H. pyloriの除菌療法の個別化療法には,抗菌薬の感受性試験に応じた抗菌薬の選択のみならず,薬物過敏症の状況に応じた薬物の選択,個々の症例の併用薬を考慮したレジメンの工夫等がある.一次除菌療法では,クラリスロマイシン(CAM)の感受性試験結果に応じてメトロニダゾール(MNZ)を活用することでの除菌率の向上が報告されている.三次除菌療法ではシタフロキサシン(STFX)を用いた除菌療法がよく行われている.ペニシリンアレルギーの症例ではCAMとMNZ,STFXとMNZの組み合わせが多い.但し,CAMやMNZは併用薬との薬物間相互作用が多く,注意が必要な薬物である.しかしながら,保険診療上はH. pyloriの除菌レジメン二次除菌まで固定されており,個別の対応をしにくいのが現状である.個々の症例に応じたレジメンが構築できるよう,制度の改善が望まれる.
Crohn病(Crohn’s disease, CD)は本邦で依然増加傾向である.臨床症状や炎症所見などで疑い,各種画像検査や病理組織学的所見で確定診断をする.その過程は以前と大きな変化はないが,カプセル内視鏡やバルーン小腸内視鏡など新たな診断機器の登場で画像検査は多様化している.確定診断や治療選択のための活動性評価や罹患範囲の把握が適正な治療選択の鍵である.CDの内科治療は,栄養療法と薬物療法が中心であるが,近年,生物学的製剤や分子標的薬が複数加わり薬物療法の選択肢は増えている.有効で満足度の高い治療を選択するには患者とのShared decision makingの手法が必要である.さらに現状のCD治療にはTight control,Treat to Targetの実践が求められている.
症例は66歳女性.上部消化管内視鏡検診で,胸部食道に表面に細長い絨毛状突起が密生した約2cm大の白色調の扁平隆起を認め,過去の疣状癌(verrucous carcinoma:以下,VCと略)報告例に類似した鳥肌状の小点様所見が認められた.ルゴール染色にて絨毛状の突起は淡染を示し,基部はむしろ濃染していた.生検組織で軽度の細胞異型が認められ,VCを含めた癌を否定できず,ESDを施行された.摘出標本の病理診断にて乳頭腫と診断された.狭帯域光拡大観察にてイソギンチャク型の乳頭腫で認められるのと同様な内部に不整のない細い血管を有する絨毛状突起が観察され,遡及的に見ると乳頭腫を示唆する所見と考えられた.
症例は42歳女性.1999年に急性白血病と診断し,寛解導入療法後に骨髄移植を施行した.移植後に移植片対宿主病を発症したが,白血病の再燃なく経過した.2018年に上部消化管内視鏡検査を実施したところ,胸部上部食道に食道癌を認めた.粘膜内癌と診断し,内視鏡的粘膜下層剝離術により治癒切除を得た.本症例は飲酒歴や喫煙歴のない中年女性で,白血病に対する骨髄移植が食道癌発症の主原因と考えられた.骨髄移植前の全身放射線照射や移植後の慢性移植片対宿主病は二次性発癌のリスク因子であり,中でも食道癌のリスクが高いことが知られている.骨髄移植後は,飲酒歴や喫煙歴がなくても定期的な内視鏡検査の必要性を認識すべきである.
症例は28歳,女性.心窩部痛精査の上部消化管内視鏡検査で,背景胃粘膜はHelicobacter pylori(H. pylori)未感染であったが,体下部から前庭部に多発する平坦な褪色調領域を認め,生検結果は印環細胞癌であった.明らかな家族歴はないものの遺伝性びまん性胃癌の孤発例を疑い,腹腔鏡下胃全摘術を施行した.術後病理結果では,計22カ所の粘膜内にとどまる印環細胞癌を認めた.遺伝学的検査でCDH1遺伝子の変異を認め,遺伝性びまん性胃癌と確定診断した.若年者のH. pylori未感染胃に褪色調領域を認めた場合は,遺伝性びまん性胃癌の可能性を念頭に置き多発性病変を見逃さないことが重要と考えられた.
症例は51歳女性.検診の全大腸内視鏡検査で,盲腸に20mm大の白色平坦隆起性病変を認め,拡大内視鏡観察で粘膜内の微小気泡を指摘した.気泡によりNarrow band imaging観察で構造と血管が不明瞭化したが,Crystal violet染色でⅠ型pitが観察された.生検標本で粘膜固有層に空胞が散見され大腸偽脂肪腫と診断した.無治療で経過観察したところ,4カ月後の内視鏡検査で病変は消失していた.通常・拡大内視鏡で得られた像は粘膜固有層内の気泡で光の反射と多重散乱が発生したことによるものと考えられ,病態を反映していると思われた.拡大内視鏡観察は大腸偽脂肪腫の診断の一助となる可能性がある.
ESDをより安全かつ迅速に行うための工夫としてトラクション法が考案され,手法の普及と共に専用デバイスの開発も進んだ.しかしながら,各手法,デバイスには特有の課題があり,施設間での適応や使用方法の手技も様々である.2021年2月に全国販売が開始されたMulti-loop traction device(MLTD,ボストン・サイエンティフィック ジャパン,東京)は,東京慈恵会医科大学内視鏡医学講座が中心となり設立した産学医工連携コンソーシアムにおいて作り上げた,新型トラクションデバイスである.小型で軽いMLTDは,鉗子チャンネルを介したデリバリーが可能であり,狭い管腔内でも手軽にトラクション法を適用できる.また,極細径樹脂で成形されているため,鉗子で把持して引っ張ることで切断でき,取り外しも容易である.われわれは,MLTDを用いた手技の標準化を進めており,術者や臓器・部位によらず安全かつ効率的なESDを行うことができるよう,販売企業と連携した周知活動を進めている.本稿では,トラクション法の基本的知識からMLTDの開発経緯,標準化された使用方法まで解説する.
大腸内視鏡検査は白色光観察が基本であるが,拡大内視鏡はポリープ表面の腺構造を視覚化して質的診断に寄与するため,大腸ポリープ診療ガイドラインでもその使用が推奨されている.近年は狭帯域光を併用した拡大内視鏡(Narrow-Band Imaging with Magnification Endoscopy:NBIME)がその簡便性から汎用されている.クリスタルバイオレット(crystal violet:CV)を用いた色素拡大内視鏡はNBIMEよりも腺窩開口部の形態(pit pattern)を明瞭に視覚化するが,CVの染色時間や発癌性からNBIMEで診断が難しい症例に限定して使用されることが多い.酢酸強調を併用したNBIME(NBIME with acetic-acid enhancement:A-NBIME)は,安全に短時間でCV染色と同様のpit pattern診断が可能である.また,NBIME観察下にpit patternが描出されるため,NBIME像との対比も行いやすく,臨床的にも学術的にも有用性の高いpit pattern診断法である.
【背景と目的】EUS-FNAは,様々な種類の消化器疾患の病理組織学的診断に用いられている.EUS-FNAによる有害事象がいくつか報告されているが,実際の有害事象の発生に関する実態は不明である.本研究の目的は,病理組織学的診断目的のEUS-FNAに関連する有害事象が発生した症例の現状を明らかにすることである.
【方法】日本の三次医療機関におけるEUS-FNA関連有害事象症例について,臨床データ(基本患者情報,FNAの手技,EUS-FNA関連有害事象の種類,予後など)を後ろ向きに解析した.
【結果】全EUS-FNA症例13,566例のうち,EUS-FNA関連有害事象が発生した合計症例数は234例であった.EUS-FNA関連有害事象の発生率は約1.7%であった.出血症例と膵炎症例が全有害事象のそれぞれ約49.1%と26.5%を占めた.最も一般的な有害事象は出血で,輸血を必要としたのは7例のみであった.神経内分泌腫瘍症例で最も頻度の高かった有害事象は膵炎であった.観察期間中,EUS-FNAによるneedle tract seedingが認められたのは,膵癌症例のわずか約0.1%であった.EUS-FNA関連有害事象による死亡は認められなかった.
【結論】本研究により,病理組織学的診断目的のEUS-FNAに関連する有害事象は,発生率が低く,重症例も少ないことが明らかとなった.
【背景と目的】超音波内視鏡ガイド下穿刺生検(EUS-FNB)の診断能に対する迅速細胞診(Rapid On-site Evaluation:ROSE)の有用性は,ランダム化試験で検討されたことが無い.この試験は,充実性膵病変(Solid Pancreatic Lesions:SPL)におけるEUS-FNBの良悪性診断能においてROSE無しの非劣性を検証することを目的としている.
【方法】非劣性試験(非劣性マージン,5%)は,8カ国・14のセンターで実施された.組織採取を要するSPLの患者は,新規FNB針を使用し,ROSEの有無に関してはランダムに割り当てられた(1:1).ROSEにはタッチインプリント細胞診法を用いた.主要評価項目は良悪性診断能であり,副次評価項目は安全性,コア組織の採取率,検体の品質,および手技時間であった.
【結果】800人の患者が18カ月の期間にわたって無作為化され,771人が解析された(ROSEあり;385人,ROSEなし;386人).診断精度は両群で同等であった(ROSEあり;96.4%,ROSEなし;97.4%,P=.396).ROSE無しの非劣性は,1.0%の絶対リスク差で確認された(片側90%信頼区間,-1.1%から3.1%;非劣性P<.001).安全性および検体品質は,両群で同等であった.組織コア率(70.7%対78.0%,P=.021)はROSE無し群で有意に高く,平均手技時間(17.9±8.8対11.7±6.0分,P<.0001)は有意に短かかった.
【結論】EUS-FNBは,ROSEの有無とは無関係にSPLに対し高い診断精度を示した.新規FNB針を使用する場合,ROSEを常に行うことは推奨されない.