日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
ERCP後膵炎予防目的に留置した自然脱落型膵管ステントによる小腸穿孔の1例
渡邉 雄介 中山 宏道後藤 佳登田村 公二河野 博山元 啓文植木 隆
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2023 年 65 巻 5 号 p. 460-466

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要旨

症例は82歳,女性.結腸癌術後,腹膜播種再発による腸閉塞に対する手術歴があり,化学療法を行っていた.腹膜播種による肝門部領域胆管狭窄に対し内視鏡的胆管ステント留置術を施行し,ERCP後膵炎予防目的に自然脱落型膵管ステントを留置した.その後,膵炎なく経過したが,ERCP後21日目に脱落した膵管ステントによる小腸穿孔を発症し,手術を要した.予防的自然脱落型膵管ステント留置を行う際は,まれではあるが脱落したステントによる消化管穿孔の可能性があり,適応を慎重に考慮するとともに,術後の経過観察も重要であることが示唆された.

Abstract

Post-ERCP pancreatitis is the most common and potentially most serious complication after ERCP. A great deal of medical literature describes the efficacy and safety of the prophylactic pancreatic spontaneous dislodgement stent placement in reducing the incidence of post-ERCP pancreatitis, and the 2015 guidelines for the management of post-ERCP pancreatitis recommend its use for high-risk patients. Serious complications such as intestinal perforation due to migration of this pancreatic spontaneous dislodgement stent have been rarely reported. Herein, we report a case with small intestine perforation induced by a migrated pancreatic spontaneous dislodgement stent. An 82-year-old woman with a surgical history of laparoscopic right hemicolectomy for colon cancers, and open operation for small intestinal ileus due to peritoneal metastasis underwent ERCP for obstructive jaundice. Selective bile duct cannulation was unsuccessful, and the pancreatic spontaneous dislodgement stent (5Fr diameter, 5 cm, straight type) was placed to prevent post-ERCP pancreatitis. Twenty-one days after ERCP, the patient complained of abdominal pain and was hospitalized. Computed tomography revealed small intestinal perforation because of pancreatic spontaneous dislodgement stent migration, and surgical treatment was performed. The indications should be carefully considered when a prophylactic pancreatic spontaneous dislodgement stent is placed to prevent post-ERCP pancreatitis. Moreover, we should pay attention to severe complications, including intestinal perforation, and careful observation after placement of a prophylactic pancreatic spontaneous dislodgement stent is needed.

Ⅰ 緒  言

内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)は消化器内視鏡のなかでも偶発症の頻度が高い内視鏡検査・処置法である.特にERCP後膵炎は,重症例では死亡に至る場合がある注意すべき合併症である 1.ERCP後膵炎の発症頻度は1~7%であり,そのうち重症例は1~5%であると報告されているが,近年のメタ解析によると,予防的膵管ステント留置例では非留置例と比較してERCP後膵炎発症頻度を有意に減少させることが報告されている(リスク比0.39;95%信頼区間0.29-0.53) 2.そのため,ERCP後膵炎ガイドライン2015ではERCP後膵炎の高リスク患者に対する予防的膵管ステント留置が推奨されている 3.使用する膵管ステントは5Fr径,ストレート型の自然脱落型膵管ステントが推奨されており 3,自然脱落型膵管ステントは留置後3日以内に95%以上が膵管から自然に脱落し,便とともに体外へ排出されると報告されている 4

今回,われわれはERCP後膵炎予防目的に留置した自然脱落型膵管ステントにより小腸穿孔・限局性腹膜炎を発症した1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:82歳,女性.

既往歴・手術歴:高血圧(55歳頃~),脂質異常症(55歳頃~),甲状腺機能低下症(60歳~)で内服加療中.59歳時に右卵巣腫瘍,60歳時に甲状腺癌に対する手術歴あり.79歳時に上行結腸癌(pT3N1aM0 StageⅢb),横行結腸癌(pT3N0M0 StageⅡa)に対し腹腔鏡下拡大右半結腸切除術,胆囊結石症に対し腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.80歳時に腹膜播種再発による腸閉塞を発症し,小腸部分切除術を施行した.

内服薬:アムロジピンベシル酸塩錠,レボチロキシンナトリウム錠,ロバスタチンカルシウム錠. 現病歴:80歳時から結腸癌術後腹膜播種再発に対して化学療法(フォリン酸,フルオロウラシル,オキサリプラチン併用療法:mFOLFOX6療法)を開始していた.化学療法開始1年6カ月後(82歳時)に,血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認めたため,造影CT検査を施行したところ,肝門部領域胆管周囲に造影効果を伴う軟部陰影が出現しており,肝内胆管の拡張を認めた(Figure 1).経過から播種病変による胆管狭窄を疑い,ERCPを施行した.

Figure 1 

腹部造影CT検査所見.

肝門部領域胆管の狭窄と肝内胆管の拡張を認めた.狭窄部に一致して造影効果を伴う境界不明瞭な陰影を認めた(矢印).

ERCP所見:選択的胆管挿管を試みたが難渋し,膵管挿管となったため,膵管にガイドワイヤーを留置した.膵管ガイドワイヤー法で胆管挿管に成功し,胆管造影を行った.肝門部領域胆管にBithmuth-Corlette分類 5Ⅱ型の狭窄を認めた(Figure 2).内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)を行い,左右肝管に7Fr9cmの胆管ステント(AdvanixJ Biliary Plastic Stent;Boston Scientific Japan,東京)をインサイドステントとして留置した.手技に時間を要したため(胆管ステント留置まで48分間),胆管ステント留置後に,ERCP後膵炎の予防目的に5Fr5cmの自然脱落型膵管ステント(AdvanixTM Pancreatic Stent Kit;Boston Scientific Japan,東京)を留置した.膵管ステントの位置に問題がないことを確認して,手技を終了した(Figure 3).

Figure 2 

ERCP所見①.

肝門部領域胆管にBismuth-Corlette分類Ⅱ型の狭窄を認めた.左肝管(矢印),右肝管(矢頭).

Figure 3 

ERCP所見②.

左右肝管に7Fr9cmの胆管ステントをインサイドステントとして留置した.ERCP後膵炎の予防目的に5Fr5cmの自然脱落型膵管ステントを留置して,手技を終了した.

膵炎を含むERCP後合併症はみられず,翌日から経口摂取を再開した.血液検査で肝胆道系酵素は速やかに改善し,ERCP後5日目に25コース目の化学療法を行い退院となった.しかし,ERCP後17日目から下腹部痛が出現し,ERCP後21日目に救急外来を受診した.

受診時現症:身長154cm,体重41.5kg.体温36.9℃,脈拍102回/分,血圧125/78mmHg.上下腹部正中切開手術瘢痕を認め,臍は切除され形成されていた.左右側腹部頭側・尾側の4カ所に腹腔鏡下結腸切除術時のポート瘢痕を認めた.臍部左側から下腹部にかけて圧痛を認めた.明らかな腹膜刺激症状は認めなかった.

臨床検査成績:軽度の貧血,C反応性蛋白高値,胆道系酵素上昇,腎機能低下を認めた(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

腹部単純撮影検査所見:右上腹部に胆管ステント,下腹部に脱落した膵管ステントを認めた.また,左側腹部を中心に拡張した小腸ガス像を認めた(Figure 4).

Figure 4 

腹部単純撮影検査所見.

右上腹部に胆管ステント,下腹部に脱落した膵管ステントを認めた.また,左側腹部を中心に拡張した小腸ガス像を認めた.

腹部単純CT検査所見:骨盤内に脱落した膵管ステントと思われる線状の高吸収構造物を認めた(Figure 5).周囲に小腸が集簇し,周囲脂肪織の濃度上昇と近傍に微量の腸管外ガス像を認めた(Figure 6).

Figure 5 

腹部単純CT検査所見①.

骨盤内に脱落した膵管ステントと思われる線状の高吸収構造物を認めた(矢印).

Figure 6 

腹部単純CT検査所見②.

脱落した膵管ステントと思われる高吸収構造物の周囲に小腸が集簇し,周囲脂肪織の濃度上昇と近傍に微量の腸管外ガス像を認めた(矢印).

以上の所見から,脱落した膵管ステントによる小腸穿孔・限局性腹膜炎と診断し,緊急手術を行った.

手術所見:下腹部正中切開で開腹した.腹腔内に混濁した腹水を少量認めた.右下腹壁に小腸や大網が強固に癒着しており,術野確保のため可及的に癒着剝離を行った.骨盤内で小腸が一塊となっていたが,鈍的剝離を行うことで,一塊となった小腸を容易に体外に挙上することができた.一塊となった小腸に穿孔した膵管ステントを認め,同部に周囲の小腸や間膜が集簇し,限局性腹膜炎を呈していた(Figure 7).穿孔部はトライツ靭帯から約80cmの部位であった.観察範囲内の小腸間膜には複数の小白色結節を認め,腹膜播種と思われたが,腸管の通過障害をきたすほどの病変ではなかった.穿孔部より肛門側の腸管は虚脱しており,肛門側の通過障害がある可能性は低いと判断し,穿孔部を含む小腸を切除し,腸管吻合を行った.腹腔内を洗浄し,骨盤内にドレーンを留置して手術を終了した.

Figure 7 

術中所見.

骨盤内で一塊となった小腸を体外に挙上した.一塊となった小腸に穿孔した膵管ステントを認め(矢印),同部に周囲の小腸が集簇し,限局性腹膜炎を呈していた.

病理検査所見:穿孔部に膿瘍形成と出血を認めた.穿孔部周囲の小腸壁には,好中球を主体とした炎症性細胞浸潤を認めた.穿孔部を含め,切除標本には播種などの悪性所見を認めなかったが,術中にサンプリングした小腸間膜結節は腺癌の播種病変であった.

術後経過:術翌日から飲水を開始した.術後5日目から経口摂取を開始した.術後7日目にドレーンを抜去し,術後10日目に退院となった.術後1カ月後から化学療法を再開し,術後4カ月が経過した現在も肝胆道系酵素の上昇なく当院に通院中である.

Ⅲ 考  察

ERCP後膵炎は,造影剤の膵管内注入あるいはカニュレーション刺激による乳頭浮腫・乳頭括約筋攣縮により惹起される膵液の流出障害の結果として,膵管内圧の上昇や血流障害をきたすことが要因のひとつとされている.それに伴う膵管上皮・膵腺房障害によりトリプシンが活性化されると同時に種々の化学的障害因子が発生することにより防御機構が破綻し,ERCP後膵炎を発症すると考えられている 3.予防的膵管ステント留置により,膵液の流出を確保し,膵管内圧の上昇を防ぐことで,ERCP後膵炎発症率が有意に低下することが知られており,ERCP後膵炎ガイドライン2015ではERCP後膵炎の高リスク患者に対する予防的膵管ステント留置が推奨されている 2)~4.一方で,メタ解析によると予防的膵管ステント留置全体の有害事象の発生頻度は4.4%と報告されている(感染症3.0%,出血2.5%,胆管炎・胆囊炎3.1%,ステントの迷入・逸脱4.9%,ステント閉塞7.9%,膵壊死0.4%,膵管穿孔0.8%,膵仮性囊胞3.0%,後腹膜穿孔1.2%) 6.ERCP後膵炎の発症頻度と膵管ステント留置が予防的処置であることを考慮すると,有害事象の頻度は低くはない.迅速な対応を要する膵管ステントによる膵管・実質穿孔といった重篤な合併症も報告されている 7.そのため,予防的膵管ステント留置の適応は慎重に検討すべきであり,また慎重な経過観察を要する処置である.

様々な膵管ステント留置の合併症のなかで,消化管内に自然脱落した膵管ステントによる消化管穿孔の報告は少ない.ERCPにより留置され自然脱落した膵管ステントによる消化管穿孔症例について,医学中央雑誌で「膵管ステント」,「脱落」,「穿孔」,「穿通」をキーワードに,PubMedで「pancreatic stent」,「migration」,「perforation」,「penetration」をキーワードに,1990年1月から2021年12月までの論文報告を検索した結果,4例(会議録を除く)の報告を認めた(Table 2 8)~11.2例はERCP後膵炎予防目的に留置された自然脱落型膵管ステントによる消化管穿孔例であり,残りの2例は慢性膵炎に対する治療目的に留置された非脱落型膵管ステントによる例であった.3例に外科的治療が施行されていた.これらの報告のうち,Haradaらの報告例では 9,癌性腹膜炎による空腸間の癒着が穿孔の要因であったと考察されており,癌性腹膜炎や腹部手術後の癒着を伴う例では,経口摂取の状況に関わらず,予防的自然脱落型膵管ステントの留置には注意を要するとしている.本症例の穿孔部位の小腸も,Haradaらの術中所見と同様に,脳回状に一塊となっていたが,穿孔部周囲の癒着は強固ではなく,穿孔部より肛門側の腸管に癒着を認めたことから,穿孔部より肛門側の不顕性消化管通過障害や口側消化管内容の停滞がステント穿孔の原因となった可能性が考えられた.

Table 2 

自然脱落した膵管ステントによる消化管穿孔の症例報告.

一方で,消化管通過障害や癒着がない例でも膵管ステントによる消化管穿孔例の報告がある 11.また,膵管ステントより頻繁に使用される胆管プラスチックステントは,経過で約6%が自然脱落すると報告されており,脱落した胆管ステントによる消化管穿孔の報告が散見されるが,その穿孔部位の多くがS状結腸や直腸である 12.これらの報告からは,腹膜播種や癒着のない例においても,脱落したステントによる消化管穿孔のリスクがあると考えなくてはならない.自然脱落型膵管ステントは,腸管内を経由して自然に体外に排出されることがそもそものコンセプトであるが,消化管内を異物が通過することは消化管穿孔のリスクがあるということを十分認識すべきである.

自然脱落型膵管ステントによる空腸穿孔例は,自験例を含め,2例とも腹膜播種・癒着が存在した例であった.本症例では腹膜播種や癒着と脱落した膵管ステントによる消化管穿孔の関連は明らかでなく,また,予防的膵管ステント留置を控えるべき症例の臨床像は明らかではないが,腹膜播種例や癒着の存在が疑われる例では,経口摂取や排便の状況に関わらず,ERCP後膵炎に対する予防的膵管ステント留置の必要性をより慎重に検討すべきであり,場合によっては自然脱落型膵管ステントではなく,非脱落型膵管ステントや内視鏡的経鼻膵管ドレナージを検討する必要があると思われる.

ERCP後膵炎ガイドライン2015では,予防的膵管ステント留置に推奨されるステントの長さについては記載されていない 3.ステント長とERCP後の膵炎予防効果については一定の見解はなく 13),14,European Society of Gastrointestinal Endoscopy(ESGS)から刊行されたERCP関連有害事象に関するガイドラインでも短い自然脱落型膵管ステントを推奨すると記載されているのみである 15.なお,ERCP後膵炎ガイドライン2015では,ステントの形状はストレート型が推奨されているが,ESGSのガイドラインでは,ストレート型・片側ピッグテイル型のいずれも推奨されている 3),15.ステントの形状や長さによらず消化管穿孔発症のリスクを念頭におき,自然脱落型膵管ステント留置後は慎重な経過観察を行うべきである.

Ⅳ 結  語

ERCP後膵炎予防目的に留置した自然脱落型膵管ステントによる小腸穿孔の1例を経験した.予防的膵管ステント留置によって,本例のような消化管穿孔が生じる可能性があるため注意を要する.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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