日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
内視鏡的に回収し得た十二指腸へ嵌入したスプーン誤飲の1例(動画付き)
松澤 尚徳 中島 真依木村 和哉泉谷 有希菅原 佳恵津田 聡子辻 剛俊中根 邦夫小松 眞史
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電子付録

2024 年 66 巻 9 号 p. 1689-1693

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要旨

症例は60歳女性.スプーンを誤飲し,受診した.上部消化管内視鏡検査でスプーン先端の皿部分が十二指腸に嵌入していた.汎用内視鏡とスパイラルスネアを用いて,スプーンの胃内牽引を試みたが難しく,前庭部大彎を用手圧迫したところ成功した.食道内へ牽引する際に,スプーンが食道胃接合部に引っ掛かったため,患者を仰臥位から左側臥位に変換すると牽引できた.十二指腸に嵌入した金属スプーンを2チャンネル内視鏡で回収した報告は散見されるが,今回,われわれは工夫することで汎用内視鏡での回収に成功した.スプーンのような先端が鋭利でない消化管異物回収において,スパイラルスネア,用手圧迫,体位変換が有用である可能性が示唆された.

Abstract

A 60-year-old woman visited our hospital after inadvertent ingestion of a spoon. Upper gastrointestinal endoscopy revealed that the tip of the spoon had moved into the duodenum. The spoon was retrieved using a spiral snare, manual compression, and postural change without using a two channel endoscope. It is relatively difficult to retrieve metallic spoons endoscopically. Metallic spoons rarely pass into the duodenum, and there are reports of metallic spoons being retrieved using a two-channel endoscope. We were able to endoscopically retrieve a spoon that had passed into the duodenum without using a two channel endoscope. A spiral snare, manual compression, and repositioning may be useful in cases where the retrieval of a gastrointestinal foreign body is difficult.

Ⅰ 緒  言

消化管異物は多くが自然に排出されるが10-20%が内視鏡による回収を要し,1%以下が手術となる 1),2.金属スプーンは,細長い形状で皿が大きく,滑りやすいため,内視鏡での回収が比較的困難である 3.今回,われわれは内視鏡的に回収し得た金属スプーンの誤飲例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:60歳,女性.

主訴:腹部不快感.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:飲酒後,金属製のカレースプーンで催吐を試みたが,誤って飲み込んでしまった.翌日,腹部不快感を自覚し,当院を受診した.

血液検査所見:血算,生化学検査に異常を認めなかった.

腹部単純写真:上腹部に全長18cmのスプーンを認めた(Figure 1).

Figure 1 

腹部レントゲン写真.

上腹部に全長18cmのスプーンを認めた.

経過:直ちにGIF-Q260J(Olympus,Tokyo,Japan)を用いて,透視下で上部消化管内視鏡検査を行った.ミダゾラムおよびペンタゾシン静注を行い,鎮静下で施行した.スプーンの柄は胃内に目視できたが,先端の皿部分は十二指腸に嵌入していた(Figure 2-a).当院は2チャンネルスコープGIF-2TK200(Olympus,Tokyo,Japan)を保有していたが,しばらく使用しておらず,倉庫に保管していた.洗浄準備に時間を要し,すぐに使用できる状況ではなかったため,GIF-Q260Jでの手技を継続した.スプーン回収のためにリユースのスネアを使用したが,スプーンを把持した際に滑ったため,大腸ポリペクトミー用のスパイラルスネアSD-230U-20(Olympus,Tokyo,Japan)を使用した.まず,スプーンの皿の根元を把持し,スプーン先端を胃内に牽引を試みた(Figure 2-b).しかし,皿が幽門輪に引っ掛かり,牽引できなかった(Figure 2-c).患者を仰臥位にし,透視で確認するとスコープを胃内に引く動きだけでは,スプーンが幽門輪とともに動くだけであった.前庭部大彎を用手圧迫したところ,スプーンの動きが制限され,引く力や捻る力がスプーンに良く伝わるようになった.最終的にはスプーンの皿付近を圧迫したところ,スプーン先端を胃内へ引き込むことに成功した(Figure 3-a).続いてスネアで皿の対側の柄を把持し,スプーンの長軸が食道と平行になるように調整し,食道内に誘導した.皿が食道胃接合部に引っ掛かったため,患者を左側臥位にし,スコープに軸回転を加えながら牽引したところ,スプーン全体を食道内に引き込めた(Figure 3-b).梨状窩の通過には,オーバーチューブの使用を試みた.しかし,スプーンの柄が大きいため,スプーンをチューブ内に収納できず,やむを得ずそのまま慎重に抜去した.スプーンは抵抗なく口腔内から取り出せた(電子動画 1).スプーンの全長は18cm,幅は4cmであった(Figure 4).回収後,梨状窩に異常はなく,胃食道接合部,胃前庭部,十二指腸下行部に軽度のびらんを認めたが,治療の必要はなく,経過は良好であった.

Figure 2 

内視鏡像.

a:スプーンの柄を目視できたが,先進部は十二指腸に嵌入していた.

b:スパイラルスネアで,スプーンの皿の根元を把持した.

c:スプーン先端を牽引したが,皿が幽門輪に引っ掛かり,嵌入を解除できなかった.

Figure 3 

イメージ図.

a:図のように幽門部,前庭部大彎に用手圧迫を加えた.

b:仰臥位から左側臥位に体位変換し,スプーンに軸回転を加えながら牽引した.

電子動画 1

Figure 4 

回収されたスプーン.

長さは18cm×4cmであった.

Ⅲ 考  察

消化管異物の治療には異物の種類や大きさ,形状,材質などを確認することが重要である.歯ブラシなどの6cm以上の長い異物は十二指腸を通過しづらいために取り除く必要があるとされている 4.一般的には先端が鋭利である異物が出血や穿孔などの粘膜損傷が起こりやすいが,スプーンでも穿孔することがある 5.一方で金属製スプーンは,細長い形状,大きい皿があること,滑りやすいことから内視鏡での回収が比較的困難である 3.既報では金属製の異物に関しては,ポリペクトミースネアが回収に有用とされている 6),7.本症例では緊縛時の滑りにくさを期待してスパイラルスネアを使用した.終始滑ることなくスプーンを強く把持することができ,処置の完遂に有用であった.

医学中央雑誌で,1986年から2022年までの検索期間で「内視鏡」「スプーン」「十二指腸」をキーワードに検索を行ったところ内視鏡的に誤飲スプーンを回収した報告は,会議録を含めて6例認めた.自験例を加えたものをTable 1に示す 8)~12

Table 1 

内視鏡的に誤飲スプーンを回収した症例.

18cm以上のスプーン例は本症例を含め2例のみであった.本症例は,十二指腸に嵌入した全長18cm以上のスプーンを2チャンネル内視鏡を使用せずに回収した初めての報告である.

十二指腸内にスプーンが嵌入している場合,回収に難渋する箇所は胃幽門輪,食道胃接合部,梨状窩である.本症例では,スプーンの横径が4cmと大きく,胃幽門輪と食道胃接合部の通過に難渋した.スプーン先端が十二指腸に嵌入しており,単純な牽引ではスプーンを胃内に引き込むことが困難であった.幽門輪から異物を引き抜く際には,先端が鋭利でない場合に限り,用手圧迫が有効であると過去に報告がある 13.同報告では本症例と同様にスプーン先端が十二指腸球部にあった.牽引の際にスプーン先端を球部から胃へ押し出すように用手圧迫し,胃内への牽引に成功していた.本例では球部から牽引する際に,スプーンが幽門輪とともに動いたため,スプーンの動きを制限するように用手圧迫することで牽引に成功した.

次に食道胃接合部であるが,スプーン軸と食道を直線化することが難しく,過去に2チャンネル内視鏡を用いて食道とスコープを直線化した報告がある 14.本症例では,スプーンの柄の端を持つことで食道とスプーンの直線化を試みたが,スプーン先端の皿部分が大きく,牽引した際に胃食道吻合部に引っ掛かった.患者の体位を仰臥位から左側臥位に変え,スプーン軸を回転させることで,食道胃接合部の通過に成功した.食道は体のほぼ正中を走行するが,正確には蛇行しており,食道裂孔を通過して第10胸椎のレベルで正中より左側に偏位し,腹部食道となり,食道胃接合部へと続く.食道は腹部食道から食道胃接合部で最も偏位が著しくなる 15.左側臥位にすることでスプーンが受ける重力のベクトル方向が変わり,腹部食道軸とスプーン先端皿部分の軸が一致し,通過できたと考える.

本症例から汎用内視鏡であっても,スパイラルスネア,用手圧迫,体位変換といった器具の選択や手技の工夫で柄の長い異物を内視鏡的に回収できる可能性が示唆された.

Ⅳ 結  語

十二指腸に嵌入した長く幅のあるスプーンを内視鏡的に回収する際にスパイラルスネアによる把持,用手圧迫,体位変換が有効である可能性が示唆された.

本症例は第168回日本消化器内視鏡学会東北支部例会のプレナリーセッションで発表し優秀演題に選ばれた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

補足資料

電子動画 1 スプーン摘出時の内視鏡と透視動画.

文 献
 
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