日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
経乳頭的胆管生検が診断と治療方針決定に有用であった総胆管原発びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の1例
田原 祥子 末永 成之浜本 佳織津山 高典天野 彰吾篠田 崇平植木谷 俊之横山 雄一郎山下 吉美高見 太郎
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2024 年 66 巻 8 号 p. 1603-1609

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要旨

88歳,男性.黄疸を主訴に近医を受診し,精査加療目的に当院へ紹介となった.造影CTでは遠位胆管に淡い造影効果を伴う胆管壁肥厚を認め,上流胆管の拡張を認めた.ERCPでは遠位胆管に20mmの狭窄を認め,胆管擦過細胞診,胆管生検で悪性リンパ腫が疑われたが,確定診断には至らなかった.ERCPを再検し,胆管生検を行いびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(Diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)と診断した.PET-CTでは遠位胆管以外にFDG集積を認めず,総胆管原発のDLBCLと診断した.経乳頭的胆管生検により非常に稀な総胆管原発DLBCLを診断し,適切な治療選択が可能であった.

Abstract

Primary malignant lymphomas of the bile duct are rare. We report a case of primary diffuse large B-cell lymphoma (DLBCL) of the common bile duct (CBD) in an 88-year-old man who presented with obstructive jaundice. Contrast-enhanced CT revealed dilated perihilar bile duct and distal bile duct wall thickening, with slight contrast enhancement. Bile cytology and biopsy of the distal bile duct stricture were performed using ERCP to obtain a definitive diagnosis and sufficient number of specimens.

Bile cytology and biopsy specimens suggested malignant lymphoma. Bile duct specimen and flow cytometry analysis revealed a CD3-negative, CD20 (L26)-positive, CD45RO (UCHL-1)-negative, CD79a-positive, and CD45 (LCA)-positive large B-cell lymphoma. FDG-PET/CT showed no FDG accumulation, excluding the CBD. Based on these results, primary DLBCL of the CBD was diagnosed. ERCP biopsy is important in the diagnosis of primary DLBCL of the CBD.

Ⅰ 緒  言

胆管原発の悪性リンパ腫の報告は極めて稀であり,画像所見では胆管癌との鑑別が困難であるため,これまでの多くの報告例は胆管癌などが疑われ外科切除された上で診断に至っている.今回われわれは経乳頭的胆管生検で診断し,適切な治療選択が可能であった総胆管原発びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(Diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:88歳,男性.

主訴:上腹部痛,黄疸.

既往歴:高血圧症,脂質異常症,前立腺肥大症.

社会生活歴:喫煙歴 なし.飲酒歴 機会飲酒.ADLは自立している.

内服薬:テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩,エゼチミブ,タムスロシン.

現病歴:上腹部痛,黄疸を主訴に近医を受診し,精査加療目的に当院へ紹介となった.

初診時現症:身長 164cm,体重 49kg,Performance Status 1.血圧 158/87mmHg,脈拍 92回/ 分,体温 36.4℃.眼球結膜・皮膚に黄染あり.腹部は平坦・軟で右季肋部に軽度の自発痛・圧痛を認めた.肝脾や表在リンパ節を触知しなかった.

初診時臨床検査成績(Table 1):肝胆道系酵素,ビリルビンの上昇,炎症反応の軽度上昇を認めた.CEA,CA19-9,IgGは基準値内であった.可溶性IL-2レセプターは659U/mlと軽度上昇を認めた.

Table 1 

初診時臨床検査成績.

腹部超音波検査:肝内胆管や総胆管の拡張を認めたが,閉塞機転の評価は困難であった.膵臓に特記所見は認めなかった.

造影CT検査(Figure 1):主乳頭直上の遠位胆管に胆管内腔に突出する全周性の不整な壁肥厚を認め,淡い造影効果を認めた.同部位より肝側の胆管は拡張していた.胆管外へ浸潤を疑う所見は認めなかった.主膵管の拡張や狭細化はなく,膵腫瘤や膵のびまん性腫大は認めなかった.有意なリンパ節腫大や遠隔転移を疑う所見は認めなかった.

Figure 1 

造影CT(冠状断).

遠位胆管に淡い造影効果を伴う胆管壁肥厚を認め,上流胆管の拡張を認める.

超音波内視鏡検査(EUS)(Figure 2):主乳頭近傍の遠位胆管に周囲膵実質と境界やや不明瞭な20mm大の低エコー腫瘤(矢頭)を認めた.主膵管との連続性はなく,主膵管拡張は認めなかった.

Figure 2 

EUS.

主乳頭近傍の遠位胆管に周囲膵実質と境界やや不明瞭な20mm大の低エコー腫瘤(矢頭)を認める.

内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)(Figure 3):主乳頭直上の遠位胆管に20mmの不整な狭窄を認め,肝側胆管は拡張していた.肝側の胆管壁に不整は認めなかった.胆管軸の偏位は認めなかった.管腔内超音波では狭窄部に一致して全周性の壁肥厚を認めた.胆管外側の高エコー層(矢印)は保たれており,胆管由来と考えられた.内視鏡的乳頭括約筋切開術を施行した後に狭窄部から擦過細胞診(CytomaxⅡ;COOK MEDICAL)を採取した.また,カップ径1.8mmの生検鉗子(Radial JawTM4P;Boston Scientific)を用いて胆管生検を2片採取した.総胆管にプラスチックステント(Through & Pass Double Pig tail;7Fr,4cm,GADELIUS MEDICAL)を留置した.擦過細胞診では異型細胞は認めなかった.胆管生検の結果からCD20陽性の異型リンパ球を認め,悪性リンパ腫が疑われたが組織量が少なく確定診断が得られなかった.治療方針決定のために再度ERCPを行い狭窄部から胆管生検を10片採取した.胆管生検組織を用いてフローサイトメトリー解析を施行した.

Figure 3 

ERCP.

a:主乳頭直上の遠位胆管に20mmの不整な狭窄を認め,肝側胆管は拡張している.肝側の胆管壁は不整を認めない.胆管軸の偏位は認めない.

b:狭窄部に一致して全周性の壁肥厚を認める.胆管外側の高エコー層(矢印)は保たれている.

PET-CT(Figure 4):遠位胆管にFDG集積を認めた.(SUVmax 7.8).その他に明らかな異常集積は認めなかった.

Figure 4 

PET-CT.

遠位胆管にFDGの集積増加を認めた(SUVmax 7.8).その他に明らかな異常集積は認めない.

病理組織(Figure 5):擦過細胞診では,小型の腺細胞を認め,明らかな異型細胞は認められなかった.初回の生検組織では,CD20陽性の異型リンパ球が疑われたが,組織量が少なく確定診断が得られなかった.2回目の生検組織では,大型の不整な核及び明瞭な小型核小体を有する異型リンパ球が増生しており,大型の腫瘍細胞はCD3 陰性,CD20(L26)陽性,CD45RO(UCHL-1)陰性,CD79a陽性,CD45(LCA)陽性であり,DLBCLと診断した.また,背景にCD45RO(UCHL-1)陽性のT細胞を多数認め,胆管炎などによる炎症による修飾と考えられた.

Figure 5 

胆管生検病理組織.

a:HE染色 40倍.多数の反応性T細胞,組織球を背景に大型の不整な核及び明瞭な小型核小体を有する異型リンパ球が増生している.

b:CD20 40倍.大型の腫瘍細胞はCD20陽性である.

c:CD45RO 40倍.背景にCD45RO陽性のT細胞を多数認める.

フローサイトメトリー解析:解析対象の細胞数が少数であった.軽鎖制限を認めず,明らかな腫瘍性B細胞は検出されなかった.T細胞系の細胞が優位であった.

臨床経過:胆管生検の結果からDLBCLと診断した.CTやPET-CTで遠位胆管以外に病巣が指摘できないこと,腫瘍は総胆管に沿って広がり,主膵管への影響を認めなかったこと,管腔内超音波検査(intraductal ultrasonography:IDUS)で胆管の外側高エコー層が保たれていたことなどから膵臓由来ではなく,胆管原発のDLBCLと診断した.

総胆管原発のDLBCL(Ann Arbor分類:stageⅠE,国際予後指標 低リスク)と診断した.本人・家族が局所療法を希望したため,遠位胆管に対して放射線単独療法(1.8Gy,25回計45Gy)を開始した.放射線療法単独では明らかな有害事象はなく,治療強化を希望したため,放射線治療開始2週間後より併用してRituximab(375mg/m2)を計4回投与した.治療終了後も胆管狭窄が残存したため,胆管ステントを自己拡張型金属ステント(HANAROSTENT;covered type,10×50mm,Boston Scientific)に変更した.留置後1年後に,ステント逸脱による胆管炎に対して金属ステントを再留置した.造影CTでは,有意なリンパ節腫大や他臓器病変など認めず,診断から22カ月経過した現在まで無増悪生存が得られている.

Ⅲ 考  察

悪性リンパ腫による閉塞性黄疸は稀に経験されるが,その多くは周囲のリンパ節腫大や隣接臓器の浸潤などによる胆管壁外からの狭窄であり,胆管原発の悪性リンパ腫の報告は極めて稀である.画像所見では胆管癌との鑑別が困難であり,しばしば診断に難渋する.医学中央雑誌で「胆管」「原発」「悪性リンパ腫」,PubMedで「Bile duct」「Primary」「Lymphoma」をkeywordに検索したところ,詳細を検索し得た範囲で胆管原発の悪性リンパ腫は自験例を含め27例であった(Table 2 1)~25.年齢の中央値は58歳(21-88歳)で,男性19例,女性8例であった.腫瘍の局在は肝門部が16例,遠位胆管が11例であった.20例で術前に確定診断が得られず,胆管癌として外科手術を行われ診断に至った.1例は膵癌の疑いで化学療法が施行されたが,死亡後の病理解剖で胆管原発の悪性リンパ腫と診断された.原発巣の切除なく治療開始前に診断可能であったのは6例であり,経乳頭的胆管生検で確定診断が得られたのは自験例を含め3例のみであった.病理組織結果はDLBCLやMALT lymphomaが多かった.また,胆管生検施行時にフローサイトメトリー解析を合わせて行っていたのは自験例のみであった.本症例のフローサイトメトリー解析では,T細胞系が有意でB細胞性の腫瘍細胞は検出されなかったが,病理所見を踏まえて考えると,胆管炎による修飾の影響で異型リンパ球の背景に多数のT細胞を認めていた影響があると考えられた.

Table 2 

胆管原発悪性リンパ腫の報告例.

胆管原発悪性リンパ腫の報告は非常に少なく,特徴的な画像所見は明らかとなっていないため,診断には病理検査が重要となる.一般に胆道からの主な病理採取方法としては①胆汁吸引細胞診,②胆管擦過細胞診,③胆管生検,④超音波内視鏡下穿刺吸引生検(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration and biopsy:EUS-FNAB)が挙げられる.Navaneethanらのシステマティックレビューによると,悪性胆道狭窄に対する病理組織診断能は胆管擦過細胞診で感度45.1%,特異度99%,経乳頭的透視下胆管生検で感度48.1%,特異度99.2%と報告されている.両者を組み合わせることで感度59.4%,特異度100%まで向上するが,それでも感度は決して高い値ではない 26.胆管生検の診断率の向上には十分な検体量を得ることが重要であり,5片以上の生検で診断率が向上するとの報告もある 27.また,ERCP下の細胞診・胆管生検で診断が困難な場合にEUS-FNABが有用であるとの報告もある.DeWittらによると,経乳頭的胆管生検が感度49%,特異度96.3%であるのに対しEUS-FNABは感度75%,特異度100%と高い診断能が示されている 28.しかし,胆管損傷による胆汁性腹膜炎や播種のリスクがあり,適応は慎重に検討すべきであると考えられる.最近では,経口胆道鏡を用いた直視下生検の有用性も報告されており,Korrapatiらは胆管狭窄に対する胆道鏡下生検の良悪性鑑別診断能は感度が85%と透視下生検と比較して良好な成績を報告している 29.しかし,胆道鏡用の生検鉗子(Spy Bite Max;Boston Scientific)はカップ径が1mmと小さく,採取できる検体量が少ない.そのため,良悪性の鑑別だけでなく,本症例のように質的診断が必要な場合では検体量が不十分となる可能性が高いと考えられた.悪性リンパ腫の診断には通常のHE染色による病理組織診断だけでなく,免疫組織染色やフローサイトメトリー,染色体・遺伝子検査などが重要になる 30.本症例では初回の病理結果で悪性リンパ腫が疑われ,確定診断並びに治療方針の決定には十分な組織量が必要と考えられたため,胆管生検を再度行うことを選択した.10片の胆管生検を行い,十分な組量を採取できたためDLBCLの確定診断を得ることが可能となり,適切な治療選択につながった.悪性リンパ腫と胆管癌では予後や治療方針が大きく異なるため,十分な検査を行い,治療選択前に正確に診断をすることが重要であると考えられた.

Ⅳ 結  語

経乳頭的胆管生検で診断し適切な治療選択が可能であった総胆管原発DLBCLの1例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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