日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
直腸の浮腫状隆起性病変を契機に診断しえたS状結腸直腸瘻の1例
山本 嘉太郎 今西 みゆき河合 淳一中嶋 紀元中沢 啓東野 健新田 敏勝芥川 寛廣瀬 善信西川 浩樹
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2024 年 66 巻 7 号 p. 1472-1477

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要旨

症例は74歳,男性.慢性膵炎に対する経過観察の腹部造影CTで直腸に隆起性病変が指摘された.CSを行うと,直腸にクッションサイン陽性で浮腫状の隆起性病変とS状結腸にスコープの通過が困難な狭窄を認めた.透視下でCSを行ったが,狭窄より口側の造影が困難であった.カテーテル下にガイドワイヤーを狭窄より口側に進めると,直腸の隆起性病変と交通がありS状結腸直腸瘻と診断した.その後,腹腔鏡下低位前方切除術を行ったが,直腸の隆起性病変は認めなかった.切除標本でS状結腸に多発の憩室を認め,病理診断は憩室炎が原因で形成されたS状結腸直腸瘻であった.直腸の隆起性病変はその経過で一時的にみられた変化と考えられた.

Abstract

A 74-year-old man with a history of chronic pancreatitis underwent follow-up contrast-enhanced abdominal computed tomography that revealed an elevated rectal lesion. CS revealed an edematous, elevated lesion in the rectum with a positive cushion sign and stenosis in the sigmoid colon, which was difficult to pass the scope through. CS under fluoroscopy was planned; however, the contrast agent could not reach the oral aspect of the stenosis. A guidewire was advanced toward the oral aspect of the stricture under catheter guidance. The guidewire appeared from the elevated rectal lesion, confirming the diagnosis of a sigmoidorectal fistula. The patient subsequently underwent laparoscopic low anterior resection on a standby basis. The resected specimen showed multiple diverticula in the sigmoid colon and the pathological diagnosis revealed a sigmoidorectal fistula formed by diverticulitis. The elevated lesion in the rectum was thought to be a temporary change during the course of fistula formation.

Ⅰ 緒  言

大腸憩室症は生活習慣様式,特に食生活の欧米化,高齢社会の進行により増加傾向にある.大腸憩室症の合併症の1つに瘻孔形成があり,憩室周囲の炎症,特に憩室周囲膿瘍が腹壁や他の腹腔内臓器に波及することによって形成される.最も頻度が高いものは結腸膀胱瘻であり 1,結腸直腸瘻は報告が少なく稀である.今回,われわれは,直腸に形成された浮腫状の隆起性病変をきっかけにS状結腸直腸瘻と診断し,待機的に手術を行った1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:74歳,男性.

主訴:下腹部痛.

既往歴:慢性膵炎.S状結腸憩室.

現病歴:2021年12月,慢性膵炎に対する経過観察の腹部造影CTでS状結腸に憩室と壁肥厚,直腸に20mm大の隆起性病変(Figure 1)を認めた.S状結腸周囲に憩室炎や腹膜播種を示唆する所見はみられなかった.2022年1月に外来で大腸内視鏡検査(CS)を施行したところ,直腸(Ra)に20mm大の隆起性病変(Figure 2-a)を認めた.隆起性病変は浮腫状で,クッションサイン陽性であり中心部は陥凹していた.その10cm口側は腸管の強い屈曲と抵抗があり,スコープ(PCF-290 ZI,Olympus,Tokyo,Japan)は通過しなかった(Figure 2-b).そのため,より径の小さいスコープ(GIF-H290Z,Olympus,Tokyo,Japan)に変えて試みたが困難であり,狭窄をきたしていると考えた.観察範囲内で炎症所見や悪性所見を疑う所見はなく,狭窄部や隆起性病変とその周囲より生検を行ったが,病理所見でも炎症所見や悪性所見はみられなかった.

Figure 1 

腹部造影CT.

直腸に20mm大の隆起性病変を認めた.

Figure 2 

大腸内視鏡検査.

a:直腸にクッションサイン陽性で浮腫状の隆起性病変を認めた.

b:S状結腸に腸管の強い屈曲と抵抗のためスコープ通過が困難であり,狭窄をきたしていると考えられた.

2022年2月に入院で透視下CSを施行し,スコープを狭窄部まで進ませカテーテル(MTW;Endoskopie,Wesel,Germany)でガイドワイヤー(MICHISUJI;KANEKA MEDIX,Osaka,Japan)を口側に進ませてアミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液(ガストログラフィン)による消化管造影を行ったが,口側の腸管や狭窄部は造影されなかった.むしろ直腸領域の造影効果が増強している所見が認められた.ガイドワイヤーの先端を透視下で狭窄部口側に維持しながら内視鏡を直腸まで引き抜くと隆起性病変からガイドワイヤーが出現しており(Figure 3),S状結腸の狭窄部口側と直腸に瘻孔が形成されていると考えた.ガイドワイヤー留置のまま撮像した腹部単純CT(Figure 4)でガイドワイヤーにより瘻孔が確認でき,free airなどの消化管穿孔を疑う所見は認めず,緊急手術の適応はないと考えた.狭窄による症状は明らかでなく,腹部単純CTで口側腸管の拡張を認めていないものの,スコープが通過困難な狭窄が存在すること,口側の観察ができておらず悪性疾患の除外ができていないこと,さらに腫瘍マーカーが高値(CEA:8.9ng/ml,CA19-9:142.4U/ml)であることより,外科的切除を積極的に勧めた.しかし,腹痛や血便などの症状が乏しいことからこの時点では手術を希望されず,外来で厳重経過観察とした.

Figure 3 

透視下大腸内視鏡検査.

ガイドワイヤーによってS状結腸の狭窄と隆起性病変の交通が示唆された.

Figure 4 

腹部単純CT.

ガイドワイヤーによってS状結腸直腸瘻が確認でき,腸管の穿孔所見は認めなかった.

その4カ月後,2022年6月に下腹部痛を主訴に当院へ救急搬送となった.腹部造影CTでは,上行結腸から下行結腸の広範囲に浮腫性壁肥厚(Figure 5-a)を認め,S状結腸では壁肥厚(Figure 5-b)による閉塞の可能性があり,閉塞性大腸炎が疑われた.この時,直腸の隆起性病変は指摘できなかった.腸管虚血を疑うような造影不良域は認めず,血液検査では炎症反応の上昇(WBC:11,000/μl,CRP:4.01mg/dl)は認めるものの,腹部所見に乏しく,緊急手術の適応はないと考え,まずは絶食・輸液・抗菌薬(Cefmetazole;CMZ 1g q12h)加療で入院の方針となった.炎症反応と腹部症状が軽快し,第15病日に食事再開した.入院中のADL低下のためリハビリテーションを積極的に行い,第39病日に退院となった.その後の外来で,手術を希望された.再入院の上,2022年9月に腹腔鏡下低位前方切除術,回腸人工肛門造設術を施行した.摘出標本においても,CS時に認めた直腸の浮腫状の隆起性病変は認められなかった.肛門縁から7cmの上部直腸とS状結腸の間に瘻孔を認めた(Figure 6-a).ゾンデで示された瘻孔形成部に割を入れ病理学的に評価したところ,瘻孔をきたしたS状結腸と直腸の間には著明な線維化を認めた(Figure 6-b).S状結腸には憩室が散見され,瘻孔はS状結腸の憩室炎により形成されたものと診断した.

Figure 5 

腹部造影CT.

a:上行結腸から下行結腸広範に浮腫状壁肥厚と腸管の拡張を認めた.

b:S状結腸に壁肥厚を認め,閉塞起点が疑われた.

Figure 6 

摘出標本,病理組織.

a:S状結腸から上部直腸に瘻孔を形成し,瘻孔形成部と壁側腹膜に強固な癒着を認めた.

b:S状結腸に憩室(矢印),S状結腸(白星印)と直腸(黒星印)の間に線維化した癒着所見(矢頭)を認めた.

Ⅲ 考  察

大腸憩室症は,かつて欧米で頻度が高くアジアやアフリカでは少ないとされていたが,食生活の欧米化に伴い近年わが国においてもその頻度は急速に増加傾向であり 2),3,発生頻度は29.4%とされている 4.大腸憩室症の好発部位として,かつて欧米ではほとんどが左側型であり,日本を含めたアジア諸国では右側型が多い 5),6とされてきたが,近年は本邦でも左側型の頻度が増加している.若年者では右側(盲腸~横行結腸)優位であり加齢とともに憩室数が増加し,左側(下行~S状結腸)憩室の頻度が高まる.危険因子として,加齢のほか,男性,飲酒,成人後の体重増加,喫煙,高HbA1c値,高中性脂肪値と報告されている 3.自験例は,加齢,男性,飲酒が危険因子として該当する.憩室炎や出血などの症状を呈するものは全体の約20%と報告されており 7,そのうち腸管外へ瘻孔を形成するものは約2%といわれており 8,稀である.瘻孔形成は,憩室炎による周囲膿瘍が腹壁や他の腹腔内臓器に波及することによって形成される 1.最も高頻度なものは結腸膀胱瘻であり,多い順に,結腸結腸瘻,結腸回腸瘻,結腸皮膚瘻,結腸肛門瘻などの報告があるが,自験例のような結腸直腸瘻は報告も少なく非常に稀である.憩室炎による瘻孔形成の過程は,憩室周囲の高度な炎症により本来であれば腹腔内に穿通・穿破するものが,他臓器が接することで発生する癒着を伴うことで穿孔が回避されるというものである.自験例は慢性膵炎の急性増悪で入院歴があり,その時の腹部単純CTでS状結腸憩室は指摘されていた.憩室炎やそれを疑う腹部症状は明らかではなかったが,憩室炎が繰り返されていた可能性が考えられる.

医学中央雑誌で1983年から2022年までを対象に「結腸直腸瘻」をキーワードとして検索したところ6例の報告(会議録5例と原著論文1例)があり,自験例を含めた7例を検討したところ(Table 1),原因としては憩室炎が4例,異物(竹串)が1例,大腸癌が1例,詳細不明が1例であった.鈴木らの報告 9では瘻孔とは別の部位に憩室炎による穿孔を合併しており,開腹による緊急手術の方針となっている.大腸憩室は多発していることが多く,自験例は穿孔に至る前に待機的に手術を行うことができたが,瘻孔をきたしている憩室症例は注意が必要である.

Table 1 

結腸直腸瘻の本邦報告例(1983-2022年).

自験例でS状結腸に認めた狭窄病変は,腸管の強い屈曲や抵抗があることでスコープは通過せず,内視鏡所見において上皮粘膜は発赤などの炎症所見に乏しく,病理学的に悪性所見はみられなかった.このような狭窄病変の鑑別としては,S状結腸捻転症(輪状狭窄),術後吻合部狭窄/内視鏡治療後狭窄(輪状変形),腸管外性圧排(粘膜下腫瘍様変形)などが挙げられる 10.その後,透視下CSでS状結腸直腸瘻と診断され,その4カ月後に下腹部痛の症状があり撮像した腹部造影CTでは閉塞性大腸炎の所見であった.この経過より,初めて隆起性病変が指摘されたCTでは腸管の拡張はなく,狭窄症状も乏しかったが,逆行性にCSが通過しない狭窄やS状結腸直腸瘻の存在は厳重に経過観察が必要な病態であるといえる.その8カ月後に行った手術の切除標本より,瘻孔を含むS状結腸と直腸の癒着部の切り出しを行い作成された組織標本ではS状結腸に憩室が散見され,S状結腸と直腸に線維性の癒着が認められた.これは,炎症と治癒を繰り返していた可能性を示唆した.

CSを行うきっかけになった直腸の隆起性病変は,内視鏡所見では浮腫状で柔らかく,周囲の正常粘膜と色調は変わらず炎症所見に乏しいものであった.病理学的にも特異的な所見は認めなかった.このような病変の鑑別としては,脂肪腫,リンパ管腫,腸管囊胞性気腫症などが挙げられる 11.しかし,この隆起性病変は,閉塞性大腸炎発症時の腹部造影CT以降は観察されなかった.それは,S状結腸憩室の炎症が強い時期に瘻孔を形成し,S状結腸(炎症側)から直腸(非炎症側)に向かって瘻孔が形成される過程で直腸の正常粘膜がリンパのうっ滞などの原因により一時的に形成されたとも推察される.ただし,病理学的に直腸の隆起性病変,瘻孔あるいはそれらの瘢痕像は標本上指摘できず,直腸の隆起性病変と瘻孔の組織学的裏付けは得られなかった.

自験例は,CTで偶発的に指摘された直腸の隆起性病変をきっかけにS状結腸直腸瘻を診断した.偶発的ではあったものの,直腸の隆起性病変がS状結腸からの憩室炎による瘻孔と診断するために透視下CS時のガイドワイヤー操作は診断の一助になったといえる.その隆起性病変は,その後のCTや手術標本では認めず,憩室炎が原因のS状結腸直腸瘻の経過に伴う一過性の所見であったが,特徴的なものであった.憩室炎に伴うS状結腸直腸瘻は稀であり,自験例のような隆起性病変がどの経過で出現するのかを明らかにすることは難しいが,診断から治療に至る経過も含め貴重な症例と考え,報告した.

Ⅳ 結  語

直腸の浮腫状隆起性病変を契機に診断しえたS状結腸直腸瘻の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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