2022 年 64 巻 8 号 p. 1439-1447
次世代シーケンシング(NGS:next-generation sequencing)の発展により,本邦でも腫瘍組織検体を用いた包括的がんゲノムプロファイリング検査(Comprehensive Genomic Profiling,以下CGP検査),さらに血液検体を用いたリキッドバイオプシーも保険承認され,日常診療下で実施可能となった.胆道癌においても,個々の治療戦略をたてるうえで,CGP検査を考慮する必要がある.腫瘍組織検体を用いたCGP検査を施行するためには,より多くの良質な組織検体が必要であり,EUS-TA(EUS-guided tissue acquisition)にその役割が期待される.現状では,可能な限り大口径の穿刺吸引生検(FNB:fine-needle biopsy)を用いて,十分な組織採取を試みる必要があると思われる.多くの患者さんがPrecision Medicineの恩恵が受けられるようにEUS-TA検体を用いたCGP検査の標準化にむけて,今後のさらなるエビデンスの蓄積が必要である.
With the development of next-generation sequencing, Japanese health insurance has covered comprehensive genomic profiling (CGP) using tumor tissue samples and liquid biopsy. We have them available in clinical practice. We have to consider CGP for precision medicine. For CGP using tumor tissue samples, more good quality tissue samples are necessary. EUS-guided tissue acquisition (EUS-TA) is expected to play an important role in diagnosis and as a sample collection method for CGP. At present, it seems essential to get sufficient tissue samples using a large-diameter fine-needle biopsy needle as much as possible. Further evidence needs to be accumulated for standardization of EUS-TA for CGP so that several patients can benefit from Precision Medicine.
2000年代半ばに登場した次世代シーケンシング(NGS:next-generation sequencing)は,多数のデオキシリボ核酸(DNA)断片の塩基配列を同時並行して読み取る技術であり,NGSの普及改良に伴い遺伝子変化の網羅的解析が短時間かつ低コストで可能となった.NGSを用いた包括的がんゲノムプロファイリング検査(Comprehensive Genomic Profiling,以下CGP検査)を中心としたがん診療におけるprecision medicine(精密医療)が米国で発展し,本邦においても2018年12月に「OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム」と「FoundationOneⓇ CDx がんゲノムプロファイル」が薬事承認,2019年6月より保険収載され,がんゲノム医療の幕開けとなった.がんゲノム医療に対する期待は大きく,日常診療においてもその重要性は高まっている.
EUS-guided tissue acquisition(EUS-TA)は,胆膵疾患の診断において必要不可欠な検査であるが,組織診断のみならず,CGP検査を施行するための検体採取法としても期待されている.本稿では,胆道癌におけるがんゲノム医療の現状と,EUS-TA検体を用いたCGP検査の現状および課題について述べる.
現在,保険診療下で施行可能なCGP検査は,腫瘍組織検体を用いた,OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム(以下,NCCオンコパネル)とFoundationOneⓇ CDx がんゲノムプロファイル(以下,F1CDx)の2つがある.また2021年8月に血液検体を用いたリキッドバイオプシー検査FoundationOneⓇ Liquid CDx がんゲノムプロファイル(以下,F1CDx Liquid)も保険適応となった.
CGP検査の実施にあたっては,現状では,「標準治療がない固形がん患者または局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む.)であって,関連学会の化学療法に関するガイドライン等に基づき,全身状態および臓器機能等から,本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した者に対して実施する場合に限り算定できる.」とされている.さらに,リキッドバイオプシー検査FoundationOneⓇ Liquid CDx がんゲノムプロファイルについては,「医学的な理由で固形腫瘍の腫瘍細胞を検体とすることが困難な場合」「固形腫瘍の腫瘍細胞を検体として実施したパネル検査で包括的なゲノムプロファイルの結果を得られなかった場合」のみ保険診療下で実施可能とされており,同一腫瘍に対するがんゲノムプロファイリング検査は腫瘍組織検体または血液検体を用いたいずれかの検査で生涯において1回のみに限定されている.
施設要件としては,がんゲノム医療中核拠点病院,がんゲノム医療連携拠点病院,がんゲノム医療連携病院でのみ実施可能とされ 1),全国にがんゲノム医療中核拠点病院は12カ所,がんゲノム医療拠点病院が33カ所,がんゲノム医療連携病院が188カ所設置されており,計233施設に限定される(令和4年5月1日現在) 2).
2.保険診療下で可能なCGP検査1)組織検体
腫瘍組織検体を用いたCGP検査にはNCCオンコパネルとF1CDxがある.日常診療において,この2つのパネル検査の違いをしっかりと認識しておく必要があり,両者の主な仕様の違いをTable 1 3),4)に示す.
保険診療下で可能なCGP検査.
NCCオンコパネル検査は,同一患者の腫瘍組織と非腫瘍組織(全血)を同時に検査する.がん組織からの特異的な遺伝子変異,すなわち体細胞変異と非腫瘍(正常)細胞由来のDNAを同時に比較解析するマッチドペア検査であり,体細胞変異と生殖細胞系列変異の区別が可能となっている.一方でF1CDxは腫瘍組織のみを対象とした検査であるため,生殖細胞系列変異については正確な情報を得ることはできない.
F1CDxの特徴としては,がんゲノムプロファイリング検査としての機能だけではなく,Table 2に示すように一部の遺伝子およびがん種についてはコンパニオン検査としての役割がある.CGP検査を目的として実施し,コンパニオン検査のある承認薬に該当する遺伝子異常が検出された場合は,エキスパートパネルおよび主治医が適切と判断すれば,改めてコンパニオン検査を施行することなく,当該承認薬を投与することが可能である.このため,臨床現場においては可能であればF1CDxに提出したいところであるが,必要とする組織量(組織切片面積と推奨腫瘍細胞含有量)が異なることを知っておかなくてはならない.Table 1に示すようにF1CDxの方がNCCオンコパネルよりも必要とされる病理要件が厳しく,内視鏡医にとっての課題である.これについては後述する.腫瘍組織を用いたCGP検査では,検体提出から検査結果報告までにかかる期間(TAT:turn around time)が1-2カ月とされている.
F1CDxのコンパニオン診断に対応するがん種と国内承認薬.
2)血液検体
F1CDx Liquidは,血液中に漏れ出した腫瘍由来のDNA(血中循環腫瘍DNA:circulating tumor DNA,ctDNA)を検体として使用し,遺伝子解析を行う検査であり,主な仕様をTable 1に示す 5).同検査もコンパニオン診断能を有するが,Table 3に示すようにF1CDxとは異なるため注意が必要である.F1CDx Liquidは低侵襲で簡便に施行可能であるが,ctDNAが検出されない場合や遺伝子変異の検出率が組織検体よりも劣る場合があるという欠点がある 6).一方で,組織検体を用いたCGP検査と比較し,TATが短い(3週間程度)という利点や検体採取部位の腫瘍のみならず体内全体の腫瘍(原発巣および転移巣)の遺伝子異常を反映することから,腫瘍不均一性(tumor heterogenity)の問題や治療に伴い生じた獲得耐性などの変化をリアルタイムに低侵襲で評価できることから,さまざまな臨床応用への展開が期待される 7).先に述べたように保険診療では生涯において1回のみしか施行できないため,現状では組織採取が困難であった場合の補完的意味合いが大きいと考えるが,今後の発展が期待される.
F1CDx Liquidのコンパニオン診断に対応するがん種と国内承認薬.
切除不能胆道癌に対する治療選択肢は非常に限られており,ゲノム医療に対する期待は大きい.2021年のOkawaら 8)は,胆道癌の切除検体を解析したところ,33.8%でactionableな遺伝子変異および治療候補薬を認め,TMBやT細胞の発現など免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーと合わせると49.7%,約50%の症例で検出されたと報告している.アジア人のデータであり,胆道癌はゲノム医療の有効性が多いに期待できる.胆道癌は,原発部位(肝内・肝外胆管・胆囊・乳頭部)によって検出される遺伝子異常が異なる.肝内胆管癌では,TP53,KRAS,IDH1/2,FGFR2融合遺伝子,肝外胆管癌ではTP53,KRAS,ERBB2,SMAD4,PRKACA/PRKACB融合遺伝子などが報告されている 9)~11).
1.FGFR2融合遺伝子FGFR2融合遺伝子の陽性率は日本人のデータで肝内胆管癌の13.6%,肝外胆管癌で0%であったと報告 12)されており,肝内胆管癌における陽性率が高い.
FGFR1-3の選択的阻害薬であるペミガチニブは,既治療の切除不能胆道癌を対象とした第Ⅱ相試験(FIGHT-202試験 13))において,FGFR2融合遺伝子またはFGFR2遺伝子の再構成を有する症例において高い奏効率(35.5%)を示した.この結果を受け,本邦においても「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌」に対し,ペミガチニブが保険適応となっており,F1CDxはコンパニオン診断として承認されている.
2.臓器横断的な治療薬2018年12月に化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性を有する(MSI-Highを有する)固形癌に対して,ヒト化抗ヒトPD-1抗体であるペムブロリズマブが適応拡大された.前治療で進行を認めたMSI-High固形癌におけるペムブロリズマブ単独療法の第Ⅱ相試験では,胆管癌4例,乳頭部癌4例を含む12癌種86例が登録され,奏効割合は53%であり,病勢コントロール率が77%であったと報告されている 14).しかし,MSI-High症例は固形がん全体の約5%であり,2022年のAndoら 15)の日本からの報告においては,胆道癌の1.7%(2/116)と少数である.
また,腫瘍遺伝子変異量高スコア(TMB-High: tumor mutational burden-high)を有する進行・再発の固形がんに対するペムブロリズマブの第Ⅱ相試験(KEYNOTE-158試験 16))において,奏効割合29.0%と高い奏効を示しており,TMB-Highの切除不能または転移性の固形がんに対して,ペムブロリズマブ単独療法を米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)は承認している.日本でも,TMB-Highを有する進行・再発の固形がんに対するペムブロリズマブのコンパニオン診断として,F1CDxが承認され,ペムブロリズマブについても2022年2月に「がん化学療法後に増悪した進行・再発のTMB-Highを有する固形がん」に対する適応が承認された.
2019年6月にNTRK(neurotrophic tyrosine receptor kinase)融合遺伝子を有する進行・再発の固形癌に対しエヌトレクチニブが保険適応となった.NTRK融合遺伝子陽性症例は固形がん全体の約0.3%と非常に少数であり 17),対象者は極めて限定される.Rossら 18)は,肝内胆管癌28例のうちNTRK融合遺伝子の発現頻度は3.6%(1/ 28)であったと報告している.以上が,現在保険診療下で胆道癌に使用可能な薬剤である.
また,現状では保険適応にはなっていないが,IDH1変異を有する進行胆道癌に対するIDH1阻害剤ivosidenibの有効性を検証する第Ⅲ相試験(ClarIDHy試験 19))において,プラセボに対する無増悪生存期間における優越性が示され,FDAでは承認された.肝内胆管癌の13%の症例でIDH1遺伝子変異を有することが報告されている 20).現時点では本邦では未承認である.米国で実施されたマルチバスケット型第Ⅱa相試験(MyPathway試験 21))においてHER2陽性胆道癌に対するHER2阻害薬の2剤併用療法(pertuzumab+trastuzumab併用療法)の有用性も報告されており,現在本邦においても医師主導治験が進行中である.このように新規の治療開発もすすんでおり,今後の適応が期待される.
EUS-TA検体でCGP検査を施行するためには,CGP検査に適した検体の取り扱いをすること,CGP検査の病理要件を満たす組織を採取することが必要である.
1.検体の取り扱いについてまず,検体の取り扱いについてであるが,組織検体を用いたCGP検査では,腫瘍のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE:formalin-fixed paraffin-embedded)標本よりDNAを抽出し,解析を行う.日本病理学会から「ゲノム診療用病理組織検体取り扱い規定」 22)が公表されており,検体の取り扱いによる解析への影響を最小限にすべく検体処理を行う必要がある.
ホルマリンは10%中性緩衝ホルマリン溶液を用いる.FFPE検体ではホルマリン過固定に伴う核酸の断片化や化学的修飾が問題となる.72時間から顕著となることから,48時間以内の固定が望ましい.特に,気管支鏡内腔超音波断層法(EBUS:endobronchial ultrasonography)等を用いて採取された微小な組織検体や細胞検体では,固定時間(6-24時間)の短縮化に努めることが望ましいと記載されている.当院では一晩を目安にEUS-TA検体の処理を行っている.
再発症例であれば切除検体を用いることが可能であるが,経時的に核酸品質は劣化し,解析成功率が低下するため,原則3年以内が推奨されている.
F1CDxでは,必要最低限とされている検体の目安は,「スライド上の切片の表面積が25mm2以上で切片の厚さが4~5μmのスライドを10枚以上」である.仮に表面積が25mm2に満たない場合は,合計体積が1mm3以上になるようにスライドの枚数を追加する.腫瘍細胞含有率も重要であり,「30%以上の腫瘍細胞(最低20%以上)」を含むことが必要である.正常組織の割合が多い検体を用いると,正確ながん遺伝子診断を行うことが不能となる.特に肝細胞のDNA量は他の体細胞の2倍であるため,検体が肝組織の場合は,より多くの腫瘍細胞割合が必要になる.一方NCCオンコパネルでは,「スライド上の切片の表面積が16mm2以上で切片の厚さが10μmのスライドを5枚程度(5μmの場合は10枚程度)」で「腫瘍細胞含有率が20%以上」であり,F1CDxよりも病理要件は緩い.
保険診療では,CGP検査は高額(保険点数56,000点)であり,提出したにも関わらず検体不良のため検査不可となることは可能な限り避ける必要がある.このため,CGP検査に提出可能とされる基準となる病理要件は厳しい.まずは,Pre-screeningとして,病理医が要件を満たしているかどうか判断する.要件を満たしていないと判断した場合には,Pre-screeningの時点でCGP検査への提出が不可となる.血液検体を用いたF1CDx Liquidの選択肢もあるが,先に述べたような課題もあるため,現状では組織検体が第一選択であると思われる.さらに,実臨床においてはコンパニオン診断も兼ねるF1CDxに可能であれば提出したい.再生検に伴う侵襲,再提出に要する時間を考慮すると,切除不能胆道癌に対しては,診断時にCGP検査も見据えて十分な組織採取を行うことが望まれる.
2.EUS-TA検体でCGP検査を成功させるためにHirataら 23)は,22-25GのFNA針あるいは穿刺吸引生検(FNB:fine-needle biopsy)針を用いた胆道癌の凍結検体で,95.2%(20/21)でCustom panel(50遺伝子)の解析が可能であったと報告しているが,EUS-TAで得られた検体を用いた胆道癌におけるCGP検査の実臨床の報告はない.Kandelら 24)は膵癌で22G-19GのFNB針を用いた凍結検体の78%でF1CDxの病理要件を満たしたと報告しているが,仮想試験(サンプルの適格性を判定しているが,実際の解析は未施行)である.Parkら 25)は,190例の膵癌におけるEUS-TA検体を用いたCustom panel(83遺伝子)の検討で,多変量解析の結果,穿刺針径のみがNGS成功に関わる因子であったと報告しており,19G,22Gと比較し,25Gの穿刺針では成功率が有意に低率であった(63.2% vs. 38.8%,P=0.003).このように膵胆道癌におけるEUS-TA検体を用いたCGP検査の報告はあるもののCustom panelや仮想試験が中心であるため,実臨床における結果の報告が待たれる.
では,EUS-TA検体でCGP検査を成功させるにはどうしたらよいのか.近年,組織検体の採取量向上を目的としたFNB(fine needle biopsy)針が登場し,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)からEUS-FNBへと展開しつつある.EUS-TAにおける穿刺針のサイズや形状に関して,これまで多くの報告がなされてきた.Songら 26)は,膵固形腫瘍の117人の患者を対象に19Gまたは22G針を使用したEUS-FNA(ROSEなし)を比較したランダム化比較試験で,診断精度は針のサイズ間で同様であったと報告している.ただし,19G針は,22G針と比較して,より少ない穿刺回数でより多くの細胞を採取できたと報告している(2.4回vs 2.8回;P=0.01).ESGE(European Society of Gastrointestinal Endoscopy)ガイドライン 27)でも,膵臓病変のEUS-FNAの場合,19G,22G,および25Gの針は同様の診断率と安全性であったとされているが,19G針は細い針と比較し,より多くの細胞を採取できると記載されている.
FNAとFNBの最近のメタアナリシスでは,FNAにROSEが伴う場合,FNAとFNBの診断率に有意差がないことを報告しているが,ROSEがない場合,FNBは膵固形腫瘍の診断率が高くなると報告している 28).また,自己免疫性膵炎 29)や粘膜下腫瘍 30)の診断に関する研究でも,EUS-FNBがEUS-FNAよりも優れていることが報告されており,ROSEを施行しない状況での検体採取や少ない穿刺回数でコア検体を採取するにはFNBが優れていると考えられる.
CGP検査にはより多くの組織検体が必要である.解析不成功であった場合の再生検の必要性,経済的負担や時間の浪費など患者さんへのデメリットを考慮すると,診断時から可能な限り大口径FNB針を用いて,十分な組織採取を試みる必要があると思われる.
また,内視鏡医が可能な胆道癌の検体採取法として,経乳頭的胆管生検がある.経乳頭的胆管生検の第一の意義は,胆道狭窄に対する良悪性の鑑別診断であるが,そもそも経乳頭的胆管生検で得られる組織は微小であり,黄疸や炎症の影響を受けているため,病理診断自体が困難であることも多い.2021年に報告されたメタアナリシス 31)では,胆道癌に対する経乳頭胆管生検の感度は67.0%であり,決して高くはない.この報告のなかで,得られた検体数を4検体未満,4検体以上の2群に分けて比較検討しているが,両群において有意差はなかった(4 vs. ≥ 4,69.0% vs. 70.3%,P=0.959).経乳頭的胆管生検で得られた検体を用いたCGP検査の報告はないが,CGP検査を施行するには腫瘍組織が採取できることが大前提であり,経乳頭的胆道生検の感度を鑑みると,実臨床においては困難であると思われる.
3.当院での検討結果当院における胆道癌に対するCGP検査についての結果を検討した.2019年10月~2021年9月に実臨床においてCGP検査を施行した胆道癌45例48検体について検討すると,検体採取別の病理適格性(適格:実際にCGP検査が解析できた症例,非適格:当院のpre-screeningで不適格であった症例もしくはCGP検査が解析不可であった症例)は,EUS-TA検体が76.2%(16/21),手術検体が92.9%(13/14),経皮生検が69.2%(9/13)で適格であり,3群間において有意差はなかった(P=0.56).EUS-TA検体21例の検討では,穿刺回数の中央値は2回[1-6回]であり,穿刺針のサイズ(19G vs 22G vs 25G,100.0% vs 70.0% vs 0.0%;P=0.009),穿刺針の形状(FNA vs FNB,20% vs 93.8%;P=0.004)において有意差を認め,22G以上のFNB針であれば100%でCGP検査に有効な検体採取ができていた.F1CDxで解析できた率を検討すると,手術検体で有意に高かった(EUS-TA vs 手術 vs経皮生検;25.0% vs 85.6% vs 0.0%;P<0.001).EUS-TA検体でも25%がF1CDxで解析できていたが,経皮生検では正常肝を同時に採取してしまうことが多いため,F1CDxでの解析率が低率であったと考えている.Figure 1は実際にCGP検査を施行した症例である.2症例ともに肝内胆管癌の症例であり,原発巣から検体を採取した.Aは19G-FNBを施行しF1CDxによる解析が可能であった.Bは18G針を用いて経皮生検を施行し,Pre-screeningでF1CDxの病理要件は満たさないとの判定となり,NCCによる解析を施行した.EUS-TAでは,病変内でストロークができるため正常肝細胞の混入を最小限に抑えることができる利点があると思われる.
実際にCGP検査を施行した肝内胆管癌の2症例.
A:F1CDxによる解析が可能であった症例.肝内胆管癌の原発巣より19G-FNBを施行して採取した検体.
B:NCCによる解析が可能であった症例.肝内胆管癌の原発巣より18G針を用い経皮生検を施行して採取した検体.
Actionableな変異は34.2%(13/38)に認めた.CGP検査の結果に基づいて,17.7%(8/38)で国内治験参加を考慮できたが,うち4例はPS(Performance Status)の低下により治験参加はできず,治療到達性は7.9%(3/38)に留まった.
胆道癌はActionableな遺伝子変異が多く,治療到達の可能性が比較的高いことが予想されるが,標準治療終了のタイミングでCGP検査を施行すると,PSの悪化などで治療機会を失う症例が多く認められた.今後は,より効果的なタイミングでCGP検査を行う必要があり,保険適応を含めた見直しが急務であると考えられる.
保険診療下で可能なCGP検査には,腫瘍組織検体を用いた検査と血液検査を用いたリキッドバイオプシーがあるが,腫瘍組織検体を用いたCGPの有用性が高いのが現状である.新規治療薬の開発と並行して,胆道癌におけるCGP検査の重要性は広く認識され始めている.多くの患者さんがPrecision Medicineの恩恵が受けられるようにEUS-TA検体を用いたCGP検査の標準化にむけて,今後のさらなるエビデンスの蓄積が必要である.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし