2022 年 64 巻 8 号 p. 1499-1512
【目的】ESD中の止血処置における赤色狭帯域光観察(Red Dichromatic Imaging:RDI)の有効性と安全性について検討する.
【方法】本研究は食道,胃,結腸,直腸ESDを予定された404名の患者を対象とした多施設ランダム化比較試験である.ESD中の止血処置をRDIで行うRDI群(204名)と,白色光観察(White Light Imaging:WLI)で行うWLI群(200名)と定義した.主要評価項目は止血処置に要する時間(止血時間)の短縮効果とし,副次的評価項目は止血処置中に内視鏡医が感じる心理的ストレス,ESD治療時間の短縮効果,RDI群における穿孔率の非劣性.
【結果】RDI群(n=860)の平均止血時間はWLI群(n=1,049)と比較し短縮効果は認めなかった.(RDI群:62.3±108.1秒,WLI群:56.2±74.6秒;p=0.921).感度分析ではRDI群の止血時間はむしろWLI群より有意に長かった(RDI群:36.0(18.0-71.0)秒,WLI群:28.0(14.0-66.0)秒;p=0.001).心理的ストレスはRDI群の方がWLI群と比較し有意に少なかった(RDI群:1.71±0.935,WLI群:2.03±1.038;p<0.001).ESD治療時間はRDI群(n=161)とWLI(n=168)群で有意差を認めなかった(RDI群:58.0(35.0-86.0)分,WLI群:60.0(38.0-88.5)分;p=0.855).穿孔は4例みられたが,すべて止血処置中ではなかった.
【結語】RDI群を用いた止血処置は止血時間の短縮効果を認めなかった.しかし,RDIを用いた止血処置は安全で止血処置中の内視鏡医が感じる心理的ストレスを軽減する効果が認められた.UMIN000025134.
Objectives: To verify the efficacy and safety of red dichromatic imaging (RDI) in hemostatic procedures during endoscopic submucosal dissection (ESD).
Methods: This is a multicenter randomized controlled trial of 404 patients who underwent ESD of the esophagus, stomach, colorectum. Patients who received hemostatic treatments by RDI during ESD were defined as the RDI group (n = 204), and those who received hemostatic treatments by white light imaging (WLI) were defined as the WLI group (n = 200). The primary endpoint was a shortening of the hemostasis time. The secondary endpoints were a reduction of the psychological stress experienced by the endoscopist during the hemostatic treatment, a shortened treatment time, and a non-inferior perforation rate, in RDI versus WLI.
Results: The mean hemostasis time in RDI (n = 860) was not significantly shorter than that in WLI (n = 1,049) (62.3±108.1 vs. 56.2±74.6 s; P = 0.921). The median hemostasis time was significantly longer in RDI than in WLI (36.0 [18.0-71.0] vs. 28.0 [14.0-66.0] s; P = 0.001) in a sensitivity analysis. The psychological stress was significantly lower in RDI than in WLI (1.71±0.935 vs. 2.03±1.038; P < 0.001). There was no significant difference in the ESD treatment time between RDI (n = 161) and WLI (n = 168) (58.0 [35.0-86.0] vs. 60.0 [38.0-88.5] min; P = 0.855). Four perforations were observed, but none of them took place during the hemostatic treatment.
Conclusions: Hemostatic treatment using RDI does not shorten the hemostasis time. RDI, however, is safe to use for hemostatic procedures and reduces the psychological stress experienced by endoscopists when they perform hemostatic treatment during ESD. UMIN000025134.
内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)中の止血処置は,出血点の同定が難しいと止血処置に時間がかかるため,困難で内視鏡医にとってはストレスを感じる状況である 1),2).内視鏡スコープの600nmの波長の琥珀色の光と630nmの波長の赤色光の2つの波長の血液中のヘモグロビンによる吸収率の相違により,出血点の視認性を向上できる(Figure 1).われわれはオリンパス株式会社(東京)と協力し600nmと630nmの2つの波長に狭帯域化した新規画像強調内視鏡である赤色狭帯域光観察(Red Dichromatic Imaging:RDI)を開発した 3).2020年にはRDIは最新の内視鏡モデルであるEVIS X1シリーズに新機能として搭載された 4),5).胃ESD中の後ろ向き研究において,RDIが出血点の視認性向上に有効であった少数の報告がある(Figure 2) 6).また,探索的研究ではRDIによるESD中の止血処置に要する時間(止血時間)の短縮効果が報告されているものの,白色光観察(White light imaging:WLI)による止血処置と比較した,RDIによる止血処置の止血時間短縮効果に関する前向き研究の報告はない.

RDIによる出血点の視認性向上の原理.
600nmの波長はヘモグロビンに多く吸収され,630nmの波長はヘモグロビンにほとんど吸収されない.この2つの波長におけるヘモグロビンの吸収の特徴により,出血点のような高濃度のヘモグロビンの部位では630nmの波長の反射光と比較し,600nmの波長の反射光は減衰する.一方,出血周辺のヘモグロビン濃度の低い部分では,600nmと630nmのいずれの波長の反射光も同様の強さで観察される.RDIは2つの反射光の強度情報を用いた出血点と出血周辺の色差により出血点を強調する.内視鏡医にはヘモグロビン濃度の濃い出血点はオレンジ色,ヘモグロビン濃度の薄い出血点周辺では黄色に認識される.このように,RDIによる出血点と出血周辺における色のコントラストにより出血点を容易に特定することができる.

RDIとWLIを用いて観察した出血点.
RDIを使用する内視鏡医は,血液が黄色に観察され,また出血点と出血周辺とのコントラストにより出血点を明確に識別できる.矢印はRDIで観察された出血点を指す.
本研究はESD中の止血処置におけるRDIの有効性と安全性について評価することを目的とする.
本研究は多施設共同前向き非盲検化ランダム化比較試験である.本研究のプロトコールは既報の論文で報告したが 7),解析と結果は既報とは異なるものである.
対象患者適格基準は以下のものである:1)早期食道癌,早期胃癌,早期大腸癌または大腸腺腫(日本のガイドラインに基づいたESDの適応疾患)を予定している 8)~10)(詳細はAppendix S1(電子付録)に記載);2)同意を取得時の年齢は20歳から80歳;3)ESD,外科手術,放射線治療,化学療法の治療歴が対象臓器にない(大腸EMRと大腸ポリペクトミーは例外として登録可能);4)ESD前3カ月以内に施行された血液検査で血小板数>10×104/μLまたはヘモグロビン>8.0g/L;5)performance status of 0-1(Eastern Cooperative Oncology Group standard);6)本人から同意を得ることができる;7)日本消化器内視鏡学会のガイドラインに基づいて抗血栓療法を休薬できる 11).除外基準は以下のものである:1)多発性病変のESDを予定;2)血液透析中の患者;3)同意を取得した時点で抗血栓療法を中止できない,あるいはヘパリン化を行う患者;4)遺残再発病変に対する治療;5)担当医が本研究への参加が不適当とみなした患者.
研究参加施設,倫理,麻酔,使用内視鏡スコープ,ESD治療方法詳細な情報はAppendix S1(電子付録)に記載している.治療を担当する内視鏡医は試験対象臓器のESDを30症例以上経験したものと規定した.また,500症例以上のESDを経験したものをエキスパート,500症例未満のものをノンエキスパートと定義した 12).
止血処置試験参加医師は開始前にRDIを用いた止血処置を数回経験した.高周波発生装置はVIO300D(ERBE,Tuebingen,Germany)を使用し,設定はTable S1(電子付録)に記載した.出血時はナイフ先端や止血鉗子を用いて止血処置を行う.自然止血されてしまうことが予想されるごく少量の出血は出血として認識しない.拍動性出血に対しては止血鉗子を使用し,漏出性出血に対してはナイフ先端で止血処置を行う.ナイフ先端で止血できなかった場合は止血鉗子に変更する.介入群(RDI群)では,止血処置をWLIからRDIに切り替えて行い,コントロール群(WLI群)ではそのままWLIで行う.
評価方法とアウトカム止血時間の定義は粘膜切開,粘膜下層剝離中において,出血を確認してから止血処置が完了するまでとし,時間は治療担当医以外の第三者が測定した.RDI群では,WLIからRDIに切り替える時間は含めない.また,確実な出血に対する止血処置のみを評価対象とするために5秒以内に止血処置が完了した場合は解析から除外する.主要評価項目はRDI群の1回の止血処置における止血時間の短縮効果である.副次的評価項目は以下のものである:1)WLI群と比較したRDI群における1回の止血処置中の内視鏡医が感じる心理的ストレス減少効果;2)WLI群と比較したRDI群における治療時間短縮効果;3)RDI群におけるWLI群と比較して同程度の安全性(穿孔を含む).副次的評価項目である内視鏡医が感じる心理的ストレスは以下の5段階スケールで主観的に評価される(1 ストレスなし;2 わずかなストレス;3 中等度のストレスを感じる;4 強いストレスを感じる;5 かなり強いストレスを感じる)(Table S2(電子付録)).心理的ストレスとは出血点の視認性,出血の勢い,出血時間など,止血処置から影響される心理的ストレスすべての因子に基づいて判断される.
サンプルサイズの設定サンプルサイズは先行したESD中の止血時間に関する探索的研究の結果から計算した 10).先行研究では,止血時間の平均値はRDI群で51.0±70.6秒,WLI群で61.0±69.6秒であった.この平均値に基づいて片側検定,有意水準を0.05,検出力を0.08として計算された止血処置回数は1,294回であった.探索的研究において,1回のESD治療中の平均止血処置回数は3.9回であったため,本研究において必要症例数は324症例(1,294/3.9)と計算された.ESD中に1回も止血処置がされなかった症例が約17%であったことも加味して必要サンプルサイズは400症例と計算した.
統計解析2群間の患者背景の検討には,Fisherの正確確率検定,カイ二乗検定,ステューデントのt検定,ウェルチのt検定,マン・ホイットニーのU検定を用いた.止血時間の差はサンプルサイズの計算と同様にステューデントt検定(片側検定)による平均値と標準偏差で表記した.しかし,本研究の止血時間のデータは正規分布に従っていなかったため,感度分析としてマン・ホイットニーU検定を追加で行った.2群間の感度分析における治療時間や止血時間の差は中央値,第1四分位,第3四分位で表記した.2群間における内視鏡医の感じる心理的ストレスの差は等分散の場合はステューデントt検定,等分散でない場合はウェルチのt検定で検討した.2群間において,p値が0.05以下を統計学的有意差ありとした.統計解析はJMP Pro(version 11;SAS Institute, Cary, NC, USA)で行った.
患者は介入群(RDI群,n=204)とコントロール群(WLI群,n=200)の2群に電子割付(electronic data capture:EDC)システムによって無作為に割り付けられた.患者の割付は臓器と施設で層別化し最小化法で行った.
患者背景2017年10月から2019年7月の期間で,食道,胃,大腸ESDを予定する404名の患者が本研究に登録され,無作為にRDI群とWLI群に割り付けられた.ESD中1回も止血処置を行わなかった41名,登録ミスあるいは参加撤回が理由で登録から除外した11名,ESD中のすべての止血処置が5秒以内で終了した1名,ESD中にプロトコールから逸脱した18名(具体的な内訳は,9名は治療中の術者交代,2名は治療中の内視鏡スコープ変更,4名は内視鏡的粘膜切除術(EMR)による治療に変更,1名は内視鏡モニターの不具合,2名は多発性病変の治療)は除外された(Figure 3).333名が止血時間,心理的ストレス,合併症について評価対象となった.患者背景はRDI群とWLI群で均等に割り付けされた(Table 1).ナイフ先端で行った止血処置における1症例中の平均止血回数はRDI群において少なく(p=0.04),特にDualナイフを使用した場合に少なかった(p=0.03).後出血はRDI群で2名(1.2%),WLI群で5名(2.9%)みられ,2群間に有意差を認めなかった(p=0.448).

本研究のフローチャート.
404名が本研究に登録され,71名が除外された.333名において止血時間,止血処置中に内視鏡医の感じる心理的ストレス,安全性を検討した.穿孔を来した4名を除外した329名において治療時間を検討した.

患者背景.
WLI群の2回の止血処置において正確な止血時間の測定ができなかった.WLI群と比較してRDI群の平均止血時間短縮効果はみられず (RDI群:62.3±108.1秒;n=860回,WLI群:56.2±74.6秒;n=1,049回)(p=0.921),感度検定ではRDI群(36.0(18.0-71.0)秒;n=860回)がWLI群(28.0(14.0-66.0)秒;n=1,049回)と比較し有意に長かった(p=0.001)(Table 2)(Figure 4).各臓器別の解析においても,RDI群の平均止血時間はWLI群と比較し短縮効果はみられず,感度検定においては,直腸(p=0.037)と胃(p=0.007)においてRDI群の平均止血時間が長く,胃内の部位別検討では下部(p=0.014)と前後壁(p=0.004),小彎(p=0.019)で長かった.ナイフ先端を用いた止血処置においては,WLI群と比較しRDI群の平均止血時間の短縮効果はみられず(p=0.994)(Dual knife,p=0.996;IT knife,p=0.737),感度検定では,RDI群(24.0(14.7-43.2)秒,n=520)の方がWLI群(19.0(12.0-36.0)秒,n=697)よりも有意に長く(p=<0.001),特に胃(p=0.002)と結腸(p=0.001)において長かった(Table 3).Dualナイフを使用した止血処置では,平均止血時間はWLI群(19.0(11.0-36.0)秒,n=667)と比較し,RDI群(26.0(15.0-45.0)秒,n=472)で有意に長く,特に胃(p<0.001)と結腸(p=0.001)で長かった.ITナイフを使用した止血処置では,2群間の止血時間において有意差を認めなかった(p=0.754).止血鉗子を用いた止血時間が食道(RDI群:43.1±37.2秒;n=41,WLI群:77.3±75.8秒;n=46,p=0.004)と結腸(RDI群:85.7±69.3秒;n=21,WLI群:138.2±140.9秒;n=52,p=0.018)において有意にRDI群の方が短く,感度検定においても,RDI群(56.0(30.5-102.2)秒,n=306)の方がWLI群(66.0(41.0-110.0)秒,n=313)と比較して短く(p=0.018),特に食道で短かった(p=0.004).ナイフ先端から止血鉗子に切り替えた止血処置については2群間において有意差は認めなかった(p=0.175,感度検定:p=0.127).また,エキスパート(p=0.129),ノンエキスパート(p=0.972)どちらが行ったESD中の止血処置についても2群間で有意差を認めず,感度検定においては,ノンエキスパートが行ったESD中の止血処置において,RDI群(39.0(20.0-76.0)秒,n=537)の方がWLI群(29.5(13.0-70.0)秒,n=576)と比較し有意に長かった(p<0.001).またエキスパートが行ったESD中の止血処置回数は,RDIで行った回数(323/860(37.5%))がWLI(473/1049(45.1%))と比較し有意に少なかった.(p<0.001).

臓器部位別の止血時間.

RDI群とWLI群の止血時間についてのヒストグラム.
RDI群とWLI群の止血時間の分布は類似していた.しかし,6秒から36秒の止血時間はRDI群434回,WLI群593回であり,RDI群で少なかった.

臓器毎の止血デバイス別と内視鏡医の経験レベルによる止血時間.
穿孔した4症例は治療時間の検討から除外した.平均治療時間はRDI群で58.0(35.0-86.0)分(n=161),WLI群で60.0(38.5-88.5)分(n=168)で有意差を認めなかった(p=0.855)(Figure 5).16名のエキスパートが141症例と45名のノンエキスパートが188症例のESDを施行したが,臓器別の検討でもエキスパートとノンエキスパートの施行したESDにおける治療時間において有意差は認めなかった(Table 4).

治療時間.
平均治療時間はRDI群58.0(35.0-86.0)分,WLI群60.0(38.0-88.5)分であった.2群間において有意差を認めなかった(p=0.855).

治療時間.
RDIで行った止血処置は860回,WLIで行った止血処置は1,049回であった.1回の止血処置における内視鏡医が感じる心理的ストレスの平均スコアは臓器や使用デバイスにかかわらずWLI群(2.03±1.03,n=1,049)と比較しRDI群(1.71±0.93,n=860)で有意に小さかった(p<0.001)(Table 5).

止血処置における内視鏡医が感じる心理的ストレス.
軽度の誤嚥性肺炎がRDI群で2例,WLI群で1例みられた.術中穿孔はRDI群で2例,WLI群で2例みられた.穿孔を来した4例はいずれも止血処置によって引き起こされたものではなく,全症例保存的治療により改善した.
本論文はESD中の止血処置におけるRDIの有効性を評価した初めての報告である.探索的臨床研究の結果による予想に反して,RDI群における止血処置はWLI群と比較して長く,ナイフ,特にDualナイフを使用した止血処置においては,RDI群の方がWLI群より長かった.2群に割り付けられる止血処置数がほぼ同数と予想していたものの,RDI群の方がWLI群と比較して明らかに少なかった.ナイフ先端を用いた止血処置はRDI群では520回,WLI群では697回行われ,RDI群による止血処置回数がWLI群よりかなり少なく,1症例あたりのナイフ先端を用いた平均止血処置回数はWLI群と比較してRDI群で有意に少なかった.さらに,6秒から36秒であった止血処置は,WLI群と比較しRDI群で少なかった (RDI群:434回,WLI群:593回).よって,自然止血するような出血がWLIからRDIに切り替えると目立たなくなってしまうため,RDI群においては,このような出血に対しては止血処置が行われなかったと推察した.WIL群と比較し,RDI群では自然止血しないような確実な出血に対する止血処置が多かったことがRDI群におけるナイフ先端での止血処置において止血時間が長くなった原因ではないかと考える.本試験ではナイフ先端による,特にDualナイフによる止血処置回数が多かったため,全体としてRDI群の止血時間が長かったのは,RDI群のナイフ先端による止血処置が長かったことを反映した可能性がある.一方,止血鉗子による止血処置においては,食道ESDにおいて,RDI群の止血時間はWLI群と比較し短く,結腸においても短い傾向があった.止血鉗子による止血が必要となる出血は一般的に多量の出血が多く,自然止血することは稀である.RDIはこのような出血において,出血点を特定することが容易で,短時間の止血処置が可能となる 13).しかし,胃や直腸の血管は,一般的には食道や結腸よりは太く,よって多量出血が多い傾向がある 14),15).RDIを用いて出血点をすぐに特定できたとしても,多量出血に対する止血処置に長い時間がかかってしまう.多量出血の止血処置に長い時間がかかるのは,出血点の視認性以外の因子,例えば医師の内視鏡技術などが止血時間に影響することも理由の1つであると考える 16).また,エキスパートの止血処置回数がRDI群で有意に少なかったことからも,止血時間の結果に大きな影響を及ぼしたと推察される(RDI群:37.5%,WLI群45.1%,p<0.001).ノンエキスパートの止血処置において,RDI群の止血時間が長いのは,ノンエキスパートがRDIを用いた止血処置にまだ習熟していない可能性が考えられる.
RDIは臓器や使用デバイスにかかわらず,ESD中に最もストレスを感じる場面の1つである止血処置において内視鏡医が感じる心理的ストレスを軽減する効果がある 17).RDIが心理的ストレスを軽減する理由は,出血が黄色に観察されることである 18).また,出血点周囲の組織が透けるように良くみえることで出血点が容易に特定できることもある.この機序は,RDIの波長は出血点では血液中の高濃度のヘモグロビンにより多く吸収され組織へ到達しにくい一方,出血点の周囲では,ヘモグロビン濃度は低いので,RDIの波長は出血周囲の血液によってわずかに吸収されるだけであり,ほとんどが組織に到達できるためである.
治療時間に関しては,止血鉗子を用いた止血時間は短かったものの,RDI群において短縮効果がなかった.治療時間は止血時間のみならず,病変部位や内視鏡技術,内視鏡スコープの操作性などの様々な因子にも影響を受けることが原因と考えられる.また,ESD中の止血処置においてRDIを使用することの安全性については問題がなかった.
本研究にはいくつかのlimitationがある.まず,RDI群の止血処置回数がWLI群より有意に少なかったこと.内視鏡医の技術レベルについて層別化していなかったため,エキスパートによるRDI群の止血処置回数がWLI群と比較して有意に少なかったこと.次に,治療担当医の内視鏡技量の均一化が不十分であったこと.3番目は,治療担当医によって使用した局注剤や止血鉗子の種類が異なること.4番目はESD治療中のトラクションデバイスの使用について規定していなかったこと.5番目は,各止血処置における心理的ストレスの評価が主観的であったこと.本研究では,止血処置に関連するこれらの潜在的な交絡因子が十分に除外されなかった.最後に,この研究は二重盲検化試験ではないこと.
RDIはESD中の止血時間短縮効果はなかったが,止血処置中に内視鏡医が感じる心理的ストレスを軽減する効果が認められた.RDIを用いたESD中の止血処置は安全だが,治療時間を短縮する効果はみられなかった.
謝 辞
藤城光弘先生,後藤修先生,落合康利先生,堀井城一郎先生,飽本哲兵先生,木口賀之先生,中山敦史先生,西澤俊宏先生,平井悠一郎先生,大野正芳先生,齋藤格先生,古畑司先生,佐々木基様,大野綾香様,五十嵐誠先生.本試験への参加と多大なるサポートをいただき深謝申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし
資金提供なし
補足資料
Appendix S1 研究参加施設は慶應義塾大学医学部,国立がん研究センター中央病院,国家公務員共済連合会虎の門病院,聖マリアンナ医科大学,群馬大学,東京大学,国立病院機構東京医療センター.本研究は各施設の倫理委員会で承認された.食道,胃,大腸ESDの適応は日本のガイドラインを準拠した.ESD治療中,患者は静脈麻酔で鎮静され,内視鏡医はオリンパス株式会社から供給されたプロトタイプの内視鏡スコープを使用した.
Table S1 すべての参加施設は高周波発生装置としてVIO300Dを使用した.設定は,切開はDry cutまたはEndo cut,剝離はSwiftまたはForced coagulationで,止血はSoft coagulationとした.
Table S2 内視鏡医の感じる心理的ストレスは以下の5段階のスケールを用いて主観的に評価された(1 ストレスなし;2 わずかなストレス;3中等度のストレスを感じる;4 強いストレスを感じる;5 かなり強いストレスを感じる).1回の止血処置毎に心理的ストレス,止血時間,止血処置に使用したデバイスを第三者が記録した.
本論文はDigestive Endoscopy(2022)34, 379-90に掲載された「Clinical usefulness of red dichromatic imaging in hemostatic treatment during endoscopic submucosal dissection: First report from a multicenter, open-label, randomized controlled trial」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.