日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
EGD後に発症した胃蜂窩織炎の1例
小田 眞由 木阪 吉保田中 良憲横山 桂島本 豊伎曹 芳多保 祐里平岡 亜弥田鶴谷 奈友水上 祐治
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 65 巻 7 号 p. 1218-1224

詳細
要旨

症例は61歳男性.アルコール性肝硬変,食道静脈瘤治療後で定期通院していた.食道静脈瘤治療後の経過観察目的にEGDを受け,観察時のscope接触で胃粘膜損傷を来したが自然止血したため帰宅した.検査後9日目に心窩部痛が出現し,翌日に発熱したため受診した.CTではびまん性の胃壁肥厚を認めた.胃蜂窩織炎を考え,ampicillin sodium/sulbactam sodiumの投与を開始した.入院第5病日のEGDで行った生検培養では血液培養で検出されたStreptococcus-alpha hemolyticが検出された.EGD後に発症する胃蜂窩織炎の頻度は稀と考えられるが,糖尿病,肝硬変や担癌状態など免疫低下状態にある患者においては,本疾患のリスクも想定した対応が必要である.

Abstract

A 61-year-old man was regularly followed up as an outpatient after receiving treatment for alcoholic cirrhosis and esophageal varices. The patientʼs gastric mucosa was injured by the scope during follow-up EGD; however, the bleeding resolved spontaneously. On day 9 after the EGD, the patient experienced epigastralgia and developed a fever. CT performed the following day revealed diffuse thickening of the gastric wall, which was attributed to phlegmonous gastritis. The patient was administered ampicillin sodium/sulbactam sodium. Blood culture of a biopsy specimen obtained during EGD on day 5 of hospitalization revealed alpha-hemolytic streptococci, which were also detected in the culture of the blood sample drawn on admission. Post-EGD phlegmonous gastritis is rare; however, immunocompromised patients with comorbidities such as diabetes, liver cirrhosis, and cancer are predisposed to this condition.

Ⅰ 緒  言

胃蜂窩織炎は粘膜下層を中心とした胃壁全層における化膿性炎症性疾患であり 1,その発症頻度は稀とされている.最近では内視鏡下の生検や治療[内視鏡的粘膜切除術(EMR),内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)]が契機となった報告もされているが 2)~10,今回われわれは観察時に粘膜損傷を起こした上部消化管内視鏡検査(EGD)後に発症した胃蜂窩織炎の1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:61歳,男性.

主訴:心窩部痛,発熱.

生活歴:飲酒(58歳まで 救護施設入所後禁酒).喫煙なし.

既往歴:アルコール性肝硬変,食道静脈瘤(60歳時 内視鏡的硬化療法・結紮術同時併用療法 endoscopic injection sclerotherapy with ligation: EISL).

内服薬:ボノプラザンフマル酸塩,イソロイシン・ロイシン・バリン顆粒,リファキシミン,ラクツロースシロップ65%,ウルソデオキシコール酸,センノシド.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2019年10月に当院にて治療歴のない食道静脈瘤(Lm,F2,Cb,RC1,E)に対し,EISL(5% ethanolamine oleate 2ml,EVL 8個)を施行した.術後,肝機能障害の増悪や腹水の出現なく経過したが,処置後1カ月のEGDでは軽度の門脈圧亢進症性胃症(portal hypertensive gastropathy:PHG)の出現を確認した.2020年8月4日に食道静脈瘤治療10カ月後の経過観察目的のEGDを受けた.食道胃接合部を中心に食道静脈瘤(Li,F1,Cb,RC0,S)を認めたが,治療適応となるような所見は指摘できなかった.穹窿部から胃体上部を中心にfine pink specklingが広がり,特に前壁にはsuperficial reddeningがみられた.スコープの接触や送気で胃体中部前壁,小彎,後壁の発赤部より容易に出血したが,速やかに自然止血が得られたことを確認し検査は終了した(Figure 1).EGD後9日目より心窩部痛が出現し,その翌日に40℃以上の発熱がみられたため,当院へ救急搬送された.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査(2020年8月4日).

a:胃体部後壁はスコープの接触で出血を認めた.

b:胃体部から穹窿部にかけてfine pink specklingがみられ,胃体部前壁はsuperficial reddeningが目立った.

来院時現症:意識清明.身長 165cm,体重 53.4kg.体温 40.1℃.血圧 150/68mmHg.脈拍 83/分整.腹部は平坦,軟で心窩部に圧痛あるも反跳痛なし.

臨床検査成績所見:WBC 6,700/μL(Stab 4%,Seg 91%),CRP 2.40mg/dLと軽度の炎症所見を認めた.そのほかの項目は8月4日と著変はなく,肝予備能はChild-Pugh分類B(8点)であった(Table 1).

Table 1 

入院時臨床検査成績.

尿検査:白血球1-2個/HPF,亜硝酸塩 陰性(Table 1).

胸腹部造影CT検査:少量の両側胸水はあるが,肺野に浸潤影なし.胆囊結石はあるが胆囊腫大なし.膵腫大なし.肝臓は萎縮し辺縁凹凸が目立つが肝内に明らかな腫瘤なし.びまん性の胃壁肥厚はあるが,明らかな虚血性変化は認めず.胃体上部前壁に膿瘍を疑う低吸収域を認めた(Figure 2).

Figure 2 

腹部造影CT検査所見(第1病日).

a:胃体上部後壁に膿瘍を疑う低吸収域を認める(黄色矢印部分).

b:胃はびまん性に壁肥厚している.

経過:上記より胃蜂窩織炎を考え,同日入院加療とした.絶食のうえampicillin sodium/sulbactam sodium(ABPC/SBT)4.5g/日の投与を開始した.入院第3病日の血液検査でWBC 3,200/μLと患者の平常時まで低下し,CRP 7.29g/dLであったが同日がピークであった.第5病日には解熱し,腹部症状も消失したため,EGDを施行した(Figure 3).EGDでは前回指摘していたPHGの所見に変化はなく,新たな浮腫や潰瘍も認めなかった.胃体部前壁に白斑を伴う発赤調の小隆起が多発しており,同部位より生検,培養を提出した.生検時に膿汁の流出はみられなかった.同日より流動食を開始した.抗菌薬投与開始5日後のためか生検組織検査では,軽度の炎症細胞浸潤のみであったが,入院時の血液培養と胃粘膜培養よりStreptococcus-alpha hemolyticが検出され,菌血症を伴う胃蜂窩織炎と診断した.食事再開後も腹部症状や血液検査所見の増悪を認めず,第11病日からクラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物錠 1,875mg/日の経口投与に切り替え第12病日に退院となった.以後,外来で経過観察を行っているが1年2カ月間再発なく経過している(Figure 4).

Figure 3 

上部消化管内視鏡検査.

a:2020年8月4日(発症前)の上部消化管内視鏡検査では穹窿部から胃体上部を中心にfine pink specklingが広がり,特に前壁にはsuperficial reddeningがみられた.

b:第5病日の上部消化管内視鏡検査ではPHGの所見に変化はないが,前壁に白斑を伴う発赤調の小隆起が散見された.〇部より生検培養を行ったが膿汁の流出はみられなかった.

Figure 4 

フォローアップのため施行した腹部造影CT検査と上部消化管内視鏡検査.

a:退院2カ月後のCTでは胃体上部後壁に膿瘍を疑う低吸収域は指摘できなくなっている.

b:退院6カ月後の上部消化管内視鏡ではPHGは残存するが以前にみられた白色斑点は指摘できなくなっている.

Ⅲ 考  察

胃蜂窩織炎は,粘膜下層を中心とした胃壁全層に及ぶ強い炎症と浮腫を来す化膿性疾患である.リスク因子としてアルコール摂取,慢性胃炎,糖尿病,粘膜の損傷,衰弱,免疫不全が挙げられているが 1,これらは胃が本来持っている細胞保護や胃酸の殺菌効果などの様々な防御機構を弱めることにより,胃を感染に陥れやすい状態にすると考えられている.特に肝硬変患者は肝臓の細菌感染に対する濾過作用の低下,細胞性免疫機能の低下,オプソニン活性の減少,単球マクロファージ機能の低下などにより易感染であると報告されており 11,さらにChild-Pugh A,Bのアルコール性肝硬変で有意に菌血症を発症しやすいとされている 12.また,近年ではプロトンポンプ阻害薬の内服により胃内pHが上昇することで細菌の繁殖を促進し蜂窩織炎発症のリスクとなるという報告もある 1),13

臨床症状は悪寒,発熱,上腹部痛,嘔吐等を呈し,急性膵炎や胆囊炎などの急性腹症と診断される場合も多い.臨床症状のみでは診断は難しく各種画像検査によるところが大きい.腹部CT検査での胃の限局性もしくはびまん性の胃壁肥厚や胃壁内部の低吸収域は,膿瘍が示唆され診断に特に有用であるとされている 2),14.EGDでは,胃粘膜の発赤,浮腫状変化,白苔や膿汁が付着した潰瘍やびらん,皺襞肥厚が特徴像とされる 14),15.さらに上記に加え生検時の膿汁流出,胃液培養,胃粘膜培養により確定診断が可能である 16)~18.起因菌は,Streptococcus spp., Staphylococcus spp., Escherichia coli, Haemophilus influenzae, Proteus, Clostridiaである.Streptococcusは,症例の約70-75%を占めているが,他の多くの細菌が複合して関与していることが明らかとなっている.また,Streptococcusが起因菌の中で最も頻度が高いだけでなく,死亡率が高いことも報告されている 16

「胃蜂窩織炎」と「内視鏡 or ESD or 生検 or 胃瘻」をキーワードに2000年から2020年の間で検索したところ(会議録を除く),EGD後に発症した胃蜂窩織炎は,自験例を含め11例であった(Table 2 2)~10.いずれも生検[超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)も含む]もしくは治療[アルゴンプラズマ凝固(argon plasma coagulation:APC),ESD]後であった.ほとんどの症例が,リスク因子(糖尿病 4例,悪性腫瘍 7例,アルコール性肝障害 2例,超高齢者 3例)を有していた.発症は検査・処置後の平均3.6日後(当日-15日目)で,自験例よりも早期に発症していた.当日もしくは翌日に発症した7例のうち5例はESD後と1例は20mm以上の潰瘍と伴う2型腫瘍からの生検症例で,発症までに時間を要した他の症例は小病変からの生検やAPC後であった.発症までの期間の差は,粘膜損傷範囲の大きさに起因する可能性が考えられた.診断には全例でCT検査が用いられており,治療は全例で抗菌薬投与が行われ,そのうち6例(54.5%)が外科的治療を行われていた.外科的治療の選択理由として,抗菌薬治療での改善が乏しかった5例と腹膜炎の診断で手術が先行された1例であった.抗菌薬治療のみで治癒できた自験例を含む5症例は,全例で広域のスペクトラムを有する抗菌薬で治療が開始されていた.その後,培養から起因菌の同定に至った症例では感受性を基に抗菌薬の変更がなされていた.検出された菌はStreptococcus属が6症例であり,うち3例は他の菌も認められ混合感染であった.また,症状の改善は5-11日(平均7.7日)で,退院までの日数は9日-1カ月(平均16日)であった.特に2010年以降の症例では在院日数は12日と短くなっていた.症例の積み重ねで迅速な診断と適切な抗菌薬使用が行われるようになってきたためと考えられる.

Table 2 

上部消化管内視鏡検査・処置後に発症した胃蜂窩織炎の本邦報告例.

自験例では,検査時のscope接触での粘膜損傷部が細菌の侵入経路となり,アルコール性肝硬変のChild-Pugh Bの状態であったことから易感染性であり菌血症に至りやすい背景があったことと,ボノプラザンフマル酸塩内服により胃酸分泌が低下したため胃内で口腔内細菌が増殖し得る環境であったことに加え,EIS後に出現した門脈圧亢進症性胃症により防御因子の破綻が起こっていた 19ことなど複数の因子により胃蜂窩織炎の発症に至ったと考えた.scope接触による粘膜損傷範囲が小さいため発症までに時間を要したと考えているが,医中誌で検索した2015年から2020年でEGDと関連のない胃蜂窩織炎の症例は8報告10症例であり 14),20)~26,成因は内服薬や異物(経鼻胃管,義歯)による胃粘膜傷害や他部位(膵炎,足壊疽,食道癌,腸炎)からの感染波及と原因不明であった.これらの報告があるため,発症がEGDでの粘膜損傷と無関係であった可能性も否定はできない.

診断は,造影CT検査で胃以外の臓器に急性腹症を来すような所見がなく,胃壁内部に膿瘍を疑う低吸収域を認めたため,急性胃蜂窩織炎を疑い早急に治療を開始できた.さらに発症後のEGDで発症前に認めなかった白斑部から粘膜培養を行い,血液培養と同じStreptococcus-alpha hemolyticが検出され確定診断に至っている.

EGDは多くの消化管疾患の診断と治療において中心的な役割を担っており,日常的に観察や生検を施行されているが,胃蜂窩織炎を発症することは稀であると考えられる.しかし,糖尿病,肝硬変や担癌状態など免疫低下状態にある患者においては,観察や軽微な処置で終わってもその後の経過を慎重に観察し,急性腹症を生じた場合には,本疾患を念頭に診療を行うことが必要である.本症を疑う症例では,胃液,胃粘膜,血液などの各種培養を提出のうえ,混合感染も念頭に広域スペクトラムを有する抗菌薬での治療を早急に開始することが有用と考えられた.

Ⅳ 結  語

EGD後に発症した胃蜂窩織炎に対し,保存的加療で治癒した症例を経験した.EGD時の愛護的な操作を常に心がけ,基礎疾患を有する患者においては,EGDにて粘膜損傷を来した場合には本症の発症リスクがあることを念頭におく必要性があると考え報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2023 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top