日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
資料
日本の三次医療機関における組織学的診断のための超音波内視鏡下穿刺吸引法による有害事象:多施設共同後ろ向き研究
菅野 敦 安田 一朗入澤 篤志原 和生蘆田 玲子岩下 拓司竹中 完潟沼 朗生滝川 哲也窪田 賢輔加藤 博也中井 陽介良沢 昭銘北野 雅之伊佐山 浩通鎌田 英紀岡部 義信花田 敬士大坪 公士郎土井 晋平久居 弘幸渋川 悟朗今津 博雄正宗 淳
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 64 巻 7 号 p. 1371-1385

詳細
要旨

【背景と目的】EUS-FNAは,様々な種類の消化器疾患の病理組織学的診断に用いられている.EUS-FNAによる有害事象がいくつか報告されているが,実際の有害事象の発生に関する実態は不明である.本研究の目的は,病理組織学的診断目的のEUS-FNAに関連する有害事象が発生した症例の現状を明らかにすることである.

【方法】日本の三次医療機関におけるEUS-FNA関連有害事象症例について,臨床データ(基本患者情報,FNAの手技,EUS-FNA関連有害事象の種類,予後など)を後ろ向きに解析した.

【結果】全EUS-FNA症例13,566例のうち,EUS-FNA関連有害事象が発生した合計症例数は234例であった.EUS-FNA関連有害事象の発生率は約1.7%であった.出血症例と膵炎症例が全有害事象のそれぞれ約49.1%と26.5%を占めた.最も一般的な有害事象は出血で,輸血を必要としたのは7例のみであった.神経内分泌腫瘍症例で最も頻度の高かった有害事象は膵炎であった.観察期間中,EUS-FNAによるneedle tract seedingが認められたのは,膵癌症例のわずか約0.1%であった.EUS-FNA関連有害事象による死亡は認められなかった.

【結論】本研究により,病理組織学的診断目的のEUS-FNAに関連する有害事象は,発生率が低く,重症例も少ないことが明らかとなった.

Abstract

Background and Aims: Endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration (EUS-FNA) is used for the histopathological diagnosis of any type of gastrointestinal disease. Few adverse events are experienced with this procedure; however, the actual rate of adverse events remains unclear. This study aimed to clarify the current status of cases that experienced adverse events related to the EUS-FNA procedure used for histopathologic diagnoses.

Methods: A retrospective analysis of cases with EUS-FNA-related adverse events in Japanese tertiary centers was conducted by assessing the following clinical data: basic case information, FNA technique, type of procedural adverse events, and prognosis.

Results: Of the 13,566 EUS-FNA cases overall, the total number of cases in which adverse events related to EUS-FNA occurred was 234. The incidence of EUS-FNA-related adverse events was ~1.7%. Bleeding and pancreatitis cases accounted for ~49.1% and 26.5% of all adverse events, respectively. Bleeding was the most common adverse event with only seven cases requiring blood transfusion. In cases with neuroendocrine tumors, pancreatitis was the most frequent adverse event. Needle tract seeding because of EUS-FNA was observed during the follow-up period in only ~0.1% of cases with pancreatic cancer. There was no mortality because of adverse events caused by EUS-FNA.

Conclusions: This study revealed that the adverse events-related EUS-FNA for histopathologic diagnoses were not severe conditions, and had low incidence.

Ⅰ 背  景

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)は,消化管周囲または消化管粘膜下病変の病理組織学的診断に重要な標準的手技である.病理組織学的診断を目的としたEUS-FNAは,1992年に初めて施行されて以来,多くの報告が認められる 1.EUS-FNAは,消化管からEUSで観察可能なあらゆる腫瘍および腹腔内腫瘤の病理組織学的診断に用いられている.特に,膵癌,膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor:pNET),自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)などの膵臓疾患におけるEUS-FNAの診断の正診率は極めて高い 2)~9.さらに,EUS-FNAによる消化管粘膜下病変(subepithelial lesion:SEL)の病理組織学的診断の感度・特異度も高い 10.EUS-FNAは,診断に有用であるだけでなく,手技関連の有害事象の危険性が低いため,EUS-FNA関連有害事象に関連する報告は少ない 11)~20.しかし,EUS-FNAによる出血,腹膜炎,膵炎などの有害事象が発生した症例報告がしばしば認められる.EUS-FNA関連有害事象は,各施設の発症率が非常に低いため,実際の発生率は不明である.EUS-FNA関連有害事象の報告はいくつか認められるが,近年,新しいEUS-FNA関連の機器が開発されたため,新たな調査が必要と考えられていた.また,EUS-FNAに引き続いて発生するneedle tract seedingの報告が増加しつつある 3),21)~42.Needle tract seedingは膵腫瘍の術前にEUS-FNA施行後発生すると考えられているが,具体的な発生率は不明である.本研究の目的は,病理組織学的診断目的に行われたEUS-FNAに関連する有害事象の現状を明らかにすることである.

Ⅱ 方  法

患者

この後ろ向き研究は,参加した三次医療機関22施設において2012年1月から2017年12月に消化器疾患の病理組織学的診断のためにEUS-FNAを実施し,EUS-FNA関連有害事象が発生した患者の臨床的特徴を評価した.EUS-FNAは,各施設の熟練した内視鏡専門医が実施した.手技を適切に実施するため,内視鏡研修医によるEUS-FNAは熟練した内視鏡専門医の指導のもと行われた.内視鏡による消化管穿孔や十二指腸狭窄の発生など,様々な理由により,EUS-FNA検査を開始したが穿刺を行わなかった患者も本研究に含められた.胆管ドレナージなどの超音波内視鏡下瘻孔形成術を実施した患者は除外した.各施設におけるEUS-FNA後の患者の治療と経過が追跡された.

データの収集

(1)患者の基本情報(年齢,性別,最終診断,症状を含む),(2)FNAの穿刺術(穿刺回数,穿刺針の種類,穿刺部位,穿刺毎の針の洗浄方法を含む),(3)有害事象(種類,重症度,needle tract seedingが発生した場合はその発生部位を含む),(4)予後,に関するデータを調査票を用いて収集した.EUS-FNA検体の組織学的検査に基づいて,リンパ節(lymph node:LN)転移は腫瘍細胞の存在と定義し,LN腫脹は腫瘍細胞が認められない炎症細胞の浸潤と定義した.

有害事象の定義

有害事象の定義は以下の通りである.(1)出血の定義は,内視鏡専門医が内視鏡的に出血を確認した場合,または腹腔内で新たな高エコー領域が出現し危険な状態にあると判断した場合,もしくは貧血の進行により輸血を要した場合とした.(2)膵炎の定義は,内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)後膵炎のCotton分類 43に基づいた血清膵酵素の上昇とした.(3)腹膜炎は,血清膵酵素の上昇を伴わない腹膜刺激症状の存在で判断し,機序と原因が不明な腹痛とした.(4)膵液漏と胆汁漏は,EUS-FNA後の新たな腹水が出現した場合と定義した.(5)needle tract seedingは,外科的な根治的切除後に病理組織学的に証明された胃壁の再発性癌腫と定義した.これらは先に報告された定義に基づいており,必要に応じて修正した 44),45.出血は,さらに(a)消化管管腔内に確認できる出血(管腔内出血),(b)腹腔内に認められる高エコーのエコーフリースペース(管腔外出血),(c)輸血の有無を問わず,EUS-FNA前に比べ貧血が臨床的に悪化した場合(臨床的出血),に分類した.出血の危険因子は,(a)抗凝固薬または抗血小板薬の投与,(b)側副血行路の存在,(c)慢性肝疾患による既存の腹水,に基づいて定義した.抗凝固薬または抗血小板薬の服用患者は全員,EUS-FNA前にこれらの薬剤を中止した.膵腫瘍による圧迫や狭窄によって生じたEUS-FNA前の膵炎はEUS-FNAによる有害事象から除外した.

組織学的診断

EUS-FNAは,リニア型超音波内視鏡とFNA用の針を用いて施行された.本研究のFNB針として,Franseen針(米国マサチューセッツ州ナティック市Boston Scientific 社製Acquire)とside-fenestrated針(米国インディアナ州ブルーミントン市Cook Medical社製ProCore)が使用された.組織学的標本の検体処理と免疫染色は各施設で行われた.最終診断は,EUS-FNAによる組織学的診断,手術による組織学的診断,1年後の臨床所見に基づいて行われた.膵癌症例には,腺扁平上皮癌や退形成性膵癌も含まれた.組織学的に診断された副碑症例は,別の腫瘍が疑われてEUS-FNAが実施された症例であった.

データ解析

各疾患における有害事象の発生率を明らかにするために,研究期間中にEUS-FNAが行われた患者の基本情報と,有害事象が認められなかった患者の合計が収集された.収集された臨床情報は,東北大学消化器内科で保管,分析された.患者の臨床情報は,匿名化され東北大学に送付された.年齢と観察期間のデータは,平均±標準偏差(standard deviation:SD)で示された.生存期間はKaplan-Meier法で計算され,ログランク検定で比較した.追跡不能症例と研究期間終了時の生存症例は,打ち切り症例として解析された.連続変数の比較には t検定を用いて解析された.いずれの検定も,p値<0.05を統計学的に有意とした.いずれの分析も,GraphPad Prism(米国カリフォルニア州サンディエゴ市GraphPad Software社製)を使用して実施された.本研究は,全参加施設の倫理委員会の承認を得て実施された.

Ⅲ 結  果

研究対象症例の患者背景

研究期間中に全施設でEUS-FNAが実施された症例数の合計は13,566例であった.Table 1に,これらの症例における疾患の詳細を示す.全EUS-FNA症例13,566例のうち,EUS-FNA関連有害事象が発生した合計症例数は234例であった(Table 2).これらの有害事象症例234例(1.7%)のうち,144例は男性,90例は女性,平均年齢±SDは64.7±13.4歳であった.平均観察期間±SDは28.3±23.6カ月間であった.疾患毎のEUS-FNA関連有害事象の頻度は,膵癌107例(1.6%),AIP 14例(2.1%),pNET 26例(4.2%),SEL 10例(1.5%),LN転移9例(1.2%),慢性膵炎(chronic pancreatitis:CP)11例(2.7%),その他の疾患(悪性リンパ腫,LN腫脹,胆管癌,肝腫瘍,転移性膵腫瘍,膵充実性偽乳頭状腫瘍(solid-pseudopapillary neoplasm:SPN),漿液性腫瘍(serous neoplasm:SN),腺房細胞癌腫(acinic cell carcinoma:ACC),副脾を含む)であった.SEL症例10例のうち,9例は消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST),1例は胃の神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)であった.

Table 1 

本研究の対象症例の患者背景.

Table 2 

EUS-FNA関連有害事象症例の患者背景.

有害事象症例におけるEUS-FNA手技

有害事象症例234例のEUS-FNAに使用した穿刺針のサイズは,22ゲージ(G)158例,25G 42例,19G 35例,20G 11例,21G 7例であった.これらの結果には重複症例が含まれていた.Table 3に,EUS-FNA針の各サイズ毎の有害事象と穿刺領域を示す.25G針の使用における出血の頻度は,他のサイズの針より低かった.EUS-FNA針の穿刺部位は,膵頭部84例,膵体部69例,膵尾部26例,腹腔内20例,縦隔5例,胆管1例,肝臓4例,他の部位23例であった.これらの結果には,重複症例が含まれていた.Franseen針は18例,side-fenestrated針は30例で使用された.これら48例における有害事象の種類は,出血27例,膵炎7例,膵液漏2例,その他の有害事象11例であった.

Table 3 

FNA針のサイズ毎のEUS-FNA関連有害事象.

各EUS-FNA関連有害事象における疾患

全EUS-FNA関連有害事象には,出血115例(49.1%),膵炎61例(26.5%),腹膜炎8例(3.4%),膵液漏8例(3.4%),needle tract seeding 7例(3.0%),内視鏡穿孔5例(2.1%),胆汁漏1例(0.4%),その他の有害事象28例(12.0%)が含まれていた(Table 4).その他の有害事象は,一過性の腹痛12例,一過性の酸素飽和度低下12例,内視鏡による粘膜裂傷3例,FNA針の破損1例であった.本研究で複数の有害事象が発生した患者は認められなかった.

Table 4 

EUS-FNA関連有害事象毎の疾患の内訳.

出血症例115例の具体的な疾患の内訳は,膵癌49例(42.6%),SEL 10例(8.7%),pNET 9例(7.8%),LN転移および腫脹8例(7.0%),転移性膵腫瘍5例(4.3%),悪性リンパ腫5例(4.3%),AIP 3例(2.6%),その他の疾患26例(22.6%)であった.輸血を必要としたのはわずか5例(4.3%)であった.さらに,出血症例115例のうち,管腔内出血が56例,管腔外出血が42例,臨床的出血が40例であった(重複症例を含む)(Table 5).出血症例における出血の危険因子は,抗凝固薬または抗血小板薬の投与11例,側副血行路1例,慢性肝疾患による既存の腹水6例であった(重複症例を含む).

Table 5 

出血の下位分類毎の結果.

膵炎症例62例には,膵癌26例(41.9%),pNET 15例(24.2%),AIP 5例(8.1%),CP 5例(8.1%)であり,そのうち重症膵炎が7例認められた.膵炎患者の死亡は認められなかった.腹膜炎8例のうち,4例が膵癌であった(50%).膵液漏症例8例の多くが膵癌であった(6例[75%]).

Needle tract seeding症例の7例はすべて,胃体部から膵体部と膵尾部が穿刺されていた.Needle tract seeding症例はすべて膵癌であった.各有害事象の穿刺回数(平均±SD)は,出血症例2.4±1.2回,膵炎症例3.2±1.3回,腹膜炎症例3.5±2.1回,膵液漏症例3.5±1.4回,needle tract seeding症例3.0±1.3回,内視鏡穿孔症例0.8±0.8回,胆汁漏症例3.0±0回であった(Table 4).出血症例と他の有害事象における穿刺回数を比較したところ,出血症例の穿刺回数は膵炎症例よりも有意に少なく,穿孔症例よりも多かった(Figure 1).

Figure 1 

各合併症における穿刺回数の比較.

出血症例における穿刺回数は,膵炎症例よりも有意に少なく,先行症例よりも多かった.

各疾患における有害事象

膵癌症例107例のEUS-FNA関連有害事象には,出血49例(45.8%),膵炎26例(24.3%),needle tract seeding 7例(6.5%),膵液漏6例(5.6%),腹膜炎4例(3.7%),穿孔4例(3.7%),胆汁漏1例(0.9%),その他の有害事象10例(8.7%)が含まれていた(Table 6).

Table 6 

各疾患における有害事象.

pNET 26例のうち15例(57.7%)において膵炎を発症していた.EUS-FNAによって発生した膵炎62例中15例(24%)はpNETであった.膵炎を発症したpNET15例におけるpNETの部位は,膵頭部5例(33.3%),膵体部7例(46.7%),膵尾部3例(20%)であった.pNETによる主膵管の狭窄または閉塞が12例(80%)で認められた.pNETの平均腫瘍径(±SD)は18.8±12.9(5~42)mmであった(Table 7).AIP患者14例で発生した有害事象は,膵炎5例(35.7%),出血3例(21.4%),腹膜炎2例(14.3%),膵液漏1例(7.1%),その他の有害事象3例(21.4%)であった.有害事象が発生したSEL症例10例の有害事象はすべて出血であった.LN穿刺症例とCP症例で発生した有害事象の多くは出血であった.各疾患における穿刺回数(平均±SD)は,膵癌2.8±1.4回,NET 3.0±1.0回,LN転移および腫脹2.2±1.3回,AIP 2.9±1.5回,CP 3.5±1.6回,SEL 2.1±1.4回であった.LN転移および腫脹症例における穿刺回数は,CP,NETよりも有意に少なかった.さらに,SEL症例における穿刺回数は,NETより有意に少なかった(Figure 2).

Table 7 

pNETにおける膵炎症例のまとめ.

Figure 2 

各疾患における穿刺回数の比較.

リンパ節(LN)転移および腫脹症例における穿刺回数は,慢性膵炎(CP)症例,膵神経内分泌腫瘍(NET)症例よりも有意に少なかった.さらに,粘膜下病変(SEL)症例における穿刺回数はNET症例よりも有意に少なかった.

予後

観察期間中に,これらの有害事象の発生した234例中82例が死亡した.死因は,原疾患による死亡が78例,その他の疾患による死亡が4例であった.EUS-FNA関連有害事象による死亡例は認められなかった.観察期間中に追跡不能になった症例は15例であった.Needle tract seeding症例7例の中で死亡したのは,膵癌進行による2例のみであった.Needle tract seeding症例と非needle tract seeding症例の予後に差は認められなかった(Figure 3).

Figure 3 

膵癌におけるneedle tract seedingの有無別のKaplan-Meier曲線.

Needle tract seedingの有無による有意差は認められなかった.

NTS:needle tract seeding.

Ⅳ 考  察

本研究は,組織学的診断目的のEUS-FNAに関連する有害事象について検討した.EUS-FNA関連有害事象率は低いことが報告されており 11)~20,EUS-FNA関連有害事象については,数編の報告 12)~20とメタ解析1編 11しか認められない.本研究では,日本の三次医療機関22施設の234例を分析することにより,EUS-FNA関連有害事象の概要を報告した.われわれの知る限り,本研究が,有害事象が発生したEUS-FNA症例を最も多く検討した報告である.他の報告の有害事象率が1~2%であったのと同様に 11)~20,本研究のEUS-FNA関連有害事象の発生率は約1.7%であった.したがって,本研究のEUS-FNA関連有害事象発生率は,先行報告の結果と変わらなかった.EUS-FNAによる有害事象が原因の死亡例は認められなかった.これらの結果から,EUS-FNAは安全な手技であることが確認された.また,EUS-FNAの新しい機器は,EUS-FNA関連有害事象の発生率に影響を与えないことも示唆された.

本研究で最も一般的な有害事象は出血であった.出血により7例で輸血を要したが,死亡例は認められなかった.本研究における出血の定義では,内視鏡専門医が内視鏡的に出血を確認したり,管腔外に出血を示唆するエコーフリースペースを確認することによって危険な状態と判断しEUS-FNAを中止できる状況にあったことである.Hamadaらは,患者数の少ない施設では,患者数の多い施設と比較し重篤な出血の発生率が高いと報告した 12.Kahnらは,内視鏡研修医が実施した手技がEUSによる有害事象の原因の1つであることを示した 46.本研究の参加施設は,患者数の多い高次医療機関であった.熟練した内視鏡専門医は,出血の危険性を早期に判断できたため,手技を中止することができたと推測される.よって出血症例における穿刺回数は,他のEUS-FNA関連有害事象よりも少なかった可能性がある.これらの結果から,EUS-FNAをできるだけ早期に中止することが,重篤な出血を回避するために重要であると考えられる.さらに,熟練した内視鏡専門医は,血管を避けて穿刺し組織を採取することができる.本研究では,出血の危険因子を有する症例が少なかったため出血の因子を明らかにすることは困難であったが,十分準備して,注意深く実施すれば,EUS-FNAは出血の危険因子を有する患者でも安全に施行可能であることが示された.

EUS-FNA針の径の違いによる検討では,出血を来した症例の中で,25G針を使用した症例が最も少なかった.さらに,EUS-FNA針の径毎による穿刺部位の差は認められなかったことから,EUS-FNA針の径が小さい穿刺針を使用することが,出血の回避に有用であることが示された.さらに,AIP症例における出血がわずか3例だったことから,AIPにおける膵実質の血流低下が,この結果に影響した可能性が示唆された 47

2番目に多かったEUS-FNA関連有害事象は膵炎である.膵炎62例中,膵癌26例(41.9%)とpNET 15例(24.2%)が含まれていた.EUS-FNA関連有害事象が発生したpNETの中で最も頻度が高かった有害事象は膵炎である.Katanumaらは,pNETがEUS-FNA関連有害事象発生の重要な関連因子であると報告している 19.Katanumaらの研究では,EUS-FNAに関連して発生した有害事象11例中,3例のpNETが含まれ,そのうち2例の膵炎が認められた 19.これらの結果から,pNETにはEUS-FNA後の膵炎発生の危険性のあることが示唆される.本研究では,膵炎を伴うpNET症例15例のうち12例でpNETによる主膵管の狭窄または閉塞が認められた.主膵管の狭窄または閉塞が,pNET患者におけるEUS-FNA関連有害事象としての膵炎発生の交絡因子である可能性がある.膵癌は高度な線維化を伴うが,pNET症例の一部では,腫瘍が直接正常膵実質(膵管を含む)と接している.このようなpNETの増殖パターンがEUS-FNAにおける膵炎発生の危険性に寄与している可能性もある.

さらに,本研究は,各臓器および各疾患におけるEUS-FNA関連有害事象の特徴を明らかにした.本研究は,各疾患におけるEUS-FNA関連有害事象を初めて報告した.EUS-FNAは,画像診断を施行し検討した後に実施されるべきである.EUS-FNAの施行前に画像診断を行うことによって,疾患毎の有害事象発生の危険性を検出することができる可能性がある.

膵癌患者における特徴的な有害事象はneedle tract seedingであった.本研究の観察期間中に,needle tract seedingが7例認められた.膵癌全体におけるneedle tract seedingの発生率は約0.1%であった.近年,EUS-FNAによるneedle tract seeding症例が数例報告されている 3),21)~42.Yaneらの報告では,膵癌切除症例におけるneedle tract seedingの発生率は約3.8%であった 48.この割合は決して低くなく無視できないと報告されている.しかし,膵癌における術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy:NAC)が徐々に普及しつつある 49.NACの実施前には,膵癌の組織学的根拠を得るためにEUS-FNAが必要である.EUS-FNAによる組織学的診断の正診率は高いこと,ERCP後膵炎の危険性があるため経乳頭的な組織学的診断は避けたいことなどが理由としてあげられる 50)~52.さらに,今回の検討においてneedle tract seedingと患者の生命予後の増悪に関連性は認められなかった.いくつかの研究において,膵癌の術前におけるEUS-FNAは予後に影響を与えないことが示されている 28),48),53)~57.これらの報告によると,NAC施行前に正しい組織学的診断を得るため,細心の注意を払ってneedle tract seedingを回避しつつ,EUS-FNAの実施が行われるべきであると報告されている.Needle tract seedingの機序は不明である.われわれは,アルコール綿による穿刺後のFNA針の清拭と,滅菌生理食塩水注入によるFNA針内部の洗浄による各穿刺前の残存腫瘍細胞の除去によってneedle tract seedingを予防できると考え,本研究の共同研究者に穿刺毎のFNA針の洗浄と清拭についてアンケートを実施した.FNA針の洗浄と清拭後のneedle tract seeding症例は認められなかったが,穿刺後のneedle tract seeding予防のためのこれらの手技の有効性を特定することはできなかった.理由としてneedle tract seeding症例が7例のみであったことがあげられる(データ提示なし).さらなる研究によって,needle tract seedingの予防に必要かつ適切な方法が明らかにされることが期待される.

近年,組織学的検査でFNB針が利用可能となった.本研究では,FNA針とFNB針の使用によるEUS-FNA関連有害事象の頻度に違いは認められなかったが,研究期間にはFNB針が利用可能になる前の期間も含まれるため,FNB針の使用回数が非常に少なかった.今後の検討で,FNA針とFNB針の有害事象の発生率を比較する必要がある.

本研究にはいくつか限界がある.また,本研究は後方視的研究であったため,いくつかバイアスがある.本研究の対象集団には,少数の肝腫瘍症例,胆管腫瘍症例,SEL症例が含まれていた.また,本研究では直腸からのEUS-FNA施行症例が含まれなかったため,本研究の結果は,直腸からの穿刺による有害事象は反映されていなかった.本研究の参加者は,有害事象リスクを避けるために,直腸からのEUS-FNAの実施を回避したのかもしれない 58.さらに,本研究におけるその他の項目に,粘液性嚢胞性腫瘍が2例しか含まれていなかった.本研究では,膵嚢胞性疾患におけるEUS-FNAの危険性を示すことができなかった.本邦の消化器内視鏡専門医の大半は,播種の危険性を回避するため,膵嚢胞性病変の診断にEUS-FNAを実施しないことが理由である.このことが,本研究における感染性有害事象症例が認められなかった理由かもしれない.近年,多くのEUS-FNAの穿刺手技が報告されている.それぞれの内視鏡専門医が,数種類の手技(高/低吸引圧,様々な穿刺回数)でEUS-FNAを試みている可能性があるが,本研究ではEUS-FNAの各穿刺手技の差を検証するのは困難であった.今後,これらのデータを前向き研究で解析する必要がある.

結論として,本研究により,本邦における病理組織学的診断を目的としたEUS-FNA関連有害事象の現状が明らかとなった.EUS-FNA関連有害事象は重症の症例は少なく,またその発生率は低かった.これらの結果は,EUS-FNAを実施する臨床医と,病理組織学的診断のためにEUS-FNAを受ける患者にとって重要な情報である.著者らは,今回の検討がEUS-FNA関連有害事象を予防する開発に役立つことを望む.

謝 辞

本研究のメンバーに深謝の意を表する.本研究は以下のメンバーから構成される.

菅野敦(自治医科大学内科学講座 消化器内科学分野);安田一朗,高橋孝輔(富山大学第三内科);入澤篤志,井澤直哉(獨協医科大学医学部 内科学(消化器)講座);原和生,奥野のぞみ(愛知県がんセンター病院 消化器内科);蘆田玲子(大阪国際がんセンター 検診部);岩下拓司,岩佐悠平(岐阜大学医学部附属病院 第一内科);竹中完(近畿大学医学部 消化器内科);潟沼朗生,金俊文(手稲渓仁会病院 消化器病センター);窪田賢輔(横浜市立大学附属病院 消化器内科);加藤博也,皿谷洋祐(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器・肝臓内科学);中井陽介,石垣和祥(東京大学医学部附属病院 光学医療診療部,消化器内科);良沢昭銘(埼玉医科大学国際医療センター 消化器内科);北野雅之,奴田絢也(和歌山県立医科大学 内科学第二講座);伊佐山浩通,山形亘(順天堂大学医学部医学研究科 消化器内科学);鎌田英紀,加藤清仁(香川大学医学部 消化器・神経内科学);岡部義信,安元真希子(久留米大学医学部内科学講座 消化器内科部門);花田敬士,横出正隆(JA尾道総合病院 消化器内科);大坪公士郎(金沢大学附属病院 がんセンター);土井晋平(帝京大学医学部附属溝口病院 消化器内科);久居宏幸(伊達赤十字病院 消化器科);渋川悟朗(福島県立医大会津医療センター 消化器内科);今津博雄(日本大学医学部附属板橋病院 消化器・肝臓内科);滝川哲也,正宗淳(東北大学大学院 消化器病態学分野)

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:報酬(100万円以上),株式の利益(100万円以上,あるいは5%以上),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),研究とは直接無関係なものの提供(5万円以上).

中井陽介(奨学寄付など:ボストンサイエンティフィック ジャパン,メディコス ヒラタ).中井陽介,入澤篤志,潟沼朗生,北野雅之,菅野敦,岩下拓司(Digestive Endoscopy編集委員).潟沼朗生(奨学寄付など:メディコス ヒラタ,講演料:オリンパス株式会社).北野雅之(講演料:オリンパス株式会社).伊佐山浩通(講演料,研究費:ボストンサイエンティフィック ジャパン).他の著者に開示すべきCOIなし.

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2021)33, 1146-57に掲載された「Adverse events of endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration for histologic diagnosis in Japanese tertiary centers: Multicenter retrospective study」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
© 2022 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top