日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
ミノドロン酸による薬剤起因性食道炎の1例
芥川 加代 芥川 剛至岡田 倫明渡邊 聡後藤 祐大森 大輔江﨑 幹宏
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 66 巻 2 号 p. 144-150

詳細
要旨

患者は80歳,女性.心窩部痛と血性嘔吐を主訴に来院した.内視鏡検査では切歯より30cmの胸部中部食道から胃側に向かって境界明瞭な全周性の潰瘍を連続性に認め,35cmの部位で高度狭窄をきたしていた.骨粗鬆症に対して3年前からミノドロン酸50mgが処方されており,ビスホスホネート(Bisphosphonate:BP)製剤を服用した5日後から症状が出現していたためBP製剤による薬剤起因性食道炎と診断した.入院10日目の内視鏡検査では食道潰瘍および狭窄は治癒していた.自験例は高度の炎症性狭窄をきたした稀な薬剤起因性食道炎であったが,自然経過の中で狭窄に対する治療介入を行うことなく高度狭窄の速やかな改善を観察できた貴重な症例と考えられた.

Abstract

An 80-year-old female presented to our hospital with heartburn and hematemesis. Her current medications included minodronate for her osteoporosis. Esophagogastroduodenoscopy revealed circumferential ulceration with severe stenosis, that occluded the passage of an ultrathin endoscope in the lower esophagus. A thorough medical history was acquired, which revealed that she had taken her monthly minodronate tablet with a small volume of water five days prior to the onset of her symptoms. We suspected her esophageal lesion to be minodronate-induced esophagitis. On admission, she was advised fasting and treatment with vonoprazan was commenced. After three days, her symptoms resolved. Ten days post-admission the resolution of her esophagitis was confirmed via repeat endoscopy, and severe stenosis was no longer observed. We herein report a case of minodronate-induced esophagitis with severe stenosis that was revealed endoscopic improvement by observation following identification of the causal drug.

Ⅰ 緒  言

骨粗鬆症は,「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし,骨の脆弱性が増大し,骨折の危険性が増大する疾患」と定義される.本症は高齢になるほど罹患率が高く,超高齢化社会を迎えたわが国では実に1,300万人が本疾患を有するものと推計されている.ビスホスホネート(Bisphosphonate:BP)製剤は,骨粗鬆症患者における骨密度上昇効果と骨折予防に関して,豊富なエビデンスを有し,骨粗鬆症治療の第一選択とされている 1.一方,重篤な副作用として食道粘膜傷害が起こり得ることはよく知られており,服薬時の注意喚起が添付文書にも記載されている.今回,ミノドロン酸(monthly経口BP製剤)による薬剤起因性食道炎を経験した.薬剤起因性食道炎において,原因薬剤の中止,あるいは投与方法の変更が線維性狭窄回避に重要と考えられたため報告する.

Ⅱ 症例提示

症例:80歳,女性.

主訴:心窩部痛・血性嘔吐.

現病歴:3年前に当院整形外科受診し,変形性腰椎症,変形性側彎,椎間板ヘルニア,骨粗鬆症と診断され,ミノドロン酸内服が開始された.以後3年間服薬継続中であったが消化器症状の訴えはなかった.心窩部痛,および少量の血性嘔吐を主訴に2022年5月30日当院内科受診となった.

既往歴:38年前に腰椎椎間板ヘルニアで手術.

受診時現症:身長153.6cm,体重57.3㎏,体温36.2℃,血圧125/79mmHg,脈拍72回/分,整.

身体所見:眼瞼結膜に貧血なく,眼球結膜に黄染なし.口腔内,咽頭に異常なし.頸部リンパ節は触知しない.胸部聴診で心雑音なし.呼吸音に異常なし.心窩部に圧痛を認めるが,腹部は平坦軟で自発痛・圧痛なし.亀背あり.

臨床検査成績(Table 1):WBC 4,650/μl,CRP 0.05mg/dlであり,炎症所見の上昇は認めなかった.BUNの軽度上昇を認めたが,貧血はなかった.単純ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルスの血清抗体価はいずれも既感染パターンであった.

Table 1 

臨床検査成績.

内服歴:ミノドロン酸(50mg月1回起床時内服),リマプロストアルファデクス錠,モサプリドクエン酸塩,エルデカルシトール,エピナスチン塩酸塩,プレガバリン.

初回上部消化管内視鏡検査(Figure 1:Day1 EGD):切歯より30cmの胸部中部食道から連続性に境界明瞭な全周性の潰瘍を認めた.食道粘膜は浮腫状で,潰瘍内部は脆弱で点状出血を伴っていた.また,切歯より35cmの部位では同潰瘍は全周性の狭窄をきたしており,細径内視鏡(径5.9 mm)の通過も困難なほどの高度狭窄であった.

Figure 1 

初回上部消化管内視鏡検査(Day1).

a:切歯より30cmに境界明瞭な全周性潰瘍を認める.

b:切歯より35cmに高度狭窄を認め,細径スコープも通過困難であった.

上部消化管造影検査(Figure 2:Day1):胸部中部食道に高度狭窄を認めたが,狭窄長は短くガストログラフィンの通過は良好であった.

Figure 2 

消化管造影検査(Day1).

胸部中部食道30~35cmの範囲に潰瘍形成を認め,35cm部位に高度の狭窄を認めた(黄矢印).ガストログラフィンの通過は良好であった.

胸部造影CT検査(Day1):中部食道に明らかな壁肥厚や異常増強効果は認めなかった.また,中~下部食道近傍に軽度のリンパ節腫大を認めたが,反応性腫大と考えられた.

2回目上部消化管内視鏡検査(Figure 3:Day 10):切歯より30cmの全周性潰瘍は瘢痕化していた.また,切歯より35cm部には,瘢痕・びらんを認めるものの狭窄は改善していた.食道裂肛ヘルニアは軽度で,逆流性食道炎も認めなかった.

Figure 3 

2回目の上部消化管内視鏡検査(Day10).

a:門歯より30cmの潰瘍は治癒していた.

b:門歯より35cmには軽度の瘢痕とびらんを認めるが,狭窄は改善していた.

黄枠部より生検を施行した.

病理組織所見(Figure 4:Day10):Figure 3のびらん部より生検を施行した.弱拡大にて剝離性の上皮ならびに壊死組織の付着を認めた.強拡大にて好中球を主体とした炎症細胞浸潤を認めた.

Figure 4 

生検組織像 H.E.染色.

a:弱拡大像.剝離性の上皮ならびに壊死組織の付着を認める.

b:強拡大像.好中球を主体とした炎症細胞浸潤を認めた.

臨床経過:入院後に改めて病歴を確認すると,5月20日にミノドロン酸を内服し,5日後の25日から心窩部痛,29日に血性嘔吐が出現し,翌30日に受診に至った.服薬方法を確認したところ今回は少量の水で内服し,ミノドロン酸服薬時の注意事項が遵守できていなかったことが分かった.以上の臨床経過から,ミノドロン酸が食道に停滞したことに起因する食道粘膜傷害により食道潰瘍と狭窄を形成した可能性が疑われた.そのため絶食とし,ボノプラザンフマル酸塩錠の内服を開始した.内服開始3日後には心窩部痛は改善したため,流動食から食事を開始したが,胸やけ,嘔気・嘔吐は出現しなかった.入院10日目のEGDでは,食道潰瘍は小びらんを認める程度にまで改善し,高度狭窄を認めた部位も内腔は開存しており,内視鏡の通過も良好であった.以後,順次食上げを行い入院14日目に軽快退院となった.

退院後はイバンドロン酸1mg注射薬の月1回投与へと変更し,10カ月後の内視鏡検査でも食道粘膜傷害の再発は認めていない.

Ⅲ 考  察

薬剤起因性道炎は,薬剤の食道内停滞による局所粘膜への化学的刺激によって生じるとされる.薬剤服用後比較的早期に突発する嚥下時胸痛や胸やけ,嚥下障害が典型的な症状と言われており,大動脈弓や肥大した左心房などにより食道が圧迫された生理的狭窄部で停滞しやすく,中部食道が好発部位とされている.また,器質的な食道狭窄を形成する疾患(アカラシア,食道癌,胃食道逆流症など)や食道の運動機能異常なども原因となり得るほか,服薬時の体位や服薬方法なども発症の要因となり得ることが示唆されている 2

起因薬剤としては,テトラサイクリン系に代表される抗菌薬,非ステロイド性抗炎症薬や低用量アスピリン,鉄剤,抗癌剤,塩化カリウム,キニジンやアスコルビン酸などの報告が多い 3),4.近年では,超高齢化社会を反映して骨粗鬆症治療薬のBP製剤,直接トロンビン阻害剤のダビガトランが起因薬剤となった報告例が増加している 5.これらの薬剤が食道内に長時間停滞することにより,薬剤に由来する酸性あるいはアルカリ性刺激に基づく直接的な上皮性傷害や,高浸透圧による局所の循環不全などが原因と考えられている 2)~4.自験例の起因薬剤と考えられたBP製剤による食道粘膜傷害は主に窒素含有製剤で発症し,薬剤が直接粘膜に接触し消化管粘膜の疎水性バリア機構を傷害することにより生じると考えられている 6

医学中央雑誌およびPubMedで「ビスホスホネート(bisphosphonates)」or「Alendronate」,「食道炎(esophagitis)」or「食道潰瘍」or「食道狭窄」をキーワードに2000~2022年で検索したところ,わが国では11例の報告(会議録を除く)を認めるのみであった 7)~17.1例を除き全例女性で,胸部中部~下部食道に多く発症しており,胸痛,嚥下困難や嚥下痛,胸やけなどを主訴に来院されていた.内服期間は数日から数年と様々であり薬剤はアレンドロン酸が多く,薬剤の内服間隔はまちまちであった.通常BP製剤は内服間隔が長くなるにつれ容量や剤型が大きくなるが,報告例の傾向からはBP製剤の剤型の大きさは本症発症にそれほど影響しない可能性が推測された.BP製剤による消化管傷害の出現頻度がリセドロン酸よりアレンドロン酸が有意に高いといった報告もあるが 18,Ghirardiら 19やYamamotoら 20最近の報告では,BP製剤の種類や投与方法による発生頻度の差は認めなかったと報告されている.今回の被疑薬であるミノドロン酸は,2009年~日本で開発された月1回経口BP製剤である.ミノドロン酸への変更で内服アドヒアランスが向上し,胃腸傷害についても低減したとの報告も見られた 21),22

薬剤起因性食道炎は,製剤の直接的な粘膜刺激のほか,原因薬剤が下部食道括約筋緊張を低下させることにより胃食道逆流を促進・増悪させる間接的な影響も原因の一つと推察されている 3.そのため,酸逆流による二次性食道粘膜傷害を予防するために酸分泌抑制薬を使用されていた報告例も多く本症例でも酸分泌抑制を使用した.一方で,薬剤起因性食道炎は原因薬物の中止もしくは投与形態の変更が重要で,酸分泌抑制薬剤の使用には根拠がないという報告も見られている 4.また,7~14日程度で多くの症例は治癒していた.海外の多くの文献でも外科的合併症がない場合,原因薬剤を中止すればほとんどの症例は1~2週間で軽快すると報告されている所見とも合致している 3),4),23

自験例ではBP製剤の正しい服薬方法が遵守されていなかった.de Groenら 24は,アレンドロン酸を服用した475,000人中199人(0.04%)において食道に有害事象を認め,このうち51人(26%)は重症で32人(16%)では入院加療を要したと報告している.また,これらの患者の半数以上で服薬に関する注意事項が遵守できていなかったことから,服薬指導の重要性が強調されている.実際に,Heyら 25の健常ボランティア121名を対象とした服薬条件と食道内薬剤停滞に関する検討では,臥位かつ,少量(25ml)飲水による服薬では高率に食道内の薬剤停滞が確認されたことから,食道内薬剤停滞の予防における飲水量(少なくとも100ml以上)や体位(90秒以上の立位)の重要性が示唆されている.自験例では少量の飲料水による不適切な服薬方法が誘因となった可能性が高かったことから,薬剤起因性食道炎の発症予防における服薬指導の重要性が再認識された.

Table 2に示すようにBP製剤による薬剤起因性食道炎の内視鏡所見としては比較的限局した領域に生じる単発もしくは多発潰瘍,びらんが多いが,癌類似病変 7),11や粘膜下血腫 8,穿孔を疑う出血性潰瘍性病変 9や全周性狭窄 12),17など高度の所見も報告されている.自験例では,全周性潰瘍に加え高度の狭窄をきたしていたが,少量の水分による内服が食道炎の誘因となり,亀背に伴う前屈みの姿勢に起因し,薬剤が長時間食道内に停留することによって,広範な病変形成に至ったと考えられた.また,食道狭窄をきたした症例はこれまでに国内では2例報告されている 12),17が,いずれも食道狭窄に対し内視鏡的バルーン拡張術を要していた.自験例では,高度の狭窄をきたしたものの病変が粘膜のごく表層の浮腫性狭窄であったために短期間で治癒したと考えられた.これに対し,前出の狭窄をきたした2症例は,線維性狭窄をきたしていたと考えられる.吉井らの症例では食道病変形成後も被疑薬を中止できず,最終的に高度の食道狭窄をきたしている.同様にYueら 26は,食道狭窄をきたした症例では症状出現1~8カ月後まで内服薬が中止されていなかったことを報告している.すなわち,内視鏡的バルーン拡張を要した症例では,反復性・再発性に薬剤起因性食道炎をきたした結果,線維性狭窄をきたした可能性が高いのではないかと思われた.

Table 2 

ビスホスホネートによる食道潰瘍・食道炎・食道狭窄 本邦による報告例.

自験例では,骨粗鬆症治療は注射薬へ変更し,現在まで再発なく経過している.BP製剤による薬剤性食道炎をきたした症例では,薬剤の食道内停滞を繰り返す可能性を考慮し,BP製剤の中止もしくは投与形態を変更することが望ましいと考えられた.

Ⅳ 結  語

今回,BP製剤による潰瘍形成と可逆性の高度狭窄病変をきたした薬剤起因性食道炎の1例を報告した.超高齢化社会にあるわが国ではBP製剤の処方機会も多い.BP製剤内服者が嚥下痛などの症状をきたした場合は本剤における食道粘膜傷害を念頭に置き,迅速な診断および服薬指導と服薬方法の確認体制の確立が重要と考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2024 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top