日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
小児に対する上部消化管内視鏡検査のコツ
山崎 健路
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2024 年 66 巻 9 号 p. 1708-1717

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要旨

本邦では小児消化器病医が不足しているため,小児患者の消化器内視鏡検査は消化器内視鏡医が担当することが多い.市中病院では異物除去など,消化器内視鏡医が内視鏡検査の必要性に迫られることが多いが,内視鏡器具の選択・麻酔管理・家族への説明など,成人に対する内視鏡検査とは異なった対応・診療姿勢が求められる.さらに異物除去以外にも,小児特有の疾患に対する知識をもって内視鏡検査に臨むことが要求される.小児内視鏡検査を消化器内視鏡医が行う際には,小児科医との間で十分な連携・情報共有を行うことが重要であるが,将来的にはより多くの小児内視鏡医の育成が期待される.

Abstract

Owing to the lack of pediatric gastroenterologists in Japan, general gastrointestinal endoscopists are often asked to perform endoscopic examinations on pediatric patients. General gastrointestinal endoscopists in community hospitals frequently need to perform endoscopic examinations, such as foreign body removal, but endoscopy in children requires a different approach than that used for adult patients, including the selection of endoscopic equipment, anesthetic management, and explanation to family members. In addition to foreign body removal, general endoscopists must know about diseases specific to pediatric patients. When general endoscopists perform pediatric endoscopy, it is important to collaborate and share information with pediatricians. It is hoped that more pediatric endoscopists will be trained in the future.

Ⅰ はじめに

小児消化器病医・小児内視鏡医がいない施設において小児の消化管内視鏡検査は,成人とは異なる対応を要する場面も多く,消化器内視鏡医は小児症例の経験が少ないため,検査の際に手技・内視鏡診断に戸惑うことも多い.一方で異物除去など,市中病院でも消化器内視鏡医が必要に迫られて小児患者の内視鏡検査を実施せざるを得ない場面にも遭遇する.本邦では小児消化器病医は不足しており,現時点では成人の消化器内視鏡医が小児科医との連携を密にして内視鏡検査を実施することが求められる.筆者が所属する施設は地域中核病院の一つである.小児集中治療室や重症心身障害児入所施設を併設しているが,小児消化器病医は在籍していないため,小児の内視鏡検査を小児科医から消化器内視鏡医へ相談・依頼されることが比較的多い施設である.普段成人患者を主に担当する消化器内視鏡医が,小児患者の上部消化管内視鏡検査を実施する際の注意点について解説したい.

Ⅱ 適  応

一般市中病院の消化器内視鏡医に要求される小児内視鏡検査の中で最も頻度の多いものは異物除去の目的で施行される内視鏡検査である.しかしその他に小児の上部消化管内視鏡検査の適応は,腹痛・悪心・嘔吐・体重増加不良などの症状があり,身体所見ないし一般的な検査から上部消化管の器質的疾患が疑われる症例,既知の上部消化管疾患の経過観察,治療内視鏡の適応となる疾患・病態を有する症例などがある 1.体重増加不良や体重減少は小児において重要な身体所見であり,慢性的な消化器疾患による症状の可能性を考慮する.一方で小児患者に対する内視鏡検査に対して,成人の消化器内視鏡医は普段の経験が少ないことから,技術的な不安のみならず小児特有の疾患の知識に乏しいこともあり,その実施に関しては成人よりもハードルが高くなる傾向があると考えられる.患児本人のみならず,患児家族の不安も大きい.内視鏡検査の実施が遅れることにより,あるいは消化器内視鏡医が小児特有の消化器疾患に関する知識が乏しいゆえに患児の疾患の診断・治療が遅れることがあってはならない.

Ⅲ 前処置

原則として検査前日・夕食後からの絶食を行う.上部消化管内視鏡検査前の絶食は,幼児期以降の予定された検査では前日夕食後から,乳児や緊急内視鏡検査では清澄水2時間,母乳4時間,人工乳や食事摂取後6時間の2-4-6ルールが目安となる 1.近年では準緊急・もしくは緊急内視鏡検査を要すると判断される場合には,絶飲食時間による延期は必要ないとするアルゴリズムも提唱されている 2),3

咽頭麻酔はリドカイン塩酸塩(リドカインスプレー,リドカインビスカス)が使用されているが,全身麻酔下であれば使用せず検査可能である.使用する場合には,ガイドラインに記載のある体重別投与量(10kg:1-2噴霧,20kg:1-3噴霧,30kg:1-4噴霧,40kg以上:1-5噴霧)を目安にし,過剰投与にならないよう注意する 1

Ⅳ 静脈麻酔と全身麻酔

小児の消化器内視鏡検査では,安全に検査ができるよう体動を抑制する,検査前の不安を軽減する,二度と内視鏡検査を受けたくないという精神的なトラウマを残さないために,静脈麻酔下もしくは全身麻酔下に施行されることが多い.静脈麻酔または全身麻酔の決定に際しては,消化器内視鏡医,小児科医,麻酔科医による事前の十分な検討が重要である.海外の小児におけるシステマティックレビューでは,プロポフォールを含むレジメンが最も有効性が高く,安全であると結論されているが 1,本邦の小児内視鏡検査ガイドラインでは国内の医療事情を考慮し,特定の薬剤の使用を推奨せず,様々な鎮静薬や鎮痛薬を適宜組み合わせて用いることを提案し,代表的な薬剤の投与量の目安,組み合わせが紹介されているのでガイドラインを参照されたい 1

静脈麻酔下に消化器内視鏡を行う場合には,解剖学的また生理学的な成人と小児の異同を理解する必要がある.小児は相対的に舌が大きく,扁桃組織が発達しているため,上気道の閉塞が起きやすい.また,食道に挿入されたスコープによって気管が圧迫される.このため低換気から呼吸抑制を合併しやすい 4),5.また,成人での内視鏡検査では患者の苦痛を軽減するために鎮静剤単独で実施している施設も多いと思われるが,小児の場合には鎮静剤単独では十分な鎮静が得られないことが多く,鎮静薬と鎮痛薬の併用が推奨されている 1),6.ミダゾラムの小児への投与では,激越・不随意運動・発作性興奮・暴行などの逆説的反応が成人と比して起こりやすいとされる 1.筆者らは全身麻酔を行わない小児内視鏡を行う際には,原則,小児科医に静脈麻酔管理を依頼しているが,学童期の患児については消化器内視鏡医のみで鎮静薬の投与・管理を行うこともある.その際,安易にミダゾラムの投与のみで内視鏡検査を行った際に患児が興奮状態となることを幾度も経験しており,鎮静薬単独での安易な内視鏡検査は勧められないことを,消化器内視鏡医も知っておきたい.実際,小児消化器内視鏡ガイドライン作成委員の所属する17施設のアンケート調査では,ミダゾラム単剤での鎮静施設は少なく,ミダゾラムとペンタゾシン併用が小学生以上の上部消化管内視鏡検査,大腸内視鏡検査ともに過半数を占めていた 1.鎮静作用と鎮痛作用を併せ持つケタミンの使用も見直されており,筆者の施設ではよく使用される.

Ⅴ 上部消化管内視鏡の選択

通常,体重10kgを超えていれば,通常径の上部消化管内視鏡が使用できるとされる.体重が2.5 ~10kgの患者,特に5kg未満の場合は,外径6mm以下の細径上部消化管内視鏡を推奨している(Table 1 1.ガイドラインでは「必要に応じ(特に治療内視鏡の場合)通常径上部消化管ビデオスコープを考慮する」との記載がある.しかし,実際には新生児と体重5kg未満の乳児の消化管出血症例など,治療内視鏡が必要と考えられる場面において,通常径スコープが挿入できず,外径6mm以下の細径経鼻内視鏡(Table 2)を使用せざるを得ない状況も想定される.鉗子口径2.2mm(オリンパス社),2.4mm(富士フイルム社)を有する内視鏡に対応した各種処置具は限られているため(Table 3),細径内視鏡を用いた内視鏡治療手技には制限があることをあらかじめ考慮した上で,外科医・小児外科医と連携の上,検査に臨むことが必要である.体重10kg未満の乳児に通常径上部消化管内視鏡を用いる場合には,麻酔科に換気が可能な範囲で気管挿管チューブのサイズダウンを依頼するという方法も考慮する 7.6mm以下の細径内視鏡に用いることができる処置具の選択肢は限られており,処置具の充実・開発が切に望まれる.

Table 1 

小児における体重別スコープ選択(文献より引用).

Table 2 

先端外径6.0mm以下の上部用消化管内視鏡.

Table 3 

鉗子口径2.2mm,2.4mmに対応できる処置具一覧(2024年3月現在).

Ⅵ 各疾患への対応

一般市中病院において遭遇する小児の内視鏡検査において最も多いものは「異物誤飲」であると思われるが,異物の内容によっては早急な内視鏡検査の実施が求められる.また腹痛・悪心・嘔吐・体重増加不良などの症状に関連して,小児に比較的多く遭遇する疾患として好酸球性消化管疾患が挙げられる.また好酸球性消化管疾患やウイルス感染症に関連した消化管出血症例にも時に遭遇する.

本稿では①異物誤飲,②好酸球性消化管疾患,③消化管出血への対応について,成人の消化器内視鏡検査と異なる点も含めて実際に当院で経験した症例を提示しながら解説する.

1.異物除去

異物誤飲は,ハイハイやつかまり立ちができる乳児期後期から幼児,もしくは神経発達症のある児に多い.異物の種類としては硬貨,玩具の誤飲が多く,鈍的異物で食道を通過したものは,原則として自然排泄を待つ.一方,コイン型リチウム電池,複数の磁石,鋭利あるいは大きな異物で,消化管の閉塞または穿孔の危険性のあるものは,緊急内視鏡による異物摘出術の適応となる 7.北米の小児消化管異物診療ガイドラインでは推緊急内視鏡(誤飲から2時間以内)と準緊急内視鏡(誤飲から24時間以内)の適応が示されているので原著や各成書を参照されたい 7),8.小学校高学年以上では全身麻酔を用いずに内視鏡検査を行うこともあるが,異物を摘出する場合には回収時に喉頭や咽頭で脱落することがないよう,回収ネットなどで確実に把持する.

コイン型リチウム電池の家庭電化製品への普及により,電池誤飲による,より重大な健康被害が報告されるようになった 9)~11.ボタン電池は,時計,玩具,タイマー,体温計等の様々な日用品に幅広く使われている.電池には,形状によりボタン型とコイン型があり,コイン型はボタン型と比べて,厚みが薄く直径の大きなものが比較的多い.また,起電力が高いため,誤飲し食道に停滞すると,早期に重篤な障害をもたらすことが問題となっている.またコイン型リチウム電池は,X線検査上,同心円状に陰影の薄い部分が存在し,輪郭が二重に見えるdouble contour 12が特徴であるため,誤飲した電池がリチウム電池かどうか不明な際には参考となる所見である.参考までに,コイン型リチウム電池,アルカリボタン電池,酸化銀電池,空気亜鉛電池の記号はそれぞれ,CR,LR,SR,PRである.食道内であれば内視鏡での早期摘出および内視鏡による粘膜観察が必要である(症例1,Figure 1).後日の内視鏡検査再検も望ましい.胃内であれば,マグネットカテーテルなどを用いた透視下での摘出を行うこともできるが,摘出困難時には内視鏡下摘出が必要である 11.透明なgelを管腔内に注入して視野確保するgel immersion法は胃内の食物残渣が多い場合に視野確保に有用な場合がある 13.すでに腸管内に達していれば経過観察を行う場合もある.腸管内に移動した電池による重篤な合併症の報告はまれとされるが 11,経過観察中に腹部症状が出現し,Meckel憩室穿孔を生じた報告 14がある.藤島らは消化管内のどの部位にあっても,常に電気分解が進行しアルカリが産生されつづけていると考えるべきとしており 15,消化管いずれの位置であっても有症状時には外科的治療も含めた検討が必要である 11

Figure 1 

コイン電池誤飲症例.

a:胸部Xp.下部食道にコイン電池が滞留している.Double countourを呈する.

b:上部消化管内視鏡.コイン電池が胃内に移動.「Lithium」「CR」の表記が確認できる.

c:上部消化管内視鏡.コイン電池が滞留していた下部食道には対称性にびらんを認める.

磁石誤飲に関しては,単数であれば自然排泄が期待でき,経過観察が原則であるが,複数の磁石を誤飲した場合は磁石同士が消化管壁を介して吸着し,腸管壁や腸間膜の圧迫壊死・穿通・穿孔・瘻孔形成や腸閉塞などを生じる可能性がある 16.複数の磁石を誤飲した際には,一見複数の磁石が1カ所で吸着しているように見えることがあり,慎重な対応が求められる(症例2,Figure 2).ネオジム磁石は一般的なフェライト磁石の10倍以上の磁力をもつ比較的安価な磁石で,日常生活に幅広く使用されているが,複数個の誤飲をした場合には腸管穿孔のリスクがあることを,消費者庁のウェブサイト( https://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_021/assets/csic_cms101_220324_02.pdf)でも注意喚起がなされている.

症例1(Figure 1):5歳男児.コイン型リチウム電池誤飲.

来院時の腹部Xp(a).電池はdouble contourを呈する.

緊急上部消化管内視鏡検査を施行.

電池は食道に停滞していた.スネアを用いて回収を試みるも胃内へ落下した(b).胃内の残渣のため回収が困難となり,翌日再度内視鏡検査を施行.胃内の電池をスネアで愛護的に回収した.食道壁に対称性にびらんを形成していた(c).

症例2(Figure 2):1歳男児.磁石誤飲.

Figure 2 

複数の磁石誤飲症例.

a:胸腹部Xp.磁石が3つ並んで確認できる.

b:上部消化管内視鏡.十二指腸球部粘膜に埋没するように磁石が確認できる.

腹部Xpでは3個の磁石が互いに吸着している(a).上部消化管内視鏡検査にて十二指腸球部に電池が埋没するような状態にあることを確認した(b).外科的に異物摘出を行った.十二指腸下行部にも磁石を認め,十二指腸間膜を巻き込むように球部の磁石と吸着していた.

2.好酸球性消化管疾患

好酸球性消化管疾患(eosinophilic gastrointestinal disorders:EGIDs)は好酸球の消化管局所への異常な浸潤に伴う炎症の結果,消化管の機能不全を起こす疾患の総称である.上部消化管が標的となるのは好酸球性食道炎(症例3,Figure 3)と好酸球性胃腸炎(症例4,Figure 4)である.

Figure 3 

好酸球性食道炎症例.

a:上部消化管内視鏡.食道に梅干しが滞留している.

b:上部消化管内視鏡.縦走溝が認められる.血液が縦走溝に貯留している.

Figure 4 

好酸球性胃腸炎症例(文献17より引用).

a:上部消化管内視鏡.十二指腸球部に出血を伴う露出血管を認める.

b:上部消化管内視鏡.食道に輪状溝が確認される.

本邦においては,欧米を追随するようにEGIDsの患者数が増えてきており,今後,小児科医,消化器内科医にとって重要な疾患群となることが予想される.その診断と治療効果の判定には内視鏡検査と病理組織学的検査が重要となる.小児では好酸球性消化管疾患の罹患頻度が成人に比して高いことが知られており,小児科領域ではガイドラインにて内視鏡所見に目立った所見がなくとも,積極的な生検の施行が勧められている 1.生検に伴う出血・穿孔のリスクよりも,静脈麻酔・全身麻酔下に繰り返し内視鏡検査を行うことのデメリットの方が大きいと考えられているからである 4.好酸球性胃腸炎の内視鏡所見は非特異的であり,消化器内視鏡医が小児科領域の内視鏡検査を行う際には,常に鑑別疾患の一つとして留意しなければならない.

症例3(Figure 3):15歳男児.好酸球性食道炎症例.

主訴:嚥下困難.

食物残渣の貯留(梅干しの種)(a)と食道に縦走溝(b)を認めた.梅干しの種はネットを用いて回収した.生検による病理組織学的所見により好酸球性食道炎と診断した.食道内腔は狭小化した印象であったが,プロトンポンプ阻害剤(Proton Pump Inhibitor:PPI)の投与にて自覚症状は改善.狭窄所見も改善した.

症例4(Figure 4):11歳男児.好酸球性胃腸炎症例(文献17と同症例.出版元から許可を得て一部のFigureを転載).

主訴:吐血.

現病歴:20XX年5月頃から腹痛が出現し当院小児科受診.下痢や便秘を1年程前から繰り返しており過敏性腸症候群が疑われていた.20XX年6月,吐血・黒色便のため救急外来を受診.貧血を指摘され消化器内科紹介となった.

既往歴:気管支喘息(3歳から8歳頃).

食物アレルギーの既往はなし.

通常径内視鏡を用いて緊急内視鏡検査を施行.出血性十二指腸潰瘍を認め(a),露出血管に対してクリッピングを行った.潰瘍周囲の十二指腸粘膜は浮腫状であった.PPIの投与にて潰瘍はやや改善した.迅速ウレアーゼテストや血清ヘリコバクターピロリ抗体は陰性であった.PPIの内服にて経過観察を行ったが,再度出血を呈したため再度上部消化管内視鏡検査を施行.その際,食道に好酸球性食道炎に特徴的とされる輪状溝を認めたため(b),好酸球性胃腸炎を鑑別に挙げることができた.食道,十二指腸の生検にて好酸球浸潤を著明に認め,好酸球性胃腸炎と診断した.ステロイドの投与にて潰瘍は治癒した.小児の消化管の潰瘍性病変に遭遇した際の生検の重要性を再認識した症例であった.

3.消化管出血

先に述べたが,体重5kg未満の患児では,通常径内視鏡が使用できず,細径内視鏡を使用せざるを得ない状況に遭遇する.細径内視鏡の鉗子口径は2024年3月現在,鉗子口径2.2mm(オリンパス社),2.4mm(富士フイルム社)であり,対応できる処置具は限られることを念頭に置く(Table 3).特に成人の消化管出血に対するクリップ止血術は本邦の内視鏡医にとって使い慣れた手技であるが,本邦では2024年3月の時点で,細径内視鏡に用いることができるクリップの供給はない.院内に通常常備されている処置具で細径スコープを用いた緊急止血術を行う場合には,組織障害性が低いエピネフリンを生理食塩液で1:10,000倍に希釈し,1回0.5~2mLを最大10mLまで,出血部の周囲に局注するという方法もある 7.他にはアルゴンレーザーによる止血(処置具外径1.5mm),スネアの先端を用いた止血術を実施することも可能である.なお吸収性局所止血材である自己組織化ペプチド溶液(ピュアスタット)は消化器内視鏡における止血材として薬事承認・販売されたが,専用カテーテルであるピュアスタット・ノズル・システム タイプE(トップ社)の外径は2.5mm,適応チャンネル2.8mm以上であるため,細径内視鏡の鉗子孔を通して使用することができない.

以下に心臓手術後・アスピリンが誘因となったと考えられる出血性十二指腸潰瘍症例を提示する(Figure 5).本稿では提示しないが,小児に報告が散見されるロタウイルス感染が契機となった出血性十二指腸潰瘍 18も経験することがあるため,われわれ消化器内視鏡医も知っておきたい.

Figure 5 

出血性十二指腸潰瘍症例.

a:上部消化管内視鏡.十二指腸球部には凝血塊の付着する潰瘍を認める.

b:上部消化管内視鏡.十二指腸球部の凝血塊を除去したところ漏出性出血を認め,SB止血鉗子(現在発売中止)を用いてソフト凝固にて焼灼を行う.

c:上部消化管内視鏡.焼灼後,止血を確認.

症例5(Figure 5):0歳女児.体重5.5kg,出血性十二指腸潰瘍症例.

主訴:黒色便.

現病歴:左冠動脈肺動脈起始症に対して左冠動脈肺動脈再建術後.術後9日目,哺乳を開始したところ,黒色嘔吐,多量の黒色便を認めた.上部消化管出血の疑いで当科紹介となった.

内服薬:アスピリン,フロセミド,スピロノラクトン,エナラプリルマレイン酸塩,ツロブテロール,ニトログリセリン.

細径内視鏡(GIF-XP260(オリンパス社),先端部径5.0mm,鉗子口径2.0mm)を使用し,全身麻酔下にて緊急上部消化管内視鏡検査を施行.十二指腸球部前壁に活動性潰瘍,凝血塊付着を認めた(a).十二指腸下行部にかけても輪状の潰瘍所見を認めた.クリップによる止血術を行うため,通常径内視鏡の挿入を試みたが,頸部食道で内視鏡の通過が不能であったため再度細径内視鏡を挿入し,SB止血鉗子(住友ベークライト社製,現在発売中止)を用いて止血術を行った(ICC200(ERBE社),SOFT凝固,30W)(b,c).エソメプラゾールの内服を開始し,以後出血を認めなかった.アスピリンや手術による侵襲ストレスが誘因となった潰瘍と考えられた.

Ⅶ おわりに

小児に対する上部消化管内視鏡検査のコツについて述べた.成人に対する内視鏡検査と勝手が違う場面にも遭遇するが,小児の消化器病疾患の診断・治療には欠かせない手技であることには異論がない.小児科医から内視鏡検査の依頼があった場合には,小児科医と連携しながら想定される疾患を鑑別に挙げ,成人と同様,質の高い内視鏡検査を提供できるような体制づくりが求められる.自施設での対応が困難な場合には,他の医療機関にスムーズに紹介できるようなシステムの構築も望まれる.将来的には本邦においても欧米と同様な小児内視鏡医の育成が期待され,われわれ消化器内視鏡医の協力も必要である.

謝 辞

小児消化器疾患についてのご指導,小児内視鏡検査に際して鎮静・麻酔にご協力して頂いている当院小児科の先生方に謝辞を申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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