日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
大腸内視鏡検査への人工知能の導入がもたらす恩恵と課題:世界内視鏡学会(WEO)ポジションステートメント
森 悠一 James E. EastCesare HassanNatalie HalvorsenTyler M. BerzinMichael ByrneDaniel von RentelnDavid HewettAlessandro RepiciMohan RamchandaniMaryam Al Khatry工藤 進英Pu WangHonggang Yu斎藤 豊三澤 将史Sravanthi ParasaCarolina Ogawa Matsubayashi緒方 晴彦田尻 久雄Nonthalee PausawasdiEvelien DekkerOmer F. AhmadPrateek SharmaDouglas K. Rex
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キーワード: colon polyp, colonoscopy
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電子付録

2023 年 65 巻 10 号 p. 2231-2241

詳細
要旨

大腸内視鏡検査用の人工知能(AI:artificial intelligence)は,臨床的エビデンスの裏付けもあり,市場に出回る数が徐々に増えてきている.それにもかかわらず,臨床的な利点や費用対効果に関するデータの欠如,信頼できるガイドラインの欠如,適応の不確かさ,導入のためのコストなど,様々な理由から,その導入は円滑に進んでいるとは言い難い.この状況を鑑み,世界内視鏡学会(WEO:World Endoscopy Organization)は,大腸内視鏡検査におけるAIの状況についての見解を,以下のポジションステートメント(立場表明,声明)として提供する.

WEOポジションステートメント:

1.1:大腸ポリープのコンピュータ支援検出(CADe:Computer -aided detection)は,腺腫の見逃し率を減らすことで大腸内視鏡検査の効果を改善し,腺腫の検出率を高めると考えられる.1.2:短期的には,CADeの使用は,より多くの腺腫を検出することで医療費を増やすと考えられる.1.3:長期的には,CADeによる費用の増加は,CADeに関連したがん予防によるがん治療(手術,化学療法,緩和ケア)に関する費用の節約によって釣り合う可能性がある.1.4:医療提供システムおよび行政当局は,臨床での使用を支援するためにCADeの費用対効果を評価すべきである.2.1:微小ポリープ(<=5mm)に対するコンピュータ支援診断(CADx:Computer -aided diagnosis)が十分な精度を持つ場合,ポリペクトミー,病理検査,あるいはその両方を減らすことによって医療費を削減できると期待される.2.2:医療提供システムと行政当局は,臨床現場での使用を支援するためにCADxの費用対効果を評価すべきである.3:われわれは,AI導入が異なる医療システムにおける集団と社会に利益をもたらすかどうかを理解するために,幅広い質の高い費用対効果研究を実施することを推奨する.

Abstract

The number of artificial intelligence (AI) tools for colonoscopy on the market is increasing with supporting clinical evidence. Nevertheless, their implementation is not going smoothly for a variety of reasons, including lack of data on clinical benefits and cost-effectiveness, lack of trustworthy guidelines, uncertain indications, and cost for implementation. To address this issue and better guide practitioners, the World Endoscopy Organization (WEO) has provided its perspective about the status of AI in colonoscopy as the position statement. WEO Position Statement: Statement 1.1: Computer-aided detection (CADe) for colorectal polyps is likely to improve colonoscopy effectiveness by reducing adenoma miss rates and thus increase adenoma detection; Statement 1.2: In the short term, use of CADe is likely to increase health-care costs by detecting more adenomas; Statement 1.3: In the long term, the increased cost by CADe could be balanced by savings in costs related to cancer treatment (surgery, chemotherapy, palliative care) due to CADe-related cancer prevention; Statement 1.4: Health-care delivery systems and authorities should evaluate the costeffectiveness of CADe to support its use in clinical practice; Statement 2.1: Computer-aided diagnosis (CADx) for diminutive polyps (≤5 mm), when it has sufficient accuracy, is expected to reduce health-care costs by reducing polypectomies, pathological examinations, or both; Statement 2.2: Health-care delivery systems and authorities should evaluate the cost-effectiveness of CADx to support its use in clinical practice; Statement 3: We recommend that a broad range of high-quality costeffectiveness research should be undertaken to understand whether AI implementation benefits populations and societies in different health-care systems.

Ⅰ 背  景

人工知能(AI:artificial intelligence)の応用は,大腸内視鏡検査の標準化を可能にする新たな方策として大きな注目を集めている.中でも,コンピュータ支援検出(CADe:Computer-aided detection)とコンピュータ支援診断(CADx:Computer-aided diagnosis)は,内視鏡医が大腸内視鏡検査中にポリープを検出し,その病理診断を予測することを,支援することを目的とした技術であり,最も注目を浴びている(Figure 1).事実,ここ数年で10以上の高品質なランダム化比較試験が発表され,10以上のCADeおよびCADx医療機器が世界市場で市販されている 1),2

Figure 1 

左:大腸ポリープのコンピュータ支援検出(CADe)(EndoBRAIN,オリンパス株式会社,東京),右:大腸ポリープのコンピュータ支援診断(CADx)(GI GENIUS CADx,Medtronic Corp. Dublin).

しかしながら,これらのAI医療機器は,内視鏡診療の現場で広く導入されているわけではない 2.その主な理由は,臨床的な利点や費用対効果に関するデータの欠如,信頼できるガイドラインの欠如,不確かな適応とトレーニングの必要性,導入のためのコスト,そしておそらく診療報酬加算等の欠如などが考えられる.さらに,科学コミュニティと保険行政当局の間の適切なコミュニケーションの欠如も,これらのAIツールの円滑な導入プロセスを阻害している可能性がある.このような様々な問題が導入の妨げとなっているため,これらの新しいツールをルーチンの大腸内視鏡検査に取り入れるべきかどうか,医療従事者が理解することが困難になっている現況がある.そこで,世界内視鏡学会(WEO:World Endoscopy Organization)では大腸内視鏡検査におけるAIに焦点を当てたポジションステートメント・プロジェクトを立ち上げ,現場医師へのより良い指針を公開することとした.なお,革新的な医療機器の導入プロセスにおいては保険行政当局が重要な役割を果たすことが多いため,このステートメントでは,とりわけこれらの機関と連携することの重要性を強調した.

Ⅱ 方  法

本ポジションステートメントは,WEO大腸がん検診委員会のエキスパート・ワーキンググループが主体となって実施したプロジェクトの成果物である.ポジションステートメントは,デルファイ法に基づいた方法により作成・審議された 3.初に審議の対象となったステートメントの草稿は大腸内視鏡検査のAIに精通した消化器内科医である運営委員によって作成された(Appendix S1)(電子付録).これらには,大腸内視鏡診療におけるAIの臨床的導入を促進または阻害する可能性のある複数の重要な要素に関する記述が含まれている.

運営委員会は,合計18名のパネルメンバーを招聘した(Appendix S1)(電子付録).この際,論文発表等の実績から,消化器病学とAIに精通していると判断できる人物をパネルメンバーに選考した.また,性別(女性6名,男性12名)および地域(北米4名,欧州3名,オセアニア1名,アジア8名,中南米1名,中東1名)の多様性を考慮し,パネルメンバーが選出された.

運営委員会が提案したステートメントの草稿と,web会議でのパネルメンバーからのフィードバックに基づき,2022年3月に構造化されたステートメントが作成された.これらのステートメントは,3つのカテゴリーで構成されていた.1.CADe,2.CADx,3.研究の推進.各ステートメントについて,パネルメンバーは5段階のリッカート尺度(強く同意する,同意する,中立,同意しない,強く同意しない)を用いて,投票を行った.その際,各項目について,自由記述欄へのコメントも適宜求められた.80%以上が「強く同意する」または「同意する」を選択した場合,コンセンサスが得られたと判断した.投票時にコンセンサスの基準に達しなかった項目は,各投票後の議論に従って削除または修正された.投票は匿名で行われた.2022年4月から9月にかけて,合計3回の投票が行われた.なお,本ポジションステートメントの最終版は,2022年11月10日にWEO役員会議(executive committee)によってレビューされ,承認された.同様に,2022年11月28日に日本消化器内視鏡学会の理事会によって承認された.

Ⅲ ステートメントの採択

1回目の投票で評価されたステートメントは3つであった(Appendix S2)(電子付録).投票後の委員会での議論の結果,運営委員会はこれらのステートメントを7つの,より明確で詳細なステートメントに分割することを決定した.これは,最初のステートメントが非常に包括的であったため各ステートメントに異なる種類の情報が含まれていると委員会が判断したためである.この7つの声明は,第2回目の投票によって評価された(Appendix S3)(電子付録).この後,パネルメンバーからの助言に従い,運営委員会はさらに,1つのステートメントを2つに分割し,いくつかのステートメントの文言を修正した.その後,18名の委員のうち15名が参加した第3回投票では,計8件が評価された(Appendix S4)(電子付録).3回目の最終投票における83%(15/18)の回答率は,デルファイ調査研究に必要な最低限の基準を満たすものであった 4)~6.最終的に,8つのうち7つが合意レベルに達し,以下のように最終版に盛り込まれた.

1.コンピュータ支援検出(CADe)

ステートメント 1.1:大腸ポリープのコンピュータ支援検出(CADe)は,腺腫の見逃し率を減らすことで大腸内視鏡検査の効果を改善し,腺腫の検出率を高めると考えられる(100% 合意).

ステートメント 1.2:短期的には,CADeの使用は,より多くの腺腫を検出することで医療費を増やすと考えられる(80% 合意).

ステートメント 1.3:長期的には,CADeによる費用の増加は,CADeに関連したがん予防によるがん治療(手術,化学療法,緩和ケア)に関する費用の節約によって釣り合う可能性がある(80% 合意).

ステートメント 1.4:医療提供システムおよび行政当局は,臨床での使用を支援するためにCADeの費用対効果を評価すべきである(100% 合意).

腫瘍性病変の見逃しは,大腸内視鏡検査における最大の課題の1つであり,大腸内視鏡検査後の大腸癌の主な原因と考えられている.最近のメタアナリシスでは,大腸内視鏡検査で腫瘍の26%が見逃されることが示唆されている 7.見落としの原因として十分に大腸粘膜を観察できていない事実もあるが 8,画像ベースのレトロスペクティブな研究では,14%の腺腫が,たとえモニター内に表示されていても内視鏡医によって認識されていないことが示されている 9.このような課題に対し,CADeは,ポリープの可能性がある場所をモニターに表示することで(Figure 1),内視鏡医の腺腫の見落としを減らすことが期待される 10),11.その結果として,腺腫の検出率(ADR:adenoma detection rate - 腫瘍が発見された内視鏡検査の割合)が増加する.実際,4,354人の患者を含む6つのランダム化比較試験のメタアナリシスでは,CADeの使用によりADRが44%増加する(相対比)ことが示された 12.この点から,CADeは医師の技術に依存している大腸内視鏡検査の現況を打開し,大腸内視鏡検査の有効性を最大限に高めることが期待されている 13.しかし,CADeではモニター上に表示されていない病変を拾い上げることができないため,CADeの有効な使用の前提として,検査中に大腸粘膜をなるべく全範囲観察することが大切である 14

医療技術革新にとって最も重要な要素は臨床的有効性であると広く考えられているが,医療経済評価もまた,新たな医療技術を臨床導入する上で考慮すべき重要な点である.ほとんどの国や地域では,新しい医療技術革新の導入と保険償還に関する意思決定の際に医療経済評価を実施しており,限られた予算を効率的に使用する傾向にあることから,費用対効果はますます重視されるようになっている.この点においてCADeの短期的に医療経済に与える影響は無視できない.最近のマイクロシミュレーション研究では,CADeの使用は,CADeの費用に加えて,検出されたポリープ,ポリープ切除,病理組織検査の数を増やすことにより,短期的に医療費を増加させる可能性が示唆されている(Figure 2 15.さらに,別のシミュレーション研究では,CADeの導入によりフォローアップの大腸内視鏡検査(3年フォローアップなど)が米国で35%増加する可能性が示唆されている 16.しかしながら,CADeによる(ADR)腺腫検出率の増加は,長期的には大腸癌の減少に寄与し,コスト削減につながる可能性がある.同様のマイクロシミュレーション研究において,CADeの使用は,米国における標準的な大腸内視鏡スクリーニングと比較して,大腸癌の罹患と死亡をそれぞれ5%と3%低減することが示唆されている(Figure 2 15.この点から,医療行政当局は,CADeの費用対効果を包括的(短期的および長期的)に評価し,臨床での使用をどのように推進するかについて検討を進める必要があると考えられる.

Figure 2 

大腸内視鏡検査における人工知能の導入によるコストアップとコストダウンの可能性.

AI, artificial intelligence; ADR, adenoma detection rate.

しかし,これらの費用対効果データを現実の医療現場に応用するためには,2つの大きなハードルがあると考えられる.第一に,分析方法と地理的多様性の点で限界があることである.すなわち,現状では,米国の医療制度を考慮した1つの研究で費用対効果が評価されているに過ぎない.第二に,マイクロシミュレーションモデリングには多くの仮定を設定する必要があるため,常に結果の不確実性が存在する.CADeの使用が真に医療経済や患者ケアに貢献するかどうかを理解するためには,長期追跡を伴う大規模な観察研究や無作為化比較試験が必要であろう 1

なお,コストに関する問題に加えて,CADeが臨床にもたらす可能性のある負担や弊害を評価し,議論することは非常に重要である.これには,検査時間の延長や,ポリペクトミーの増加などが考えられる 17.モニターに表示される多くの偽陽性信号による内視鏡医の心理的な負担も無視はできない 18.さらに,CADeによってもたらされる利益と弊害は,内視鏡医の専門性によっても異なる可能性があるため 19,この新しい医療技術を効率的に臨床導入するためには様々な点に配慮することが重要と考えられる.

2.コンピュータ支援診断(CADx)

ステートメント 2.1:微小ポリープ(<=5mm)に対するコンピュータ支援診断(CADx)が十分な精度を持つ場合,ポリペクトミー,病理検査,あるいはその両方を減らすことによって医療費を削減できると期待される(93.3% 合意).

ステートメント 2.2:医療提供システムと行政当局は,臨床現場での使用を支援するためにCADxの費用対効果を評価すべきである(92.9% 合意).

Optical diagnosisとは,ポリープの外観から病理組織を予測する方法である.高い信頼性で予測できる場合,実際の病理組織学的評価の代替として使用することができる 20.Optical diagnosisの概念は,治療前の生検を必要とせず,予測された病理組織像(過形成ポリープには無治療,腺腫には内視鏡治療,がんには手術など)に応じて適切な治療手段を選択できることから,大きな注目を集めている.予測精度が高ければ,コストや患者さんの負担を軽減することができる 20),21.しかしながら,内視鏡医のポリープ診断に対する能力やモチベーションの低さが,臨床現場でのoptical diagnosisの実施を妨げている 22),23.英国の地域型病院で実施された大規模臨床研究では,腺腫を識別する感度と特異度はそれぞれ83%と74%にとどまることが示された 22.さらに,米国で行われた全国規模のアンケート調査では,米国の内視鏡医の40%しかoptical diagnosisを行おうとしないことが明らかになった 23

CADxは,optical diagnosisにおける上述のような術者依存の不確実性を低減し,予測精度を担保することができるため,これらの課題を克服するために大きな役割を果たすことが期待されている.CADxが実際の大腸内視鏡検査に貢献する主な分野は腫瘍と非腫瘍の鑑別であるが,前臨床段階ではより先進的なCADxも研究されている 24. いくつかの大規模な前向き研究により,CADxを使用して微小ポリープを病理診断予測する精度についての検討がなされており,腺腫の識別に対して90%以上の陰性的中率と80%以上の感度/特異度が確認されている 25),26.これらは,米国とヨーロッパで提唱されているoptical diagnosisに必要な閾値を超えている 20),21

これらの結果は,CADxを用いたoptical diagnosisの導入により,大腸内視鏡検査におけるポリペクトミーや病理診断関連のコストを大幅に削減できる可能性を示している 27.大規模前向き研究のサブ解析によると,CADxの使用により,大腸内視鏡検査の平均コストを11%削減でき,米国では最大で8,520万ドルのコスト削減が可能であることが示された 27.この点からも,医療行政当局は,CADxの費用対効果を評価し,臨床でのCADxの使用をどのように推進するかについて検討を進める必要がある.さらに,CADxの重要性は,小さなポリープ(その多くは過形成ポリープである)の検出を増加させるCADeの幅広い使用によって,さらに強調されるものである 12.CADxは,CADeが増加するポリペクトミーの回数を抑制するために重要な役割を果たすと考えられる(Figure 2).

一方で,CADxの臨床応用において検討しなければならない課題も存在する.第一に,CADxをoptical diagnosisに用いることによる付加価値が現状では不明確である点である 28),29.2つの大規模な前向き研究により,CADxの使用は標準的なoptical diagnosisと比較して腫瘍診断の感度を有意に向上させないことが示された 28),29.しかし一方で,CADxの導入により,optical diagnosisにおける高確信度診断の割合は明らかに増加し(74%→93%) 29,さらにoptical diagnosis導入に対しての医師のモチベーションも上昇した(40~57%) 23.第二の課題は,CADxの利点は経験の浅い内視鏡医に限られるかもしれない点である 28.さらに,第三の課題として,医療経済研究の数と種類が絶対的に不足していることがある.現状では,直腸S状結腸ポリープのoptical diagnosisに関する米国,英国,ノルウェー,日本でのシミュレーション結果があるのみであり 20,全大腸におけるoptical diagnosisに関するデータがないため,CADxの広範な使用を支持することが難しい 20.第四の課題として,CADxの臨床導入は,CADeと比較して,特に切除や病理診断予測を省略する点に関し,医療・法的リスクが生じる可能性があり,一部の医師は抵抗感を感じている.診断をサポートする写真記録やビデオ録画など,リスクを軽減する方策と,CADxを利用する医師への金銭的インセンティブ等を組み合わせることが,臨床現場でのCADxの効果的普及に不可欠であるかもしれない.

3.研究の促進

ステートメント 3:われわれは,AI導入が異なる医療システムにおける集団と社会に利益をもたらすかどうかを理解するために,幅広い質の高い費用対効果研究を実施することを推奨する(100% 合意).

医療におけるAI技術開発の急速なペースとは対照的に,費用対効果の研究は技術革新のスピードに大きく遅れをとっている.最近のシステマティックレビューでは,AI医療に焦点を当てた医療経済研究は医学領域全体でわずか20件しか確認されていない 30.この中で,大腸内視鏡検査におけるAIに関する費用対効果研究は,CADeに関する1報 15とCADxに関する1報 27に限られている.大腸内視鏡検査におけるAIの世界的な応用の可能性を考慮すると,今後の研究では,国際的に異なる医療制度における費用対効果に取り組むことが重要である.これは,医療提供体制,社会経済状況,保険償還政策(例えば,量ではなく結果にインセンティブを与える,事前市場コミットメントや期限付き償還を活用するなど)に大きなばらつきがあるためである 31

また,より信頼できる医療経済評価を行う際には,シミュレーションモデル研究で多用される仮定をなるべく最小化し,大腸がん発生率への影響などについては実在する臨床試験データを利用することが極めて大切である.さらに,内視鏡医が将来的に複数のAI機器を同時に使用する可能性を考えると,より複雑な経済評価も必要となる.例えば,これには大腸内視鏡検査のための統合的AI医療の一部として,CADeとCADxの両方を同時に使用することが含まれる.

Ⅳ 考  察

われわれは,大腸内視鏡検査におけるCADeとCADxの両方の診療導入に関連して,臨床的有効性と費用対効果の両方に取り組むことが重要であるとのコンセンサスを得た.しかし,革新的な医療機器の臨床への導入は,薬事規制当局の承認,適応,臨床効果,トレーニングの必要性,費用対効果,導入のためのコスト,診療報酬,医師の感情,法的・倫理的課題など,複数の要因が影響し,これが大きな課題となっている.この点において,AI大腸内視鏡分野での最近の臨床研究におけるポジティブな臨床的有効性のデータは,診療への導入プロセスのごく一部でしかない.

診療報酬などに関連する保険行政当局などからの経済的サポート(例えば,診療加算算定)は,一般的には医療技術導入における強い原動力になる.実際,このことはマンモグラフィーにおけるAIの活用によく表れている.米国食品医薬品局は1998年にマンモグラフィーのCADeを承認し,公的保険当局であるメディケアとメディケイドは2002年からその使用に対して保険償還している.その結果,米国では検診用マンモグラフィーの80%以上にAI検出ツールが使用されている 32.しかし,診療報酬の導入はそれほど単純なものではない.最近,医療経済の専門家は,使用量に依存した診療報酬の算定はAIの過剰使用を招く恐れがありと警告しており,費用対効果と公平性を最大限に高めながら医療の質を高めるためには,AIの使用に対する適正な保険償還システムの構築が不可欠であると注意を促している 31.このような状況下において,医療行政当局は,臨床現場での適正な使用をバックアップするために,AIツールの臨床効果,費用対効果,その他の医療技術評価などの複数の要因を包括的に考慮することが強く求められる.

著者の論文への貢献:研究のコンセプトとデザイン,データの取得,データの解析と解釈,原稿の作成,統計解析,原稿の最終承認:YM,JEE,CH,OFA,PS,DKR.パネルメンバーとしての役割(データの取得,解析と解釈,原稿の最終承認):NH,TMB,MB,DvR,DH,AR,MR,MAK,SK,WP,HY,YS,MM,SP,COM,HO,HT,NP,ED.

本研究に係る研究費:YM:欧州委員会(Horizon Europe 101057099)および日本学術振興会(22H03357);JEEはNational Institute for Health Research(NIHR) Oxford Biomedical Research Centreから資金提供を受けています.記載された見解は著者のものであり,必ずしもNational Health Service,NIHRまたはDepartment of Healthのものではありません.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:YM:Olympus(講演料,コンサルテーション,機器貸与)and Cybernet System Corp.(ライセンス料),JE:Satisfai Health(持分権,コンサルテーション);Medtronic Corp, Falk, Jannsen(講演料);Paion(コンサルテーション),CH:Medtronic Corp.(コンサルテーション,機器貸与),Fujifilm Corp.(コンサルテーション,機器貸与),and Pentax Corp(コンサルテーション),OFA:Olympus Corp(講演料),NH:利益相反なし,TMB:Medtronic, Wision AI, Magentiq Eye, DocBot, RSIP Vision(コンサルテーション),MB:Satisfai Health Inc(CEO,株式),DvR:ERBE, Ventage, Pendopharm, Fujifilm, and Pentax(研究費);Boston Scientific, ERBE, Fujifilm and Pendopharm(コンサルテーション,講演料),DH:Olympus AustraliaPty Ltd, Fresenius Kabi Pty Ltd(コンサルテーション);Olympus Australia Pty Ltd, FreseniusKabi Pty Ltd, and Boston Scientific Pty Ltd(講演料),AR:Medtronic and Fujifilm(コンサルテーション,機器貸与),MR:利益相反なし,MAK:利益相反なし,SK:Olympus Corp.(講演料)and Cybernet System Corp.(ライセンス料),WP:利益相反なし,HY:利益相反なし,YS:利益相反なし,MM:Olympus Corp.(講演料,コンサルテーション),Cybernet System Corp.(ライセンス料),Digestive Endoscopy誌Associate Editor,SP:Covidien LP, Fujifilm USA, Mahana therapeutics;Allen Institute for Artificial Intelligence, Quasal AI(コンサルテーション);Fujifilm USA, Paul Allen center for cancer research(研究費),COM:AI Medical Service Inc(従業員),HO:AbbVie GK, MOCHIDA PHARMACEUTICAL CO., LTD., Kyorin Pharmaceutical Company, Limited, Mitsubishi Tanabe Pharma Corporation, Otsuka Pharmaceutical Co., Ltd., Takeda Pharmaceutical Company Limited., EA Pharma Co., Ltd., JIMRO Co., Ltd., ZERIA Pharmaceutical Co., Ltd., Boston Scientific Corporation(奨学寄附金);Olympus Corporation, Takeda Pharmaceutical Company Limited(コンサルテーション);Takeda Pharmaceutical Company Limited, Janssen Pharmaceutical K.K., Mitsubishi Tanabe Pharm Corporation, Mochida Seiyaku Co., Ltd., EA Pharma Co., Ltd., Covidien Japan Inc., AbbVie GK, Kyorin Pharmaceutical Company, Limited, Pfizer Inc., Otsuka Pharmaceutical Co., Ltd., FUJIFILM Medical Co., Ltd., OLYMPUS CORPORATION, Viatris Inc.(講演料),HT:利益相反なし,NP:利益相反なし,ED:Fujifilm(機器貸与,コンサルテーション,研究費,講演料);Olympus, GI Supply, PAION and Ambu(コンサルテーション),Olympus, GI Supply, Norgine, IPSEN, PAION(講演料),OFA:利益相反なし,PS:Medtronic Corp, Olympus Corp, Boston Scientific Corp, Fujifilm Corp, Salix Pharmaceuticals Corp., Lumendi Corp(コンサルテーション);Ironwood Corp, Erbe Corp., Docbot Corp., Cosmo pharmaceuticals Corp., and CDx labs Corp.(研究費),DKR:Olympus Corporation, Boston Scientific, Aries Pharmaceutical, Braintree Laboratories, Lumendi, Ltd., Norgine, Endokey, GI Supply, Medtronic, Acacia Pharmaceuticals(コンサルテーション);Olympus Corporation, Medivators, Erbe USA Inc, Braintree Laboratories(研究費);Satisfai Health(持ち株).

補足資料

Appendix S1 運営委員とパネルメンバー.

Appendix S2 第1回投票結果.

Appendix S3 第2回投票結果.

Appendix S4 第3回投票結果.

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2023)35, 422-9に掲載された「Benefits and challenges in implementation of artificial intelligence in colonoscopy: World Endoscopy Organization position statement」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
© 2023 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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