日本消化器内視鏡学会雑誌
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超音波内視鏡下生検サンプル中の標的検体検索における標的検体確認照明器の有用性(多施設共同前向き試験)
松本 和也 原 和生安田 一朗糸井 隆夫菓 裕貴松本 慎平土井 晋平本定 三季武田 洋平渋谷 仁野間 久史磯本 一
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2022 年 64 巻 5 号 p. 1158-1166

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要旨

【目的】超音波内視鏡下生検(Endoscopic ultrasound-guided fine-needle biopsy:EUS-FNB)は細い針を用いるため,組織学的エビデンスがサンプル内に含まれているか否かが不明瞭である.われわれは標的検体確認照明器(Target sample check illuminator:TSCI)の有用性を多施設共同前向き試験にて確認した.

【方法】われわれは,52例の症例を登録した.採取されたEUS-FNBサンプルは,通常法(通常光による目視確認)およびTSCI法(TSCIを用いた目視確認)を用いてサンプル内に標的検体が存在するか否かを評価した後,病理組織学的診断を行った.通常法とTSCI法における標的検体有無の病理学的診断との一致率および診断能に対し個別に評価した.

【結果】通常法とTSCI法によるサンプル内への標的検体有無の一致率に関しては,(ⅰ)全症例で感度51.0%(25/49) vs 95.9%(47/49)(P=0.001),特異度100%(3/3) vs 66.7%(2/3),陽性的中率100%(25/25) vs 97.9%(47/48),陰性的中率11.1%(3/27) vs 50.0%(2/4)(P=0.002);(ⅱ)膵腫瘤で感度28.0%(7/25) vs 96.0%(24/25)(P<0.001),特異度100%(2/2) vs 100%(2/2),陽性的中率100%(7/7) vs 100%(24/24),陰性的中率10.0%(2/20) vs 66.7%(2/3)(P<0.001)で,TSCI法は通常法に比較して感度および陰性的中率において有意に良好であった.(ⅲ)リンパ節腫瘤においては感度75.0%(18/24) vs 95.8%(23/24)(P=0.025),特異度100%(1/1) vs 0%(0/1),陽性的中率100%(18/18) vs 95.8%(23/24),陰性的中率14.3%(1/7) vs 0%(0/1)であった.

【結語】TSCI法は膵腫瘤におけるEUS-FNBの感度,陰性的中率,正診率を改善した.EUS-FNB施行時に迅速細胞診が困難で,採取されたサンプルが微量である場合,TSCI法は非常に有用である(標的検体確認照明器の有用性に対する多施設共同試験,Clinical Trial ID:UMIN000023349).

Abstract

Objectives: Endoscopic ultrasound-guided fine-needle biopsy (EUS-FNB) uses a thin needle, rendering unclear whether the collected sample contains pathological evidence. We examined the usefulness of our target sample check illuminator (TSCI) through a multicenter prospective trial.

Methods: We included 52 consecutive patients. After assessing EUS-FNB samples by conventional (visual observation) and TSCI methods, we evaluated consistency with the histopathological diagnosis. We compared the target sample confirmation rate between conventional and TSCI methods and evaluated the diagnostic ability separately.

Results: Comparison between the conventional and TSCI methods revealed the following: (ⅰ) for all cases: sensitivity, 51.0% (25/49) vs. 95.9% (47/49) (P = 0.001); specificity, 100% (3/3) vs. 66.7% (2/3); positive predictive value (PPV), 100% (25/25) vs. 97.9% (47/48); and negative predictive value (NPV), 11.1% (3/27) vs. 50.0% (2/4) (P = 0.002);(ⅱ) for pancreatic masses: sensitivity, 28.0% (7/25) vs. 96.0% (24/25) (P<0.001); specificity, 100% (2/2) vs. 100% (2/2); PPV, 100% (7/7) vs. 100% (24/24); and NPV, 10.0% (2/20) vs. 66.7% (2/3) (P<0.001) (the TSCI method showed significantly better sensitivity and NPV than the conventional method); and (ⅲ) for lymph node tumors: sensitivity, 75.0% (18/24) vs. 95.8% (23/24) (P = 0.025); specificity, 100% (1/1) vs. 0% (0/1); PPV, 100% (18/18) vs. 95.8% (23/24); and NPV, 14.3% (1/7) vs. 0% (0/1).

Conclusions: The TSCI improved the sensitivity, NPV, and accuracy of target sample confirmation for pancreatic mass EUS-FNB. Although the proportion of samples not including a target region was quite low, which could strongly influence our results, the TSCI method can be used in EUS-FNB when rapid on-site evaluation cannot be performed. (A multicenter prospective study for the utility of a target sample check illuminator, Clinical Trial ID: UMIN000023349).

Ⅰ はじめに

近年,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)の膵腫瘤,縦隔および腹腔内リンパ節腫瘤の病理組織学的診断に対する有用性が報告されている 1),2.その確立された有用性を用いて,様々な疾患に対する治療戦略を決定する前に本手技は全世界中で用いられている 3),4.しかしながら,得られたサンプルはとても小さく,血液が混在しているので,サンプル内に標的検体が存在するか否かを目視で評価することは困難である.この問題を解決するために,迅速細胞診(rapid on-site evaluation:ROSE)を導入することが望ましいが,細胞検査士の人員不足のため,多くの施設がROSEを実施できていない.したがってROSEを実施できる施設は細胞診を行い,実施困難な施設は組織学的診断を行っている.ROSEを導入困難な際は,超音波内視鏡下生検の診断能を高めるために穿刺回数を増加させる.しかしながら,超音波内視鏡検査(EUS)ガイド下検体採取に関連する出血,穿孔,播種などの合併症が増加することが懸念される.さらに,がん遺伝子プロファイリング検査を用いた治療方針決定の有用性が報告されているが 5),6,できる限り多くのホルマリン固定されたサンプルを必要とするため,病理組織学的診断は未だ必要とされている.近年,検体採取に対する生検針が改良されたため,主に組織学的診断が施行されるようになり,その手技も最近では超音波内視鏡下生検(EUS-fine-needle biopsy:EUS-FNB)と証されている 7

前述の課題に対して過去にわれわれはヒトの酸化ヘモグロビンに特異的に吸収される波長に着目し,イヌの膵臓から採取したEUS-FNBサンプルに短波長のLED光を照射し,最適な条件を検索した.その後われわれは標的検体の有無を容易に鑑別できる標的検体確認照明器(target sample check illuminator:TSCI)を開発し,EUS-FNBにおける実臨床での有用性を単施設で報告した 8

しかしながら,TSCIのリンパ節腫瘤に対する有用性や膵腫瘤に対するTSCIの多施設共同研究での有用性は確認されていない.したがって今回われわれはリンパ節腫瘤および膵腫瘤に対するTSCIの有用性を多施設共同前向き試験を行い,標的検体の確認における肉眼的観察対するTSCIを用いた確認の優越性を検証し報告することを目的とした.

Ⅱ 方  法

この研究は,2016年6月から2017年8月の間に56名の連続した患者をスクリーニングした.各施設の倫理委員会の承認を受け,UMINにも登録した(UMIN000023349).この研究は,ヒトを対象とした生物医学研究に関するヘルシンキ宣言に記載されているガイドラインに従って実施した.

EUS-FNB

EUS-FNBは7.5-MHzコンベックス型超音波内視鏡(GF-UCT260,Olympus Optical Tokyo,Japan,EG-580UT, Fujifilm Medical Corp., Tokyo, Japan)を用い,内視鏡用超音波観測装置(EU-ME2, Olympus Optical;SU-1, Fujifilm Medical Corp.)に接続した.穿刺針は22G針を用い,その製品は参加した術者の判断で選択した.手技は経胃もしくは経十二指腸ルートで行われ,鎮静剤はペンタゾシンとミダゾラムを使用した.全患者からEUS-FNB施行前に書面によるインフォームドコンセントを得た.われわれは標的部位を観察し,穿刺部位を決定することを共通の認識とした.穿刺ルートに血管のような構造物がないことを確認後,穿刺長を測定した.穿刺後スタイレットを抜去し腫瘍内で穿刺を繰り返した.手技中にシリンジによる陰圧をかけるか否かに関しては規定しなかった.1回目の手技で得られたサンプルはすべて病理組織学的診断に使用した.2回目以降の穿刺を施行することに関しては,各施設の方針に沿って決定した.2回目以降の穿刺に用いる機器や装置および得られたサンプルの処理法に関しては規定しなかった.すべての患者の早期および遅発性の有害事象に関して経過観察した.有害事象に関しては米国消化器内視鏡学会の規程に沿って定義した 9

TSCI

TSCIは株式会社アダチ(Osaka, Japan)により,605nmの単波長を用いることでEUS-FNBで得られたサンプル内の標的検体を観察する機器として開発された 8.605nmの単波長は酸化ヘモグロビンに吸収されるので,サンプル内の標的検体を含有する部位と含有しない部位を識別することができる.605nmの単波長の透過光を用いることでサンプル内のヘモグロビンのみの部位は茶褐色に描出され,標的検体を含有する部位がオレンジ色に描出される(Figure 1).TSCIを用いた診断には,特別なトレーニングは必要なく,10~20秒で完了した.

Figure 1 

Target sample check illuminator(TSCI)の原理.

a:白色光による反射光を照射しても,血液内の標的検体の有無を識別することはできない.

b:605nmの短波長による透過光を照射することでヘモグロビンのみの部分は焦げ茶色に描出され,標的検体を含有する部分はオレンジ色に描出される.

採取された検体はプラスチック製もしくはガラス製のシャーレに置き,605nmの単波長を照射した.EUS-FNBのサンプルは病理組織学的診断の前にTSCIを用いて内視鏡施行医によって評価された.その後採取検体は病理医によって評価されたが,ROSEは実施しなかった.データは最終診断,TSCIと病理組織学的診断の一致率,EUS-FNBの診断能,そして手技関連合併症に関して記録した.

選択基準

適格基準は同意取得時に20歳以上の男女,悪性腫瘍に対する治療前に病理組織学的診断が必要な患者とした.不適規格基準は,同意取得1カ月以内に悪性腫瘍に対し化学療法歴のある患者,抗凝固薬・抗血栓薬使用中の患者,妊娠中もしくは妊娠の可能性のある患者そして研究者が本研究に不適格と判断した患者とした.総計56名の患者が登録され(3施設で26,24,そして6例がそれぞれ登録された),8名の内視鏡医がこの多施設共同研究に症例を登録した.

肉眼的評価

サンプル内の標的検体の有無はEUS-FNB施行医によって,TSCI法と通常法(目視による評価)で評価された.臨床試験を行う前に評価医間の格差を減少させるために,われわれは,過去に鳥取大学で得られたTSCI法と通常法の画像を用いて,その評価法を議論した.さらに,すべての内視鏡医は,TSCI法では,サンプル内のヘモグロビンのみの部位は茶褐色に描出され,標的検体を含有する部位がオレンジ色に描出されることを確認した.

サンプルはシャーレ上で評価された.標的検体の存在は,通常法では“白い部分”,TSCI法では“オレンジ色の部分”を確認することで確定した(Figure 2-a 8.その後すべてのサンプルは病理組織学的検査に用いられた.“標的検体が存在する”ことに関する病理学的な定義は,その長径が100μm以上存在することとした(Figure 2-b).病理医は内視鏡医の診断結果を報告されない状況下で病理組織学的診断を施行した.良性,悪性を含めた病理学的な最終診断は,各サンプル毎に評価された.

Figure 2 

肉眼的評価.

a:通常法ではサンプル内に“白い部分”を認めること,TSCI法では“オレンジ色の部分”を認めることにより標的検体が存在すると判断した.

b:標的検体長が100μm 以上存在することで,病理学的に“標的検体あり”と診断した.

最終診断

非癌腫瘍も含めた最終診断は,切除標本も含めた病理組織学的検査もしくは少なくとも1年間の経過観察によって評価した.腫瘤形成性膵炎,自己免疫性膵炎,そして良性リンパ節腫脹などの悪性疾患でない症例は,画像検査にて経過観察した.すべての患者の緊急性もしくは遅発性の合併症に対して綿密に経過観察した.

統計解析

主要評価項目は,すべてのサンプルに対する通常観察とTSCI法での目視での標的検体確認率とした.副次評価項目は膵腫瘤,リンパ節腫瘤それぞれに対するEUS-FNBの診断能と合併症とした.TSCI観察による標的検体同定率を70%,通常法による同定率を40%と仮定すると,検出力80%を達成するために,合計48症例のサンプルが必要となる見積もりとなった.いくつかの感度解析を行った上で,保守的な見積もりも考慮し,56症例の目標症例数を設定した.感度,特異度,陽性的中率,そして陰性的中率のような診断精度の評価は,McNemar検定,Moskowitz検定,そしてPepe検定にて解析した 10),11.P<0.05を統計的学的な有意差と評価した.統計解析には,R version 3.5.1(R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)を用いた.

Ⅲ 結  果

患者背景

56名の症例がスクリーニングされ,4名が除外された.3名が適応外の穿刺針で穿刺手技が行われ,1名は同意取得1カ月以内に悪性腫瘍に対する薬物療法を受けていた(Table 1).

Table 1 

患者背景と最終診断.

それ故Figure 3に示すように,52名の症例が(男性31名,女性21名;平均年齢69.0±9.82歳),最終的に解析された.全症例における平均穿刺回数は2.0回であった.全症例におけるEUS-FNBの検体採取率は98.1%であった.最終診断は42例が悪性疾患で,その内訳は膵癌19例,転移性リンパ節腫瘤19例,神経内分泌腫瘍13例,悪性リンパ腫4例,solid pseudopapillary neoplasm 1例,漿液性嚢胞腺腫 1例であった.残りの10例は最終的に,反応性リンパ節腫脹9例,腫瘤形成性膵炎1例の良性疾患と診断された.

Figure 3 

登録症例の詳細および最終診断.

肉眼的および組織学的所見

通常法とTSCI法によるサンプル内への標的検体有無の一致率に関しては,全症例で感度51.0%(25/49) vs 95.9%(47/49)(P=0.001),特異度100%(3/3) vs 66.7%(2/3),陽性的中率100%(25/25) vs 97.9%(47/48),陰性的中率11.1%(3/27) vs 50.0%(2/4)(P=0.002)で,TSCI法は通常法に比較して感度,陰性的中率,そして正診率において有意に良好な成績であった.膵腫瘤では,感度28.0%(7/25) vs 96.0%(24/25)(P<0.001),特異度100%(2/2) vs 100%(2/2),陽性的中率100%(7/7) vs 100%(24/24),陰性的中率10.0%(2/20) vs 66.7%(2/3)(P<0.001)で,TSCI法は通常法に比較して感度および陰性的中率において有意に良好であった.リンパ節腫瘤においては,感度75.0%(18/24) vs 95.8%(23/ 24)(P =0.025),特異度100%(1/1) vs 0%(0/1),陽性的中率100%(18/18) vs 95.8%(23/24),陰性的中率14.3%(1/7) vs 0%(0/1) で,TSCI法は通常法に比較して感度,において有意に良好な成績であった(Table 2).

Table 2 

目視およびTSCIによる標的検体の一致率.

EUS-FNBの診断能

EUS-FNBの診断能に関しては,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率そして正診率は,全症例,膵腫瘍,そしてリンパ節腫瘤でそれぞれ97.6%/ 100%/93.8%,100%/100%/100%,100%/100%/100%,91.7%/100%/90.0%,そして98.1%/100%/96.0%であった(Table 3).

Table 3 

EUS-FNBの診断能.

有害事象

本研究においてEUS-FNBに関連する有害事象は認められなかった.

Ⅳ 考  察

全症例と膵腫瘤において,TSCIは肉眼的な観察に比較して感度,陰性的中率,正診率を有意に改善させた.さらに,TSCIはリンパ節腫瘤において標的検体同定に対する感度を有意に改善させた.リンパ節腫瘤の正診率において有意差が確認されなかったのは,サンプルサイズの設定に問題があったものと考える.過去の単施設での検討では,TSCI法は通常法に比較して感度と特異度を有意に向上させることを確認していたが,今回われわれは多施設共同前向き試験にて証明することができた.

膵癌症例に対するメタアナリシスにおいて,Hébert-Magee Sらは 12,ROSEを併用したEUS-FNAは,感度94.8%,特異度99.9%であるのに対し,EUS-FNBは感度72.7%,特異度100%で,ROSEを併用下EUS-FNAはEUS-FNBに比較して診断能が有意に良好であると報告している 12

今回の研究において,TSCIを用いることにより,膵腫瘤における標的検体の一致率は96.0%,正診率は96.3%,そしてEUS-FNBの課題である感度を改善することができた.この知見を元に,われわれはTSCIを用いたEUS-FNBの診断能は,ROSEを併用したEUS-FNAと同等であることを確認した.われわれはTSCIを導入することで,ROSE導入困難な施設におけるEUS-FNBの診断能と安全性が向上することならびにROSEが不要となることで細胞検査士の立ち会いが不要となり,穿刺回数および細胞診断に要する時間が削減されることにより,EUS-FNB実施数が増加することを期待している.実地医療において,出血,他臓器損傷,播種の危険性を考慮し,できる限り細径の穿刺針を選択する必要があるかもしれない.膵腫瘤においては,25ゲージ針が診断により有用であると報告されている 13.今回の検討において,われわれは22ゲージ針を使用したが,TSCIを用いることで,25ゲージ針においても,22ゲージ針で得られた診断能と同等の成績をあげることができるかもしれない.そうであるならば,TSCIは25ゲージ針使用時にはよりその診断能において大いに貢献することが期待できる.なぜなら,25ゲージ針で得られたサンプルおよび標的検体は22ゲージ針で得られたものよりも微少であるため,標的検体の確認率がより向上する可能性があるからである.われわれは上記を指示するデータを持ち合わせていないが,TSCI法の原理から考察すると,穿刺針がより細径化することで得られるサンプルが細径化したとしても,サンプル内の標的検体の有無を識別することが困難になるとは考えにくい.それでもこの仮説を確立するために今後検討すべきである.加えて,穿刺手技が困難なため穿刺回数が限られる場合,TSCI法を実施することでROSEは不要となり,免疫染色が診断のために必要な際にもすべてのサンプルを組織診に使用することが可能となる.

Iwashitaらは 14,19ゲージ針を用いたEUS-FNBを実施し,macroscopic visible core(MVC)内に,histologic coreが78.9%,凝血塊が9.3%含まれており,MVC径が4mm以上の際には,histologic coreが95,5%含まれていると報告している.われわれの研究と比較すると,穿刺針の径は異なるものの,その診断能は同等であった.こういうわけで凝血塊に含まれるhistologic coreは,TSCIを用いることで同定できることが成立する.

にもかかわらず,本研究にはいくつかの制限がある.第一に,サンプル内に“白い部分”を同定したとしても,TSCIはその中に腫瘍成分が含まれているのか,非腫瘍成分のみが存在しているのかを識別することはできない.第二に,われわれはまず通常法で観察し,次いでTSCI法で観察したが,これは,各施設において単独の内視鏡医が担当しているため,バイアスを生じている可能性がある.しかしながら,今回の検討と同様に,われわれが行った予備実験でさえも同様な結果が得られているので,通常法の影響をTSCI法が受けている可能性は低いと考えられる.第三に標的検体を含まないサンプルの比率が極めて低いことがわれわれの比較検討に強く影響を与えているかもしれない.さらにリンパ節腫瘤において,TSCI法では標的検体を認めないと診断したサンプル内に標的検体を認めており,最終的にはこの1症例の結果を基に,特異度は0%(0/1)となっている.われわれの過去の単施設におけるTSCI法の検討では,膵腫瘤においてEUS-FNAに対する感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率そして正診率はそれぞれ97.7%,100%,100%,93.3%,98.3%であり 8,今回の多施設共同研究でも同等の成績であった.第四に,今回の検討は多施設共同前向き試験ではあったが,登録したサンプル数が十分に多いとは言えない.この課題がTSCI法使用の制限に最も影響を与えている案件であり,実地医療では比較的低コストで購入できるにも拘わらず,本邦において医療機器として普及していない.今後多施設共同による実用性試験が展開されることにより,実臨床の場でTSCIの有用性が認知させること期待している.さらに共焦点レーザー内視鏡 15のような最先端の技術とTSCIを比較する大規模前向き試験も求められるところである.TSCI法に関しては,その正診率や安全性のみならず,費用対効果に関しては確認すべきである.今後の検討では,上記の課題に対し検討項目をスコア化し,ROC解析を元に評価すべきであろう.

結論として,われわれはTSCIを用いることで,膵腫瘤やリンパ節腫瘤に対するEUS-FNBサンプル中の標的検体確認においてその感度,陰性的中率そして正診率を改善することができた.TSCI法を用いたEUS-FNBの診断能は,ROSE未施行でも,ROSE併用下のEUS-FNAと同等の診断能が得られた.EUS-FNBサンプルの目視のみでの評価では標的検体の有無を漠然と判断していたが,TSCIを用いることによりその曖昧さが改善された.TSCIをEUS-FNBに用いることは穿刺回数の減少に寄与し,それに基づいて有害事象ならびに施術担当者の負担を減少させることであろう.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

 

本論文内容に関連する資金調達:なし

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2021)33, 970-6に掲載された「Usefulness of a target sample check illuminator in the detection of target specimens in endoscopic ultrasound-guided fine-needle biopsy samples: Multicenter prospective study」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
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