2024 年 66 巻 6 号 p. 1387-1426
近年,クローン病,潰瘍性大腸炎に代表される原因不明の慢性炎症性腸疾患患者は増加の一途を辿っている.炎症性腸疾患では全消化管に病変が発生しうるので,病変の性状確認,他疾患との鑑別,組織学的診断,治療効果判定など診療のすべての点において消化管内視鏡検査が必須である.また,内視鏡検査をより効率よく炎症性腸疾患の診療に用いるためには一定の指針が必要となる.さらに,本邦では小腸内視鏡を含む消化管内視鏡検査が広く普及していることから,本邦の診療に適したガイドラインが必要と考えられる.そこで,日本消化器内視鏡学会は,「炎症性腸疾患内視鏡診療ガイドライン」を作成し,炎症性腸疾患の確定診断や治療効果判定における内視鏡診療の指針を明確にし,上部消化管内視鏡検査,小腸内視鏡検査,大腸内視鏡検査の位置付けを提示した.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)において内視鏡診療を安全かつ確実に実施するためには,基本的な指針が必要である.しかしながら,本邦ではIBDの内視鏡診療に関するガイドラインはなかったのが現状である.そこで,日本消化器内視鏡学会ガイドライン委員会は,IBD内視鏡診療ガイドラインを,科学的な手法に基づいた基本的な指針となるものとして新たに作成することとした.作成方法は,近年行われている国際的に標準とされているevidence based medicine(EBM)の手順に則って行った.具体的には「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」 1)に従い,EBMに基づいたガイドライン作成を心がけた(Table 1).執筆の形式はCQ(clinical question)形式とした.なお,この領域におけるレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインがIBD診療での有用な指針となることを期待する.なお,本ガイドラインの内容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるものではない.

推奨の強さとエビデンスレベル.
日本消化器内視鏡学会ガイドライン作成委員として消化器内視鏡医16名が作成を委嘱された.また評価委員として,消化器内視鏡医5名が評価を担当した(Table 2).協力機関には校閲を依頼した.

IBD診療ガイドライン作成委員会構成メンバー.
上部消化管内視鏡,大腸内視鏡,小腸内視鏡の3領域に分類し,それぞれの領域について疾病をIBD全体,クローン病(Crohn’s disease:CD),潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC),その他の項目に分類し,12のカテゴリーが設定された.それぞれのカテゴリーについて,24のCQ(BQ,FRQ)案を作成し,各CQに対して,PubMedおよび医学中央雑誌にて1992年4月から2022年3月までの期間で,系統的に文献検索を行った.不足の文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価し必要な文献を採用し,各CQに対するステートメントと解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」 1)に従って設定した.作成されたステートメントと解説文を用いてCQ形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員と評価委員の合計21名により修正Delphi法による投票を行った.修正Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として7以上のものをステートメントとして採用した.完成したガイドライン案は,評価委員の評価を受けたうえで修正を加えた後,今回学会会員に公開した.
3.対象本ガイドラインの取り扱う対象患者は,内視鏡による検査・診断を受けるIBD患者とする.また,利用者はIBDに対して内視鏡検査・診断を施行する臨床医およびその指導医とする.ガイドラインはあくまでも標準的な指針であり,個々の患者の意志,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情などにより柔軟に対応する必要がある.
本ガイドライン作成に関与した各委員の利益相反に関して下記の内容で申告を求めた.
①本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),旅費,贈答品などの受領(5万円以上).
②申告者の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬額(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許権使用料(100万円以上).
③申告者の所属する研究機関・部門の長にかかるinstitutional COI(申告者が所属研究機関・部門の長と過去に共同研究者,分担研究者の関係にあったか,あるいは現在ある場合)について:研究費(1,000万円以上),寄附金:(200万円以上),株その他.
報酬金額は年度ごとに対象とし,直近3年度についての利益相反について申告を求めた.
松本主之(講演料:ヤンセンファーマ,田辺三菱製薬,武田薬品工業,EAファーマ,アッヴィ,ギリアド・サイエンシズ,奨学寄付:田辺三菱製薬,日本化薬),久松理一(講演料:田辺三菱製薬,武田薬品工業,ヤンセンファーマ,アッヴィ,EAファーマ,ファイザー,持田製薬,研究費・助成金:キッセイ薬品,EAファーマ,奨学寄付:田辺三菱製薬,武田薬品工業,アッヴィ,ファイザー,日本化薬,持田製薬,JIMRO,ボストン・サイエンティフィック ジャパン),江﨑幹宏(講演料:アッヴィ,田辺三菱製薬,EAファーマ,ヤンセンファーマ,武田薬品工業,ファイザー,研究費・助成金:アルフレッサ ファーマ,奨学寄付:アッヴィ,杏林製薬),大森鉄平(講演料:武田薬品工業,アッヴィ),櫻庭裕丈(研究費・助成金:ブリストル・マイヤーズ スクイブ,ラビプレ,ヤクルト本社 中央研究所,花王,奨学寄付:旭化成ファーマ,バイエル薬品,エーザイ),新﨑信一郎(講演料:田辺三菱製薬,武田薬品工業,アッヴィ,EAファーマ,ヤンセンファーマ,キッセイ薬品,杏林製薬,ギリアド・サイエンシズ,ファイザー,持田製薬,研究費・助成金:ヤンセンファーマ,アッヴィ,奨学寄付:持田製薬),長沼 誠(講演料:武田薬品工業,ファイザー,田辺三菱製薬,持田製薬,EAファーマ,杏林製薬,ヤンセンファーマ,アッヴィ,JIMRO,ギリアド・サイエンシズ,研究費・助成金:アルフレッサ ファーマ,奨学寄付:田辺三菱製薬,アッヴィ,ミヤリサン製薬,杏林製薬),平岡佐規子(講演料:田辺三菱製薬,アッヴィ,武田薬品工業,ヤンセンファーマ,杏林製薬,EAファーマ,持田製薬),藤谷幹浩(株式:カムイファーマ,講演料:武田薬品工業,EAファーマ,アッヴィ,研究費・助成金:EAファーマ,アッヴィ,ヤンセンファーマ,富士化学工業,カムイファーマ,日本化薬,カナミックネットワーク,小野薬品工業,あゆみ製薬,武田薬品工業,ビオフェルミン製薬,富士フイルム,奨学寄付:持田製薬),松浦 稔(講演料:ヤンセンファーマ,武田薬品工業),渡辺憲治(講演料:武田薬品工業,田辺三菱製薬,EAファーマ,キッセイ薬品工業,ファイザー,アッヴィ,杏林製薬,研究費・助成金:アッヴィ,シミックホールディングス,日本イーライリリー,IQVIAジャパン,ヤンセンファーマ,ファイザー,EAファーマ,武田薬品工業,奨学寄付:JIMRO,田辺三菱製薬,杏林製薬,アッヴィ,日本化薬),緒方晴彦(講演料:武田薬品工業,ヤンセンファーマ,オリンパスメディカルシステムズ,奨学寄付:アッヴィ,田辺三菱製薬,持田製薬,杏林製薬),安藤 朗(講演料:武田薬品工業,ミヤリサン製薬),仲瀬裕志(講演料:田辺三菱製薬,ヤンセンファーマ,武田薬品工業,アッヴィ,ファイザー,マイランEPD,JIMRO,持田製薬,ギリアド・サイエンシズ,EAファーマ,第一三共,研究費・助成金:HOYA,奨学寄付:アッヴィ,大塚製薬,日本化薬,田辺三菱製薬),大塚和朗(講演料:武田薬品工業,ヤンセンファーマ,オリンパスマーケティング),平井郁仁(講演料:アッヴィ,EAファーマ,田辺三菱製薬,武田薬品工業,持田製薬,ヤンセンファーマ,研究費・助成金:日本イーライリリー,アッヴィ,ヤンセンファーマ,奨学寄付:アッヴィ,EAファーマ,大塚製薬,持田製薬,田辺三菱製薬,杏林製薬),藤城光弘(講演料:武田薬品工業,アストラゼネカ,日本製薬,研究費・助成金:富士フイルム,オリンパス,奨学寄付:田辺三菱製薬,アッヴィ,エーザイ,EAファーマ,日本化薬),田中信治(講演料:オリンパス,EAファーマ,武田薬品工業,ミヤリサン製薬,研究費・助成金:ギリアド・サイエンシズ,オリンパス,富士フイルム,アッヴィ,EAファーマ,IQVIAサービシーズ ジャパン,ブリストル マイヤーズ スクイブ,牛島俊和班,石川秀樹班,奨学寄付:大塚製薬,武田薬品工業,田辺三菱製薬,第一三共,EAファーマ,エクシオン,ミヤリサン製薬)
なお,ステートメント決定時の投票に際しては,本ガイドラインに関連する内容で,「個人的・組織的に経済的COIが基準額*を上回る場合」「経済的COI以外のCOI等(研究活動・キャリア・人間関係・利害競合等)が考えられる場合」の申告を求めたが,いずれも該当はなかった.
*:本学会COI指針第8条第7項により定められた診療ガイドライン策定参加者の議決権に関する基準額は以下のとおりである.講演料200万円,パンフレットなど執筆料200万円,受け入れ研究費2,000万円,奨学寄附金1,000万円
本ガイドライン作成に関係した費用については,日本消化器内視鏡学会による資金提供を受けた.
CQ1:広義のIBDの診断時に上部消化管内視鏡検査は必要か?
ステートメント:成人において広義のIBDの診断時に上部消化管内視鏡検査の実施は推奨しない.しかし,上部消化管病変の存在が疑われる症例や大腸内視鏡検査で診断が確定できない場合に上部消化管内視鏡検査の実施を推奨する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
広義のIBDにはUC,CDだけでなく腸管ベーチェット病,腸結核,好酸球性胃腸炎,虚血性腸炎,microscopic colitis,薬剤起因性腸炎,家族性地中海熱,非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1gene:CEAS),アミロイドーシス,血管炎症候群,免疫チェックポイント阻害剤による大腸炎などが含まれる.広義のIBDは下痢や血便などの下部消化管症状を呈するため,その診断には病歴聴取,血液生化学検査,便培養検査,CT検査や大腸内視鏡検査などの画像検査,大腸内視鏡検査時の生検病理診断が行われる.そのため,上部消化管病変の存在が疑われる症例や有症状・有所見の場合を除けば広義のIBD診断において上部消化管内視鏡検査は考慮されない.
しかしながら,上記検査で確定診断に至らない場合は上部消化管内視鏡検査を実施する.この場合,上部消化管内視鏡検査の役割は,診断への付加情報を得ることや他疾患の除外が目的となる.特にCDとUCの鑑別が困難な症例(inflammatory bowel disease unclassified:IBD-U)の評価には上部消化管内視鏡検査は推奨される.竹の節状外観やノッチ様陥凹といった所見がみられる場合,UCよりはCDを示唆する所見となる 1).また,Helicobacter pylori(H. pylori)未感染でアフタを伴わない胃炎,脆弱性粘膜や顆粒状粘膜はCDよりもUCを示唆する所見とされている 2),3).検査時には食道,胃,十二指腸から複数回の生検採取を行う 4),5).上部消化管からの生検病理所見にてCDに特徴的である非乾酪性類上皮細胞肉芽腫やfocally enhanced gastritisなどの所見が得られれば参考となる.
成人と異なり,小児発症のIBDは非典型的な特徴を示し,診断が困難なことが多い.また,小児では成人と比較して上部消化管病変がより多く確認されている 6).よって,IBDの初診時には上部消化管病変の有無にかかわらず,すべての小児に対して上部消化管内視鏡検査を実施し,複数個所からの生検を行うことが推奨されている 4),7).
CQ2:CDの診断に上部消化管内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:CDの診断時には上部消化管内視鏡検査を実施することを推奨する
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
CDは回盲部に高率に病変を形成するが,全消化管に病変を生じる疾患である.一般的にCDの診断は,慢性的に続く腹痛や下痢,発熱,体重減少,肛門病変などの症状を呈する場合に,病歴聴取,理学的検査や血液検査を行うとともに,CTやMRIなどの画像診断で炎症の主座を確認し,内視鏡検査や生検病理診断を追加し診断を行う.
CDでは比較的高頻度に上部消化管病変を認める.具体的には食道ではアフタやびらん,潰瘍を呈し,胃ではそれに加えて竹の節状外観を認める.また,十二指腸ではノッチ様陥凹や数珠様隆起が特徴とされる.それらの上部消化管病変を呈する頻度は食道では0.2~6%,胃では24~73%,十二指腸では21~32.1%と報告されている 1).その中でも竹の節状外観 2),ノッチ様陥凹などの特徴的な胃・十二指腸病変を呈することがあり,診断基準 3)の副所見にも加えられている.そのため,診断時には上部消化管内視鏡検査を実施し,病変の確認を行うことが推奨される.
上部消化管からの生検病理診断にて非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が証明できる症例もあるため,検査時には生検を積極的に実施する.CDに特徴的である非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の検出頻度は大腸生検(13.6~55.6%)よりも上部消化管生検(40~68%)で高い可能性が示唆されている 4).特に胃病変,竹の節状外観,十二指腸病変からの生検での検出率が高い 1).また,CDでは胃・十二指腸におけるfocally enhanced gastritisと呼ばれる限局性の好中球・リンパ球浸潤がH. pylori未感染のCDに特異的とされている 5).上部消化管病変の存在は抗TNF-α抗体製剤使用のリスクとなることが報告されており注意深く経過観察を行う 6).
CDでは病状が進行すると狭窄や瘻孔を生じる場合がある 4),7),8).そのため,上部消化管に病変を有する症例では適宜活動性評価を行い,病状の把握に努める.
CQ3:UCの診断に上部消化管内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:UCの確定診断目的に上部消化管内視鏡検査を施行することは推奨しない
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:D
解説:
UCは,持続性または反復性の粘血便・血性下痢などがあり,理学的検査や血液検査,既往歴聴取などを行い,次に大腸内視鏡検査や生検を行って本症に特徴的な腸病変を確認することで診断が確定される 1)~4).診断目的での上部消化管内視鏡の有用性に関する検証はなく,画像検査による診断確定は大腸検査でされるため,診断時に上部内視鏡検査は必要なく上部消化管の症状がある場合に限定すべきである.
しかし,大腸内視鏡検査を行っても診断がつかない場合は上部消化管内視鏡検査や小腸検査などを行い他のIBDなどを除外する.UCは大腸を主座とする疾患であるが,4.7~7.6%に上部消化管病変を合併することが報告 5),6)されている.内視鏡的特徴としてはびまん性・連続性に大腸病変に類似した顆粒状粘膜,びらん,易出血性・脆弱性粘膜,潰瘍などの所見が認められる.生検病理組織学的に大腸病変の所見に類似したびまん性炎症細胞浸潤,陰窩炎,陰窩膿瘍などの所見を認めることがある.CDとの鑑別困難例においては,このような形態を示す上部消化管病変が診断の補助となる可能性がある.CD以外にUCに類似した大腸病変を有し,類似した上部消化管病変を来す疾患として,腸管ベーチェット病やMEFV遺伝子関連腸炎がある.腸管ベーチェット病の上部消化管病変としては,食道に類円形潰瘍や深掘れ潰瘍を認めることがあり,UCにおいても非常に稀であるが類似した食道潰瘍の報告がある.MEFV遺伝子関連腸炎においては,胃や十二指腸に潰瘍性病変・びらん・アフタなどを約30% 7)に認めており,鑑別困難な症例では十分な全身検索と経過観察が重要となる.
CQ4:腸管ベーチェット病に上部消化管内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:腸管ベーチェット病患者が上部消化管症状を訴える場合は上部消化管内視鏡検査を施行することを推奨する
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
腸管ベーチェット病は,厚生労働省ベーチェット病研究班の診断基準 1)では特殊型に分類されており,完全型または不全型の基準を満たし回盲部潰瘍で代表される消化管病変を認めた場合に診断される.消化管病変のみの場合は,腸管ベーチェット病疑いと診断されるが,本邦では単純性潰瘍と呼称しベーチェット病関連疾患として扱われることが多い.典型的な内視鏡像は回盲部の類円形,境界明瞭な深掘れ潰瘍とされるが,多発する小潰瘍やUC様のびまん性炎症などの非典型病変を来した場合は他疾患との鑑別が必要となる.腸管ベーチェット病は,回盲部以外にも上部消化管に病変を認めることがあり,心窩部痛や胸痛,嚥下困難を認めた場合には上部消化管内視鏡検査を施行する.
腸管ベーチェット病における食道病変の頻度については,2.7~18% 2)~4)と報告され,完全型での合併例は少なく不全型や疑い症例で食道病変の頻度が高い傾向にある 5),6).食道病変の好発部位は中部から下部食道とされ,形態学的所見としては単発や多発する境界明瞭な円形または類円形の潰瘍が特徴的で,他にアフタや不整潰瘍の形態を呈する症例もあるが,介在粘膜の発赤や浮腫に乏しい.さらに,潰瘍辺縁に白苔の明瞭な縁取りを認め潰瘍辺縁の隆起が目立つことなどが特徴的な所見であると報告 7)されている.大きく深い潰瘍性病変では食道気管支瘻や穿通,食道狭窄などを来し重症化する症例もある.
一方,胃十二指腸病変の詳細は不明な点が多く食道病変よりさらに稀と考えられる.胃十二指腸病変に関する報告 3),8)では,回盲部でみられる定型的な境界明瞭な円形の潰瘍は認めず,胃および十二指腸に多発性・びまん性に認める発赤やアフタ・びらんを認めたことが報告されている.腸管ベーチェット病の30.8%(84/273)に上部消化管病変を認めた報告 9)があるが,これらの病変が腸管ベーチェット病に関連するものか明らかでなく,他疾患との鑑別を含めさらなる検討が必要である.
CQ5:IBDの大腸内視鏡検査時に前処置はどのようにすべきか?
ステートメント1:大腸内視鏡検査を行う際には,経口腸管洗浄液による前処置を行うことを提案する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:D
ステートメント2:重症患者には,大腸内視鏡検査の前処置として経口腸管洗浄液の内服をしないことを推奨する
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
大腸内視鏡検査は,IBDの疾患活動性を評価するために選択される方法である 1).CD患者は回腸や深部大腸が炎症の主座である率が高く,全大腸,回腸の観察が必要である.UCに関しては,原則,直腸から連続性に炎症がみられることが多く遠位大腸までの観察のみで活動性の評価ができるケースが多いが,脾弯曲より口側に最も活動性が高い粘膜を認める患者も少ないながらも存在し 2),3),確実な活動性評価,特に内視鏡的寛解の確認を行うには,全大腸観察が必要である.全大腸の観察を行う場合には,腸管洗浄の質が高いほうが安全で効率的な検査が可能であり,経口腸管洗浄液による前処置を行うことを提案する.
一方でUC患者で再燃を疑う場合や治療開始後の病状確認の目的で内視鏡検査を行う時は,S状結腸鏡検査で十分な場合が多く,必ずしも経口腸管洗浄液による前処置は必要ない.特に,臨床的に重症と考えられる患者では,前処置により病状が悪化する可能性があるため,経口腸管洗浄液の内服は避けるべきである 1),4).活動期で下痢や血便が頻回の場合は無処置で内視鏡が可能な場合も多い.前処置として浣腸を選択する場合は,浣腸液は刺激性のものは避け,微温湯や生理食塩水などを用い,腹痛が出現しないか確認しつつ行う.
また,高度狭窄病変を持つ患者は経口腸管洗浄液の内服により腸閉塞や穿孔を来す可能性があり注意を要する.特に小腸CDでは狭窄症状が顕著でない場合もあり,CTなど他画像検査で確認しておく.
IBD患者の経口腸管洗浄液の効果と安全性に関する報告は限られている.大腸内視鏡検査の腸管洗浄の質を検討した前向き観察研究では,IBD患者は腹痛精査や無症状のスクリーニング患者と比較して,腸管洗浄の質が低いことが示された 5).一方で,IBD患者100人と年齢と性別をマッチさせた対照者100人の研究では,腸管洗浄の質に差はないものの,IBD患者は対照群より内臓感度指数,不安指数が高く,それらが前処置時の不快症状の増加や検査時の不安につながる可能性が示唆された 6).
経口腸管洗浄液の種類としては,ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)をベースとした腸管洗浄剤を推奨する報告が多い 7).それは,PEGと比較し,リン酸化ナトリウムやピコスルファートナトリウムの腸管洗浄液が大腸に炎症を惹起する可能性が示唆された 8)ためと考える.大腸内視鏡検査後4週以内に再燃を示唆する腹部症状が増加するという報告もあるが,前処置との明確な関連は報告されていない 9).
CQ6:妊娠中のIBD患者に大腸内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:リスクと比較して有益性が上回る場合は大腸内視鏡検査を提案する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
IBD患者において,妊娠中のイベント(早産・低体重児出生など)の増加は,基礎疾患の存在や治療薬より疾患活動性が高いことが原因になるといわれており,妊娠中も適切な治療を継続し疾患活動性を抑えていくことが重要である 1).また,妊娠中に再燃が疑われる症状が出現した場合は,適切に疾患活動性を評価し治療を選択する必要がある.よって再燃時の治療選択のためなど明確な適応がある場合には,時機を逸することなく大腸内視鏡検査を施行することが提案される 1),2).大腸内視鏡検査施行時には,深部観察にこだわらずS状結腸鏡程度に留めるほうが望ましい.
ただし,妊婦における内視鏡検査の有効性と安全性については,限られたエビデンスしか存在しない.スウェーデンにおけるコホート研究では,妊娠中に内視鏡検査を受けた妊婦3,052人と内視鏡検査を受けてない妊婦1,589,173人の分娩アウトカムを比較している 3).その報告によると,妊娠中の内視鏡検査は,早産,small for gestational age,および低体重児出産のリスク上昇と関連していた一方で,先天性奇形や死産については,リスクの増加は認められなかった.IBD妊婦のみでの解析でも,早産と低体重児出産のリスクは上昇していた.ただし,これらのリスクは疾患活動性と関連すると考えられるが,その点については解析されていない.de LimaらのIBD妊婦での報告では 4),妊娠中に再燃が疑われ大腸内視鏡検査(S状結腸鏡検査を含む)を行ったIBD妊婦42例のうち10例は内視鏡的に再燃を認めなかったが,32例に再燃を認め,うち24例に治療追加変更が行われていた.さらに,年齢,治療薬,活動性をマッチングした内視鏡検査を行わなかったIBD妊婦42例と,妊娠中のイベントを比較しているが,両群に,自然流産,早産,低体重児出生などのイベント頻度に差を認めなかった.一方で,妊娠初期に内視鏡検査を行った妊婦(S状結腸鏡8例,大腸内視鏡4例)のうち,大腸内視鏡検査を施行した2例に検査後1週間程度で自然流産を認めており,内視鏡検査との関連性は否定できないとしている.しかし,本研究における自然流産の発生は,内視鏡を施行していない妊婦のほうが多く10例に認めていた.また,自然流産の12例中11例は活動期であったこともあり,大腸内視鏡検査の影響についての判断は難しい.Koらの報告では 5),IBD疑いもしくIBDの再燃を疑いS状結腸鏡検査(3件の大腸内視鏡検査を含む)を施行した妊婦48例に関し,内視鏡検査の結果を基に78%で治療の追加変更が行われていた.また,内視鏡検査後4週以内に入院が必要になった患者はいなかった.
検査の施行時期に関しては,妊娠中期が選択されていることが多い 4)~6).妊娠初期は自然流産のリスクを,後期は子宮増大による腸管や静脈圧排を考えての選択かもしれない.施行前に,かかりつけの産科医に妊娠の状況確認も含めコンサルトを行うことが望ましい.
前処置について
UCの場合は,微温湯や生理食塩水など刺激の少ない浣腸程度に前処置を留め 6),最も炎症が起こりやすい直腸中心に無理のない範囲での観察とし,深部結腸の評価が必要な場合は超音波検査などで代用することが望ましいと考える.全大腸の観察が必要な場合は,腸管洗浄を行うほうが安全で効率的な内視鏡検査が可能である.使用する経口腸管洗浄液としては,便秘の治療として妊婦に対する安全性が報告されているPEGはリスクが低いと考えられているが,リン酸化ナトリウム製剤は脱水に起因する腎障害など潜在的なリスクがあるため,避けるべきとされている 3).
検査時の注意点
検査時の体位に関しては,特に妊娠中期以降は仰臥位低血圧症候群(子宮による大静脈の圧迫)を避けるために,左骨盤傾斜または左側臥位で行う 3).鎮静剤を使う場合は,適切な薬剤を選択し,過度の鎮静を回避する.薬剤としてはミタゾラムや鎮痛薬ではあるがペチジンを選択している報告が多い 4)~6).検査時間は最小限に抑えるべきであるが,処置などで時間がかかる可能性がある場合は,産科および産科麻酔の専門家と連携し管理を行う 3).
2.小腸内視鏡検査BQ1:小腸内視鏡検査はIBDの鑑別診断に推奨されるか?
ステートメント:IBDの鑑別診断において,デバイス小腸内視鏡(device assisted enteroscopy:DAE),小腸カプセル内視鏡(small bowel capsule endoscopy:SBCE)ともに推奨される
解説:
CD疑い例における,DAEによる診断確定能は約75%,そのうちCD確定診断症例は25~50%であり,DAEはCDの診断に有用である 1)~5).正確な内視鏡所見を病理医に伝達することで,内視鏡下生検が診断能を向上させる可能性がある 3),5),6).手術率の高い狭窄の検出能が高い 7).CDでは最初の挿入ルートは経肛門が推奨され,困難な場合はルートを変えることも考慮する 8)(詳細はCQ12参照).
CD症例におけるSBCEの病変描出能は80%以上であり,CDの典型病変である敷石像や縦走潰瘍の所見,さらには線状びらん,縦走方向や皺襞上に配列するびらんを描出することでCD疑い症例の鑑別診断に寄与する 9),10).SBCEはileocolonoscopy,MRIやCT,消化管X線造影検査よりも診断能が高いことが報告されている 11)~20).貧血や炎症反応高値のCD疑い症例ではSBCEの診断感度が上がるとされる 21),22).CD所見の検出感度はSBCEよりもDAEのほうが高いとの報告がある 3)(詳細はCQ14参照).
IBD-Uの診断においては,DAEと生検あるいはSBCEを繰り返し行うことで確定診断に至ることが期待される 23)~28).
DAEおよびSBCEは,CDと他のIBDであるベーチェット病 29),NSAIDs起因性潰瘍 30)~34),結核 35)~37),虚血性腸炎 37)~40),好酸球性腸炎 41),放射線性腸炎 37),40),42),血管炎症候群 43),CEAS 44)~46),アミロイドーシス 47),48),膠原病 49),50),ポリポーシス 51)~54),悪性腫瘍(悪性リンパ腫など),機能性消化管障害との鑑別診断に有用である.
SBCEを施行する際,腸管洗浄による前処置は視界を改善するが,IBDの診断能を改善するエビデンスはない 55)~58).また,second,third generationのSBCEにおいて,腸管蠕動促進剤の効果は限定的である 59)~61).
SBCEの滞留率は,非IBDに比べてIBD疑いおよびIBD確診症例において高い 26),62)~64).
狭窄症状あるいは既知の狭窄がある場合,SBCEは推奨されない.滞留の予防には十分な問診が重要である.パテンシーカプセルによる開通性診断能および安全性は非常に高く,CDにおける検査前に滞留リスクを除外する手技として推奨される 35),65)~68).また,CT,MRI施行後にSBCEを行うことで,滞留のリスクが低下するとされる 69),70).
診断能や安全性を考慮し,IBDに対する内視鏡検査実施にあたっては,十分な問診を行ったうえで,MRIもしくはCT検査を先行して実施し,病変の部位や重症度および狭窄の可能性を評価する.SBCEを実施する際は,事前にパテンシーカプセルを行い滞留の可能性を評価することを推奨する.さらに詳細な観察および生検診断が必要な場合はDAEを行う.パテンシーカプセルで滞留の可能性があると判断された場合はDAEを行うか,治療後に再度評価する(Figure 1).

IBD確診および疑い例における小腸内視鏡アルゴリズム.
*DAEの挿入経路は他の画像診断結果を参照し決定.
FRQ1:小児IBD患者の診断に小腸内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:小児においてはIBD,特にCD疑い例において,SBCEおよびDAEを推奨する
解説:
CD疑い例におけるSBCEの診断能は50~61%である 1)~4).一方DAEの診断能もSBCEと同等で57~87%である 5)~7).SBCEとの直接比較の検討では,DAE 70.7%,SBCEが77.7%と診断能に有意な差はない 7).通常の大腸内視鏡検査やSBCE未施行で,MRIと超音波検査施行のみの場合でもDAE施行後の診断能は57%と高い 6).しかし,大腸内視鏡検査,上部消化管内視鏡検査,小腸X線造影またはMRI,SBCE施行後にDAEを実施すると診断能は66~87%に向上する 5),7),8).DAEの利点は,組織の採取による病理組織学的診断が可能であることである 9).
小児のDAE適応年齢については,これまでの報告から1歳,体重7.92kgが最年少,最低体重の基準となる 10),11).小児において手技の難易度に影響するのが,腸管壁の脆弱性,腹腔容積が少ないことであるため,体重と年齢が重要な因子である.一方,腸管長は,成人よりわずかに短いだけであり,5歳で450cm,10歳で500cm,20歳で575cmが平均値である 3),10).さらに細径化されたスコープが登場しているため,有害事象も少なく幼小児でも検査が行いやすくなる可能性がある 11).
小児における小腸炎症性疾患の主な鑑別疾患は,CD,UC,IgA血管炎,ベーチェット病,好酸球性胃腸炎などである 12)~15).成人と異なりNSAIDsなどの薬剤性腸管障害の頻度は少ない.また,SBCEは,IBD-Uの鑑別にも有用であり,初期診断がUCまたはIBD-Uの症例において,約25~61.5%でCDへの診断変更が行われている 14),16),17).
SBCEによるCD疑い症例における小腸病変の診断能は43~93%で成人と同様であり,小腸X線造影(12~23%),CT enterogaphy/enteroclysis(20~36%)より高く,MR enterography(MRE)(45~78%)と同等もしくはそれ以上である 18)~20).
小児のCD疑い例においては,狭窄などの呈している病態や鑑別すべき疾患の病態の検出率や診断能,組織採取の必要性,放射線被曝量などを考慮したうえで,各小腸内視鏡検査とそれ以外の検査との有益性と侵襲のバランスを考慮し検査法を選択する.
SBCEの前処置については,検査前8時間は,炭酸を含まない清澄水もしくは腸管洗浄液を除き飲食は控えることを推奨する.腸管洗浄による前処置については,成人同様,視界を改善するが,IBDの診断能を改善するエビデンスはない 21)~23).
SBCEにおける最も重要な有害事象は,滞留である.その頻度は,CDでは2.5%(胃内0.5%,小腸1.9%)と成人(2.6%)と同等であるが,低栄養児でリスクが高くなる 24)~26).現時点では,飲用可能であればパテンシーカプセルによる開通性評価が最も信頼性の高い方法である 27).
小児において2009年には,SBCEとPCともに2歳以上で承認されており,腸管径は新生児で10~15mmでありSBCE,Patency capsule(PC)ともに11~13mm径であるため滞留のリスクと年齢は無関係である.SBCEは非侵襲的な検査ではあるが,低年齢ほど有意にカプセルの嚥下困難例が増加する.カプセルを嚥下できる年齢は,4~5歳からであるが,嚥下できない場合は,専用のカプセル内視鏡挿入補助具を使用し,内視鏡補助下で十二指腸に留置する 4),13),28),29).
BQ2:IBDのDAEに特有な有害事象はあるか?
ステートメント:IBD患者におけるDAEの有害事象に特有のものはないが,潰瘍病変,術後の癒着を有する場合に穿孔のリスクが高くなる
解説:
DAE施行時の診断のみでの全有害事象の発生頻度は1%前後で,IBDに特有の有害事象はない 1)~4).代表的な有害事象とその頻度は,穿孔が0.06~0.5%,急性膵炎が0.09~3%,出血0.1%,誤嚥性肺炎が0.07%である.IBDにおける診断内視鏡においては,穿孔を除いた有害事象の発生率は非IBDと同等である.しかし,IBD特にCDにおいては穿孔の頻度が0.25~2.7%とリスクが高くなるという報告がある 1),2),4)~7).IBDとステロイド使用が穿孔のリスクを高めるという報告もある 7).穿孔例の報告から,炎症による癒着,手術歴または術後の吻合部潰瘍を認める症例において,穿孔のリスクを高める可能性がある(Table 3).また,穿孔はCDにおける内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)施行時に最も留意すべき有害事象であり,日本からの報告ではその頻度は0~4.7%となっている(Table 4) 8)~13).DAEに特有の有害事象である高アミラーゼ血症や急性膵炎のリスクは,経口アプローチが経肛門アプローチより高く,施行時間との関連性があるとされ,DAE後の膵臓組織への物理的負荷が誘因となるといわれている 14),15).また,患者背景のリスク因子に高齢者,手技によるリスク因子として時計回りの挿入といった報告がある 16).シングルバルーン内視鏡(single-baloon endoscopy:SBE),ダブルバルーン内視鏡(double-baloon endoscopy:DBE)など手技による有害事象の違いはない 17),18).DAEの全小腸観察率は,SBE(0~22%)よりもDBE(18~66%)で高く 19),20),またCD症例に限定すると0~12.9%で狭窄や炎症による癒着のため低率になる 21)~23).

IBDとnon IBDにおける小腸内視鏡施行時の穿孔例の比較.

CDにおける穿孔例の報告.
小児におけるDAEによる有害事象の発生頻度は,日本の多数例の報告では 24),257件中14件およそ5.4%で,低年齢ほど増加し10歳以下では67件中7件で約10%と頻度が増える.しかし,その多くは逆行性胆管造影を含む治療内視鏡であり,IBDに限定すると30件の施行で有害事象はなかった.処置を含まないDAE検査のみでの有害事象発生の頻度は,0~1.7%と報告されている 24)~26).小児においては,体重と年齢が有害事象発生の重要な因子であることから,腸管壁の脆弱性,腹腔容積が小さいことなどを考慮し,施設ごとの経験も踏まえて適応を検討することが大切である.主な有害事象は,成人と同様で,治療内視鏡で穿孔や出血などのリスクが増す.検査後の膵炎や膵酵素上昇は,成人と同様に経口アプローチの際にリスクが増す 24)~26).
FRQ2:UC術後に小腸内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:UCの手術後の経過観察としてDAEあるいはSBCEを実施することは推奨されない
解説:
UC患者の13~57%に小腸病変を認めることが報告されており,小腸病変の同定にSBCEは有用である 1)~3).しかし,術前SBCEでの病変の有無と術後のアウトカムとの関連性は認められていない 4).UC術後の摘出標本の検討では,全大腸炎型の22~33%に回腸炎が認められたと報告されている 2),5).しかし,摘出標本上の回腸炎の存在は,術後回腸嚢炎の発生と関連性が認められない 6).以上から,UC患者において,術前および手術時の小腸病変の有無の臨床的意義は明らかではない.
術後慢性回腸嚢炎を来した患者にSBCEを行ったところ,口側小腸にびまん性に潰瘍性病変が認められ,これはX線造影検査では検出できないものであった.しかし,この病変と術後の臨床経過との関連性は認められない 7).
欧米から,UC術後の患者で新規にCDが発生する場合があることが報告されている 6),8),9).一方で,UC手術後の経過観察中に約3%の症例で回腸嚢口側から1~50cmの範囲に炎症性病変を認めるものの,CDと診断された症例はないとの報告もある 10).本邦の集計をみると,UC術後にCDへの診断変更がなされた頻度は非常に少なく,その多くは瘻孔形成をきっかけに診断に至っている 11)~13).その一方で,本邦の多施設研究の結果からUC術後にCDと診断変更された例では高頻度に回腸嚢機能不全を来すことが報告されており,術前診断の重要性が示唆される 11),12),14).
原因不明の貧血があるUC術後に回腸嚢を造設した患者にSBCEを行った結果,9.4%の症例で原因が同定されたとの報告があり,UC手術後の原因不明の貧血に対してSBCEが有用である可能性がある 15).
UC患者の術前,術後に一定の頻度で小腸病変が認められるが,経過観察の小腸内視鏡検査により小腸病変の有無を評価することで術後の臨床経過予測やCDの新規診断あるいは診断変更に寄与するという明らかなエビデンスはない.UC術後患者において,原因不明の貧血などの小腸病変が疑われる臨床所見が出現した場合は,SBCEでの精査が有用であると考えられる.
CQ7:CDの確定診断にDAEは推奨されるか?
ステートメント:CDを疑う患者で大腸内視鏡検査で異常所見を認めない場合,CDの確定診断を目的としたDAEが推奨される
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
CDは臨床症状に加え,血液検査,内視鏡検査や消化管X線造影検査,組織学的検査,さらには横断的画像検査など,種々の検査所見を組み合わせてその診断が行われる 1)~3).中でもCD診断で最も重要視される所見は内視鏡所見であり,本邦の診断基準においても,CD診断の主要所見として縦走潰瘍と敷石像が挙げられている 3).CDが疑われた場合,回腸末端部の観察を含めた大腸内視鏡(ileocolonoscopy)が内視鏡検査の第一選択として推奨されている 4).しかし,CDの10-30%は大腸内視鏡の到達しない深部小腸に病変を認めることが報告されている 5),6).そのため,大腸内視鏡で陽性所見が得られない場合には小腸病変を評価するためにさらなる検査が検討される.海外のガイドラインではCDを疑う患者で大腸内視鏡で異常所見を認めない場合,閉塞症状や既知の狭窄病変がなければSBCEを,また閉塞症状や既知の狭窄病変が存在する場合にはMREやCT enterography(CTE)などの横断的画像検査を先行して行うことが推奨されている 1),4).しかし,このような画像モダリティでは病変の存在診断は可能であるが,CDに特徴的な形態学的所見を有しているか否かを判断することは必ずしも容易ではない.一方,DAEは大腸内視鏡検査では届かない深部小腸の粘膜病変を直接視認できることから,CDの確定診断の根拠となる特徴的な内視鏡所見(縦走潰瘍や敷石像の形態的特徴,腸間膜付着側との位置関係など)を捉えることが可能である.また,内視鏡所見だけでは確定診断が得られない場合でも,生検による組織学的検査を併用することでCD診断につながる場合もある.一方,DAEのデメリットとしては検査の侵襲度が高い,検査に時間を要する,特殊な検査で専門施設に限られる,全小腸の評価が困難である,などの点が挙げられる.実際,海外のガイドラインでは小腸型CDを疑う患者の診断には,SBCEで代用しうるという理由で,DAEは第一選択として行うべき検査ではないとされている 7).しかし,臨床的に狭窄を疑う場合にはSBCEの滞留リスクを回避する観点からDAEのほうが望ましいとも報告されている 7).また近年,本邦からのみならず海外からも小腸CDの診断におけるDAEの有用性が報告されている 8),9).
CQ8:CDの診断にSBCEは推奨されるか?
ステートメント:大腸内視鏡検査で確定診断に至らない場合,CDの補助診断としてSBCEを行うことを推奨する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値5,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
クローン病(CD)の確定診断で最も重要な所見は内視鏡所見であり,本邦の診断基準でもCD診断の主要所見として縦走潰瘍と敷石像が挙げられている 1).国内外のガイドラインでは,CDが疑われた場合,回腸末端部の観察を含めた大腸内視鏡(ileocolonoscopy)が内視鏡検査の第一選択として推奨されている 2)~4).しかし,これらの検査で異常所見が認められず,消化管の閉塞症状や横断的画像検査にて狭窄病変を認めない場合には,海外のガイドラインではSBCEが推奨されている 5),6).SBCEは侵襲性が少なく全小腸の観察が可能であり,小腸粘膜の微小病変の描出にも優れている.実際,CD確定診断後の患者における小腸病変の診断能に関するメタアナリシスではSBCEの優れた診断能が示されている 7),8).しかし,厳密にはこれらの報告は個々の内視鏡所見に着目したCD診断の正確さ(診断能)を示したものではなく,診断が確定されたCD患者ではSBCEによる小腸病変の検出能(有所見率)が高いこと,すなわちSBCEがCD陽性所見の拾い上げに優れていることを示すものであり,その解釈には注意が必要である 7),8).また4つの検査(大腸内視鏡,CTE,SBCE,小腸X線造影)の異なる組み合わせによるCD診断の感度と特異度を検討した報告では,SBCEの特異性が低いため,CTE,小腸X線造影,大腸内視鏡のいずれかを併用したSBCEは,CTEあるいはX線造影検査を併用した大腸内視鏡と比べて,CDの診断精度が劣ることが報告されている 9).また現時点では,CD診断の基準(ゴールドスタンダード)となるCD特異的なSBCE所見は確立していない 10).しかし,EsakiらはCD以外の炎症性疾患にみられる小腸病変と比較して,CDでは敷石像,縦走潰瘍,不整形潰瘍が高頻度に認められ,上部小腸では輪状あるいは縦走配列を示す病変が有意に多いと報告している 11).
CQ9:CD確定診断後の小腸病変の活動性評価として小腸内視鏡は有用か?
ステートメント:確定診断後のCDで,他の画像検査で異常所見がない,あるいは大腸内視鏡検査にて評価できない範囲の小腸病変の活動性評価には,DAEあるいはSBCEによる小腸内視鏡検査の実施を推奨する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
CDと診断された患者の約30%において,回腸末端部の観察を含めた大腸内視鏡(ileocolonoscopy)で到達しない範囲に病変を認める 1).そのため,他の横断的画像検査(CT,MRE,超音波検査)や小腸X線検査で異常所見が認められない場合には,DAEやSBCEによる小腸内視鏡検査の実施が検討される.CDの活動性評価において小腸の粘膜病変を直接視認できるDAEは有用である 2).小腸評価におけるDAEの有効性について,特に本邦よりいくつかの報告がある.Takabayashiらの報告によると,臨床的寛解の患者に対してDAEを行った観察研究では,大腸内視鏡で届かない小腸深部の病変が再燃のリスクであった 3).Takenakaらの報告によると,臨床的血清学的寛解であってもDAEでは45%の患者に小腸潰瘍を認め,これらの病変は再燃や入院・手術のリスクであった 4).また,生物学的製剤使用後に大腸内視鏡にて内視鏡的評価を行うことが一般的であるが,DAEによる評価を行った研究では小腸病変は大腸病変と比べて治りにくく,さらに残存した小腸病変は患者予後不良のリスク因子であった 5).DAEは侵襲性の高い検査と考えられているが,細径の内視鏡スコープを用いることでCDに対して安全かつ低侵襲に病変評価を行うことが可能である 6).また欧州のガイドラインでは横断的画像検査が小腸病変の評価に推奨され,壁内や腸管外の炎症を含めた腹部全体の炎症評価にはMREが有用である 7).しかし,腸管ダメージについてはMREと比較しDAEで高い診断能を示し 8),MREで検出できない小腸狭窄も手術の有意なリスク因子であった 9).したがって,狭窄を有するCD患者に対してもDAEは有用と考えられ,さらに逆行性造影を併用することで内視鏡の通過できない狭窄深部の評価も行うことができる 10).
一方,診断が確定したCD患者におけるSBCEの有用性についても海外を中心にいくつかの報告がある.CD患者におけるSBCEによる小腸の粘膜炎症(Lewisスコア≧135)の検出率は約70%と高い 11).また以前に認識されていなかった病変の検出感度もMREと比べてSBCEで有意に高い 12).CD患者の小腸病変に対するSBCEと他の検査法(小腸X線造影,CTE/enterolysis,ileoconoscopy,push式小腸内視鏡など)の診断能に関するメタアナリシスでは,診断確定後のCD患者における小腸病変の診断能は他の検査法と比べてSBCEが有意に優れると報告されている 13),14).一方,小腸型CD患者におけるSBCE,MREおよびもしくは小腸の造影超音波検査の小腸病変の診断能を比較したメタアナリシスでは,診断確定後のCD患者における小腸活動性病変に対するSBCEの診断能はMREおよび造影超音波検査と同等であった 15).しかし,近位小腸の病変検出能については,CTEやMREと比較し,SBCEが有意に高いことが報告されている 15),16).このように確定診断後のCD患者におけるSBCEの小腸病変の検出能は他の検査方法と比べて同等あるいはそれ以上との報告が多く,海外のガイドラインでも大腸内視鏡や他の検査法で説明できない症状を呈する場合,小腸の粘膜治癒を確認する場合にはSBCEが推奨されている 17).しかし,CD患者におけるSBCE施行に際しては滞留のリスクに注意する.CD患者におけるSBCEの滞留に関するメタアナリシスでは,CDが確定診断された患者ではCDが疑われる患者と比較してSBCE滞留リスクが有意に増加する.しかし,パテンシーカプセルやMREおよびCTEにて狭窄所見陰性を確認した後ではSBCEの滞留リスクが低下することが報告されている 18).よって確定診断後のCDでSBCEを行う場合には,機能的開存性を確認するためにパテンシーカプセルを使用することが望ましい.
CQ10:CD術後の経過観察に小腸内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:CD術後の残存小腸の評価目的には,SBCEまたはDAEによる小腸内視鏡検査が推奨される
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
CD術後の臨床的再燃は5年で30~40%と報告されている 1).臨床的再燃の最も有用な予測因子は内視鏡的活動性と考えられ,術後再燃の評価における現在のゴールドスタンダードは回腸末端部の観察を含めた大腸内視鏡(ileocolonoscopy)である.術後6カ月の大腸内視鏡所見によって治療を最適化することで,術後再燃を減らすことができる 2).大腸内視鏡で届かない範囲にある術後の回腸病変の評価についてはMREやSBCEに関する報告があるがDAEについては限られる 3).Naganumaらは,術後6~12カ月後に経肛門DAEを行ったところ,吻合部付近だけでなく口側深部にもCDの活動性炎症を認めたと報告している 4).
一方,CD術後患者におけるSBCEを用いた活動性評価については小規模ではあるが複数の前向き研究が報告され,その多くは大腸内視鏡との比較である.術後再燃と判断されるSBCE所見の定義については研究ごとに異なるが,そのほとんどはLewisスコア(≧135)またはRutgeertsスコア(≧i,1または≧i,2)に基づくものである.BourreilleやBianconeらの報告ではSBCEによる吻合部口側の新規終末回腸(neoterminal ileum)における術後再燃の検出率は大腸内視鏡ほど高くない 5),6).一方で,SBCEは大腸内視鏡よりも高い頻度で術後再燃を検出できるとする複数の報告も存在し 7),8),一定の見解が得られていない.しかし,SBCEは大腸内視鏡で到達しうる範囲外の小腸病変を半数以上の症例で検出する 5),7).さらに,回盲部切除後の無症候性CD術後患者を対象にSBCEの所見が臨床転帰に与える影響を検討した後向き観察研究では,術後1年以内に大腸内視鏡のみを施行した群と比較し,術後1年以内に大腸内視鏡に加えてSBCEも施行した群では回盲部切除1年後の臨床的および内視鏡的再燃がいずれも有意に低いと報告されている(大腸内視鏡またはSBCEのいずれかで内視鏡的再燃を認めた患者には薬物治療を開始) 9).また,CD患者25例を対象に,術後3カ月未満にSBCEを用いて評価した残存小腸病変と臨床的再燃の関連性を前向きに検討した結果,CD術後患者では高率(84.0%)に残存小腸病変を認め,特に遠位小腸の病変は術後の臨床的再燃と関連することが報告されている 10).このように,術後CD患者におけるSBCEは術後再燃リスクとなる残存小腸病変の早期検出に有用であることが示されている.なお術後のCDに対しても,SBCEを行う場合には機能的開存性を確認するためにパテンシーカプセルを使用することが望ましい 11).
FRQ3:腸管ベーチェット病の評価に小腸内視鏡検査は有用か?
ステートメント:腸管ベーチェット病の評価に小腸内視鏡検査を行うことを提案する
解説:
腸管ベーチェット病の内視鏡所見は,典型的には回盲部を中心に円形または類円形の深掘れ潰瘍とされ,診断基準にも含まれている 1).この病変を確認するためだけであれば,大腸内視鏡でも到達可能な範囲である.しかしながら,もう一つの診断基準として,CDや腸結核,薬剤性腸炎などを鑑別できる,という項目がある.CDとの鑑別にDAEの有用性が報告されており 2),回盲部だけではなく深部小腸の病変を内視鏡的に確認することで診断の精度が高まることが期待される.
また,腸管ベーチェット病の小腸病変については,SBCEで健常者より病変が多く検出されるという報告 3)に加え,63~80%の症例で空腸に病変がみられるといった報告 4),5)や空腸から回腸にかけて病変が増えるといった報告 6)などがあり,大腸内視鏡では届かない範囲に病変が多く存在することが報告されている.また,小腸病変の内視鏡的活動性把握におけるSBCEの有効性を報告した論文もあり 7),腸管ベーチェット病による小腸狭窄も報告されている 8)ことから,その診断に加えて病勢把握やEBDなど治療標的となる病変の探索においても小腸内視鏡検査が有用な可能性がある.
これまでに小腸内視鏡検査の施行の有無による腸管ベーチェット病診断の精度を比較した報告はないものの,このように大腸内視鏡検査を補完する多くの情報が得られることが多くの後ろ向き研究で報告されていることから,禁忌やリスクがなければ小腸内視鏡検査を行い,適切な診断を行うことが重要と考えられる.
3.大腸内視鏡検査CQ11:IBDの診断に大腸内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:IBDの診断のために大腸内視鏡検査を行うことを推奨する
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値8,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:B
解説:
IBDは回盲部〜大腸を中心とした下部消化管の粘膜上皮に炎症性変化をもたらす疾患であり,下部消化管を直接観察することが診断に必須である.Crohnは1932年に世界で初めて消化管造影検査を用いてCDの存在を報告した 1)が,当時は内視鏡検査がまだ一般化されていない時代であった.内視鏡技術は時代を経て進歩・発展したために,消化管造影検査を含めた他のモダリティに対する内視鏡検査の優越性を示す報告は行われてないものの,内視鏡技術が全世界に普及している現在において,UCを含めたIBD診断において大腸内視鏡検査は既にゴールドスタンダードとなっている.そして2004年にHommesらがIBDにおける内視鏡検査の重要性をガイドラインに明記して以来,本邦および欧米の多くのIBD診療ガイドラインにおいて,臨床症状や一般検査からIBDが疑われる場合には確定診断のために大腸内視鏡検査を行うことが明記されている 2)~7).内視鏡検査および生検病理組織検査によりCDとUCとの鑑別,またはIBDと非IBDとの鑑別などが可能であり,また疾患活動性の判定も可能である.
以上より,IBDの正確な診断および治療方針決定のために大腸内視鏡検査を行うことが肝要である.色素内視鏡や拡大内視鏡,画像強調内視鏡,人工知能による診断補助ツールなどが従来の白色光観察を上回る診断精度を持つかについては,今後のエビデンス蓄積が必要である.
CQ12:CDの活動性評価に大腸内視鏡検査は必要か?
ステートメント:CDの回腸終末部や大腸病変の疾患活動性や合併症の評価に大腸内視鏡検査を行い,治療の有効性や再燃などを確認することを推奨する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
大腸内視鏡検査は全大腸のみならず,CDの病変好発部位である回腸終末部や肛門病変の評価ができる.細径スコープの使用や,透視下であれば逆行性の選択的造影検査が可能となり,口側回腸の評価も行うことができる.CDは慢性疾患であり,繰り返し評価を要するため,内視鏡機器の選択とともに,鎮静にも配慮する必要がある.また肛門狭窄を有している場合,内視鏡が挿入困難となることがあるが,本邦のCDは肛門部に悪性腫瘍合併リスクが高く,肛門狭窄の拡張を検討しつつ,細径スコープや十分な鎮静下での内視鏡検査の施行が望ましい 1).
内視鏡的寛解は現在,多くの臨床試験や実臨床における治療目標とみなされている.International Organization for the Study of IBD(IOIBD)は,内視鏡的寛解の定義として,simple endoscopic score for Crohn’s disease(SES-CD)またはCrohn’s disease endoscopic index of severity(CDEIS)で50%以上の減少を内視鏡的有効と定義し,SES-CDで0-2を内視鏡的寛解と定義した 2).また,手術後吻合部の内視鏡的寛解は,Rutgeertsスコアi0-i1(アフタ性病変数が5未満)と定義した 3).内視鏡的寛解は,持続的な臨床的寛解,ステロイドフリー寛解,穿通性合併症のリスクの低下,手術率の低下,入院回数の減少などの転帰改善と関連している 2)~10).CDにおいて腹痛症状や排便回数といった臨床症状を主体としたPatient-reported outcome(PRO)評価は,治療介入1年後の臨床的寛解の予測はできたが,内視鏡的寛解の予測はできなかった 11).このことからCDAIなどの臨床症状のみによる治療効果の判断には限界があることが指摘されている 12).近年,IOIBDから提唱されたSTRIDE-Ⅱでは,高次目標であるQOLの改善や障害の消失を達成するために,内視鏡的寛解を治療目標とすることが推奨されており 13),治療介入後は6~9カ月で内視鏡的に再評価することが推奨されている 14).
一方で内視鏡検査の代替として,低侵襲なバイオマーカーも注目されており,便中カルプロテクチンはSES-CDと中程度の相関を有している 15).また血清ロイシンリッチα2グリコプロテインも内視鏡的寛解の予測に有効であることが示されている 16).内視鏡検査はゴールドスタンダードであり,臨床像とバイオマーカーを用いることで疾患活動性予測の精度向上と内視鏡検査施行時期決定に役立つと考えられる 17).さらに深部回腸の活動性病変は疾患予後に影響を与えることが示されており,小腸病変を有するCDにおいては大腸内視鏡検査による活動性評価では観察範囲が不十分となる可能性がある 18).また消化管開通性の確認,全大腸観察率や腸管洗浄度などに課題が残るが,大腸用カプセル内視鏡は大腸評価に加えて小腸の観察が可能であり,現状,国内未承認であるが,今後のさらなる検討が期待される 19).以上のことから,回腸終末部を含めたCD大腸病変の疾患活動性や狭窄など合併症の評価を目的に大腸内視鏡検査を行うことが推奨される.
BQ3:CD術後再燃の評価のために大腸内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:吻合部やそれ以外の部位の再燃評価のために,術後6~12カ月後に大腸内視鏡検査を行うことを推奨する
解説:
クローン病(CD)は外科的治療では完治せず,術後再燃のリスクがある疾患である.術後再燃率は,臨床的,内視鏡的,外科的など使用する指標によって異なるが,外科的再燃が最も低くなり,内視鏡的再燃が最も高くなる 1).術後再燃の評価として大腸内視鏡検査を行うことで,臨床症状では判断できない再燃や,吻合線上の虚血による病変とCD再燃による病変の鑑別,狭窄など合併症の確認が行える可能性がある 2).また,術後3カ月以内に施行したSBCEによって,85.7%の症例に吻合部以外に残存もしくは再燃の活動性病変が指摘されている 3).さらに,回盲部切除後の再手術は,吻合部や口側小腸のみならず大腸病変が原因部位となりうるため 4),大腸内視鏡検査による評価は重要である.検査を施行する際は患者負担の軽減のため可能であれば十分な鎮静を行い,観察目的部位に合わせた内視鏡スコープを選択するなど工夫が必要である.
術後に治療介入をせず経過観察した場合の臨床経過は,術後寛解維持療法の試験におけるプラセボ群の経過が参考となる.これらのメタアナリシスにおいて,術後1年の内視鏡的再燃率は中央値で58%[95%信頼区間(CI):51~65]であった 5).その後,前向き研究においても術後1年での内視鏡的再燃はインフリキシマブ導入群よりプラセボ群で有意に高く(9.1% vs. 84.6%,p=0.0006) 6),18カ月後においても同様であった(22.4% vs. 51.3%,p<0.001) 7).一方で本邦における腸管手術後5年および10年の累積再手術率は,それぞれ23.4%および48.0%であった.しかし,2002年5月以降に初回手術を受けた患者の5年累積手術率は18.5%であり,2002年4月以前に手術を受けた患者の5年累積手術率29.4%よりも再手術率が有意に低く[ハザード比(HR):0.72,95%CI:0.61~0.86],内科的治療の進歩に伴い,術後再手術率が低下していると思われる 8).
臨床的再燃の臨床的予測因子として,術前の疾患活動性,手術の適応[モントリオール分類B2(狭窄型)よりもB3(穿通型)が関連],過去の切除回数が挙げられている 9).また喫煙は最も重要な危険因子であり,メタアナリシスでは内視鏡的再燃の危険性が2.5倍,臨床的再燃が2倍になることが示されている 10).European Crohn’s & Colitis Organisation(ECCO)は現在の喫煙,モントリオール分類B2/B3,早期のステロイド使用,小腸病変,若年発症を術後再燃のリスク因子として挙げ,British Society of Gastroenterology(BSG)は喫煙,モントリオール分類B3,複数回の腸管切除歴,痔瘻,広範な小腸病変,残存する活動病変を2つ以上有する場合にリスクを有すると定義している 1),11).そしてECCOおよびBSGが定義する危険因子を3つ以上併せ持つ患者には,術後早期の治療介入が望ましいことが示唆されており,こうしたリスク因子を有するCD患者は精度の高い術後再燃の評価の必要性が高い 12).
術後吻合部の内視鏡再燃はRutgeertsスコア≧i2[アフタ性病変数が5以上(病変と病変の間に正常粘膜を認める),Skip lesionまたは病変が回腸結腸吻合部に限局(<1cm)している]と定義されているが 9),術後クローン内視鏡再燃無作為化臨床試験であるPOCER studyにおいて,術後6カ月目の内視鏡活動性評価(Rutgeertsスコア≧i2の場合はアルゴリズムによる治療のステップアップあり)が,活動性評価をせずに術後早期に採用した薬物療法を継続するよりも,18カ月後の内視鏡的再燃[相対リスク(RR):0.73,95%CI:0.56~0.95]の予防に寄与していた 13).この研究では,83%の患者が再燃の高リスクとして術後にアザチオプリンまたはアダリムマブの投与を受けており,治療介入を行っていた場合でも術後の活動性評価が重要であることを示唆している.これらからCD術後再燃の評価には6~12カ月後の大腸内視鏡検査による内視鏡的評価が推奨される.内視鏡的評価を行い,治療介入がなされた場合は6カ月程度を目安に内視鏡的評価の再検を試みる.大腸内視鏡検査以外の評価としては臨床的活動度や便中カルプロテクチン(FC)などのバイオマーカーが挙げられるが,疾患活動性指数であるCrohn’s disease activity index(CDAI)は腸管切除1年後の内視鏡所見と一致率が高くない(κ=0.12) 14).FCによる術後再燃の検討では,CDAIより精度が高い陰性的中率を示した 15),16).また,FCが100µg/g上昇すると,臨床的再燃リスクが18%上昇するという報告もある 17).しかしFCは深部小腸による影響も受ける可能性があることに留意し,術後の低侵襲な活動性評価として用い,必要時に大腸内視鏡検査を行うことが望まれる.
CQ13:CDの内視鏡的評価にスコアリングは有用か?
ステートメント:CD内視鏡所見の客観的評価に内視鏡スコアリングを推奨する
修正Delphi法による評価:中央値7,最低値6,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:B
解説:
IBDにおけるtreat-to-targetの診療戦略において,内視鏡的寛解は現時点での客観的で理想的な長期的治療目標とされているが 1),内視鏡所見の評価が内視鏡医によって差異が起こりうることは良く知られており,内視鏡検査は主観的な検査ともいえる 2).その主観性を客観化し,他の患者との比較や同一患者の経過観察などに有用なデータとするために内視鏡スコアを用いることが有用であることは多くの文献によって示されている 3)~5).臨床的な疾患活動性と内視鏡的活動性が,特にCD小腸病変において相関性が低いことが知られており 6),実際のCD活動性を評価するために内視鏡観察を行う意義が認識されていた 1).例えば著名なSONIC studyや本邦で行われたDIAMOND studyのような多施設前向きランダム化比較試験でも,内視鏡スコアを用いたデータで各治療の有効性の比較がなされている 7),8).まず,代表的なスコアの評価部位,評価方法,validationの有無などを理解しておく必要がある 9).
CDの内視鏡スコアで最も古いのは1989年に発表されたCDEISであり,validationもされている 10).しかし,大腸は右側結腸,横行結腸,左側結腸,直腸と4部位に分けてスコアリングするのに対し,小腸は回腸終末部の1部位のみで,conventional ileocolonoscopyで観察可能な範囲の評価に留まっている.何よりも重回帰分析に基づく計算式が複雑で日常臨床はおろか臨床研究でも近年は用いられなくなっている.このCDEISの煩雑な欠点を補うため,2004年にSES-CDが開発され,validationもされている 11).しかし,評価部位はCDEISと同じであるほか,抗TNF-α抗体製剤が登場すると,治療が有効で瘢痕治癒したことにより狭窄が悪化し,狭窄のサブスコアの悪化により治療の有効性が正確に評価されない課題が指摘されるようになった.こうした課題を補うために改変したSES-CDを用いる臨床研究も増えてきている 12).特に,SES-CDの各サブスコアに重み付けの係数を付加したmodified multiplier SES-CD(MM-SES-CD)は,入院や手術の責任病変の頻度が高い回腸の係数が他部位よりも大きくなっており,注目されている 13).
一方,CDでは術後再燃も重要な課題であり,代表的な手術である回盲部切除の回結腸吻合部をneo-terminal ileumとして,臨床的再燃に先行して内視鏡的再燃が起こることが示され 14),現在の術後6~12カ月後に内視鏡検査による評価を行う礎を築いた.この研究で用いられた内視鏡スコアは開発者の名を冠してRutgeertsスコアと称され,判定部位が1カ所である簡便さから,術後の吻合部再燃に留まらず,他の部位の評価にも用いられる場合もある.CDは理論上,全消化管に病変が発生しうる疾患であるが,定期的な内視鏡検査を全消化管に対して行うことは臨床上,困難である.このため,個々のCD患者の最も重要な部位を評価することでtreat-to-targetの診療戦略における内視鏡検査の実効性を確保していこうとする考えが提唱されており,今後の検討課題となっている 15).
別の視点として,CDは狭窄等,腸管ダメージが進行しうる疾患で,単に消化管粘膜病変のactivityだけでなく,狭窄など腸管破壊によるseverityも課題となる疾患で,こうした要素も反映したスコアとしてLémann Indexが開発された 16).上部消化管内視鏡検査および大腸内視鏡検査に加え,小腸病変はMREないしSBCE,さらにMRIによる肛門病変の評価まで網羅された本スコアは,網羅的な各種画像診断と非常に煩雑な計算を要し,実臨床で用いることは困難であり,今後の改良や同じ意図を持った別スコアの開発が期待される.この他には,SBCE用のスコアとしてLewisスコアとCECDAI(capsule endoscopy Crohn’s disease activity index)が存在する 17),18).共にvalidationされているが,前者はCDに特化して開発されたものではないことに留意が必要である.
内視鏡的有効や内視鏡的寛解の定義,また治療強化の指標も大切で,最も頻用されるSES-CDで内視鏡的有効は50%を上回る減少,内視鏡的寛解は2以下とIOIBDで定義されている 19)ほか,最近では内視鏡寛解を全消化管における潰瘍性病変の消失とする定義も提唱されている 4).どのような指標で治療強化するかは,内視鏡所見のみならず個々のCD患者の臨床経過,前回検査からの変化の度合いなどを総合的に検討して決定されるべきものではあるが,イメージしやすい内視鏡的指標としてRutgeertsスコアのi2[アフタ性病変が5個を上回る(病変と病変の間に正常粘膜を認める).Skip lesionまたは病変が回腸結腸吻合部に限局(<1cm)している]を亜分類したmodified Rutgeertsスコアが受け入れられてきており,i2b[アフタ性潰瘍が5個を上回るもしくは大型病変で病変と病変の間に正常粘膜を認める,または口側回腸病変を認める(吻合部に病変の有無は問わない)]が治療強化の目安とされている 20).今後,この指標を用いた知見の蓄積が期待される.
CQ14:CD大腸狭窄に対する内視鏡的治療は有効か?
ステートメント:CD大腸狭窄に対してEBDを推奨する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
CDにおける狭窄は腸管合併症の一つであり,腸閉塞による入院や手術の原因となりうる.CDの狭窄に対するEBDは,こうした入院や手術の回避に有効である 1).特に狭窄病変に内視鏡が届く可能性が高い大腸狭窄に対するEBDは,小腸狭窄に比して,手技難易度の低下による成功率の向上が期待できる.EBDの有効性のエビデンスとなるランダム化比較試験は存在しないが,いくつかのメタアナリシスが報告されている.141回のEBDを解析したメタアナリシスでは,短期的有効性が87%,穿孔などの合併症発生率が2.9%で,23.1カ月の観察期間で70.5%に症候的再燃を認め,59.6%で再EBD,30.8%で手術を要したと報告されており,症候的再燃(HR:2.1,p=0.003),アジア人(HR:2.8,p<0.001),病変存在部位が小腸(HR:1.9,p=0.004)であることが再EBDの,狭窄前拡張(HR:1.9,p=0.001)が外科手術のリスク因子だったと報告されている 2).吻合部狭窄と非吻合部狭窄を比較したメタアナリシスでは,EBD後の手術率は吻合部狭窄のほうが低率(18% vs. 29%)だったが,リスクに差はなかった(RR:0.88,95%CI:0.59~1.32,p=0.54)と報告され,4cm未満の狭窄長が有意にEBD後外科手術を要するリスクを低下させたとされた(RR:0.48,95%CI:0.26~0.90,p=0.02) 3).一方,長期予後に関しては本邦の小腸狭窄を含む72例の観察研究では,EBD後の累積非手術率が3年で81.1%,5年で73.5%と報告されており,16歳以下でのCD発症がEBD後に手術を要するリスク因子だったとしている(HR:3.69,95%CI:1.36~10.01,p=0.011) 4).
CDの短期的有効性は手技的な成功が,長期的な有効性はtreat-to-targetに基づく内科的治療が左右する.手技的な成功は適応の正確な判断が大切で,①狭窄長が5cm以下,②狭窄部に瘻孔や膿瘍を伴わない,③狭窄部に深い潰瘍が存在しない,④高度の屈曲や癒着が存在しない,ことが挙げられている 5)~7).他には内視鏡機器の選択,先端アタッチメント,拡張バルーンの大きさなどの手技的要素も関連する.一方,内科的治療はEBD後の長期予後に影響し,薬物療法のデータを有する25研究をまとめたシステマティックレビューでは,抗TNFα抗体製剤を投与されたCD患者は4年間の観察で50%が手術回避されていたと報告している 8).また,本邦のCD小腸病変に対するEBDの観察研究では,狭窄部に潰瘍性病変を有する症例のEBD後の累積手術率は1年で19.2%,5年で39.8%であり,狭窄部に潰瘍性病変を有する症例のほうが潰瘍を有しない症例より有意にEBD後の手術率が高率(31.7% vs. 11.4%,p=0.029)で,多変量解析でもリスク因子(HR:4.84,95%CI:1.58~14.79,p=0.006)だったと報告している 9).大腸狭窄でも同様の結果が推測され,treat-to-targetの診療方針に基づくEBD後の内視鏡検査による狭窄部の評価と適切な内科治療の施行が,EBD後の長期予後改善をもたらすと期待される 10).なお,痔瘻や肛門周囲膿瘍を伴うことが多い肛門部の狭窄は,大腸狭窄とは異なるアプローチが必要で,発癌リスクも視野に入れたマネージメントが必要である.
EBD以外のCD狭窄に対する内視鏡的治療法として,ステント留置術と内視鏡的切開術(endoscopic stricturotomy:ES)が挙げられる.ステント留置術に関する163例9研究を解析したメタアナリシスでは,7研究が自己拡張型金属ステントを2研究が自己崩壊型ステントを用いており,技術的成功率が93%(95%CI:87.3~96.3),狭窄症状が消失する臨床的成功率が60.9%(95%CI:51.6~69.5)で,再ステント留置を9.6%(95%CI:5.3~16.7)に要したと報告している 11).注目すべきは有害事象で,全有害事象を15.7%に,口側へのステント逸脱を6.4%に,穿孔を2.7%に,腹痛を17.9%に認めたとしている.自己拡張型金属ステント留置術とEBDを比較した前向きランダム化比較試験(ProtDilat study)では,39例の自己拡張型金属ステント留置術群と41例のEBD群が比較され,1年後までに新たな治療介入を要しなかった割合は,EBD群が80%に対し自己拡張型金属ステント留置術群が51%と有意にEBDが有効であったとした[オッズ比(OR):3.9,95%CI:1.4~10.6,p=0.0061] 12).腸管狭窄が進行するCDの病態や,ステントが逸脱した場合の外科手術への影響を考慮すると,CD大腸狭窄に対するステント留置術の有効性と安全性は,現時点では未確立といえる.さらに,本邦の大腸用ステント留置術は,良性疾患には保険適用がないことも視野に入れておく必要がある.
ESに関するエビデンスはさらに乏しく,ケースシリーズ等が主体である.21例のESと164例のEBDを後向きに比較した研究では,短期的な手技的成功率はESが100%に対しEBDが89.5%で,狭窄症状の改善は72.7%対45.4%(p=0.08)とESはEBDと比較して有効率が高い傾向があったと報告している 13).内視鏡的治療後に外科手術を要した確率はESが9.5%,EBDが33.5%で有意にESが低率だった(p=0.03)が,内視鏡的治療後の輸血はEBDが要しなかったのに対し,ESは8.8%で要したとした.回盲部切除後吻合部狭窄に対するESと吻合部切除術を比較したヒストリカルコホート研究では,37例のESと147例の吻合部狭窄術が比較され,術後に外科手術を要した確率はESが11.3%に対し吻合部切除術が10.2%と差がなかったが,有害事象はESが10.2%だったのに対し吻合部切除術が31.9%と有意にESが低率だったと報告している 14).ESの適応は現状では限定的で,回盲部切除後吻合部や遠位回腸の短い狭窄に限定されており,手技的にもEBDより高度な内視鏡技術を要することから,その有効性と安全性は未確立といわざるを得ない.
CQ15:UCの内視鏡的活動性評価はどのような指標が推奨されるか?
ステートメント:UC内視鏡的活動性評価の指標としては現在MESが最も汎用されているが,治療前後の内視鏡的改善の程度をより客観的に評価するにはUCEISの使用も推奨される
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:D
解説:
UCに用いられている内視鏡的活動性スコアの使用頻度については厚労省の「第二版 炎症性腸疾患の活動性評価指標集」 1)に記載されている.これはPubMedを用い,[Ulcerative Colitis] and [Clinical trial](English)を検索ワードとして文献検索を行い,UCの内視鏡的活動性スコア(Endoscopic index)の指標による評価があると推定された164の論文の中においてその使用頻度を調べたものである.その結果使用報告数が最も多いのがMayoスコア(Mayo endoscopic subscore:MESも含む) 2)であり,使用報告数は113で頻度は68.9%であった.MESは,臨床活動指標と同時に評価できる利点があることから,臨床治験などの治療評価において現在最も汎用されている指標になっていると考えられる.その評価方法は4段階評価であり,0は正常または非活動所見,1は軽症(発赤,血管透見像の減少,軽度脆弱),2は中等症(著明に発赤,血管透見像の消失,脆弱,びらん),3は重症(自然出血,潰瘍)となっている.MESのよいところは4つのスコアしかないため簡便であるという点であるが,それゆえに治療前後でのスコアの変化が乏しいという欠点も有している.
MESの使用頻度に続くものとしてはDAI score(Sutherland indexを含む)が29.9%,Rachmilewitz indexが6.7%,Baron index(modified Baron indexを含む)が4.9%であるが 1),MESと比較するとその使用頻度はかなり低く本邦での普及率も高くはないと思われる.
Ulcerative colitis endoscopic index of severity(UCEIS) 3)は2012年にTravisらによって提唱された新しい内視鏡スコアであり,2013年に改定されたもの 4)が現在使用されている.この指標は“血管透見像”,“出血”,“びらんと潰瘍”の3つの評価項目に関して,それぞれ最も所見が強いところを別個に評価して,それらを合計してスコアを求めるという方式になっている.したがって,各所見の変化が容易に評価でき,またスコアの範囲も0~8と比較的広いことより,MESに比較すると内科的治療前後の内視鏡的改善の程度がより客観的に評価することができると考えられる.また,内視鏡判定の評価者によるばらつき(inter-observer variation)を評価するためのvalidationも行われており,評価者間において高い一致度であったことも示されている 4).現時点では使用頻度は3.7%と高くはないが 1),粘膜治癒に関して書かれた論文での採択率は年々上がってきていることから,今後の使用頻度はさらに高くなっていくものと考えられる.
上述したスコアについては,観察範囲の最重症部位がスコアリングされるため,治療により病変範囲が明らかに減少したとしてもGradeは変わらない場合がある.これはこれらの欧米で提唱された内視鏡スコアが基本的にS状結腸鏡による評価を前提に作成されたものであるためである.しかし,現在では全大腸内視鏡検査は世界的にも広く行われるようになり,UCの重症度は粘膜の重症度だけではなく,病変範囲の経時的な変化も評価するべきという考えが提唱されはじめている.2013年に報告されたUlcerative Colitis Colonoscopic Index of Severity(UCCIS) 5)は盲腸・上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸,直腸の各5区域で,血管像,顆粒像,潰瘍,出血性・脆弱性の4項目についてそれぞれスコアリングして加算する.これらの4項目は過去の報告においてinter-observer agreementが高い評価項目が採用されており,評価者間の一致度が高くなることが期待されるが,スコアの評価が病変範囲によって大きく変化するため,病型の異なる患者の相互比較はできないという欠点がある.また,スコアの算出方法も煩雑であり,この点においても今後の普及率に影響を及ぼすと思われる.
CQ16:UCにおける内視鏡的寛解の定義は何か?
ステートメント:UCにおける内視鏡的寛解の定義の統一はなされていない.最も汎用されているMESにおいては0または1を内視鏡的寛解とすることが提唱されている
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:D
解説:
UCの治療目標としては内視鏡的寛解,すなわち粘膜治癒が掲げられて久しいが,その定義については明確ではない.現在UCにおいて最も使用頻度が高い内視鏡的活動性スコアはMESであるが 1),MESにおける粘膜治癒はMES0のみとするのか,MES0とMES1にするのか論文によって異なる状況であった.インフリキシマブの臨床研究においてMES0とMES1の間にはその後の手術率に差を認めないということが示され 2),UCの治療目標としてはMES1以下を目指すことであると考えられてきた.しかし,2015年に発表されたSelecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease(STRIDE) 3)において,最適な治療目標はMES0であり最低でもMES1を目指すべきと明記された.さらに2016年に発表されたスペインの縦断コホート研究において 4),大腸内視鏡検査を実施してMES0またはMES1を確認できたUC187例の臨床的再燃についてカプランマイヤー法を用いて検討したところ,MES0はMES1に比較して臨床的再燃率が有意に低いことが示され(p=0.0002,log-rank test),MES0を達成することの臨床的な意義が示されるようになった.2020年に発表されたMES0とMES1を比較した17の臨床研究を対象としたメタアナリシスでは,MES1に比較してMES0を達成した患者は臨床的再燃のリスクが52%低くなることが示された(RR:0.48,95%CI:0.37~0.62) 5),6).最新のUCに対するウパダシチニブの有効性を検討した国際臨床試験において,副次的評価項目としてMES1以下をendoscopic improvement,MES0をendoscopic remissionと明記されており 6),今後はMES0を内視鏡的寛解とする方向に進んでいくことが示唆される.
一方,MESとならんで最近使用頻度が増えてきているUCEISであるが,原著において内視鏡的寛解の定義は記載されていない 7),8).Vuittonらは15名のIBD専門医によって行われたDelphi法による2回の投票の結果から,内視鏡的寛解についての定義に関してのコンセンサス形成を試みており,その結果UCEIS 0を内視鏡的寛解と定義することに高い同意が得られたと報告している 9).UCEISに関してはまだ臨床試験における評価項目として取り上げられることが多くないため,今後の報告の蓄積を待ってさらなる検討を行うことが必要になると思われる.
CQ17:UC治療介入後に大腸内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント1:治療介入後に臨床的寛解が得られた場合,内視鏡的活動度等を確認する目的で大腸内視鏡検査を行うことを提案する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値4,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:D
ステートメント2:治療介入後に臨床症状の改善に乏しい場合に治療法変更を検討するために内視鏡検査を行うことを提案する
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:D
解説:
複数のバイオマーカーが実臨床にて使用可能となった現在でも,内視鏡検査は疾患活動性を評価するための重要な検査方法である.ECCOのIBDに対する内視鏡ガイドライン 1),2)では治療後の内視鏡による再評価は,治療抵抗例,説明できない症状が残存する場合,再燃した場合や手術を考慮する際に施行されるべきであることが記載されている.またその際にはS状結腸鏡による評価が勧められている 2).
一方で,治療開始後に臨床的寛解が得られている場合に内視鏡による活動性の再評価を行うことの意義を直接検討した研究はないが,最新のECCOガイドラインでは,治療介入後には臨床症状に加えて内視鏡やバイオマーカーを組み合わせて治療効果を判定すべきであることが記載されている 2).また,内視鏡的改善がその後の臨床的寛解,ステロイドフリー寛解,手術との関連があることがコホート研究 3)およびメタアナリシス 4)により報告されているが,治療介入後の内視鏡的活動度と予後に関する研究としては,タクロリムス 5)~7),抗TNFα抗体製剤 8)~10),シクロスポリン 11)治療後の内視鏡活動度が再燃や手術などの予後と関連していることが報告されている.このような背景を踏まえてSTRIDE-Ⅱではtreat-to-targetにおけるアルゴリズムとして治療介入後に内視鏡検査による評価を行うことを推奨している 12).
治療介入した場合の内視鏡的活動度の再評価の時期に関する根拠はないが,治療効果が得られた場合には治療後3~6カ月をめどに粘膜治癒を内視鏡もしくは便中カルプロテクチンで評価すべきであることが記載されている 2).また,上述のSTRIDE-Ⅱでは内視鏡的寛解を達成する時期は治療法によって異なり,11~20カ月とされている.
FRQ4:重症UCに対して大腸内視鏡検査は推奨されるか?
ステートメント:適応を十分に検討し経験のある内視鏡医によってS状結腸鏡検査を行うことを提案する
解説:
重症UCにおける内視鏡検査の意義を直接検討した研究はないが,腸管粘膜の炎症強度,範囲,感染性腸炎など他疾患の鑑別,サイトメガロウイルス再活性化の組織学的評価などの点より,状況が許されれば内視鏡検査を行うことが望ましい.その場合S状結腸鏡を施行することが望ましい 1).内視鏡検査による腸管穿孔のリスクがあることより,適応を十分に検討し経験のある内視鏡医によって短時間で施行することが勧められる.重症例では送気を最小限にすること,腸管洗浄液を使用せずに施行すること,また炎症が強い場合には直腸での反転操作は回避するべきである 2).
海外の入院適応であるAcute severe ulcerative colitisにおいて,治療前の内視鏡的活動度と治療効果との関連を検討した研究がなされている.CRP 50mg/L以上,アルブミン3.0g/dL以下,Mayo内視鏡スコア3がステロイド抵抗性のリスク因子であることが報告されている 3).別の研究において,手術を要する因子としてdeep ulceration 1),治療前のUCEISが高い症例 4),5)が挙げられている.以上より,重症例において治療前に大腸内視鏡を施行することは疾患活動性や治療効果予測に有用であると考えられる.