日本消化器内視鏡学会雑誌
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クリップと特殊なデバイスを用いた内視鏡的切除後の欠損閉鎖法
野村 達磨 杉本 真也天満 大志大山田 純伊藤 圭一亀井 昭
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2024 年 66 巻 2 号 p. 191-206

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要旨

ESDは早期の消化管腫瘍に対する一括切除術として確立されている.一方でESDを含む内視鏡的切除術(Endoscopic resection:ER)後の出血,穿孔,その他の有害事象の予防法は未だ確立されていない.ER後粘膜欠損部の閉鎖には汎用クリップを用いることが多い.近年では開閉可能なクリップや,よりサイズの大きいクリップも開発されている.またOver-The-Scope Clip(OTSC)システムは,一度内視鏡を抜去する必要があるが,専用デバイスを装着することで確実な欠損閉鎖が可能である.糸やリングが装着されたクリップを用いて欠損の辺縁同士を近接させ,最終的にクリップで欠損を閉鎖する方法も考案されてきた.

汎用クリップは把持力やそのサイズが限られているため,留置スネアを用いた閉鎖術,Endoscopic ligation with O-ring closure(E-LOC),Reopenable-clip over the line method(ROLM)などの方法が開発されている.

最近は内視鏡的全層切除(Endoscopic full-thickness resection:EFTR)後の全層欠損に対する閉鎖術も多く報告されている.返しのついた糸と彎曲針による内視鏡的手縫い縫合法(endoscopic hand-suturing:EHS),Overstitch,Helix tacking systemなど,欠損閉鎖のための特殊デバイスも開発されている.これらの閉鎖法や特殊デバイスは内視鏡的止血術や穿孔閉鎖,急性/慢性期の瘻孔閉鎖などに応用されている.技術革新により欠損閉鎖の成功率は高くなっているが,ER後の偶発症を予防するためには,これらの内視鏡的閉鎖術の簡略化,及び普及が課題である.

Abstract

Endoscopic submucosal dissection is an established method for complete resection of large and early gastrointestinal tumors. However, methods to reduce bleeding, perforation, and other adverse events after endoscopic resection (ER) have not yet been defined. Mucosal defect closure is often performed endoscopically with a clip. Recently, reopenable clips and large-teeth clips have also been developed. The over-the-scope clip enables complete defect closure by withdrawing the endoscope once and attaching the clip. Other methods involve attaching the clip-line or a ring with an anchor to appose the edges of the mucosal defect, followed by the use of an additional clip for defect closure. Since clips are limited by their grasping force and size, other methods, such as endoloop closure, endoscopic ligation with O-ring closure, and the reopenable clip over-the-line method, have been developed. In recent years, techniques often utilized for full-thickness ER of submucosal tumors have been widely used in full-thickness defect closure. Specialized devices and techniques for defect closure have also been developed, including the curved needle and line, stitches, and an endoscopic tack and suture device. These clips and suture devices are applied for defect closure in emergency endoscopy, accidental perforations, and acute and chronic fistulas. Although endoscopic defect closure with clips has a high success rate, endoscopists need to simplify and promote endoscopic closure techniques to prevent adverse events after ER.

Ⅰ 緒  言

早期消化管腫瘍に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)は1980年代から報告されている 1)~4.1990年代後半には,よりサイズの大きい腫瘍を一括切除可能な内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が開発され,現在では広く普及している 5)~8.最近では内視鏡的に粘膜下腫瘍を切除する内視鏡的全層切除術(Endoscopic full-thickness resection:EFTR)の報告も多い 9)~12.並行して内視鏡的切除術(Endoscopic resection:ER)後の偶発症を低減することを目的とした,粘膜欠損閉鎖の有用性も報告されている.

ER後の偶発症発生率や粘膜欠損閉鎖の必要性は消化管の部位によって異なる.胃ESD後出血は一般的には4.4%,術中穿孔は2.3%,遅発性穿孔は0.4%に発生し,抗血栓療法中や透析患者では,後出血リスクは高くなる 13.食道ESDでは術後の狭窄率が6.3%と高く,後出血率は2.8%と低いことから,術中穿孔の場合を除き予防的な粘膜欠損閉鎖は推奨されない 14)~17.直腸を含む大腸では,ESDとEMRで偶発症の発生率が異なる.大腸ESDの後出血率は0.7~2.2%,穿孔は2~4%程度である 18)~21.腫瘍長径20mm以下の大腸EMRでは,後出血と穿孔の発生率はそれぞれ0.96%と0.08%と低い 22),23.ESD後出血と穿孔は,時に重篤な転帰を迎える可能性がある.

1990年代後半には,回転機能を有するクリップが全消化管に使用できるようになった 22),24.2000年代に入ると,2チャンネルスコープを使用し,留置スネアとクリップを併用した閉鎖法が開発された 25),26.その後,より正確なクリッピングを目的とした開閉可能なクリップが開発され,大きな欠損をしっかりと把持するためのOver-The-Scope Clip(OTSC;Ovesco Endoscopy AG,Tübingen,Germany)システムが導入された 27)~29.しかしOTSCを用いた欠損閉鎖では内視鏡を一旦抜去する必要があり,近位結腸など挿入に時間を要する場合には不向きである 30),31.そこで,糸やリングなどが付属したクリップを用いて欠損の辺縁同士を近接させる方法が考案された 32)~35.しかし最終的には汎用クリップで欠損辺縁の正常粘膜同士を固定するため,大きな欠損では閉鎖が困難となる.それらの問題を解決するためにこれまで様々な粘膜欠損閉鎖法と特殊デバイスが開発されてきた.本稿では各消化管におけるクリップ閉鎖の特徴を述べるとともに,最近のクリップを用いたER後粘膜欠損閉鎖法を紹介する.

Ⅱ 消化管部位別の欠損閉鎖について

胃ESD後出血は高リスク群で11.4%,超高リスク群では29.7%と報告されている(BESTJスコアによる推定値) 36.しかし胃粘膜は非常に厚く,クリップのみを用いた粘膜欠損の完全閉鎖は困難である 37.既報では留置スネアとクリップを併用した閉鎖法で,平均径35mmの粘膜欠損に対し,86.3%(113/131)で閉鎖可能であった 38.粘膜のみを把持するクリップ閉鎖では,粘膜下層と筋層の間に粘膜下死腔(Submucosal dead space:以下死腔)が生じ,数日後に閉鎖部が離開する可能性がある 39.抗血栓療法中や透析患者のような後出血のハイリスク患者において,ESD後の大きな粘膜欠損からの後出血を防ぐためには,死腔を生じることなく欠損部を持続的に閉鎖可能な方法を確立することが重要である.

食道

内視鏡を用いた食道切除術においては,後出血や遅発性穿孔は低頻度である.よって切除後の粘膜欠損の閉鎖は筋層の損傷がない場合には不要である 40.しかし稀ではあるが食道に(先天的/後天的な)筋層欠損部がある場合,遅発性の縦郭穿孔をきたすことがあり,クリップによる閉鎖を推奨する報告もある 41.また近年ではアカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開術(Peroral endoscopic myotomy:POEM)の有効性が報告されている 42)~44.POEMでは粘膜下トンネル入口部の粘膜を,両側の粘膜欠損が食道内腔へ内反するようにクリップで閉鎖することが重要である.それによりPOEM後の偶発症を予防することが可能となる.

大腸

大腸ESD後出血は稀であるが,分割EMR後の術後出血は比較的多い 45.また大腸壁は薄く,ESD時には一定の術中穿孔が生じるため,その場合は確実な穿孔閉鎖が必要である 46),47.近位結腸の粘膜欠損を閉鎖するために内視鏡を抜去/再挿入することは煩雑であり,クリップのような鉗子口を通過する閉鎖デバイスが望ましい.また操作性不良の場合には,閉鎖もより困難となる.結腸で筋層が形成するハウストラ,直腸の厚い粘膜と筋層も内視鏡による閉鎖を困難にさせる 48.よって直腸では死腔のない欠損閉鎖が可能な信頼性の高い方法が求められる.

十二指腸

十二指腸は粘膜や筋層が極めて薄く,ESD症例の15.5~28.4%に穿孔が生じ,重篤な合併症の可能性が示唆される 49)~52.また術後出血は3.4~12%,遅発性穿孔は1.0~14.3%と報告されており,ESD後の偶発症を減らす工夫がより必要とされる 51),53)~55.粘膜欠損が完全に閉鎖された場合,術後出血と遅発性穿孔の発生率はそれぞれ3.9%と1.8%に減少する.しかし十二指腸ESD後潰瘍の部分的な閉鎖では後出血や穿孔を防ぐことはできず,粘膜欠損の完全閉鎖が望ましい 55.管腔が狭い場合,特に十二指腸の内側壁や前壁では内視鏡の操作性が悪く,完全閉鎖はより困難となる.糸つきクリップ,OTSC,または留置スネアを用いた閉鎖法は,粘膜欠損の辺縁同士を密着させ,追加クリップで欠損の辺縁同士を閉鎖することができる 56)~59Table 1及びFigure 1に,ER後の各消化管の粘膜欠損閉鎖の特徴を示す.

Table 1 

各消化管と欠損閉鎖の特徴.

Figure 1 

粘膜欠損閉鎖のための各消化管のシェーマ.

Ⅲ クリップを用いた欠損閉鎖

ER後の粘膜欠損の閉鎖は,最終的にはクリップで欠損辺縁同士を固定することで達成される.大きな粘膜欠損を閉鎖する場合には,開口幅の大きいクリップが好ましく 60,20mmのサイズの開閉可能なクリップが考案され使用されている 61.クリップで粘膜欠損辺縁を把持する際には管腔内を脱気し,クリップの歯が両方の欠損辺縁の正常粘膜を把持していることが重要である.クリップが誤って片側の欠損辺縁のみを把持してしまうと,クリッピングを継続することが困難になることもある.そのため,開閉可能なクリップが広く用いられている 27),60),62.1つのクリップで確実に閉鎖できる欠損径は,クリップ開き幅によって制限される.

Mucosal incision methodでは,クリップの先端を粘膜に空けた穴に引っかけることで,クリップの開き幅より大きな欠損を閉鎖することができる 63.この方法で72例の大腸ESD後の粘膜欠損に対して閉鎖を行い,平均閉鎖時間11分,平均使用クリップ数4.5個,平均切除標本径34.3mmであったと報告された 64.図のような両側に開閉可能なクリップを備えた“Through-the-Scope Twin Endoclips”(TTS-TC)は,1つのクリップで2つの異なる部位を把持でき,鉗子口も通過するクリップである(Figure 2 65),66.はじめに片方の歯を開いて片側の欠損辺縁を把持する.次に,もう一方の歯を開き,対側の欠損辺縁を把持し,左右同時に手元のハンドルを引くことでクリッピングできる.

Figure 2 

1本のクリップで両側の組織を把持することが可能なThrough-the-scope twin endoclips(TTS-TC).

a:TTS-TCは鉗子口を通すことが可能.

b:クリップの片側の歯を開き,欠損縁を把持する.

c,d:反対側の歯を開き,対側の欠損縁を掴んだ後に配置することが可能.

Mucosa-submucosa clip closure methodは 67,1つのクリップで欠損辺縁と近傍の粘膜下層を把持することで欠損径を小さくする方法である.この操作を繰り返し,最終的には汎用クリップのみで粘膜欠損の辺縁同士を把持して閉鎖することができる.Nishizawaらは25例の大腸ESD後の粘膜欠損の閉鎖にこの方法を用いた結果を報告している(完全閉鎖は24/25例,平均クリップ数9個,平均閉鎖時間10分) 68.この方法は結腸のように粘膜や筋層が薄い腸管では有効であるが,粘膜や筋層が厚い腸管には適用できない 69.われわれはクリップの歯を別のクリップの柄の上に置き(Clip on clip),2つ目のクリップの隙間をアンカーとして使用するClip on Clip Closure Method(CCCM)を報告した(Figure 3 70.CCCMを用いた大腸ESD30例の閉鎖の成績は完全閉鎖31/32病変,欠損径中央値32mm,閉鎖時間中央値12分,使用クリップ数中央値11個であった 71

Figure 3 

Clip on Clip Closure Method(CCCM)による大腸粘膜欠損閉鎖のシェーマと実際.

a:CCCMのシェーマ.

b:最初のクリップを粘膜欠損肛門側の正常粘膜に配置する.2個目のクリップの歯の間隙をアンカーとして使用する.

c~e:3個目のクリップはアンカーを使用し,対側の欠損辺縁に設置する.粘膜欠損辺縁同士が近接し,追加クリップによる固定が容易である.

結腸や十二指腸のような薄い消化管は,クリッピングの際に浸水下とすることで軟らかくすることができる.この簡易な方法は欠損を確実に閉鎖するために広く用いられている 72),73.次節で述べるように,水中で粘膜欠損を閉鎖することは様々なクリップや特殊デバイスの使用と組み合わせることができる.しかし,ほとんどの閉鎖では正常粘膜の両側の辺縁を固定するために,最終的には1本のクリップが使用されるため,閉鎖できる粘膜欠損の大きさが制限され,胃や直腸のように粘膜や筋層が厚い臓器では欠損閉鎖が複雑になる 37Table 2に本邦で使用可能なクリップをまとめた.

Table 2 

日本で使用可能なクリップとOTSC.

Ⅳ クリップと特殊デバイスを用いたER後の閉鎖

ER後の粘膜欠損閉鎖には,最終的に欠損辺縁同士をクリップで把持する必要があり,辺縁同士を近接させるための方法とデバイスが多く提案されている 29),31),32),34),37),74)~88.直近ではリングが付属された開閉可能なクリップも考案されている 89.既存のデバイスはクリップとリングが一体型ではなく,内視鏡操作中にリングが消化管内に落下してしまうことがあった 33.またリングにはサイズの制限もあり,リングのみでは欠損の両端同士を完全に固定することは困難である.リングの他には,糸つきクリップでER後欠損を閉鎖する方法が提案されている 57),90),91.Yamasakiらは61例の大腸ESD後潰瘍をline-assisted complete closure(LACC)で閉鎖している(平均切除径35mm,成功率95%(58/61)で完全閉鎖) 92.LACCでも追加のクリップで欠損辺縁を固定するため,最終的に糸は切断され,糸自体では閉鎖を維持することはできない.

そこでわれわれは使用した糸をクリップに固定し,その後対側の粘膜欠損辺縁に固定して切断することが可能なLocking-clip technique(LCT)を考案した(Figure 4 55),85),93.最近ではクリッピングした後に糸を切断する特殊デバイスとしてstring-with-knotter suture deviceが報告されている 94),95

Figure 4 

クリップに糸を固定し,切断可能なModified locking-clip methodのシェーマ.

a:EZ clipを装着し,あらかじめclipの歯の根元に細い糸を結ぶ.

b:クリップを鉗子口に通し,内視鏡視認下で糸が歯の根元の隙間を通過していることを確認する.

c,d:クリップを展開して糸に固定し,粘膜に固定する.引き続き手元の糸を引くことで切断する.

調整可能なループを鉗子口から挿入するLoop 9は,シングルチャンネルスコープで施行することが可能である.Loop 9ではループを両側の欠損辺縁に固定して閉鎖する 96.欠損の大きさに応じてループの径を変えることで,どのようなサイズのER後欠損にも適応できる.Loop 9での閉鎖はEFTR後の全層欠損の閉鎖にも応用できる.Figure 5にクリップや特殊デバイスを用いた粘膜欠損閉鎖法のシェーマを示す.

Figure 5 

クリップや特殊デバイスを用いた粘膜欠損閉鎖法のシェーマ.

a:クリップの幅が限られており,大きな粘膜欠損の閉鎖は困難.

b:リングが固定されたクリップ閉鎖法:開閉可能なクリップの先端にリングを取りつけ,粘膜欠損の対側に固定して欠損サイズを小さくする.

c:糸つきクリップ閉鎖法:糸がついたクリップを欠損部辺縁に固定.この糸を粘膜欠損の対側辺縁にクリップで固定し欠損辺縁同士を近接させる.

d:Loop 9:特殊なループを欠損縁に装着し,クリップで固定する.その後ループを締めることで辺縁同士を固定することができる.

1996年,蜂巣らは留置スネアと2チャンネルスコープを用いた直腸EMR後の粘膜欠損閉鎖法を報告した 24.しかしスコープを一旦抜去し,2チャンネルスコープを再挿入する必要があるため,近位結腸や操作性不良の腸管では使用しにくい方法であった.近年では留置スネアとクリップを用いたシングルチャンネルスコープによる欠損閉鎖法が報告されている 97.この方法では,まず留置スネアを鉗子口から挿入し,腸管内に置く.その後で留置スネアを粘膜欠損辺縁にクリップで固定する.われわれはこの留置スネアとクリップを用いた閉鎖において,スコープを抜去/再挿入することなく,意図した部位にスネアを固定できる簡便な方法について報告した 98.Clip-fixed-endoloopでは最初のクリップとスネアを糸で固定し,スネアを目的の部位に固定できるようにしておく(Figure 6).引き続いて留置スネアをクリップで複数箇所の粘膜欠損辺縁に固定し,フックデバイスで留置スネアの柄を把持し閉鎖する 99.抗血栓療法中の患者を対象とした研究では,胃ESD施行例を「留置スネア-クリップ閉鎖群」と「非閉鎖群」に分けて検証されている 38.ESD後出血率は閉鎖群で11.5%(15/131),非閉鎖群で11.9%(32/269),セカンドルック内視鏡時の閉鎖持続率は47.8%(33/69)であった.

Figure 6 

Clip-fixed-Endoloopとフックデバイスを用いた閉鎖法のシェーマと実際.

a:Clip-fixed-Endoloopとフックデバイスを用いた閉鎖法のシェーマ.

b:ESD後の盲腸の50mm大の粘膜欠損.Clip-fixed-Endoloopを目的部位に固定した.

c,d:粘膜欠損辺縁と留置スネアを追加クリップで固定し,フックデバイスでエンドループハンドルを絞扼した.

e:完全に閉鎖された粘膜欠損.

胃や直腸のように粘膜と固有筋層が厚い消化管では,粘膜のみの閉鎖では閉鎖部の離開や死腔の形成につながる可能性がある.胃ESD後の粘膜欠損は糸つきクリップやリングつきクリップで欠損の辺縁同士を近接させ,追加のクリップで固定することで粘膜と「一部の」粘膜下層のみであれば閉鎖が可能である.一方,留置スネア-クリップ閉鎖では大きな欠損部では死腔が形成され,創部離開により治癒が遅れることもある(Figure 7).

Figure 7 

粘膜と筋層の間にある粘膜下死腔のシェーマ.

a:粘膜と筋層が薄いため,閉鎖後に死腔が形成されない.

b:粘膜と筋層が厚い部位では,粘膜閉鎖後に死腔が形成される(赤斜線部).

Ⅴ 死腔を減らす工夫がなされた粘膜欠損閉鎖法

胃や直腸のESD後潰瘍において,粘膜欠損閉鎖後の死腔を減少させるための新しい方法が考案されている.Endoscopic ligation with O-ring closure(E-LOC)法は,粘膜欠損辺縁と筋層に別々に配置した汎用クリップをOリングで固定する方法である(Figure 8 100.最初に輪をつけたクリップを粘膜欠損辺縁に配置し,続いて対側の辺縁と潰瘍底の筋層に輪を追加のクリップで固定し,輪を引き込むことで,Oリングがクリップ同士を強固に束ねることができる.胃ESD後出血の高リスク群48例に対し,E-LOCを用いた閉鎖の成績が報告されている(ESD後出血率0%,完全閉鎖率97.9%(47/48),平均閉鎖時間29.9分) 101.しかしE-LOC法はOリングを追加するたびにスコープの抜去と再挿入が必要であり,近位結腸や十二指腸では適用が困難であった.

Figure 8 

Endoscopic ligation with O-ring closure(E-LOC)のシェーマ.

a:ナイロンの輪を複数のクリップで粘膜欠損辺縁に固定する.輪を鉗子で鉗子口に引き込み,クリップの根元をOリングで結紮する.

b:その後スコープを抜去し,Oリングを再装着して再挿入する.ナイロンの輪をクリップで固定した状態で筋層を把持し,粘膜下死腔を減少させる.

c:すべてのクリップをOリングで完全に固定すると欠損が閉鎖される.

E-LOC法の限界に対処し,かつ死腔を作らずに粘膜欠損を閉鎖するため,われわれは開閉可能なクリップ(SureClip;Micro-Tech Co. Ltd.,Nanjing,China)とナイロン糸を用いたReopenable-clip over the line method(ROLM)を考案した 94),102)~104.ROLMではナイロン糸をSureClipの片側の歯の穴から挿入し,粘膜欠損辺縁と筋層をそのクリップで把持する.ROLMはどの消化管のER後でも切除術に引き続いて施行でき,スコープの抜去/再挿入や特別な器具も必要ない(Figure 9).E-LOCやROLMは両側の欠損辺縁だけではなく筋層も把持するため,粘膜と固有筋層の間の死腔を減少させることが可能である.これらの方法は胃や直腸の大きな欠損を閉鎖できる可能性があり 105,また消化管の全層欠損にも応用できる 106),107Table 3にわれわれの経験を踏まえ,クリップや特殊デバイスを用いた様々な粘膜欠損の閉鎖法をまとめた.

Figure 9 

reopenable-clip over the line method(ROLM)による胃粘膜欠損閉鎖のシェーマと実際.

a,b:胃ESD後の50mmの粘膜欠損.

c:糸を結んだ開閉可能なクリップを鉗子口から通し,粘膜欠損辺縁に固定した.糸をクリップの片側の歯の穴を通し,その状態で鉗子口から挿入する(ROLM).

d〜f:ROLMを用いてクリップを欠損辺縁と近傍の筋層を把持しつつ追加することで,粘膜下死腔を形成することなく完全に欠損は閉鎖した.

g:10週間後の内視鏡検査ではすべてのクリップが残存し,粘膜欠損は完全に閉鎖されていた.

Table 3 

われわれの経験によるクリップ及び特殊なデバイスを用いた閉鎖法.

Ⅵ ER後欠損閉鎖を目的としたクリップを用いた閉鎖法と特殊デバイスに望まれる特徴

以下の条件を満たすクリップや専用デバイスを開発することが重要と思われる.

1.内視鏡の抜去/再挿入が不要で,デバイスを鉗子口から挿入できる.

2.狭い管腔や操作性不良の状況下でも使用可能

3.死腔を形成することなく,連続的な閉鎖が可能

4.安価

クリップや特殊な器具を用いた消化管の全層欠損閉鎖法

胃の消化管間質腫瘍のような転移の可能性が低い腫瘍に対する内視鏡的全層切除(EFTR)の有用性が報告されている 108)~112.消化管の全層欠損閉鎖にはOTSCのように把持力の強化された,幅の大きいデバイスが使用される.留置スネアとクリップを用いた閉鎖では複数箇所をクリップで固定してから絞扼することで,クリップが粘膜に加える力を分散させ,創部の離開を防ぐことができる.EFTR後に消化液が漏れると腹膜炎を生じるため,全層欠損の完全な閉鎖が必要である.そこで2チャンネルスコープとツイングラスパーを用いて粘膜と漿膜筋層の両方を内反させ,筋層と漿膜の両方を閉鎖する方法が試みられている.しかしこの方法は煩雑であり,また完全な閉鎖が得られない可能性がある 113.さらに2チャンネルスコープを用いたクリップによる漿膜筋層の閉鎖が困難な場合や,OTSCが使用できない場合(近位結腸を含む場合など)では,この方法は使用できない.

われわれの考案したROLMでは筋層は完全に閉鎖され,漿膜側は部分的な閉鎖となった 106.ROLMを用いて完全な全層欠損閉鎖を達成するためにはさらなる工夫が必要である.

クリップや特殊な器具を使用して全層欠損を閉鎖しても,液体やCO2が漏れることがある.そのためクリップ以外のデバイスを用いた閉鎖も開発されている 91),114)~116.内視鏡的縫合装置(Overstitch,Apollo-Endosurgery,Austin,TX,USA)はクリップを使用せずに粘膜に糸を通すことで欠損を閉鎖可能である 117)~119.別の縫合法にはバーブつき吸収縫合糸(V-loc 180 3-0,Covidien,Mansfield,MA,USA),軟性持針器,2チャンネルスコープを用いる方法がある 120),121

X-Tack system (through-the-scope suture system,Apollo Endosurgery)ではシングルチャンネルスコープを使用し,糸がついたコルク状のアンカーを粘膜に刺し込んで固定し,次のアンカーを欠損辺縁の粘膜に同様に固定することを繰り返して閉鎖する 121),122.X-Tack systemはアンカーを固定するために対象を正面視する必要があり,また固定部には適切な組織の固さが必要である.

将来的にはクリップ以外の特殊デバイスが信頼性の高い確実な欠損閉鎖を達成するために有用となりうる.またEFTRと欠損閉鎖を同時に可能とするには,OTSCと切除用スネアを備えた全層切除装置(FTRD;Ovesco Endoscopy AG)を使用する必要があるかもしれない 11),123),124.しかしこのようなデバイスは使用施設が限られ,また高価である.より簡便で安価な手法を考案するためにはさらなる検討が必要である.

Ⅶ 今後の展望

ESDとEFTRの発展により,一括切除はより達成しやすくなった.クリップや特殊デバイスを用いた欠損閉鎖は術後の偶発症を予防できるだろう 125.研究者達は閉鎖できる欠損サイズの限界,操作性不良,費用対効果,閉鎖の維持性など,閉鎖に関する諸問題を徐々に解決してきた.ER後の合併症発生率も患者背景ごとに明確化された.

今後はより簡便で信頼性の高い閉鎖法を用い,下記を明らかにするための無作為化比較試験が望まれる.

1)消化管の各部位ごとに粘膜及び全層欠損に対する閉鎖の有用性

2)患者のリスク因子に応じた内視鏡的閉鎖の適応症例

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2023)35, 287-301に掲載された「Suturing techniques with endoscopic clips and special devices after endoscopic resection」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
© 2024 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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