2022 年 64 巻 6 号 p. 1228-1234
61歳男性.掻痒感,褐色尿を主訴に2020年5月前医を受診した.血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認め,造影CTで遠位胆管~乳頭部に40mm大の腫瘤と上流胆管拡張,主膵管拡張を指摘された.乳頭部癌が疑われるも乳頭部生検や胆管生検で確定診断がつかず,当院へ紹介され,乳頭部腫瘤に対し超音波内視鏡下生検が行われた.病理診断はT細胞性リンパ腫であり,血清抗HTLV-1抗体陽性と組織検体中のHTLV-1 proviral DNA陽性であったことから,成人T細胞白血病・リンパ腫(リンパ腫型)と確定診断された.閉塞性黄疸を契機に十二指腸乳頭部に生じた成人T細胞白血病・リンパ腫を超音波内視鏡下生検で診断でき,適切な治療につなげることができた.
A 61-year-old man presented to another hospital in May 2020 for evaluation of itching and brown-colored urine. Blood tests and contrast-enhanced CT revealed obstructive jaundice secondary to a duodenal papilla tumor, and he underwent endoscopic retrograde cholangiopancreatography. Histopathological evaluation of a biopsy specimen and cytological analysis did not show evidence of malignancy, and the patient was referred to our hospital for further management. The patient was diagnosed with adult T-cell leukemia/lymphoma (ATLL) based on endoscopic ultrasonography guided fine-needle biopsy (EUS-FNB) of the papillary tumor. We report a rare case of ampullary ATLL diagnosed by EUS-FNB, which enabled appropriate treatment.
成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma:ATLL)はHTLV-1感染に伴う稀なT細胞性リンパ腫で,西南日本や中南米,西アフリカで比較的高頻度に発生する.高度の核異型を伴ったリンパ球増殖に伴う白血球増多,リンパ節腫脹,皮膚病変,ATLL細胞浸潤による多臓器障害などが生じる 1).リンパ腫型では全身化学療法が第一選択の治療であり,VCAP(vincristine, cyclophosphamide, doxorubicin, and prednisolone)-AMP(doxorubicin, ranimustine, and prednisolone)-VECP (vindesine, etoposide, carboplatin, and prednisolone)療法が用いられる場合がほとんどである.リンパ腫は閉塞性黄疸を契機に診断されることがあるが,多くは腫大リンパ節による圧排・閉塞であり,十二指腸乳頭部に発生・浸潤するリンパ腫は極めて稀である.今回,閉塞性黄疸を契機に十二指腸乳頭部腫瘤を指摘され,超音波内視鏡下生検(EUS-guided fine needle biopsy:EUS-FNB)が診断と治療方針の決定に有用であったATLLの1例を経験した.
患者:61歳,男性.
主訴:皮膚掻痒感,褐色尿.
既往歴:脂質異常症.
生活歴:機会飲酒,26歳時に禁煙.
家族歴:弟が大腸癌,HTLV-1感染歴なし.
現病歴:2020年5月掻痒感,褐色尿が出現し,血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認めた.造影CTで遠位胆管~乳頭部に40mm大の腫瘤と胆管拡張,主膵管拡張を指摘され,内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)が行われた.乳頭部は発赤腫脹し,口側隆起は正常粘膜に覆われているものの腫脹しており,口側には潰瘍性病変を認めた.乳頭部と潰瘍から生検が行われ,小型の異型細胞を認めた.その後胆管炎を生じ再度ERCPが行われ,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)後の乳頭部・遠位胆管からの生検で異型上皮細胞が,口側の潰瘍からの生検でリンパ球浸潤を伴う異型細胞を認めた.しかしいずれの生検からも確定診断がつかず,精査ならびに手術適応の評価目的に当院へ紹介された.
当院初診時現症:170.1cm,71.5kg.PS 0.皮膚黄染や皮疹なし.表在リンパ節触知せず.体表や腹部にも特記すべき所見はなかった.
血液生化学検査(当科初診時):白血球やリンパ球増多はなかったが,ATLL様の異常リンパ球を1.0%認めた.追加検査を行ったところ抗HTLV-1抗体陽性であり,可溶性IL-2受容体3,079mg/dLと高値であった.肝胆道系酵素,総ビリルビン上昇を認めた.LDHは正常範囲内であり,カルシウム上昇はなかった.CEA,CA19-9は正常範囲内であった.
前医初診時CT/MRI(Figure 1):遠位胆管~乳頭部に4cmの漸増性に弱く増強される腫瘤を認め,胆管拡張・胆囊腫大を伴っていた.主膵管は乳頭部で圧排・浸潤により狭窄しており,尾側の主膵管拡張を伴っていたが実質の萎縮はなかった.乳頭部領域以外に有意な腫瘤形成やリンパ節腫大,遠隔転移を示唆する所見はなかった.
前医初診時CT/MRI(胆管ステント留置後).
遠位胆管~乳頭部に漸増性の弱い増強される4cmの腫瘤あり,肝門部側胆管や肝内胆管は拡張していた.主膵管は膵頭部で狭窄し,尾側主膵管は拡張していた.
前医ERCP(Figure 2):乳頭部には軽度の発赤腫脹があり,口側隆起は正常粘膜に覆われているものの大きく腫脹していた.十二指腸球部~上十二指腸角に潰瘍性病変が散在し,口側隆起の口側にも活動性の潰瘍性病変を認めた.造影では主膵管は開口部近くで圧排・狭窄し,尾側の主膵管は拡張蛇行していた.遠位胆管に30mm程度の狭窄を認め,肝門部側の胆管は拡張していた.
前医ERCP.
a:乳頭部は発赤腫脹し,口側隆起は正常粘膜に覆われているものの腫脹していた.
b:腫脹した口側隆起(矢印)の口側にも活動性潰瘍を認めた.
c:遠位胆管に30mm程度の狭窄像あり,肝門部側胆管や肝内胆管は拡張していた.
EUS-FNB(Figure 3):乳頭部に長径30mmの低エコー腫瘤を認め,内部に点状・線状の高エコーが混在しており不均一となっていた.腫瘤内に胆管ステント留置中で上流胆管は拡張し,内側低エコー層のびまん性肥厚と胆泥貯留を認めた.主膵管は腫瘤内では同定できず,尾側主膵管は最大12mmと拡張していた.十二指腸固有筋層より浅層(あるいは腸管内腔側)に非露出型の3cm大の腫瘤を乳頭部に認め,そこから遠位胆管に一部浸潤する形で進展しているよう描出されたこと,膵実質への進展がわずかであったことから,非露出腫瘤型の乳頭部腫瘍と診断した.十二指腸下行部より22G フランシーン形状針(SonoTip TopGain,メディコスヒラタ社,大阪)で2回EUS-FNB(吸引圧:20mlシリンジ,ストローク:15回)を行った.迅速細胞診(rapid on-site evaluation:ROSE)では異型の乏しい多数のリンパ球を認めた.
EUS-FNB.
a:乳頭部に長径30mmの低エコー腫瘤あり(矢印),内部に点状・線状の高エコーが混在しており不均一となっていた.
b:主膵管は腫瘤内では同定できず,尾側主膵管は最大12mmと拡張していた(矢頭).
病理(Figure 4):異型のない円柱上皮で覆われた粘膜の間質に,小型類円形核を持つリンパ球が浸潤していた.浸潤するリンパ球に特定の配列傾向はなく,酵素抗体法で浸潤するリンパ球はCD3(+),CD4(+),CD5(+),CD8(-),CD20(-),CD79a(-),CD56(-),TIA-1(-),Granzyme B(-)であった.CCR4は約70%に陽性であった.
病理組織検査.
異型のない円柱上皮で覆われた粘膜の間質に,小型類円形核を持つリンパ球が浸潤していた.浸潤するリンパ節に特定の配列傾向はなく,酵素抗体法で浸潤するリンパ球はCD3(+),CD4(+),CD5(+),CD8(-),CD20(-),CD79a(-),CD56(-),TIA-1(-),Granzyme B(-)であった.CCR4は約70%に陽性であった.
HTLV-1 DNA(サザンブロット法):採取組織のHTLV-1 proviral DNAは陽性で,HTLV-1のクローナルな増殖が確認された.
経過:当院初診時の血液検査でATLL様の異常リンパ球を認めたこと,HTLV-1抗体陽性であったこと,可溶性IL-2受容体も高値であったことから成人T細胞白血病・リンパ腫の可能性が示唆された.その場合は外科的な治療ではなく化学療法が第一選択治療法であることから,外科的切除を回避するために術前の診断が必要と判断した.前医で複数回生検が行われるも確定診断がついておらず,EUS-FNBを行った.病理診断はT細胞性リンパ腫であり,HTLV-1感染で認められるCCR4が陽性かつ組織検体中のHTLV-1 proviral DNA陽性であった.他院でのPET-CTでも乳頭部領域以外に有意な腫瘤形成やリンパ節腫大はなかった.以上より,胆管癌乳頭部浸潤との鑑別は外科切除が行われていないため不可能であるものの,乳頭部原発の成人T細胞白血病・リンパ腫(リンパ腫型)と確定診断した.その後加療目的に他院へ紹介され,寛解導入療法であるVCAP-AMP-VECP療法後に,同種造血幹細胞移植が行われた.
消化管原発リンパ腫は胃が好発部位であり 2),十二指腸原発リンパ腫は7.1-7.7%とされる 3),4).消化管原発リンパ腫全体のうち80-90%はB細胞性リンパ腫であり,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)や粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue:MALT)リンパ腫が多く,1-3.8%が濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)で低頻度とされる 5).一方で十二指腸原発リンパ腫ではFLが41.1%と最多であり,DLBCL 32.8%,MALT 13.8%,T細胞性リンパ腫は2.6%とされる 3).悪性リンパ腫により生じる閉塞性黄疸は全体の0.6%であり,腫大リンパ節の圧排により閉塞を来す場合が多い 6).十二指腸乳頭部に発生・浸潤したリンパ腫による閉塞性黄疸は,MALTリンパ腫やBurkittリンパ腫などで報告されている 7)~9).しかし,PubMedで「adult T cell lymphoma」「obstructive jaundice」「ampullary」あるいは「papilla」,医中誌で「成人T細胞白血病」「閉塞性黄疸」「乳頭部腫瘍」をキーワードとして組み合わせ検索したが,ATLLによる閉塞性黄疸はなかった.
乳頭部腫瘍に対する超音波内視鏡検査(EUS)の有用性は多数報告されており,存在診断や進展度診断の精度は高い 10)~12).しかしながら,乳頭部のリンパ腫に対するEUS所見の有用性について評価されたものはない.本症例では内部エコーが不均一で点状・線状の高エコーが混在していた.これは腫瘍内部の性状を反映しているとも考えられるが,プローブ接着面の凹凸や構造的不均一性の影響なども否定できず,EUS所見と乳頭部のリンパ腫との関連は今後の検討が必要と考える.また本症例では十二指腸の潰瘍性病変や胆管からの複数回の内視鏡下生検で診断がつかず,ROSEを併用した乳頭部腫瘍からのEUS-FNBで診断可能であった.乳頭部腫瘍は内視鏡下生検で診断可能である場合が多いが,悪性リンパ腫は上皮性変化に乏しく十分量の病巣組織採取ができない場合や,リンパ増殖病巣との鑑別が困難な場合があることが一因と考えられる.超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)の報告例は少数であるが,DeFrainらより35人に対し88.8%,Oguraらより10人に対し100%とそれぞれ良好な診断精度が報告されている 13),14).乳頭部腫瘍が小さい場合はEUS-FNAでは穿刺困難であり,経過観察あるいは完全生検目的に内視鏡的乳頭切除術が行われる.本症例のように病変のサイズが大きく安全な穿刺が可能であり,複数回の生検でも診断困難な場合は実施を検討してよいかもしれない.
消化管リンパ腫は外科的切除と比較し化学療法・放射線治療の効果が同等以上とされており,消化管閉塞や穿孔,出血,腫瘍崩壊症候群が危惧される場合や,一部の病型で腫瘍が限局している場合にのみ外科的切除が第一選択となる 15),16).外科的治療が第一選択となる乳頭部癌と異なり,ATLL(リンパ腫型)では全身化学療法の適応となる.またATLLは高悪性度リンパ腫で進行も早く,今回の症例で外科的切除が優先されていた場合,患者への侵襲が大きいばかりでなく,病状が進行し生命予後に関わる可能性もあった.迅速な確定診断が得られ,適切な治療を選択しえた点において,EUS-FNBが非常に有用であった.
閉塞性黄疸を契機に診断された十二指腸乳頭部ATLLの1例を経験した.
謝 辞
画像所見を提供頂いた佐藤第一病院消化器内科 吉田加奈子先生,治療方針をご指導頂いた別府医療センター血液内科 緒方優子先生に心より感謝申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし