日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
関節リウマチに対しアバタセプト投与中に潰瘍性大腸炎類似の大腸炎を認めた1例
古賀 絵莉香伊良波 淳新垣 和也田端 そうへい大石 有衣子大平 哲也新垣 伸吾金城 徹外間 昭 藤田 次郎
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2022 年 64 巻 8 号 p. 1469-1474

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要旨

症例は67歳,男性.関節リウマチに対してT細胞選択的共刺激調整剤のアバタセプトが投与された.投与開始4カ月後に腹痛・下痢・血便を認め,当科に紹介された.大腸内視鏡検査では潰瘍性大腸炎に類似したびまん性の大腸炎を認めた.他の腸管に病変は認められなかった.アバタセプトによる免疫関連有害事象と判断してプレドニゾロンを投与した.治療により大腸炎は改善した.アバタセプトの投与に伴う免疫関連有害事象の大腸炎は,稀ではあるが,念頭におくべき疾患と考えられた.

Abstract

A 67-year-old man with rheumatoid arthritis presented with abdominal pain, diarrhea, and rectal bleeding 4 months after administration of abatacept (a recombinant fusion protein comprising a fragment of the Fc domain of human immunoglobulin G1 and the extracellular domain of human cytotoxic T-lymphocyte antigen 4). Colonoscopy revealed diffuse colitis mimicking ulcerative colitis. Other areas of the gastrointestinal tract were unaffected. We diagnosed the patient with abatacept-induced immune-mediated adverse event. Administration of prednisolone led to improvement in symptoms. Although rare, immune-mediated colitis should be considered in the differential diagnosis of patients with diarrhea or rectal bleeding observed during abatacept therapy.

Ⅰ 緒  言

近年炎症におけるサイトカインや炎症細胞の相互作用を標的とする分子標的治療が進展している.なかでもT細胞選択的共刺激調整剤のアバタセプトも関節リウマチの治療において画期的な効果を示している 1),2.しかしながら,肝障害や肺炎などの免疫関連有害事象をきたすが,本邦での腸管障害の知見は少ない.関節リウマチに対しアバタセプトを投与中に潰瘍性大腸炎に類似した大腸炎を認めた1例を今回報告する.

Ⅱ 症  例

症例:67歳,男性.

主訴:腹痛・下痢・血便.

既往歴:高血圧症,高尿酸血症,脂質異常症,慢性閉塞性肺疾患.

現病歴:201X年に関節リウマチと診断され,イグラチモド,タクロリムスやプレドニゾロンを投与されていた.201X+1年11月のスクリーニング大腸内視鏡検査では異常を認めなかった.同年12月から増悪する関節リウマチに対してアバタセプトの投与が開始された.201X+2年3月から腹痛と下痢が生じ,4月には1日20行以上の血便を認めた.近医で大腸内視鏡検査で全結腸に多発潰瘍を認めて潰瘍性大腸炎が疑われた.プレドニゾロン30mg/日が投与されるも重症化が危惧され,当院に紹介された.

入院時現症:身長172cm,体重80.7kg,体温36.9℃,血圧124/62mmHg,脈拍82回/分.

排便回数:20回/日.便の性状:血性下痢.

腹部:平坦で左下腹部に自発痛を認めたが,圧痛と反跳痛はなかった.

臨床検査成績(Table 1):白血球増多,CRPの上昇,低アルブミン血症を認めた.便培養では腸内常在菌のみであった.

Table 1 

臨床検査成績.

大腸内視鏡検査(Figure 1):全大腸に発赤した浮腫状粘膜と血管透見不良を認め,不整形,縦走や深掘れの多彩な形態の潰瘍が多発していた.終末回腸に特記すべき所見は認めなかった.

Figure 1 

大腸内視鏡検査(当院入院2日目に施行).

全大腸に発赤した浮腫状粘膜と血管透見消失を認め,不整形,縦走や深掘れ等の多彩な形態の潰瘍が多発していた.

a:回盲部.

b:S状結腸.

c:直腸.

病理組織所見(Figure 2):S状結腸粘膜生検では,粘膜固有層から粘膜下層に高度な炎症細胞浸潤を認めたが,陰窩のねじれや腺管萎縮の所見は乏しかった.また,毛細血管周囲に著明な好中球浸潤が見られたが,陰窩上皮内への好中球浸潤は乏しく,陰窩炎はごく軽微であった.免疫染色では,サイトメガロウイルス陽性細胞を少数認めた.

Figure 2 

生検病理組織像.

a:S状結腸の粘膜固有層から粘膜下層に多彩な炎症細胞浸潤が目立っていた.陰窩のねじれや萎縮の所見は乏しかった(H&E染色,×40).

b:粘膜固有層の強拡大観察では,毛細血管周囲(白矢印)に著明な好中球浸潤が見られたが,陰窩上皮内への好中球浸潤は乏しく(黒矢印),陰窩炎はごく軽微であった(H&E染色,×100).

c:免疫染色では,サイトメガロウイルス抗原陽性細胞を粘膜固有層内に少数認めた(×100).

臨床経過(Figure 3):転院時に腸炎が高度であったため,絶食と高カロリー輸液管理を行い,深掘れ潰瘍からの二次的な細菌感染を防ぐために抗菌薬投与を追加した.上部消化管内視鏡検査では,特記すべき所見を認めなかった.腹部造影CT検査では,全大腸に連続性の壁肥厚所見を認めたが,他臓器に特記すべき所見は認めなかった.現病歴と検査成績より,潰瘍性大腸炎に類似した臨床所見を呈した,アバタセプトに起因する免疫関連有害事象の大腸炎を疑った.前医で開始したプレドニゾロン投与(30mg/日)がある程度の治療効果を示したと思われたので60mg/日に増量して治療強化した.また,生検所見よりサイトメガロウイルス感染の合併を疑いガンシクロビルも追加投与した.症状と内視鏡所見の改善に伴いプレドニゾロンは15mg/日まで漸減し,第37病日に退院した.退院3週間後の大腸内視鏡検査では腸炎は瘢痕化していた(Figure 4).発症から15カ月経過した現在,腸炎の再発はなく,関節リウマチに対してはブシラミン,サラゾスルファピリジンとプレドニゾロンが投与されている.

Figure 3 

入院後の症状と治療の経過.

プレドニゾロンを60mg/日に増量後,症状は改善した.大腸内視鏡検査の影響で一時的(day30-31)に便回数が増えたが,症状と内視鏡所見の改善に伴いプレドニゾロンは15mg/日まで漸減し,第37病日に退院した.

Figure 4 

大腸内視鏡検査.

S状結腸には多数の白色潰瘍瘢痕を認めた.

Ⅲ 考  察

アバタセプトとは,ヒト細胞障害性Tリンパ球抗原-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4:CTLA-4)分子の細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のFc領域からなる可溶性融合蛋白(CTLA4-Ig)であり,抗原提示細胞表面のCD80/CD86に結合してT細胞上のCD28との結合による共刺激シグナルを阻害し,T細胞の活性化を抑制する薬剤である 1),2.わが国では,関節リウマチと多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎に対して保険承認されている.関節リウマチに対する第Ⅲ相臨床試験の報告では,433例のアバタセプト投与症例において,有害事象で最も多かったのは,頭痛(9.5%),次いで悪心(6.7%),浮動性めまい(4.4%)であり,下痢は2.8%であった 1.また,9件の二重盲検試験をまとめた総計2,653例のアバタセプト投与症例の検討によれば,有害事象の下痢は9%に認められているが,偽薬と同程度であった 3.これらの報告で下痢の有害事象は認められているものの,下痢に関する詳細な検討は行われていない.2021年7月以前を対象にPubMedと医学中央雑誌で「abatacept」をキーワードとして検索した結果,本剤関連の腸炎を3例認めた 4),5.わが国では認可されていないがアバタセプトと同様のCTLA4-Igであるベラタセプトによる1例 6と自験例を含めた報告例の一覧をTable 2に示す.年齢は65~75歳であり,男性は3例,女性は2例であった.自験例での発症時期は投与開始4カ月目であったが,1~2年経過した症例が3例あった.内視鏡所見は,ベラタセプトによる1例以外は潰瘍性大腸炎に類似したびまん性の炎症所見であった.病理学的所見は,粘膜にリンパ球や好中球の浸潤があり,陰窩膿瘍を伴う例も見られた.全例で大腸以外の腸管での炎症を指摘されていなかった.治療は全例でCTLA4-Igを中止して,5-アミノサリチル酸製剤,プレドニゾロンやインフリキシマブ等の炎症性腸疾患の治療に準じた加療が奏効している.

Table 2 

アバタセプトとベラタセプトに関連した腸炎の国内外の文献報告例.

アバタセプトは,T細胞の活性化を抑制して関節リウマチ患者に有効性を認めたため,当初活動期の潰瘍性大腸炎とクローン病患者への治療効果も大いに期待されて治験が行われたが,両疾患への効果は立証されなかった.さらに重症の潰瘍性大腸炎においては実薬群でプラセボ群より原疾患の増悪が多いという結果であった 7.本剤の副反応による腸炎の発症や増悪の機序は解明されていないが,腸管の恒常性を維持する制御性T 細胞(regulatory T cells:Tregs)が障害される機序が推察されている 7)~9.腸炎マウスモデルによる検討では,アバタセプトの投与によってTh1/Th2タイプの腸炎は抑制されるも,Tregsの変化が生じてTh17タイプの腸炎を惹起することが報告されている 10.本症例では炎症局所のThタイプの詳細な検討は行っていないが,腸管内の複雑な免疫ネットワークの破綻が発症に関与していると思われる.また,治療による日和見感染症の合併の影響も考えられる.アバタセプトの投与による免疫能低下に伴う糞線虫過剰感染性腸炎の報告例がある 11.今回の症例でも生検組織内にサイトメガロウイルス陽性細胞がわずかに認められており,日和見感染症が炎症増悪にある程度関与している可能性が考えられる.アバタセプトは,関節リウマチ以外にもシェーグレン症候群や全身性エリテマトーデス等の多くの自己免疫疾患への臨床応用が世界中で精力的に進められており 2,それに伴って増えると思われる免疫関連有害事象の病態解明と対処法の確立も同時に進められていくべきであろう.

Ⅳ 結  語

アバタセプトをはじめとする免疫系に作用する薬剤を使用する際は,大腸炎等の免疫関連有害事象に注意しながら診療することが肝要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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