日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
Endoscopic injection sclerotherapyにおけるRed dichromatic imagingの有用性(動画付き)
古市 好宏 加藤 博之糸井 隆夫
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電子付録

2022 年 64 巻 6 号 p. 1251-1261

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要旨

赤色光観察(Red dichromatic Imaging:RDI)は比較的長い二つの波長を用いて深部血管の視認性を上昇させる新しい画像強調内視鏡技術である.これを用いることで,食道静脈瘤の視認性が上昇し,その具合で静脈瘤の深さが予見できる.また,RDIによって内視鏡的硬化療法時に確実な静脈瘤内硬化剤注入や出血点の早期発見が可能となり,術後の静脈瘤再発率,治療時間の改善に繋がる.

Abstract

Red dichromatic imaging (RDI) is a novel image-enhanced endoscopic technique that uses two relatively long wavelengths to improve visualization of deep-seated blood vessels. RDI improves visibility of esophageal varices and facilitates accurate prediction of the depth of the varices. Additionally, RDI enables intravariceal injection with a high success rate on endoscopic injection sclerotherapy and early detection of bleeding points during treatment, which are associated with reduction in postoperative recurrence rates of esophageal varices and shortened treatment time.

Ⅰ はじめに

赤色光観察(Red dichromatic Imaging:RDI)は2020年にオリンパス社より発売された新しい画像強調内視鏡技術である.RDIは内視鏡治療中の出血リスクを軽減することを目的に開発され,深部血管の視認性を向上させることが可能である.内視鏡光源から照射された光のうち,比較的長い二つの波長(595-610nm,620-640nm)の血管内吸収差を利用している.食道静脈瘤は門脈圧亢進症によって生じる血管性病変であり,主に粘膜下層(一部は粘膜層)に存在する.従ってRDIを用いることで視認性が向上し,その程度によって静脈瘤の深さを予測することが可能と考える.また,これによって,内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)時に静脈瘤内硬化剤注入成功率(Intraインジェクション成功率)が上昇し,静脈瘤再発率低下に繋がる.更に,RDIはEIS治療中の出血点を見えやすくし,治療時間も短縮する.本稿ではRDIを用いたEIS手技にポイントを当てて解説する.

Ⅱ 内視鏡関連機器

これまでわれわれが臨床研究にて用いてきたRDI機器は正式発売前のプロトタイプである.内視鏡光源はオリンパス社製EVIS LUCERA ELITE CLV-Y0026(薬事番号:225ABBZX00183000),内視鏡スコープはGIF-Y0043(薬事番号:223ABBZX00070000)を使用してきた.日本における2010年7月の正式販売以降は(欧州では2月発売),RDI機能はEVIS X1 CV-1500光源装置に搭載され,専用の内視鏡スコープは不要となった.現在,当科では主に同光源とGIF-H290Zを用いて静脈瘤診断治療を行っている.また,超音波内視鏡装置はオリンパス社製EVIS EUS EU-ME2 PREMIER PLUS,超音波プローブはUM-G20-29Rを使用している.そして,静脈瘤穿刺針はトップ社製23G(もしくは25G)バリクサー穿刺針Cタイプを使用し,後述するようにRDIによる静脈瘤視認性変化によって針長を調節している.尚,この穿刺針は1mm~7mmまで長さ調節が可能である.硬化剤はモノエタノールアミンオレイン酸塩(EO:オルダミン,あすか製薬)を使用し造影剤と1:1の割合で混和させ5%液を作成し,限界使用量は0.4mL/体重㎏としている.尚,Paraインジェクション用のエトキシスクレロールは当科では使用していない.

Ⅲ RDIの原理

EVIS X1 CV-1500光源の白色光(WLI:white light imaging)は,紫・青・緑・アンバー・赤の5色の波長を照射することで成り立っている.それに対しRDIは,緑(520-550nm)・アンバー(595-610nm)・赤(620-640nm)の3色の波長のみを照射する.深部血管内のヘモグロビンにてアンバー色の波長は強く吸収されるが,赤色はほとんど吸収されない.結果,アンバー色は深部血管で反射せず,一方赤色はほぼ反射する.この反射光をスコープ先端のCCDで捉え,その反射光の差を画像処理することによって深部血管の視認性が上昇する(Figure 1).オリンパス社が実施した動物実験では,表皮から1.2mmの深さに位置する血管の視認性が最も上昇した.

Figure 1 

Red Dichromatic imagingの原理.

WLI=white light imaging.

Ⅳ RDIによる食道静脈瘤の視認性変化と深さの予測

われわれは以前,プロトタイプRDIによる食道静脈瘤の視認性変化について超音波内視鏡の観点から検討した 1.盲検者5人による読影判定にて,RDIは静脈瘤の視認性を有意に上昇させることが明らかになった.また,(表皮から0.2~0.8mmまでの)浅い静脈瘤ほど視認性が有意に上昇し,視認性スコアと深さには負の相関関係がえられたが(r=-0.505,p=0.001)(Figure 2),静脈瘤内腔径は視認性変化度と相関しなかった(p=0.59).この結果を踏まえてわれわれは,RDIによる視認性変化度に応じてEIS時の穿刺針長を追加調整することで,Intraインジェクション成功率が向上するのではないかと仮説を立てた.

Figure 2 

Red Dichromatic imagingによる食道静脈瘤視認性変化.

Red Dichromatic imagingにより浅い静脈瘤は赤色に変化し,深い静脈瘤は青白色へ変化した.

当科における超音波内視鏡の方法を以下に記す.WLIやRDIによる静脈瘤観察の後,胃内まで挿入し,脱気する.超音波プローブを胃内で出した後,一旦内視鏡内に収納しておく.ジェット内視鏡送水口より脱気精製水を幽門部から送水する(この際送気機能をオフにしておく).脱気・送水しつつ穹窿部までスコープをゆっくり引いてくる.穹窿部は特に空気が溜まりやすいため,念入りに脱気しつつ,食道中部まで送水しつつスコープを引き戻す.そして素早く内視鏡バルーンを20mL膨らませる.超音波プローブを出し,エアーは脱気しつつ,超音波画像と内視鏡画像を12時方向で位置合わせを行う.そして静脈瘤深さ,内腔径,傍食道静脈,壁在傍食道静脈,貫通血管を計測する.測定終了後は内視鏡バルーンを脱気し,精製水をすべて吸引する(実際の動画はEIS手順の項にて後程供覧する).

Ⅴ RDIによるEIS Intraインジェクション成功率の向上

RDIによりEIS時のIntraインジェクション成功率が上昇するかどうかWLI群とのランダム化比較試験を行った 2.尚,本研究において超音波内視鏡の情報は術者には知らせていない.

食道静脈瘤はRDIにより視認性変化するのは上記の通りだが,浅い静脈瘤は赤色へ,そして深い静脈瘤は青白色へ変化する(Figure 2).穿刺針は,23Gバリクサー穿刺針Cタイプ(針長調節型)を使用し,WLIによる通常観察にて静脈瘤の大きさに応じて穿刺針長を術者の主観で決めておく(1~6mm).そして,RDI群においては視認性変化に応じて針長を追加した.視認性が上昇する場合(赤色変化)は浅い静脈瘤のため追加針長は0mmとし,視認性が低下する(青白色変化)場合は深い静脈瘤のため追加針長は2mmとし,中間色の場合は1mm追加とした.当科におけるEISプロトコールはFigure 3の通りである.入院翌日に1セッション目のEISを開始し,何カ所か穿刺する.ただし,被検者の身体的負担を考慮し,最大でも(1セッション当たり)8カ所穿刺までとしている.被検者は仰臥位にさせ,穿刺後逆血を確認し,約0.5mLの硬化剤を注入する.そして,透視画像にてIntraインジェクション(電子動画 1)かParaインジェクション(電子動画 2)かを判定する.必ず透視画像を撮影しシャッターを切ってから透視台操作者がその画像を見て即座に判定する.透視台操作者が非医師の場合は,(EOを注入している)第一助手がそれを判定する.大事なことはメイン術者が内視鏡モニターから目を離さないことである(筆者は内視鏡モニターと透視モニター両方を見ることも多いが,透視画像に気を取られると体の軸がずれてしまい,穿刺針が逸脱するので注意が必要である).また,穿刺部位を必ず7時方向に持ってくること,その際内視鏡スコープをたわませず,体の回転にて位置を調節することが重要である.そして,内視鏡操作部は胸のあたりで固定し,脇を締め,角度は90度のままにしておく.そうすることで,右手を離してもスコープがずれにくくなる.当科でのEIS手順については後述するので参考にしてほしい.第1セッションEIS終了1週間後に内視鏡検査を行い,静脈瘤が残存している場合はそのまま第2セッションEISを行う.長期入院にならないよう,計3セッションまでに留めておいている.尚,EIS全行程終了後3カ月以内にアルゴンプラズマ凝固法を実施するようにしている.

Figure 3 

内視鏡的硬化療法プロトコール.

入院翌日にEISの1セッション目をスタートし,3セッション以内に全症例が退院となる.1セッションあたりのIntraインジェクション狙い穿刺回数は8回を上限としている(Paraインジェクションによる地固めを除く).

電子動画 1

電子動画 2

本研究にて,第1セッションにおける第1穿刺時のIntraインジェクション成功率はRDI群にて有意に高かった(80.0% vs. 46.2%,p=0.018).また,第1セッションEIS全穿刺中のIntraインジェクション成功率もRDI群で有意に高かった(67.6% vs. 46.0%,p<0.001).静脈瘤累積再発率はRDI群にて有意に低く(p=0.031),RDIがEIS時のIntraインジェクション成功率を上昇させ再発率低下に繋がることが実証された.この時,術者が選択した穿刺針長を縦軸に設定し,静脈瘤深さ+内腔径を横軸に設定すると,ピアソン相関係数がRDI群においてWLI群より高かった(0.844 vs. 0.684).更に,全症例から第一穿刺Intraインジェクション成功例と不成功例を群分けし,相関係数を再測定すると,成功群において不成功群より高かった(0.852 vs. 0.636) 2.以上のことから,RDIによって術者が穿刺針長をより適切に調節でき,それがIntraインジェクション成功率上昇に繋がったものと考えられた.

Ⅵ RDIはEIS後の全生存率を向上させるか

2014年から2020年の間にEISを行った129例に関してRDI併用EISが静脈瘤治療後の全生存率を改善するかどうか,また全生存率に関わる予見因子を検討した 3.全症例の解析ではRDI群とWLI群のEIS後全生存率に有意差はなく(Figure 4-a),背景因子をプロペンシティスコア(PS)マッチングで統一化した解析(78例)においても有意差を認めなかった(p=0.193)(Figure 4-b).ただ,EIS後食道静脈瘤再発率は全症例解析でもPSマッチング後解析でもRDI群で有意に低下した(p=0.004,0.002)(Figure 4-c,d).これは,前述した前向き比較試験を支持する結果となった.

Figure 4 

内視鏡的硬化療法後の全生存率と再発率(文献より引用改変).

a:全症例における内視鏡的硬化療法(EIS)後の全生存率の比較.

b:プロペンシティ(PS)スコアマッチング後の全生存率の比較.

c:全症例におけるEIS後の食道静脈瘤再発率の比較.

d:PSスコアマッチング後の食道静脈瘤再発率の比較.

多変量解析にて全生存率に関する予見因子は,AST値,Child-Pughスコア,入院期間であり,RDIは含まれなかった.一方,静脈瘤再発に関わる因子は,RDI,静脈瘤内腔径であった.以上のことから,RDIはEIS後食道静脈瘤再発率を低減させるが,生命予後改善には繋がらないことが判明した.

Ⅶ RDIはEIS治療時間を短縮させるか

また,われわれはEIS治療を行った155例(RDI群:70例,WLI群:85例)に対して,RDIがEIS治療時間を短縮するかどうか後ろ向きに調査した.初期の段階にEISが施行された60例については,手技ビデオが保存されていたため,24例(RDI群:12例,WLI群:12例)を登録順に抽出し,EIS第1セッション中の各手順(ステップ)時間を両群で比較した 4.EISにおける1穿刺の手順は大まかに7ステップに分けられる.1.挿入時静脈瘤観察,2.胃内で穿刺針をフラッシュ,3.穿刺する静脈瘤を7時方向に持ってくる,4.穿刺後保持,5.抜針時出血部位確認,6.内視鏡装着バルーンによる圧迫止血,7.止血後観察である(Figure 5).

Figure 5 

内視鏡的硬化療法における静脈瘤1穿刺に要する手順(文献より引用改変).

静脈瘤1穿刺に要する動作は,大まかに7手順に分類できる.

その結果,EIS1セッションにかかる時間は35.1±12.0分 vs. 42.2±13.3分で,RDI群で有意に短縮していた(p<0.01).尚,EIS治療時間に関わる予見因子について多変量解析を行うと,RDI,アルブミン値,EO使用量が抽出された.また,EIS穿刺における各ステップ時間について比較すると,挿入時静脈瘤観察,抜針時出血部位確認における時間がRDI群で短縮していた(Table 1).このことから,RDIはEISにおいて,(穿刺出血前,出血後に関わらず)静脈瘤観察時間を特に短縮することが判明した.

Table 1 

EISにおける食道静脈瘤1穿刺に要する時間(文献より引用改変).

Ⅷ RDIは静脈瘤出血部の視認性を改善する

前述したビデオ24症例のうち,EIS治療中に抜針後出血したRDI群7例について,出血点と凝血塊の色差,出血点と周囲粘膜の色差をCIE(L*a*b*)測定にて算出し,WLI使用時と比較した 4.色差は⊿E=[(⊿L*2+(⊿a*2+(⊿b*21/2の式で算出し,L*a*b*値測定にはAdobe Photoshop CS3 Extended 10.0.1software(Adobe Systems, San Jose, CA, USA)を使用した.Figure 6に示す通り,出血点(△),凝血塊(□),静脈瘤背景粘膜(〇)を各症例で設定し,出血点-凝血塊間色差[⊿E(A)],出血点-背景粘膜間色差[⊿E(B)]を計算した.いずれの症例もWLIに比べRDIにおいて色差が上昇した.これはRDIによって出血点がより見えやすくなったことを意味する(凝血塊や背景粘膜に比べて出血点が目立つことを意味する).RDIによりEIS抜針後の出血点が見えやすくなる実際の動画を添付する(電子動画 3).WLIでは出血点の視認が困難であるが,RDIでは出血点が見えやすくなっているのが分かる.一方,Narrow Band Imagingでは出血点の視認性が低下した.RDIにて視認性が向上する理由は,出血点と周囲凝血塊におけるヘモグロビン濃度差にある.出血点ではヘモグロビン濃度が高くアンバー色波長(595-610nm)が高率に吸収され,赤波長(620-640nm)は吸収されず残存する.一方,洗浄水で薄まった凝血塊ではヘモグロビン濃度が低く,アンバー色があまり吸収されない.その結果,出血点は赤オレンジ色,凝血塊は黄色に変色し,出血点が強調されるようになる.

Figure 6 

出血点の色差変化(文献より引用改変).

内視鏡的硬化療法中の抜針時の出血点の色差変化をRDIとWLIで比較した.△は出血点,□は凝血塊,〇は静脈瘤背景粘膜を示す.上段がWLI,中段がRDIによる内視鏡像,下段が色差値を表す.出血点-凝血塊間色差をΔE(A),出血点-背景粘膜間色差をΔE(B)とした.

全症例(1~7)において,ΔE(A),ΔE(B)ともに,RDI使用時で高値を示した.

電子動画 3

RDIには凝血塊を透き通らせ周囲粘膜を見えやすくする効果もある(透過効果).電子動画 4は血液(凝血塊の一部)がやや残存した状態で静脈瘤を穿刺しようとしている.WLIでは凝血塊に遮られて静脈瘤が見えにくいが,RDIでは透過効果により静脈瘤が視認しやすくなっている.これは洗浄後のヘモグロビン濃度が低い凝血塊(薄い血液)で顕著となる.ヘモグロビン濃度が低い凝血塊ではアンバー色波長と赤色波長が吸収されず,その下に存在する粘膜(静脈瘤)まで届くためである.EIS治療中はどれだけ洗浄しても,血液成分の一部が残存することが多く,特に中部食道の3時~5時方向には薄い血液が貯留しやすいため,RDIは非常に有効になる.

電子動画 4

Ⅸ 当科におけるRDIを用いたEIS手順

前述したRDIを用いたEIS解説動画を参考にして(電子動画 5)以下の手順を読んで頂きたい.また,COVID-19流行下では個人用防護具による感染対策が必要となる(この時はRDIを用いずWLIにてEISを施行した)(電子動画 6).

電子動画 5

電子動画 6

まず,先端フードを装着することを推奨する.当科ではスリット&ホール排水溝が付いたエラスティックタッチF-010型(トップ社)を使用している.理由としては以下の3点である.1.先端フードにて穿刺針が内腔側に角度付けされ,穿刺点が内視鏡画面内に収まりやすくなる.2.バルーン圧迫で止血困難な症例の場合,フードによるピンポイント止血が可能である.3.穿刺点の予見がしやすくなり,静脈瘤穿刺点とスコープの距離確保が容易になる.また,内視鏡バルーンについては,クリエートメディック社の6cmバルーンが望ましい.これより小さいバルーンを使用すると,EIS時に安定しにくく,また止血も困難である.ジェット機能が搭載されていないスコープの場合は9.8mm径のバルーンを,ジェット機能搭載の場合は11mm径を推奨する.またバルーン装着時には,バルーンとスコープをアルコールでしっかり濡らしておくと摩擦係数が減り,スムーズである.

① 内視鏡挿入後,RDI機能にて食道静脈瘤を観察する.RDIには3つのモードがあり,モード1は凝血塊透過効果に優れ,モード2は静脈瘤視認性上昇効果に優れている.そのため,挿入時の観察ではモード2を用いている.尚,モード3は静脈瘤以外の細い血管の視認性も向上させてしまうため,当科では用いていない.尚,この静脈瘤観察は2分以内で行うのが望ましい(Table 1).送気機能はCO2を使用し,観察時に一度は食道内を十分膨らませ,それでも形態が隆々としている静脈瘤を第一穿刺に選択するようインスペクションを行う.

② 次に超音波内視鏡検査を行う.詳細な方法は前述の通りであるが,5分以内(長くても10分以内)に終了させることがポイントである.そうしないとEISを行う際に腸管蠕動を誘発させることになる.

③ 胃内の精製水やエアーを吸引しつつ,被検者を仰臥位にし,透視台の位置を合わせる.そして胃内で穿刺針を出し,針の長さを調節し,針内をEOでフラッシュする.その後,穿刺針は内視鏡先端部まで収納しておく.尚,穿刺針サイズの選択であるが,超音波内視鏡にて静脈瘤内腔径が2mm以上の場合は23G針を用い,それ以下の場合は25G針を用いている.23G針への注入には10㏄シリンジを使用し,25G針の場合には2.5㏄シリンジを使用している(針内腔が小さく抵抗が強いため).尚,ロック付きシリンジを推奨する(手順③の動作は30秒以内で行う).

④ RDIモードは1に設定する.エアーを吸引しながら,第一穿刺したい静脈瘤の場所までスコープを引き抜き(第一穿刺のポイントは挿入時観察もしくは超音波検査の時点で決めておき,切歯から何cm・何時方向に存在するか覚えておく),穿刺したい静脈瘤を7時方向へ回転させる.その際にスコープを右手でたわませたりせず,体の軸回転を使用しスコープはストレートのままで位置合わせする.理由としては,大腸内視鏡操作時のように右手でスコープを捻ってしまうと,穿刺時に右手をスコープから離した際に軸がずれてしまうからである.従って,左手だけで静脈瘤が7時方向に位置合わせできるよう訓練が必要である.そのためには脇を閉め,肘の角度は90度にし,左手と操作部は胸前からずらさないようにする.特に3~5時方向に存在する静脈瘤を7時方向へ位置合わせするのが難しく,その際には術者は被検者(透視台)に対して背中を向けた状態になる.また,仰臥位ではこの方向は血液が貯留しやすいため,RDIが非常に有効である.

⑤ 7時方向へ静脈瘤を位置合わせすることが出来たら,透視で確認しながら内視鏡バルーンを膨らませる.当科で使用しているバルーンは最大40㏄まで空気注入可能であるが,操作安定性を高めるには20~25㏄が良いと思われる.これで安定しない場合には計30㏄まで注入し,それでも安定しない場合はオーバーチューブを併用することも考慮する.

⑥ 内視鏡バルーンを膨らませたら再度,静脈瘤を7時の方向に微調整し,静脈瘤の走行に平行に穿刺する.穿刺角度は20~30度が良い.静脈注射と同様で垂直(90度)に針を刺すと血管内注入に失敗する.蠕動や呼吸変動で穿刺位置が安定しない場合はバルーン量を調節し,また先端フードをやや静脈瘤側で押し当ててみる.それでも安定しない場合はオーバーチューブの併用も考慮する.穿刺時は送気を行わない方が安定する.送気の必要がある場合は穿刺直前の1秒に留める.手順④~⑥までを計2分以内で行う(遅くても3分以内).この一連の動作をスムーズに行えるかどうかがEISにおける一番のポイントである.

⑦ 穿刺後は逆血を確認し,逆血がない場合は更に押すか引くかして微調整してみる.ただし,内腔径が2mm以下の静脈瘤では細すぎるため逆血はほとんど見られないので注意が必要である.まずはEOを0.5mL注入し,IntraインジェクションかParaインジェクションか確認する.判断がつかない場合はEO注入と同時に透視シャッターを切って,透視写真にて判定する.外で透視台操作をしている医師がその判定をすることが望ましい.

⑧ Intraインジェクションに成功した場合は,穿刺状態を保持しつつEO注入を追加する.呼吸変動に合わせて穿刺針を出し入れしながら距離を調節すること,そして穿刺針を押し付けて外筒まで静脈瘤内に挿入させないことが肝要である.第一助手がEO注入を担当し,供血路(主に左胃静脈)が描出されるように圧をかけて注入する必要がある.EOが貫通血管や門脈肺静脈吻合側へ流出する場合には無水エタノールを1.0mL注入し,これらの側副血行路を硬化させる.そして再度EO注入を再開する.当科では無水エタノール最大使用は2回までに制限している.また,EOが門脈まで到達しないように注意する.透視画面上で,脊椎(胸椎もしくは腰椎)患者左側までに留めておくのが良い(患者右側まで注入するとEOが一気に流れて門脈へ誤注入することになる).

⑨ Intraインジェクションの状態を出来る限り保持し,左胃静脈以外の供血路が描出されるようになれば(もしくは左胃静脈描出を3分持続できれば),抜針動作に移る.まず,内視鏡バルーンを脱気し,内筒を収納する.そして外筒でやや圧迫し,その後に外筒を抜く.出血点を内視鏡で確認し,透視画面上の内視鏡先端部をマークする(もしくは助手に透視画面上の内視鏡先端部を指し示してもらう).胃内(幽門部)まで内視鏡を挿入し,脱気しつつ,引き抜きながら出血点をバルーン最大面によって圧迫止血する.バルーン空気容量は15~20㏄で十分である.バルーン圧迫位置がずれないように,マウスピースに近い部分で(マウスピースに触れながら)右手でスコープを保持する.3分の圧迫後バルーンを脱気し,出血が続いていた場合は再度3分圧迫を追加するか,もしくは先端フードにてピンポイント圧迫止血を行う.

⑩ 止血終了後は穿刺部を観察し,必ず内視鏡画像を記録しておく.同じ条の静脈瘤穿刺を防止するためである(同じ条の静脈瘤でも口側と食道胃吻合部付近では形態が異なるため,初学者では往々にして同じ条の静脈瘤を穿刺することがある).

以上,①~⑩の行程が,静脈瘤1穿刺にかかる動作である.当科での平均時間はTable 1の通りであるが,1穿刺に約12分を要する.4条の静脈瘤に対して全4穿刺施行したと仮定すると,12×4=48分を要する.以上のことから被検者の負担を考えても,1セッションあたり4穿刺以内(多くても5穿刺)に留めておくのが良いと考える.

静脈瘤内が十分に硬化されブロンズ化している場合には,当科では最後のセッションに(APCとは別に)Paraインジェクションによる地固め治療を行っている.食道胃吻合部から5cm口側まで全周性に20カ所穿刺しているが,その際に透視画像を見ながら隙間なく穿刺注入するのがコツである.

Ⅹ 最後に

EISには様々な手法があり,当科では高瀬らが提唱した方法を基本としている 5.RDIを用いることで,静脈瘤の視認性が良くなり,残存凝血塊を透過しEIS穿刺に非常に有用である.また出血点の視認性も向上する.しかし,リリース版はプロトタイプ版に比べ画像がやや暗く遠方の視認性が弱い印象をうける.今後,数多くの施設で実際に使用して頂き,EIS治療におけるRDIの有用性を検討して頂ければ幸いである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:糸井隆夫(ガデリウス・メディカル株式会社,ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社,株式会社メディコスヒラタ,旭化成ファーマ株式会社,オリンパス株式会社,大鵬薬品工業株式会社)

補足資料

電子動画 1 Red Dichromatic imagingを用いたIntraインジェクション.

Red Dichromatic imagingを用いた内視鏡的硬化療法でIntraインジェクションに成功している.

電子動画 2 White light imagingによるParaインジェクション.

穿刺後,硬化剤注入したところ一部はIntraインジェクションに成功したが,その後すぐに静脈瘤外注入(Paraインジェクション)となっている.

電子動画 3 Red Dichromatic imagingによる出血点の視認性変化.

硬化療法における抜針後出血の症例である.WLIでは出血点は分かりにくいが,RDIでは出血点がオレンジ色,凝血塊が黄色へ変色し,出血点の視認性が上昇した.一方,狭帯域光観察(Narrow Band Imaging:NBI)では視認性が低下した.

電子動画 4 Red Dichromatic imagingによる残存血液透過効果.

内視鏡的硬化療法中の穿刺時の動画を供覧する.WLIでは残存血液により穿刺部の静脈瘤が見えにくい.しかしRDIでは残存血液が透過され,静脈瘤が見えやすくなった.

電子動画 5 Red Dichromatic imagingを用いた内視鏡的硬化療法および超音波内視鏡検査法.

当科における超音波内視鏡検査法とRed Dichromatic imagingを用いた内視鏡的硬化療法の実際の動画を供覧する.硬化剤中の造影剤濃度がやや薄いため,透視画像はシャッターを切って確認した.ナレーション付き.

電子動画 6 COVID-19流行下における内視鏡的硬化療法.

COVID-19流行下にて個人用防護具による感染対策をしつつ治療を行っている.提示した動画ではWhite light imagingを用いて超音波内視鏡検査および内視鏡的硬化療法を行っている.ナレーション付き.

文 献
 
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