日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
ESDで切除した胃原発胎児消化管類似癌の1例
佐藤 諭 珍田 大輔立田 哲也樋口 博之菊池 英純櫻庭 裕丈三上 達也吉澤 忠司鬼島 宏福田 眞作
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2024 年 66 巻 3 号 p. 273-278

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要旨

83歳男性.EGDで十二指腸潰瘍術後残胃に30mmの隆起病変を認め,生検はadenocarcinoma,tub2/por1でESDの方針となった.1カ月後のESD施行時には病変は頂部が陥凹する形態に変化し,術後病理組織検査で胎児消化管類似癌(adenocarcinoma with enteroblastic differentiation:ACED)と診断された.非治癒切除だったが手術を希望されず,7カ月後,ESD施行部位に局所再発し,2年後に原病死した.ACEDは術前診断が困難だが,切除後の病理組織で淡明な腫瘍細胞を認めた場合は想起すべきである.

Abstract

An-83-year-old man with a history of distal gastrectomy for duodenal ulcer was admitted to our hospital because of a gastric tumor. EGD revealed a 30-mm elevated lesion on the oral side of the gastroduodenal anastomosis. A biopsy revealed adenocarcinoma, tub2/por1, and ESD was scheduled. One month later, on the day of ESD, the morphology had changed; however, ESD was performed, and histopathological evaluation revealed an adenocarcinoma with enteroblastic differentiation (ACED). The patient did not wish for further surgery despite the presence of a 600-μm submucosal and vascular invasion. Seven months later, a 10-mm raised lesion appeared in the post-ESD ulcer scar, and a biopsy revealed ACED recurrence. Two years later, the tumor spread to the entire stomach; then, the patient developed multiple liver metastases and died. ACED is difficult to diagnose on preoperative biopsy. However, if the histopathological examination after resection reveals tumor cells with clear cytoplasm, immunostaining including SALL4 should be performed to consider the possibility of ACED.

Ⅰ 緒  言

胃原発の胎児消化管類似癌(adenocarcinoma with enteroblastic differentiation:ACED)は胃癌取扱い規約第15版で特殊型に分類される稀な疾患であり,脈管侵襲や肝転移が高頻度にみられ,予後不良とされている 1),2.ACEDは進行癌で発見される場合が多いため外科手術症例が多いが,近年は内視鏡治療例も報告されるようになった 3)~7.ACEDは粘膜下に一般型腺癌と混在するため術前の生検で診断することは困難であり,先行例の多くは切除標本の病理学的検査ではじめてACEDと診断されている.

今回,われわれは術前生検では診断されず,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)後の局所再発を来したACEDを経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:83歳,男性.

既往歴:40代で十二指腸潰瘍に対して幽門側胃切除術(Billroth Ⅰ法再建).高血圧症で近医通院中.

現病歴:近医にて検診目的に行った上部消化管内視鏡検査(EGD)で隆起性病変を指摘され,精査加療目的に当科紹介となった.初診時のEGDでは胃十二指腸吻合部の口側大彎前壁に30mm大の発赤調で表面が不整な隆起性病変を認め,頂部は表面構造が欠損した褐色調領域が混在していた(Figure 1).拡大観察では腺管構造は不明瞭で,不規則な微小血管・表面構造を呈しており,生検による病理組織診断はadenocarcinoma,tub2/por1であった.CTでは30mmの有茎性腫瘤を呈していたが明らかな筋層浸潤はみられず,リンパ節転移や遠隔転移も認めなかった.内視鏡の形態や大きさからも粘膜下層浸潤は否定できず,低分化癌の成分が含まれていたことからも外科手術を勧めたが,侵襲的な治療は希望されなかったためESDを行う方針となり,生検1カ月後にESD目的に入院となった.

Figure 1 

当科初診時の上部消化管内視鏡検査.

胃十二指腸吻合部の口側大彎前壁に30mmの発赤調,不整形で頂部に表面構造が欠損した褐色調領域が混在する病変(0-Ⅰ+Ⅱa)を認めた.

現症:身長 156.2cm,体重 39.0kg,体温 37.1℃,血圧 120/75mmHg,脈拍 82bpm,SpO2 99%,腹部理学所見に異常なし.

臨床検査成績:血液検査値に異常を認めず.CEA 1.4ng/mLとCA19-9 8.0U/mLと上昇なし.便中Helicobacter pyloriH. pylori)抗原は陽性であった.

入院後経過:初診時以降は内視鏡検査は施行しておらず,ESD当日の内視鏡所見では前回とは明らかに形態が変化しており,腫瘤の頂部は脱落,陥凹していた(Figure 2).短期間で急激な形態変化を認めたがESD可能と判断し手技を施行した.ESD施行中は粘膜下層剝離時に線維化が目立ち,易出血性であったが偶発症なく一括切除された.しかし,腫瘍が脆弱なため回収時に隆起部が分割され,4分割回収となった.偶発症なく治療5日後に退院となった.

Figure 2 

ESD当日の上部消化管内視鏡検査.

初診後1カ月のEGDでは腫瘤の頂部は脱落,陥凹を呈していた.

病理組織診断:腫瘍の主体はadenocarcinomaで腫瘍径28×18mm,por1>tub2,pT1b2(SM600μm),UL(-),ly1,v1,HM0,VM0と非治癒切除であった.さらに,病変内には淡明な細胞質を有する腫瘍細胞を認め,免疫染色ではSALL4(+),AFP(-),Glypican-3(-),CD10(+)であり,低分化腺癌のなかにACEDが約10%混在していた(Figure 3).SALL4陽性領域は腫瘍胞巣内に散在性に分布し,粘膜下層浸潤を示す腫瘍細胞にも一部陽性を示したが脈管内に侵入した腫瘍にはSALL4陽性細胞はみられなかった.SALL4陽性領域は淡明な細胞質を有する腫瘍細胞領域とおおよそ一致したが,すべての淡明な細胞質を有する腫瘍細胞領域にSALL4は発現していなかった.

Figure 3 

ESD切除標本の病理組織検査.

a:摘出標本のルーペ像(HE染色,×20).両矢印:病理組織学的粘膜下層浸潤距離.

b:腺癌領域(aの青色枠部)の拡大像(HE染色,×600).

c:淡明な細胞質を有する腫瘍細胞領域(aの緑色枠部)の拡大像(HE染色,×600).

d:SALL4免疫染色のルーペ像(×20).

e:SALL4陽性領域(dの黄色枠部)の拡大像(×600).

腫瘍の大部分はadenocarcinoma,por1>tub2であったが,病変内に淡明な細胞質を有する細胞を認め,SALL4免疫染色は陽性であった.

eCura C2の非治癒切除であり,外科手術を提案したが術前同様に希望されず経過観察の方針となった.

退院後経過:ESD1カ月後のEGDでは再発はみられなかったが,7カ月後にESD後潰瘍の瘢痕中央部に10mmの隆起が出現した(Figure 4).生検による病理組織ではadenocarcinoma,por,>tub2に加え,一部淡明な細胞質を有するSALL4陽性細胞を認め局所再発と診断された.しかし,外科手術含めた追加治療は希望されず,2年後のEGDでは残胃全体に広がる4型腫瘍を呈していた(Figure 5).血液検査でもCEA 290ng/mL,CA19-9 100,000U/mL,AFP 35ng/mLと腫瘍マーカーは上昇し,CTでは胃全体の不整な壁肥厚と多発肝転移を認めた.Performance statusが3と全身状態が低下しており,御本人および御家族に積極的治療の希望もなかったため,化学療法は行わずESDから3年4カ月後に原病死された.

Figure 4 

ESD7カ月後の上部消化管内視鏡検査.

ESD後の瘢痕中央部に1cmの隆起を認めた.

Figure 5 

ESD2年後の上部消化管内視鏡検査.

胃全体に広がる4型腫瘍を呈していた.

Ⅲ 考  察

ACEDは胃癌取扱い規約では特殊型のひとつとして扱われる 1.典型例では比較的均一で軽度から中等度の核腫大を示す淡明な円柱状細胞が密な管状増殖を示し,胎生初期の消化管上皮に類似する 8.実際には,ACEDのうちAFP産生を認めるのは30%にとどまり,組織学的にはSALL4やglypican3による免疫染色が診断に有用とされる 8.また,腸管粘液形成を有する分化型腺癌が深部浸潤に伴いACEDに変化していく可能性が示唆されている 9),10.本症例でもESD切除標本ではSM浸潤は600μmと軽度であったが脈管侵襲が認められた.脈管侵襲していた腫瘍細胞はSALL4陰性だったが,7カ月後の局所再発病変の生検組織ではSALL4陽性細胞が混在していた.さらに,ESD切除標本においてSM浸潤部の腫瘍にはSALL4陽性細胞が散見されていたことからも残存していたACEDが再発したものと考えられた.

ACEDの特徴としては年齢,性別,発生部位については一般型胃癌と同様とされている 11.また,H. pylori感染との関連は解明されていないが,谷田貝らによればACEDではH. pylori未感染は1例もなく,高度な胃粘膜委縮を伴う例が多いと報告されている 11.本症例もH. pylori感染者で高度な胃粘膜委縮が背景にあったことからH. pylori感染に伴う慢性的な炎症が影響している可能性が考えられた.一方でACEDは一般型胃癌と比べ脈管侵襲と肝転移が高頻度である 9.一般型胃癌との対比研究では,リンパ管侵襲(ACED 76%:一般型胃癌 41%),静脈侵襲(ACED 72%:一般型胃癌31%),リンパ節転移(ACED 69%:一般型胃癌 38%),肝転移(ACED 31%:一般型胃癌 6%)といずれもACEDで有意に高頻度であった 2.本症例でもESD切除標本で,リンパ管,脈管いずれにも腫瘍侵襲像を認められていた.

医学中央雑誌で「胃」と「胎児消化管類似癌」または「胎児消化管類似癌」を,PubMedで「gastric」と「enteroblastic differentiation」をキーワードで期間を区切らず全期間で検索したところ本邦において22症例が検索され,さらにESDが施行されたのは自経例を含め12例だった(Table 1 3)~7.このうち,ESD前の生検でACEDと診断されたのは1例のみであった.ACEDの多くは,分化型腺癌や乳頭腺癌等の一般型胃癌に併存しており,治療前の生検組織での診断は困難とされる 11.その要因として,ACEDは一般型腺癌に混在し粘膜表面に露出しないことが指摘されている.本症例でも治療前の生検ではACEDと診断されず,治療前のEGD拡大観察でも不明瞭な腺管構造と不規則な微小血管・表面構造を呈していたがACEDと一般型腺癌を区別することはできなかった.

Table 1 

胃原発胎児消化管上皮類似癌に対してESDを行った本邦報告例.

Table 1で示すように,ESDが施行されたACED症例のうち治癒切除が得られたのは4例のみであった.ACEDの早期癌の多くは陥凹型を呈するとされるが,隆起型を呈した0-Ⅱa 3例,0-Ⅰ+Ⅱa 1例,0-Ⅱa+Ⅰ 1例の5例中2例はESDで治癒切除が得られたのに対して,陥凹型を呈した0-Ⅱc 6例のうち内視鏡的に治癒切除が得られたのは2例のみであった 3)~7.八尾らが行ったACED 31症例の臨床病理学的検討では一般型分化型腺癌成分を含まないACED 10症例はすべて0-Ⅱc病変だったのに対して,一般型分化型腺癌成分を含む症例では隆起型を呈していたものが少数ながらあったと報告している 12.一方で,本症例は隆起型でありながら低分化成分が主体であり,非典型的な形態を示したものと考えられた.

本症例は一般型胃癌と併存していたため肉眼的な形態変化がACEDのみが原因とは断定できないが,短期間に急激な形態変化を来し局所再発した腫瘍からもACEDと診断された貴重な症例と考えられた.

Ⅳ 結  語

ESD後にACEDと診断され,切除断端は陰性であったが脈管侵襲陽性であったため,切除後局所再発を来し原病死した1例を経験した.

ACEDは術前診断が困難だが,切除後の病理組織で淡明な細胞質を有する腫瘍細胞を認めた場合はACEDの可能性を考えSALL4等の免疫染色を行う必要がある.

尚,本論文の一部は第168回日本消化器内視鏡学会東北支部例会(2022年7月,山形市)にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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