2023 年 65 巻 10 号 p. 2180-2186
症例は71歳男性.肝障害の精査目的で施行した全身CT検査で境界明瞭な類円形の肺結節影を2カ所指摘され,転移性肺腫瘍が疑われた.原発巣検索として施行した上部消化管内視鏡検査で,胃体部大彎に発赤調の扁平隆起性病変を認めた.病理組織検査でERG・CD31が陽性となる異型細胞を認め,胃血管肉腫と診断した.Paclitaxelによる化学療法を行い一旦縮小したが,その後再増大し,紫紅色の2型腫瘍様の形態を呈した.診断から11カ月後に全身状態の悪化,消化管出血により永眠した.消化管に発生する血管肉腫は原発性,転移性ともに非常に稀であり,本症例は内視鏡で経時的な形態変化を観察しえた貴重な症例と考えられた.
We report a case of a 71-year-old man with gastric angiosarcoma. Two round lung tumors were found accidentally on chest CT performed as part of an examination for abnormal liver function. These tumors appeared to be metastatic. Esophagogastroduodenoscopy revealed a red flat, slightly elevated mass in the greater curvature of stomach. Pathological examination of biopsied stomach tissues revealed proliferation of malignant cells. Immunostaining were positive for ERG and CD31. Based on these findings, the patient was diagnosed as having gastric angiosarcoma with lung metastases. The gastric and lung tumor masses diminished in size with the application of chemotherapy with paclitaxel. However, after seven chemotherapy courses, the gastric tumor enlarged and had a purplish-red type 2 tumor-like appearance. Therefore, we changed the chemotherapy regimens; however, it was ineffective. The patient died of serious bleeding in the digestive duct 11 months after the first visit. We encountered a rare case of angiosarcoma in the stomach with multiple distant metastases and found morphological changes in the tumor on conducting esophagogastroduodenoscopy. Further progress in the early diagnosis and treatment of angiosarcoma is needed to improve the prognosis of the affected patients.
血管肉腫は血管内皮細胞由来の稀な悪性腫瘍であり,頭頸部の皮膚や軟部組織に発生することが多く,消化管に発生することは極めて稀である 1).今回,われわれは経時的な形態変化を観察しえた胃血管肉腫の1例を経験したので報告する.
患者:71歳,男性.
主訴:なし.
家族歴:特記事項なし.
既往歴:高血圧症,69歳:左房粘液腫摘出術術後,50歳代:肺結核.
現病歴:前医にて左房粘液腫術後の経過観察中に,血液検査でAST 44U/L,ALT 47U/L,ALP 448U/L,γ-GTP 114U/Lと肝胆道系酵素の軽度上昇を認めた.精査目的で施行したコンピュータ断層撮影(CT)検査にて肝臓に器質的疾患の指摘はなく,左肺上区と舌区の2カ所に結節影を認めた.2病変とも境界明瞭で辺縁平滑な類円形病変であることから転移性肺腫瘍を疑い,原発巣検索目的で上部消化管内視鏡検査を行ったところ,胃体中部大彎に発赤調の扁平隆起性病変を認めた.前医の生検で低分化腺癌と診断され,精査加療目的で当院に紹介となった.
初診時現症:眼瞼結膜に貧血なし.眼球結膜に黄染なし.腹部は平坦・軟,圧痛なし.胸部正中に手術痕あり.全身の皮膚に異常所見なし.表在リンパ節を触知せず.
入院時検査成績:Hb 12.6g/dlと貧血は認めず.T.bil 0.7mg/dl,AST 17U/L,ALT 13U/Lと肝機能は正常範囲であった.
上部消化管内視鏡所見:萎縮がなくピロリ菌未感染の胃粘膜を背景とし,胃体中部大彎に20mm大の発赤調の扁平隆起性病変を認めた(Figure 1-a).Narrow band imaging(NBI)拡大内視鏡検査では,病変表面には溝状の胃小溝が目立ち,腺管開口部は円形~ややのびたスリット状で,窩間部の開大を認めた(Figure 1-b).上皮性の変化に乏しく,通常の胃癌とは異なり病変の主体が粘膜直下に存在すると考えられ,再生検を行った.

上部消化管内視鏡所見(初診時).
a:白色光内視鏡観察では萎縮のない粘膜を背景に,胃体中部大彎に頂部にびらんを伴う発赤調で不整形な扁平隆起性病変を認める.
b:NBI拡大観察では,病変表面には溝状の胃小溝が目立ち,腺管開口部は円形~ややのびたスリット状であった.窩間部の開大を認めるが上皮性変化に乏しい.
病理組織学所見:粘膜固有層内の既存の腺管の間に大小不同の核を有する異型細胞が小胞巣状に増殖しており(Figure 2-a),免疫染色では血管内皮細胞マーカーであるERG,CD31が陽性で(Figure 2-b,c),上皮性マーカーである抗サイトケラチン抗体のAE1/AE3は陰性であった.

胃病変の生検病理組織学的所見.
a:HE染色.既存の腺管の間に核の腫大や大小不同,核形不整を示す異型細胞が小胞巣状ないし弧在性に増殖.
b:ERG免疫染色は陽性であった.
c:CD31免疫染色は陽性であった.
F-18 fluorodeoxyglucose positron emission tomography(FDG-PET)所見:胃内にFDGの異常集積は認めなかった.左肺S1+2に11mm,S4+5に8mmの類円形の結節を認め,それぞれstandardized uptake value(SUV)max=1.3,SUV max=1.7の淡いFDG集積を認めた.他部位にFDGの集積は認めなかった.
肺腫瘍生検:肺結節に対してCTガイド下生検を施行したところ,血管内皮細胞様細胞の増生を認め,免疫染色では血管内皮細胞マーカーであるERG,CD31,CD34,第Ⅷ因子関連抗原が種々の程度に陽性で,サイトケラチンAE1/AE3は陰性であった.
以上の検査所見から,胃原発血管肉腫・肺転移と診断した.初診時には胃の原発病変は発赤調の扁平隆起性病変であったが(Figure 1-a),治療開始直前(初診時より1カ月後)の内視鏡所見では粘膜下腫瘍様の隆起をきたしていた(Figure 3-a).パクリタキセル(Paclitaxel:PTX)による化学療法 PTX:80mg/m2(day1,8,15/4week)を開始した.治療開始3カ月後には胃原発巣は著明に縮小し平坦化してびらん様の形態を呈しており(Figure 3-b),CTでは肺転移巣の縮小を認めた.治療開始6カ月後(weekly PTX 7クール施行後)に原発巣は増大し,bridging foldを伴い潰瘍部以外が正常粘膜に覆われた比較的なだらかな立ち上がりを有する潰瘍性隆起性病変の形態を呈した(Figure 3-c).CTで胸骨と右副腎に転移の出現を認め,progressive disease(PD)と診断した.二次治療としてエリブリンメシル酸塩(Eribulin:ERI)を選択し,治療開始8カ月後(ERI 3クール施行後)には胃原発巣はさらに増大し深紅色の2型腫瘍様の形態を呈し(Figure 3-d),PDと判定した.三次治療としてトラベクテジン(Trabectedin:TBD)を導入したが,1クール目の途中で全身状態の悪化を認め緩和治療の方針となった.治療開始から約10カ月後に消化管出血をきたし,永眠された.

上部消化管内視鏡所見.
a:Figure 1から1カ月後の治療開始直前.粘膜下腫瘍様の隆起を認める.
b:治療開始3カ月後.粘膜下腫瘍様の隆起の丈は平坦化し,著明に縮小してびらん様となっている.
c:治療開始6カ月後.病変のvolumeは増大し,bridging foldを伴う潰瘍性隆起性病変となっている.
d:治療開始8カ月後.病変はさらに増大し,深紅色の2型腫瘍様に変化.広く白苔,壊死組織を伴う.
血管肉腫は血管内皮細胞由来の軟部組織腫瘍で,すべての肉腫の中で1~2%を占める稀な間葉系腫瘍である.特に高齢者の頭頸部の皮膚に発生することが多い 1),2).大部分の症例で発症原因は不明であるが,危険因子として,紫外線曝露,外傷,乳癌術後のリンパ浮腫,放射線治療歴,高齢男性などといった報告がある 2).肝血管肉腫では,塩化ビニル,トロトラストや二酸化ナトリウムへの曝露歴が危険因子として挙げられている 2)~4).本症例ではそのような明らかな要因は認めなかった.Lahatらの報告による部位別発生頻度では皮膚が49.6%と最も多く,次いで乳房実質(14.4%),軟部組織(11.2%),心臓(6.7%),骨(4.1%)と報告されている 1).診断時に遠隔転移を有する症例も多く,転移臓器としては,肝臓,肺,リンパ節,骨,骨髄,軟部組織が多い 2).血管肉腫が消化管に発生することは極めて稀とされている.また,消化管に発生した血管肉腫の症状としては,消化管出血,貧血,腹痛,腸閉塞,体重減少などの報告がある 5)~8).予後は不良であり,本邦では5年生存率が1~5%,2年生存率が17%と報告されている 2).消化管に発生した血管肉腫は他の部位に発生したものに比較して極めて予後不良であり,ほとんどの症例が6~12カ月以内に死亡するとの報告もある 9),10).また,本症例のように消化管出血は致命的となり,重要な予後規定因子と考えられている 6).
1985年から2021年の期間で,医学中央雑誌・PubMedで「胃血管肉腫」「primary gastric angiosarcoma」のキーワードで検索した結果,胃原発の血管肉腫は7例であった(Table 1).複数の病変が存在する場合,何れが原発かを決定するのは容易ではない.組織学的に判断できなければ腫瘍の大きさや発見時期,あるいはその部位における発生頻度が判断の材料になる.自験例では診断時に胃と肺にのみ病変を認め,2カ所認められた肺腫瘍は,何れも類円形で転移性肺腫瘍に矛盾しない所見であった.このため胃原発血管肉腫の肺転移と診断した.

胃原発血管肉腫の報告例(会議録は含まず).
消化管に生じた血管肉腫の肉眼形態は粘膜下腫瘍型,ポリープ状隆起型,潰瘍型の3つに大きく分類される 11)~13).一方,早期に発見されたと考えられる症例では,亜有茎性ポリープや発赤調の扁平隆起性病変,あるいは縦走潰瘍やびらんなどの多彩な形態が報告されている 14)~16).血管肉腫の消化管病変は粘膜下層に発生することが多いとされており 17),早期には扁平隆起性病変やポリープ状隆起などの形態を呈し,その後粘膜下の腫瘍の増大に伴い粘膜下腫瘍型となり,増大に伴う出血と壊死性変化により中心部に潰瘍形成して2型腫瘍様に変化すると考えられる.診断時の発育段階の違いにより多彩な形態を呈しているものと考えられる.本症例では,初診時には発赤調の扁平隆起性病変であった.生検では粘膜固有層に僅少の腫瘍細胞を認めており,粘膜表面に腫瘍の露出は認めなかった.NBI拡大観察で上皮性の変化に乏しく,窩間部の開大を認めたことはそれを反映しているものと考えられる.PET-CTで胃病変に集積が認められなかった要因としては,腫瘍細胞が粘膜下層までに留まっており,腫瘍量も僅少であったことが原因と考えられる.初診1カ月後には粘膜下腫瘍様の形態に変化し,粘膜下の腫瘍が急速に増大したと考えられた.化学療法により病変は縮小し平坦化したが,その後は再増大し,2型腫瘍様へと変化し,経時的に多彩な形態変化が観察された.初診時の上部消化管内視鏡所見で,上皮性変化に乏しい扁平隆起性病変であったこと,化学療法で縮小し平坦化したことは,何れも粘膜下に病変の主座があることを示唆している.また,一般的に腫瘍が血管成分に富んでいることを反映して,易出血性で紫紅色を呈することが多く,血管肉腫の特徴とされている.自験例を含めた8例の胃血管肉腫において,胃での存在部位に特徴はなく,肉眼形態も様々であった(Table 1).Chun HZらが胃血管肉腫に対して化学療法を行い,潰瘍型病変が瘢痕化した症例を報告しているが 18),本症例のように様々な内視鏡所見の変化を経時的に観察しえた報告はなく,自験例が初と考えられる.また,自験例のような扁平隆起性病変が原発巣に特徴的な所見であるか検討したが,消化管に多発する転移例においても同様の扁平隆起性病変を呈しており 10),13),肉眼形態で原発か転移巣かを判断するのは困難と考えられた.
病理組織学的には核異型を伴う異常な血管内皮細胞による血管腔様の構造が典型像であるが,組織像は一様ではなく,腫瘍の血管成分が容易に認識できる高分化型,特徴的な所見が得にくく未分化癌・低分化型腺癌・悪性黒色腫・平滑筋肉腫などとの鑑別が困難な低分化型,サイトケラチンが陽性の類上皮型の3つに分類される 10),19),20).低分化型では紡錘形細胞や上皮様細胞がシート状に増殖し血管構造が明らかでない場合もあり,鑑別のため血管内皮細胞のマーカーである第Ⅷ因子関連抗原・CD31・CD34などによる免疫染色が診断に有用である 21).本症例では,前医の胃腫瘍生検では低分化型腺癌と診断されたが,当院で再評価を行ったところ,上皮性マーカーであるサイトケラチンAE1/AE3は陰性で血管内皮細胞マーカーであるERGが陽性であり,血管肉腫の診断となった.異型細胞が僅少の場合や特徴的な血管腔様の構造がない場合,HE染色のみでは今回の様に低分化腺癌や未分化癌と診断されることがあるため,内視鏡像で血管肉腫を疑い積極的に免疫染色を行うことが早期発見と治療を考える上で重要と考えられた.
血管肉腫の治療は切除可能な場合は外科的切除が第一選択であるが,稀な疾患であることによる診断の遅れや,進行が極めて早いことから診断時すでに遠隔転移を有する症例や経過中に転移をきたす症例も多く,化学療法が治療の中心となる.自験例においても診断時に肺転移を認めた.消化管に発生した血管肉腫は消化管出血が致命的となることがあり,胃原発巣からの消化管出血が危惧されるため原発巣の切除も選択肢ではあったが,すでに肺転移があり予後が厳しく,早期に化学療法の導入が望ましいと判断した.切除不能・転移性の血管肉腫に対して現在本邦で保険適応となっている薬剤はPTX,Docetaxel,Doxorubicin,ERI,TBD,Pazopanibである.特にPTXは,切除不能血管肉腫30例を対象に前向き第Ⅱ相試験が行われ,2カ月投与後の奏効率は18%,観察期間中央値8カ月で無増悪期間中央値は4カ月,生存期間中央値は8カ月と報告されており 22),現在血管肉腫に対する化学療法の第一選択となっている.本症例ではPTX投与開始から3カ月後には腫瘍の著明な縮小を認め部分奏効となったが,6カ月後には主病変の増大と新規遠隔転移を認めた.その後ERI,TBDを投与行うも,何れも効果に乏しかった.
形態変化を観察しえた胃血管肉腫の1例を経験した.本症例は,胃血管肉腫の初期像から進行期まで経時的に内視鏡所見を報告した初めての症例である.様々な肉眼形態をとる本疾患の早期診断と治療を考える上で示唆に富む症例と考え報告した.症例の蓄積による治療法の確立が望まれる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし