2023 年 65 巻 3 号 p. 257-262
78歳女性.発熱を主訴に来院した.発熱の原因は肝膿瘍であり,抗生剤治療で速やかに改善したが,原因の検索は不十分であった.その6カ月後に発熱で再度来院,CT検査で肝膿瘍の再燃を認め,抗生剤と膿瘍ドレナージを施行した.肝膿瘍の再燃をきたした要因として,6カ月前より認めるS状結腸内の異物が原因である可能性を考えた.CSを施行,S状結腸内に刺入した異物を認め,除去したところ爪楊枝であった.異物除去後は腹部所見に注視して慎重に食事を開始し,異物除去後1カ月で軽快退院となった.退院後6カ月で肝膿瘍の再燃を認めていない.肝膿瘍の原因として腸管内異物も鑑別に挙げ,異物除去を積極的に行うことが肝要である.異物除去は外科的処置が必要になることもあるが,本症例は内視鏡的に摘出可能であった.
A 78-year-old woman was admitted to our hospital with high fever. Computed tomography showed a liver abscess. She received treatment with antibiotics. We could not find the cause of liver abscess. Six months later, liver abscess had recurred, and she was treated with percutaneous abscess drainage along with antibiotic therapy. The cause of recurrent liver abscess was suspected a foreign body which existed in the intestinal tract for six months. CS revealed that the foreign body was a toothpick penetrating the sigmoid colon, which was removed endoscopically. The patient was discharged from the hospital 1 month after removal of the foreign body. No recurrence of the liver abscess was observed 6 months after discharge. Identification and removal of the foreign body, which was the cause of the liver abscess, prevented recurrence of the liver abscess. Although surgical treatment may be required to remove the foreign body, endoscopic removal was possible in this case.
異物誤飲では,ほとんどの場合は無症状で自然に排出されるが,まれに消化管穿孔・穿通を起こし治療が必要となるものがあり,有症状となる症例は1%以下とされる 1).腸管内の異物が消化管穿通をきたすことは時に認められるが,肝膿瘍をきたした症例はまれである.今回,S状結腸に穿通した異物を大腸内視鏡検査にて除去を行い保存的に加療しえた肝膿瘍の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
症例:78歳 女性.
主訴:発熱.
既往歴:糖尿病,変形性胸椎症(発症年・病期間は詳細不明).
現病歴:発熱にて受診し,腹部単純CT検査で,肝膿瘍が疑われた(Figure 1-a).入院の上,抗生剤治療CTXを1週間投与し,炎症反応は改善傾向となり退院した.肝膿瘍の精査および原因検索は不十分で,退院後の肝膿瘍の経過観察も画像にて行われていなかった.この6カ月後に1週間前から続く発熱を訴え来院した.

a(来院時):腹部単純CT検査で,肝S5に低吸収域を認めた(黄矢印).
b(6カ月後再燃時):腹部造影CT検査で,肝S4/5を中心にring状の高吸収域とその周囲の低吸収域を認めた(黄矢印).
c(PTAD施行から3カ月後):腹部造影CT検査で,肝膿瘍および肝S6のbilomaは改善傾向であった.
来院時身体所見:身長156cm,体重58.5kg,体温39.2℃,血圧139/78mmHg,脈拍100/分・整.腹部は平坦,軟,明らかな圧痛は認めず,腹膜刺激症状も認めなかった.
来院時血液検査所見:WBC 16,580/μL(好中球86.7%),CRP 36.74mg/dL,と炎症反応は高値を認めた.糖尿病に関しては,空腹時血糖 222mg/dL,HbA1c 6.7%であった.赤痢アメーバ抗体<100で正常値,CEA 3.2ng/ml,CA19-9 1.2U/mlと腫瘍マーカーも正常値,HIV陰性であった.
腹部造影CT検査:肝S4/5を中心にring状の高吸収域とその周囲の低吸収域を認め,肝膿瘍の再燃が疑われた(Figure 1-b).またS状結腸には憩室が多発しており,同部位の腸管内に高吸収域の線状の異物を認めた.異物周囲の腸間膜脂肪織濃度の上昇を認め,穿通が疑われた(Figure 2).6カ月前のCTでもS状結腸の同部位に同形態の異物を認めたが,腸管周囲には炎症を認めず,この時点では過去の内視鏡治療時のクリップが残存したものと判断されていた.

a:S状結腸には憩室が多発しており,同部位の腸管内に高吸収域の線状の異物を認めた(赤矢印).
b:異物が穿通した腸管は浮腫性変化を認め,周囲の脂肪織濃度の上昇を認めた(黄矢印).
入院後経過:肝膿瘍に対して,抗生剤治療TAZ/PIPCを開始するも,炎症反応は増悪傾向であったため,入院2日目にS4/5の肝膿瘍に対して,経皮経肝的膿瘍ドレナージ(percutaneous transhepatic abscess drainage:以下,PTAD)を施行した.抗生剤治療はTAZ/PIPCは10日間投与し,炎症の改善を確認し,LVFX内服へ変更して10日間継続した.3回の膿汁培養および血液培養では原因菌の同定には至らなかった.肝膿瘍の原因として,大腸内異物の可能性を考えた.腹部所見も落ち着いており,入院後5日目に前処置は行わず,大腸内視鏡検査を施行した.S状結腸に異物を認め,異物の端は粘膜内に刺入していた.把持鉗子にて異物の中腹を把持して,正常腸管を損傷しないように,愛護的に牽引し,内視鏡ごと抜去して摘出した.その後内視鏡を再挿入して異物穿通部を再度確認した.刺入部はびらんを認め,粘膜は浮腫状ではあったが,明らかに穿孔を疑う所見は認めなかった.周囲には憩室が多発していた.異物は約4cmの爪楊枝であった(Figure 3).処置後には単純CT検査を行い,遊離ガスのないことを確認した.異物抜去後は,腹部所見に注視し,排便後も症状の増悪がないことを確認し,異物抜去後の3日目より慎重に経口摂取再開した.入院後11日目にドレーン造影検査および腹部造影CT検査にてS4/5の肝膿瘍は縮小傾向であった.その際に認めたS4/8の残存肝膿瘍,また初回PTAD時に生じたと思われる肝S6のbilomaに対しては,それぞれ穿刺によるドレナージを施行した.入院37日目にPTADチューブは留置したままで軽快退院した.退院後2カ月後に施行した腹部造影CT検査では肝膿瘍の再燃は認めず(Figure 1-c),PTADを抜去した.なお,退院後6カ月の腹部超音波検査にて肝膿瘍の再燃は認めていない.

a:S状結腸に異物を認め,異物の先端は粘膜内に刺入している.
b:把持鉗子にて愛護的に牽引して摘出した.
c:異物摘出後の粘膜はびらん変化を認めた.
d:異物は爪楊枝であった.
肝膿瘍が生じる経路として,経胆道性,経門脈性,経動脈性,直達性,外傷性,医原性,特発性などが挙げられる 2).本症例では,大腸内の異物以外は肝膿瘍の原因となりうるものは認めなかったため,異物の結腸穿通により経門脈性に肝膿瘍を生じたと考えられた.
医学中央雑誌にて2000年から2021年までに「異物」,「魚骨」,「肝膿瘍」で検索すると,会議録を除いたのものでは自験例を含めて22例の報告を認めた(Table 1) 3)~23).平均年齢は66.8歳(38-83歳),男性12例,女性10例.主訴は発熱,腹痛,食欲不振と多岐に渡っていた.異物の種類としては,魚骨が16例(73%),爪楊枝が5例(22%),鳥骨が1例(4%)で魚骨が最も多い原因であった.穿通部位は,上部消化管が15例(68%),下部消化管が3例(13%),回腸が1例(4%),不明が3例(13%)であった.

異物が原因で肝膿瘍をきたした報告例(経路別,年代順に提示).
上部消化管異物から肝膿瘍を生じる経路は,全例で異物が腸管内から肝臓へ直接穿通していく直達性であった.そのため胃から十二指腸球部までの穿通では肝左葉に,十二指腸下行脚の穿通では肝右葉に穿通しやすいと言われている.異物に伴う肝膿瘍では,肝膿瘍の存在部位により解剖学的見地から消化管穿通部位の予測が可能であることが示唆されており 24),今回検索しえた報告例においても一致していた.上部消化管以外の小腸および大腸内は解剖学的に肝臓から距離を認めるため,直達性ではなく,経門脈性に肝膿瘍をきたしたと考えられ,今回検索しえた報告例においても全例で経門脈性が原因と考察されていた.
今回爪楊枝は高吸収域として描出され,原因検索の一助となった.爪楊枝を水浸させることで,CT値が高吸収域に変化するという報告 24)もあり,今回爪楊枝が腸管内に長期間停滞し,腸液にさらされていたため,高吸収域を呈したと推測された.
肝膿瘍の再燃後に初めて,肝膿瘍の原因として腸管内異物を疑い,除去した症例は,Clarençonら 9),長島ら 20)と本症例の3例であった.再燃までの期間はおのおの数週間,1年5カ月,6カ月と多岐に渡っていた.全例で直達性ではなく,異物除去後,肝膿瘍は治癒し,再発を認めなかった.肝膿瘍の原因の一つとして消化管異物を鑑別に挙げ,下部消化管を含めた精査が必要である.また再燃例もあるため,異物除去を積極的に行うことが肝要であると考えられた.
異物による肝膿瘍に対する治療方針としては肝膿瘍の治療および異物除去の両面の治療が必要となる.①上部消化管異物では原因が100%(15/15例)直達性のため,肝膿瘍の治療と同時に異物を手術または内視鏡にて除去しなくてはならないと考えられる.今回の検討においては,14/15例の93%が手術で異物除去を施行されていた.肝膿瘍に対しては,抗生剤抵抗性であれば,ドレナージが必要となり,原因菌同定にも有用とされる.直達性の肝膿瘍では,解剖的に体表より遠い領域に肝膿瘍ができる可能性があり,耐術能が低い症例などでは,経皮的なドレナージより超音波内視鏡ガイド下のドレナージも有用になるのではないかと考えられた 25).②下部消化管異物では,異物除去に関しては,広範な腹膜刺激症状を認めなければ,外科のバックアップの上,内視鏡的異物除去が選択可能な場合もある.肝膿瘍の治療としては,基本的に経門脈性が原因であるため,PTADがまず選択されると考えられる.
また報告例では穿通部位が不明な症例を認めていた.これは異物が穿通後に腹腔内に埋没され,早期に消化管壁が修復される 11)ため,穿通部位が不明となったと考えられる.内視鏡治療が可能な時期は限られていると思われ,異物除去は可及的速やかに行われることが肝要と考えられた.
異物の大腸穿通により,肝膿瘍をきたした症例に対して大腸内視鏡検査にて異物除去を行い,保存的に加療しえた肝膿瘍の1例を経験したので報告する.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし