日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
ESD後7年目に多発リンパ節転移,骨転移を来した組織混合型早期胃癌の1例
矢山 貴之 岩崎 丈紘内多 訓久藤井 翔平窪田 綾子大家 力矢小島 康司岡崎 三千代賴田 顕辞
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2023 年 65 巻 6 号 p. 1117-1122

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要旨

患者は46歳,女性.健康診断で上部消化管内視鏡を行い,Helicobacter pylori感染に加え,胃体中部小彎に0-Ⅱc病変を指摘され,組織生検でsig,早期胃癌の診断で当院に紹介となった.精査の結果ESDの適応拡大病変(現在のガイドラインでは絶対適応病変)であり2013年10月にESDを施行した.病理組織ではサイズは10mm,組織型はsig>tub2,深達度はM,pUL0,脈管侵襲及び断端陰性で治癒切除と診断した.以降5年間は内視鏡に加え胸腹部造影CTでフォロー,再発は認めていなかった.しかし,ESDから7年後に左鼠径部の腫瘤を契機に胃癌の鼠径リンパ節,骨転移の診断となり化学療法を施行したが救命できなかった症例を経験した.

Abstract

A 46-year-old woman underwent an upper gastrointestinal endoscopy for physical examination in 2013 and received a diagnosis of Helicobacter pylori gastritis; a 0-Ⅱc lesion was found on the lesser curvature of the stomach. Histopathological diagnosis indicated a signet ring cell carcinoma. ESD was performed for the diagnosis of early-stage gastric cancer, and the final pathological stage was pStage Ⅰ [10×9 mm, sig>tub2, pT1a, ly (-), v (-), HM0, VM0]. We performed regular follow-up CT scans and upper gastrointestinal endoscopy for 5 years after ESD, but no recurrence was observed. However, 7 years after ESD, a mass in the left inguinal region was diagnosed as an inguinal lymph node and multiple bone metastases of gastric cancer, which were treated with chemotherapy; nevertheless, the patient could not be saved.

Ⅰ 緒  言

早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は標準的な手技であり,2020年に刊行された胃癌に対するESD/EMRガイドライン(第2版)では,未分化型でも長径2cm以下,UL0,cT1aであればESDの絶対適応病変となった.今回,本規約においてESDの絶対適応病変となる未分化型早期胃癌に対してESDを行い,治癒切除であったが,7年後に鼠径リンパ節転移と多発骨転移を来し,救命できなかった症例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:46歳女性.

主訴:左鼠径部の腫瘤触知.

現病歴:2013年8月の健康診断で上部消化管内視鏡検査を行い,Helicobacter pylori胃炎に加え,胃体中部小彎に10mm大の0-Ⅱc病変を指摘され,早期胃癌の診断で同年10月にESDが施行され治癒切除と判定した.組織混合型(sig>tub2)であり2019年6月まで半年毎に上部消化管内視鏡検査及び胸腹部造影CTで経過観察をしていたが,再発は認めずCTでのフォローアップを終了していた.左鼠径部腫瘤を主訴に2月に近医を受診され,2020年3月に精査加療目的で当院に紹介となった.

既往歴:慢性胃炎(2013年H. pylori除菌治療),右肺過誤種(2019年),慢性B型肝炎.

家族歴:胃癌の家族歴なし.

生活歴:機会飲酒,喫煙なし.

理学所見:左鼠径部に1cm程度の弾性硬,可動性良好の腫瘤を触知する.圧痛はなし.他リンパ節は触知せず.

臨床検査成績所見(Table 1):ALPは5,200U/Lと著明な上昇を認め,ALP-3が72%であり骨由来のALP上昇と考えられた.腫瘍マーカーはCEAが1.4ng/ml,CA19-9は30U/mlと基準値内であった.

Table 1 

2020年3月受診時の臨床検査成績とDIC発症時の臨床検査成績.

ESD施行時の内視鏡所見:背景粘膜に萎縮(C-2)を認めた.胃体中部小彎に褪色調の10mm大,0-Ⅱcの病変を認めた(Figure 1).ME-NBI拡大観察では,白色光で見えた陥凹面にほぼ一致してdemarcation lineを同定できた.病変部で一部腺窩辺縁上皮は視認できず,network構造を取らない不均一で口径不同な微小血管を認めた(Figure 2).前医の生検でsigが検出されており,ESD適応拡大病変(当時のガイドライン)と判断し病変周囲で4点生検を行い陰性であることを確認した後,ESDで一括切除した.

Figure 1 

白色光,萎縮粘膜を背景に胃体中部小彎に褪色調,10mm大の0-Ⅱc病変を認めた.

Figure 2 

ME-NBI拡大観察では一部腺窩辺縁上皮は視認できず,network構造を取らない不均一で口径不同な微小血管を認めた.

胃癌の病理組織学的所見(Figure 3-a~d):ESDで採取された標本に3~4mmの幅で割を入れ,組織学的に評価した.胃底腺粘膜を背景に径10×9mm大の表面陥凹型の腫瘍を認めた.細胞質内に粘液を含有する印環様の異型細胞と吻合状の構造異型を呈する腺癌の両者が混在しており,印環細胞癌(sig)が80%で,中分化管状腺癌(tub2)が20%であった.sigは粘膜固有層の浅層,腺窩上皮直下から腺頸部周囲に限局しており,粘膜固有層の深層には認めなかった.またtub2は粘膜固有層の浅層にみられ,構成細胞の異型は軽度で,手つなぎ型または横這型胃癌に合致する所見であった.脈管侵襲像はなく,断端は陰性であった.7年後の遠隔転移を受け,この腫瘍に対して,ESDの切り出しが3~4mm間隔であったことから,段階的にHE切片を10枚作成し,1mm未満の間隔となるように腫瘍を組織学的に評価したが,組織型に変更はなく,腫瘍の分布も粘膜固有層の浅層に限局し,腫瘍密度も提示した画像を超える腫瘍密度はなかった.さらに,CD31やD2-40の免疫染色とEVG染色を併用したが脈管侵襲像は認められなかった.

Figure 3 

a:代表切片の腫瘍部.tub2とsigの領域を図示している.

b:tub2部分の強拡大画像.腫瘍は点線の領域内にみられ,吻合状の構造異型(矢印)をみる.

c:sig(矢印)の中拡大画像.胃底腺粘膜の上側1/2以内に限局している.

d:sig(矢印)の強拡大画像.個在性からやや結合性を示す部位あり.いずれもPASに陽性であった.

胸腹部造影CT検査:左鼠径部に1cm程度の腫大したリンパ節を複数個認めた.胸腹部にはリンパ節の病的腫大は認めず,腫瘍性病変は認めなかった.

FDG-PET(Figure 4):脊椎,肋骨,胸骨,肩甲骨,骨盤骨に,不均一なびまん性の集積を認め,骨梁間型骨転移と考えられた.左鼠径部に淡い集積を認め,リンパ節転移と考えられた.その他,原発巣を疑う異常な集積は認めなかった.

Figure 4 

脊椎や骨盤などに不均一なびまん性の集積を認め,骨梁間型骨転移と考えられた.原発巣を疑う異常な集積は認めなかった.

骨シンチグラフィー:全脊椎や骨盤で骨髄分布に一致したびまん性の集積を認めた.

経過:左鼠径部の精査目的でリンパ節生検を行ったところ2013年のESD切除標本と類似した組織像であり,印環細胞を含む異型細胞を認めた.さらに免疫染色を施行し,CK7陽性,CK20陽性,CDX2陰性,TTF1陰性,PAX8陰性,エストロゲンレセプター陰性,プロゲステロンレセプター陰性,GATA3陰性であり,肺腺癌,乳癌,卵巣等の女性生殖器由来の癌腫は否定的であった.また左腸骨の骨髄生検でもリンパ節と同様の組織像であった.上部・下部消化管内視鏡でも局所再発,その他原発となるような病変は認めず,早期胃癌の転移性再発と診断した.化学療法の方針となり,HER2は陰性であったため,S-1+CDDP併用療法(SP療法)を予定した.しかし,2020年4月の血液検査でHbは7.2g/dl,血小板数は3.9×104/μl,PT-INRは1.4,FDPは161.7μg/mlであり,胃癌の骨髄転移に伴う播種性血管内凝固(DIC)と診断した.胸部単純X線写真で右下肺野に著明な胸水貯留を認め,胸水細胞診で印環様の細胞が散見していた(Class Ⅴ).血小板数は既に化学療法の投与基準外であったが,救命のために化学療法を行う方針となり,経静脈投与による確実な腫瘍効果を期待して5-FU+levofolinate calcium+oxaliplatin併用療法(FOLFOX)を選択した.

化学療法を開始した当初は濃厚赤血球,濃厚血小板,新鮮凍結血漿の輸血を要したが,治療開始から10日後に血小板は上昇傾向となりALPも2,090U/Lと低下するなど,FOLFOXにより一定の効果を認め,化学療法開始後21日目にFOLFOXの2回目を投与し,同25日後に自宅退院となった.

治療開始38日後に3回目のFOLFOXを投与したが,右側胸水は増加しさらに左側胸水も出現し呼吸状態が悪化したため,胸腔ドレーンを挿入した.排液量は1日100~300ml程度であり,ALPも再上昇傾向となったため,二次化学療法として化学療法開始後58日目にnab-paclitaxelを導入した.一時排液量は1日30ml程度と減少したが,癌に伴う全身状態の悪化に伴い化学療法開始から75日目に永眠された.剖検の承諾は得られなかった.

Ⅲ 考  察

1990年代に日本でESDが開発され,内視鏡的粘膜切除術(EMR)も含めた内視鏡治療は早期胃癌に対する治療の6割以上を占めると推計されている.内視鏡治療では胃が温存されることから,外科治療に比してクオリティ・オブ・ライフ(QOL)が良好と考えられており,2014年に第1版,2020年に第2版が刊行された「胃癌に対するESD/EMRガイドライン」の中でも『リンパ節転移の可能性が極めて低く,病巣が一括切除できる大きさと部位にある場合は,原則,内視鏡治療を行う(evidence level B,推奨度1).』と示されている 1.同ガイドライン内では内視鏡治療の適応について,①絶対適応病変,②適応拡大病変,③相対適応病変の3つに分類しており,今回の改訂に当たりESDの拡大適応病変として扱われていた「長径2cm以下のUL0のcT1a,未分化型癌」もJCOG0607及びJCOG1009/1010による多施設共同前向き臨床試験の結果によりリンパ節転移の頻度は極めて低いとして,ESDの絶対適応病変に組み込まれた 1)~3

本症例は,早期胃癌に対して2013年にESDを施行し治癒切除と判定されていたため追加切除は行わなかった,また現行のガイドラインに基づいても内視鏡的根治度eCura Aに当たる病変であった.リンパ節・骨転移の頻度は低く胃癌に対する治療方針は妥当であったが,ESD後7年目で左鼠径部のリンパ節転移と多発の骨転移で再発した.手塚らは,外科的に切除された胃の粘膜癌の871症例で再発死亡は11例(再発死亡率1.3%)であり,そのうち血行性再発を来した5症例はいずれも5年以内の再発であり,5年以上の経過で血行性に晩期再発する粘膜癌の症例はなかったと報告している 4.また,骨転移の視点としては,胃癌治癒切除の2,235例中で骨転移は31例(1.4%)であり,そのうち粘膜癌は1例(0.04%),術後5年以上での骨転移は2例(0.09%)との報告もあり 5,本症例は極めて稀と考えられた.胃癌に対する外科手術後12年で骨転移性再発を来した症例の報告もあり 6,ESDの時点で血行性の微小転移が存在し,長期にわたってtumor dormantの状態であったが,何らかの原因で後に増殖したと考えられる.

胃癌の転移性再発を受け,上述したように脈管侵襲像の評価を含め,早期胃癌の組織像を再検討した.腫瘍は粘膜固有層の浅層に限局し,粘膜の全層に分布するような腫瘍ではなく,脈管侵襲像は認められなかった.また,腫瘍の組織型,その割合,腫瘍分布,腫瘍密度に著変はなかった.さらに,印環細胞癌の成分はCD10陰性,CDX2陰性,MUC2陰性,MUC5AC陽性,MUC6陰性であり,低悪性度印環細胞癌でみられるとされるMUC5AC/MUC6の層構造は認めなかった.中分化型管状腺癌の成分はCD10陽性,CDX2陽性,MUC2陽性,MUC5AC陰性,MUC6陰性で,腸型の粘液形質を確認した.両成分の局在として,中分化型管状腺癌の成分が印環細胞癌に移行する部位はあり,印環細胞癌が手つなぎ型腺管癌から発生した可能性が挙げられた.手つなぎ型腺管癌や横這型胃癌では印環細胞癌が出現することが知られており 7),8,その生物学的な悪性度については不明な部分も多いが,腺管構造を認めない純粋な未分化癌よりも,腺管構造を伴う組織混合型の未分化癌はリンパ節転移率など予後不良という報告もあり 9,本症例のように重篤な転帰を辿る症例もあるためフォロー方法など検討する必要がある.

本症例では広範な骨転移が予後に影響したと考えられ,胃癌の骨転移では80%以上が半年以内に死亡すると言われるため 10,早期発見と治療が重要と考えられる.胃癌の骨転移では82%にALPの上昇があり,CEAは66%,CA19-9は57%で上昇すると言われる 11.本症例では2019年3月に行った血液検査ではALPは基準値内であったが,2020年3月に5,200U/Lであったため,その間に血液検査を施行していれば早期診断に繋がった可能性がある.また,診断には骨シンチグラフィーが有用とされているが,骨転移の描出率と多病変の検索にも有用であることからFDG-PETも用いられるようになってきており 10,骨転移を疑う症例には積極的に骨シンチグラフィーやFDG-PETを検討すべきだと考えられる.

胃癌の骨転移に対する第一選択は化学療法であり,未だ治療法は確立されていないが,胃癌の骨転移に対する化学療法では.S-1併用療法で奏効例の報告が散見される 12),13.本症例でもHER2は陰性であったため当初SP療法を検討していたが,骨髄転移に伴うDICを来し,早期の病勢コントロールのために経静脈投与による確実な抗腫瘍効果を期待してFOLFOXを開始し,続けてnab-paclitaxelを投与したがいずれも効果は限定的であり,病勢を抑えるのは困難であった.eCura Aを得た早期胃癌に対する化学療法は行われていないが,ESD症例の増加に伴い本症例のような報告が続き,そこに規則性が見出されればESD後の術後補助化学療法が行われるようになるかもしれない.

Ⅳ 結  語

ESD絶対適応の未分化型早期胃癌に対してESDを施行しeCura Aであったが,ESDから7年目に鼠径リンパ節転移・多発骨転移を来し救命できなかった症例を経験した.ESD後の経過観察の時期・方法等の検討など含め今後の症例の蓄積が望まれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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