2024 年 66 巻 1 号 p. 5-15
食道・胃静脈瘤からの出血は,肝硬変が背景の場合,肝機能の増悪をもたらすこともあり適切に治療を行う必要がある.内視鏡治療法として,食道静脈瘤では内視鏡的静脈瘤結紮術や内視鏡的硬化療法,胃静脈瘤では内視鏡的組織接着剤注入法が確立されたが,現在に至るまで様々な工夫がなされてきた.安全で効果的な治療を行うためには,患者の病態と門脈血行動態を十分に把握したうえで,患者のQOLを考慮したストラテジーをたてることが大切である.
Bleeding from esophageal or gastric varices in patients with underlying liver cirrhosis can lead to worsening of liver function, necessitating appropriate treatment. Established endoscopic treatment options include variceal ligation and injection sclerotherapy for esophageal varices, as well as tissue-adhesive injection therapy for gastric varices. However, various innovations have been made to date. To perform safe and effective treatment, it is important to fully understand the patientʼs condition and portal hemodynamics and to devise a strategy considering the patientʼs QOL.
食道静脈瘤(esophageal varices:EV)および胃静脈瘤(gastric varices:GV)は,門脈圧亢進症患者の半数以上でみられ,それらの出血は肝不全や肝癌と同様に,肝硬変患者の3大死因の一つであった 1).内視鏡治療の発展・普及により,EV・GVによる出血死は少なくなったが,背景に肝硬変がある患者では出血を契機に肝不全が増悪し不幸な転帰をきたすことがある 2),3).EV・GVの内視鏡治療において,事前に十分な門脈血行動態の評価に基づいた治療法の考案が大切である 4),5).一方,出血の患者では,肝機能や肝性脳症のみならず呼吸循環動態や腎機能も把握し,速やかに止血術を行うことが重要であり,さらに止血後の全身管理が重要である 6).
本稿では,EV・GVに対する内視鏡治療の変遷,門脈血行動態の評価に基づいた治療ストラテジーを中心に解説する.また,最新の知見,今後の課題についても提示する.
はやくは1945年,KempeによりEVに対するethanolamine oleate(EO)を用いた静脈瘤内注入法の報告があり,その後,Hunt(1969年)やJohnstone(1973年)により発展した同法は,本邦では高瀬らにより1978年に導入された 7).EOに造影剤を混入することによりX線透視下で静脈瘤の供血路まで閉塞させる栓塞療法(EO法)の礎となった.また,1973年にRaschkeやKappにより導入されたPolidocanol(aethoxyskelerolⓇ:AS)による静脈瘤外注入法はPaquetにより引き継がれた.本邦では鈴木らによって1980年に導入され,EVの脱落と線維化をもたらすEV内・外注入法(AS法)として発展し,普及した 8).その他,1980年の二川らによるSodium morrhuate,1981年の熊谷,幕内によるPaoscleのEV外注入法も行われた.様々な手技の開発や改良が行われ,1987年には,小原らによりEV再発予防が期待できるEO法とAS法を異時性に併用したEO・AS併用法が報告された 9).さらにAS法により食道粘膜に線維化をもたらし再発を抑えるAS地固め法が1989年に報告された 10).同法は食道狭窄が約28%に認められたため,1994年に食道狭窄を低減させる工夫として,Laser照射を用いたLaser地固め法が 11),2002年にアルゴンプラズマ凝固法(argon plasma coagulation:APC)によるAPC地固め法が報告され 12),今日の内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)の標準的手技となる,EO・AS併用法およびAPC地固め法として広く普及するに至った(Figure 1) 13),14).
食道静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法(EO・AS併用法およびAPC地固め法)(内視鏡所見).
a:LmF2CbRC1の食道静脈瘤を認める.
b:穿刺対象の静脈瘤を7時方向で保持し,穿刺針で穿刺する.
c:EVIS画像.供血路の左胃静脈まで注入されている.
d:AS法.静脈瘤直上にASを血管外注入する.
e:APC地固め法.EGJから口側5cmの範囲を全周性にAPCで焼灼する.
f:EIS後の内視鏡所見.静脈瘤は消退し,食道粘膜は瘢痕化している.
一方,医療用ゴムバンド(O-ring)を用いた結紮術である内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)は1986年にStiegmannらによって報告され 15),本邦には1990年Yamamotoらにより導入された 16).EVLはEISに比して手技的に簡便であり,偶発症が少なく肝予備能の低下した症例にも施行可能なことなどから急速に本邦に広まった.EVLは,出血例の一時止血に有用であることから,第一選択の治療法として施行されている(Figure 2).しかし静脈瘤の局所治療であるため供血路への効果が及ばないことから再発率が高いことが課題であった.これに対し1995年に近藤らは多数のO-ringを使用した撲滅結紮法を 17),梅原らはO-ringを密集して結紮する密集結紮法を試み 18),再発の低減が図られた.またEVLとEISを同時併用するendoscopic injection sclerotherapy with ligation(EISL) 19),ASを併用するEVL・AS併用療法 20),EVL・APC地固め法 21)などのEVL単独ではない治療法の工夫により再発が以前より抑えられるようになった.
内視鏡的静脈瘤結紮術の実際(内視鏡所見).
a:食道静脈瘤から噴出性出血を認める(→).
b:EVL装置を内視鏡に装着し,出血点を確認する.
c:吸引してO-ringをかけ,結紮する.
EVに比べて血流量が多いGVへの内視鏡治療は容易ではなかったが,血管や臓器の創傷治癒に使用されていた組織接着剤(Cyanoacrylate系薬剤:CA)の導入により長足の進歩を遂げるに至った.1986年にSoehendraらが,n-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA:HistoacrylⓇ)をGV出血例に対する塞栓材として使用し報告した 22).本邦では1988年に鈴木らがNBCAを導入し 23),1989年に小原らはα-cyanoacrylate monomer(α-CA)を難治性GVに使用して有用性を報告した 24).さらにCA系薬剤でGV内をCAポリマーで置換し,EOで供血路を閉塞するCA・EO併用法が開発された(Figure 3).GVの径が大きい場合には,GV治療時に組織接着剤の大循環への流出が危惧される.そのような症例では,B-RTO用バルーンで胃腎短絡路(GR shunt)を閉塞した状態でEISを行うGR shunt閉塞下EIS(Shunt occluded-Endoscopic injection sclerotherapy:SO-EIS),バルーン閉塞下EIS(Balloon occluded-Endoscopic injection sclerotherapy:BO-EIS)などの工夫がその後行われるようになった 25),26).
胃静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法(CA・EO併用法)の実際.
左:胃静脈瘤内に組織接着剤を注入し,CAポリマーで置換する.
右:供血路に対して,組織接着剤またはEOを注入する.
以上のような様々な内視鏡手技の開発や改良が行われ,それらの有効性が検証され,現代の治療の基本が出来上がったのである.
2006年の日本消化器内視鏡学会監修による消化器内視鏡ガイドライン第3版 27)や,2020年の日本消化器病学会・肝臓学会編集の肝硬変診療ガイドライン改訂第3版 28)では,患者の全身状態,肝予備能,肝臓癌進行度,静脈瘤形態などが評価されたうえで,治療適応が記されている.出血・出血既往例は絶対的な適応で異論はないであろう.予防例であった場合は,静脈瘤形態として,F2以上の形態やRed color sign(RC sign)陽性例は出血のリスクが高いと判断され,内視鏡治療の適応とされる.一方,EISの禁忌として,高度肝障害(Child-Pugh C,T-Bil 4mg/dL以上)ではEO法は肝不全を誘発するため禁忌である.この場合はEVならEVL,GVならCAのみを用いたEISが良い.また,Vp3,Vp4の肝臓癌合併例は急激な門脈圧上昇により静脈瘤内の血流量が著増しEISの効果が期待できない.その他,高度の血小板減少(20×103/μL以下),アルブミン2.5g/dL以下も禁忌とされる.高度脳症,高度腎不全,全身の出血傾向(播種性血管内凝固など)を合併している症例も治療可否を十分に検討するべきである.上記について,文献を基に治療方針を提示する(Figure 4-a,b) 14),27),29).
a:食道静脈瘤の治療方針.
b:胃静脈瘤の治療方針.
EV,GVは肝硬変やその他の門脈圧亢進症患者の病態の一つにすぎない.内視鏡画像所見のみで治療を行うのではなく,門脈血行動態を十分に把握したうえで治療を行うことで安全かつ効果的な治療が遂行できる.門脈血行動態を詳細に検討するには,門脈系全体を大局的に評価し供・排血路を把握できるmulti-detector CT(MDCT)やMRAと,食道・胃壁内外の局所の血行動態を評価することができる超音波内視鏡検査(EUS)が有用である.
Ⅳ-1)大局的な門脈血行動態の評価と治療への 応用門脈系全体の血行動態は,2022年の門脈圧亢進症取扱い規約第4版 30)や於保,豊永ら 31),近森ら 32)によって記載された図が理解しやすい(Figure 5).古くは血管造影や,経皮経肝門脈造影(percutaneous transhepatic portography:PTP)により直接侵襲的に血行動態が評価されたが,MDCTの有用性が示され 33),三次元構築(3D-CT)といった画像処理の発達で,より立体的に詳細に評価できるようになった(Figure 6) 34).被曝のないMRIによる評価も可能であり 35),腎機能が不良の患者でも施行できる非造影MRAも発展した 36).このように検査機器の発達により,より非侵襲的に大局的な血行動態が評価可能となった現在では治療前に撮影することが重要である.
門脈系全体の血行動態(模式図).
3D-CTにより静脈瘤血行動態.
左:食道静脈瘤症例のMIP画像.供血路の左胃静脈,排血路の傍食道静脈と上大静脈への食道壁外シャントが認められる.
右:胃静脈瘤症例のMIP画像:供血路の左胃静脈,短胃静脈と排血路の腎静脈系短絡路が認められる.
治療対象となる静脈瘤の供血路を事前に把握し,治療時の内視鏡的静脈瘤造影(endoscopic varicealography during injection sclerotherapy:EVIS)で適切に供血路が描出されれば効果が期待できる.EVの場合は左胃静脈(Left gastric vein:LGV),後胃静脈(Post gastric vein:PGV),短胃静脈(Short gastric vein:SGV)が供血路になり,奇静脈や半奇静脈が排血路となる.一方,GVの場合,噴門部小彎のGVがEVと連続性のあるものは供・排血路も同様であるが,EVと交通のない孤立性GVでは,LGV,SGV,PGVといった供血路が複雑に関与し,排血路は腎静脈系短絡路や横隔静脈系短絡路である.排血路となる短絡路や,複雑な側副血行路を十分に理解していることにより,治療時に薬液が全身に流出することで起こり得る偶発症を予測し,未然に防止対策をとることが可能となる.
Ⅳ-2)局所的な門脈血行動態の評価と治療への 応用食道・胃壁内外の局所的な血行動態を非観血的に詳細に把握するには,EUSが優れており,解像度の高い20MHz細径超音波プローブ(ultrasonic miniprobe:UMP)が適している.
EVをUMPで観察すると,粘膜下層内に無~低エコーの管腔として観察される.孤在型より細い静脈瘤が積み重なって内視鏡的に一つのEVに観察される重積型の方が硬化剤を多く要し難渋する.食道外膜に接する小さな血管群である壁在傍食道静脈(peri-esophageal veins:Peri-v)が観察され,外膜と離れて存在する大きな血管群である並走傍食道静脈(para-esophageal veins:Para-v)が存在し,食道壁を貫通してこれらとEVをつなぐ貫通静脈(perforating vein:Pv)が存在する.IrisawaらはPeri-vと太いPvが再発EVに多く認めたことを報告し(Figure 7) 30),37),Peri-vやPvが発達している場合は再発しやすいことが予想されるので,APC地固め法を施行し,再発防止を図るのが望ましい.また太いPvが存在する場合は硬化剤(EO)が食道壁外から大循環に流出する可能性が高いので注意を要する(Figure 8).EIS前にUMPでPvを把握することで,内視鏡装着バルーンでのPv圧迫やEVLでのPv閉塞で対応することができEIS中の場合には無水エタノールによるPv閉塞などの対応をとることができる.一方,静脈瘤と交通のあるPvを認めず,かつ側副血行路として緩衝作用のあるPara-vが発達している症例では食道壁外からの血液流入が少ないのでEVL単独でも高い治療効果が期待できるためEVLの良い適応である.
UMPによる食道静脈瘤血行動態.
左:模式図.
右:EUS画像.
貫通静脈からの食道壁外への硬化剤の流出(shunt症例).
左:EVISで貫通静脈を介して硬化剤が排血路側に流出している.
右:原因となる貫通静脈のEUS画像.
UMPでのEV観察時に脱気水を食道内腔に満たすことは難しいことが多く,より立体的に素早くEUS撮影できる三次元画像表示(3D-EUS) 38)やballoonで噴門部を閉塞してEUSを行うなど様々な工夫がなされてきた.Katoらは,脱気水よりも停滞の良いjerryで食道内腔を満たすことにより,容易に鮮明なEUS画像が得られることを報告している 39).
GVにおいても,UMPによる観察では,EV同様に粘膜下層に無~低エコーの管腔像(GV)が観察される.漿膜に接して存在する小さな血管群である壁在傍胃静脈(peri-gastric veins:Peri-v),漿膜と離れて存在する大きな血管群である並走傍胃静脈(para-gastric veins:Para-v),胃壁を貫通してこれらとGVをつなぐ貫通静脈(perforating vein:Pv)が観察される.EV同様GVでもPeri-v,Pv,EIS後のGV内残存管腔の存在は再発を促すことが報告されている(Figure 9) 5),30),40).GVにおいて最も重要なことは,GV自体の血管最大短径の計測である.5-10mmと径が大きなGV症例では,胃腎短絡路などの排血路が太く血流速度も速いため,NBCAが排血路から大循環へ流出するリスクが高いため60%以上のNBCA濃度が推奨されている 5),13).ただし,60%程度のNBCA濃度は,粘稠度が高いα-cyanoacrylate monomer(α-CA)で使用されていた濃度であるため,NBCAではより高濃度である75%程度が望ましい 41).さらに径が12mm以上の場合は,α-CAでも流出例があり,胃腎短絡路のバルーン閉塞下でのEISが望ましい 5),13).また,内視鏡手技に固執せず,血管内治療ができる施設であれば,バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)を選択することも推奨される.
UMPによる胃静脈瘤血行動態.
左:模式図.
右:EUS画像.
上述したようにEVL,EISともに広く施行される手技であるが,多岐にわたる偶発症を経験することもある.日本門脈圧亢進症学会が行ったアンケート調査,43施設,2年間の全例登録,内視鏡治療総数3,233例の内訳を示す(Table 1) 42).術中偶発症としては,出血,ショック,門脈血栓,ヘモグロビン尿など循環動態や硬化剤の影響によるものを多く認めた.一方,術後偶発症としては,発熱,疼痛の他,腹水,黄疸など肝予備能に伴うもの,門脈血栓,へモグロビン尿,食道狭窄など硬化療法に伴う偶発症を認めた.EOの溶血作用によるヘモグロビン尿や腎不全の予防として,アルブミン値を改善させておく,ハプログロビンを準備しておくことなど事前に予防策をとることや,状況により即対応できる準備をしておくことが重要である.
内視鏡治療の偶発症(日本門脈亢進症学会アンケート調査より).
Furuichiらは,EV治療において,新たな内視鏡強調画像であるdual red imaging(DRI)の有用性を報告している 43).DRIは血管の視認性向上を期待した内視鏡イメージング技術である.DRIを使用したEV群では,白色光のEV群に対し,初回の穿刺成功率が有意に向上し(80.0% vs 46.2%),累積再発率が有意に抑制された.DRIを用いてEVの深度を予測し,穿刺針の長さを調節できれば,治療成績の安定につながると思われる.
Ⅵ-2)EUSガイド下のGV治療GVに対して,EUSガイド下に穿刺したのちに瘤内にCAやコイルを留置する方法がIrisawaらにより報告された 44).GV内腔を超音波画像で詳細にとらえることで,リアルタイムに血流を評価しながら治療できる.コイルを用いる場合には,GV径より大きな径のコイルを用いることで大循環への流出を避けることができる.EUSと門脈圧亢進症に精通した医師が行う必要があるが,今後,大きな径のGV治療の選択肢の一つになる可能性がある 45).
Ⅵ-3)超音波エラストグラフィによる静脈瘤患者の拾い上げ門脈圧亢進症において肝線維化診断は重要である.超音波エラストグラフィによる肝硬度は汎用超音波機器で測定可能で,保険適応も拡大している.主流はshear wave法であり,肝硬度や脾硬度測定とEVの存在診断能は関連性が高いと報告されている 46),47).静脈瘤破裂などをきたす前にEVの存在診断のスクリーニングとなることが期待される.
Ⅵ-4)保険請求,DPCEV,GVに対する内視鏡治療は,前述のようにEIS,EVLが基本となる.初回実施後1週間を経過して実施した場合に改めて算定するため,1週間に1手技が基本となる.診断群分類(DPC)の病院に入院し,EV,GVの治療を行われる患者の多くは,DPCコード060300に該当し,EIS,EVL治療を行うと060300xx97100xのコーディングになる.2022年4月改訂では,特定入院期間が30日,入院期間Ⅰ 1-5日:2,884点/日,入院期間Ⅱ 6-11日:2,046点/日,入院期間Ⅲ 13-30日:1,739点/日となり,Ⅰ,Ⅱの期間は以前より1日短縮された 48).患者の安全,利益を第一に考えることが大切であるが,医療資源上は入院期間の短縮が求められている.今後は医療資源も考慮しつつ,最適な治療法を検討していく必要性がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし