2024 年 66 巻 1 号 p. 43-49
症例は76歳女性.2年前に多発肺転移を伴う直腸癌と診断されている.腹痛を主訴に受診し,以前から指摘されていた胆囊内結石が消化管に落下し直腸癌狭窄部に嵌頓した腸閉塞と診断した.内視鏡では直腸に狭窄は認めるものの内視鏡は通過可能であった.原疾患を考慮し,内視鏡的結石除去術を試みた.機械的破砕術が不可能であったため,ホルミウムヤグ(Holmium-Yttrium Aluminum Garnet:Ho-YAG)レーザーを用いて砕石し,回収ネットを用いて結石を除去しえた.胆石による腸閉塞に対しては外科的治療が行われることが多いが,Ho-YAGレーザーによる砕石術は,低侵襲な内視鏡的治療の可能性を広げる一つの選択肢として検討する必要があると考える.
A 76-year-old woman presented at the emergency department with severe abdominal pain. Two years prior, she had been diagnosed with rectal cancer with multiple lung metastasis. Abdominal CT revealed the presence of an impacted calcified gallstone within the narrow segment of the rectal cancer. Initial attempts to remove the stone using a mechanical lithotripter were unsuccessful due to the stoneʼs exceptional hardness. Consequently, an innovative approach was employed, utilizing a Holmium-Yttrium Aluminum Garnet (Ho-YAG) laser to fragment the gallstone, followed by complete removal of the stone fragments with a retrieval net. In conclusion, endoscopic treatment including the lithotripsy with the Ho-YAG laser may be considered before a surgical intervention.
今回われわれは直腸癌狭窄部に嵌頓した胆石による腸閉塞を経験した.胆石による腸閉塞は外科的治療が行われることが多かったが,全身状態を考慮し,ホルミウムヤグ(Holmium-Yttrium Aluminum Garnet:Ho-YAG)レーザーを用いて砕石術を行い,内視鏡的治療で結石を除去しえた1例を経験したので,報告する.
患者:76歳女性.
主訴:腹痛.
既往歴:高血圧症,脂質異常症.
内服薬:酸化マグネシウム,フルスルチアミン,ロサルタンカリウム,アトルバスタチン.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:2018年12月に直腸癌,多発肺転移の診断を受けた.化学療法を継続していたが,肺転移巣の増大あり,また摂食困難,全身倦怠感の増強など全身状態も悪化したため2020年8月から化学療法を中止し,緩和治療にて経過観察していた.胆囊結石も指摘されていたが,全身状態を考慮し,経過観察されていた.2020年10月10日ごろから排便が見られなくなり,腹痛も見られたため10月15日に当院を受診した.
胆石による腸閉塞と診断し,入院となった.
入院時現症:身長160cm,体重67kg,意識清明,眼球結膜に黄染なし,腹部は軽度膨隆しているものの,軟であり,下腹部に圧痛が見られた.
入院時臨床検査所見:来院時の血液検査では,胆道系酵素の上昇を認めた.また炎症反応も軽度の上昇が見られた(Table 1).

入院時検査所見.
腹部CT所見:結腸に多量の内容物貯留と液面形成が見られ,腸閉塞と診断した(Figure 1).前回指摘されていた胆囊結石(Figure 2)は見られず,胆道内気腫像(Figure 3)を認めた.直腸内には前回指摘されていた胆囊結石と思われるφ2.5×4cmの石灰化腫瘤を認めた(Figure 4).下行脚と胆囊は近接しており下行脚と胆囊の瘻孔部からの胆石落下を疑った.以上より胆囊からの落下結石が直腸癌狭窄部に嵌頓した腸閉塞と診断した.

入院時腹部CT検査(横断).
結腸に多量の内容物貯留と液面形成が見られ,腸閉塞と診断した.

イレウス発症前:2019年7月1日腹部CT検査(冠状断).胆囊内に石灰化結石あり.

入院時腹部CT検査(横断).
胆管気腫像を認める.

入院時腹部CT検査(冠状断).
直腸狭窄部に嵌頓した輪状石灰化像を認めた.
外科的治療も考慮したが,患者の強い希望があり,全身状態を考慮し,大腸の減圧と結石除去を目的とした大腸内視鏡治療を試みた.
大腸内視鏡検査所見:大腸内視鏡はOLYMPUS社製CF-HQ290I(全長1,655mm,有効長1,330mm,先端部径13.2mm,鉗子孔内径3.7mm)を使用した.腸管内圧上昇を避けるため,二酸化炭素を用いて最小限の送気にて内視鏡を挿入した.
上部直腸に既知の全周性腫瘍を認めたが,内視鏡はかろうじて通過可能であった.内視鏡挿入により狭窄部への結石の嵌頓は解除され,狭窄部の口側に黒色の結石を認め(Figure 5),閉塞性大腸炎も確認された(Figure 6).クラッシャーカテーテルを用いて機械的砕石術を試みたが,結石の硬度が高くクラッシャーカテーテルのワイヤーが破損し,不成功であった.そのためレーザー照射による砕石を試みた.本人と家人にレーザーによる砕石は適応外治療であることを説明し,了解を得て処置を開始した.また後日,院内倫理委員会でも承認を得た.レーザーはEMS社製Ho-YAGレーザーを使用した.砕石後の破片は回収ネットを用いてすべて回収した(Figure 7).術後経過は良好で,胆囊炎の合併も見られず,閉塞性大腸炎の改善を待ち,術後4日目から食事摂取を開始し,1週間で退院された.

大腸内視鏡.
腫瘍による狭窄部の口側にφ30mm大の黒色結石を認めた.

大腸内視鏡.
結石の口側に閉塞性大腸炎を認めた.

Ho-YAGレーザーを使用して砕石.
a:ウォータージェット機能を用いて結石を浸水させ,レーザーを使用して砕石した.
b:Ho-YAGレーザーで粉砕後,回収ネットを用いてすべて回収した.
胆石による腸閉塞は比較的まれな疾患で,本邦における全腸閉塞に対する頻度は0.05~1.0%,胆石症の0.15~1.5%と報告されている 1).閉塞部位は回腸46.1%,空腸35.9%と小腸への嵌頓が多く,大腸での閉塞はわずか3.0%との報告がある 2).今回われわれは直腸癌による狭窄部位に胆石が嵌頓した症例を経験した.
胆石による腸閉塞の治療は,閉塞の解除すなわち結石除去術と,内胆汁瘻修復術および胆囊摘出術の二つの要素から構成される.
まずはイレウス管を挿入して腸管内の減圧を行うが,透視下での挿入が困難である場合には内視鏡を用いてイレウス管を挿入することが多い.
減圧後,結石除去については保存的に経過観察し自然排石を期待する方法があるが,一般的に胆石による腸閉塞の自然排石は約4.7%と低率であることより 3),外科的治療が行われることが多い.
しかし,近年,内視鏡的治療によって結石除去を行った報告が増加している.医学中央雑誌を用いて1946年から2021年2月までの期間で,「胆石イレウス」と「内視鏡」または「砕石」をキーワードとして検索し(会議録は除く),胆石による腸閉塞に対して内視鏡的結石除去術を試みた症例を検索したところ,自験例を含めて21例報告されており(Table 2) 4)~23),そのうち完全に結石除去が可能であったのは,13例であった.

内視鏡的載石を試みた胆石イレウスの国内報告例.
結石最大径と結石除去の成否との関連では,結石最大径が30mm以下の場合には鉗子での除去や機械的砕石のみで治療が完遂できている報告 4),6),13),14),20)~22)があるが,結石最大径が30mm以上の場合には,内視鏡では治療を完遂しえず外科的治療を行った例や,電気水圧衝撃波結石破砕術(electrohydraulic lithotripsy:EHL) 3),9),10),12),16),Ho-YAGレーザーでの砕石 8)を必要とした報告が多い.Ho-YAGレーザーは結石周囲の潅流液に吸収されることにより発生する衝撃波によって結石を破砕すると考えられている.あらゆる種類の結石を破砕することが可能である上に,潅流液に吸収されるため誤照射による組織障害のリスクも低い 24).上述の報告例では,内視鏡治療不成功例は見られるものの,大きな合併症の報告は見られなかった.
外科的に結石除去術を行う場合,結石除去術と内胆汁瘻閉鎖術および胆囊摘出術を一期的に行うか,二期的に行うのかは議論となっている.
内胆汁瘻は自然閉鎖したとの報告も多いが 7),10),12),25),瘻孔が遺残した場合は,胆石イレウス再発の危険性ばかりでなく,逆流性胆管炎の発症や胆囊がんの発生リスクの上昇も報告されている 3),26),27).胆囊消化管瘻の発見後,3年で胆囊進行がんを発症した報告 28)もあり,胆囊消化管瘻が残存する場合には原則的には全例胆囊摘出術と瘻孔切除術を行うべきと考えられる.
しかし,自験例のように全身状態の不良な症例や,高齢者,重篤な基礎疾患のある場合などでは,結石除去術のみで経過観察することも多い 6),11),29)といえる.そのような場合には,腸管内の減圧後に,結石除去術を内視鏡的に行うことは手術に比べ低侵襲で安全に行える処置であると考える.
自験例はすでに直腸癌が全身転移をきたし,緩和医療を行っている症例であったため,なるべく外科的治療を避けて内視鏡治療を選択した.肛門縁近傍に存在する病変であり,直腸狭窄はあるものの内視鏡は通過可能であったため,大腸内視鏡を用いて結石の嵌頓を解除し,再嵌頓を防ぐためにHo-YAGレーザーで砕石した.
また,後日,内胆汁瘻に対する手術を行う場合でも,内視鏡的処置を先行させれば,急性期や全身状態不良な時期に行う手術よりも安全な手術が可能となり,患者の負担も軽減できると考えられる.
深部小腸や大腸で閉塞した場合は,内視鏡で狭窄部位に到達することが困難であるため,従来通りの外科的治療が必要となる場合が多いと考えられるが,十二指腸などの上部小腸や本例のような肛門近傍などでの閉塞の場合は,容易に内視鏡で到達しえるため,一期的手術を予定しない場合には,内視鏡的結石除去術が第一選択となりえると考えられる.
今回われわれは直腸癌による狭窄部位に嵌頓した胆石イレウスを内視鏡的に除去しえた1例を経験した.胆石による腸閉塞は外科的治療が行われることが多いが,全身状態を考慮し,EHLやYAGレーザーを用いて砕石術を行うなど,内視鏡を用いた結石除去術も選択肢の一つとして考えられる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし