日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
消化器内視鏡関連の偶発症に関する第7回全国調査報告2019〜2021年までの3年間
古田 隆久入澤 篤志 青木 利佳池田 宜央大塚 隆生潟沼 朗生菅野 敦鷹取 元水上 一弘山田 玲子稲葉 知己河原 祥朗松田 浩二安田 一朗伊藤 透小村 伸朗清水 誠治日山 亨村上 和成加藤 元嗣井上 晴洋田中 信治
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2024 年 66 巻 3 号 p. 327-354

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要旨

2019年から2021年の3年間で,各施設が任意に定めた1週間における消化器内視鏡検査および治療での偶発症の前向き調査と,過去3年間の重篤な偶発症後ろ向きの調査を行った.1週間の前向き調査では1,197施設から回答があり,合計246,627件が施行され,偶発症の総数は668件(0.271%)で,8件(0.0003%)の死亡例を認めた.前処置での偶発症は177件(0.072%),観察のみの消化器内視鏡検査では165件(0.076%),消化器内視鏡治療では325件(1.145%),腹腔鏡では1件(1.266%)と,全領域の消化器内視鏡検査および治療において偶発症が起こっていた.また,前処置と消化器内視鏡治療でそれぞれ4名の死亡があり,死亡例の平均年齢は治癒軽快例に比して高かった.そして,後ろ向き調査においても重篤な偶発症を来した症例の多くは高齢者であった.

Abstract

From 2019 to 2021, we prospectively investigated gastrointestinal endoscopy-related adverse events during a week arbitrarily determined by each facility during the 3-year period. Moreover, we conducted a retrospective survey of serious adverse events in the past 3 years. Responses were obtained from 1,197 facilities for the 1-week prospective survey. Of 246,627 gastrointestinal endoscopies, the number of adverse events was 668 (0.271%), with eight fatal cases (0.0003%). Preparation-related adverse events were 177 (0.072%), 165 (0.076%) for observation-only gastrointestinal endoscopy, 325 (1.145%) for therapeutic gastrointestinal endoscopy, and one for laparoscopy (1.266%). There were four fatal cases associated with preparation and therapeutic gastrointestinal endoscopy, and the average age of the fatal cases was higher than that of cured cases. In retrospective studies, most cases with serious adverse events were elderly individuals.

Ⅰ はじめに

1983年に開始され,5年毎に行われてきた消化器関連の偶発症調査は今回で7回目になった.第7回調査はこれまでの後方視的な調査ではなく,各施設が任意に定めた1週間の前向調査とした.調査期間は2019年から2021年12月末日までの3年間で,任意の1週間での消化器内視鏡検査および治療における被検者および術者に関する偶発症について調査した.さらに,1週間の調査とは別に,調査開始日から遡っての3年間に発生した重篤な事例に関しては,各症例に関する詳細な報告を依頼した.今回の調査は前方視的検討であり,これまでの報告よりもバイアスの少ないデータが得られたものと考える.

Ⅱ 調査の方法

調査項目は,これまでの調査との連続性および整合性を保つために,第6回調査のアンケート内容を踏襲し,さらに,その際にその他の項目として記載の多かった項目を追加して行った.日本消化器内視鏡学会の指導施設を中心に,評議員の所属する1,369施設(2019年:388施設,2020年:580施設,2021年:401施設)に調査を依頼した.各施設で調査研究について倫理委員会の承認を得た後,各施設で定めた1週間の消化器内視鏡検査および治療についての調査を行った(偶発症発生件数報告および各症例詳細をケースカードに記載).データの収集は,EDC(Electronic Data Capture)入力とし,浜松医科大学医学部附属病院臨床研究センターの臨床研究支援サーバーを利用して行った.これらのデータを基に,任意の1週間における偶発症発生件数,ならびにケースカードに記載された事例詳細をまとめた.

重篤な偶発症に関しては,調査開始から遡って3年間に発生した事例の報告を依頼し(ケースカード使用),結果をまとめた.

Ⅲ 調査の結果

1.調査の依頼と回答率

依頼1,369施設のうち回答は1,197施設から得られ,前回の544施設から大幅に増加した.また,回答率は87.4%であり,これまでの調査と比較して大幅に改善された(Table 1).

Table 1 

アンケートの依頼と回答率.

2.一施設あたりの年間検査および治療件数

アンケート調査は本学会の指導施設が中心であり件数が多い施設であると考えられるが,一施設あたりの年間検査・治療件数は,実質的な年間実働週数を年末年始,夏期休暇,その他の休日などから48週とすると,観察のみの消化器内視鏡検査(生検を含む)が平均で8,749件,消化器内視鏡治療が1,138件,腹腔鏡が3件,総数が9,890件であり,検査件数は腹腔鏡以外で著しく増加したが,調査方法の変更も要因であると推察される(Table 2).

Table 2 

一施設あたりの年間平均検査・治療件数.

3.消化器内視鏡検査および治療総数と偶発症の発生頻度

1週間の検査総数は,246,627件であった(Table 3).観察(±生検)のみの消化器内視鏡検査が218,176件,消化器内視鏡治療が28,372件,腹腔鏡が79件で,偶発症は合計で668件(0.271%)であり,発生率は第6回調査の0.073%と比較して,約3.7倍に増加した(Table 3).偶発症の発生率の増加には,第6回までの後方視的な調査から,今回より前方視的調査に変更したことに起因する可能性が考えられる.偶発症の内訳は,前処置に関連するものが177件(0.072%),観察のみで165件(0.076%),消化器内視鏡治療で325件(1.145%),腹腔鏡で1件(1.266%)であり,死亡事例は8件であり,前処置での4件と消化器内視鏡治療での4件であった(Table 4).

Table 3 

検査・治療総数と偶発症発生件数.

Table 4 

第7回調査期間に行われた検査・治療と偶発症発生件数.

4.前処置に関連した偶発症

前処置に関連した偶発症は177件:0.072%(177/ 246,627)で起こっており,前回調査の0.0028%の約26倍の頻度であった.このうち死亡事例数は4件(0.002%)であり,これも前回の0.00005%の40倍と大幅に増加しており,調査方法の変更による影響が大きいと考えられる.前処置に関連する偶発症件数は第6回調査までは低下してきていると考えられたが,これまでの後ろ向きの調査を前向きの調査に変更したことでより実態が明らかになってきたと考えられた.

偶発症の内容は,鎮静・鎮痛薬関連119件,腸管洗浄薬関連47件で,両者で全体の9割を超えており,他は鎮痙薬で2件,咽頭麻酔の2件と抗血栓薬休薬の1件であった.死亡事例の4件は,鎮静薬関連3件,腸管洗浄薬関連1件であった.これまでの調査と同様に,鎮静薬や腸管洗浄薬に関連した偶発症の発症および死亡が目立った(Table 5).

Table 5 

前処置に関連する偶発症.

4.1 前処置に関連した偶発症

鎮静・鎮痛薬や腸管洗浄薬に関連した偶発症のケースカードには175件の記載があった.咽頭麻酔に伴う偶発症ではケースカードの記載はなかった.鎮静薬による偶発症が,呼吸抑制,血圧低下などで119件と最も多かった.腸管洗浄薬に起因するものが続いた(Table 6).

Table 6 

前処置に関連する偶発症(ケースカード記載症例).

検査・治療の部位別では,鎮静薬と腸管洗浄薬の両者が関わる大腸内視鏡検査・治療での偶発症事例の報告が多かった(Table 7).

Table 7 

検査・治療の目的部位と偶発症の原因となった前処置.

4.2 鎮静薬の使用状況

鎮静薬の使用状況を前回調査と同様に全施設で行った.上部消化管内視鏡では,ミダゾラムが51.6%と前回の47.6%より増加し,ジアゼパムが13.9%と前回の27.9%から減少した.大腸内視鏡でもミダゾラムが47.3%と前回の41.0%から増加したが,ジアゼパムは10.2%であり,前回の21.9%から低下した.膵・胆道内視鏡では,ミダゾラムが60.9%で57.0%から微増した.ペンタゾシンは32.7%で前回調査の34.0%とほぼ同様であった(Table 8).第6回調査と比較して,ミダゾラムを使用する施設が増加した要因として,消化器内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)のCQ10にてミダゾラムが提案されたことによる可能性が考えられる.

Table 8 

回答1,201施設での鎮静薬の使用状況(採用施設数).

4.3 前処置における死亡例の検討

4件の前処置死亡例をTable 9に示す.いずれも80代と高齢であった.鎮静薬の過量投与ということはなく,高齢者の前処置はより慎重に行う必要があることが改めて示唆された.

Table 9 

前処置における死亡4例の内訳.

5.観察のみ(生検を含む)の消化器内視鏡検査の手技別件数と偶発症

観察のみ(生検を含む)の消化器内視鏡検査の総数は,218,176件で,偶発症は165件(0.076%)の報告があったが,死亡事例はなかった.

機種別件数は経口の上部消化管内視鏡が126,304件と最も多く,経鼻の上部消化管内視鏡が14,768件で,両者で141,072件であり,上部消化管内視鏡が最も多く実施されていたのは前回同様である.経鼻の上部消化管内視鏡の偶発症件数も43件(0.291%)であり,前回調査の0.024%と比較すると約12倍の頻度で発生している.経口の上部消化管内視鏡での偶発症件数は56件(0.044%)であり,前回の0.005%の9倍であった(Table 10).

Table 10 

観察のみ(生検を含む)の消化器内視鏡検査における偶発症発生件数.

経口的バルーン小腸内視鏡は272件,経肛門的バルーン小腸内視鏡は495件が実施された.偶発症はそれぞれ1件ずつ報告があった.

大腸内視鏡は,61,083件が実施され,偶発症件数は28件(0.046%)であり,前回調査の0.011%の約4倍であった.

十二指腸内視鏡の実施件数は内視鏡的逆行性胆道造影(endoscopic retrograde cholangiography:ERC)が7,048件,偶発症件数は11件(0.156%)であり,内視鏡的逆行性膵管造影(endoscopic retrograde pancreatography:ERP)も628件で偶発症件数は2件(0.318%)であった.

超音波内視鏡検査(EUS)では全体で19件の偶発症事例が報告された.カプセル内視鏡検査での偶発症事例の報告はなかった.

5.1 経口上部消化管内視鏡検査(観察のみ,生検を含む)における偶発症

経口上部消化管内視鏡における偶発症件数は56件であった.ケースカードの記載は47件であり,最も多かったのは裂創で18件あり,次いで呼吸抑制の7件であった(Table 11).

Table 11 

経口上部消化管内視鏡検査における偶発症(ケースカード記載症例).

裂創は部位別に検討すると食道9件,胃で9件であった.出血は4件でいずれも胃からの出血であった.その他,徐脈,誤嚥,歯牙損傷などの,様々な偶発症を認めた.

5.2 経鼻上部消化管内視鏡検査(観察のみ,生検を含む)における偶発症

経鼻上部消化管内視鏡検査における偶発症件数は43件であり,最も多いものは鼻出血(40件)であった(Table 12).

Table 12 

経鼻上部消化管内視鏡検査における偶発症(ケースカード記載症例).

5.3 経口バルーン小腸内視鏡検査(観察のみ,生検を含む)における偶発症

経口的バルーン小腸内視鏡検査における偶発症件数は1件であった.Roux-Y再建例の挿入時の穿孔に伴う腹膜炎であった.前回調査までは膵炎の発生頻度が高かったが今回の調査では認めなかった(Table 13).

Table 13 

経口バルーン小腸内視鏡における偶発症(ケースカード記載症例).

5.4 経肛門バルーン小腸内視鏡検査(観察のみ,生検を含む)における偶発症

経肛門的なバルーン小腸内視鏡検査における偶発症件数は1件のみで呼吸抑制であった.前回調査で最も多かった穿孔の事例は認めなかった(Table 14).

Table 14 

経肛門バルーン小腸内視鏡における偶発症(ケースカード記載症例).

5.5 小腸内視鏡検査(その他)(観察のみ,生検を含む)における偶発症

その他の小腸内視鏡検査として,今回の調査では偶発症事例の報告はなかった.

5.6 大腸内視鏡検査(観察のみ,生検を含む)における偶発症

大腸内視鏡検査における偶発症件数は28件であった.ケースカードの記載は23件であり,穿孔が5件で前回調査同様で最も多く,そのうち4件で手術が施行されていた(Table 15).穿孔の部位はS状結腸で4件と,これまでの調査と同様であった.検査中の出血も5件あり,さらに検査中の徐脈が4件と続いた.

Table 15 

大腸内視鏡検査における偶発症(ケースカード記載症例).

5.7 十二指腸鏡によるERC/ERP検査における偶発症

胆道精査目的の十二指腸鏡によるERC検査における偶発症事例は11件で,7件でケースカードの記載があり,その中で急性膵炎が最も多いのは前回同様であった.ERP検査における偶発症件数は2件であり,急性膵炎が1件と歯牙損傷が1件であり,死亡例は認めなかった(Table 16).

Table 16 

診断的ERC/ERPにおける偶発症(ケースカード記載症例).

5.8 内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(ERCP)以外の十二指腸鏡(観察のみ,生検を含む)による偶発症

ERCP以外での十二指腸鏡検査(観察目的)における偶発症の報告は,1週間の調査期間中には認めなかった.

5.9 バルーン小腸内視鏡を用いた診断的ERCPでの偶発症

バルーン小腸内視鏡による診断的ERCPにおける偶発症は1件で発生し,小腸穿孔であった.外科手術により治癒している(Table 17).

Table 17 

バルーン小腸内視鏡を用いた診断的ERCPにおける偶発症(ケースカード記載症例).

5.10 EUSにおける偶発症

上部消化管EUS検査(EUS専用機使用)における偶発症は4件あり,そのうち穿孔が2件であった.下部消化管におけるEUS検査では偶発症はなかった.胆膵EUS検査(EUS専用機使用)における偶発症は13件あり,そのうちケースカードは7件で記載があった.偶発症の種類は多彩であった(Table 18).

Table 18 

上部消化管ならびに胆膵EUS検査(EUS専用機使用)における偶発症(ケースカード記載症例).

細径超音波プローブを用いたEUSでは,上部消化管で1件報告があったが,ケースカードへの記載がなく詳細不明である.下部消化管での偶発症の報告はなかった.

EUS下穿刺吸引生検(EUS-FNA)での偶発症は4件で,3件がケースカードに報告されている(Table 19).そのうち2件は出血であった.

Table 19 

EUS-FNAにおける偶発症(ケースカード記載症例).

胆管における管腔内超音波検査(intraductal ultrasonography:IDUS)や膵管におけるIDUSでの偶発症の報告はなかった.

5.11 膵管鏡,胆道鏡における偶発症

経口膵管鏡,経口胆道鏡における偶発症の報告はなかった.

5.12 カプセル内視鏡検査における偶発症

カプセル内視鏡検査における偶発症の報告はなかった.

6.消化器内視鏡治療の手技別件数と偶発症

施行された消化器内視鏡治療の種類および件数は,腫瘍治療が14,765件と最も多く,次いでERCP関連の治療手技(6,424件),そして,止血治療(2,199件)が続いた(Table 20).偶発症は腫瘍治療で179件(1.212%),ERCP関連で104件(1.619%)に認めた.

Table 20 

消化器内視鏡治療における偶発症発生件数.

6.1 非静脈瘤出血に対する止血治療における偶発症

消化管,および,胆膵からの非静脈瘤性の出血事例に対して合計で2,199件の止血処置が施行されていた.偶発症の報告は15件(0.682%)であった(Table 21).止血治療は胃が最も多く,大腸が続いたが,偶発症の発生率は,胆膵,十二指腸で高かった.1件の死亡事例が十二指腸出血例で報告されている(Table 21).

Table 21 

非静脈瘤性出血に対する止血治療における偶発症発生件数.

偶発症の内容について,ケースカード記載があった14件の内容をTable 22に示す.偶発症の内容は出血が4件と穿孔が3件で,その他は多岐にわたっていた.なお,出血と記載のあったケースカードでは止血困難の場合や,腫瘍からの出血でもともと止血困難な場合など,必ずしも止血処置が出血を増悪させたり,別の出血を誘発した症例のみではない可能性が考えられた.

Table 22 

止血治療における偶発症(ケースカード記載症例).

死亡例は,消化管出血に対する止血治療の際に,十二指腸の潰瘍を認めた時点で心停止となり,蘇生術後に手術がされその後ICU管理となったが死亡したとのことである.

6.2 静脈瘤治療における偶発症

静脈瘤治療は595件が施行され,偶発症件数は3件(0.504%),死亡事例は認めなかった(Table 23).3件全例でケースカードの記載があり,内容としては裂創や穿孔があったが,いずれも保存的治療で軽快している(Table 24).

Table 23 

内視鏡的静脈瘤治療における偶発症発生件数.

Table 24 

静脈瘤治療における偶発症(ケースカード記載症例).

6.3 腫瘍治療に関連した偶発症

腫瘍治療として,Cold Snare Polypectomy(CSP)は4,329件が行われ,偶発症は10件(0.231%),Hot Snare Polypectomy(HSP)は1,889件で,偶発症は11件(0.582%),内視鏡的粘膜切除術(EMR)では6,278件中91件(1.450%;前回は0.569%),内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)では2,214件中64件(2.891%,前回2.800%),熱凝固では55件中偶発症3件(5.455%)であった(Table 25).

手技別に偶発症の発生率をみると,ポリペクトミーやEMRに比して,ESDでの偶発症発生率が食道から大腸に至る全領域で高くなっていった(Table 25).

Table 25 

内視鏡的腫瘍治療における偶発症発生件数.

6.3.1 Cold/Hot Snare Polypectomyにおける偶発症

Cold Snare Polypectomyにおける偶発症は10件で,ケースカード記載は8件であった.いずれも大腸症例であり出血が最も多かった.穿孔例が1件あり,遅発性穿孔による腹膜炎で手術を施行されたが死亡の転帰となった(Table 26).

Table 26 

Cold/Hot Snare Polypectomyにおける偶発症(ケースカード記載症例).

Hot Snare Polypectomyにおける偶発症でケースカードに記載のあった10件の中では,出血が8件で最も多く,また,10件中9件が大腸からの報告で,残りの1件は十二指腸からの出血であった(Table 26).

6.3.2 EMRにおける偶発症

今回の調査では,大腸以外のEMRでは偶発症の報告はなかった.大腸EMRにおける偶発症91件のうちケースカード記載は52件であった(Table 27).出血が最も多く,次いで穿孔であった.

Table 27 

大腸EMRにおける偶発症(ケースカード記載症例).

6.3.3 ESDにおける偶発症

咽喉頭/食道のESDにおいては8件の偶発症発生があり,穿孔が4件と最も多かった.胃のESDにおいては33件の偶発症発生があり,出血が最も多く22件,穿孔6件で続いた.十二指腸のESDにおいては2件の偶発症発生があり,穿孔と呼吸抑制が1件ずつであった.小腸のESDは3件実施されたが,偶発症の報告はなかった.大腸のESDにおいては21件の偶発症発生があり,そのうちで穿孔が16件と最も多く,次いで出血(4件)が続いた(Table 28).

Table 28 

ESDにおける偶発症(ケースカード記載症例).

6.3.4 熱凝固による偶発症

熱凝固による偶発症は胃で3件あったが,ケースカードの記載がなく,詳細は不明である.

6.4 ERCP関連治療における偶発症

ERCP関連治療としては6,424件が行われ,104件(1.619%)の偶発症発生しており(Table 29),前回調査の0.701%の約2.4倍であった.死亡事例は2件(0.031%)であり前回調査の0.0186%の約1.7倍であった.

Table 29 

ERCP関連治療と偶発症発生件数.

6.4.1 Endoscopic biliary stenting(EBS)/Endoscopic nasobiliary drainage(ENBD)/Endoscopic nasogallbladder drainage(ENGBD)における偶発症

胆道ステント留置術,経鼻的な胆道ドレナージ(EBS/ENBD/ENGBD)における偶発症は32件の報告があり,そのうち急性膵炎が19件と最も多かった(Table 30).膵管損傷で1件の死亡事例が報告されている.これは,カニュレーション困難症例であったためにプレカットを施行し,留置した膵管ステントが膵管を穿通し膵外に留置された事例であった.

Table 30 

EBS/ENBD/ENGBDにおける偶発症(ケースカード記載症例).

6.4.2 乳頭切開術(EST/Precutting)における偶発症

乳頭切開術(EST/Precutting)は結石除去術,あるいは,それ以外の目的でも行われている.偶発症は29件に発生し,ケースカードに記載のあったものは24件であった.出血が最も多く,急性膵炎が次に続いた(Table 31).

Table 31 

EST/Precutにおける偶発症(ケースカード記載症例).

6.4.3 結石除去術における偶発症

結石除去術の手技にはESTも含まれるが,前述のESTとは別に,結石除去手技に伴う偶発症は28件であり,そのうち26件がケースカードに記載されていた.偶発症の内訳では急性膵炎が最も多く,急性胆道炎が続いた(Table 32).急性膵炎では死亡例が1件あり,膵炎が重症化し腹膜炎を併発していた.

Table 32 

結石除去術における偶発症(ケースカード記載症例).

6.4.4 Endoscopic pancreatic stenting(EPS)/Endoscopic nasopancreatic drainage(ENPD)における偶発症

膵管ステントや経鼻的膵管ドレナージ(EPS/ENPD)では,ケースカードには1件の偶発症記載があり,急性膵炎であった(Table 33).

Table 33 

EPS/ENPDにおける偶発症(ケースカード記載症例).

6.4.5 Endoscopic papillary balloon dilation(EPBD)/Endoscopic papillary large balloon dilation(EPLBD)における偶発症

内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)での偶発症は9件であったが,ケースカードの記載のあったのは3件で,全例が急性膵炎であった.内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(EPLBD)における偶発症は4件報告され,そのうち3件が急性膵炎であった(Table 34).

Table 34 

EPBD/EPLBDにおける偶発症(ケースカード記載症例).

6.4.6 膵管結石除去における偶発症

膵管結石の除去は57件が施行され,特に偶発症の報告はなかった.

6.4.7 Peroral cholangioscopy(POCS)/Peroral pancreatoscopy(POPS)下治療における偶発症

経口胆道鏡(POCS)下の三管合流部付近の結石除去例において,急性胆道炎が生じ,保存的に治療し軽快している(Table 35).

Table 35 

POCS/POPS下治療における偶発症(ケースカード記載症例).

6.4.8 Percutaneous transhepatic cholangioscopy(PTCS)下の治療における偶発症

経皮経肝胆道鏡(PTCS)下の治療は15件施行されていたが,特に偶発症の報告はなかった.

7.消化管(食道/胃/十二指腸/小腸/大腸)狭窄解除術における偶発症

消化管狭窄解除術の施行件数は2,088件で,そのうち偶発症は11件であった(Table 36).

Table 36 

内視鏡的消化管狭窄解除治療と偶発症発生件数.

食道の狭窄解除術においては,4件の報告があり,バルーン拡張,ステント挿入,ブジーそれぞれで穿孔事例が認められた.ブジーによるものは縦隔炎を併発した.胃の狭窄解除術では2件の偶発症中,ケースカードの記載があったものは1件のみでバルーンによる穿孔であった.十二指腸の狭窄解除術における偶発症はステント挿入に関連して3件であったが,ケースカードへの記載がなく,詳細は不明である.小腸の狭窄解除術における偶発症の報告は認めなかった.大腸の狭窄解除術における偶発症について,ケースカードの記載のあった2件は,バルーン法,ステントでの穿孔であった(Table 37).

Table 37 

食道/胃/大腸での狭窄解除術における偶発症(ケースカード記載症例).

8.内視鏡的消化管異物除去術と偶発症発生件数

異物除去術は313件で施行され(Table 38),偶発症としては食道異物除去時のMallory-Weiss症候群の1件が報告された(Table 39).

Table 38 

内視鏡的消化管異物除去術と偶発症発生件数.

Table 39 

消化管異物除去術における偶発症(ケースカード記載症例).

9.胃瘻造設(Percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)/経皮経食道胃管挿入術(Percutaneous transesophageal gastrotubing:PTEG)における偶発症

PEGにおいて5件の偶発症が報告されており(Table 40),出血が3件,横行結腸穿刺が1件であった(Table 41).

Table 40 

PEG/PTEGにおける偶発症発生件数.

Table 41 

PEGにおける偶発症(ケースカード記載症例).

10.EUS下治療

EUS下治療は180件施行され,偶発症は4件の報告がみられた(Table 42).ケースカードに記載のあったものは超音波内視鏡下胆道ドレナージ(EUS-guided biliary drainage:EUS-BD)における腹膜炎,ステント迷入の2件であった(Table 43).

Table 42 

EUS下治療と偶発症発生件数.

Table 43 

EUS下治療における偶発症(ケースカード記載症例).

11.その他の消化器内視鏡治療における偶発症

その他の消化器内視鏡治療としては,1,176件の実施があった(Table 44).S状結腸捻転の内視鏡的な解除,および,イレウス管の挿入支援やネクロゼクトミーで偶発症の報告があり,穿孔,誤嚥,出血であった(Table 45).

Table 44 

その他の消化器内視鏡治療の件数と偶発症発生件数.

Table 45 

その他の消化器内視鏡治療における治療手技と偶発症(ケースカード記載症例).

12.外科治療を除く腹腔鏡に関連する偶発症

外科治療を除く腹腔鏡は79件が行われ,偶発症は1件のみで死亡例は認めなかった.内訳は観察のみが58件であり,偶発症は1件であった.それ以外4件の肝生検,9件の腫瘍焼灼,その他8件では偶発症を認めなかった(Table 46).ケースカードの提出がなく,偶発症1件の内容は不明である.

Table 46 

腹腔鏡の件数と偶発症発生件数.

13.医療従事者における偶発症

医療従事者に発生した偶発症をTable 47に示す.5件の報告のうち針刺し事故が2件,薬液による傷害が2件であった.

Table 47 

医療従事者における偶発症(ケースカード記載症例).

14.重篤な偶発症事例ファイルの集計結果

今回の調査では1週間の前向き調査に加えて,過去3年間の重篤偶発症事例(転帰で後遺症ありや死亡となったもの)の収集も行った.以下にその結果を記す.

14.1 前処置に関連した重篤な偶発症

前処置による偶発症のうち重篤なものは21件あり,患者の平均年齢は80.5歳と高齢であった.15件の死亡例が報告され,患者の平均年齢は81.1歳(後遺症は79.0歳)であった.鎮静・鎮痙薬によるものが10件(死亡7件)と多く,腸管洗浄薬によるものが6件(死亡5件),抗血栓薬の休薬に関するものが4件(死亡2件),咽頭麻酔による喉頭浮腫での死亡が1件であった(Table 48).鎮静・鎮痙薬によるものは呼吸抑制関連によるもののみであり,鎮静薬による過鎮静の影響が考えられる.腸管洗浄薬では穿孔が最も多かった.

Table 48 

前処置に関連した重篤な偶発症(前処置種類別の内訳).

消化器内視鏡検査または治療の目的別部位では,鎮静薬と腸管洗浄薬の両者が関わる大腸内視鏡で多かった(Table 49).

Table 49 

前処置に関連した重篤な偶発症(前処置の種類と検査の目的部位).

14.2 観察のみの消化器内視鏡検査(生検も含む)に伴う重篤な偶発症

観察のみの消化器内視鏡検査における重篤な偶発症は45件報告され,患者の平均年齢は78.2歳であった.そのうち30件は死亡例で,患者の平均年齢は80.3歳と高齢であった.大腸内視鏡検査によるものが最も多く,穿孔による死亡例が目立った(Table 50).

Table 50 

観察のみの消化器内視鏡検査における重篤な偶発症.

偶発症の要因としては,必ずしも検査手技に起因するものではなく,原疾患や既往症に起因する場合の方が多かった.

14.3 消化器内視鏡治療に伴う重篤な偶発症

消化器内視鏡治療における重篤な偶発症は210件が報告された.手技的な要因での偶発症は122件(58.1%)であった(Table 51).

Table 51 

消化器内視鏡治療における重篤な偶発症.

14.3.1 ERCP関連治療における重篤な偶発症

ERCP関連治療における重篤な偶発症は89件が報告され,うち74件が死亡事例であった.内訳では,急性膵炎が最も多く,次いで穿孔が続いた(Table 52).

Table 52 

ERCP関連治療における重篤な偶発症.

14.3.2 腫瘍治療における重篤な偶発症

腫瘍治療における重篤な偶発症は38件が報告され,うち16件が死亡事例であった.内訳では,穿孔が最も多く,次いで出血が続いた(Table 53).

Table 53 

腫瘍治療における重篤な偶発症.

14.3.3 消化管狭窄解除における重篤な偶発症

消化管狭窄解除における重篤な偶発症は29件報告され,うち18件が死亡事例であった.大半が穿孔であった(Table 54).

Table 54 

消化管狭窄解除における重篤な偶発症.

14.3.4 止血治療における重篤な偶発症

止血治療における重篤な偶発症は19件報告され,うち死亡事例が17件であった.穿孔が最も多く,出血が続いた(Table 55).

Table 55 

止血治療における重篤な偶発症.

14.3.5 胃瘻造設における重篤な偶発症

胃瘻造設における重篤な偶発症としては12件報告され,全件が死亡事例であった.内訳は出血が最も多く,次いで誤嚥であった(Table 56).

Table 56 

胃瘻造設における重篤な偶発症.

14.3.6 S状結腸捻転整復における重篤な偶発症

S状結腸捻転整復における重篤な偶発症は7件報告され,そのうち6件が死亡事例であった.多くは穿孔であった(Table 57).

Table 57 

S状結腸捻転整復における重篤な偶発症.

14.3.7 静脈瘤治療における重篤な偶発症

静脈瘤治療においては6件の重篤な有害事象の報告がされ,いずれも死亡事例であった.偶発症の内容は多岐にわたっていた(Table 58).

Table 58 

静脈瘤治療における重篤な偶発症.

14.3.8 イレウス管挿入支援時における重篤な偶発症

その他の消化器内視鏡治療においては.イレウス管挿入支援時の偶発症が5件でありすべて死亡事例であった.偶発症の内容は,穿孔と誤嚥/肺炎であった(Table 59).

Table 59 

イレウス管挿入支援における重篤な偶発症.

14.3.9 EUS治療下における重篤な偶発症

EUS下治療においては,原因不明の心肺停止が2件報告されている(Table 60).いずれも重篤な急性膵炎や壊死性膵炎患者に対して実施した囊胞ドレナージなどであった.

Table 60 

EUS治療下における重篤な偶発症.

14.3.10 異物除去における重篤な偶発症

異物除去の際に穿孔を来し,外科手術を施行されたが死亡転帰となった1件が報告された.

Ⅳ 偶発症の転帰と年齢

前向き1週間調査において,前処置に関連した偶発症事例の転帰別の平均年齢の比較をFigure 1に示す.偶発症が起きても治癒軽快した169例の平均年齢は68.9(±13.4)歳で,後遺症ありの1例は68歳であったのに対し,死亡した4例は84.3±13.4歳であり,治癒軽快例に比して,死亡例での年齢が高い傾向を認めた.別に報告された,重篤な偶発症においても死亡例の平均年齢は81.1歳であり,前回調査同様に高齢者で死亡が多かった.

Figure 1 

前処置に関連した偶発症事例の転帰別の平均年齢.死亡例の平均年齢が治癒軽快群に比して高い傾向を認める.

観察のみの消化器内視鏡検査における偶発症事例では,死亡転帰となった症例はなかったが,偶発症が発生しても治癒軽快した134例の平均年齢は63.0±17.3歳であったのに対し,後遺症ありの4例は83.5±11.4歳であり,後遺症あり群で年齢が有意に高かった(Figure 2).

Figure 2 

観察のみの消化器内視鏡検査における偶発症事例の転帰別の平均年齢.後遺症あり群の平均年齢が治癒軽快群に比して有意に高かった.

消化器内視鏡治療における偶発症においては,偶発症が発生しても治癒軽快した253例の平均年齢は71.2±13.7歳であったのに対し,後遺症ありの4例は79.0±11.3歳,死亡した3例は84.7±8.0歳であり,治癒軽快群に対して,後遺症ありや死亡となるに従って,平均年齢が高くなる傾向を認めた(Figure 3).

Figure 3 

治療内視鏡における偶発症事例の転帰別の平均年齢.治癒軽快例に対して,後遺症あり,死亡となるに従って,平均年齢が上昇する傾向を認めた.

Ⅴ まとめ

任意の1週間における前方視的調査,および過去3年間の重篤な偶発症の報告を手技別にまとめた.消化器内視鏡検査件数の増加や消化器内視鏡治療の適応の拡大に伴い,リスクの高い内視鏡手技が増加している中で,偶発症の件数も増加している.偶発症の発生頻度は対象疾患・検査または治療部位・手技内容によって異なり,偶発症の発生率が高いものから低いものまであるが,偶発症の発生を認めなかった手技はごく少数であり,ほとんどすべての内視鏡手技において偶発症を認めており,消化器内視鏡診療の際には細心の注意をもって取り組む必要性が確認された.また,偶発症の転帰での死亡例の多くが高齢者であることは前回調査と同様であった.高齢者では基礎疾患を有している場合が多く,偶発症の発症リスクは年齢や併存疾患に大きく影響されると考えられ,消化器内視鏡検査および治療施行前に適応を含めて十分に評価しておく必要がある.

今回の前向き調査にて,偶発症の発生頻度は従来の後方視的調査結果とは大きく異なっていた.前向きの調査をすることで実態により近い調査結果が得られたと考えられる.次回以降はJED(Japan endoscopy database)プロジェクトによる偶発症の調査が行われるため,全例調査を基本としてより大規模で詳細な調査が可能となると考えられる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:加藤元嗣(大塚製薬,武田薬品工業,ファイザー,第一三共,富士フイルム),潟沼朗生(オリンパス),河原祥朗(150周年記念両備システムズ医学研究留学・先進医療研究奨励基金,岡山西大寺病院),古田隆久(アストラゼネカ,武田薬品工業),大塚隆生(大鵬薬品工業,中外製薬,新日本科学)

 
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