日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
胃ランタン沈着症に合併した同時多発早期胃癌に対しESDを行った1例
小笠原 佑記沖 裕昌山田 高義中嶋 絢子耕崎 拓大谷内 恵介 内田 一茂
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2023 年 65 巻 10 号 p. 2187-2193

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要旨

症例は65歳男性.維持透析中で炭酸ランタンを内服していた.紹介元のEGDにて胃体下部小彎前壁に発赤調の陥凹病変(病変1)を認め,当院のEGDにて近傍に別病変(病変2)を検出した.背景粘膜はランタン沈着症の診断であった.Proton pump inhibitor内服とランタン休薬により,白色光観察では粘膜の粗造な変化は軽減し,Narrow Band Imaging(NBI)観察では胃癌病変が強調され,範囲診断が容易になっていた.ESDにより2病変を一括切除し,病理組織学的には胃癌病変のランタン沈着は非癌粘膜に比較して軽微であった.ランタン沈着症に同時多発早期胃癌を合併した症例は稀であり,内視鏡所見および病理組織学的所見を理解する上で重要な症例と考えられた.

Abstract

A 65-year-old man previously treated for Helicobacter pylori infection underwent hemodialysis for chronic renal failure and received lanthanum carbonate for 3 years. Lanthanum carbonate was approved for preventing hyperphosphatemia in patients undergoing dialysis for chronic renal failure in 2009, and is considered a highly safe drug because it shows little absorption in the gastrointestinal tract. Screening endoscopy demonstrated a reddish depressed lesion on the lesser curvature of the lower gastric body, and fine white granular discoloration was noted throughout the stomach, with intestinal metaplasia and mucosal atrophy. Biopsy specimens from the depressed lesion and surrounding mucosa revealed adenocarcinomas, including the presence of macrophages engulfing the brownish substance, which was suspected to be lanthanum carbonate in the nontumor gastric mucosa surrounding the cancer lesions. We made a diagnosis of intramucosal gastric cancers and performed one-piece ESD to remove both cancers. Based on the pathological examination, the two gastric cancer lesions were intramucosal well-differentiated adenocarcinomas with little lanthanum deposition in the tumor regions. Since lanthanum deposition may be associated with regenerative change, intestinal metaplasia, and/or foveolar hyperplasia of the gastric mucosa, endoscopic screening for gastric cancer may be effective in patients with chronic renal failure who are receiving lanthanum carbonate.

Ⅰ 緒  言

炭酸ランタンは高リン血症の治療薬として2009年に認可され,腸管における吸収がほとんどないため安全性の高い薬剤として使用頻度は多くなっている.その一方で近年,胃粘膜へのランタン沈着の報告が散見されるようになり 1)~7,びまん性の白色調顆粒状粘膜といった特徴的な内視鏡所見などが明らかになりつつある 2),3.しかしながら胃粘膜へのランタン沈着による粘膜傷害,それに伴う発癌の可能性は示唆されているものの,病的意義に関しては未だ明らかではない.今回特徴的な内視鏡所見を呈したランタン沈着症に早期胃癌2病変を合併し,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)内服とランタン休薬により胃癌病変の視認性の改善を認め,Narrow Band Imaging(NBI)拡大観察が範囲診断に有用であり,内視鏡的に治療し得た症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

症例:65歳男性.

主訴:嘔気.

既往歴:35歳時よりIgA腎症が原因で血液透析を受けており,高リン血症を契機に3年前から炭酸ランタンを内服していた.7年前に出血性胃潰瘍の既往があり,Helicobacter pylori除菌治療により陰性化した,高血圧,高尿酸血症,気管支喘息.

内服薬:炭酸ランタン750mg,メシル酸ドキサゾシン4mg,アムロジピンベシル塩酸塩5mg,テルミサルタン40mg,フェブキソスタット20mg,テオフィリン徐放錠100mg,プランルカスト水和450mg.

嗜好歴:機会飲酒程度,喫煙なし.

現病歴:嘔気の精査で行った紹介元の上部消化管内視鏡検査(EGD)にて胃体下部に発赤調の陥凹病変を指摘され,生検で腺癌を認めたため当科紹介となった.

身体所見:身長164cm,体重47.4kg,体温35.7℃,血圧121/77mmHg,脈拍69回/分.眼瞼結膜に貧血なし.眼球結膜に黄染なし.心肺雑音なし.腹部は平坦軟,腸蠕動音は正常.

入院時臨床検査成績:RBC406万/μL,Hgb13.4g/dLと軽度の貧血を認め,腫瘍マーカーのCEA,CA19-9値は正常範囲であった.血清抗Helicobacter pylori IgG抗体は3U/mL未満で,その他特記事項なし.

EGD所見(当科初診時):当科で行ったEGDでは背景胃粘膜に集合細静脈が規則的に配列する像(regular arrangement of collecting venules:RAC)を認めず,全体的に浮腫状で褪色調の凹凸が目立つ粗造な粘膜であり,小彎側を中心に粘膜萎縮と腸上皮化生を認めた.一部斑状発赤などの発赤所見があり,大彎部を除いたほぼ全域に白色の微細顆粒状沈着を広範囲に認め,背景胃粘膜からの生検でランタン沈着症と診断した(Figure 1-a ×から生検).胃体下部小彎前壁寄りに前医で指摘されたびらんを伴った発赤陥凹病変(病変1)を認め(Figure 1-a 黄丸),小彎側にかけて白色顆粒の少ない発赤調粘膜が広がっていた(Figure 1-a 矢印).病変1の中心部のNBI拡大観察では,生検後と思われる再生上皮を認め,辺縁の境界線(Demarcation Line:DL)を追うことが可能であり(Figure 1-b 矢印),不整な表面微細構造/不整な微小粘膜血管構築像(Irregular microsurface pattern/Irregular microvascular pattern:IMSP/IMVP)を認めた(Figure 1-b).また,病変周辺の非腫瘍部の粘膜は青白い光の線(Light Blue Crest:LBC)を認める絨毛状の腸上皮化生粘膜の上に多数の白色微細顆粒沈着物を確認できた(Figure 1-b 矢頭).

Figure 1 

当科初回内視鏡写真.

a:白色光観察.病変1(矢印).病変2(矢頭)は病変1と連続性なし.

b:NBI拡大観察(Figure 1-aの黄丸部).DLが追え(矢印),白色微細顆粒(矢頭)を認める.

c:NBI観察画像.病変1(矢印).病変2(矢頭)はBrownishな粘膜である.

胃体下部前壁の粘膜はNBI観察でも非常に粗造であり,病変1の境界が不明瞭であった(Figure 1-c 矢印:病変1).このため,胃体下部前壁の粘膜から数カ所の陰性生検を行った結果,一カ所から高分化管状腺癌を偶発的に検出した(Figure 1-c 矢頭:病変2).

EGD所見と生検結果から,胃ランタン沈着症に合併した同時多発胃癌と診断した.病変1は陥凹内隆起や襞の集中などの粘膜下層深部浸潤を疑う所見を呈しておらず,病変2とともに深達度は粘膜内に留まり,病変1および病変2はtype 0-Ⅱc+Ⅱb UL(-)およびtype 0-Ⅱbの高分化管状腺癌と術前診断し,内視鏡的切除の適応と判断した.

当科のEGDにて病変1と背景粘膜の境界が不明瞭であったことから,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)までの1.5カ月の間,病変部を含めた粘膜の炎症を抑える目的でPPI 10mg(エソメプラゾールマグネシウム水和物)/日を投与した.さらに,ランタン沈着による粘膜の粗造な変化の軽減を期待して,炭酸ランタンからスクロオキシ水酸化鉄顆粒へ変更した.

ESD施行時(当科初回EGDから1.5カ月後):当科の初回EGD所見(Figure 1-a)に比べると胃全体に見られた白色顆粒は残存していたが,粘膜の浮腫や凹凸状の変化は軽減していた(Figure 2-a).病変1の中心部のびらんは消失し,粗造であった背景粘膜は平坦化しており腫瘍と非腫瘍の境界は明瞭化していた(Figure 2-b).また,初回EGDでは病変2を指摘し得なかったが,ESD施行時には病変部が明瞭化していた(Figure 2-a 矢頭).NBI拡大観察では,病変1の境界部(Figure 2-b 黄線)を境にして非腫瘍部には白色顆粒沈着物(Figure 2-b 矢頭)をはっきりと認めるが,腫瘍部には沈着物をほぼ認めず病変境界はより明瞭化していた.しかし,陰性生検を実施して病変2を検出した経緯を考慮して,広めにマーキングを行ってから病変1と病変2の一括切除を行った.

Figure 2 

ESD時の内視鏡写真および切除標本写真.

a:病変1(矢印),病変2(矢頭).Figure 1-aと比べ粘膜は平坦化し,認識しやすい.

b:NBI拡大観察画像(病変境界部).DL(黄線)を境に白色顆粒沈着物(矢頭)の付着に差を認める.

c:ESD標本のマッピング.病変1:切片番号15-26.病変2:切片番号12-1.

ESD標本を提示する(Figure 2-c).

病理組織学的所見:病変1と病変2の病理診断は以下の通りである.

病変1:L,Less-Ant,type 0-Ⅱc+Ⅱb,38×18mm,well-differentiated tubular adenocarcinoma(tub1>pap),pT1a(M),UL(-),Ly0,V0,pHM0,pVM0.

病変2:L,Less-Ant,type 0-Ⅱb,6×4mm,well-differentiated tubular adenocarcinoma(tub1),pT1a(M),UL(-),Ly0,V0,pHM0(2mm),pVM0.

背景の胃底腺領域の胃粘膜には広く腸上皮化生を認め,粘膜内には褐色の微細顆粒を貪食したマクロファージが集簇しており,ランタン沈着症の像であった(Figure 3-a~c).微細顆粒を貪食したマクロファージは病変1と病変2の腫瘍部では非腫瘍に比べて非常に少なかった(Figure 3-c:非腫瘍部,Figure 3-d:腫瘍部).非腫瘍部の一部では微細顆粒を貪食したマクロファージの集簇が見られた(Figure 3-c青丸).

Figure 3 

病理組織学所見.

a:Figure 2-cの切片番号17の病理組織像(×40倍).赤枠:非腫瘍部拡大(Figure 3-b),黄枠:非腫瘍部(Figure 3-c),緑枠:腫瘍部拡大部(Figure 3-d).

b:非腫瘍部(×400倍).微細顆粒を貪食したマクロファージ(黄矢印)を認める.

c:非腫瘍部(×100倍).マクロファージ(黄矢印),マクロファージの集簇(青丸)を認める.

d:腫瘍部(×100倍).マクロファージの数が少なく集簇を認めない(黄矢印).

eCuraAの治癒切除を得られ,ESD後の経過も良好であり術後7日目に退院した.炭酸ランタンは退院後も中止し,スクロオキシ水酸化鉄顆粒を継続している.

Ⅲ 考  察

炭酸ランタンは高リン血症の治療薬として2009年に認可された.腸管における吸収がほとんどなく,ほぼ胆汁を介して便中に排泄されるため長期服用しても安全性の高い薬剤として使用頻度は増加している 8.胃と十二指腸へのランタン沈着が2015年に報告されて以降 1),2,症例報告が増えている.当初は潰瘍やびらんなど多彩な所見を呈すると報告されていたが 1,症例報告が増えるにしたがって,「胃粘膜の襞に沿った白色肥厚」,「環状の白色肥厚」,「襞状の白色肥厚」,「びまん性の顆粒状の白色粘膜」と表現される白色微細顆粒状粘膜が特徴とされるようになり 2),3,本症例でもびまん性の白色顆粒状粘膜の内視鏡像を示した.NBIを併用した拡大観察が軽微なランタン沈着であっても白色微細顆粒状粘膜が強調されることで拾い上げに有用であったとされており 4,本症例でも同様の特徴的な所見が見られた(Figure 1-bFigure 2-b 矢頭).この白色顆粒状粘膜に関してはランタンを貪食したマクロファージの集簇が原因と考えられている 5

実臨床でのランタン沈着症に関して,ランタン内服中に起こる胃・十二指腸粘膜へのランタン沈着に関するBanらの報告では,ランタン治療を受けた22名の患者から採取した121枚の胃粘膜生検標本を用いて背景粘膜の解析を行ってランタンが沈着する背景胃粘膜の傾向を検討している 6.86検体(71.1%)の胃生検組織にランタン沈着が見られ,ランタンが沈着している胃粘膜には腸上皮化生や粘膜萎縮,胃小窩過形成などの粘膜変化が多く認められ,ピロリ感染に関連した背景粘膜とランタン沈着は密接な関係があるのではないかと報告している.しかし一方で,ピロリ未感染の粘膜萎縮や腸上皮化生のない胃粘膜にランタンが沈着していた症例報告もある 7

次にランタン沈着症と胃癌に関しての報告を見てみると,医中誌にて『ランタン』『胃癌』で検索した結果,胃ランタン沈着症について初回報告された2015年から2021年の間に会議録を含め13件が抽出された.ランタン沈着を伴った胃癌の論文として報告されたのは2報のみであった 9),10

PubMedでは『lanthanum』『gastric cancer』で検索すると2015年から2021年の間に11件の論文が抽出された.PubMedで抽出された論文では早期胃癌に対してESDを施行した症例報告は4報であり 9)~12,ランタン沈着症に合併した胃癌に関する報告は本邦からのみであった.また,ピロリ菌感染の有無とランタン沈着症に合併した胃癌に関する報告は,現感染症例が1報 12,除菌症例が1報 10,ピロリ抗体陰性症例が2報 9),11であった.

本症例のEGDにおいて胃癌病変の視認性が悪かったこともあり,ESDに先行して1.5カ月間のPPI内服,およびランタン中止を行ったことにより,胃全体の粗造粘膜は改善した.PPIの効果は粘膜に対する抗炎症作用によると考えられる.ランタン中止による影響については,既存の報告では8カ月間のランタン休薬を行っても胃粘膜に肉眼的変化がなかった報告があるが 2,一方で3カ月程度のランタン休薬で沈着の程度は改善したとの報告もあり 13,本症例でも内服中止がある程度ランタン沈着の改善に寄与したと推察される.この理由として,ランタン沈着症に合併した胃癌に対してリンパ節郭清を伴う胃切除術を行うと,複数のリンパ節からランタンを貪食したマクロファージの集簇を検出したことから,リンパ節を介してランタンが除去されている可能性が報告されている 14

本症例の病変2においては,背景は除菌後の発赤,萎縮,腸上皮化生に加え,ランタン沈着の修飾が加わった粗造粘膜であり,陰性生検として行った部位に偶発的に見つかっており,初診時の内視鏡像(Figure 1-a,c)を後から振り返っても,病変2の指摘は困難であった.上記で示したBanらの報告 6からもわかるように,背景粘膜が腸上皮化生をきたしている粘膜にランタン沈着を起こしやすく,除菌後も含め色調変化に乏しい粘膜内癌の場合,本症例のように炎症を伴ったランタン沈着症では指摘困難になる可能性があることは念頭に入れておく必要がある.

本症例ではPPI内服とランタン休薬により炎症所見が改善し,胃癌病変とランタンが沈着した周辺粘膜との差が際立った.以上のことから,PPI内服やランタン休薬を行うことにより,粘膜の炎症が抑えられて病変部の視認性が改善することで観察を行いやすくなる可能性がある.既報 4や本症例でもNBI拡大観察が有用であり,NBI拡大観察で強調されたランタンがDLに沿って非腫瘍部側に優位に沈着していることがわかる(Figure 2-b 矢頭).

NBI拡大観察の所見は病理組織所見においても相関しており,ESD切除病理標本の腫瘍部と非腫瘍部においてランタン沈着の違いを観察すると,腫瘍部には褐色の微細顆粒を内包したマクロファージの局在は明らかに少なく(Figure 3-d),非腫瘍部には微細顆粒を内包したマクロファージが集簇していた(Figure 3-c).ランタン沈着症に合併した胃癌に対してESDを施行した既報 9)~12でも同様の報告がなされており,共通する所見と思われる.腫瘍部・非腫瘍部へのランタン沈着の特性による内視鏡像の特徴を理解しておくとランタン沈着症を背景粘膜に持つ色調変化の乏しい胃癌の検出に有用と思われる.

透透析患者数が年々増加している現在の状況を考えると,胃癌を合併したランタン沈着症の患者に遭遇する機会は増えると予測する.ランタン沈着による粘膜傷害や,それに伴う発癌の可能性が示唆されているが 15,そのメカニズムは未だ明らかではない.しかし,ランタン沈着をきたす胃粘膜はピロリ除菌後も含めて粗造なことが多いため,胃癌リスクの高い粘膜であると言える.ランタン沈着に伴う視認性の悪い胃粘膜の場合には,PPI投与やランタン休薬を行い,時間を置いて再度観察することも有用である可能性が高い.また,ランタン沈着症に合併した胃癌病変にはランタン沈着が減少することが本症例を含めて報告 9)~12されていること,NBIやNBI拡大観察によりランタン沈着が白色光に比べて強調されることが腫瘍部・非腫瘍部の差が出やすい 4ことも認識していると微小な胃癌病変の指摘も容易になるのではないかと思われる.

Ⅳ 結  語

PPI内服とランタン休薬を行ったことで胃癌病変の視認性の改善を認め,NBI拡大観察が範囲診断に有用であったランタン沈着症に合併した早期胃癌に対してESDを施行した1例を経験した.

非会員共著者の役割:中嶋絢子先生は,高知大学医学部附属病院病理診断部の病理学会専門医であり,本論文の病理診断を担当した.

本経験の要旨は第126回日本消化器内視鏡学会四国支部例会で報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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