予定外で行うにはハードルが高いことが多い.そのため適切な時期に適切な治療を提供することが難しいことも多く,成人同様に静脈麻酔による鎮静で行うメリットも大きいことからわれわれは基本的に胆膵内視鏡治療は可能な限り非挿管下の静脈麻酔による鎮静で施行している.

Table 1 

小児ERCP(100手技以上).

小児の内視鏡における鎮静に使用する薬剤については成人に対するERCPと同様,ミダゾラムを中心とした静脈麻酔薬に加え,ペチジンやペンタゾシンなどの鎮痛薬を併用している報告が多い 1.われわれは静脈麻酔薬および鎮痛薬はミダゾラム,ケタミン,ペンタゾシンの3種類用いている.鎮静導入時には基本的にミダゾラム0.1mg/kg,ケタミン0.5-1mg/kg,ペンタゾシン5-7.5mgを用い,鎮静深度はdeep sedationを目標とし,児の状態をみながら以後ミダゾラムを1-2mg,ケタミンを5-10mg,ペンタゾシンを2-7.5mgずつ適宜追加している.また,極量はドルミカム10mg,ケタミン50mg,ペンタゾシン15mgと設定している.ミダゾラムやペンタゾシンは成人においても比較的使用頻度の高い薬剤であるが,ケタミンは成人における内視鏡室での胆膵内視鏡治療においては使用される機会は少ない.ケタミンは鎮静効果および鎮痛効果を有する薬剤であるが,唾液分泌が過多になるということが指摘されている.実際にケタミンを使用していると口腔内に唾液が溜まりやすい印象があり,口腔内の吸引をする回数がケタミンを使用しない時よりも頻回である印象である.そのためアトロピンやブスコパンなどの副交感神経遮断薬を適宜併用するようにしている.われわれは2011年2月から2020年10月の期間に成人用のOlympus社製のJF260/TJF260,Fuji Film社製のED-580T,EG-580UT(外径12.6-13.9mm)を使用し小児胆膵内視鏡治療を14症例79回(ERCP59回,EUS関連手技20回)施行してきた.治療時の平均年齢は9.6±2.7歳(未就学児9回,小学生59回,中学生11回,平均身長は133±15cm,平均体重は31±11kg)であった.79回のうち,全身麻酔下で施行したのはEUS関連手技2回のみであり,77回は小児科医または小児外科医による鎮静下に内視鏡室で施行してきたが,鎮静に伴う偶発症は一例も経験せず全例でdeep sedationが得られた.われわれの経験からは小児における胆膵領域の内視鏡治療は,ERCP・EUS関連手技ともに内視鏡室でミダゾラム+ケタミン+ペンタゾシンを用いた非挿管下の鎮静で安全に施行可能であったといえるが,安全性が第一であることはもちろんであり各症例において全身麻酔のほうが良いのか,鎮静のほうが良いのか検討すべきである.

また,ドルミカムは基本的に10mgを極量として設定したが,7回は10mgを超えて使用していた.ステント抜去のみなどの治療時間が5分程度の治療であったとしてもドルミカムを極量まで使用する,いわゆるドルミカムが効きにくい児が存在することも分かってきた.これらの症例の多くは病室から内視鏡室に来るまでの間に恐怖で泣いてしまい,鎮静時に興奮状態になっている児であった.これらの児に対しては抗不安薬や催眠作用を有する抗アレルギー薬を前投薬として用いている.また,児の立場から考えると何より保護者が近くにいてくれることが最も安心が得られることにつながると考える.われわれは保護者に内視鏡室に入ってもらい,児が入眠するまで傍に付き添ってもらっているようにして児の不安を少しでも取り除けるような環境作りを心がけている.

Ⅳ 治療手技とその実際

小児用のERCPスコープがオリンパス社(PJF‒ 240)より販売されている.このスコープは外径が7.5mmであり通常の成人用のERCPスコープ(挿入部最大径約13mm,軟性部径約11mm)よりも細径となっており,咽頭をより安全に通過することが可能となる.European Society of Gastroenterology(ESGE) and European Society for Pediatric Gastroenterology Hepatology and Nutrition(ESPGHAN) 19では,ERCPについては体重10kg未満または1歳未満では7.5mm径の小児用ERCPスコープが,10kg以上または1歳以上では成人用のERCPスコープの使用が推奨されている.本邦のガイドラインでもこれら海外ガイドラインにおける推奨を踏まえ,乳幼児においては細径スコープが推奨されている(強い推奨,エビデンスレベルD) 1.しかし,PJF‒240は細径であるが故,鉗子口径が2.0mmと小さく,使用できるデバイスも限られている点が問題となる.使用可能なデバイスについては小児消化器内視鏡ガイドライン2017内の表に販売元,製品名が詳細に記載されており,このスコープを使用する際には確認しておくのが良い.しかし,胆膵内視鏡においては治療中の偶発的なことに緊急で対応しなくてはならないケースも多々あり,成人に使用できるような様々なデバイスが使用できないと治療を安全に施行することが難しくなってしまうことも多い.そのため,われわれは基本的に可能な限り成人用のERCPスコープを使用して治療を行っている.一方,EUSにおいては成人で用いるEUSスコープはERCPよりもさらに太いことが多い.EUSについてはESGE/ESPGHANのガイドライン 19で15kg未満または3歳未満の場合には7.4mm径の気管支腔内超音波断層法の使用が勧められており,観察のみの場合にはこれらのガイドラインも考慮する必要があると思われる.EUSを用いた治療においては鉗子口径の問題があり成人用のスコープを使用しEUS下インターベンションを施行する必要がある.われわれは成人用のスコープを用いて学童期の児にEUS下インターベンションを行ってきている.これらの児は15kgを超えていたが,1歳の乳児に対する成人用EUSを用いた腹腔内膿瘍ドレナージの報告もある 20.詳細は後述するが,EUSのドレナージは成人においてもリスクの大きい治療であるため適応については慎重に判断する必要があるがメリットがデメリットを上回ると判断した場合には十分な説明の上で検討するようにしている.

Ⅴ 実際の内視鏡治療手技

小児内視鏡をする際に咽頭の通過がまず注意をしなくてはならないポイントである.無理な力がかからないように細心の注意を払い,成人のERCPに熟練したものが愛護的に施行すべきであることはいうまでもない.しかし,咽頭を通過したところで安心することはできない.左側臥位で行われる通常の上部消化管内視鏡検査と異なり,ERCPでは腹臥位で行われる.この体位では気道の上に食道が位置するため,スコープの重みによって気道が圧迫されることによって呼吸状態が不安定になりえるということを(特に非挿管下では)念頭に検査をすべきである.マウスピースについては成人用のマウスピースは小児には大きすぎ,無理な開口による顎への負担も考え,可能な限りスコープ径と同程度の小口径タイプのマウスピース(Figure 1 トップ社)を使用している.通常径のマウスピースは幅26mm×高さ21mmであるが,小口径のマウスピースは幅20mm×高さ14mmとなっており,小児にも使用しやすい.このマウスピースは適合内視鏡径が12mm以下とされており,ERCPやEUSのスコープの先端部はシャフトよりも若干太いためにヘッドの部分ではやや抵抗があるもののヘッドさえ通過すればシャフト部の引っかかり感はなく,違和感なく使用できている.食道から胃内操作は成人と同様の手技で施行可能であるが,食道胃接合部や幽門輪の通過の際は慎重に愛護的に超える必要がある.十二指腸では成人と比較してやはり管腔が狭いことが多い.ストレッチの際には違和感のある抵抗感がないことを確認しながら,必要であれば透視を併用しながら施行する.乳頭の観察は通常の成人と同様に乳頭の正面視を基本とするが,管腔が狭いことから時に乳頭との距離がとりにくいことがある.スコープpositionの調整やダウンアングルなどを駆使して良好な位置関係を作るようにするが,常に十二指腸壁に無理な力が働いていないか注意を払いながら施行する必要がある.胆管,膵管へのアプローチに関しては成人ではカテーテルでの深部挿管を基本として施行しているが,小児においては乳頭が小さめなことも多い.乳頭が小さい際にはワイヤーを少し出してワイヤーの先を先細カテーテルの先端のようにしてワイヤーにかかるテンションを感じながら愛護的に深部挿管を試みたり,ワイヤーガイドでの挿管法を適宜用いるようにしている.目的部位への挿管後の治療においては成人と同様に施行している.

Figure 1 

トップ社の小口径のマウスピース.

開口が狭い小児においても安全に使用可能である.

高さが14mmであり,通常のERCP,EUSスコープは問題なく使用可能である.

現在では画像診断の進歩から,成人においては診断目的のERCPはほとんど施行されなくなってきている.一方,小児においては100手技以上のERCPを含む報告をまとめたTable 1をみると,近年では治療目的のERCPが主となってきているが,成人と比較すると依然ERCPが診断目的に施行される機会が比較的多いことが分かる.これらの診断目的のERCPはいずれも2歳以下,特に乳児期の胆道閉鎖症が対象となっていることが多く,MR胆管膵管撮影(Magnetic Resonance cholangiopancreatography:MRCP)などの非侵襲的な検査を行うことが難しい年齢であることも一因となっていると考えられる 4),10.偶発症率は3.2-19.1%,うち膵炎は0-11.8%であり,報告によって比較的差が大きい.膵炎についても定義による違い,腹痛を正確に評価する難しさもあり,0-11.8%と差が大きいが,膵炎について記載のある15編をまとめると5.4%程度の頻度であり 3)~9),11)~18,成人の頻度と同等であると考えられる.われわれの施設のデータでもERCP関連手技59回で膵炎は6.8%であり,ほぼ同様の結果であった.

1)再発性膵炎に対して

われわれの施設では遺伝性膵炎をベースに持った児に対する膵管口狭窄に伴う再発性膵炎や膵石治療の頻度が高い(Figure 2-a).小児においては乳頭が小さいことも多く,穿孔予防のため初回の膵管口の切開長は小さくして,その後バルーンや複数本のPSで膵管口を広げていくようなイメージで拡張している(Figure 2-b).膵管口狭窄の症例では初回のERCPでは膵管挿管後,膵管口小切開を施行(Figure 2-c)し7Frのプラスチックステント(Plastic stent:PS)を1本留置している.初回治療から3カ月を目安として2回目のERCPを施行し,留置した膵管ステントを抜去後,適宜6-8mm程度のバルーンで拡張(Figure 2-d)を追加した後にPSを2本に増やして膵管口を拡張している(Figure 2-e).2本以上のPSを留置する際には,1本目は管腔側がpigtail形状のPSを使用するようにしている.これは2本目のPSを挿入する際に1本目のPSが膵管内に迷入するのを予防する目的である.その後3カ月程度でPSを交換し,狭窄の改善が乏しい症例では3本に増やすことも行っている.2本以上にPSを増やしてから1年程度を目安にステントを抜去してステントフリーとする方針をとっている.再燃なく経過する症例を多く経験しており有用な治療ストラテジーであると考えているが,一部で再燃する症例も経験しており,ステント留置期間については1年という期間が適切なのかは今後の検討課題である.膵石症例においては2回目のERCP時にバルーンやバスケットを用いて結石除去を行っているが結石の個数や大きさにもよるが複数回の治療を要することが多い.麻酔の残量を確認しながらどこまで治療するかをその場で判断しながら,また治療時間が長くなりすぎないように注意しながら行う.治療終了時には2本以上のPSを留置して終了し,次回の治療の際に結石除去が容易になるようにしている.完全結石除去が得られステントフリーとする前には造影では分からないような微小な結石がないかを膵管鏡を用いてなるべく確認するようにしている.現在ボストン社から販売されているスパイグラスDSは最大径が10.8Frの軟性胆道鏡であり,適合チャンネル径が3.7mmとなっている.専用の内視鏡処置具を挿入ための鉗子チャンネルポートを有しており,生検鉗子やバスケット,電気水圧衝撃波胆管結石破砕装置(Electronic hydraulic lithotripsy:EHL)プローべを挿入可能である.通常のERCPによるバスケットによる破砕が困難な際にはEHLによる破砕が有用である.スパイグラスを用いる際には水浸下で施行する必要があるが,送水スピードを遅くし膵管への負荷を軽減するようにしている.細かな破砕片はバルーンで除去を試みても難しいことが多い.そのためバスケットカテーテルであるレフォルマ(PIOLAX社)が効率的な除去に有用であり,頻用している(Figure 2-f).

Figure 2 

a:MRCP:頭体移行部に結石と思われるdefectを認める.

b:乳頭はやや小さめである.

c:小切開を施行.

d:6mmの乳頭拡張用バルーン.

e:プラスチックステントを2本留置.

f:レフォルマによる膵石除去.

慢性膵炎に対してERCPによる治療介入を行い長期経過を観察したKohoutovaらの報告では膵管口切開,バルーン拡張,膵石の除去,膵管ステント留置などの何らかの治療介入により,ERCP施行前と比較して優位に腹痛の程度や頻度は改善され鎮痛薬の使用回数は減少し(p<0.001),66%で無痛の状態を得られるようになったと報告されている 8.われわれのデータでも8症例中再燃は1例のみで88%では現時点で再燃なく経過しており,小児の慢性膵炎に対してERCPによる治療介入は有用であると考える.

2)総胆管結石に対して

成人の総胆管結石に対してわれわれは以前から小切開内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)に加えて内視鏡的乳頭バルーン拡張術(Endoscopic papillary balloon dilation:EPBD)を加える乳頭処置(EST followed by EPBD:ESBD)を施行してきており,その有用性を報告している 21.ESBDではESTと比較して優位に初回結石除去率が高率であり,機械的砕石具の頻度は低率であった.また優位に総偶発症率は低率で,中でも出血の頻度が低率であった.このことからESBDはESTと比較して安全で効率的に結石除去が可能となる可能性があることを報告した.小児においては乳頭が小さいことも多く,切開長が十分とりにくい症例も多く経験する.極小の切開後に胆管径に合わせたバルーン拡張を付加することで安全に乳頭処置を行うことが可能になると考えている(Figure 3).また,通常のEST単独と比較して結石除去も容易になるために処置時間の短縮につながり,麻酔の効きにくい児に対しても有用となりえる.また,ESTの切開長が短いので,乳頭機能が保たれることを期待している.

Figure 3 

a:ERCP:胆管内に結石を認める.

b:切開長は小切開としている.

c:胆管径に合わせたバルーン拡張を追加している.

d:バルーンにて結石除去を施行した.

3)Interventional EUSについて

これまでの報告では膵囊胞ドレナージ目的にInterventional EUSを行った報告が多い.Nabiらは小児30例に対して膵囊胞ドレナージを行い,長期経過を観察した報告がなされている 22.この報告ではダブルピッグテイルのPSを用いてドレナージを行い中央値829日の観察期間において93%で再燃なく改善が得られたと報告されている.また,近年ではWONに対して金属ステントを用いたドレナージの報告もあるが,いまだ少数例にとどまっている 23),24

われわれはこれまでEUS-guided hepaticogastrostomy(EUS-HGS)を3回,EUS-guided pancreatic drainage(EUS-PD)を1回,感染性膵囊胞に対してHOT AXIOS(Bostion Scientific社製)を用いたEUS-guided peri-pancreatic cystic drainage(EUS-PCD)を1回施行してきた.EUS-HGS,EUS-PDの適応は成人同様のERCPでのドレナージが困難な症例としておりEUS-HGSは肝切除後の胆汁漏による炎症性の肝門部完全狭窄,術後再建腸管の吻合部狭窄でダブルバルーンによる内視鏡が困難であった症例に,EUS-PDは外傷性膵損傷の児に施行してきた.Interventional EUSの利点は外瘻や手術を避けることができる点にあると考えている.特に学童期においては経皮的な外瘻チューブを長期間留置することは運動の制限が必要になってしまい,成長において大きなデメリットになってしまう.また,逸脱のリスクも高く,保護者の精神的,心理的負担も大きい.例えば吻合部狭窄に対してこれまでは経皮経肝胆道ドレナージ(Percutaneous Transhepatic Biliary Drainage:PTBD)を施行してきていたが,胆汁の皮膚への漏れから爛れを起こしたり,閉塞や逸脱などを起こしたりすることが多かった.また,複数本のチューブ留置が必要となることもあり美容面でのデメリットも大きかった.EUS-HGSによる治療では内瘻であり,瘻孔形成後の逸脱リスクも少ないことから運動などへの制限はないことが大きなメリットである.小児に対するInterventional EUSの報告は少なく,専用デバイスも存在していないため,成人以上に慎重に適応は判断する必要があると思われるが,吻合部狭窄など同じ病態に対してPTBDを行った場合とEUS-HGSを行った場合の両方の経過を比べるとEUS-HGSのメリットは非常に大きいと感じる.

EUS-HGS症例提示:症例は7歳女児(身長80 cm,体重9.7kg)である.1歳時に肝腫瘍に対して肝右葉切除が施行された.術後の胆汁漏に伴う炎症により肝門部狭窄により,6歳時から胆管炎を繰り返すようになった.ERCPでのドレナージを試みるも肝外胆管と肝内胆管は完全に途絶し大腸への瘻孔を形成していた(Figure 4-a).ERCPによるドレナージは困難であり,外科的再手術を検討するも本人,家族は手術拒否され,内視鏡的ドレナージを希望されたため,十分な説明の上,EUS-HGSを施行した.肝右葉切除後であり,肝左葉は代償性に肥大していた.B3を同定し,19G針で穿刺した(Figure 4-b).ESダイレーター,RENによる拡張を試みたが胆管壁は硬く,通過しなかった.通電ダイレーターで穿刺ルート,胆管壁を拡張後,7FrのPSを留置して終了した(Figure 4-c).術後は偶発症なく経過し,胆管炎の再燃なく経過した.しかし,肝側から肝門部狭窄部を胆道鏡で探るも狭窄部の突破は困難であったため再手術の必要性について本人,両親に説明し,検討していただいている(Figure 4-d).

Figure 4 

a:ERCP:肝門部胆管から大腸へ造影剤が流入しており交通を認める(赤矢印).

b:EUS-HGS:B3から19G穿刺針で穿刺後,ガイドワイヤーを進めている.

c:7FrのダブルピッグPSを留置している.

d:HGSルートからSpy Glass DSを挿入し,吻合部を探っている.

Ⅵ われわれが取り組んでいる院内連携

通常の内視鏡室での非挿管下の鎮静による内視鏡治療であれば成人と同様の手順で検査の予約から治療まで可能である.しかし,鎮静薬が効きにくい症例や酸素化が不安定になるような症例においては安全に施行するために全身麻酔下での内視鏡治療が必要になる.全身麻酔下での胆膵内視鏡治療を行う際は手術室で施行することとなり多くの科と何度も日程調整をする必要がある.関連する部署としては消化器内科の他に小児科/小児外科,麻酔科,手術室看護師,内視鏡室看護師が挙げられる.さらに手術室のもともと使用予定である科にも許可をとる必要がある.これまでは1回の内視鏡治療を手術室で行うために,これらすべての科にそれぞれ個別にメールをして対応可能かを確認し,いずれかの部署で対応不可であれば初めからやり直しという状況であった.そのため1回の治療をするために何度も連絡を繰り返す必要があり,かなりの労力が必要な作業であった.これらの状況を改善するためにわれわれは関連する各部署とワーキンググループを作り円滑に連絡できる環境を整えてきた.具体的には関連しうる各部署の代表者を一人選出し,患者情報,治療内容,治療候補日などの情報を一斉メールで送る.治療候補日がいずれかの部署で対応不可の場合には別の日を設定する必要があるが,労力はメールの送信のみで良くなり,これまで個別に連絡していた際と比較してかなり軽減された.使用したい手術室が何時から使用可能かなど,細かい情報を各部署が共有することができることも大きなメリットであった.われわれの施設では手術室での内視鏡治療の場合,内視鏡室の看護師ではなく手術室の看護師が入ることになっている.基本的に非挿管下の鎮静での治療を第一選択としており手術室での内視鏡治療の頻度は低いため,内視鏡ユニットはどこに位置させるのか,透視モニターの位置などに加え,どのような手順で治療が進むのかを記憶し続けることが困難である.そのため,これらの機材の設置位置や手術室で準備すべき物品,患者の観察事項の注意点などを記した看護手順書を作成した.また,器具は内視鏡室から不足なく手術室に持ち込む必要がある.そのため,内視鏡室の看護師に準備すべき必要物品もこの手順書内に記載している.このようにワーキンググループを作ることにより通常とは異なる場所で行う内視鏡治療を安全に円滑に施行できる環境を目指している.

Ⅶ 最後に

小児に対する内視鏡治療の中でも胆膵領域の治療は技術的難易度やリスクが高く,上下部内視鏡と比較すると頻度も低いことから消化器内科で対応することが多い.しかし,消化器内科医のみでは精神的,肉体的に未成熟である小児医療を安全かつ円滑に施行することは不可能であり,小児科および小児外科医の先生方の御協力が必要不可欠である.また,小児科,小児外科医のみならず,院内全体で小児内視鏡をバックアップできるようなシステム作りが必要と考えている.

謝 辞

日々の小児胆膵内視鏡治療に多大なる御協力をいただいている小児科 清水俊明教授,鈴木光幸先生,箕輪圭先生,小児外科 山高篤行教授,古賀寛之先生,瀬尾尚吾先生に感謝の意を表します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:伊佐山浩通(富士フイルム株式会社,味の素株式会社,ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社,日立製作所株式会社,ギリアド・サイエンシズ株式会社,ガデリウス・メディカル株式会社,大鵬薬品工業株式会社,株式会社ヤクルト本社)

文 献
 
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