日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
難治性の非閉塞性胆管炎に対しダックビル型新規逆流防止弁付胆管金属ステントが奏効した1例
小森 康寛 藤森 尚松尾 享大越 恵一郎田中 宗浩中村 和彦大野 隆真
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 65 巻 6 号 p. 1128-1135

詳細
要旨

71歳女性.心窩部痛を主訴に受診.CTで膵体部に55mm大の腫瘤があり,悪性胆管狭窄を伴う切除不能膵癌と診断した.経乳頭的に自己拡張型金属ステントを留置したが,翌日非閉塞性胆管炎による多発肝膿瘍を発症した.経皮的膿瘍ドレナージや胆管ステント交換等を行うも,肝膿瘍は改善しなかったため,ダックビル型逆流防止弁付胆管金属ステント(duckbill-shaped anti-reflux valve:D-ARMS)を留置した.その後は軽症胆管炎を反復しながらも化学療法を継続できていたが,3カ月後にステントが胆管内へ迷入した.そこで迷入予防にD-ARMSの下端を十二指腸内腔に長く露出させて再留置すると,以降胆管炎や肝膿瘍の再発はなかった.D-ARMSは,難治性非閉塞性胆管炎に対する有効な治療の1つとなり得る.

Abstract

A 71-year-old woman was admitted to our hospital with epigastric pain. Computed tomography revealed a 55mm-sized tumor in the body of the pancreas resulting in distal biliary obstruction. She was diagnosed with unresectable pancreatic cancer. Although we inserted a covered self-expandable metal stent (SEMS), she developed multiple liver abscesses due to non-occlusion cholangitis the following day. We performed percutaneous transhepatic liver abscess drainage, endoscopic naso-biliary drainage, and removal of the SEMS; however, her condition did not improve. Therefore, we inserted a SEMS with a duckbill-shaped anti-reflux valve (D-ARMS). First, the D-ARMS migrated above the papilla after a period of three months, which resulted in exacerbation of the liver abscesses. After replacing the D-ARMS and increasing the length from the papilla to the lower end of the D-ARMS to prevent migration, the liver abscesses resolved without recurrence. D-ARMS may be an effective treatment for resolving uncontrollable non-occlusion cholangitis.

Ⅰ 緒  言

悪性胆道狭窄に対する内視鏡的胆管ドレナージ法として,プラスチックステント(Plastic stent:PS)よりも開存期間の長い自己拡張型金属ステント(self-expandable metal stent:SEMS)が広く用いられている 1),2.なかでも遠位胆道狭窄に対しては,腫瘍のステントメッシュ内へのingrowthを防ぐことのできるcovered SEMSの選択が一般的である 3.しかし遠位悪性胆道狭窄でSEMSを留置する際は,ステント下端を十二指腸内に留置することがほとんどであり,十二指腸内容物が胆管へ逆流することによるステント閉塞や,非閉塞性胆管炎がしばしば問題となる.この対策として,近年様々な形状を有する逆流防止弁付き金属ステント(anti-reflux metal stent:ARMS)の開発が試されているが,その有用性や弁の形状は確立していない.

今回われわれは,悪性胆道狭窄に対してSEMS留置後に非閉塞性胆管炎による難治性の多発肝膿瘍を発症し,新規ARMS(川澄ダックビル胆管ステント,SBカワスミ株式会社,神奈川.以下D-ARMS)の留置により軽快した1例を経験したため,ここに報告する.

Ⅱ 症  例

患者:71歳,女性.

主訴:心窩部痛.

現病歴:2週間以上前から持続する心窩部痛の精査目的に受診した.CT所見から膵癌による遠位胆管狭窄と診断し,内視鏡的胆道ドレナージ目的に入院となった.

既往歴:60歳 気管支喘息,67歳 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症.

身体所見:身長 143cm,体重 53.9kg,眼球結膜黄染なし,右季肋部に圧痛を認めた.

血液検査:T.Bil 0.56mg/dl,D.Bil 0.16mg/dlとビリルビン上昇はなかったが,AST 77U/L,ALT 140U/L,ALP 1,117U/L,γ-GTP 926U/Lと肝胆道系酵素の上昇を認めた.

腹部単純CT:膵体部を中心とした5cm大の境界不明瞭な腫瘤があり,同腫瘤により遠位胆管狭窄をきたしていた(Figure 1).消化管狭窄は見られなかった.気管支喘息の既往があり,造影CTは撮像しなかった.

Figure 1 

腹部単純CT.

腹腔動脈を取り囲む膵体部癌(画像左,矢印).遠位胆管が閉塞し,上流は肝内胆管まで拡張している(画像右).

超音波内視鏡(EUS):膵体部に55mm大の境界不明瞭で内部不均一な低エコー腫瘤があり,腹腔動脈に180°以上の浸潤を認めた.同腫瘤に対して超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を行ったが,異形細胞を認めるものの膵癌の確定診断には至らなかった.

臨床経過(Figure 2):病理学的な確定診断は得られなかったが,CT,EUSの所見から膵癌として矛盾しなかった.腹腔動脈に180°以上の浸潤があるため局所進行切除不能膵癌と診断し,内視鏡的胆道ドレナージ後に化学療法を行う方針とした.第1病日に内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)を行うと,遠位胆管狭窄と上流胆管拡張が見られた(Figure 3).内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)小切開を施行した後,従来型のcovered SEMS(HANAROSTENT Biliary,径10mm,長さ8cm,ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社,東京)を乳頭部からステント下方を1.5 cm程度露出させて留置した.しかし第2病日に39℃の発熱と炎症所見が見られたためCTを撮像すると,肝S8領域に40mm大の膿瘍が出現しており,内部にairを含有していることから非閉塞性胆管炎による肝膿瘍,もしくはERCPに伴う医原性bilomaの可能性を考えた(Figure 4).同日膿瘍に対して経皮経肝膿瘍穿刺を行い,抗菌薬加療も開始したが,その後も発熱と炎症所見が持続した.第8病日のCTでは膿瘍が増大・多発化していたため,この時点でbilomaではなく非閉塞性胆管炎による肝膿瘍の診断とし,絶食管理と中心静脈栄養を開始した.第9病日にERCPを施行すると,S8領域に胆管と交通のある複数の肝膿瘍が描出されたため,B8に内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)チューブを留置したが,膿瘍は改善しなかった.第13病日にS8の主要な膿瘍に対し経皮経肝膿瘍ドレナージ(percutaneous transhepatic abscess drainage:PTAD)チューブを留置し,第26病日にはS5に新たに出現した3cm大の膿瘍にもPTADチューブを留置したが,症状は改善しなかった.細径のステントに交換して胆管炎のコントロールを図ることとし,第30病日にSEMSを抜去して,pigtail型PS(Through & Pass,径7Fr,長さ7 cm,ガデリウス・メディカル株式会社,東京)を留置すると,徐々に炎症所見は改善した.第35病日より経口摂取を再開し,2本の経皮チューブを順に抜去した後,第42病日に抗菌薬投与を終了した.

Figure 2 

臨床経過.

第1病日に従来型SEMSを留置後,非閉塞性胆道感染による多発肝膿瘍を発症した.PTADやENBDの留置,SEMSからPSへの交換などを行ったが改善しなかった.第60病日にD-ARMSを留置すると,肝膿瘍腔は残存したものの炎症所見は経時的に改善した.以降は軽症胆道感染を繰り返しながらも化学療法を継続していたが,第149病日にD-ARMSが胆管内へ迷入したため抜去し再度PSを留置した.その後化学療法を再開したが,非閉塞性胆道感染を再燃したため,第204病日に2度目のD-ARMS留置を行った.第221病日のCTで肝膿瘍の消失を確認でき,第486病日に原疾患進行のため永眠するまで,ステントトラブルや胆道感染の再燃をきたすことなく化学療法を継続できた.

ERCP:endoscopic retrograde cholangiopancreatography(数値は試行回数を記載),PTAD:percutaneous transhepatic abscess drainage,PTAA:percutaneous transhepatic abscess aspiration,ENBD:endoscopic nasobiliary drainage,PS:plastic stent,従来型SEMS:self-expandable metal stent(HANAROSTENT Biliary),D-ARMS:duckbill shaped anti-reflux metal stent,GEM+nab-PTX:gemcitabine+nab-paclitaxel.

Figure 3 

ERCP(透視画像).

遠位胆管狭窄(矢印)を認め,上流胆管が拡張している.

Figure 4 

腹部単純CT.

従来型covered SEMS留置後翌日の単純CT.S8領域に,内部にairを伴う低吸収域(矢印)が出現した.医原性のbiloma,もしくは非閉塞性胆管炎に伴う肝膿瘍と考えられた.

しかし第49病日に再度発熱し,CTではS8の膿瘍が再燃していた.非閉塞性胆管炎の制御が必要と考え,第60病日にPSを抜去し,胆管内をバルーンカテーテルで十分にクリーニングした後に,D-ARMS(径10mm,長さ8cm)を留置した(Figure 5-a).すると胆道気腫と膿瘍痕は残存したものの増大・増多傾向はなくなり,発熱や炎症所見も改善したため,第67病日よりゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法を開始し,第81病日に退院した.

Figure 5 

ERCP.

a:内視鏡画像(初回D-ARMS留置時).傍乳頭憩室内に乳頭部が開口していることもあり,想定よりもステント下方が乳頭から短く露出するかたちとなった.

b:内視鏡画像(D-ARMS迷入時).ステント下端は視認できず,胆管内に迷入している(矢印).

以降は月に1度の頻度で胆道感染を繰り返したが,内服抗菌薬で軽快する程度であり,CTでは胆道気腫や膿瘍痕に変化は見られなかったため,外来化学療法を継続していた.しかし第149病日に39℃の発熱を主訴に外来を受診すると,CTに変化はないものの黄疸と肝胆道系酵素上昇があり,非閉塞性胆管炎の診断で再入院となった.同日ERCPを行うとD-ARMSが胆管内へ迷入していたため(Figure 5-b),生検鉗子で掴んで抜去しpigtail型PSへと交換した.症状は一旦改善し,退院後に化学療法を再開したものの,第195病日には多発肝膿瘍が再燃し,再度D-ARMSを留置しなおすこととした.第204病日,D-ARMSを迷入予防に下端を下十二指腸角付近まで長く露出させるように留置したところ(Figure 6),以後発熱をきたすことなく経過し,第221病日のCTでは膿瘍痕や胆道内のairがほぼ消失していた.第486病日に原疾患進行のため永眠したが,2回目のD-ARMS留置以降は非閉塞性胆管炎を発症することなく化学療法を継続できた.

Figure 6 

ERCP.

a:内視鏡画像(乳頭正面視).

b:内視鏡画像(水平脚見下ろし像).乳頭部(矢印)からステント下端が十分に十二指腸管腔内へ露出するよう,D-ARMSを留置した.

Ⅲ 考  察

近年膵癌,胆管癌に対する集学的治療の発展により患者の予後向上が得られるようになり,治療を安定して続けるためにも悪性胆道狭窄に対する長期的な胆管ステント管理がより重要になっている.しかし経乳頭的な従来型SEMS留置例においては,十二指腸胆管逆流によるステント閉塞や非閉塞性胆管炎のリスクがあり 4),5,しばしば治療の継続を妨げることになる.その予防策としてARMSの有用性が期待されており,2011年のHuら 6の報告を皮切りに,これまで様々な形状のARMSが検討されてきた(Table 1 6)~17.Leeら 11は,20mm長の吹き流し様の弁を持つARMSと従来型covered SEMSの77例を,それぞれ39例,38例に割り当てて比較した無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)において,time to recurrent biliary obstruction(TRBO)の延長を報告した(中央値,ARMS群407日,従来型SEMS群220日,P=0.013).またこのRCTは,経口バリウムを用いてARMSが十二指腸胆管逆流を抑制できることを示し,その有用性を期待させるものであった.一方で,Hamadaら 13による7mm長の漏斗型ARMSとcovered SEMSを比較したRCTでは,TRBOに有意差を認めなかった(中央値,ARMS群251日,SEMS 351日,P=0.11).よって,遠位悪性胆管狭窄のドレナージ法としてARMSを選択することは,未だ議論の余地が残る.

Table 1 

悪性胆道狭窄に対する逆流防止弁付き金属ステントの報告.

これまでに良い長期成績が報告されているARMSの逆流防止弁の特徴は,非常に長いか,閉鎖型の構造をしていることである 9),11.D-ARMSの弁は12.5mmと長く,従来のARMSとは異なるカモノハシの口のような形状であり,通常は閉鎖した状態で胆管への逆流を防いでいる弁が,ステント内に胆汁が溜まると一過性に開いて順行性に胆汁が流出する仕組みになっており,その効果が期待されている.Kinら 14は日本の3施設によるD-ARMSの後ろ向き観察研究を行い,高い手技的/機能的成功率(93%/87%)と共に,TRBO中央値261日という良好な成績を報告した.またYamadaら 15は,切除不能遠位悪性胆道狭窄に対する従来型SEMS留置後にRBOをきたした30人の患者において,D-ARMSのTRBOと,D-ARMS留置前の従来型SEMSのTRBOを後ろ向きに比較し,D-ARMSのTRBOが有意に長かったと報告している(中央値,D-ARMS群224日,SEMS 120日,P=0.025).さらに同報告では,従来型SEMSで30例中6例に認めた非閉塞性胆管炎が,D-ARMS留置後は30例中1例と低率に抑えられていた.最近のKoboriら 16やSasakiら 17の報告においてもD-ARMS留置例における非閉塞性胆管炎の発症はなく(Table 1),D-ARMSは非閉塞性胆管炎の予防効果が期待できる可能性がある.本症例は非閉塞性胆管炎に肝膿瘍を合併したが,肝組織が感染胆汁に暴露されることで,胆管炎に肝膿瘍を続発する例は少なくない 18.今回は従来のステントでは治癒が困難であった非閉塞性胆管炎がD-ARMSにより制御可能となった結果,肝膿瘍の治癒に至ったと考える.

今回の症例では初回のD-ARMS留置後の経過は芳しくなく,軽症ながら胆道感染を繰り返し,最終的にはステントが胆管内へ迷入した.本症例は巨大な傍乳頭憩室内に乳頭が位置しており,初回のD-ARMS留置時は乳頭がうまく視認できず,ステント下端の露出が短くなってしまった.第112病日のCTでは既にD-ARMSの金属部下端が乳頭開口部に位置しており,迷入しかかっていたため,本来の逆流防止機能を果たせず胆道感染を繰り返したものと考えられる.一方で2度目のD-ARMS留置時は,胆管内への迷入予防に初回よりも下端を十二指腸内腔へ長く露出させたところ,非常に良好な経過を辿った.前述の通り既報では弁が長いARMSの有用性が報告されており,D-ARMS留置時は下端を長めに露出させた方が,非閉塞性胆管炎の予防効果が高い可能性がある.

D-ARMS留置において注意すべき点がいくつかある.1つ目は,ステント下端を示すgold markerが内視鏡画面上やや見えにくいことが挙げられる.本症例では乳頭部が傍乳頭憩室内に位置していたこともあり,1本目のD-ARMSは留置時にステント下端の位置を見誤ってしまった.その結果,想定よりもステント下方が乳頭から短く露出するかたちとなり,最終的にはD-ARMSが迷入した.次に,本ステントはlaser cut typeでありre-intervention時のステント抜去に難渋することが懸念される.実際Kinら 14の報告では,re-intervention時に9例中3例でD-ARMSの抜去が困難であった.一方で,Yamadaら 15はre-interventionを必要とした6例すべてで抜去可能であったと報告しており,本症例でも1本目のD-ARMS抜去は容易であった.D-ARMSのre-interventionに関しては,さらなる症例集積や多数例での検討が必要である.最後に,D-ARMSは閉鎖型の弁を持つステントであり,ステント内腔に貯留した胆泥による閉塞をきたす可能性がある.そのため,留置前にはENBDチューブやバルーンカテーテルを用いて,可能な限り胆管をクリーニングしておくことが望ましい.

遠位悪性胆管狭窄に対する金属ステント留置後の患者において,本症例のように非閉塞性胆管炎のコントロールに難渋する症例は少なくない 19.今後D-ARMSがステント逆流に伴うトラブルを予防するための,有益な選択肢となることを期待する.

Ⅳ 結  語

今回われわれは,非閉塞性胆管炎による難治性の多発肝膿瘍に対して,D-ARMSの留置が奏効した1例を経験したため報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2023 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top