胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:GERD)は,食道粘膜障害を有する「逆流性食道炎」と症状のみを認める「非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)」に分類される.逆流性食炎の内視鏡診断には,mucosal break(粘膜傷害)の概念が導入されたロサンゼルス分類にminimal changeを加えた分類が本邦では広く用いられている.GERDの主な治療は薬物療法でありプロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor:PPI)が第一選択薬とされているが,重症逆流性食道炎の治療にはより強力な酸分泌抑制作用を有するカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker:P-CAB)であるボノプラザンがより有効である.また,今まで本邦で広く普及するには至らなかった内視鏡治療だが,2022年4月から,ARMS(anti-reflux mucosectomy)およびESD-G(endoscopic submucosal dissection for GERD)として報告されてきた内視鏡治療が,内視鏡的逆流防止粘膜切除術として保険適用となったことから,GERDに対する内視鏡治療がより普及する可能性がある.今後,その適応や長期予後について明らかにしていく必要がある.
免疫チェックポイント阻害薬が広く臨床の場で使用されるようになるに伴い消化器領域でも免疫関連有害事象(immune-related Adverse Events:irAE)が報告されている.irAE肝障害のうち胆管炎は免疫チェックポイント阻害薬の治療反応例で多いとされ,その頻度は,4.5%程度と稀ではあるが,しばしば診断に難渋する.超音波検査では胆管壁肥厚を認め,胆管造影上は明らかな閉塞や狭窄所見は伴わず,胆道鏡では特徴的なびらん,潰瘍性変化を有するとされる.免疫チェックポイント阻害薬使用経験例における胆道系有意の肝障害はirAE硬化性胆管炎を常に鑑別におき,各種画像検査による確実な診断を行う必要がある.またirAE硬化性胆管炎の治療はステロイドであるが,治療抵抗性を示すことが多く,難治性であることを留意する必要がある.
症例は83歳女性.胸焼け症状と胸部圧迫感精査目的に行った上部消化管内視鏡検査で胃角部小彎に10mm大の0-Ⅱa病変の早期胃癌を認めた.内視鏡的治療の適応であったが,upside down stomachを伴うⅣ型食道裂孔ヘルニアのためにスコープ操作が非常に困難であった.高齢であり侵襲度を抑えるために外科と協議の上,外科的に食道裂孔ヘルニア修復術を行った後にESDを施行し早期胃癌を治療しえた.高齢者に発症したupside down stomachを伴うⅣ型食道裂孔ヘルニアに合併する早期胃癌の治療法の可能性について,文献的考察を加えて報告する.
患者は46歳,女性.健康診断で上部消化管内視鏡を行い,Helicobacter pylori感染に加え,胃体中部小彎に0-Ⅱc病変を指摘され,組織生検でsig,早期胃癌の診断で当院に紹介となった.精査の結果ESDの適応拡大病変(現在のガイドラインでは絶対適応病変)であり2013年10月にESDを施行した.病理組織ではサイズは10mm,組織型はsig>tub2,深達度はM,pUL0,脈管侵襲及び断端陰性で治癒切除と診断した.以降5年間は内視鏡に加え胸腹部造影CTでフォロー,再発は認めていなかった.しかし,ESDから7年後に左鼠径部の腫瘤を契機に胃癌の鼠径リンパ節,骨転移の診断となり化学療法を施行したが救命できなかった症例を経験した.
68歳,男性.大腸がん検診で便潜血陽性のため,当院にて下部消化管内視鏡検査を施行した.内視鏡検査では,上行結腸に直径6mm程度の隆起と横行結腸に直径3mm程度の平坦で境界明瞭な病変を認めた.診断的治療目的にて,2病変に対して内視鏡的切除を施行した.病理学的検討では,切除した2病変とも,大腸粘膜固有層に好酸球,リンパ球の浸潤を伴う紡錘形細胞の増生を認めた.免疫染色にて紡錘形細胞はCD34陽性,c-kit,EMA,GLUT-1,S-100,α-SMAは陰性であった.以上より,炎症性線維状ポリープ(inflammatory fibroid polyp:IFP)と診断した.微小で,更に複数病変で発見されるIFPは稀であり,内視鏡的に切除し得た1例を経験したので報告する.
71歳女性.心窩部痛を主訴に受診.CTで膵体部に55mm大の腫瘤があり,悪性胆管狭窄を伴う切除不能膵癌と診断した.経乳頭的に自己拡張型金属ステントを留置したが,翌日非閉塞性胆管炎による多発肝膿瘍を発症した.経皮的膿瘍ドレナージや胆管ステント交換等を行うも,肝膿瘍は改善しなかったため,ダックビル型逆流防止弁付胆管金属ステント(duckbill-shaped anti-reflux valve:D-ARMS)を留置した.その後は軽症胆管炎を反復しながらも化学療法を継続できていたが,3カ月後にステントが胆管内へ迷入した.そこで迷入予防にD-ARMSの下端を十二指腸内腔に長く露出させて再留置すると,以降胆管炎や肝膿瘍の再発はなかった.D-ARMSは,難治性非閉塞性胆管炎に対する有効な治療の1つとなり得る.
ERCPは十二指腸乳頭部の正面視が手技の成否に関わる.しかし,選択的挿管困難例が一定数存在し,その代表的なものが十二指腸傍乳頭憩室や憩室内乳頭症例である.
これらに対しては,様々な処置具を用いた手技が考案されている.
今回われわれは,ESD用牽引デバイスを用いて乳頭部を牽引固定し,ERCP関連手技を施行し得た憩室内乳頭の3例を経験した.全例において当初は乳頭開口部が同定できなかったが,牽引固定後は乳頭開口部の正面視が可能となり,手技を行うことができた.また,手技後の偶発症もみられなかった.
本法は乳頭開口部の視野確保が困難な憩室内乳頭症例において,1つの選択肢になり得る.
外科領域では切除創の縫合は基本的で必須の手技であるが,軟性内視鏡では縫合技術開発の困難さや技術的難易度から実現が難しかった.内視鏡的縫合デバイスであるゼオスーチャーM(ゼオンメディカル社)は胃・十二指腸粘膜損傷部位の縫縮だけでなく,胃・十二指腸壁全層欠損部位の縫合閉鎖においても使用可能となっており,内視鏡治療後の潰瘍底の縫縮のみならず,消化管穿孔や内視鏡的全層切除術後の全層縫合への応用などが期待される.すでに国内で薬事承認され,日常臨床で使用可能となっており本編では,ゼオスーチャーMを用いたESD後縫縮を中心にそのコツを解説する.
Interventional EUS(IV-EUS)がERCP関連手技困難症例に対してハイボリュームセンターを中心に多く行われるようになってきている.EUSガイド下に胆膵管にアプローチした後に結石や狭窄の治療を行う順行性治療(EUS-guided antegrade procedures;EUS-AG)は一期的に治療を行う方法であるが,EUS-guided drainage/anastomosis(EUS-D/A)は単なるドレナージ術ではなく吻合術でもあるので,完成した吻合部を通した診療手技も可能である.主には術後再建腸管例の胆管・膵管の結石や良性狭窄に対しての施行や,EUS-D/A後に完成した吻合部を介した経消化管壁的胆膵内視鏡治療(Endoscopic Transluminal Procedures via EUS-guided anastomosis)を行っている.また,重症膵炎後に形成される被包化壊死(Walled-off necrosis)に対する内視鏡的Necrosectomyも本手技に分類される.経皮的な手技と比較して低侵襲であるため,患者QOLは良好であるが,まだ専用のデバイスが少ないために手技は確立していない.当院では,胆管・膵管結石治療,胆管・膵管狭窄の診断・治療を主に行い,胆道・膵管鏡を多く用いている.本稿では胆管・膵管に対する手技のコツと注意事項について解説する.
【目的】黒色便は上部消化管出血を疑う症状の1つであるが,吐血を伴わない黒色便患者のすべてに内視鏡的止血処置を必要とするわけではない.これまでに内視鏡的止血処置が必要な患者を予測するための明らかな指標は報告されていない.本研究の目的は,吐血を伴わない黒色便患者において,内視鏡的止血処置が必要な患者を予測する新規のスコアを確立することである.
【方法】われわれは,2施設において,吐血を伴わない黒色便を主訴として緊急内視鏡検査を行った連続721例の患者をレトロスペクティブに登録した.開発コホート(2016年1月~2018年12月)422例の患者データから内視鏡的止血処置が必要な患者を予測するリスク因子を多変量ロジスティック回帰分析により決定し,modified Nagoya University score (modified Nスコア)と名付けた新規スコアリングシステムを作成した.検証コホート(2019年1月~2020年12月)299名の患者データを用いmodified Nスコアの診断能について評価した.
【結果】ロジスティック回帰分析による多変量解析により,内視鏡的止血処置が必要な患者を予測する因子として,失神,血中BUN値,BUN/クレアチニン比が正の予測因子として,抗凝固薬内服が負の予測因子として,計4因子が抽出された.検証コホートにおいてmodified NスコアのROC曲線によるAUCは0.731であり,modified Nスコアの内視鏡的止血処置予測感度は82.0%,特異度は58.8%であった.
【結論】4因子からなるmodified Nスコアは,吐血を伴わない黒色便患者において内視鏡的止血処置を必要とする患者を予測することができる.
【目的】内視鏡的超音波ガイド下胆道十二指腸吻合術(EUS-guided choledochoduodenostomy,EUS-CDS)の長期成績は,小規模またはレトロスペクティブシリーズでの報告しかなく,評価が不十分であったことから瘻孔形成補綴材留置システム(Lumen Apposing Metal Stent,LAMS)の機能不全が過小評価されることにつながってきた.
【方法】3つの高次施設で行われたすべてのEUS-CDS症例を,前向きにデータベースに登録した.技術的/臨床的成功率,有害事象(adverse event,AE),および追跡期間中の機能不全をレトロスペクティブに分析した.無機能不全期間(dysfunction-free survival,DFS)の推定にはKaplan-Meier分析を用い,機能不全の独立した予測因子の評価にはCox比例ハザード回帰を使用した.
【結果】93人の患者(男性56%,平均年齢70歳[95%信頼区間(Confidence interval,CI)68-72],膵臓がん81%,転移性疾患47%)が含まれた.67%の症例で,6mmのLAMSが使用された.技術的成功率は97.8%,臨床的成功率は93.4%であり,AEは9.7%(78%が軽度/中度)に認められた.平均166日(95% CI 91-241)後に31.8%の患者に機能不全が発生し,6カ月と12カ月でのDFSはそれぞれ75%と52%,平均DFSは394日(95%CI 307-482)であった.ほぼすべての機能不全(96%)は,内視鏡的治療介入によって改善した.十二指腸浸潤(ハザード比2.7[95%CI 1.1-6.8])は,機能不全の唯一の独立した予測因子であった.
【結論】EUS-CDSは,初期の有効性と安全性に優れているが,長期の経過観察中にはステントの機能不全が頻繁に発生することが判明した.ほぼすべてのステント機能不全は,内視鏡的な治療介入によって改善した.起こりうるさまざまなタイプの機能不全の分類と,これらの状況下に対し有効な処置について解説する.また十二指腸浸潤はEUS-CDSの機能不全発症リスクを高めると考えられるため,相対的禁忌となる可能性がある.