2023 年 65 巻 8 号 p. 1335-1340
症例は80歳女性.急性の腹痛を主訴として受診した.来院時,下腹部に腹膜刺激症状を伴わない軽度の圧痛を認めた.腹部CTと病歴から魚骨による小腸穿通の診断となった.魚骨は既に穿通部から離れており,腹部所見と炎症反応が比較的軽度であったため,非手術的加療とした.入院9日目,腹部症状と炎症反応は改善したが,腹部CTで魚骨は上行結腸に停滞していた.魚骨が新たに結腸を損傷する危険性を考え,CSでこれを摘出した.その後の経過は良好で,入院17日目に退院となった.魚骨による小腸穿通後に非手術的経過を追えた報告は稀であり,自然脱落後に結腸に停滞した魚骨を内視鏡的に摘出しえた経過はさらに稀である.内視鏡介入の是非についての問題提示を含め文献的考察を加えて報告する.
An 80-year-old woman presented to the hospital with acute abdominal pain. On examination, she had mild tenderness in the lower abdomen, but no signs of peritoneal irritation. Based on an abdominal CT and her medical history, she was diagnosed with small intestinal perforation by a fish bone. The fish bone had already been fallen out from the perforation site, causing minimal abdominal findings and a mild inflammatory response. Therefore, nonsurgical treatment was provided. Her symptoms and inflammatory response had improved by the ninth day of hospitalization. Abdominal CT revealed that the fish bone was residual in the ascending colon. Because it could have caused damage such as colonic perforation again, it was removed via CS. The patient's postoperative course was uneventful, and she was discharged on the 17th day of hospitalization. The strategy of treatment for residual the intestinal fish bone was discussed and reported based on previous reports similar to the present case.
高齢化社会に伴い,異物の誤飲は増加傾向にある 1).誤飲された異物は大半が消化または自然排出されるが,消化管損傷をきたし急性腹症の原因となることもあり,本邦ではその食習慣から魚骨によるものが欧米に比べ多いとされる 2),3).今回われわれは誤飲された魚骨が小腸を穿通した後に自然脱落し,上行結腸内から内視鏡的に摘出した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
患者:80歳,女性.
主訴:腹痛・下痢.
既往歴:糖尿病・糖尿病性腎症.
現病歴:当日からの急性の腹痛と下痢を主訴として,救急外来を受診した.
来院時身体所見:身長156cm,体重55kg,BMI 22.8,体温36.8℃,血圧153/98,脈拍90回/分,意識清明.下腹部正中に軽度の圧痛を認めた.腹膜刺激症状は認めなかった.WBC 9,100/μl,Hb 8.7g/dl,Plt 20.3×104/μl,CRP 0.16mg/dl,血液ガス分析 pH 7.37,PO2 89.0mmHg,PCO2 42.0mmHg,HCO3 24.0mmHg,BE -1.0,SaO2 97.0%.腹部単純CTで小腸間膜に内部に気腫を伴う脂肪織濃度上昇を認め,その肛門側の小腸内に長さ3cmで線状の高吸収像を示す異物を認めた(Figure 1).改めて食歴を聴取すると,前日にタイを摂取したとのことであり,魚骨の誤飲による小腸穿通と診断した.異物は既に穿通部から肛門側へ離れており,遊離腹腔内ガス像や腹水を認めなかったことから,緊急手術を回避し,入院経過観察とした.

来院時腹部単純CT.
小腸間膜の一部に脂肪織濃度上昇(A)と内部の気腫(B)を認めた.その肛門側の小腸内腔に高吸収像を呈する線上の異物(C)を認めた.
入院後経過:入院4日目の腹部単純CTで,異物は上行結腸内に移動していた(Figure 2).小腸穿通部に気腫の広がりや膿瘍形成を認めず,欠食,補液,抗生剤による非手術的加療を継続した.入院9日目,腹部症状は消失し,炎症反応は改善したが,腹部単純CTで異物の位置に変化を認めなかった.小腸を損傷した魚骨が新たに結腸を損傷する危険性を考慮し,入院10日目に大腸内視鏡を施行した.腸管の安静のため前処置は省略した.

入院4日目の単純CT.
小腸間膜の脂肪織濃度上昇(A)と気腫像(B)は残存した.異物(C)は上行結腸肝弯曲部内に移動していた.
内視鏡所見:上行結腸内に棒状の異物を確認した.観察可能な範囲で粘膜に損傷を認めなかった.生検鉗子を用いてすべての異物を内視鏡下に摘出した.異物は2つあり,いずれも硬く,魚骨と考えられ,28mmと15mmであった.前者は一端が極めて鋭利な紡錘形であり,小腸穿通の原因と考えられた(Figure 3).

内視鏡所見.
上行結腸内に2つの棒状異物を確認した.いずれも魚骨と考えられ,一方(矢印)は両端が鋭利であった.
術後,腹部単純CTを再検し遺残のないことを確認した.腹部症状,炎症反応共に消失し,入院17日目に退院となった.
消化管異物の多くは自然排出され,消化管穿孔などの合併症をきたすことは比較的稀であるが,腹膜炎を合併した場合は穿通や穿孔と診断される 2).魚骨による穿通・穿孔は①急性炎症型:急激な腹膜刺激症状を呈する型,②慢性炎症型:炎症所見が緩徐に出現し,膿瘍や炎症性肉芽を形成する型,に大別される 4).腹痛,腹部腫瘤,発熱などが代表的症状だが,部位,病状により異なるため,非特異的とされる.過去,術前診断は困難とされていたが,近年はCTの発達により検出率が向上 3),liner high densityとして描出され 5),陽性率はX線,超音波を大きく上回る 3).一方,患者が魚骨の誤飲を自覚していない場合も多く,詳細な病歴聴取が必要である 6).自験例でも診断にCTが有用であったが,撮影前には魚骨の可能性を検討しておらず,病歴聴取の重要性を再確認することとなった.治療法は外科治療85%,内視鏡的治療10%,保存的治療3%,死亡2%と報告されているが 7),近年は内視鏡を用いた非手術的治療の報告が増えており,小腸についてはシングルバルーン内視鏡(Single-balloon enteroscopy:SBE)またはダブルバルーン内視鏡(Double-balloon enteroscopy:DBE)を用いた摘出例が報告されている 8)~11).特にShibuyaらはCTで診断困難であった腹部違和感の症例に対してDBEを施行し,空腸に魚骨を確認,診断と治療を同時に行った症例を報告している 9).これらの非手術的治療は,画像上遊離腹腔内ガス像や腹水の所見に乏しく,腹部所見では限局性腹膜炎と考えられた症例に選択される 7).小腸を穿通した魚骨について非手術的治療を報告した過去の報告例は,医中誌で「魚骨」,「穿通」,「小腸」をキーワードとして検索しえた報告に,先のSBE,DBEを用いた報告と自験例を加えると12例であった(Table 1) 1),6)~14).自験例は急性炎症型に分類され,画像上遊離腹腔内ガス像や腹水の所見に乏しく,腹部所見は限局性腹膜炎であった.また,魚骨が穿通部から肛門側へ離れており,口側からの内視鏡的アプローチは穿通部の安静の観点から施行困難であったことを踏まえると,小腸内視鏡を伴わない非手術的治療の選択は妥当であったと考えられた.

魚骨による小腸穿通に対して非手術的加療を行った,自験例を含む過去の報告例.
自験例における内視鏡は,小腸を穿通する能力を持った魚骨が結腸内に停滞し,これを非手術的加療として放置すれば結腸を新たに損傷する可能性があるとして施行した手技であった.魚骨の結腸内での通過遅延については,原因として食物繊維を含む経口摂取不足,薬剤性,代謝・内分泌疾患や膠原病の併存,特発性などが挙げられた 15).自験例では病歴や既往症から入院後の欠食によるものが考えられたが,特定は困難であった.また,可及的速やかに除去を行う適応となる消化管異物として,消化器内視鏡ガイドライン 16)では①消化管壁を損傷する可能性のある形状が鋭利な異物,②消化管を損傷する可能性のある大きな異物,③内容物が消化管内に排出されると人体に重大な影響が生じうる異物,を挙げている.小腸を穿通する能力を持った魚骨は①に該当すると考えられた.魚骨による結腸穿通・穿孔の過去の報告について,医中誌で「魚骨」と「結腸」をキーワードとして過去10年間(2013~2022年)を検索した.魚骨を内包する慢性肉芽腫の報告などで腸管の損傷部位が不明瞭なものを除外すると,39例が確認された(Table 2).手術を要し,さらに人工肛門造設を伴ったものが14例(36%)あり,その侵襲性を考慮すれば自験例の手技は許容されうると考えられた.

魚骨による結腸損傷,過去10年の報告例.
検索した過去の報告39例のうち,消化器内視鏡などで魚骨の除去を行い,非手術的に治癒した症例は12例(30%)で,近年増加傾向であった.結腸について非手術的に治療可能とされる症例は先に消化管全体として挙げたものと一部重複するが,①全身状態が安定している,②腹部所見が限局している,③腹水を認めないまたは限局している,④穿孔部肛門側での通過障害がなく,腸管の拡張や便汁の充満を認めない,⑤先端が鋭利な異物による鋭的穿孔,⑥内視鏡的到達が可能,以上6件すべてが満たされることが必要とされている 17).魚骨を内視鏡的に摘出する際には粘膜損傷防止のため内視鏡先端フードを使用し,魚骨の長軸方向が内視鏡と一致するように端を把持するなどの工夫が挙げられ 18),本症での手技もそれに準じた.内視鏡的に摘出可能な魚骨の長さについては,長いもので過去に5cmの症例報告 19)を認めたが,少なくとも,比較的報告の多い4cm 20),21)までは許容されうると考えられた.
自験例のように小腸を損傷した魚骨が肛門側へ移動した後,それを放置し摘出しなかった結果,肛門側腸管を新たに損傷したとする症例報告は,検索した範囲において確認できなかった.鋭的異物であっても空腸以深で症状がなければ2週間の経過観察を行い,自然排泄を期待できるとする報告 22)や,実際に魚骨により小腸穿通をきたした症例で自然排泄を待たずに退院,外来での画像検査で魚骨の消失を確認したとする報告もあり 7),自験例での内視鏡的手技の適応について結論を下すことはできなかった.
小腸で穿通した魚骨が管腔内へ脱落し,腹部CTで結腸に停滞した状況を追跡しえたため内視鏡的に摘出したという非手術的経過を追えた1例を経験した.魚骨が腸管内で停滞し無症状で経過していても,内視鏡的摘出の介入が安全に可能であれば,結腸の損傷による手術を回避する上で許容されると考えられた.現代の高齢化社会において,遺物除去に対するより侵襲の少ない対応法の集積が望まれる.
謝 辞
本報告を行うにあたり,内視鏡手技の支援を頂きました飯塚記念病院の松尾隆先生に深く感謝申し上げます.
本論文の要旨は第57回日本腹部救急医学会総会(2021年3月11日・12日)で発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし