日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
Roux-en-Y再建後の十二指腸憩室内乳頭に対してMulti-loop traction deviceTMを用いて胆管ドレナージに成功した1例
石川 洋一 石井 英治古味 駿重久 友里子高崎 元樹安倍 秀和澤田 晴生川村 昌史上田 弘内田 一茂
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2023 年 65 巻 8 号 p. 1327-1334

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要旨

今回われわれは,胃癌に対してRoux-en-Y再建された78歳男性の総胆管結石性胆管炎に対して,シングルバルーン内視鏡を用いたERCPを試みたが,十二指腸憩室により胆管挿管困難だったため,Multi-loop traction deviceTM(MLTD,Boston Scientific Japan,東京)を併用した症例を経験したので報告する.症例は,乳頭が十二指腸憩室内の肛門側に位置しており,胆管軸が合わず,胆管挿管は困難を極めた.そこでMLTDを装着したクリップを憩室下縁の粘膜に留置した後,MLTDのループ部に新たなクリップを掛けて肛門側へ牽引後に留置し,乳頭の位置を矯正することで胆管挿管可能となり,胆管プラスティックステントの留置に成功した.消化管再建術後かつ傍乳頭憩室を有する症例での胆管挿管では,MLTDが有用である.

Abstract

We aimed to perform ERCP using single-balloon endoscopy (SBE-ERCP) in a 78-year-old man with acute obstructive suppurative cholangitis due to common bile duct stones. He had already undergone Roux-en-Y reconstruction for gastric cancer. The bile duct cannulation was technically challenging due to a duodenal diverticulum whose papilla was located on the anal side. Thus, we used the Multi-loop traction deviceTM (MLTD), which is used for endoscopic submucosal dissection, during the SBE-ERCP. An endoscopic clip was deployed with the MLTD to the duodenal mucosa on the anal side of the diverticulum. The endoscopic clip was hooked in the MLTD and pulled toward the anal side. Subsequently, the clip was attached to the ipsilateral duodenal mucosa. Finally, the papilla position was corrected to allow bile duct cannulation and plastic stent placement. The present study demonstrates the utility of MLTD for bile duct cannulation in patients with parapapillary diverticula after gastrointestinal tract reconstruction.

Ⅰ 緒  言

これまで,正常解剖で傍乳頭憩室を有する症例での内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)においては,挿管や造影のための様々な手技が考案されているが,術後腸管の症例の報告は極めて少ない 1.術後腸管のERCPは難易度が高く,更に憩室を有する症例では,挿管に非常に難渋することがしばしばある 2.今回われわれは術後腸管のERCPにおいて,牽引デバイスを用いて憩室内乳頭を矯正・固定し,胆管挿管及びドレナージを施行した症例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:78歳男性.

主訴:心窩部違和感.

既往歴:53歳 胆囊炎に対して胆囊摘出術.66歳 胃癌に対して幽門側胃切除術・D2郭清及びRoux-en-Y再建術.

併存症:慢性腎不全,発作性心房細動,2型糖尿病,甲状腺機能低下症.

家族歴:母 胃癌,糖尿病.

アレルギー:甲殻類,貝類.

内服薬:ワルファリンカリウム3.25mg/日,レボチロキシンナトリウム25μg/日,アログリプチン6.25mg/日,エピナスチン塩酸塩20mg/日.

嗜好歴:飲酒なし,喫煙なし.

現病歴:他院にて慢性腎不全に対して定期透析を行っている.20XX年3月5日に心窩部違和感が出現し,3月6日朝に起床困難となり,当院救急外来を受診した.

身体所見:身長161cm,体重50.9kg,体温39.3℃,血圧171/69mmHg,脈拍76回/分,SpO2 98%(室内気),眼瞼結膜に貧血なし.眼球結膜に黄染なし.心肺雑音なし.腹部は平坦で自発痛はなく,心窩部に圧痛を認めた.

臨床検査成績:T-Bil 3.0mg/dl,D-Bil 2.2mg/dl,AST 451U/L,ALT 188U/L,ALP 272U/L,γ-GT 94U/Lと肝胆道系酵素の上昇を認めた.炎症反応はWBC 5,530/μl,CRP 2.62mg/dlと軽度上昇し,PLT 9.4×103/μlと低値であった.凝固機能は,ワルファリン内服中でありPT-INR 1.91と延長を認めた(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

入院時単純CT:胆囊摘出術後,消化管再建術後であり,肝内胆管及び総胆管は拡張しており複数の結石を認めた.傍乳頭憩室は画像上では指摘できなかった.

臨床経過:Roux-en-Y再建後の総胆管結石性胆管炎と診断した.Tokyo Guidelines 2018(TG18) 3の診断基準では重症胆管炎に該当し,同日より集中治療室に入室の上,絶食・点滴管理し,抗菌薬(セフメタゾールNa 1g×1回/日)を投与した.翌日に小腸内視鏡(SIF-H290S;OLYMPUS,東京)にオーバーチューブ(ディスポーザブルスライディングチューブ,ST-SB1S;OLYMPUS,東京)を装着後,内視鏡用装着フード(エラスティック・タッチスリット&ホール型S;TOP,東京)を取り付けて,シングルバルーン内視鏡を用いたERCP(single-balloon endoscopy assisted ERCP: SBE-ERCP)を施行した.十二指腸下行脚に到達すると,傍乳頭憩室を認めた.スコープを憩室内に進めると肛門側に乳頭を認め,観察は可能であったが,胆管軸とカテーテルの方向が合致せず,乳頭へのアプローチは困難であった(Figure 1).また,処置当日のPT-INRは2.39と更に延長しており,経皮経肝胆道ドレナージ(percutaneous transhepatic biliary drainage:PTBD)や超音波内視鏡ガイド下胆道ドレナージ(endoscopic ultrasonography-guided biliary drainage:EUS-BD)は出血リスクが高く,困難と判断した.

Figure 1 

十二指腸憩室内乳頭の内視鏡像.

十二指腸に傍乳頭憩室を認め,乳頭(赤矢印)は憩室内の肛門側に存在しており,乳頭を正面視するのは困難であった.

そこで,牽引デバイスであるMLTDを用いて乳頭の位置矯正を試みた.MLTDの使用に関しては,治療を一時中断して家族に説明の上,MLTDの使用許可を頂き,後日に当院の倫理委員会で承認を得た.MLTDは小ループが3つ連なった細径樹脂製のカウンタートラクションデバイスであり,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)で使用されている処置具である.MLTDによる牽引法の詳細な手順を以下に説明する.まず,オリンパス社製EZClipTM(short)をアプリケーターに装着後,ハンドルを操作してクリップが完全に展開しない程度にシース先端から出し,クリップのツメ交叉部の基部側にMLTDを装着して再びシース内に格納した.そして消化管内までデリバリー後,クリップを展開して傍乳頭憩室下縁の十二指腸粘膜に留置した(Figure 2-a).次に,留置したMLTDの中央のループ部に新たなクリップのツメを掛けて肛門側に牽引後,憩室と同側の粘膜に留置した(Figure 2-b).その結果,乳頭を憩室外方寄りに矯正でき(Figure 3),ERCP用造影カテーテル(MTW ERCPカテーテル0.025inch,MTW Endoskopie Manufakutr W. Haag KG,Wesel,ドイツ),0.025inchガイドワイヤー(VisiGlide2TMアングル型,オリンパス)を用いて,胆管挿管に成功した.胆管造影では総胆管内に複数の結石を認め,肝門部近くまで結石が堆積していた(Figure 4).

Figure 2 

MLTD留置後の内視鏡像.

胆管プラスティックステントを1本留置した後の内視鏡像である.MLTDを装着した口側の内視鏡像がa,肛側の内視鏡像がbである.

Figure 3 

MLTD留置により乳頭正面視が可能となった内視鏡像.

十二指腸乳頭の位置が外方寄りに矯正され,正面視が可能となった.

Figure 4 

ERCPの胆管造影写真.

胆管造影では総胆管は拡張して蛇行しており,複数の結石を認め,肝門部近くまで結石が堆積していた.

処置が長時間となり,胆管プラスティックステント(Biliary Plastic Stent,以下BPS)を総胆管と左肝内胆管に各々留置して,次回に採石する方針とした.胆管拡張用バルーン(REN胆管拡張用バルーンカテーテル10-12×40/1800,カネカメディックス,福岡)を用いて11mmまで乳頭拡張した.notch消失を確認し,7Fr 12cm Flexima(Boston Scientific,Marlborough,アメリカ合衆国)及び7Fr 10cm Advanix J(Boston Scientific,Marlborough,アメリカ合衆国)を留置した(Figure 5).そして,MLTDを生検鉗子で把持してスコープ内へと牽引すると,MLTDは容易に切断されて牽引を解除でき,出血リスクを鑑みてクリップは留置したままとした.処置翌日から肝胆道系酵素は改善し,第3病日より食事を再開した.ワルファリン休薬の上,第11病日に再度SBE-ERCPを施行した.一部結石を採石できたが,下部胆管で結石嵌頓し,BPSや経鼻胆管ドレナージチューブが嵌頓部位を通過できず,経乳頭的な胆管ドレナージが困難となり,PTBDを施行した.そして体外衝撃波結石破砕術を2回行い,結石消失を確認し(Figure 6),第32病日に退院した.

Figure 5 

胆管プラスティックステントを2本留置した透視写真.

総胆管に7Fr.12cm Flexima,左肝内胆管に7Fr 10cm Advanix Jを留置した.

Figure 6 

2回ESWL施行後のPTBD造影写真.

PTBDチューブからの胆管造影では,総胆管内に結石の残存は認めなかった.下部胆管近傍に円状の透亮像(赤矢印)を認め,傍乳頭憩室である.

Ⅲ 考  察

十二指腸憩室は1710年,Chomelによって初めて報告され,剖検例の15-22%に十二指腸憩室を認め 4,多くは乳頭部の口側に存在する 5.田中ら 2の報告によれば,1年間に施行したERCP症例の平均年齢が70.9歳であったが,憩室合併例の平均年齢は77.7歳であり,憩室合併例が高齢の患者に多い傾向にあるという.本例も78歳と高齢で,憩室は乳頭の口側に存在していた.また,本例は心房細動に対してワルファリンを服用しており,PT-INR延長下でのPTBDやEUS-BD等の侵襲的な処置は出血リスクが高く,可能な限り経乳頭的胆管ドレナージを施行したい症例であった.そこでわれわれは,ESD用牽引デバイスであるMLTDをERCPに応用することで胆管ドレナージに成功した.

憩室内乳頭が挿管困難な原因として,①憩室内に乳頭が埋没している,②憩室内の乳頭偏移が一様でない,③支持組織が弱く乳頭が動き,挿管時にカニューラに押されて,乳頭が逃げてしまう,④憩室によって胆管,膵管が強く屈曲してしまう,といった項目が挙げられる 2.本例では乳頭が憩室内に埋没しており,胆管挿管が困難であったが,MLTDの使用により乳頭の位置を矯正・固定し,胆管の屈曲を鈍化できたと考える.これまで通常解剖で傍乳頭憩室を有するERCP症例に対して,膵管ガイドワイヤー法,プレカット法,彎曲型カテーテル,パピロトミーナイフを用いたテクニック 2など報告されているが,いずれも本例では乳頭自体に対するアプローチが困難であり使用できなかった.傍乳頭憩室に対して牽引法でERCPを施行した報告例は多数あり,表にまとめた(Table 2).通常解剖に対するERCPの報告では,大幸ら 6やInoueら 7はS-O Clipを使用し,Ishiiら 8は縫合糸で自作したmulti-Loopを使用している.two-devices in one channel method 9は生検鉗子を,Clip法 10はEZClipTMを使用しており,牽引法の有用性が報告されている.また,Sudaら 11はBillrothⅡ法再建後のERCPにおいて偏位した乳頭の位置をS-O Clipで矯正して胆管挿管に成功しており,通常解剖のERCP症例や傍乳頭憩室症例に留まらず,牽引法は有用である.術後再建腸管に対するERCPをShimataniら 12が報告以降,胆膵疾患に対するアプローチは大きく変化した.しかし,術後再建腸管において牽引法を用いた症例報告は少なく,医学中央雑誌で1964年から2022年5月までの期間において(「ERCP」or「十二指腸憩室」and「トラクション」or「クリップ」and「Roux-en-Y」or「BillrothⅡ」)のKeywordで,PubMedで1966年から2022年5月までの期間において((“ERCP”or“duodenal diverticulum”or“periampullary diverticulum”))and((“Clip”or“traction”))and((“Roux-en-Y”)or(BillrothⅡ))のkeywordを用いて検索したところ,傍乳頭憩室を有する術後再建腸管症例としては,Takeshita ら 1のRoux-en-Y再建後の総胆管結石に対してS-O Clipを用いた報告のみであった.

Table 2 

十二指腸乳頭憩室に対する牽引法の報告まとめ.

MLTDの使用は本例以外に報告がなく,以下の2点においてS-O Clipや他の牽引デバイスよりも有用と考える.1点目は,必要最小限の距離で十分な牽引力を得ることができる点である.S-O Clipはバネの伸縮によって牽引力を発揮するため,ESD時の牽引では3-5cm程度の牽引が推奨されている(Table 3).それゆえ,スコープの安定性が保持しづらい術後腸管の場合は,数cmの牽引操作を行うと,スコープが十二指腸水平脚やTrietz靱帯まで抜けてしまい,スコープの安定性を損なうことがある.一方,MLTDは伸縮性のない樹脂製素材であり(Table 3),掛けるループを選択することで,症例に応じて必要最小限の牽引距離を設定でき,牽引操作時もスコープの安定性を保持し易い.2点目は,牽引解除時の簡便さと粘膜損傷や出血リスクを回避できる点である.S-0 Clipの牽引解除時には,ループ部の糸を高周波ナイフで切断したり 7,留置したクリップを鉗子で把持・抜去しているが 6,手技が煩雑で,粘膜損傷のリスクがある.なお,旧式のS-O Clipはループ部が糸であったが,現在のS-O Clipはループ部が樹脂性であり,ゼオクリップ装置を用いて切断する必要がある.Chenら 13はdental flossを用いた自作のループ付きクリップで牽引しており,MLTDと同様に必要最小限の牽引距離を設定できる利点があるが,牽引解除時は高周波ナイフによる切断を要する.一方,MLTDはループの一部を生検鉗子で把持してスコープ内へ牽引すると,一定の張力に達した時点で樹脂が切れる素材となっており,通電は不要で容易に取り外しができる 14.本例でも,初回のSBE-ERCP時はPT-INR延長により出血リスクが高かったが,MLTDの切断が容易でクリップを粘膜から外す必要がなく,粘膜損傷を回避できた.この点が他の牽引デバイスにはない,MLTD独自の利点である.また,牽引したMLTDは憩室と同側の粘膜に留置しており,スコープやカテーテルの操作に干渉することはなかった.これは,内視鏡から独立したカウンタートラクションを得ることができる牽引デバイス特有の利点である.MLTD使用時の注意点として,クリップとMLTDが一体型ではないため,掴み直しが可能なクリップを用いる場合は,開いた際にクリップから脱落することがあり,ゆっくりと操作する必要がある.また,MLTDをEZClipTMに装着して使用する場合は,展開時や留置時にアプリケーターハンドルの操作を急ぐとMLTDが切断されることがあるため,ゆっくりと展開・留置を行うことが大切である.一方,ESD用牽引デバイスであるSureClip traction band(Table 3)はバンドとクリップが一体型のため,切断の心配はなく,脱落しない利点がある.しかしbandはSureClip専用であり,牽引解除時はシリコン性のバンドをループカッターもしくは鉗子牽引で切断するが,MLTDと比較すると伸縮性があるため切断しづらい.

Table 3 

Multi−loop traction DeviceTM,S-O Clip,SureClipの比較表.

本例はRoux-en-Y再建後の重症急性化膿性胆管炎であったが,循環動態は昇圧剤を使用せずとも安定しており,集中治療室において慎重な観察の下で,入院第2病日にERCP検査を施行することができた.今後は傍乳頭憩室を伴う症例に対するバルーン内視鏡を用いたERCPが増加することが予想される.術後腸管の胆管挿管難渋例における経乳頭アプローチを容易にする選択肢として,MLTDを用いることは有用であり,更なる症例の蓄積が望まれる.

Ⅳ 結  語

Roux-en-Y再建後の十二指腸憩室内乳頭に対してMLTDを用いて胆管ドレナージに成功した1例を報告した.

謝 辞

本論文は,高知県医療再生機構の援助を受けて作成した.また,治療及び論文作成に協力頂いた幡多けんみん病院のスタッフの方々に感謝する.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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