日本消化器内視鏡学会雑誌
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65 巻, 5 号
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総説
  • 菊池 大輔, 野村 浩介, 布袋屋 修
    2023 年 65 巻 5 号 p. 425-434
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    上部消化管の術後に長期に経過観察されている症例が増加しているため,日常診療においても術後の胃をスクリーニングする機会が増えている.このため術後の胃に発生する胃癌を早期に発見し,適切に診断することが望まれている.術後胃ではその状態に応じて発生する癌には特徴があり,その特徴を習得しておくことは重要である.白色光観察だけではなく,画像強調内視鏡や拡大内視鏡,超音波内視鏡を用いて総合的に診断する必要がある.

    治療面においては,術後の状態は前回の手術による癒着などの影響で手術は難易度が高いとされている.より低侵襲な治療が望まれるが,ESDも吻合部や縫合線のため時に困難になることがある.本稿では,術後の残胃もしくは再建胃管に発生する早期胃癌の特徴と治療時のコツを中心に概説する.

  • 辻 陽介, 牛久 哲男, 藤城 光弘
    2023 年 65 巻 5 号 p. 435-441
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    Epstein-Barr(EB)ウイルス関連胃癌は胃癌の10%程度を占める特徴的な胃癌である.胃体上部や残胃に発生することが多く,病理像ではリンパ球浸潤癌(carcinoma with lymphoid stroma:CLS)またはlace patternと呼ばれる特徴的な像を示すことが多い.確定診断はEBV encoded small RNA1(EBER1)を標的としたin situ hybridization(ISH)法(EBER-ISH法)による核の陽性所見を確認することでなされる.EBウイルス関連胃癌の予後は,他の胃癌に比して良好であることが知られている.特に早期胃癌では,粘膜下層浸潤癌においてリンパ節転移率が低いことが報告されており,EBウイルス関連胃癌についてはESDの治療適応を拡大できる可能性がある.EBウイルス関連胃癌の確実で簡便な診断方法の確立は今後の課題であろう.

症例
  • 齋田 将之, 関 英一郎, 丹羽 浩一郎, 呉 一眞, 柴田 將, 加賀 浩之
    2023 年 65 巻 5 号 p. 442-447
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    症例は88歳男性.若年期に完全内臓逆位を指摘されていた.上部消化管内視鏡検査で胃前庭部小彎後壁に20mm大の0-Ⅱc型早期胃癌を疑う病変を認めた.左側臥位では病変の存在する前庭部の伸展が不良であったため,右側臥位で再度内視鏡検査を行った.右側臥位では左側臥位と比べ前庭部の伸展は保たれていた.しかし,右側臥位では通常と異なる術者姿勢と周辺機器配置を要し,ESDにおける繊細な内視鏡操作は困難であることが想定され,実際のESDは左側臥位にて行った.左側臥位におけるESDでは合併症なく一括切除可能であった.完全内臓逆位における早期胃癌に対しESDを行う際,左側および右側の側臥位における術前シミュレーションは有用であると考えられた.

  • 新谷 和貴, 重橋 周, 中牟田 瑠璃, 中鋪 卓, 竹下 茂之, 楠本 浩一郎, 重野 賢也, 安倍 邦子, 重松 和人
    2023 年 65 巻 5 号 p. 448-453
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    症例は42歳,女性.貧血を契機に近医で内視鏡検査を施行され,多発胃ポリープを指摘された.上部消化管内視鏡検査では胃全体にポリープが密生し,前庭部にポリープ集簇による隆起形成を認めた.当初は多発胃過形成性ポリープが原因の貧血として経過観察の方針となった.経過観察中に前庭部の隆起は経時的な増大傾向を示し,生検で腺癌の合併が疑われたため,胃全摘術を施行された.切除標本の病理組織検査で早期胃癌を合併した若年性ポリポーシス症候群と診断された.貧血や低アルブミン血症を認める胃限局型若年性ポリポーシス症候群では胃癌が発生しやすいとされる.しかし併存する癌の診断は困難なことが多く,予防的胃全摘術も考慮される.

  • 小池 弘太, 窪田 裕幸, 髙柳 泰宏, 池田 誉, 芹澤 亜紗美
    2023 年 65 巻 5 号 p. 454-459
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    症例は84歳女性,吐下血を主訴に当院へ救急搬送された.血液検査でHb 8.3g/dlと貧血を認め,BUN/CRE比の上昇があり,緊急で上部内視鏡検査を行った.遠景観察で十二指腸水平部の憩室内に血餅を認めたが,上部用スコープでは憩室まで到達できなかった.大腸用スコープに変更し,水平部の憩室に到達可能となり,憩室内の血餅を除去すると露出血管を認めた.出血源と判断しクリップ法による止血術を行った.十二指腸憩室は日常診療でもしばしば遭遇する疾患だが,出血を呈することは比較的稀である.以前は十二指腸憩室出血に対し手術や経カテーテル動脈塞栓術が多く行われていたが,最近では内視鏡による止血術が多くなっている.今回われわれは,大腸用スコープに変更することで内視鏡的に止血し得た十二指腸水平部の憩室出血の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

  • 渡邉 雄介, 中山 宏道, 後藤 佳登, 田村 公二, 河野 博, 山元 啓文, 植木 隆
    2023 年 65 巻 5 号 p. 460-466
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    症例は82歳,女性.結腸癌術後,腹膜播種再発による腸閉塞に対する手術歴があり,化学療法を行っていた.腹膜播種による肝門部領域胆管狭窄に対し内視鏡的胆管ステント留置術を施行し,ERCP後膵炎予防目的に自然脱落型膵管ステントを留置した.その後,膵炎なく経過したが,ERCP後21日目に脱落した膵管ステントによる小腸穿孔を発症し,手術を要した.予防的自然脱落型膵管ステント留置を行う際は,まれではあるが脱落したステントによる消化管穿孔の可能性があり,適応を慎重に考慮するとともに,術後の経過観察も重要であることが示唆された.

注目の画像
手技の解説
  • 吉村 大輔, 吉村 理江, 水谷 孝弘
    2023 年 65 巻 5 号 p. 469-477
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    Helicobacter pyloriHp)の感染率の低下を反映し従来稀とされたHp未感染胃癌の増加が報告されている.自験例の解析ではHp未感染胃癌は(1)噴門部(食道胃接合部)腺癌,(2)胃底腺領域とくにU,M領域に好発する胃型形質の低異型度腺癌,(3)胃角前庭部の胃底腺と幽門腺境界領域に好発する印環細胞癌,(4)幽門腺領域に好発ししばしば腸型形質を呈する分化型腺癌,に分類可能であった.噴門部腺癌の多くが進行癌であったのに対して,その他の領域は大部分がESDによる治療が可能であった早期癌で,その進行が緩徐である可能性も示唆された.Hp未感染胃においては部位,腺領域ごとの癌の好発部位と形態および組織型の特徴をふまえた観察が効率的と考える.

  • 水野 卓, 伊佐山 浩通, 持田 智
    2023 年 65 巻 5 号 p. 478-485
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)は,肝内外の胆管にびまん性・多発性に線維性狭窄をきたし,胆汁うっ滞から肝硬変に至る原因不明の疾患である.肝移植以外に根本的な治療方法がなく,また胆管癌の高危険群でもあり,本邦では指定難病の1つとされている.PSCの診断はその特徴的な胆管像に基づいてなされるが,細菌性胆管炎のリスクを考慮し,まずは低侵襲な核磁気共鳴胆管膵管撮影(magnetic resonance cholangiopancreatography:MRCP)やEUSを行う.しかしながら,dominant strictureを有し胆管癌との鑑別が必要となる症例や,罹患早期で軽微な肝内胆管の変化しかない症例では,ERCPは重要な役割を果たしている.またPSCの治療では,dominant strictureを対象とし,狭窄部のバルーン拡張を第一選択とする.長期ステント留置は閉塞による細菌性胆管炎の合併が問題となるため,適応を慎重に検討する必要がある.PSCの診療において胆膵内視鏡は重要な役割を担っているが,そのリスクおよび限界を十分に認識しておくことが肝要である.

資料
  • 鈴木 雅人, 関野 雄典, 細野 邦広, 山本 絋司, 川名 憲一, 永瀬 肇, 窪田 賢輔, 中島 淳
    2023 年 65 巻 5 号 p. 486-494
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    【目的】総胆管結石が疑われるがCTで検出できない場合,EUSと核磁気共鳴胆管膵管撮影(MRCP;Magnetic resonance cholangiopancreatography)のどちらが優れた診断ツールであるか,明らかなエビデンスはない.そこで,この研究ではCTで検出できない総胆管結石に対するEUSとMRCPの正診率を比較することを目的とした.

    【方法】総胆管結石の存在が疑われる患者をEUSもしくはMRCP群にランダムに割り付けた.一次検査で,総胆管結石や胆泥が検出された患者はERCPを受け,検出されなかった患者は二次検査を受けた.二次検査はMRCPもしくはEUSで,先行検査と異なる検査であった.主要評価項目は正診率,副次評価項目は二次検査の総胆管結石検出率,有害事象発生率とした.

    【結果】2019年4月から2021年1月まで,50人の患者が試験に参加した.正診率はEUS 92.3%でMRCP 68.4%(P=0.055)であった.EUSの感度 100%,特異度 88.2%,陽性的中率 81.8%,陰性的中率 100%,MRCPの感度 33.3%,特異度 84.6%,陽性的中率 50%,陰性的中率 73.3%であった.二次検査での総胆管結石検出率はEUS陰性MRCP群 0%,MRCP陰性EUS群 35.7%であった(P=0.041).有害事象は発生しなかった.

    【結論】CTで総胆管結石が検出されない場合,EUSはMRCPと比較し優れた診断ツールである可能性が示唆された(UMIN000036357).

内視鏡室の紹介
最新文献紹介
  • 杉本 光繁
    2023 年 65 巻 5 号 p. 503
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/22
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    【目的】自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis;AIG)は,壁細胞を標的とする免疫介在性疾患の1つであり,胃底腺領域の萎縮を引き起こす.長期間の観察研究である本研究は,H. pylori未感染のAIG症例の自然史,病理組織学的特徴,胃癌発症に関連する危険度を明らかにするために行われた.

    【方法】抗体価,病理組織,PCRでH. pylori未感染が確認された211人のAIG症例(男女比:3.15:1)を対象に平均7.5±4.4年の観察前後における病理組織学的評価を前向き研究として行われた.生検検体により胃粘膜を非萎縮と萎縮に分類し,更に非化生粘膜と化生粘膜(偽幽門腺化生と腸上皮化生)に分けて評価をした.消化管クロム親和性細胞様細胞(enterochromaffin-like cells;ECL細胞)はびまん性,腺腫様過形成/異形成,1型神経内分泌腫瘍に分類した.

    【結果】病理組織学的評価にてAIG症例では長期に渡り胃底腺領域有意に単核球浸潤による慢性炎症が確認された.観察開始前には偽幽門腺化生のスコア(200/211)は腸上皮化生のスコア(160/211)よりも高く,腸上皮化生のスコアは時間経過の中で増加傾向を認めた(160/から179/211).しかし,偽幽門腺化生の有病率は変化を認めなかった.観察前後ともにOLGA stage Ⅲの頻度は5%以下であり,stage Ⅳの症例は認めなかった.ECL細胞は時間経過により腺腫様過形成/異形成への割合の変化を認めた.1型神経内分泌腫瘍は胃底腺領域の萎縮部に認めた.甲状腺癌の発症リスクは3.09(95%CI:1.001-7.20)に増加したが,胃癌や他悪性腫瘍の発症は10,541人年の中で認めなかった.

    【結語】AIGの病理組織学的な特徴は胃底腺領域の単核球優位の慢性炎症,偽幽門腺化生,およびECL細胞の腺腫様過形成/異形成である.一般集団と比較してAIG症例では胃体部の慢性炎症や萎縮性変化を認めるものの,胃癌リスクは増加させない可能性がある.AIG症例で認められる胃癌発症リスクは,H. pyloriの現感染,あるいは既感染に伴う背景胃粘膜の変化の結果として生じている可能性が考えられる.

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