2022 年 64 巻 6 号 p. 1221-1227
症例は72歳女性.1年前に急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)と診断され,化学療法施行中であった.来院1カ月前より全身倦怠感を認め,その後食思不振及び嘔気が出現したため入院となった.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃体部に多発する白色扁平隆起を認めた.Narrow band imaging(NBI)拡大観察では微小腺管構造は不明瞭化し,拡張・蛇行した不整な微小血管の増生を認めた.生検病理結果は胃粘膜表層で腺管構造を破壊しながら浸潤する異型細胞を認め,免疫組織化学染色所見と併せて,白血病細胞の胃浸潤と診断した.化学療法強化後に内視鏡再検し,白色扁平隆起は一部残存するも改善傾向を認めた.AML治療中に胃に髄外病変を来し,詳細な内視鏡観察が施行できた貴重な症例であったため報告する.
A 72-year-old woman was diagnosed with acute myeloid leukemia (AML) and received chemotherapy, 1 year prior to presentation. She was unresponsive to treatment and showed FLT3-ITD and NPM1 mutations; therefore, gilteritinib therapy was initiated at the Department of Hematology of our hospital. She developed generalized fatigue one month before her visit and was admitted to the Hematology Department for evaluation of anorexia and nausea. Esophagogastroduodenoscopy (EGD) revealed diffuse white flat elevated lesions in the gastric body. Histopathological evaluation showed atypical cell infiltration and destruction of the glandular structure of the gastric mucosal surface. Immunohistochemical analysis showed blast cell proliferation similar to the findings on bone marrow aspiration performed previously. Therefore, the patient was diagnosed with gastric infiltration of leukemia cells. EGD performed after intensification of chemotherapy revealed persistent white flat elevated lesions, although these were fewer and showed improvement compared with the previous EGD. We report a case of acute myeloid leukemia gastric infiltration with multiple white flat elevated lesions in the gastric body.
血液悪性疾患の消化管病変としては悪性リンパ腫によるものが代表的であり,白血病によるものは比較的稀である.また,本邦で急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)の髄外病変としての胃病変を内視鏡的に観察した報告は少ない.今回われわれは胃体部に多発する白色扁平隆起を呈し,化学療法にて改善傾向を示したAMLの胃浸潤の1例を経験した.Narrow band imaging(NBI)拡大内視鏡観察を施行しかつ経過追跡し得たため報告する.
患者:72歳,女性.
主訴:食思不振,嘔気.
家族歴:母,くも膜下出血.父,血栓性脳梗塞,腹部大動脈瘤破裂.
既往歴:外傷性右股関節骨折,白内障.輸血歴・手術歴なし.
生活歴:喫煙・飲酒なし.
現病歴:1年前に発熱で当院初診となりAML(FAB分類;M1)と診断,その後他院血液内科に転医してFLT3-ITD及びNPM1変異陽性のAMLと診断された.寛解導入療法としてダウノルビシン+シタラビン療法施行されたが無効であり,以後当院血液内科にてギルテリチニブ投与で加療されていた.来院1カ月前より全身倦怠感を認め,その後食思不振及び嘔気が出現したため,血液内科入院となった.腹痛は認めなかった.
入院時現症:身長152.5cm,体重39.8kg,体温37.8℃,血圧99/56mmHg,脈拍78/分.眼瞼結膜貧血あり,眼球結膜黄疸なし.表在リンパ節触知せず.心肺異常なし.肝脾触知せず.腹部圧痛なし.四肢出血斑なし.
AML診断時及び今回入院時の血液検査(Table 1):1年前のAML診断時の血液検査では白血球が120,700/μlと著明高値を呈し,芽球が85%を占めていた.今回入院時の血液学的検査も白血球が80,300/μlと上昇していたが,末梢血中の芽球は消失していた.無効造血による赤血球及び血小板減少を認めた.

AML診断時・今回入院時・治療強化後の上部消化管内視鏡施行時点における血液検査所見とその変遷.
AML診断時の骨髄検査:過形成性(cellularity 90%以上)で,N/C比の高い芽球様の細胞がmonotonousに増殖している細胞巣を散在性に認めた.増殖細胞は免疫組織学的にはミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase;MPO)が比較的多数の細胞に陽性を示し,CD68(PGM1)やCD163が散在性に陽性,CD3・CD79a・p53・CD34・CD 42b・CD71は陰性であった.塗抹(スメア)標本ではN/C比が高く成熟傾向のない骨髄芽球が多数観察された(Figure 1).細胞表面マーカーはCD33陽性であった.以上の所見からAMLと診断した.

骨髄穿刺塗抹(スメア)標本(May-Giemsa染色;×600).
N/C比が高く成熟傾向のない骨髄芽球が多数観察された.
経過①:嘔気・食思不振はギルテリチニブの有害事象が疑われ,補液及び制吐剤(グラニセトロン塩酸塩)投与にて加療した.入院9日目に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃体部中心に多発する白色扁平隆起を認めたが血小板数が低く観察のみとなった.嘔気症状は改善し自制内となったため入院11日目に退院となり,1カ月後にあらかじめ血小板輸血を行った上で内視鏡を再検した.
上部消化管内視鏡検査所見:白色光観察(Figure 2)では,胃体部中心に大小様々な形状の白色扁平隆起が多発しており,周囲粘膜は点状発赤を伴っていた.背景粘膜の萎縮は目立たなかった.NBI拡大観察(Figure 3)では,微小腺管構造は不明瞭~消失(absent)していた.拡張・蛇行した不整な微小血管の増生を認め,一部網目状に見える部位もあるが一定の傾向はなく,mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫で見られるような樹枝状血管様にも見えなかった.体下部~前庭部大彎の目立つ白色扁平隆起部及び前庭部大彎の隆起を呈さない粘膜からそれぞれ生検を施行した.なお,食道及び十二指腸には特記所見を認めなかった.

a:上部消化管内視鏡(白色光・遠景).胃体部中心に大小様々な形状の白色扁平隆起が多発しており,点状発赤を伴っていた.背景粘膜の萎縮は目立たなかった.
b:上部消化管内視鏡(白色光・近景).

a:上部消化管NBI拡大内視鏡(half zoom像).
b:上部消化管NBI拡大内視鏡(full zoom像).微小腺管構造は不明瞭化・一部は消失していた.
c:上部消化管NBI拡大内視鏡(full zoom像).拡張・蛇行した不整な微小血管の増生を認めた.
生検病理所見(Figure 4):間質優位に核腫大・核形不整・核クロマチン増量などを見る異型細胞の浸潤を認めた.表層で浸潤が強い傾向があり,腺窩上皮がしばしば不明瞭であった.免疫組織化学染色で,上記異型細胞は抗MPO抗体でびまん性に陽性,CD68,CD163で部分陽性を示し,CD20,CD34,CD42b,p53,AE1/AE3,EMA抗体では陰性であった.Ki-67標識率は90-100%であった.免疫染色結果は以前施行された骨髄穿刺で増殖していた芽球細胞とよく類似しており,白血病細胞の胃浸潤と考えられた.隆起を呈さない部位は軽度の炎症細胞浸潤のみで特記所見を認めなかった.また,ヒメネス染色を追加してHelicobacter pyloriは陰性であった.

a:胃病変生検病理像(HE染色強拡大;×200).間質優位に核腫大・核形不整・核クロマチン増量などを見る異型細胞の浸潤を認めた.胃粘膜表層(固有層)の腺管構造を破壊しながらびまん性に浸潤・増殖している像を認めた.
b:胃病変生検病理像(MPO染色;×100).異型細胞はMPOがびまん陽性を示し,白血病細胞の胃浸潤と診断した.
経過②:治療強化のためヒドロキシカルバミド内服を追加し,更にその1カ月後に内視鏡再検したところ,びまん性の白色隆起病変は残存するも一部は消失して改善傾向を認めた(Figure 5).この時の血液検査所見では白血球が41,100/μlと低下傾向を認め,末梢血中に芽球は認めなかった(Table 1).造血幹細胞移植は勧められず,輸血とギルテリチニブ及びヒドロキシカルバミド内服で経過観察する方針となった.

3回目上部消化管内視鏡(白色光).
前回胃体部に認めた白色扁平隆起はわずかに残存するのみで改善傾向を認めた.
AMLの髄外病変はWHO分類 1)でmyeloid sarcoma(骨髄性肉腫,以下MS)と総称されており,顆粒球肉腫granulocytic sarcoma,緑色腫chloromaと同義語である.MSは「骨髄芽球や幼若な骨髄球系細胞からなる髄外腫瘤形成する骨髄増殖性疾患」と定義されているが,症例の中には自験例のように腫瘤形成が明らかでない白血病細胞の浸潤病変もあることから,Daveyら 2)はextramedullary myeloid cell tumorsと呼ぶことを提唱している.「腫瘤」と定義する病変の大きさの基準は存在しない 3)ことから,本症例は「胃MS」ではなく「胃浸潤」とした.
AMLでは皮膚や歯肉などの軟部組織,骨,中枢神経系,リンパ節に髄外病変を来しやすく,消化管への浸潤は稀 4)とされる.Cornesら 5)は白血病全体の5.7%(3.9-10.9%),Barcosら 6)は病理解剖を行った585例のAML患者の11%に胃浸潤を認めたと報告しているが,詳細な頻度は不明である.また,その症状としては腹痛や食思不振,嘔気・嘔吐などの非特異的症状に加え,時に出血や潰瘍形成に伴う穿孔なども来し多彩である 7),8).
本症例はAMLの化学療法中に嘔気及び食思不振を来したため上部消化管内視鏡を施行したところ,Figure 2のように胃体部中心に大小様々な形状を呈するプラーク状の白色扁平隆起が多発している所見を認めた.生検病理像は白血病細胞が胃粘膜表層の腺管構造を破壊しながらびまん性に浸潤・増殖している像を認め,免疫組織化学染色を追加してAMLの胃浸潤と診断し得た.白色扁平隆起部以外の背景粘膜については軽度の炎症細胞浸潤のみであったことから,白血病細胞浸潤は白色扁平隆起部に限局しているものと考えられた.白色扁平隆起部のNBI拡大観察ではFigure 3のように微小腺管構造の不明瞭化・一部消失及び拡張・蛇行した不整な微小血管の増生を認めたことから,前述の生検病理像を反映しているものと考えられた.胃粘膜において炎症免疫反応が誘導された場合,好中球は通常被覆上皮細胞巣直下と腺頸部に浸潤し,浸潤が強い場合は上皮細胞間のみならず腺管周囲に集蔟する 9)とされる.やや光沢を伴ったプラーク状の小隆起を呈する形状に着目すると,顆粒球系をベースとした白血病細胞はこの性質を反映して粘膜表層側に浸潤傾向が強く被覆上皮が伸展されていることが示唆される.また,白色隆起の大小や色調の違いは白血病細胞の量や細胞密度,腺管構造の破壊の程度などを反映している可能性がある.
2021年6月以前を対象に医学中央雑誌にて「急性骨髄性白血病」「胃病変」「myeloid sarcoma」及びPubMedで「acute myeloid leukemia」「stomach」「myeloid sarcoma」をキーワードとして文献検索(会議録を除く)したところ,併せて41編の報告を認めた.そのうち病変の詳細や内視鏡写真が確認できる26例と自験例を併せた27例を検討したところ,年齢の中央値は42歳(23-73歳),男女比は18:9と比較的若年の男性に多く,主症状は腹痛・心窩部不快感が15例(55.6%)と最も多かった.病変の局在については前庭部が1例(3.7%)のみでほとんどが体部から胃底部(胃内全体を含む)に存在していたことから,幽門腺領域より胃底腺領域に病変が出現しやすい傾向が推測された.主肉眼型についてはこれまで腫瘤,過形成性結節,潰瘍,びまん性壁肥厚などを呈し多彩であると報告 10),11)されている.これらに基づいて4つに肉眼型を分類すると,粘膜下腫瘍や決潰型を含む腫瘤形成型が13例(48.1%)と最も多く,ポリポイド型を含む過形成性結節型が8例(29.6%),びまん性壁肥厚型が4例(14.8%),潰瘍型が2例(7.4%)であった.自験例は過形成性結節型に分類され,今回検討した症例の中で同様の多発白色扁平隆起を呈していたものはNackleyら 12)が報告した1例のみであった.それによると,胃全体に粘膜発赤及び白色プラーク状病変が拡がっており,生検病理では白血病細胞が腺管構造を置き換えながら浸潤している所見を認めたとしており,本症例とも一致していた.
NBI拡大観察が施行されていた症例は,噴門部小彎前壁の潰瘍型病変を認めた樋口ら 13)の1例のみであった.それによると潰瘍辺縁の腺管構造は大型・浮腫状に腫大していたが,腺管構造や微小血管の不整はなかったとしている.潰瘍を形成するB細胞性悪性リンパ腫で見られる所見に近い印象で,隆起型を呈した自験例とは肉眼型も内視鏡所見も異なるため,今後更なる検討が必要である.
治療は化学療法が一般的であり,病変が胃に限局している場合は放射線治療が選択されたり,穿孔・出血を来した場合は外科手術が施行される.化学療法により胃病変が縮小・消失したと報告 14),15)されており,本症例も既報の通り化学療法強化により末梢血中白血球数が減少し,胃浸潤病変も縮小傾向を示した.よって治療効果判定の指標としても有用である可能性が示唆された.
本症例はAML治療中に胃に髄外病変を来し,NBI拡大内視鏡を含めた詳細な内視鏡観察が施行できた貴重な症例であった.AML患者では化学療法が優先されることや全身状態不良例も多く,消化器症状を呈しても消化管内視鏡検査を見合わせることもしばしばある.そのため,実際にはAMLの胃病変の頻度はもう少し多いものと推測される.本症例のように白色扁平隆起を呈する病変は稀ではあるが,このような内視鏡像を見た際は本疾患も念頭に置くべきである.報告数が少なくまだまだ不明な点が多いため,今後症例が蓄積されAMLにおける胃病変の病態解明や内視鏡診断の発展が期待される.
今回胃体部に多発する白色扁平隆起を呈し,化学療法にて改善傾向を示したAML胃浸潤の1例を文献的考察を加えて報告した.AML患者が消化器症状を呈した際は消化管への髄外浸潤も念頭に置いて,血液内科と緊密に連携しながら診療にあたる必要があると考える.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし