2023 年 65 巻 4 号 p. 368-374
悪性遠位胆道狭窄に対して自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent:SEMS)は有効だがしばしば逆行性胆管炎を発症し治療に難渋する.閉塞予防目的に逆流防止金属ステント(anti-reflux metal stent:ARMS)が開発され開存期間の延長が期待されているが,逆行性胆管炎の予防効果は未だ明らかではない.本症例では膵頭部癌による閉塞性黄疸に対して通常のSEMSを留置されたが,その直後から反復する逆行性胆管炎を来した.最終的にダックビル型ARMSを留置することで改善し化学療法が可能となった.膵癌に対する術前化学療法が広まる中,早期に安定して化学療法を導入するために,症例の蓄積による逆行性胆管炎のリスク症例の抽出と,逆行性胆管炎に対するARMSの有用性の評価が期待される.
A 65-year-old male presented with abdominal distension, and laboratory data showed elevated hepatobiliary enzymes. Contrast-enhanced computed tomography revealed a pancreatic tumor with 10 mm in diameter in the pancreatic head, resulting in biliary obstruction. Endoscopic retrograde cholangiopancreatography showed a 10-mm long stricture in the lower bile duct. Biopsy of the stenosis confirmed pancreatic adenocarcinoma and administration of chemotherapy was planned. A self-expandable metallic stent (SEMS) was placed in the bile duct, but the patient developed recurrent reflux cholangitis. Although the cholangitis was refractory to the treatment, it eventually improved with the replacement of SEMS with duckbill-shaped anti-reflux metallic stent (D-ARMS), enabling chemotherapy initiation.
Although SEMS are effective for malignant distal biliary strictures, reflux cholangitis due to SEMS is one of the causes of delay in the timely initiation of chemotherapy or surgery. Newer types of SEMS with anti-reflux valves (anti-reflux metallic stent, ARMS) have been developed, and previous studies have been conducted mainly to evaluate the time taken until the obstruction. However, there have been no studies demonstrating the efficacy in actually preventing reflux cholangitis. Herein, we experienced a case of refractory reflux cholangitis caused by SEMS placed in a patient with obstructive jaundice due to pancreatic head cancer, which improved after replacement with D-ARMS. Although the frequency of reflux cholangitis after SEMS placement is low, the growing trend for neoadjuvant chemotherapy for pancreatic cancer may increase its incidence. In the future, it is expected that more cases at risk for reflux cholangitis will be identified and the usefulness of ARMS for treating reflux cholangitis will be further evaluated.
切除不能の膵頭部癌や遠位胆管癌などによる悪性胆道狭窄に対して自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent:SEMS)の有用性が報告されている 1)~5).一方でSEMSにより食物残渣や腸液が胆管へ逆流することで胆管炎が引き起こされることが知られており 6)~8),時に治療に難渋し化学療法などの癌に対する治療が遅れる原因の一つとなる 5).
SEMS留置後の食物残渣などの胆管逆流に起因する胆道閉塞(recurrent biliary obstruction:RBO)を防止するために逆流防止金属ステント(anti-reflux metal stent:ARMS)が開発され 9)~20),近年ではダックビル型逆流防止金属ステント(SEMS with duckbill-shaped anti-reflux valve:D-ARMS)の有用性が報告されている 19),20).しかし,これらのステントによる実際の逆行性胆管炎の予防効果についての報告は乏しい.今回,通常のSEMS留置後に逆行性胆管炎を繰り返した症例に対して,D-ARMSが有効であった症例を経験したため報告する.
特記すべき既往のない65歳男性.2021年7月頃から出現した腹部膨満感にて前医を受診した.血液検査でAST 103U/L,ALT 148U/LとALP 317U/L,γ-GTP 1,000U/L,T-bil 1.5mg/dLと肝胆道系酵素の上昇を認めた.腹部CT検査では膵頭部に径10mm大の低吸収域と総胆管拡張を認めた(Figure 1-a).膵頭部癌による閉塞性黄疸の疑いで内視鏡的逆行性膵胆管造影検査(ERCP)が行われた.乳頭はやや水平脚よりに位置し,結節型で傍乳頭憩室は認められなかった.胆道造影では遠位胆管に10mm長の狭窄を認めた(Figure 1-b).内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)を行い狭窄部から生検した後,8.5 Fr 7cmのストレート型プラスチックステント(FleximaTM Plus, Boston Scientific)を留置した.狭窄部の生検ではadenocarcinomaが検出され,画像所見とあわせてcStageⅡb(cT1b N1b M0)の膵癌で生物学的切除可能境界(biological BR:biological borderline resectable)と判断した.初回のERCPから26日後にプラスチックステントが自然脱落し,胆管炎を発症した.化学療法が予定されていたため,長期的な開存を期待してfully-covered SEMS(FCSEMS)を留置する方針となった.ERCPが行われ,混濁した緑色胆汁を培養用に採取した後,胆囊管にかからないように口径10mm,ステント長60mmのFCSEMS(WallFlexTM Biliary RX Stent, Boston Scientific)が留置された(Figure 1-c).しかし,ERCP前から投与されていたSulbactam / Cefoperazoneを中止した直後から発熱と炎症反応高値が出現した.胆汁からEnterococcus faecalisが検出されていたため,抗菌活性を確認しTazobactam / Piperacillinを開始すると速やかに炎症は改善したが,やはり中止後すぐに発熱した.腹部CT検査では胆囊炎の所見は認めず,胆道気腫が確認された.原因精査および今後の加療目的に当院へ転院した(Figure 2-a,b).

前医検査所見.
a:前医CT検査:膵頭部に径10mm大の低吸収領域を認め(黄矢頭),膵頭部癌と考えられた.
b:初回ERCP画像:遠位胆管に10mm長の狭窄部を認める(黄矢頭).
c:2回目ERCP画像:胆囊管にかからないように口径10mm,ステント長60mmのFully covered self-expandable metal stent(WallFlexTM Biliary RX Stent, Boston Scientific)が留置された.

a:CRPの推移と抗菌薬の使用期間,ERCPのタイミング:抗菌薬使用期間(水色 SBT/CPZ:Sulbactam / Cefoperazone,紺色 TAZ/PIPC:Tazobactam / Piperacillin),ERCPのタイミング(黄矢頭),D-ARMS留置(赤矢頭),化学療法(緑矢印).
b:AST,ALT,γ-GTPの推移:ERCPのタイミング(黄矢頭),D-ARMS留置(赤矢頭).
当院で行った腹部ダイナミック造影CT検査の早期相で胆管炎を示唆する網状の早期濃染像が多発しており(Figure 3-a),SEMS留置後であることも合わせ,逆行性胆管炎と考えた.便秘薬の調整や長時間の坐位,腹圧が亢進するような運動は避けるように指導し,当院でもTazobactam / Piperacillinを投与することで一旦は改善した.しかし,抗菌薬中止後3週間程度でやはり発熱と炎症反応の上昇を認めた.肝胆道系酵素の異常を伴わなかったことから他の熱源検索も行ったが(Figure 2-b),逆行性胆管炎以外に胆囊炎など含め明らかな熱源は指摘できなかった.SEMS留置後早期の逆行性胆管炎であったため,食物残渣による閉塞を疑ってERCPを行ったが,挿入時には明らかな食物残渣による閉塞は確認できなかった.少しでも食物残渣や腸液の胆管への逆流を減少させることを考え,前医で留置されたSEMS内に7 Fr 10cmの両端ピッグテイル型プラスチックステント(Through & PassⓇ Double PitTM, GADELIUS)を2本留置したが(Figure 3-b),効果はなかった(Figure 2-a).この後も抗菌薬の中止後すぐに発熱,炎症反応高値を認めたため,前医で留置されたSEMSを抜去し,口径10mm,ステント長70mmのD-ARMS(川澄ダックビル胆管ステント,SB-KAWASUMI)を留置する方針とした.D-ARMSはレーザーカット型のFCSEMSで,遠位端にカバー部と同じポリテトラフルオロエチレン製の12.5mm長のカモノハシの口の形をした逆流防止弁を備えている.造影で狭窄部を確認し,乳頭部側に防止弁が出ていることを確認しながら留置した(Figure 3-c).逆流防止弁からの胆汁流出は良好であった(Figure 3-d).留置後にはそれまで認めていた発熱や炎症反応の高値は消失し,抗菌薬中止後も再発しなかった.逆行性胆管炎のため延期されていた化学療法の導入が可能となり(Figure 2-a),外来で継続する方針で,留置後2週間で退院した.退院後に行われたPET検査で腰椎転移,左鎖骨下リンパ節転移が明らかとなり,切除不能膵癌と判断した.6カ月後の現在も安定に化学療法を継続できている.

当院検査所見.
a:造影CT:炎症反応高値で行ったCTで肝内に斑な早期濃染域を認め(黄矢頭),胆管炎の所見であった.
b:当院初回ERC画像:逆行性胆管炎の予防を目的に前医で留置された金属ステント内に7Fr 10cmの両端ピッグテイル型プラスチックステント(Through & PassⓇ Double PitTM, GADELIUS)を2本留置した.
c:D-ARMS留置時ERC画像:前医金属ステントを抜去して口径10mm,ステント長70mmのD-ARMS(川澄ダックビル胆管ステント,SB-KAWASUMI)を留置した.
d:D-ARMS留置時内視鏡画像:遠位端にポリテトラフルオロエチレン製のカモノハシの口型の逆流防止弁が付属している.胆汁流出が良好なことを確認した.
切除不能悪性遠位胆道閉塞による閉塞性黄疸に対しては,FCSEMSの有効性が報告されている 2)~5).また近年ではBR膵癌だけではなく,切除可能膵癌に対しても術前化学療法の有効性が報告され 21),十分に減黄して早期に化学療法を行うことの重要性が増している.術前ドレナージとしては,従来はプラスチックステントが使用されてきたが,現在ではステント留置後の開存率や開存期間で上回るSEMSの有用性が報告されており 1)~3),安定して化学療法を行うことの重要性から国際的なガイドラインではSEMSも推奨されている 4),5).
SEMSにおいても偶発症としてはステント閉塞に伴うRBOが第一に挙げられるが,その他,本症例のように逆行性胆管炎を代表とする非ステント閉塞性胆管炎(Non-occlusion cholangitis)を来すことが知られている 22).本来,十二指腸乳頭部は乳頭括約筋によって食物残渣や腸液の胆管内への逆流を防ぐ構造となっているが,遠位胆道狭窄に対してSEMSを留置すると乳頭からSEMS先端が出るため,その機能が働かなくなる.狭窄から乳頭までの距離が十分に取れれば,ESTを行わずにSEMSやインサイド型のプラスチックステントを,十二指腸に先端が出ないように留置することも検討されるが,膵頭部癌をはじめとする遠位胆道狭窄では十分な距離が確保できず困難なことが多い.
食物残渣によるステント閉塞および逆行性胆管炎の予防目的に2011年以降様々な種類のARMSが報告されており,スラッジの形成や逆流を防ぐ形状など様々な工夫がなされている 9)~16),19),20).これらのARMSの有用性の検討ではRBOまでの期間を評価項目としているものが多く,逆流防止弁による開存期間の延長を企図したものが多い.これまでの検討では実際に開存期間の延長効果の確認されているものも多いが,スラッジによる閉塞や逸脱も比較的高い頻度で報告されている.本症例で使用したD-ARMSは2021年に2本のsingle-armでの後ろ向き観察研究が報告されている.Kinらの報告では十分な開存率が報告されているが,留置後早期に2例の胆管炎を認めており,追加の内視鏡処置が必要となっている.Yamadaらの検討は通常のFCSEMSが機能不全となった症例に対してD-ARMSを留置したもので,機能不全の中には6例の非ステント閉塞性胆管炎症例が含まれている.D-ARMSに変更後に1例で胆管炎を来しているが処置前に非ステント閉塞性胆管炎を来した症例と同一症例かの記載はなかった(Table 1).これらの報告をみても,留置後早期の逆行性胆管炎の予防効果について論じられている報告は少なく,その理由として,ステント留置後の短期では逆行性胆管炎の頻度が少ないこととその病態の定義が十分ではないことが挙げられる.

ARMS既報のまとめ.
TOKYO Criteria 2014ではステント留置後の偶発症として非ステント閉塞性胆管炎(Non-occlusion cholangitis)が挙げられており,『38℃以上の発熱が24時間以上続き,胆汁鬱滞所見も認めるが胆管拡張やステント閉塞,逸脱などを画像的あるいはRe-intervention時に認めないもの』と定義されている.30日以内の早期と30日以降の後期に分けられており,さらに重症度に関して抗菌薬投与のみを軽症,3日以上の入院または内視鏡や経皮的処置を有する発熱や敗血症を中等症,敗血症性ショックまたは手術を要するものを重症としている 22).
非ステント閉塞性胆管炎はステント留置後比較的長期の合併症として扱われることが多く,閉塞までは至らないスラッジによる内腔の狭小化が本態として考えられている.一方で本症例は留置直後から逆行性胆管炎を来しており,従来の多くの報告で認識されている病態とは異なる可能性がある.本症例は非ステント閉塞性胆管炎とすれば早期の重症例(10日以上の入院期間の延長)となるが,発熱以外の臨床症状は乏しく,血液検査でも胆汁鬱滞所見は認められなかった.ステント留置後の発熱の原因としてよく挙げられる胆囊炎やその他の熱源となりうる疾患は腹部超音波検査やCT検査で否定された.CT画像で,肝内に散在する早期濃染像の所見から逆行性胆管炎と判断し,治療に結び付けることができた.本症例の様に現状の非ステント閉塞性胆管炎の定義では包括できない病態が存在することから,定義の拡大についても今後の検討が必要と考えられる.
SEMS留置後早期から逆行性胆管炎を来す症例は比較的稀ではあるが経験され,逆行性胆管炎によって化学療法の導入や適切なタイミングでの手術が遅れることがある.本症例でも抗菌薬の投与による保存的治療,プラスチックステントの追加留置による治療を経ており,最終的な化学療法の導入に2カ月以上の時間がかかってしまった.通常型SEMS留置後,当院での初回のERCP時には,少しでも食物残渣や腸液の逆流を減らすことを目的にSEMS内にプラスチックステントを留置することを試みたが,期待した効果は得られなかった.最終的にD-ARMSに交換することで逆行性胆管炎は改善し化学療法が可能となったが,非ステント閉塞性胆管炎に対する治療ストラテジーの最適化が必要と考えられた.
D-ARMSはレーザーカット型であるため抜去は困難で,また逆流防止弁のため一度留置してしまうとre-interventionが困難になることがある.初回から全例に使用するのは躊躇され,選択すべき症例の適正化のため逆行性胆管炎の高リスク症例の抽出が重要である.十二指腸への癌浸潤や乳頭開口部が低位であること,便秘や亀背などによる腹圧の上昇などがリスクとして考えやすいが,本症例ではいずれもなく,本症例がなぜ逆行性胆管炎を反復したかについては明らかではない.今後の症例の蓄積によって処置前から逆行性胆管炎を来しやすい症例を抽出することが可能であれば,初回からでもARMSを使用して逆行性胆管炎を予防することで早期に化学療法の開始できる可能性がある.
本症例は膵頭部癌閉塞性黄疸に対してSEMSを留置した後,早期から反復性逆行性胆管炎を繰り返した.通常型のSEMSを抜去しD-ARMSを留置することで改善が得られ,化学療法が可能となった.今後,症例の蓄積によって留置後早期から逆行性胆管炎を発症するリスク因子を明らかにし,高リスク症例を対象としたARMSによる治療・予防効果の検討が望まれる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし