2024 年 66 巻 9 号 p. 1694-1699
症例は73歳,男性.以前よりアルコール性肝硬変で当院を定期受診していたが,数日前からの腹痛と嘔吐を主訴に今回受診した.腹部CT検査では便塊により上行結腸は閉塞しており,腸閉塞の診断で入院した.大腸内視鏡検査では上行結腸に指状のポリープが密集・融合し,便塊を取り込んで腫瘤を形成していた.腫瘤は正常の上皮で覆われていたが,腸閉塞の原因となっており,また腫瘍性病変の可能性も除外しきれなかったため腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した.最終診断はfiliform polyposisであった.
A 73-year-old man who was diagnosed with alcoholic cirrhosis, visited the hospital with the chief complaint of a several-day history of abdominal pain and vomiting. Abdominal computed tomography revealed a fecal mass in the ascending colon as well as an obstruction. Thus, he was admitted to the hospital with a diagnosis of intestinal obstruction. Colonoscopy revealed finger-shaped polyps that were densely fused in the ascending colon and formed a mass of fecal matter. The mucosa of the mass was covered with normal epithelium, but this was only one potential cause of the intestinal obstruction, and the presence of an undetected neoplastic lesion could not be ruled out. The patient underwent laparoscopic resection of the right hemi-colon, and the final diagnosis was filiform polyposis.
Filiform polyposisは炎症性ポリポーシスの1亜型として分類されている 1),2).炎症性ポリポーシスは潰瘍性大腸炎やCrohn病といった炎症性腸疾患を背景に出現することが多いとされているが,今回炎症性腸疾患の既往を伴わないfiliform polyposisの1例を経験したので報告する.
患者:73歳,男性.
主訴:腹痛,嘔吐.
既往歴:胆石に対する胆囊摘出術(61歳時),アルコール性肝硬変(72歳時).
家族歴:特記事項なし.
現病歴:半年前よりアルコール性肝硬変に対して当院を定期受診していた.今回,数日前からの腹痛と嘔吐を主訴に受診した.腹部CT検査では上行結腸に便塊の貯留と回腸の拡張を認め,腸閉塞の診断で入院した.
入院時現症:身長 165cm,体重 46.4kg.体温 36.7℃,脈拍 71回/分,血圧122/99mmHg.腹部は軽度膨満,軟で下腹部を中心に圧痛を認めた.
血液検査所見:白血球数 9,750/μL,CRP 1.60 mg/dLと軽度の炎症所見を認めた.腫瘍マーカーはCEA 3.7ng/mL,CA19-9 21.4U/mLと基準範囲内であった.
腹部造影CT検査:上行結腸に便塊の貯留と回腸の拡張を認めた(Figure 1).上行結腸の便塊は肝彎曲付近まで認めたが,横行結腸に便塊は認めなかった.

腹部造影CT検査(冠状断,造影早期相).
上行結腸に便塊の貯留(矢頭)と回腸の拡張(矢印)を認めた.
上部消化管内視鏡検査:胃角部から体上部小彎に粘膜の萎縮性変化を認めたが噴門部に竹の節状所見や十二指腸にノッチ様陥凹は認めなかった.
大腸内視鏡検査:上行結腸には指状のポリープが密集・融合し,便塊を取り込み腫瘤を形成していた(Figure 2-a).腫瘤を形成したポリープの表面構造は正常粘膜であり,上皮性腫瘍を疑う所見は認めなかった(Figure 2-b).横行結腸には細長い指状や珊瑚状のポリープが散在性に存在し(Figure 2-c),直腸粘膜に炎症所見は認めなかった.

大腸内視鏡検査.
a:上行結腸には指状のポリープが密集・融合し,便塊を取り込み腫瘤を形成していた.
b:腫瘤を形成したポリープの表面構造は正常粘膜であり,上皮性腫瘍を疑う所見は認めなかった.
c:横行結腸には細長い指状や珊瑚状のポリープが散在性に存在していた.
大腸内視鏡下造影検査:大腸内視鏡下のガストログラフィン造影では,上行結腸は不整に狭小化しており,口側の腸管は十分に造影されなかった(Figure 3).

大腸内視鏡下造影検査.
大腸内視鏡下のガストログラフィン造影では,上行結腸は不整に狭小化しており(矢印),口側腸管は十分に造影されなかった.
経過:上行結腸の腫瘤については非腫瘍性病変の可能性が高いと考えられたが,腸閉塞の原因となっていること,口側の観察ができていない部分に腫瘍性病変の存在も否定できなかったことから外科的切除の適応と判断し腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した.
固定標本所見:上行結腸の100×80mmの範囲に限局して集簇する多数の絨毛状ポリープを認めた(Figure 4).

固定標本所見.
上行結腸の100×80mmの範囲に限局して集簇する多数の絨毛状ポリープを認めた.
病理組織学的所見:ポリープの表面は正常な腺管で覆われており,粘膜筋板は肥厚していた(Figure 5-b).粘膜下層から固有筋層は線維化が著明であり(Figure 5-a),一部に拡張した血管を認めた.また粘膜下層には少数であるが非乾酪性肉芽腫とganglion細胞を認めた(Figure 5-c).

病理組織学的所見.
a:ルーペ像:粘膜下層から固有筋層にかけて著明な線維化を認めた.
b:ポリープの上皮に腫瘍性変化はなく,粘膜筋板は肥厚していた.
c:粘膜下層の一部に非乾酪性肉芽腫(矢印)およびganglion細胞(矢頭)を認めた.
診断および術後経過:炎症性腸疾患に典型的な所見に乏しく,またその他にも明らかな背景疾患を認めなかったことから特発性のfiliform polyposisと診断した.術後1年の経過で腸閉塞症状やCT検査で大腸に腫瘤性病変の出現は認めていない.
Filiform polyposisは炎症性ポリポーシスの1亜型であり 1),2),最初に疾患概念が提唱されたのは1965年である 3).Goldgraberは潰瘍性大腸炎におけるpseudopolypsの報告で,recurrent localized giant pseudopolyposisの中に糸状のポリープがびまん性に粘膜を覆うことがあると述べている.その後,1974年にAppelmanらがfiliform polyposisという用語を使って潰瘍性大腸炎に続発する稀な後遺症として報告している 4).現在,filiform polyposisは指状や紐状といったポリープが多発する以外に,それぞれのポリープが密集または複雑に癒合することに加え,糞便が強固に付着して形成される巨大な腫瘤としても報告されている.このような腫瘤を形成した症例はlocalized giant inflammatory polyposisとして報告されている場合もある.本症例の横行結腸には正常粘膜に覆われた細長い指状や珊瑚状のポリープが多発しており,上行結腸ではポリープが密集・癒合し腫瘤を形成していた.腫瘤には糞便の付着を認め,内視鏡所見はfiliform polyposisに合致していた.Filiform polyposisでは肥厚した粘膜筋板を含む線維血管性の間質,いわゆるfibrovascular coreを認めることが特徴的であり,他の炎症性ポリープとの鑑別点とされている 2).本症例のポリープにおいても粘膜筋板の肥厚と粘膜下層から固有筋層に著明な線維化と拡張した血管を認めていた.本症例における腸閉塞の原因としてはポリープによる器質的な閉塞に加え,粘膜下層から固有筋層にかけての著明な線維化も一因であったと考えられた.
Filiform polyposisの代表的な背景疾患は潰瘍性大腸炎やCrohn病であるが,その他の背景疾患としては腸結核やアメーバ性大腸炎などの感染症,大腸憩室がある.また虚血性腸炎後の大腸や閉鎖孔ヘルニアで嵌頓した小腸粘膜,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の浸潤した小腸粘膜にfiliform polyposisを認めたとの報告もある 5).本症例では直腸粘膜に炎症所見はなく潰瘍性大腸炎の可能性は低いと考えられた.また病理組織所見で非乾酪性肉芽腫とganglion細胞を認めたことから,背景疾患としてCrohn病は否定できないが,上部消化管内視鏡検査でも竹の節状所見や十二指腸にノッチ様陥凹は認めず,現時点ではCrohn病の診断基準は満たしていない.しかしながら大腸内視鏡検査におけるステップ生検や術後経過での内視鏡検査による小腸の観察は施行しておらず,炎症性腸疾患の鑑別が不十分であることは本検討におけるlimitationである.インターフェロンγ遊離試験が陰性であったことから腸結核は否定的であり,CTで上行結腸に憩室は目立たなかった.虚血性腸炎後のfiliform polyposisの可能性はあるが,虚血性腸炎の既往は確認できず,また病理組織所見で上皮の脱落やghost like appearanceは認めなかった.非乾酪性肉芽腫を形成する疾患としてサルコイドーシスや血管炎などが鑑別に挙げられるが,後日施行した血液検査でACEやMPO-ANCA,PR3-ANCAは陰性であり,CTで肺門縦隔リンパ節腫脹や肺異常陰影,動脈の壁肥厚や内腔の狭窄といった所見は認めなかった.以上より,本症例は背景疾患の明らかでないfiliform polyposisである可能性が高いと考えられた.
背景疾患の明らかでないfiliform polyposis/ giant inflammatory polyposisは複数報告されており,PubMedおよび医学中央雑誌で「filiform polyposis」「giant inflammatory polyposis」をキーワードに検索し,背景疾患が明らかでなかった報告をTable 1にまとめた 6)~16).手術を施行した症例では本症例の上行結腸に見られたポリープが密集・融合し腫瘤を形成するような病変であり,手術を施行しなかった症例では本症例の横行結腸のようにポリープは散在性に存在していた.また手術理由としては腸閉塞症状や病変からの出血,腫瘍との鑑別が困難であることが多かった.

背景疾患を伴わないfiliform polyposis/giant inflammatory polyposisの報告.
Appelmanらの報告では,filiform polyposisはmalignant potentialの低い病変であるとされているが 4),腸閉塞に至ったfiliform polyposisでは術前に病変全体を詳細に評価することは困難であることが多い.Boulagnonらは癌を伴ったfiliform polyposisの報告をしており 14),切除の際の術式選択については腫瘍性病変が含有されている可能性を考慮する必要がある.本症例においても,腫瘍性病変の可能性を完全には否定することはできず手術時にリンパ節郭清を行った.炎症性腸疾患を背景としたinflammatory polypoid massやgiant pseudopolypsでは治療経過で病変の縮小や消褪することが報告されている 17),18).本症例のように腫瘤を形成したfiliform polyposisの自然経過については,今後の症例の蓄積によって明らかになることが期待されるが,経過観察を選択する場合には腫瘍性病変が合併している可能性を考慮し,比較的短期間で病変を再評価することが望ましいと考えられる.
炎症性腸疾患の既往を伴わないfiliform polyposisの1例を経験したので報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし