要旨
日本消化器内視鏡学会(Japan Gastroenterological Endoscopy Society:JGES)の抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインを世界の内視鏡関連学会で作成されたガイドラインと比較して,その特徴と解決すべき課題について考えた.JGESのガイドラインでは血栓症発症リスクの軽減に重点が置かれていて,特にDOACの休薬期間と再開時期の取り扱いに特徴があった.いまだにエビデンスが明らかでない点も多く検討が必要である.今後の解決しなければならない課題として,コールドポリペクトミーの位置づけ,P2Y12拮抗薬の継続下での内視鏡治療の可否,DOAC休薬の代替治療を含めたヘパリン置換の位置づけ,ワルファリン休薬に対するDOACの一時的置換などがある.
Abstract
Japan Gastroenterological Endoscopy Society (JGES) guidelines for gastroenterological endoscopy in patients undergoing antithrombotic treatment is compared with the Endoscopy-related Societies Worldwide guidelines. The JGES guidelines focus on reducing the risk of thromboembolism occurrence, particularly in the treatment of DOAC withdrawal and resumptive periods. Many aspects with unclear evidences remain, and further investigation is required. Issues that should be resolved eventually include the positioning of cold polypectomy, whether endoscopic treatment is possible under continued P2Y12 antagonists, positioning of heparin replacement in alternative treatment for DOAC withdrawal, and temporary replacement of DOAC for warfarin withdrawal.
Ⅰ はじめに
抗血栓薬服用者に対して内視鏡を用いた観血的処置や治療を行う際には,抗血栓薬作用による消化管出血リスクと抗血栓薬の休薬に伴う血栓症リスクに配慮することが必要である.日本消化器内視鏡学会(Japan Gastroenterological Endoscopy Society:JGES)は,2014年に“抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン”
1),2)を,2017年には新たな経口抗凝固薬の登場や新たなエビデンスに対応するため,“抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン直接(新規)経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017”
3),4)を発表した.これらのガイドラインのコンセプトとして,消化管出血は内視鏡的止血術でコントロールできることが多いが,血栓塞栓症を発症するとその予後は一般的に不良であるため,休薬に伴う血栓塞栓症のリスクに重点を置いて作成された.
ここでは,世界の内視鏡関連学会で作成されたガイドラインと比較して,JGESガイドラインの特徴づけを行い,その現状と解決すべき課題について述べる.
Ⅱ ガイドライン作成までの経緯
わが国では1999年に発刊された消化器内視鏡ガイドラインに,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡に関する指針が記載されたが,薬剤の効果が完全に消失するまでの期間を休薬するという内容であった
5).例えばアスピリンやP2Y12拮抗薬は7-10日間の休薬であった.しかし,アスピリン休薬によって心血管イベントは約2倍,脳梗塞が約3倍となることや,薬剤放出性ステント挿入後の抗血小板薬休薬は血栓症リスクが約90倍になること,ワルファリン休薬の100回に1回の割合で血栓塞栓症が発症することなど,休薬による血栓塞栓症リスクの懸念が認識されるようになった
6)~9).また,消化管出血は内視鏡止血でコントロールできる一方で,血栓塞栓症は重篤なケースで発症することもあり一般的に予後が悪い.従って,可能な限り休薬期間を短縮する必要が生じて,2005年に「内視鏡治療時の抗凝固薬,抗血小板薬使用に関する指針」が作成され,アスピリンは3日間休薬,チクロピジンは5日間休薬,両者併用では7日間休薬,ワルファリンは3-4日間休薬で必要に応じてヘパリン置換が推奨された
10).しかし,米国や欧州の内視鏡学会のガイドラインでは,生検時には抗血栓薬の休薬は不要であるなど,欧米の休薬基準との乖離が問題となっていた
11),12).そこで,血栓症のリスクが高いケースにおいて,休薬に伴う血栓塞栓症リスクの回避をコンセプトにしてガイドラインの作成が行われた.ガイドライン作成には日本消化器内視鏡学会が中心的な役割を担ったが,日本神経学会,日本脳卒中学会,日本血栓止血学会,日本糖尿病学会,日本循環器学会の協力を得た.また,追補版においても血栓止血と循環器の専門家が作成に参加した.
Ⅲ 日本消化器内視鏡学会のガイドライン
1)カテゴリー分類
抗血栓薬を抗血小板薬(アスピリン,P2Y12拮抗薬など)と抗凝固薬(ワルファリン,DOACなど)を合わせた総称とし,抗血小板薬はアスピリンとアスピリン以外の抗血小板薬に大別し,後者はさらにP2Y12拮抗薬(チクロピジン,クロピドグレル,プラスグレルなど)とP2Y12拮抗薬以外の抗血小板薬(シロスタゾールなど)に分けた.
処方医の側からは休薬による血栓塞栓症の危険度を低発症群と高発症群に分けて,高発症群は抗血小板薬関連疾患と抗凝固薬関連疾患を示した(Table 1).冠動脈薬剤溶出性ステント留置後については,2020年の日本循環器学会「フォーカスアップデート版・冠動脈疾患患者における抗血栓療法のガイドライン」では,日本人の特性を考慮した日本版高出血リスク(high bleeding risk:HBR)基準が提唱され,HBR患者では(抗凝固薬服用がなければ)1-3カ月の短期Dual antiplatelet therapy(DAPT)が推奨された.非HBR患者でも,血栓リスクが低ければ1-3カ月,血栓リスクが高い場合は3-12カ月DAPTが推奨され,出血リスクを評価した上での短期DAPTの指針が明確に打ち出された
13).
内視鏡医の側からは出血危険度によって内視鏡手技を低危険手技と高危険手技に分け,消化器内視鏡検査・治療の出血危険度は通常消化器内視鏡,内視鏡的粘膜生検,出血低危険度の消化器内視鏡,出血高危険度の消化器内視鏡に分類した(Table 2).通常消化器内視鏡とは観察のみの検査を意味している.ポリペクトミーは出血高危険度に分類されているが,この時点でのポリペクトミーはホット・ポリペクトミーを意味しており,コールド・ポリペクトミーについては新たな検討が必要である.
2)抗血小板薬の休薬(Table 3)
観察のみの場合では抗血小板薬の休薬なく施行可能である.粘膜生検を含む出血低危険度手技では抗血小板薬を1剤のみの服用では休薬なく施行してもよい.抗血栓薬の休薬に伴う血栓塞栓発症が低リスクの場合は,従来どおりのアスピリンは3~5日間,P2Y12拮抗薬は5~7日間,その他の抗血小板薬は1日間の休薬によって生検は可能である.
出血高危険度手技においては,血栓塞栓発症の低リスク症例に対しては抗血小板薬ではアスピリン3~5日間の休薬,P2Y12拮抗薬は5~7日間の休薬,その他の抗血小板薬は1日の休薬で施行する.血栓塞栓症発症の高リスクではアスピリンを継続したままで施行する.アスピリンの単独投与例では,休薬できないケースは少ないので休薬で対応できる場合が多い.P2Y12拮抗薬では休薬をしてアスピリンまたはシロスタゾールに置換する.シロスタゾールは血管内皮の保護作用を有しているために,出血時間を延長させることが少なく,アスピリンやP2Y12拮抗薬の代替療法として用いることが提案されている
14).しかし,シロスタゾールに置換する際には必ず処方医の承諾を得て,あくまでも内視鏡処置を行う期間の一時的なのものに留める.
3)抗凝固薬の休薬(Table 3)
観察のみの消化器内視鏡検査において,ワルファリンやDOACは休薬なく施行できる.粘膜生検を含む出血低危険手技に対しては,ワルファリンやDOACの休薬を行わないで施行してもよい.ただし,ワルファリンの服用症例ではProthrombin time-international normalized ratio(PT-INR)が通常の治療域であることを確認する.PT-INRが3.0を超えている場合には消化管出血のコントロールが不良になることから,生検は避けた方がよい
15).DOACの服用例に対しては,DOACの内服時間から推測したピーク時を避けて施行することが望ましい.
ワルファリン内服者での出血高危険度の消化器内視鏡においては,ヘパリン置換は後出血リスクを高める可能性が指摘された
16),17).従って,ヘパリン置換の代わりに,INRが治療域であればワルファリン継続下あるいは非弁膜症性心房細動の場合にはDOACへの一時的な変更で内視鏡的処置を行うことが考慮される.
DOAC服用者での出血高危険度の消化器内視鏡においては,前日まで内服を継続して処置当日の朝から内服を中止し,翌日の朝から内服を再開する.DOACでは内服後36~48時間で抗Xa活性がほぼ消失するために,血栓塞栓症の高発症群では休薬期間を短時間に留めるために処置後にDOACを再開するか,処置後から翌日朝のDOAC再開までヘパリン置換を考慮する.処置直後の再開では,投与されたDOACが消化管内で抗凝固作用を起こすことが考えられるので注意を要する.
4)複数の抗血栓薬服用時の休薬(Figure 1)
複数の抗血栓薬を服用している場合には,観察や粘膜生検を含む出血低危険度手技において具体的な指針はなく,個々の症例に応じて慎重な対応が求められている.
出血高危険度手技において多剤の抗血小板薬を服用している場合には,単剤の内服になるまで治療の延期が原則である.しかし,内視鏡治療の延期が不可能な場合には,抗血小板薬を複数服用している場合には,アスピリンかシロスタゾールのどちらか一方の単独投与にする.ワルファリンと抗血小板薬を併用している場合には,抗血小板薬はアスピリンまたはシロスタゾールのどちらかの単独投与にして,INRを治療域に保ったワルファリン継続下を考慮する.または非弁膜症性心房細動の場合には事前のワルファリンからDOACへの一時的変更も考慮してよい.DOACと抗血小板薬を併用している場合は,抗血小板薬はアスピリンかシロスタゾールどちらかの単独投与にして継続し,DOACは処置当日の朝から内服を中止して,翌日朝から再開する.血栓症の高リスク群においては,抗Xa活性がほぼ消失することへの対策として,内視鏡治療の終了後から翌日のDOAC再開までヘパリンの持続投与を併用することとした.
Ⅳ 内視鏡学会で行ったガイドラインの検証
抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインのエビデンスレベルは決して高くはなく,エビデンスがない項目もあった.そのため2014年にガイドラインの妥当性を検証する目的で,日本消化器内視鏡学会の指導施設を対象に,血栓薬服用者に対する消化器内視鏡検査や治療に関連した偶発症の前向き全国調査を実施した
18).対象は調査期間1週間の内視鏡検査や治療を受ける抗血栓薬服用者で,期間内の任意の1日は抗血栓薬の非服用者を含めた全例を対象とした.登録参加施設は753施設(60.4%)で,登録例数24,214例のうち,解析対象数は23,830例であった.そのうち抗血栓薬服用者は10,874例,非服用者は12,956例で,男女比は1.7で女性が多く,平均年齢は男性が67.7±12.7(0-98),女性が67.5±14.3(8-103)であった.全例登録日での抗血栓薬服用者の割合は17.3%であった.わが国の高齢化と予防治療の普及で,現時点では抗血栓薬の内服率はさらに増えていると推測される.内服薬ではアスピリンが最も多く42.8%を占め,チエノピリジンが10.5%,ワルファリンが18.5%,DOACは発売まもなくで5.8%と少なかった.内服している抗血栓薬の数では,1剤内服が77.6%,2剤内服が19.7%,3剤以上の内服が2.7%であった.
偶発症は150件で偶発症頻度は0.63%であった.内訳は鼻出血を含め出血130例(0.55%),輸血や内視鏡止血を要した重篤な出血は104例(0.44%),脳血栓症は8例(0.04%),心血管血栓症は3例(0.01%),穿孔5例(0.02%),その他4例(0.02%)で,1例は出血と脳梗塞合併であった.血栓偶発症は抗血栓薬服用者では0.074%で非服用者では0.023%で有意差は認めなかった.
消化器内視鏡手技における出血リスクは観察のみを対照にすると,粘膜生検は4.70(2.60-8.50),低危険手技は8.35(3.32-20.9),髙危険手技は26.0(15.7-20.9)であった.各臓器および各手技においても,抗血栓薬服用者での出血が非血栓薬内服者より有意に高かった.抗血栓薬を単剤服用者よりも2剤以上の服用者の方が有意に偶発症の頻度は高かった(P=0.040).すなわち抗血栓薬服用者はどのような手技においても,非内服者と比べ出血リスクは高かった.抗血栓薬服用者のうち,抗血栓薬の事前休薬をしなかった抗血栓薬継続者と,事前休薬を施行した抗血栓薬休薬者の間にはどの手技においても有意な出血の差を認めなかった.この結果は抗血栓薬服用者は出血を起こすリスクが潜在的に高く,抗血栓薬の事前休薬は出血リスクの軽減にはならないことを示している.また,薬剤別の検討では,アスピリン,P2Y12拮抗薬以外の抗血小板薬の服用者においても出血例はあったものの,その頻度は低かった.一方,偶発症としての血栓症発症は,抗血栓薬非服用者で3件,抗血栓薬服用者で8件であった.抗血栓薬服用者8件中の6件(75%)はガイドラインを逸脱して長期に抗血栓薬が休薬された例であり,ガイドライン遵守からは2例の発症であった.
検証結果をまとめると,内視鏡検査・治療に伴う消化管出血リスクについては抗血栓薬服用者に対して注意が必要であるが,抗血栓薬の事前休薬は出血リスクに影響を与えなかった.また,血栓症発症の多くはガイドライン逸脱例であった.これらの成績から,「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」の妥当性が示された.
Ⅴ 世界のガイドラインとの比較
日本消化器内視鏡学会のガイドラインの特徴を検討するため,世界のガイドラインと比較した.比較対照としたのは,2016年のAmerican Society for Gastrointestinal Endoscopy(ASGE)
19),2018年のAsian Pacific Association of Gastroenterology(APAGE)and Asian Pacific Society for Digestive Endoscopy(APSDE)
20),2021年のBritish Society of Gastroenterology(BSG)and European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE)
21),2022年のAmerican College of Gastroenterology(ACG)and Canadian Association of Gastroenterology(CAG)
22)の最新版ガイドラインである.
低危険手技での休薬基準(Table 4)では,アスピリンとP2Y12拮抗薬の抗血小板薬はいずれも休薬不要で共通している.抗凝固薬のうちワルファリンは休薬不要で共通しており,ASGE以外ではPT-INRが治療域の場合となっている.DOACにおいてはASGEとAPAGE・APSDEは休薬不要であるが,JGESはピーク時を避けること,BSG・ESGEでは当日朝の内服を回避することとなっており,DOAC内服後の抗凝固活性上昇に注意を喚起している.
高危険手技での抗血小板薬の休薬基準(Table 5)では,アスピリンは超リスク群やampullectomyの例外を除いて休薬不要で共通しており,JGESでは3-5日の休薬を許容している.P2Y12拮抗薬ではBSG・ESGEでの高血栓リスクでの休薬可否のコンサルトを除いては5から7日間の休薬で共通している.また,JGESではアスピリンかシロスタゾールによる置換,ASGEではアスピリンの切替が選択肢としてあり,どのガイドラインでもP2Y12拮抗薬を継続下での高危険手技は許されていない.
高危険手技での抗凝固薬の休薬基準(Table 6)では,ワルファリンの場合に低血栓リスクでは5日休薬で同日再開,高血栓リスクではヘパリン置換としているのがASGE,APAGE・APSDE,BSG・ESGEであり,JGESとACG・CAGは休薬不要としてヘパリン置換を薦めていない.一方,JGESには一時的なDOACに変更との選択肢が設けてある.DOACについてはそれぞれのガイドラインで異なる対応となっている.ASGEは内服薬とCCrによって1-6日の休薬で再開12-24時間以上,それに近いのがBSG・ESGEで2日休薬としてるが,ダビガトランとCCr30-50では4日休薬となり,再開は2-3日目である.APAGE・APSDEは2日休薬で統一されている.JGESでは当日休薬翌日再開で最も休薬期間が短い.最新のACG・CAGは一時的休薬として日数の指定はないが,長期休薬を避ける方向に進んでいる可能性がある.DOACの代替としてのヘパリン置換はJGESとASGEの高血栓リスクで記載されている.
Ⅵ JGESガイドラインの特徴について
1)高危険手技での抗血小板薬の対応
JGESガイドラインではアスピリンは世界的に共通で休薬不要である.わが国での出血リスクの高い胃内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)についての4試験700例のメタ解析ではアスピリン継続群と休薬群のオッズ比1.81(0.85-3.83)で有意差は認めなかった
23).また,systematic reviewでは胃ESDの8試験の中で継続群と休薬群で有意差があったのは海外の1試験のみであった
24).胃ESDに対する後方視的多施設試験(Best-J study)では9,736件のサブ解析を行い,アスピリン継続のオッズ比(OR)は2.79(1.8-4.4),休薬でのORは1.53(0.9-1.6)で抗血栓薬の非内服者と比べアスピリン継続には出血リスクがあるとの結果であった
25).
P2Y12拮抗薬については世界的にも休薬で共通しているが,JGESガイドラインでは選択肢としてアスピリンまたはシロスタゾールへの置換を提案している.Best-J studyのサブ解析ではP2Y12拮抗薬継続のORは5.13(1.6-16.2),休薬のORは4.44(2.6-7.5),アスピリンまたはシロスタゾール置換のORは1.85(0.7-4.8)で,置換と比べてP2Y12拮抗薬継続および休薬での出血リスクは高い
25).また,アスピリンとP2Y12拮抗薬の休薬期間については,何日休薬しても出血リスクには関連しないとの結果であった
25).
多剤抗血小板薬服用でのSystematic reviewでは,単剤と多剤との比較試験では6試験中3試験で多剤での出血リスクが有意に高い結果であった
24).抗血小板薬継続下での胃・大腸ESD多施設の前向き観察研究(STRAP study)が行われたが,28例中7例で後出血(胃ESD6例,大腸ESD1例)を認め,安全基準により試験は中止された
26).7例のうち6例はアスピリンとP2Y12拮抗薬の併用であるDAPTであった.DAPTについてはこれまでの結果を見るとアスピリン単剤にするのが適切と考える.
2)ヘパリン置換
ワルファリンの代替療法としてのヘパリン置換は,出血リスクが有意に高まることが多くのメタ解析から明らかとなり,ヘパリン置換とワルファリン継続を比較した試験では,血栓症の発症は変わらないが,出血についてはワルファリン継続の方が有意に少ないとの結果であった
27),28).わが国におけるヘパリン置換での大腸ポリペクトミーの5試験のメタ解析ではOR8.29(4.96-13.87)と有意にヘパリン置換で出血リスクが高く
29),胃ESDの4試験でのメタ解析はリスク比が2.99(1.51-5.92)でヘパリン置換での出血リスクが高かった
30).
抗凝固薬服用者の胃ESDの多施設後方視的解析においても,休薬群よりヘパリン置換群と継続群は有意に出血リスクが高く,ヘパリン置換群と継続群の間には有意差はなかった
31).最近の循環器領域における経口抗凝固薬の休薬アルゴリズムでは,ヘパリン置換は血栓リスクが高度の場合,または機械弁などの心房細動以外の理由で抗凝固薬が使用されている場合に限定されている
32).
ワルファリン休薬に伴う抗凝固作用の欠損部分のみをヘパリンで埋めるのが理想的なヘパリン置換である(Figure 2)
32).しかし,ヘパリン置換では治療後にワルファリンを再開してPT-INRが治療域になるまでの期間で,抗凝固作用が必要以上に強くなることで後出血を惹起させる.一方,DOACの場合にはDOACの作用発現と消失が速いために,ヘパリン置換終了とDOAC再開のタイミングを合わせると抗凝固作用の上昇は防ぐことができる.JGESガイドラインでワルファリン休薬の選択肢として一時的DOAC置換を加えた理由である.2017年のガイドライン追補版発表の前後で,大腸ポリペクトミーの後出血率を検討した試験では,小数例ではあるが従来のヘパリン置換と比べてワルファリン継続,DOACへの一時的置換,DOACの当日休薬のいずれにおいても,後出血の上昇を認めなかった
33).
3)DOACの休薬と再開
JGESガイドラインが他のガイドラインと大きく異なるのはDOACの休薬・再開が短期間なことである.JGESでは内服のない期間は48時間なのに対して,BSG・ESGEでは120時間から144時間の内服のない期間となる(Figure 3).DOACには1日2回投与と1日1回投与の薬物があり,抗Xa活性は2回投与薬では24~36時間,1回投与薬では36~48時間維持するが,抗Xa活性が消失すると血栓塞栓症のリスクが高まる.DOACの休薬時間は1日1回内服薬では48時間,1日2回内服薬では36時間が限界と考えられる.そのためJGESガイドラインでは1日1回薬,1日2回薬とも治療日の朝から休薬して午後に処置を行い,翌日朝に再開としている.

欧米でのDOAC休薬期間は,当初は臨床試験のプロトコールに準じて行われていた.その後,この休薬基準はPAUSEコホート試験によって標準化された
34).PAUSEコホート試験は北米と欧州で3,007名のDOAC服用者に対する外科的処置を対象に行われて,アピキサバン,ダビガトラン,リバーロキサバンにおける低リスクでの出血率と高リスクでの出血率は,それぞれ0.59%と2.96%,0.91%と0.88%,1.27%と2.95%と報告している.また,血栓塞栓症の発症率はアピキサバンで1.03%(0-2.62),ダビガトランで1.49%(0-3.90),リバーロキサバンで0.46%(0-1.32)で許容の範囲内としている.一方,BSG & ESGEガイドラインの検証試験で,DOAC服用529名(ダビガトラン26.3%,アピキサバン32.3%,リバーロキサバン39.7%,エドキサバン1.7%)に対する内視鏡的処置の前向きコホートがなされ,出血率は8.5%(95%CI:6.3-11.2),血栓塞栓率は0.4%(95%CI:0-1.4)との成績であった
35).前述したJGESの前方視コホート研究では抗血栓薬服用者での血栓率0.07%(8/10,874)で非服用者での血栓率0.02%(3/12,956)であり,これと比較すると0.4%の血栓塞栓症の発症率は高いと思われ,DOACの長期休薬の影響があると考えている
17).また,DOAC休薬期間が出血リスクに与える影響について,抗凝固薬服用者での大腸ポリペクトミー後出血についてのメタ解析で,非服用者を対象としたDOAC当日休薬ではORが8.66(4.59-16.35),2日前以上休薬ではORが4.22(1.86-1.57)と報告されている
36).さらにワルファリン服用者を対象にした場合には,DOAC当日休薬のORは1.03(0.70-1.51)で差を認めず,2日前以上休薬のORは0.45(0.33-0.62)でワルファリンより出血リスクは少なかった.一方,多施設の前方視観察研究ではDOACの休薬再開までの時間で24時間以内,24-48時間,48時間以上の間には内視鏡関連出血には差がなかったと報告されている
37).
Ⅶ 後出血におけるDOACの影響
DOAC自体が消化管粘膜障害を引き起こすエビデンスはなく,DOAC服用者における消化管出血は,消化管に潜在する病変から出血が誘発されて起こる.DOACとワルファリンとの比較試験で,頭蓋内出血はDOACで有意に少ないが,消化管出血はワルファリンよりDOACで多く,リスク比1.25(1.01-1.55)であった
38).また,DOACの種類によって消化管出血の頻度が異なり,多くのリアルワールド成績では消化管出血はアビキサバンで低く,リバーロキサバンで高いと報告されている
39).血中を介した全身性の抗凝固作用はDOACとワルファリンともに共通であるが,DOACで消化管出血が多い原因はDOACによる消化管内局所での抗凝固作用とされている.DOACは消化管での吸収率が悪いために,吸収されずに消化管を通過したDOACが消化管内で活性化する(Figure 4).抗Xa阻害薬は活性体であるため,上部消化管と下部消化管ともに同じように出血を誘発する.しかし,プロドラッグのダビガトランは腸内細菌のエステラーゼ活性で活性体に変化するので,上部消化管よりも下部消化管での出血が多い
40).以上の成績はDOAC内服者での消化管出血であるが,内視鏡治療後の後出血においてもDOAC内服によって誘発される可能性が考えられる.これまで種々の内視鏡治療におけるDOAC服用者とワルファリン服用者での後出血率を比較した試験をTable 7
31),33),41)~65)にまとめた.胃ESD,大腸コールドポリペクトミー・ホットポリペクトミー・内視鏡的粘膜切除術(EMR)・ESD,乳頭切開術においてはワルファリンと比較しても同等な出血率である.しかし,食道ESD/EMRにおいては,症例数は多くないもののワルファリンでの出血率0%に対してDOACでの出血率は13.3%と差を認めている.

DOACの種類による消化管出血の違いについては,前述したように臨床試験やリアルワールドの成績ではリバーロキサバンの出血リスクが高く,アピキサバンが低いとの成績は示されている.消化管に存在する粘膜障害から出血を起こさせるには,1日1回投与のDOACでピーク時の抗凝固活性が高いことが関連していると推測される.一方,1日2回投与のDOACではトラフ時でも抗凝固作用は完全に消失せずに作用が残る傾向にあり,これが内視鏡治療後の止血効果に影響を与えている可能性が推測される.実際,アビキサバンの方がリバーロキサバンより内視鏡治療後の後出血が多いとの報告がある
41),66).しかし,これまで報告されたDOAC薬剤別の出血率をまとめると明らかな差を認めなかった(Table 8).今後の検討が必要と思われる.
Ⅷ 今後の課題
内視鏡検査・治療と抗血栓薬との関連については,これまで多くのエビデンスが積み上げられてきているが,いまだ明らかでない点も残っている.ガイドラインの大きな改訂には明確なエビデンスが必要であることはいうまでもないが,JGESガイドラインの多少の出血よりも血栓症に重きを置くとのスタンスは間違っていないと考えている.今後ガイドラインで解決しなければならない課題として,コールドポリペクトミーの位置づけ,抗血小板薬ではP2Y12拮抗薬の継続下での内視鏡治療の可否,代替治療としてのシロスタゾール置換の是非,抗凝固薬ではDOAC休薬の代替治療を含めたヘパリン置換の位置づけ,ワルファリン休薬に対するDOACの一時的置換,DOAC休薬・再開の期間がある.世界のガイドラインと比べてみても,JGESガイドラインは先駆的な面を持ち合わせており,わが国からのエビデンスに基づいた今後の発展に期待したい.
本論文内容に関連する著者の利益相反:加藤元嗣(武田薬品工業,大塚製薬,ファイザー,第一三共,富士フイルム)
文 献
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