日本消化器内視鏡学会雑誌
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経験
ESD用牽引デバイスが有用であった傍乳頭憩室に対するERCP関連処置の3例(動画付き)
田中 啓 井浦 亜有子軽部 莉佳曾我 早良松井 裕樹大井 尚子白﨑 友彬本林 麻衣子倉田 仁
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電子付録

2023 年 65 巻 6 号 p. 1136-1141

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要旨

ERCPは十二指腸乳頭部の正面視が手技の成否に関わる.しかし,選択的挿管困難例が一定数存在し,その代表的なものが十二指腸傍乳頭憩室や憩室内乳頭症例である.

これらに対しては,様々な処置具を用いた手技が考案されている.

今回われわれは,ESD用牽引デバイスを用いて乳頭部を牽引固定し,ERCP関連手技を施行し得た憩室内乳頭の3例を経験した.全例において当初は乳頭開口部が同定できなかったが,牽引固定後は乳頭開口部の正面視が可能となり,手技を行うことができた.また,手技後の偶発症もみられなかった.

本法は乳頭開口部の視野確保が困難な憩室内乳頭症例において,1つの選択肢になり得る.

Abstract

In ERCP, the proper identification and view of the duodenal papilla is related to the success of the procedure.

However, there are a certain number of difficult cases, and the typical one is a case with intradiverticular papilla (IDP). The presence of IDP increases the difficulty of cannulation during ERCP. For such cases, several techniques have been reported for easy cannulation.

We encountered three cases of IDP who underwent an ERCP-related procedure by traction and fixed the papilla using a traction device for ESD (multi loop traction device, MLTD).

In all the cases, the papillary orifice could not be identified initially; however, after traction and fixing, the papilla was secured in a good field of view and this allowed for cannulation.

In addition, no complications were observed after the procedure.

Therefore, we feel that this method can be effective and safe in cases of IDP with invisible orifice.

Ⅰ 緒  言

内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)においては十二指腸乳頭部の正面視により視野を確保することが手技を行う上で最も重要である.しかし,傍乳頭憩室や憩室内乳頭においては乳頭開口部の視野確保が難しい症例が存在する.傍乳頭憩室の頻度は,ERCP全体の16.5-32.8%と報告 1)~4されており,選択的挿管困難の原因になることが報告 5されている.そのため,このような困難症例に対しては様々な手技が提案されている.

今回われわれは,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)用牽引デバイスであるマルチループトラクションデバイス(multi loop traction device:MLTD,ボストンサイエンティフィックジャパン社)を使用して乳頭部を牽引固定する(以下:本法と記載)ことで,乳頭開口部を良好な視野を確保し,ERCP関連手技を行った症例を3例経験した.

以下に本法の手技内容を解説する.

Ⅱ 方  法

1)使用デバイス

MLTDは細径樹脂製の小ループが3つ連なった形をしており(Figure 1),それにより牽引距離・方向の調整ができることが特徴である.また,牽引力が低下した際にも追加で牽引を行うことも可能である.また,牽引が不要になった際は生検鉗子によりループを切断することができる.

Figure 1 

マルチループトラクションデバイス外観.3連の極細径ループにて構成されている.

クリップ装置はつかみ直しが可能なSure clip(エム・シー・メディカル株式会社)を使用した.MLTDを固定する際に,粘膜をつかみ直すことで固定位置の調整をすることができる.また,十二指腸内でMLTDがクリップ装置から外れてしまった際にも,再度,つかみ直すことができる.適合鉗子口径は2.8mm以上である.

ERCP時の使用内視鏡は,後方斜視鏡(JF-260V,オリンパス社)を使用した.

2)手技

十二指腸乳頭部の正面視困難症例に対しては,まず第一に生検鉗子を用いて十二指腸粘膜を把持・牽引し,乳頭開口部が良好な位置に確保できることを確認する.この方法によっても正面視が困難であった場合には,MLTDを装着したクリップ装置を挿入し,始めに生検鉗子で把持した部位にMLTDの固定を行う.その後,再度クリップ装置を挿入し,固定されているMLTDの一部を牽引し,十二指腸乳頭部が良好な位置に調整できたことを確認し,MLTDをクリップで固定する.

なお,当院にはTJF-260などの大口径鉗子口を有する内視鏡を常備しておらず,また,極細径のデバイスを持ち合わせていないことよりTwo-devices-in-one-channel methodは施行が困難であり,そのため,本法を用いた選択的胆管挿管を行う方針とした.

ERCP関連手技終了後,牽引固定が不要になった段階でMLTDを生検鉗子で切断して,牽引固定を解除した.

Ⅲ 症  例

3例の憩室内乳頭症例に対して本法を使用したERCP関連手技を行った.全例とも当初は乳頭開口部の同定はできなかったが,本法により十二指腸乳頭の正面視が可能となった(Figure 2).全例とも選択的胆管あるいは膵管挿管が可能となった.

Figure 2 

各症例における牽引固定法前後の視野変化.全症例で乳頭開口部が憩室外に牽引固定できている.

処置後偶発症として,ごく軽度の血清アミラーゼ上昇がみられたのみであり,他の偶発症は認めなかった.

以下にそれぞれの症例についての詳細を動画も含めて報告する.

症例1

55歳男性.胆囊摘出術の術前精査のMRCP(Magnetic Resonance CholangioPancreatography)において,径7mmの総胆管結石を指摘されたため,総胆管結石除去目的で入院とした.

内視鏡所見では,十二指腸乳頭部は憩室内に存在し,当初,憩室外から乳頭開口部の同定は困難であった.さらに,乳頭部は十二指腸水平部に近い部位にあり,内視鏡の近接が困難であった.憩室左縁の粘膜を生検鉗子にて把持し,牽引したところ,憩室外から乳頭開口部を同定できることを確認した.

生検鉗子で把持した部位にクリップ装置を用いてMLTDを固定した.さらに別のクリップ装置にて固定したループとは別のループを把持し牽引した.乳頭開口部が正面視できるように調整可能なことを確認し,Sure clipでMLTDの固定を行った.その後,選択的胆管挿管を行い,目的の手技を完遂することができた(電子動画 1).

電子動画 1

処置後,血清アミラーゼ上昇はみられなかった(2時間値:49U/L,翌日:50U/L).

症例2

90歳女性.膵囊胞性病変の経過観察中に病変内部の壁在結節と主膵管拡張(径8.5mm)を認めた.本人・ご家族が細胞あるいは組織診断を強く希望したため,経鼻膵管ドレナージチューブ留置による連続膵液細胞診検査目的に入院とした.

内視鏡所見では,十二指腸乳頭部は憩室内乳頭であり,乳頭開口部を憩室外から同定することは困難であった.憩室左縁の粘膜を生検鉗子により把持し,牽引したところ,乳頭開口部を同定することができた.そのため,本法を用いて選択的膵管挿管を行う方向とした.

クリップ装置にMLTDを装着して鉗子口から挿入したが,鉗子口内でMLTDが脱落した.そのため,クリップ装置をいったん抜去し,新たにMLTDを装着した.再挿入を行ったところ,鉗子口から1本目のMLTDが放出され,さらにそれを鉗子口から外す際に2本目のMLTDもクリップ装置から脱落した.そのため,脱落したMLTDをSure clipでつかみ直して手技を開始した.

その後は症例1と同様の手技を行い,目的の手技を完遂することができた.処置後,血清アミラーゼ上昇はごく軽度であった(2時間値:149U/L,翌日:162U/L).

この症例を踏まえて,MLTDの脱落予防として,当施設ではMLTDをクリップ装置に装着する際に,クリップでつかむのみではなく,クリップの根元に二重に巻き付けるようにした(電子動画 2).

電子動画 2

症例3

86歳女性.85歳から2~3カ月毎に急性膵炎を繰り返しており,その経過観察中に膵管狭窄および尾側膵管の拡張を認めた.そのため,閉塞性膵炎と考え,膵管ステント留置を行う方針となった.

内視鏡所見では憩室内乳頭であり,乳頭部の正面視が困難であった.憩室右縁の粘膜を把持し牽引したところ,乳頭開口部の正面視が可能となった.そのため,本法を用いて選択的膵管挿管を行うこととした.

本法により乳頭部の正面視ができたが,膵管挿管に難渋し,時間経過により牽引固定の効果が低下し,視野も悪化した.そのため,再度クリップ装置を挿入し,MLTDの中央のループを把持した上で追加の牽引固定を行った.それにより乳頭開口部を再度良好な視野を確保することができた(電子動画 3).

電子動画 3

最終的には選択的膵管挿管はできたが,ガイドワイヤーが膵管狭窄部を越えることができず,膵管ステントの留置は断念した.処置後,血清アミラーゼ上昇はごく軽度であった(2時間値:155 U/L,翌日:148U/L).

Ⅳ 考  察

今回,MLTDを使用した乳頭牽引固定法を用いてERCPを施行した症例を3例経験した.全例において当初は乳頭開口部が同定できなかったが,本法により十二指腸乳頭部の正面視が可能となり,選択的挿管を行うことができた.

河上ら 6は選択的挿管に際しては十二指腸乳頭部を適切な状態で正面視をすることが最も重要としている.正面視が困難となることがある傍乳頭憩室,憩室内乳頭症例に対しては,本法以外にも様々な手技 6が報告されている.

1996年,Tantauら 7によって報告されたtwo-devices-in-one-channel methodはその代表的手技である.この手技は同一鉗子口内に造影用カテーテルと生検鉗子を挿入して,十二指腸乳頭部の位置を修正し,選択的胆管挿管を試みる方法である.同一鉗子口内に2本のデバイスを挿入するため,手技には細径のデバイスおよび大口径鉗子口を持つ内視鏡が必要になる.しかし,本法では,2.8mm以上の鉗子口径を持つ内視鏡であれば手技が可能である.また,two-devices-in-one-channel methodでは常に一方のデバイスで十二指腸粘膜を把持・牽引し続ける必要があり内視鏡操作の自由度が低く,高度な技術が必要となる.それに対して本法では,十二指腸内にデバイスを固定することができ,その後の内視鏡操作に影響しない.

他の方法として,牽引デバイスを十二指腸内に留置固定することで乳頭牽引固定を行う方法が報告されおり,2019年にInoueら 8による牽引クリップ(S-O clip,ゼオンメディカル社製)が代表的手技である.牽引デバイスとしては自作デバイスを使用した報告と市販されているESD用牽引デバイスを用いたものがある.

自作デバイスを使用したものとして,Ponz de Leon Pisaniらが報告 9したelastic-bandを使用したものやChenらが報告 10したdental floss付クリップを使用したもの,Ishikawa-Kakiyaらが報告 11した1-0シルク糸をループ状にして使用した方法などがある.また,MLTDと同様の形状の自作デバイスとしては,Ishiiらが報告 12した外科縫合糸を3連ループ状に編み込んだものもある.これらの方法は,本法と同様の乳頭牽引固定法となり,内視鏡操作の自由度は高い.しかし,内視鏡用ではない物品を用いた自作のデバイスであり,デバイス作成・使用に際しては習熟が必要である.特にIshiiらの報告のように3連ループ状の自作デバイスを複数本使用するときには,すみやかな作成には一定のトレーニングが必要になると考えられる.本法で使用されているMLTDは,ESD用牽引デバイスとしてすでに市販されているものであり,簡便性に優れていると考えられる.

Inoueら 8が使用した牽引クリップは,MLTDと同様に市販されているESD用牽引デバイスである.本法と比較すると,牽引クリップはクリップのつかみ直しを行うことができず,また,追加の牽引を行うには固定したクリップを外す必要がある.本法で使用した,Sure clipはつかみ直しが可能なクリップであり,MLTDとの組み合わせにより追加牽引が容易に行えるという利点がある.本法の欠点としては,クリップ装置に装着したMLTDが脱落しやすいという点が挙げられる.その改善のため,本例で提示したように,MLTDをクリップ装置に装着する際に,クリップ装置でつかむだけではなく,根元に二重にまくことで対処した.

本法を行う際にはデバイス留置部位の決定が重要と考えられた.当院では本法施行前に,生検鉗子により憩室近傍の十二指腸粘膜を把持・牽引し,十二指腸乳頭部が正面視できることの確認を行った.これは,把持と牽引を繰り返すことで,最適な状態で乳頭部の正面視が可能となることを評価する目的である.また,MLTDを固定した後,次のクリップで牽引し乳頭部が正面視できたことを確認の上,留置を行った.その際には,出血や乳頭部の浮腫を防ぐために,乳頭部自体に触れないように注意すると良いと思われた.

今後,高齢化社会が進行するにしたがい,憩室内乳頭を有する高齢者に遭遇する頻度は増える 13)~15と考えらえる.そのため,憩室内乳頭によるERCP関連手技困難症例に対する方法を1つでも多く知っておくことは重要である.

Ⅴ 結  語

MLTDによる乳頭牽引固定法を用いた憩室内乳頭に対するERCP関連処置の3症例を経験した.

本法は大口径の鉗子口を有する十二指腸内視鏡を必要とせず,十二指腸乳頭開口部の視野確保が困難な憩室内乳頭症例において,1つの選択肢になり得る.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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