2022 年 64 巻 6 号 p. 1201-1210
特発性胃潰瘍は,潰瘍の2大成因であるHelicobacter pylori感染や非ステロイド系抗炎症薬服用と稀な疾患を除外した原因不明の潰瘍性病変と定義され,特発性十二指腸潰瘍と合わせて特発性消化性潰瘍(idiopathic peptic ulcer disease:IPUD)とされる.近年,H. pylori感染率の低下とともにIPUDの消化性潰瘍に占める割合が明らかに増加している.IPUDの特徴として,高齢者,基礎疾患の合併が多いこと,病変は前庭部から球部に多いこと,再発率の高いことが挙げられる.治療はプロトンポンプ阻害薬やカリウム競合型アシッドブロッカーが用いられるが,H. pylori潰瘍に比べて治癒率は低い.IPUDの病態は明らかではないが,ストレスや加齢に伴う胃粘膜防御機構の低下などが示唆されている.
Idiopathic gastric ulcers are defined as ulcers with an unknown etiology and those caused by agents other than Helicobacter pylori and non-steroidal anti-inflammatory drugs, after rare conditions have been excluded. Idiopathic peptic ulcer disease (IPUD) includes idiopathic gastric and/or duodenal ulcers. Recent studies have reported an increase in the percentage of patients with IPUD among those with peptic ulcers, which is possibly attributable to a decline in H. pylori infection rates. IPUD predominantly affects elderly individuals and clinically presents with a high incidence of comorbidities, antral predominance, and high recurrence rates. Proton pump inhibitors or potassium-competitive acid blockers are recommended for initial treatment of IPUD; however, healing rates in patients with IPUD are significantly lower than those observed in patients with H. pylori ulcers. The pathogenesis of IPUD remains unknown, although stress and age-induced abnormalities of the gastric mucosal defense are considered possible contributors.
特発性胃潰瘍は原因不明の胃の潰瘍性病変と定義され,特発性十二指腸潰瘍と合わせて特発性消化性潰瘍(idiopathic peptic ulcer disease:IPUD)とされる 1)~4).Helicobacter pylori感染と非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)が潰瘍の主要な要因であることから,非H. pylori・非NSAID潰瘍をIPUDとする研究も多いが,厳密には正しくない.稀ではあるがその他の要因の除外は必須であり,またH. pylori既感染(自然除菌や除菌成功)の取り扱いなどの課題が存在する 3),4).一方,H. pylori感染率の低下により消化性潰瘍の中でIPUDの占める割合は明らかに増加してきており 5)~29),診断や治療は重要なテーマであるとともに,病態解明が必須である.本総説では,特発性胃潰瘍の疫学,臨床的特徴,診断,治療ならびに病態について,一部は特発性十二指腸潰瘍のデータを含めてIPUDとして総説する.
Figure 1にアジアにおける年代別の特発性潰瘍患者におけるIPUDの占める割合を示す 5)~29).対象患者やIPUDの定義が研究毎に異なるが,消化性潰瘍におけるIPUDの占める割合は明らかに増加している.本邦においても,1990年代の報告ではIPUDは消化性潰瘍のわずか1.3-2.6%を占めていたに過ぎなかったが 6)~9),2010年代の報告では12.0-18.2%と明らかに増加している 28),29).H. pylori感染率の減少や除菌療法の普及によりH. pylori潰瘍が急激に減少したことによるものと想定される.したがって,実際のIPUD罹患数が増加してきているかは不明である.Wongらによると2002年から2009年での経時的な出血性潰瘍の成因分析では,H. pylori潰瘍の頻度は減少したが,NSAID潰瘍とIPUDの頻度には変化がないことが香港から報告されている 19).本邦において今後IPUDの有病率がどのように変化するか注意深く監視する必要がある.
アジアにおける年代別特発性消化性潰瘍の占める割合.
アジアにおいて消化性潰瘍における特発性潰瘍の占める割合が増加してきている.赤線は本邦におけるデータを示す.
IPUDの臨床的特徴として,合併症が多いことが多数の報告で認められる 10),12),15),17)~19),25),28).高血圧,高脂血症,糖尿病に加えて虚血性心疾患,慢性腎不全,肝硬変,敗血症,悪性腫瘍など重篤な疾患の合併も多い.年齢については,合併症が多いことからも高齢者に多いとする報告が多いが 10),18),28),年齢に関係ないとする報告 23),27)やH. pylori感染率の低い若年者に多いとする報告もある 13).喫煙やアルコールとの関連は一定していない 18),27).潰瘍の発生部位についてIijimaらはH. pylori潰瘍に比較してIPUDは前庭部に多いこと(52% vs 14%)を示し,特に萎縮性胃炎を合併していないIPUDでは86%が前庭部から十二指腸球部に認めることを報告している 30).Tsujiらも同様に前庭部に好発することを報告している 7).
重要な特徴として,IPUDは再発率や再出血率が高いことが挙げられる 11),16),19),24),25).それを反映してIPUDは内視鏡治療回数が多いことや医療費が高いことも報告されている 25).Hungらは638例の出血性潰瘍患者についてNSAID・アスピリン服用歴のないH. pylori陽性潰瘍213例とIPUD 120例を比較検討したところ,12カ月間の再出血率はIPUD 13.4%とH. pylori潰瘍2.5%に比較して有意に高いことを示した 16).同じコホートを用いた研究においてWongらは70歳以上の高齢者,ASA(American Society of Anesthesiology)Grade 3以上の重篤な合併症を有することが再出血のリスクであること 19)やその後の7年間の調査において累積再出血率はIPUD 42.3%とH. pylori潰瘍11.2%に比較して有意に高いことを報告している 31).また7年間の累積死亡率がIPUD 87.6%とH. pylori潰瘍37.3%に比較して高く,死因として悪性疾患(20% vs 8.5%),敗血症(8.35 vs 1.9%),腎不全(8.3% vs 1.9%)が多いことを示した 31).本邦でのKannoらの報告でも観察期間18カ月での再発率はIPUD 13.9%とH. pylori潰瘍2.1%に比較して有意に高いことが示されている 32).
以上のように,IPUDは合併症が多く,再発率・再出血率が高いことが特徴といえる.
IPUDの診断は様々な疾患を除外する必要がある.Table 1に鑑別すべき疾患を挙げる.特にH. pylori潰瘍とNSAID/アスピリン潰瘍は消化性潰瘍の頻度として高いことからこの2大要因を除外することが重要である.H. pylori感染とIPUDとの関連は後述するが,感染の有無については一つの検査で陰性の場合には複数の検査方法で診断感度を上げることが重要である.プロトンポンプ阻害薬(PPI:proton pump inhibitor)や抗生剤などの服用歴をチェックして検査方法に影響を与えていないかも留意すべきである 4).薬剤性潰瘍はNSAIDや低用量アスピリンが代表であるが,同種の市販薬内服歴のチェックも重要である.その他様々な薬剤による潰瘍発生が起こりうるが,消化性潰瘍診療ガイドライン2020では原因薬剤としてアレンドロン酸,抗癌剤(①シクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル,②フルオロウラシル単独),選択的セロトニン再取り込み阻害薬が挙げられている 1).これらの薬剤以外でも潰瘍を来す可能性があり,薬剤内服例では可能な限り中止または変更により薬剤性潰瘍を除外する必要がある.H. pylori非感染・NSAID非服用者の場合,内視鏡所見および生検診断から鑑別診断を進めていく.免疫低下状態であるか,アレルギー歴や末梢血好酸球数増多を認めるか,血清ガストリン値などを参照にして稀な疾患を除外していく.当科で経験した症例の内視鏡像を示すが,内視鏡像のみからは鑑別診断は困難なことも多い(Figure 2).飯島が提唱するIPUD診断のフローチャートをFigure 3に示す 4).
特発性胃潰瘍の診断に必要な除外疾患.
IPUDと鑑別すべき稀な潰瘍性病変.
a:特発性胃潰瘍症例:前庭部小彎に深掘れ潰瘍と小さな潰瘍を認める.
b:好酸球性胃炎症例:特徴的な好酸球性食道炎像も伴っており,胃粘膜生検にて著明な好酸球浸潤を認めた.
c:サイトメガロウイルス潰瘍:間質性肺炎のため多数の免疫抑制剤内服中の患者.生検にて封入体を認め,C7HRP陽性であった.
特発性潰瘍診断のフローチャート(文献4より引用).
PPI: proton pump inhibitor, NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs.
H. pylori既感染はIPUDに影響を与えることが示されている.すなわち萎縮性胃炎の存在がIPUDの一部に認められることである 16),17),28),29).Ootaniらの報告では出血性IPUD 13例中11例(85%)に萎縮性胃炎を認め 17),Kannoらの報告ではIPUD 46例中23例(50%)に萎縮性胃炎を認めたと報告している 28).このような症例は除菌成功例もしくは自然除菌例の可能性が高い.Sugawaraらの消化性潰瘍181例を検討した研究では,非H. pylori非NSAID潰瘍33例中10例は除菌歴があり,残り23例中9例は高度萎縮性胃炎(open type)を認めたことから,H. pylori既感染を除外した厳密なIPUDは14例(7.7%)であったと報告している 29).このように萎縮性胃炎の有無によりIPUDを厳格に定義することは,萎縮性胃炎を伴わないIPUDでは再発率がより高いこと 32)やボノプラザンの有効性がより低いこと 29)から重要かもしれない.一方,H. pylori感染と消化性潰瘍との関連について,ArakawaらはH. pylori現感染でも潰瘍再発を繰り返さない症例や除菌成功後に潰瘍再発を来す症例はH. pylori惹起性潰瘍(H. pylori-causing ulcers)ではないことを提唱している(Figure 4) 33),34).報告当時(2000年)のデータでは,NSAID服用を除外し1-5年間経過観察できた胃潰瘍103例中,除菌療法成功後の再発潰瘍10例とH. pylori陽性非再発性潰瘍8例の18例(17%)はH. pylori非惹起性潰瘍(H. pylori non-causing ulcers)と考えられると報告している 33).このような症例ではH. pyloriは偶然に胃粘膜に感染しているのみで潰瘍発生・再発とは無関係と考えられることから,“innocent bystander”と呼ぶことを提唱した 33),34).H. pylori非惹起性潰瘍をIPUDに含めるかどうかは今後の課題である.またnon-H. pylori Helicobacter(NHPH)と胃疾患の関連も着目されている.Nakamuraらは除菌歴のないH. pylori陰性胃疾患236例中49例(20.8%)がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)にてNHPH陽性であり,H. suisやH. heilmanniiが同定されたと報告している 35).IPUDでは9例中3例(33%)がNHPH陽性であったことからNHPHの関与が示唆されている.H. pylori既感染との関連を含めてIPUDの本邦における実態については,日本潰瘍学会を中心として多機関疫学調査(研究代表者:大阪医科薬科大学樋口和秀教授)が進行中であり,その結果を待ちたい.
H. pylori陽性潰瘍と陰性潰瘍,H. pylori惹起性潰瘍と非惹起性潰瘍(文献33より改変).
Kannoらの後ろ向き研究では,PPI投与による12週までのIPUDの治癒率は77.4%とH. pylori潰瘍の治癒率95.0%に比較して有意に低いことが報告されている 32).Sugawaraらは前向きコホート研究において,特発性潰瘍32例に対して,カリウム競合型アシッドブロッカーであるボノプラザン20mg投与(胃潰瘍8週間,十二指腸潰瘍6週間)による潰瘍治癒率を検討したところ,H. pyloriによる消化性潰瘍の治癒率93.5%に比較して81.2%と有意に低いことを報告している 29).特に特発性潰瘍のうち,萎縮性胃炎がなく除菌歴のない患者では71.4%とさらに治癒率が低かった.潰瘍非治癒に関連する因子として潰瘍の大きさ(10mm以上,オッズ比3.8)を挙げている 29).したがって,一般の消化性潰瘍と同様にPPIやボノプラザンが初期治療の第一選択であるものの単独では潰瘍治癒率が低いことが問題といえる.
再発予防について,最近Wongらによる無作為比較試験が報告された 36).228人の特発性潰瘍患者に対して潰瘍治癒後にファモチジン40mg群とランソプラゾール30mgの2群に無作為に割付され,24カ月間の上部消化管再出血を検討した.結果,ファモチジン群2.63%,ランソプラゾール群0.88%であり,わずかながらPPIの再出血率が低いものの両群間で有意差は認めなかったと報告している 36).したがって消化性潰瘍診療ガイドラインでもIPUDの再発予防としてPPIまたはヒスタミンH2受容体拮抗薬投与が必要であると提案されている 1).以上のように,現状ではPPIやボノプラザンを主体とした酸分泌抑制薬による治療が第一選択であり,再発予防として酸分泌抑制薬継続が必要である.しかし,後述の病態から考えると防御因子増強薬の併用も重要と思われる.
IPUDの病態は不明な点が多いが,Quanらは①遺伝的素因,②胃酸分泌能,③胃排出能亢進,④粘膜防御能低下,⑤精神的ストレス,⑥喫煙の関与の可能性を示している 2).いずれにしても,IPUDに限らず突然胃に限局性に組織欠損が起こる機序は解明されていない 37),38).逆にいえば,胃はなぜ溶けないのか?という問いに対しても明確な回答が得られていないのが現状である 37),38).
精神的ストレスについては,本邦からの興味深い論文が報告されている.Aoyamaらは1995年阪神淡路大震災後に前年と比較して内視鏡検査は減少したものの,内視鏡で指摘される胃潰瘍が増加したこと,特に潰瘍からの出血増加と高齢者の罹患率が増加したことを報告し,ストレスと潰瘍発生との関連を指摘した 39).2011年の東日本大震災の影響を詳細に検討したKannoらの報告では,前年と比較して消化性潰瘍が1.5倍,出血性潰瘍が2.2倍(特に胃潰瘍からの出血)増加したとしている.潰瘍の成因として,非H. pylori非NSAID潰瘍(いわゆるIPUD)は2010年152例中20例(13%)であったのに対して2011年は234例中55例(24%)と有意に増加したことを報告しており 40),41),IPUDの発生機序の一部にストレスが関与していることを明らかにしたものといえる.
疫学的にもIPUDは高齢者に多いことから加齢との関係は重要である.特に加齢により胃粘膜防御能が低下し傷害に対する脆弱性が増加することが報告されている.胃粘膜は粘液,被蓋上皮細胞からの分泌,幹細胞による再生,微小循環,知覚神経,プロスタグランジにより極めて巧妙に粘膜恒常性が維持されている 42).Tarnawskiらは,加齢による胃粘膜防御機構の異常を詳細に報告し,“aging gastropathy”と称している 43),44).形態的に加齢胃粘膜では粘膜深層1/3の胃腺管萎縮と結合織による置換,壁細胞と主細胞の変性がみられ,毛細血管近傍の結合織内コラーゲン線維の消失と乱れた細線維の集積(酸素栄養素輸送を障害),知覚神経支配減少による軽度から中等度刺激による充血性反応抑制がみられる 43).機能的には重炭酸,プロスタグランジン(prostaglandin, PG)産生分泌低下,粘膜血流低下と上皮細胞の低酸素化がみられる 43)~45).特にPGは胃粘膜防御機構を統括的に賦活する生理活性物質であり,壁細胞内の小器官にPGE2が存在すること 46)やPGE2のサイトプロテクション作用 47)を含めて中心的な役割を担っている 48)~50).以上より加齢によるPG低下はIPUDの病態に重要な役割を担っている.生物化学的にはegr-1発現増加とPTEN遺伝子活性化,survivin発現減少を介したアポトーシス増加がみられること,テロメラーゼ活性低下,細胞老化,活性酸素増加,抗老化ホルモンKlothの異常発現など様々な粘膜防御機構の異常が報告されている 43),44).このような加齢による胃粘膜防御機能の低下は潰瘍発生とどのように関連するのであろうか?小林は,Shayがその論文で指摘したかったこと,いわゆる,攻撃因子である胃酸と粘液などの防御機構両者との関係を単に計りによる重さのバランスででなく,むしろ対峙した関係にあることを指摘し,Shayの原著では,天秤の針は潰瘍が出来ない方を指しており(Figure 5),なぜ潰瘍が出来ないか,そして粘液,粘液バリアーの存在がその理由であると強調している 51).
Shayによる攻撃因子と防御因子,潰瘍発生との関連(文献51より引用).
IPUDは高率に再発することが報告されている.Watanabeらは自然再発を来すラット酢酸胃潰瘍モデルを用いて検討したところ,interleukin-1β(IL-β)やtumor necrosis factor-α(TNF-α)を外因性に投与すると局所再発することを見出した 52).その機序として,瘢痕局所における好中球とマクロファージが重要な役割を担っており,IL-β,TNF-α,macrophage chemotactic protei-1(MCP-1)発現が増加すること,サイトカインネットワークを介して接着分子発現増加,好中球遊走,好中球から発生する活性酸素や酵素により粘膜上皮傷害を惹起し,潰瘍再発を起こすことが証明されている(Figure 6) 52),53).このような再発機序には胃酸の存在が必須であることを示しており 54),Wongらの酸分泌抑制薬によるIPUD再発予防の臨床試験の結果 36)にも裏付けされる.
潰瘍再発の機序(文献53より改変).
潰瘍発生因子である非ステロイド系抗炎症薬,ストレス,Helicobacter pylori感染は炎症性サイトカイン産生を刺激し,サイトカインは胃酸の存在下でマクロファージを活性化させる.活性化マクロファージはmonocyte chemotactic protein-1(MCP-1)を産生し,さらにマクロファージを集積させる.マクロファージから大量のinterleukin-1β(IL-1β)やtumor necrosis factor-α(TNF-α)が産生され,サイトカインネットワークを活性化,接着分子発現増加と好中球集積・活性化を引き起こす.遊走した好中球は局所で活性酸素やエラスターゼなど壊死惹起性物質,胃酸,血流障害により組織傷害を誘導し潰瘍再発が起こる.
一方,再発を起こさない潰瘍瘢痕とはいかなるものであろうか?荒川・小林は潰瘍の質(QOUH:quality of ulcer healing)の概念を提唱してきた 55),56).QOUHとは瘢痕部の組織学的成熟度を示すものであり,内視鏡評価と機能的成熟度を加味したものである.組織学的には再生上皮における腺管構造,炎症細胞浸潤,肉芽組織内の血管新生・線維化などにより評価され,機能的評価には粘膜血流,ムチン産生,プロスタグランジン濃度,成長因子,細胞増殖などを加味する.内視鏡的には色素内視鏡でflat typeとnodular typeに分けられ,flat typeがより良い組織学的機能的成熟を反映し,潰瘍再発率も低いことから良いQOUHと判断可能である 57).このようにIPUD再発予防の観点からも良いQOUHを導くような治療法が求められる.
特発性胃潰瘍の診断,治療ならびに病態について述べた.酸分泌抑制薬単独では十分な潰瘍治癒効果がみられないことは,病態を考慮すれば粘膜防御因子増強薬などを併用した治療法が必要であろう.本邦からの質の高い臨床試験が望まれる.
H. pyloriが発見され,それまで再発再燃を繰り返す胃潰瘍の深遠な謎を追求してきた多くの研究者が,あっけにとられた.ところが,non-H. pyloriの時代を迎え,NSIADsを除外しても残る潰瘍,すなわち,特発性胃潰瘍が浮き彫りにされた.これは何を物語るのか.逆算すると,胃潰瘍は「症候群」であって,病態解明が進むにつれて,症候群から真打ちだけが絞り込まれてきたのである.ある意味,胃潰瘍研究は今,新たな出発点に立ったのではないだろうか.
本論文内容に関連する著者の利益相反:藤原靖弘(武田薬品工業,アストラゼネカ,EAファーマ,第一三共)