日本消化器内視鏡学会雑誌
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Modified Nスコアは,吐血を伴わない黒色便患者において内視鏡的止血処置が必要な患者を予測するのに有用である
伊藤 信仁舩坂 好平 藤吉 俊尚古川 和宏角嶋 直美古根 聡石川 恵里水谷 泰之澤田 つな騎前田 啓子石川 卓哉山村 健史大野 栄三郎中村 正直川嶋 啓揮宮原 良二廣岡 芳樹春田 純一藤城 光弘
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電子付録

2023 年 65 巻 6 号 p. 1165-1174

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要旨

【目的】黒色便は上部消化管出血を疑う症状の1つであるが,吐血を伴わない黒色便患者のすべてに内視鏡的止血処置を必要とするわけではない.これまでに内視鏡的止血処置が必要な患者を予測するための明らかな指標は報告されていない.本研究の目的は,吐血を伴わない黒色便患者において,内視鏡的止血処置が必要な患者を予測する新規のスコアを確立することである.

【方法】われわれは,2施設において,吐血を伴わない黒色便を主訴として緊急内視鏡検査を行った連続721例の患者をレトロスペクティブに登録した.開発コホート(2016年1月~2018年12月)422例の患者データから内視鏡的止血処置が必要な患者を予測するリスク因子を多変量ロジスティック回帰分析により決定し,modified Nagoya University score (modified Nスコア)と名付けた新規スコアリングシステムを作成した.検証コホート(2019年1月~2020年12月)299名の患者データを用いmodified Nスコアの診断能について評価した.

【結果】ロジスティック回帰分析による多変量解析により,内視鏡的止血処置が必要な患者を予測する因子として,失神,血中BUN値,BUN/クレアチニン比が正の予測因子として,抗凝固薬内服が負の予測因子として,計4因子が抽出された.検証コホートにおいてmodified NスコアのROC曲線によるAUCは0.731であり,modified Nスコアの内視鏡的止血処置予測感度は82.0%,特異度は58.8%であった.

【結論】4因子からなるmodified Nスコアは,吐血を伴わない黒色便患者において内視鏡的止血処置を必要とする患者を予測することができる.

Abstract

Objectives: Although black stools are one of the signs of upper gastrointestinal bleeding, not all patients without hematemesis need endoscopic intervention. There is no apparent indicator to select who needs treatment thus far. The aim of this study was to establish a novel score that predicts the need for endoscopic intervention in patients with black stools without hematemesis.

Methods: We retrospectively enrolled 721 consecutive patients with black stools without hematemesis who underwent emergency endoscopy from two facilities. In the development stage (from January 2016 to December 2018), risk factors that predict the need for endoscopic intervention were determined from the data of 422 patients by multivariate logistic regression analysis, and a novel scoring system, named the modified Nagoya University score (modified N score), was developed. In the validation stage (from January 2019 to September 2020), we evaluated the diagnostic value of the modified N score for 299 patients.

Results: Multivariate logistic regression analysis revealed four predictive factors for endoscopic intervention: syncope, the blood urea nitrogen (BUN) level, and the BUN/creatinine ratio as positive indicators and anticoagulant drug use as a negative indicator. In the validation stage, the area under the curve of the modified N score was 0.731, and the modified N score showed a sensitivity of 82.0% and a specificity of 58.8%.

Conclusions: Our modified N score, which consists of only four factors, can identify patients who need endoscopic intervention among those with black stools without hematemesis.

Ⅰ 背  景

上部消化管出血(Upper gastrointestinal bleeding:UGIB)は,世界的に罹患率・死亡率が高い疾患であり,上部消化管出血の死亡率は1.0%~4.3%と報告されている 1)~6.日本では2015年に非静脈瘤性上部消化管出血(Non-variceal upper gastrointestinal bleeding:NVUGIB)のガイドラインが策定されている 7.ガイドラインの中では,血中尿素窒素(BUN)/クレアチニン(Cr)比が30以上 8,Glasgow-Blatchford score(GBS) 9,Rockall score(RS) 10など,活動性のUGIBを予測するいくつかの指標が示されている.このガイドラインが発刊された後に,日本では消化管出血の処置を予測するいくつかのスコア 11)~13が開発された.われわれは,NVUGIBが疑われる患者のうち,内視鏡的止血処置を必要とする患者を,わずか4つの因子から予測するNagoya University score(Nスコア)を報告している 13.また,UGIBに対する内視鏡治療の新しい技術もいくつか報告されており,Over-The-Scope Clip(OTSC)はリスクの高い再発性の出血に対する治療に有効であり,Hemostatic powderもまた,高い初期止血率を示している 14

一般にUGIBの疑われる症状は,吐血,黒色便,コーヒー残渣様嘔吐である.その中でも,UGIBに最も関連のある症状は吐血である 15.また,吐血のない患者において,黒色便はUGIBと関連することが報告されている 16.実臨床においては,吐血がある患者に緊急で上部消化管内視鏡検査を行うことに疑いの余地はない.一方,吐血を伴わない黒色便患者に緊急内視鏡検査が必要かについては判断に迷うことがあり,特に消化器内科を専門としない一般内科医にとってはなおさら判断に迷う.吐血を伴わない黒色便患者における内視鏡的止血処置に関連する因子は,これまで明らかにされていない.したがって,黒色便を有する患者が緊急の内視鏡的止血処置を必要とするかどうかを予測するための新たな指標は,消化器内科医だけでなく一般内科医にとっても有用である.

本研究の目的は,吐血を伴わない黒色便患者において,より少ない因子で内視鏡的止血処置を必要とする患者を予測する新規スコアを確立することである.

Ⅱ 方  法

研究デザインと対象患者

この多施設レトロスペクティブ研究は,以下の2つのコホートで構成されている.内視鏡的止血処置に関連する予測因子を同定し,新たな予測スコアを確立した開発コホートと,開発したスコアの診断能を確認する検証コホートである.

2016年1月より2020年12月の間に,名古屋大学医学部附属病院および日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院においてNVUGIBが疑われ12時間以内に緊急内視鏡検査を施行した連続1,284名の患者を対象とした(Figure 1).NVUGIBを疑う症状は,吐血,コーヒー残渣様嘔吐,黒色便,BUN/Cr比の高値を伴う貧血の進行とした.食道静脈瘤の既往がある患者またはCTで食道静脈瘤が疑われた患者は,本研究から除外した.1,284名のうち,ESD後に緊急内視鏡を施行した26名,吐血を認めた298名,黒色便を認めなかった239名を除外し,吐血を伴わない黒色便患者721名を本研究の対象とした.黒色便と吐血の両方を認めた102例については,吐血を主症状とみなした.

Figure 1 

研究フロー図.

吐血を伴わない黒色便患者における内視鏡的止血処置の予測スコアを確立するため,2016年1月から2018年12月までの開発コホート422例を分析し,ロジスティック回帰分析を用いた単変量,多変量解析により内視鏡的止血処置に関連する因子を抽出した.多変量解析で抽出された因子にβ回帰係数に基づくスコアを付与し,各因子の合計で,内視鏡的止血処置を必要とする患者を予測するスコアを作成した.内視鏡的止血処置が必要な症例を予測する点では,われわれが以前に報告したNスコアと類似するが,吐血,黒色便のいずれの患者も対象であったNスコアと今回のスコアは,吐血のない黒色便患者を対象とした点で異なるため,modified Nagoya University score (modified Nスコア)とした.また,カットオフ値は,ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いて算出した.

このmodified Nスコアを2019年1月から2020年12月に緊急内視鏡検査を施行した検証コホート299例に適用し,スコアの感度,特異度,曲線下面積(Area under the curve:AUC)を算出し,スコアの妥当性を評価した.また各患者に対し,GBS 9と弘前スコア 11についても算出し,AUCを求めることでこれらの3つのスコアを比較した.この多施設共同レトロスペクティブ研究は,当施設の倫理委員会の承認を得た(IRB No.2020-0577).

データ収集

データ収集は,研究者が各機関で行った.吐血を伴わない黒色便患者に関連するデータの収集は以下の通りである:患者背景(年齢,性別),出血の原因疾患(胃潰瘍,十二指腸潰瘍など),治療(内視鏡的止血処置,輸血),UGIBを疑う症状(失神,黒色便,吐血),バイタルサイン(収縮期血圧,脈拍).病歴(心不全,肝機能障害),内服薬(抗血小板剤,抗凝固剤,プロトンポンプ阻害薬,NSAIDs),および血液検査結果(ヘモグロビン(Hb)値,アルブミン(Alb)値,クレアチニン(Cr)値,BUN値,GFR).

内視鏡的止血処置の基準

内視鏡的止血処置を,クリップ止血,アルゴンプラズマ凝固(Argon plasma coagulation:APC),高張ナトリウム・エピネフリン(Hypertonic saline epinephrine:HSE)注入,止血鉗子による高周波凝固などの処置と定義した.潰瘍性疾患はForrest分類 17に従って評価された.Forrest Ⅰa/bとⅡaについては,原則として内視鏡的止血処置を行っている.ただし,Forrest Ⅱbの場合には,血栓を除去して再度潰瘍底を観察し,Forrest Ⅱaでないかを確認した.その他の出血性疾患については,活動性出血を認めた場合に内視鏡的止血処置を行った.

スコアの候補因子とカットオフ値

性別,年齢≥65 years.

血圧<100mmHg,脈拍≥100b.p.m.

Hb<10g/dL,BUN≥22.4mg/dL.

e GFR≤60mL/min/1.73m2,BUN/Cr比≥30,Alb<2.5g/dL.

失神の有無,肝疾患の有無,心不全の有無.

抗血小板剤内服の有無,抗凝固薬内服の有無,PPI内服の有無.

連続変数は,過去のスコアリングシステムの値に基づいて,2つのグループに分けた 8)~10

Study outcome

本研究の主要評価項目は,吐血を伴わない黒色便患者のうち,どの患者に内視鏡的止血処置が必要であるかを予測する信頼性の高いスコアを確立することであった.

統計解析

統計解析にはIBM SPSS Statistics 27.0(IBM Japan, Ltd., Tokyo, Japan)を使用した.各スコアリングシステムの予測精度はAUCと95%信頼区間(CI)により評価した.modified Nスコアのカットオフ値はROC曲線で評価した.P値<0.05の変数は単変量,多変量ロジスティック回帰分析に含まれた.その他の各因子の有意差は,カイ2乗検定,フィッシャーの正確検定またはMann-Whitney U-検定を用いて評価した.P値<0.05を統計学的に有意とした.

Ⅲ 結  果

患者背景と内視鏡診断

本試験のフローをFigure 1に示す.1,284名の連続した患者において,298名が吐血を呈し,721名が吐血を伴わない黒色便を認めた.緊急内視鏡検査において,吐血患者の60%(178/298)に内視鏡的止血処置が必要であったのに対し,吐血を伴わない黒色便患者の内視鏡的止血処置は32.2%(232/721)であった.Table 1に本研究の対象とした吐血を伴わない黒色便患者の背景を示す.開発コホートと検証コホートの間で,内視鏡的止血処置,再出血,28日以内の死亡や輸血の割合には有意差を認めず,患者背景のほとんどで有意差を認めなかったが,検証コホートでは有意にGFRが低かった.28日以内の死亡を23例に認めたが,消化管出血による死亡は1例のみであった.開発コホートと検証コホートの内視鏡診断をTable S1(電子付録)およびTable S2(電子付録)に,内視鏡的止血法をTable S3(電子付録)に示す.両コホートにおいて,内視鏡的止血処置を行った疾患は,胃潰瘍が最も多く,次いで十二指腸潰瘍であった.両コホートにおいて,約20%(開発101/422,検証67/299)の患者において,出血性病変を認めなかった.止血法はクリップによる止血が最も多く,92.7%(217/234)の患者に実施された.

Table 1 

患者背景.

modified Nスコアの確立

Table 2に内視鏡的止血処置に関連する因子を示す.ロジスティック回帰分析による単変量解析では,失神,抗凝固薬内服,プロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor:PPI)内服,収縮期血圧,脈拍,BUN値,BUN/Cr比の7つの有意な因子が検出された.Alb値,Hb値を含む9因子を多変量解析した結果,BUN値,BUN/Cr比,失神,抗凝固薬内服が有意な因子として抽出された.β回帰係数をもとに各因子に対するスコアを作成し,すべてのスコアを合計して-1~5点を合計スコアとするmodified Nスコアを作成した(Table 3).開発コホートにmodified Nスコアを適用したところ,スコア1以下の内視鏡的止血処置の実施率は10%未満であった(Figure 2-a).ROC曲線を用いると,modified Nスコアのカットオフ値は2点となり,AUCは0.782であった(Figure 3-a).またmodified Nスコア 2点以上を陽性とし,0,1点を陰性とした.内視鏡止血処置を受けた患者に対するmodified Nスコアの感度および特異度はそれぞれ85.6%(113/132),60.7%(176/290)であった(Table 4).

Table 2 

内視鏡的止血処置に関連する因子.

Table 3 

Modified N scoreとN scoreの比較.

Figure 2 

a:開発コホートにおけるmodified Nスコア毎の内視鏡的止血処置の有無.

b:検証コホートにおけるmodified Nスコア毎の内視鏡的止血処置の有無.

Figure 3 

a:開発コホートにおけるmodified NスコアのROC曲線.

b:検証コホートにおけるmodified NスコアのROC曲線.

Table 4 

modified N scoreの感度,特異度.

modified Nスコアの検証および他スコアとの比較

検証コホートにおけるmodified NスコアをFigure 2-bに示す.modified Nスコア陽性(2点以上)患者の内視鏡的止血処置の実施率は50.0%(82/164)であり,陰性(0,1点)の患者の内視鏡止血処置の実施率は13.3%(18/135)であった.内視鏡止血処置に対するmodified Nスコアの感度は82.0%(82/100)であり,特異度は58.8%(117/199)であった(Table 4).ROC曲線による解析の結果,内視鏡的止血処置の予測において,modified NスコアはGBSより優れ,弘前スコアと同等であった(AUC,modified Nスコア0.731[95% CI 0.673-0.789]vs. GBS 0.620[0.553-0.688]P=0.003,弘前スコア 0.672[0.606-0.736]P=0.099)(Figure 3-b).

Ⅳ 考  察

われわれは,吐血を伴わない黒色便患者において,4因子(BUN値,BUN/Cr比,失神,抗凝固薬使用)を用いて,内視鏡的止血処置を予測するmodified Nスコアを開発した.modified Nスコアは,開発コホートおよび検証コホートのいずれにおいても80%以上の高い予測感度を示した.われわれのNスコアを含め,これまでに開発された消化管出血のスコアは,UGIBが疑われる患者を対象として作成されたものである 9)~13),18.消化管出血が疑われる患者の最も一般的な主訴は吐血であり 15,緊急内視鏡検査の絶対的な適応となる.一方で,吐血を伴わない黒色便患者のうち,内視鏡的止血処置を必要とした患者の割合は,吐血を伴う患者の割合よりも低い結果であった(それぞれ32.2%対59.7%).したがって,吐血を伴わない黒色便患者のうち,どの患者に内視鏡的止血処置を必要とするかを事前に予測できれば,不必要な緊急内視鏡検査の数を減らすことができると考える.われわれの知る限り,今回のmodified Nスコアは,吐血を伴わない黒色便患者に対して,止血処置を予測する初めてのスコアであり,実臨床において広く役立つと考えられる.

今回のコホートでは,吐血を伴わない黒色便患者において内視鏡的止血処置を行った割合は32.2%であった.検証コホートにおける陽性および陰性尤度比は,それぞれ1.990および0.306であった(Table 4).これらの患者の内視鏡的止血処置の事前確率が32.2%であれば,検査陽性の事後確率は48.4%に増加し,検査陰性の事後確率は9.8%に減少するため,特に検査陰性の場合に有用である.

GBS 9,RS 10,AIM65 1,弘前スコア 11が消化管出血の疑われる患者の内視鏡止血処置の必要な患者を予測するスコアとして報告されている.国際的に見ても,GBSは内視鏡的止血処置を予測する診断能が高いことが報告されている 19)~23.しかしながら,米国で行われたUGIBの治療に関する調査では,GBSを臨床で使用したことのある医師はわずか30%であった 24.実臨床で,GBSがあまり使用されない理由は,項目数が多く煩雑であるためと考えられる.一方,modified Nスコアはわずか4因子のみで,80%以上の感度で内視鏡的止血処置を予測でき,GBSよりもmodified NスコアのAUCが高く,より簡便で臨床で使用しやすいスコアといえる.

数十年にわたり,UGIBの管理における内視鏡的止血のタイミングと必要性が議論されてきた 25.1つのレトロスペクティブ研究において,6時間以内の緊急内視鏡検査が死亡率を低下させることが示された 26.一方,香港で行われた無作為化比較試験では,6時間未満の緊急内視鏡検査が,6~24時間の緊急内視鏡検査と比較して,30日以内の死亡率を低下させなかった 27.本研究においては,緊急内視鏡検査の基準が12時間以内であるにもかかわらず,ほとんどの患者が,来院してから6時間以内に緊急内視鏡検査を受けていた.modified Nスコア陰性例では,内視鏡的止血処置を行う確率は低く,消化管出血に関連した死亡例も認めなかった.したがって,modified Nスコア陰性症例では24時間以内に内視鏡検査を行えば十分であると考えられる.

以前,われわれは吐血を含む消化管出血患者の緊急内視鏡検査において,GBSよりも高い確率で内視鏡的止血処置を予測する4因子(失神3点,吐血2点,BUN値1点,BUN/CR比1点)からなるNスコア 13を報告した.今回の研究では,BUN値,BUN/Cr比,失神,抗凝固薬内服の4つの有意な因子が抽出されたが,抗凝固薬内服はNスコアの因子には含まれていなかった.またスコアの重み付けもBUN/Cr比は1から2に,失神は3から2に変わっている.そして抗凝固薬内服は-1点となった.検証コホートにおいて,Nスコアとmodified Nスコアの診断能を比較した(Table S4(電子付録).modified Nスコアの内視鏡的止血処置に対する感度はNスコアより約5%高く,内視鏡的止血処置を必要とする患者を4人多く予測することができた.吐血を伴わない黒色便患者には,modified Nスコアがより有用と考えられる.

さらに興味深い結果は,本研究では抗凝固薬内服が有意な因子として抽出されたことである.抗凝固薬を内服している患者において,プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)は86.3%(101/ 117)で適切にコントロールされ,16例のみがPT-INR3以上であった(Table S5(電子付録).内視鏡的止血処置を必要とした患者数は,抗凝固薬内服患者では非内服患者に比べ有意に少なかった(抗凝固薬内服:23.9%[28/117],非内服:33.8%[204/604];P=0.040).この結果は,直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)やワルファリンなどの抗凝固薬を内服している患者は,中・下部消化管出血の割合が高いことが報告されており 28)~30,黒色便は上部消化管よりも遠位の出血を反映している可能性があるためと考えられる.内視鏡的止血処置を行わなかった489名の患者のうち,小腸・下部消化管出血は,抗凝固薬の内服患者(15.7%,14/89名)で,非内服患者(4.3%,17/400名)に比べ有意に多く認められた(P<0.001)(Table S6(電子付録).また,胃前庭部血管拡張症や十二指腸憩室出血などの血管性疾患の止血処置例の数は,抗凝固薬内服患者において有意に多かった(抗凝固薬内服例:5例,非内服例:8例,P=0.045).過去の報告と同様に,本研究でも,黒色便の患者では,特に経口抗凝固薬を服用している場合,小腸や大腸の出血に留意する必要があることを示唆している.

本研究にはいくつかのlimitationがある.1つ目に約700名の患者を含む多施設共同研究であったもののレトロスペクティブ研究であったこと,2つ目にmodified Nスコアの検証は,緊急内視鏡検査を受けた吐血を伴わない黒色便患者のみを対象としたため,選択バイアスを完全に排除することはできないこと,3つ目に検証が内部検証であったことが挙げられる.今後,このスコアの妥当性を検証するためには,吐血を伴わない黒色便患者を対象にこのスコアを用いた多施設共同前向き研究が必要であろう.

結論として,失神,BUN値,BUN/Cr比,抗凝固内服の4因子のみで算出したmodified Nスコアは,吐血を伴わない黒色便を呈する患者の内視鏡的止血処置を必要とする患者を高い確率で予測できる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:著者角嶋直美はDigestive Endoscopy誌のAssociate Editorである.他の著者は,この記事について利益相反はない.

補足資料

Table S1 開発コホートにおける内視鏡診断.

Table S2 検証コホートにおける内視鏡診断.

Table S3 内視鏡的止血法.

Table S4 Nスコアとmodified Nスコアの診断能の比較.

Table S5 抗凝固薬内服患者における,内視鏡的止血処置とPT-INR.

Table S6 抗凝固薬内服の有無における小腸・下部消化管出血の割合.

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2022)34, 1157-65に掲載された「Modified N score is helpful for identifying patients who need endoscopic intervention among those with black stools without hematemesis」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
© 2023 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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