2022 年 64 巻 8 号 p. 1519
【背景と目的】インスリノーマは膵神経内分泌腫瘍の中でもっとも頻度が高く,温存手術が適応となる.EUSガイド下ラジオ波焼灼術(EUS-guided radiofrequency ablation:EUS-RFA)は限局性腫瘍に対する新たな治療法である.本研究は20mm未満の膵インスリノーマに対するEUS-RFAの安全性と有効性に関するプレリミナリーな臨床研究である.
【方法】三次医療センター2施設で膵インスリノーマに対してEUS-RFAを施行した臨床経過を解析した.
【結果】2017年11月~2020年12月の期間中,7例(男:女=1:6,年齢中央値:66歳)が登録された.EUS-RFA 1回の焼灼により全例で速やかに低血糖が改善し,画像診断では7例中6例が完全寛解に至り,無症候を維持していた(観察期間中央値:21カ月(範囲:3~38カ月)).3例で軽症合併症がみられた.高齢者の1例では15日目に胃後部に液体貯留を生じ,1カ月後に死亡した.
【結論】2cm未満の膵インスリノーマに対するEUS-RFAは有効で,安全性は許容範囲と考えられる.長期予後や再発に関してはさらなるエビデンスの蓄積が必要である.
EUS-RFAはEUSガイド下に腫瘍を穿刺し,焼灼を行う新たな方法である.本研究では先端から1cmのみが通電される19GのRFAシステム(EUSRA,STARmed社,Taewoong Medical,韓国,本邦未承認)を使用した.焼灼条件は50W,1~5サイクル,最大10秒/サイクルであり,腫瘍内に高エコーのバブルが発生するまで焼灼を施行した.予防的膵管ステント留置はプロトコールで規定されておらず,内視鏡医の判断によって決定された.1例で腫瘍と主膵管が近接しており,予防的に術前に膵管ステントが留置された.術前にはジクロフェナクあるいはインドメタシン100mgの坐剤あるいは経静脈的投与が施行され,予防的に抗菌剤も投与されていた.腫瘍径は平均13.3mm(範囲:8-20mm).腫瘍部位は頭部1,鈎部3,体部1,体尾部境界1例.全例が単発,症候性であった.GradingはG1が4,G2が1例.EUS-RFAは6例が1回,1例は2回のセッションを必要とした.EUS-RFA後に全例で症状の軽減と血糖値の正常化が得られた.画像診断では6例で完全寛解,1例で部分寛解であった.平均在院期間は1.7日であった.有害事象は主膵管近傍例で膵管ステント留置にも関わらず,EUS-RFA後に膵炎がみられた.上腸間膜静脈近傍例ではEUS-RFA 1週間後に発熱と中等度の腹痛が生じたが,抗菌薬投与により改善した.重症合併症は1例で,97歳の超高齢者例はEUS-RFAの合併症に対する治療を希望せず,既述したように死亡した.膵インスリノーマの標準治療は外科切除であるが,82%が20mm未満で90%以上が良性かつ単発であり,大部分は核出術や部分切除となる.そのため,35%に及ぶ外科的合併症や膵機能障害の可能性については議論の余地がある.20mm以下の膵インスリノーマに対するEUS-RFAに関する既報(7報)では有効性と安全性(経過観察期間は9.7~22カ月)が報告されている.EUS-RFAは膵インスリノーマ(20mm以下かつG1あるいはG2)に対する有望な治療法であり,重症合併症の可能性(特に膵炎や膵管狭窄)はあるものの,第一選択の治療として考慮されるべきと報告している.本論文では膵インスリノーマに対して,20mm以下かつG1あるいはG2ではEUS-RFA,20mm超えでは外科あるいはEUS-RFAが提唱されている.EUS-RFAは有望な治療法であり,本邦での導入が望まれる.今後,著者らが提唱した治療アルゴリズムは標準になり得るが,主膵管や門脈系近傍に存在する腫瘍に対しては十分に議論する必要がある.また,著者らの述べている通りにEUS-RFAの長期予後を症例の蓄積により解析していくべきである.