日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
炎症性腸疾患の内視鏡診断の心構えとpitfall
加藤 順 對田 尚太田 祐樹
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2024 年 66 巻 9 号 p. 1672-1682

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要旨

炎症性腸疾患を含む腸管の炎症性疾患の内視鏡診断は腫瘍の診断よりも難しいことが多い.それは,炎症の診断では病理が絶対診断ではないこと,腫瘍に比べ原因も内視鏡像も多様であることに由来する.炎症では非典型例も多く,内視鏡像のみによる診断ではなく,その患者の病歴なども十分に考慮したうえで診断する必要があり,内視鏡を挿入する前から鑑別診断を考えておくという心構えが必要である.潰瘍性大腸炎,クローン病とも典型例での診断はさほど難しくはないが,正確な診断には非典型例についての知識も必要で,たとえば潰瘍性大腸炎で直腸に内視鏡的炎症がないことがしばしばあることや,クローン病でもびまん性炎症をきたすことがあることなどは知っておきたい.炎症性腸疾患との鑑別が重要な疾患としては,感染性腸炎,薬剤性腸炎,好酸球性胃腸炎などが挙げられるが,いずれも内視鏡像以上に詳細な病歴の聴取が重要であることを認識すべきである.

Abstract

Endoscopic diagnosis of inflammatory diseases of the intestinal tract, including inflammatory bowel disease, is generally more difficult than that of tumors. This is because the presence of pathology is not definitive for inflammation, and the causes and endoscopic images are more diverse than those of tumors. Inflammation is often atypical, and the diagnosis should not be based solely on the endoscopic image but should also consider the patientʼs medical history and other factors. The diagnosis of typical cases of both ulcerative colitis and Crohnʼs disease is not very difficult, but knowledge of atypical cases is necessary for an accurate diagnosis; for example, there is often no endoscopic inflammation of the rectum in ulcerative colitis, and diffuse inflammation may also occur in Crohnʼs disease. Diseases that are important to differentiate from inflammatory bowel disease include infectious enteritis, drug-induced enteritis, and eosinophilic gastroenteritis, all requiring a more detailed history than just an endoscopic picture.

Ⅰ はじめに

昨今,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)およびクローン病(Crohnʼs disease:CD)をはじめとする炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の本邦での患者数はますます増加している.したがって,IBDを専門にしない医師でも内視鏡施行時にIBDが疑われるような症例に出くわすことも多くなっていることと思う.UC,CDとも典型例ではさほど診断に迷うことはないかと思うが,ときに鑑別の難しい症例も存在する.内視鏡アトラス的なものは世の中に多数発表されており,多くの先生方はおおむね,典型的なUCやCDについての知識や内視鏡像についてはご存知と思う.したがって,ここではIBDの内視鏡像の実際についてはあまり多くは述べない.本稿では,まず,IBDの内視鏡診断はなぜ難しいのか,についての論理的考察を行う.そして,それをふまえたうえで,IBDやその他の炎症性疾患が疑われる例に対して内視鏡を行う前に何を考え,どういった心構えで内視鏡に臨むべきなのかについて述べる.そして最後に,IBDの内視鏡診断について,その鑑別疾患も含めpitfallについて解説する.

Ⅱ IBDの内視鏡診断の特徴―腫瘍性病変診断と比較して―

IBD内視鏡診断の難しさについて,読者の皆様が内視鏡時に出会うことの多い腫瘍性病変の診断と比較して,その違いから考えてみる.

1)炎症の診断は病理が絶対診断ではない

これが腫瘍診断と炎症診断のもっとも大きな違いであり,重要な点である.腫瘍性病変の診断は,病理が絶対診断である.大腸癌でいえば,病理医がGroup 5,adenocarcinomaと診断すれば,それは絶対的に癌,という診断である.一方,IBDを含む炎症性疾患の診断は病理が絶対的診断ではない.腫瘍とは,細胞レベルであきらかな形態異常をきたしたものを指すため,細胞レベルの特異的な異常を捉える病理学的所見が絶対診断となる.それとは対照的に,炎症はそもそも細胞レベルでは正常なものの集合体である.炎症の病理とは,それら正常な細胞がどのように集まっているのか,といったことを捉えるのみであり,それはおおむね疾患特異的な変化とはならない.CDの非乾酪性肉芽腫などの特異的所見があるケースは炎症の分野ではどちらかといえばまれであり,UCなどはほとんど,「これがあったらUC」というような特異的病理所見は存在しない.以上のことより,炎症性疾患では病理が絶対診断とはなりえないのである.

また,腫瘍ではその腫瘍を特徴づける特異的な所見というのは,腫瘍部分から適切に組織採取されていればおおむね100%近く検出されるのに対し,炎症の場合,たとえ特異的所見があったとしても内視鏡生検による検出率は決して高くない.たとえば,CDの内視鏡生検において,特異的所見である非乾酪性肉芽腫の検出率というのは,16-46%程度と報告されている 1),2

このように,IBDを含む炎症性疾患の内視鏡診断が難しい理由の第一は,病理という絶対に正しい答えによる答え合わせができないことである.

2)炎症では内視鏡所見が多様である

大腸の腫瘍性病変では,大まかには腫瘍性か,非腫瘍性か,の2種類しかない.さらに,大腸内視鏡にそこそこ慣れた方では,大腸ポリープが腫瘍性か非腫瘍性かというのは,拡大内視鏡を用いずとも内視鏡的に観察したのみでだいたい判断がつくのではないだろうか.それは,大腸ポリープでは細かいところはいろいろあるものの(形態,大きさ,pit pattern,vessel patternなど),マクロ的にはさほど多様性がないということに由来する.

一方,下部消化管(おもに大腸)に炎症を起こす原因はそもそも非常に多様である.IBD以外にも感染性腸炎,虚血性腸炎,薬剤性腸炎などなど,また,感染のなかにもさまざまな種類があるし,薬剤についてもしかりである.感染性腸炎や薬剤性腸炎の内視鏡像をみて,原因菌や原因薬剤を正確に当てられることはなかなかない.

また,同じ疾患のなかでも内視鏡像に非常に多様性がある.これはIBDを考えてみればわかる.同じUCといっても,粘膜の発赤程度のものから,深い潰瘍を呈するものまでさまざまある.さらに,そもそも炎症の分布自体が同じ疾患でも大きく異なる.UCの直腸炎型と全大腸炎型や,CDの大腸型と小腸型などを考えればおわかりいただけるだろう.IBDにおける所見の多様性でいえば,非常に多くの非典型例が存在することもその診断を難しくする.たとえば,UCでは直腸から連続性の炎症,というふうに教科書に書いてあるが,直腸に内視鏡的な炎症がないことがある(それも活動性が強い場合に多く,直腸sparingと名付けられている 3),4.また,組織学的には炎症がある場合もない場合もある 5)(Figure 1).腸管ベーチェット病も回盲弁を巻き込む大きな類円形の潰瘍が典型例であるが,非常に数多くの非典型例があり,潰瘍の形態や局在は症例によってさまざまである(Figure 2).IBDでは非典型的なものがありすぎるがゆえに,UCともCDとも判別のできないIBD unclassifiedという疾患概念が存在するし,最近では家族性地中海熱関連の腸炎 6など,新しい疾患概念も提唱されている.

Figure 1 

直腸sparingがみられた潰瘍性大腸炎の例.

a:直腸.まったく炎症はない.

b:S状結腸.びまん性の発赤がみられる.

c:横行結腸.右側結腸に炎症の最強点がみられる.

Figure 2 

非典型的な腸管ベーチェットと考えられた例.

再発性口腔内アフタ,皮膚症状,関節炎を伴う患者にみられた,大腸の潰瘍所見.潰瘍の形態はベーチェット病のような大きな打ち抜き潰瘍であるが,場所が横行結腸である.

以上,炎症の原因および内視鏡像が非常に多様であることが,その診断を難しくしているということが2点めである.

3)短期間に経時的に変化すること

さらに,炎症の所見は比較的短期間に大きく変化する.感染性腸炎や虚血性腸炎などは数時間から数日単位で変化したり消失したりするし,IBDでも寛解導入療法前後や突然の増悪時などには,数日~週単位で大きく変化する.変化のしかたも,悪くなる(所見が強くなる)方向である場合もあれば,良くなる(所見が改善,消失する)方向にも変化する.その点,腫瘍性病変は見た目に変化が起こるとしてもおおむね年単位の経過においてであり,変化の方向もつねに同じ方向(すなわち病変が進行する一方向)である.この経時的変化の速さと双方向性が炎症の内視鏡診断を困難にする3点めである.

以上,内視鏡による下部消化管の腫瘍診断と炎症診断の違いをまとめると図のごとくとなる(Figure 3).IBDを含む炎症性疾患の内視鏡診断は,内視鏡所見や組織所見のみならず,病歴,感染や薬物などの影響なども含めた総合診断であるといえる.また,その総合診断も100%の確定診断とはいえず,経時的な変化により変わりうることも認識しておかなければならない.

Figure 3 

下部消化管疾患の内視鏡診断のイメージ.

Ⅲ IBDの内視鏡診断時の心構え

以上のような下部消化管の炎症性疾患の特徴をふまえて,IBDを含む炎症性疾患の内視鏡診断を適切に行うにはそもそも内視鏡所見云々を議論する以前に下記のような心構えが必要である.

1)きちんと病歴を把握すること

たとえば,感染性腸炎の一つであるカンピロバクター腸炎の内視鏡像は,しばしばUCの内視鏡像と類似する.ただ内視鏡所見をみただけではUCとの鑑別がつかない例も存在する(Figure 4).もちろん,培養検査などでの鑑別も重要であるが,それ以前に,「下痢症状が出現する数日前に生の鶏肉を食べた」というような病歴があれば,カンピロバクター腸炎の疑いが強くなる.一方,「数年前からときどき血便が出ては自然軽快するようなエピソードを繰り返している」というような病歴であればUCの可能性が高い.内視鏡像が多様であり,病理もあまりあてにならない(ちなみに陰窩膿瘍という病理像は,UCでも感染性腸炎でもよくみられるため,その存在は鑑別には有用ではない)からこそ,病歴もきちんと頭に入れて確実な診断の一助としなければならない.内視鏡所見(+病理所見)だけでIBD(とくにUC)が診断できる,と考えるのは間違いである.

Figure 4 

潰瘍性大腸炎と類似した内視鏡所見を呈したカンピロバクター腸炎の例.

また,患者の服用薬剤を知っておくことは必須である.それも,飲んでいる薬剤すべてをきちんと把握する必要がある.とくに非ステロイド性消炎鎮痛薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)の常用では慢性の腸炎を生じることがあり,これについては,いくら内視鏡や病理所見を眺めても,服用薬剤の情報がなければ,決して正しい診断には至らない.抗菌薬やランソプラゾールなど,慢性下痢をきたしやすい薬剤についての知識も内視鏡医は必要とされる.

2)内視鏡施行前から診断の候補を考えておくこと

上記のように,腸の炎症性疾患の正確な診断には,きちんと病歴を把握しておく必要があるが,そこをつきつめると,内視鏡を挿入する前から,病歴や身体所見などの情報のみで,ある程度の診断候補を考えておくべきということがいえる.わかりやすい例が虚血性腸炎であり,動脈硬化性疾患を有する比較的高齢者において,突然左側腹部から上腹部の腹痛が生じ,その後血便が出た,などという病歴があれば,内視鏡をする前から虚血性腸炎であることがほぼ確実にわかる.だから筆者は虚血性腸炎の人に緊急で内視鏡をしたりはしないが,もし,行う場合でもS状結腸あたりに典型的所見がみられたら,鑑別についてだけをいえばそれ以上の内視鏡の挿入は不要ということになる.

IBDにおいても,たとえば,痔瘻や肛門痛などの病歴があれば,CDではないか?と考えて,もし大腸に病変がまったくなくても,回腸末端への可能な限りの挿入が必須である,という考えで内視鏡を始める必要がある.

以上をまとめると,IBDを含む腸炎の確実な診断において必要なのは,きちんと病歴を頭に入れて,その情報からあらかじめ鑑別診断候補を考えたうえで内視鏡を行うことであるといえる.

Ⅳ IBDを疑う病歴とは?

ここまで,腸管の炎症性疾患の診断には病歴をしっかり聴取することが重要であることを述べた.では,IBDをとくに疑うのはどのような病歴であろうか.

1)UCを疑う病歴

UCでは基本的には,下痢,血便の症状が必須である.まれに,ごく軽い直腸炎型の例などでは,ほとんど自覚症状がなく,便潜血陽性の精査などで見つかる場合がある.UCを疑う際には,下痢,血便の症状がいつから出現したのか?についての問診が重要である.下痢,血便が2週間以上持続している場合は,UCである可能性が高い.なぜなら,UCとの鑑別がもっとも問題となる感染性腸炎が2週間以上持続することはまれであるからである.ただし,カンピロバクター腸炎はまれに2週間以上継続する場合があるので注意が必要である.UCでは,おおむね下痢→血便→腹痛→発熱,の順に症状が悪化していくのに対し,感染性腸炎では,下痢と発熱が同時に出現したりすることなども鑑別に有用である.

また,UC患者では,以前にも下痢,血便の症状があり,自然軽快したような既往があることがある.このような病歴は医療者側が意識して問診しないと聴取できないので,心する必要がある.

2)CDを疑う病歴

まず,CDでは血便を訴える頻度はUCに比べ圧倒的に低い.これは,UCが肛門に近い部分の腸管における,出血をきたしやすい脆弱性粘膜を伴うびまん性炎症であるのに対し,CDが比較的肛門から遠い部分の潰瘍形成を主体とする出血のきたしにくい炎症であることに由来する.ただし,CDで出血を伴う場合はしばしば動脈性出血などによる大出血となるので注意が必要である.

CD患者における主症状は下痢と腹痛である.ただ,下痢,腹痛の患者は多くいるが,そのなかでも,①下痢,腹痛が慢性的に続いている,とくに,数カ月から年余にわたって継続もしくは間歇的に出現している,その際に発熱を伴うようなことがある,②体重減少がみられる,③痔瘻や肛門痛の現症もしくは既往がある,④血液検査で炎症反応やアルブミンの低下がみられる,⑤結節性紅斑などの皮膚病変や関節炎などの症状を伴う,などがCDを疑う病歴,所見として重要である.そして何より,患者が若年者である,というのが一つの手がかりとなる.UCでは高齢発症も比較的多いのに対し,CDでは圧倒的に若年者,10~20代での発症が多い.若年者の慢性的な腹痛や肛門病変の存在は,積極的にCDを疑う.小児期発症も多く,小児では,下痢や腹痛などの典型症状を欠くことも多いことに留意が必要である.

CDでは大腸病変がみられないことがあることに注意し,上記のような所見や病歴がみられる場合は,大腸内視鏡で異常がなくとも,小腸内視鏡を行うなどの対応が求められる.

3)腸管ベーチェットを疑う病歴

腸管ベーチェットは頻度はまれであるが,IBDの一つとして鑑別が必要な疾患である.上述したとおり,典型的内視鏡像をとらないことも多く,そもそも確定診断の難しい疾患なので,病歴をきちんと捉えることが重要である.病歴としてもっとも大事なのは,繰り返す口内炎の存在である.口内炎はベーチェット病でもっとも頻度の高い症状であり,逆にいえば口内炎のみられないベーチェット病はない,といっていいくらいである.ただし,CDでも比較的口内炎はよくみられるので注意が必要である.ぶどう膜炎などの眼病変もベーチェットの診断としては重要であるが,腸管病変のある例には比較的眼病変が少ない 7,ということには注意が必要である.あとは毛囊炎などの皮疹,肩や膝などの大関節を中心とする関節炎,などが特徴的である.

4)IBDは否定的,と考える病歴

下痢などの発症が急激な場合,下痢症状とともに嘔気や嘔吐などの上腹部症状を伴う場合,血便がなく下痢症状のみである場合,はUCではなく,感染性腸炎である可能性が高い.このことは,UC患者が腹部症状の悪化をきたした場合に,UCの悪化なのか,感染性腸炎の合併なのかを判断する際にも有用である.

CDを疑うような慢性の腹部症状の場合,採血で炎症所見やアルブミン値の低下がない場合,体重減少がない場合などは,どちらかというと過敏性腸症候群を疑う.ただし,まったく内視鏡もせずに過敏性腸症候群と断じてしまうのは危険である.

Ⅴ IBDが疑われる際の内視鏡施行時の注意点

ここから,ようやくIBDの診断における内視鏡の話となる.

1)行う内視鏡の種類と観察範囲

病歴などからUCを疑う場合

当然ながら大腸内視鏡を行えばよい.観察範囲は全大腸が基本である.それは,UCでは必ずしも直腸に炎症があるとは限らず,また,炎症の強さも口側のほうが強い,ということもしばしばあり,全大腸を観察しないと,正確な診断と重症度診断ができないためである.

病歴などからCDを疑う場合

CDを疑う場合もまずは大腸内視鏡を行うのが普通である.CD患者の2/3では大腸に病変があるためである.一方で小腸型のCDでは大腸内視鏡では診断がつかず,小腸内視鏡を必要とする.バルーン内視鏡を行うか,カプセル内視鏡を用いるかは施設によりけりとなる.バルーン内視鏡を用いる際は,病変の多くみられる回腸をカバーするため経肛門的挿入を行うのが一般的である(ただし,まれに空腸優位の例もある).カプセル内視鏡を行う場合は,パテンシーカプセルを用いてあらかじめ開通性評価を行う必要がある.

また,CDが疑われる場合は上部消化管内視鏡を行うことは必須である.有名な竹の節外観(Figure 5)が診断の一助となることがあるし,それ以外にも十二指腸病変や食道病変などがみられることもあるからである.

Figure 5 

クローン病患者の胃にみられた竹の節外観.

2)前処置と鎮静

まずは,前処置であるが,下痢をしていても血液や粘液を洗い流してきれいに観察するには通常の腸管洗浄液を用いた前処置が望ましい.不十分な前処置では,観察不良となり正確な診断が覚束ない場合がある.ただし,UCが疑われて前処置をするのがためらわれるほど全身状態が悪い場合や,CDが疑われて腸管狭窄の可能性がある場合などは別である.浣腸その他で可能な限り条件をよくして観察するしかない.

鎮静,鎮痛は適宜行うべきである.その理由は腸管に炎症がある場合は,内視鏡挿入による痛みが通常よりも強いからである.大腸内視鏡の名手で,普段は鎮静をほとんど使わないような方でも,腸管の炎症の強い場合はきちんと鎮痛,鎮静を行ったほうがよい.患者も楽であるし,きちんと観察することができて正確な診断につながる.

3)生検その他の扱い方

病理所見が腫瘍ほどは役に立たないとはいえ,内視鏡時に生検を行うことは必須である.UCを疑う場合は,内視鏡的に炎症のない部分も含め,各セグメント(上行,横行,下行,S,直腸)で生検をすることが望ましい.内視鏡的に炎症がみられない場合でも,組織学的に炎症がみられる場合もあり,それが診断に有用な場合があるからである.一方,CDを疑う例では,びらんや潰瘍の辺縁から採取し,CDを疑っている旨を依頼書に記載して特異的所見の肉芽腫がみられないかをみてもらう.

細菌性腸炎との鑑別では,培養検査をする必要がある(IBDの難病助成の申請の際にも必要である)が,内視鏡時に腸管の粘膜や腸液を培養に提出することも有効である.また,腸結核との鑑別が必要な際には,組織の抗酸菌培養や抗酸菌ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を提出する.アメーバ腸炎とIBDの鑑別は通常,内視鏡所見から容易であるが,アメーバを疑う場合は,病変部に付着している粘液を採取してそのまま鏡見してもらうのがもっとも診断率が高い.病理で診断を依頼する際には,病理医にアメーバを疑っている旨を伝える必要があり,そうしなければ組織の上に付着しているアメーバを見逃されることがある.ただ,病理では標本作成の際にアメーバのいる粘液がはがれてしまってうまく診断できないことがあることに留意が必要である.

Ⅵ UCの内視鏡診断のpitfall

UCの典型例の内視鏡診断については成書にゆずり,ここでは診断時のpitfallについて述べる.

1)直腸に炎症がないことがある

これについては上述した.とくに,炎症が強い場合の直腸sparingについては要注意である.

2)炎症が右側優位であったりスキップしてみられることがある

一般的に,直腸炎型,左側大腸炎型,全大腸炎型,にわけられることから,肛門側に炎症が偏っているのは事実である.しかし,右側のみに炎症がみられる場合や右側優位の炎症がみられる場合もしばしばある.よくみられるのが原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)に合併するUCである.PSCに合併するUCは右側優位の炎症であることが多く,また,内視鏡像も典型的なUCとは若干異なることが多い(粘膜の脆弱性や出血,浮腫が少ないなど)(Figure 6).内視鏡医のなかにはPSCに合併する腸炎はUCとは異なる疾患である,と考える方もいる.また,通常のUCでも重症例には右側に炎症の最強点があることも多い.

Figure 6 

原発性硬化性胆管炎を合併した潰瘍性大腸炎の内視鏡像.

a:上行結腸の炎症性粘膜.浮腫や出血はあまり目立たない.

b:S状結腸.炎症はみられない.

また,「直腸から連続性に」と称されるUCであるが,必ずしも炎症は連続せず,スキップしてみられることもある.治療介入後に口側に炎症が一部残存する,というようなこともある.

3)縦走潰瘍がみられることがある

縦走潰瘍といえばCDと考えがちであるが,UCの重症例ではしばしば縦走潰瘍がみられる(Figure 7).CDとの鑑別は,UCの縦走潰瘍では潰瘍以外の部分にもびまん性の炎症が広がることであるが,まれに両者の鑑別に迷うことがある.

Figure 7 

縦走潰瘍のみられた潰瘍性大腸炎の例.

縦走潰瘍はみられるが,びまん性の炎症も伴う.

4)大腸以外に炎症がみられることがある

UCで,回腸末端に炎症がみられることがあり,おおむね回盲弁が炎症により開大し,回腸末端に炎症が広がったものであり,backwash ileitisと称される.また,まれに胃病変や十二指腸病変がみられることもあり,大腸と同じような活動性粘膜が胃や十二指腸で観察される.

5)狭窄をきたすことがある

狭窄は当然CDでよくみられるが,UCでもまれに腸管狭窄をきたす.下行結腸など左側結腸で比較的よくみられる.狭窄を伴うUCは大腸発癌のリスクであるという報告もある 8

6)病理で肉芽腫を指摘されることがある

まれに,UCでも病理で肉芽腫が指摘されることがある 9.肉芽腫が指摘されたからといって,すぐにCDである,と考えるべきではない.内視鏡的にUCと考えるのであれば,それはUCであることのほうが多い.こういった場面でも病理が絶対,という観念を捨てることが必要である.

Ⅶ CDの内視鏡診断のpitfall

ここでも,縦走潰瘍,敷石像などの典型例の話は成書にゆずり,pitfallについて述べる.

1)大腸に病変がないことがある

当たり前だが,小腸型CDでは,大腸に病変はない.大腸内視鏡の届く範囲でできるだけ口側に回腸末端まで観察しても,それより口側にしか病変がないこともしばしばある.また,肛門病変は存在するが,大腸にはまったく病変がない,という例もあるので要注意である.上部消化管内視鏡が鑑別に有用な例があるのは上述したとおりであり,小腸内視鏡を行うかどうかの参考にする.

2)びまん性炎症をきたすこともある

UCでの縦走潰瘍とは逆に,CDでUCのようなびまん性炎症がみられることもまたしばしばある.このような例では経時的変化をきたすことが多く,びまん性炎症で当初はUCが疑われた例が,数年後に縦走潰瘍が出現したりする.一方で,はじめは縦走潰瘍がみられた例が,再燃時にはびまん性炎症に変化する,というような例もある(Figure 8).

Figure 8 

大腸にびまん性炎症のみられたクローン病の例.

a:初発時には下行結腸に縦走潰瘍がみられている.

b:再燃時の所見(下行結腸).びまん性の炎症所見に変化している.

Ⅷ 鑑別疾患を診断する際のpitfall

1)感染性腸炎

細菌性腸炎,とくにもっとも頻度の高いカンピロバクター腸炎ではしばしばUCと内視鏡所見が類似するので,上記に述べたように病歴をきちんと聴取することと,培養を提出することが重要である.UCを診断する際は,感染性腸炎でないかどうかをつねに意識する必要がある.とくに,UCを疑うが病状が自然軽快してしまったような例では,安易にUCと診断して治療を開始するべきではない.一旦無治療で経過をみて,再燃するようならUCと診断する,というくらいの慎重さが求められる.というのは,感染性腸炎をUCと誤診すると,不要な治療を一生涯,というようなことにもなりかねないからである.なお,エルシニア腸炎では回腸末端に縦走潰瘍を形成することがあり,まれにCDとの鑑別が問題となる.

腸結核は,最近は以前よりは減ったもののたまに見かけることがある.CDとの鑑別で,CDは縦走潰瘍,結核は輪状潰瘍などといわれるが,結核でも狭窄をきたす例や,回盲部の潰瘍などでは如何とも判別しづらいこともある.腸結核を疑う際には,上記のように抗酸菌培養やPCRを提出することが必要であるが,問題は,これらの検査で必ずしも結核が証明できないことである.肺病変はないことも多く,T-SPOTなどのインターフェロンγ遊離試験も陰性である場合も多い.このような例でどうしても結核が否定できない場合は,診断的治療として結核の治療を行わなければならないこともある.

感染性腸炎でも,アメーバ腸炎は内視鏡像ではあまり迷わないことが多く,直腸や盲腸に多発する頂部に汚い粘液付着を伴うたこいぼ様のびらん,という典型的な内視鏡像をきたすことが多い.ただし,症状としては血便であることが多いため,内視鏡を行う前にはUCが疑われていることも多い.アメーバ感染の多い男性同性愛者でないかどうか,B型肝炎やHIV感染を伴っていないか,などの情報があれば,内視鏡前からアメーバ腸炎の鑑別を念頭に置くことができる.

2)薬剤性腸炎

薬剤性腸炎でもっとも頻度が高いのはNSAIDsによるものである.各NSAIDsによって異なる内視鏡像を呈することが多く,ロキソプロフェンなどはCD類似の潰瘍病変を形成することが多く,メフェナム酸やフルフェナム酸ではUC類似のびまん性炎症をきたすことが多い.いずれも,比較的長期に常用することで,腸管の炎症をきたす.薬剤性腸炎のpitfallはとにかく内服薬剤についての病歴聴取が不十分になりがちであることである.よくあるのが,他院の整形外科でもらっている薬剤について,患者自身があまり関係ないものと思い込んで,消化器の医師に申告しない例である.下痢,血便などの症状のある患者では,お薬手帳なども利用して,とにかくその患者が服用しているすべての薬剤をリストアップすることが重要である.UC増悪の際にNSAIDsの服用が契機になっていることがあることにも留意したい.

その他の薬剤としては,抗菌薬による出血性腸炎,ランソプラゾールによるcollagenous colitisなどに注意する必要がある.

3)好酸球性胃腸炎

近年,好酸球性胃腸炎の患者が増加している.好酸球性腸炎の内視鏡像はさまざまであり,まったく内視鏡的には所見のないものもあるし,UCのようなびまん性炎症をきたすような例もある.好酸球性胃腸炎の診断では,消化管の生検で好酸球浸潤を証明することが必須であるが,その際,大腸内視鏡による生検では,回腸や右側結腸では,好酸球性腸炎でなくても比較的好酸球が多め(診断基準の20/HPFを越す程度まで)にみられることがあることに注意する必要がある.好酸球性胃腸炎が疑われる場合には,上部消化管症状がなくとも,食道,胃,十二指腸から生検を行い,好酸球浸潤について調べる必要がある.また,喘息やアトピー性皮膚炎など,好酸球関連疾患の病歴,既往なども参考となる.

Ⅸ 終わりに

IBDを含めた,腸管の炎症性疾患の内視鏡的診断,鑑別について,その注意点やpitfallを中心に述べさせていただいた.筆者もIBDの専門医を称してだいぶ長くなるし,多くの症例の内視鏡を行ってきたつもりであるが,いまだに診断に迷う例や,何病とも診断不可能な症例に出会うことがある.そのような場合にはいまいちど基本に立ち返って,内視鏡所見だけでなく,病歴その他の情報も判断材料にして総合診断を行う必要があることを肝に銘じたい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:加藤 順(アッヴィ合同会社,ヤンセンファーマ,田辺三菱製薬,ファイザー製薬,杏林製薬,EAファーマ,武田薬品工業)

文 献
 
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