大腸憩室出血に対する内視鏡治療はクリップ法がその簡便さから広く用いられ,出血点を直接把持する直達法と憩室を閉鎖する縫縮法に分類される.本邦の急性血便症例データベース(CODE BLUE-J Study)を用いた検討では,直達法は縫縮法と比較して,術後1カ月以内と1年以内の再出血,入院中輸血の抑制効果を示したが,左側結腸での出血や活動性出血では再出血率に有意差を認めなかった.これらの結果からクリップ直達法は出血点に対する内視鏡の視野と操作性が安定した状況で効果を発揮することが示唆された.出血点に対する内視鏡の視野と操作性を安定させる工夫として,水浸下観察や先端フードの装着などがあり,これらを利用することでより多くの症例に直達法が施行できるものと考えられた.
Endoscopic clipping is a commonly used and simple hemostatic method for the treatment of colonic diverticular bleeding (CDB). CBD clipping methods are classified as direct or indirect: the former involves capturing the vessel directly, while the latter involves closing the diverticular orifice in a zipper-like manner. A large multicenter cohort study in Japan (CODE BLUE-J Study) revealed that direct CDB clipping was associated with a reduced risk of rebleeding (within 30 days and 1 year) after endoscopic treatment and decreased blood transfusion requirement compared with indirect clipping. However, no associations were seen in the active bleeding or left-sided CDB groups. These results suggest that direct CDB clipping is effective in cases with a stable visual field and endoscope manipulability. Various devices are available to stabilize the endoscopic view and manipulability against the bleeding point, such as water immersion observation using a water jet scope with a transparent hood. We believe that these devices will enable effective direct CDB clipping in a larger number of cases.
大腸憩室出血に対する内視鏡治療はクリップ法がその簡便さから広く用いられ,出血点を直接把持する直達法と憩室を閉鎖する縫縮法に分類される 1),2).そして近年ではバンド結紮術(Endoscopic band ligation:EBL) 3)がその高い止血効果から広がりつつある.EBLのクリップ法に対する有効性 4),5)が以前より報告されているが,結紮デバイスを装着した内視鏡を再挿入するという煩雑さと低率ではあるが遅発性穿孔 4),6)~8)のリスクがある.一方,クリップ法は組織傷害性が低く 9)~11),同定した出血点をその場で止血できる簡便さがあるが,有効性が期待できる条件のコンセンサスは得られていない.クリップ法とEBLを適切に使い分けることができれば,両者の長所を活かしたよりよい治療が期待できる.本稿ではクリップ直達法に焦点を当て,まず大腸憩室出血の治療に関する最新の研究結果と新知見に基づく治療戦略を概説する.次に診療の実際として,当院での治療とそのコツを提示する.
大腸憩室出血の治療の適応となる内視鏡所見はStigmata of recent hemorrhage(SRH)で活動性出血,非出血性露出血管,除去によって活動性出血や露出血管を示す付着凝血塊に分類される(Figure 1) 12).SRHを無治療で放置した場合の再出血率が66%と高いこと 13),内視鏡治療を行うと早期再出血率を下げられること 13),14)が報告されている.クリップ法は血管露出部を直接把持する直達法と憩室を縫縮する縫縮法に分類される(Figure 2) 1),2).EBL 3)は内視鏡の先端部に装着した結紮デバイスの中に責任憩室を吸引し,ゴムバンドをリリースして結紮する方法である(Figure 2).EBLは結紮デバイスを装着するために内視鏡の再挿入が必要ではあるが,出血部位(頸部・底部),活動性出血の有無に関わらず機械的な止血が可能で,その有用性が報告されている 5),15).

止血術の適応となる内視鏡所見(stigmata of recent hemorrhage:SRH).
a:非出血性露出血管.
b:付着凝血塊.
c:活動性出血(bの凝血塊を除去した直後).

大腸憩室出血に対する主な内視鏡的止血術.
a:クリップ直達法.
b:クリップ縫縮法.
c:バンド結紮術.
大腸憩室出血に対する内視鏡的止血術の治療成績に関して,2022年に本邦の全国規模(49施設)急性血便症例データベース研究(CODE BLUE-J Study) 16)より2つの報告がなされた.EBL 638例とクリップ法 1,041例の治療成績を比較した研究がKobayashiらの論文 4)で,クリップ法を直達法 360例と縫縮法 681例に分けて比較した研究がKishinoらの論文 1)である.それぞれの治療成績をTable 1,2に示す.

CODE BLUE-J Studyにおけるバンド結紮法とクリップ法の治療成績比較.

CODE BLUE-J Studyにおけるクリップ直達法と縫縮法の治療成績比較.
年齢,性別,多数の交絡因子を調整した多変量解析では,EBLはクリップ法と比較して,術後30日以内の早期再出血の抑制効果を示した(調整オッズ比 0.46,95%CI 0.34-0.62,p<0.001).さらに術後1年以内の後期再出血,動脈塞栓術移行,7日を超える入院においてもEBLはクリップ法と比較して抑制効果を示した(Table 1).
クリップ法における比較では,直達法は縫縮法と比較して,早期再出血抑制効果を示した(調整オッズ比 0.59,95%CI 0.42-0.83,p=0.002).さらに後期再出血,入院中輸血においても直達法は縫縮法と比較して抑制効果を示した(Table 2).
2 出血所見や部位別の再出血率の違い前述の患者群において,活動性出血の有無や出血部位による内視鏡的止血術後の再出血率の違いを検討し,第104回日本消化器内視鏡学会総会のワークショップ 17)で報告した.治療成績をTable 3に示す.右側結腸の活動性出血ではEBL,直達法,縫縮法の順で再出血率が有意に低かった.一方,右側結腸の非活動性出血ではEBLと直達法の再出血率は縫縮法より有意に低かったが,EBLと直達法の比較では有意差を認めなかった.左側結腸では出血所見に関わらず,治療法間で再出血率に有意差を認めなかった.これらの結果から有効なクリップ直達法を行うためには,出血点の視野が確保された非活動性出血に適応したほうがよいことが示唆された.左側結腸では治療法間で再出血率に有意差を認めなかった原因として,左側結腸は右側結腸と比較して腸管腔が狭いうえに屈曲が強く 18),内視鏡の視野や操作性が不良となりやすいこと 19)が考えられた.

出血所見や部位による早期再出血率の違い.
CODE BLUE-J Studyのデータを用いた検討では,偶発症はEBLで穿孔2例(0.31%:2/638)と憩室炎1例(0.16%:1/638),クリップ縫縮法で憩室炎2例(0.29%:2/681)であった 4),20).憩室炎3例はいずれも保存的加療で治癒したが,穿孔2例は外科手術を要した.EBLに伴う穿孔の症例報告(会議録を除く)はこれまで3例 6)~8)あり,その特徴は,後腹膜に被覆されていない左側結腸であること(2例はS状結腸,1例はS状結腸移行部近傍の下行結腸),長期ステロイド内服1例,維持透析高齢者1例である.少数のデータのためさらなる症例集積が必要だが,EBLを創傷治癒が遅延する病態を有する患者や左側結腸に対して行う場合,遅発性穿孔のリスクを考慮する必要がある.一方,クリップ直達法では偶発症は認めなかった.
4 クリップ法とEBLの使い分け(クリップ直達法の適応)大腸憩室出血に対する内視鏡治療後の再出血率は治療方法だけでなく,出血所見や部位によっても異なることが明らかとなり,これらを考慮して治療方法を選択することが重要と考える.実臨床で右側結腸に露出血管を認めた場合,安定したクリップの挿入が可能なら直達法を試み,活動性出血などで難しい場合は内視鏡を抜去してEBLに移行する戦略が合理的ではないかと考える.一方,左側結腸ではいずれの止血法でも許容されると考えるが,内視鏡の操作性,出血点に対する視野,偶発症のリスクを考慮して治療法を選択することが望ましいと考える.
内視鏡的止血術を行うためには出血点を同定することが必須であるが,大腸憩室出血は間欠的で,底部から出血することが多い 13)ため,出血点の同定率は来院後24時間以内に大腸内視鏡検査を施行しても30%程度と高くない 21)~23).SRHを同定するためには,憩室内の詳細な観察が重要と考え,当院での大腸内視鏡検査は可能な限り,前処置をかけて施行している.内視鏡は先端フードを装着した送水機能付きスコープ(PCF Q260AZI:Olympus Optical Company Ltd., Tokyo,Japan)を主に使用している.憩室の内部を詳細に観察することは難しいが,その工夫として水浸下観察を行っている.水浸下観察(Figure 3)の利点はハレーションがなくなり,憩室の内部が見えやすくなること,水圧で憩室が広がることである 24).SRHは憩室に付着する血餅をきっかけに発見されることが多い(Figure 3).疑わしい血餅を見つけたら,憩室の内部を観察し,血餅の付着部を確認する.露出血管に付着した血栓かどうか判断が難しい場合は血餅を愛護的に剝がし,露出血管や出血を確認する(Figure 3,電子動画 1).疑わしい血餅を認めない場合は可能な限り,1つ1つ憩室の内部を観察し,露出血管を探す 24).小さい憩室で内部が見えない場合は吸引をかけて憩室を翻転させ,出血や露出血管がないか確認する.

水浸下による大腸憩室の観察とクリップ直達法.
a:凝血塊の付着を伴う憩室.
b:凝血塊を愛護的に外すと露出血管を疑う小さい発赤点が観察された(黄矢印).
c:発赤点を狙って1つ目のクリップを留置したが,発赤点は結紮されていないように見えた(黄矢印).
d:発赤点を狙って1つ目のクリップの上側に2つ目のクリップを留置した.
電子動画 1
2 大腸憩室出血の治療に必要な解剖大腸憩室出血に対する治療を行う場合,憩室の解剖を理解することが重要である.回盲部・大腸には回結腸動脈,右結腸動脈,中結腸動脈,副中結腸動脈,左結腸動脈,S状結腸動脈,上直腸動脈,中・下直腸動脈などが分布し,最終的には辺縁動脈より分岐する直細動脈(vasa recta)により腸管は栄養される.大腸憩室は直細動脈が固有筋層を管腔側へ貫いて入る脆弱部位で発生し,固有筋層が欠損した仮性憩室である(Figure 4-a).大腸憩室出血は直細動脈の破綻によって生じ,破綻部位の75%は底部,25%は頸部と考えられている 13).

大腸憩室出血の解剖学的特徴(日本内科学会雑誌 107巻3号.Page 571-578の図2より引用改変).
a:憩室底部の出血.大腸憩室は直細動脈が固有筋層を管腔側へ貫いて入る脆弱部位で発生し,固有筋層が欠損した仮性憩室である.大腸憩室出血は直細動脈の破綻によって生じる.
b:憩室底部の出血に対する不完全なクリップ直達法.クリップが出血点から少しずれて留置されている.出血点に対する血流が完全に遮断されておらず,再出血の危険性が高いと思われる.
有効なクリップ直達法を行うためには,出血点を安定して正面視することが重要であるが,憩室内の観察,憩室内へのクリップの挿入,スコープの安定などの困難因子がある.憩室内部の視認性を良くする工夫は水浸下観察 2)で,ハレーションがない視野で憩室内を観察することができる.またwater jetによる水圧で憩室を広げることも可能である 24).クリップはshort type(EZ CLIP,HX-610-090S,Olympus Optical Company Ltd.)でも開いた時の幅が約7mm 2)で小さい憩室の底部に挿入することは困難である.しかし開いたクリップを鉗子孔に収納すると幅が約5mmになり,底部の出血点に対しても直達法が可能となる(Figure 5).精密なクリッピングのためには内視鏡の視野の安定が必須で先端フードの長さも重要である.筆者は先端フードの突出長を約7mmに設定している.この突出長だと出血点を直視した状態でクリップを挿入することができ,さらにフード内でクリップの角度を調整することも可能である 2).クリップ直達法で有効な止血効果を得るには出血点を完全に塞ぐことが必要だが,1本のクリップでは難しい(Figure 4-b)と考えるため,できるだけ2本以上のクリップを留置するようにしている.大腸憩室は固有筋層が欠損し,脆弱であるため,止血処置を行う際は穿孔の危険性を考慮する必要がある.クリップの挿入は愛護的に行うべきだが,ある程度,押さえつけないと血管を結紮できず容易にクリップが脱落してしまう.電子動画 2のように憩室の粘膜が少し凹む程度の力加減で憩室底部を圧迫し,クリップを留置している.水浸下での直達法の動画は参考文献 2),25),26)などで視聴でき,2023年に改訂されたACG guideline 27)でも紹介されている.

鉗子孔に収納することによるクリップの幅の変化.
a:開いた直後のshort clip(EZ CLIP, HX-610-090S,Olympus Optical Company Ltd.).
b:鉗子孔に収納した後のshort clip.
電子動画 2
4 当院の大腸憩室出血に対する内視鏡的止血術の選択戦略と成績(第105回日本消化器内視鏡学会 パネルディスカッション 消化管出血に対する内視鏡治療で報告) 28)当院での大腸憩室出血に対する内視鏡的止血術の選択は,出血点を直視した状態でのクリップの挿入が可能であればクリップ直達法を第一選択としている.クリップ直達法が難しい場合はEBLを第二選択,クリップ縫縮法を第三選択としている.当院でEBLを導入した2016年3月から2022年9月の間で,SRHを有する大腸憩室出血に対してクリップもしくはEBLで止血した181例を対象として,クリップ群とEBL群の背景因子とアウトカムを比較した.治療方法の内訳はクリップ群77例(直達法73例,縫縮法4例),EBL群 104例であった.クリップ群 vs EBL群の比較において活動性出血(35.1% vs 61.5%,p<0.001),左側結腸SRH(16.9% vs 30.8%,p=0.033)でSRHの背景に有意差を認めた.活動性出血や左側結腸におけるクリップ直達法の難しさを反映したものと考えられた.止血時間の中央値はクリップ群が有意に短かった(9分 vs 24分,p<0.001).臨床成績はクリップ群 vs EBL群の比較において止血術後30日以内の再出血率(18.2% vs 15.4%,p=0.617),入院中輸血(22.1% vs 14.4%,p=0.182),動脈塞栓術移行(1.3% vs 3.8%,p=0.396),1週間以上の入院(48.1% vs 42.3%,p=0.442)でいずれも有意差は認めなかった.治療後の偶発症や手術移行症例は認めなかった.これらの結果から内視鏡の視野,操作性が安定した症例に対して,クリップ直達法を主に選択したことで,クリップ群とEBL群の治療成績に有意差を認めなかったものと考えられた.また本研究におけるクリップ直達法の割合は40.3%(73/181)で,CODE BLUE-J Studyの21.4%(360/1,679) 1),4)と比べ,高かった.水浸下観察や先端フードなどの工夫を用いることでより多くの症例でクリップ直達法を施行できたものと考えられた.
大腸憩室出血に対するクリップ直達法は,出血点に対する視野と内視鏡の操作性が安定していれば止血法の第一選択として許容されるものと考えられた.また効果的なクリップ直達法を行うためには,出血点に対する安定した視野が必要で水浸下観察や先端フードの使用などの工夫が有用と考えられた.
謝 辞
本稿を作成するにあたって市立奈良病院 消化器肝臓病センター・消化器内科 金政和之先生,田中斉祐先生,森康二郎先生,岡本直樹先生,澤貴幸先生,佐久間裕太先生,山川麻郁子先生,放射線科・IVR研究センター 穴井洋先生に心から感謝いたします.