日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
食道癌術後吻合部に生じた扁平上皮癌をradial incision and cuttingを併用したESDで一括切除し得た1例
堀川 宜範石山 晃世志濱田 晃市鉄地川原 香恵志波 慶樹永橋 尭之石川 雅文佐久間 秀文
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2025 年 67 巻 2 号 p. 134-139

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要旨

症例は34歳の女性.食道癌術後の嚥下困難精査目的のEGDで,吻合部直上から口側に広がる径15mmの発赤調の平坦な病変を認めた.残存食道に発生した径15mmの粘膜内扁平上皮癌と診断し,ESDを施行した.しかし,吻合部が狭窄を呈しており,処置用内視鏡が通過できなかった.そこで,ESDの前に,狭窄の解除が必要と判断した.しかし,病変肛門側の切除断端陰性を確保することも重要であると考え,病変以外の部分に対してradial incision and cutting(RIC)を施行した.RICで病変部以外の瘢痕を除去したことで処置用内視鏡が通過可能となり,ESDで一括切除し得た.切除標本の病理組織学的結果は,粘膜上皮にとどまる高分化型扁平上皮癌であり,水平断端,垂直断端ともに陰性であった.

Abstract

A 34-year-old woman underwent esophagogastroscopy to evaluate postoperative dysphagia. EGD revealed that the postoperative anastomotic site was stenotic, and a 15-mm flat lesion extending proximally just above the stenosis. ESD was performed; however, due to an anastomotic stenosis, the therapeutic scope could not be met. An incision on the anorectal side of the lesion was not possible. The radial incision and cutting technique selectively removes the scar tissue outside the lesion, thereby releasing the stenosis. The endoscope was passable, and allowed “en bloc” resection of the lesion.

Ⅰ 緒  言

表在食道扁平上皮癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,低侵襲で根治性が高いことから,本邦で広く普及した.食道ESDの困難症例として,粘膜下層まで浸潤している症例,術後吻合部やESD後瘢痕などにより線維化や狭窄の近傍に存在する症例,頸部食道に存在する症例などが報告されている 1)~3.今回,食道癌術後の吻合部狭窄の患者において,吻合部直上から口側に扁平上皮癌(squamous cell carcinoma:SCC)が存在していた.病変肛門側の切開が困難であったため,病変を避けてradial incision and cutting(RIC)を行うことで狭窄を解除し,ESDにより一括切除し得た1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:34歳,女性.

主訴:嚥下困難.

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記すべきことなし.

嗜好歴:喫煙歴なし.飲酒歴:25歳から30歳までワイン750mL/日(アルコール換算84g/日),フラッシング反応陰性.

内服歴:なし.

現病歴:2022年1月から嚥下時のつかえ感を自覚し,前医を受診した.当院を紹介され,精査の結果,頸部食道のSCC(CeUt,Type3,cT3N2M0,cStage Ⅲ)と診断した.術前化学療法施行で奏効が得られ,2022年5月に胸骨後胃管再建を伴う胸腔鏡下食道亜全摘が施行された(pT3N0M0,pStage Ⅱ).術後は外科で経過観察をされていたが,術後1カ月の2022年6月に食事摂取が困難となった.消化管造影検査で吻合部狭窄を認められ,当科へ紹介された.

狭窄症状出現時の現症:身長:163.0cm.体重:48kg.血圧:91/58mmHg.脈拍:79/分.体温:36.6℃.心音整.呼吸音清.腹部は平坦,軟で圧痛なし.

狭窄症状出現時の血液検査:血算・血液生化学検査に異常は認めなかった.腫瘍マーカーはSCC 1.0ng/mL未満と基準値範囲内であった.

胸腹部造影CT:残食道内の病変は同定できず,リンパ節転移や遠隔転移を示唆する所見も認めなかった.

上部消化管内視鏡検査(EGD):上切歯列から16.5cmに拡大観察用内視鏡(GIF-H290Z, Olympus Medical Systems, Tokyo, Japan)が通過不可能な吻合部狭窄を認め,吻合部口側に,径15mmの病変を認めた(Figure 1-a).Narrow band imaging(NBI)拡大観察では,日本食道学会拡大内視鏡分類のtype B1 血管がみられ(Figure 1-b),病変の深達度は粘膜上皮から粘膜固有層までと考えられた.生検でSCCと診断された.この際に,外科手術時の術式と切除標本の病理結果を確認したところ,口側の断端は陰性で切除されていることを確認した.したがって,外科手術前に指摘できていなかった別病変が吻合部に近接して存在したと診断した.以上から,残食道内(CeUt)の径15mm,Type 0-Ⅱb,SCC,cT1aN0M0,clinical Stage0と診断し,ESDの方針とした.

Figure 1 

ESD術前の内視鏡像.

a:上切歯列15cmから吻合部直上の左壁側に径15mmの発赤平坦病変を認めた.病変の肛門側は狭窄のため,拡大観察用内視鏡が通過不可能であった(病変部位を白矢印で示した).

b:Narrow band imaging拡大観察では,日本食道学会拡大内視鏡分類のtype B1血管がみられ,病変の深達度は粘膜上皮から粘膜固有層までと考えられた(病変部位を白矢印で示した).

ESD:先端にアタッチメント(D-201-11804:Olympus Medical Systems, Tokyo, Japan)を装着した先端部外径9.9mmの処置用内視鏡(GIF-H290T, Olympus Medical Systems, Tokyo, Japan)を用いた.高周波ナイフは病変の周囲マーキングと切開剝離にDual Knife J 1.5mm(KD-655Q:Olympus Medical Systems, Tokyo, Japan),高周波装置はVIO300D(ERBE Elektromedizin Gmbh, Tübingen, Germany)を使用した.ヒアルロン酸と生理食塩液を1:1の比で混合した溶液を粘膜下層への局注液として使用した.ヨード染色を行うと境界は明瞭であった(Figure 2-a,b).

Figure 2 

ESD時のヨード染色後の内視鏡像.

a:マーキング後の病変口側の内視鏡像である.

b :病変肛門側の内視鏡像である.病変の肛門側は,狭窄をきたしている吻合部に近接していた.

病変口側からDual Knife Jで粘膜切開を開始した.しかし,病変の肛門側端は吻合部の直上に存在しており,狭窄のために通常操作での粘膜切開は困難であった.内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)も考慮されたが,病変を損傷してしまうことが危惧された.そこで,IT-Knife(KD-610L:Olympus Medical Systems, Tokyo, Japan)を用いたRICで,病変を避けて吻合部狭窄部を切開し,線維化組織を除去することで狭窄を解除した(Figure 3).RICにより,処置用内視鏡が吻合部を通過可能となり,通常操作での粘膜切開および粘膜下層剝離が可能となった.吻合部の粘膜下層に高度の線維化を認めた(Figure 4-a)が,Multi loop traction device(Boston Scientific, Marlborough MA, USA)を用いたトラクションも併用し,穿孔や出血などの有害事象なく病変を一括切除した(Figure 4-b).治療後の狭窄予防のため,病変切除後に残存していた吻合部の線維化組織に対するRICを追加で行い,切除後潰瘍底にトリアムシノロンアセトニド 40mgを局注し手技を終了した.穿孔や後出血などの有害事象はなく,術後経過は良好でESD後6病日で退院となった.治療3カ月後のEGDでは,ESD後潰瘍は瘢痕化しており,吻合部の狭窄は認めず,通常径内視鏡も抵抗なく通過可能であった(Figure 5).

Figure 3 

ESD時の治療戦略.

白矢印で示した病変部を避け,RICで黄色矢印部分の線維化組織を除去し,アタッチメントを装着した処置用内視鏡が通過可能となるように狭窄を解除した.

Figure 4 

ESD時の内視鏡像.

a:吻合部直下の粘膜下層に高度の線維化がみられた.外科的ペッツは視認されなかった.

b:RICとESD施行後内視鏡像(白矢印部位が病変存在部位,黄色矢印部分がRIC施行部位).

Figure 5 

治療3カ月後の内視鏡像.

ESD切除標本の病理組織学的所見:高分化扁平上皮癌,15×7mm,Type 0-Ⅱb,pT1a-EP,INFa,Ly0,V0,pHM0,pVM0でpStage0であった.吻合部の粘膜下層に線維化を認めた.また,病変肛門側の水平断端は陰性であった(Figure 6-a,b).

Figure 6 

ESD切除標本の病理組織学的所見.

a:マクロ像.検体長:23×18mm,病変長:15×7mm(病変を緑で示す),pT1a-EP,Ly0,V0,pVM0,pHM0であった.

b:病理組織像.上皮の全層に扁平上皮癌を認め,病変部の粘膜下層に炎症細胞浸潤と線維化を認める(×40倍 HE).

ESD後の経過:3カ月に1度の造影CT,6カ月に1度のEGDを行っているが,吻合部狭窄や再発などは認めず,食道癌術後17カ月において無再発生存中である.

Ⅲ 考  察

本論文は,術後吻合部に存在するSCCに対し,RICで狭窄を解除することで,処置用内視鏡を用いたESDで一括切除し得た症例の報告である.2013年から2023年まで,「食道扁平上皮癌」「吻合部」「ESD」をキーワードに医学中央雑誌で,加えて「esophageal cancer」「post operative stenosis」「ESD」をキーワードにPub Medで検索した結果,食道癌術後吻合部狭窄にRICを併用してESDを行った報告はなかった.したがって,本症例は,食道癌術後吻合部のSCCに対し,RICを併用しESDを行った初めての症例報告であると考えられた.

食道ESDにおいて,術後の吻合部やESD後瘢痕の近傍に病変が存在する場合,治療に難渋する 4),5.粘膜下層の線維化が高度で,面状に瘢痕が存在することも多いため,筋層の認識が難しい場合があるためである.したがって,浅い剝離となった場合には粘膜面へ切り込んでしまい,深い剝離となった場合には穿孔を生じてしまう.そのような症例に対して,経鼻内視鏡で使用される先端部径5.8 mmの極細径内視鏡を用いたESDが報告されている 6),7.極細径内視鏡の利点は,狭い管腔でも内視鏡操作は容易であること,粘膜下層への迅速な進入が可能なことである.一方,吸引機能が通常径内視鏡と比較して弱いこと,送水機能がないために出血時の対処が困難となることが欠点として挙げられる.また,病変の5mm以内に瘢痕がある場合には,ESDの術中出血率が78.3%と高いことも報告されている 8.本症例は術後狭窄直上の病変であり,術中出血が想定されたが,病変口側に線維化はなく,口側より切開,剝離を行ったのち,粘膜下層に通常径の処置用内視鏡が入り込むことが可能であった.そのため,治療中の穿孔リスクや出血に対処する可能性を考慮し,極細径内視鏡は使用せず,通常径の処置用内視鏡を用いてESDを施行した.

本症例は術後吻合部狭窄も呈していた.治療のストラテジーとして,術後吻合部狭窄解除と病変切除を兼ねてIT-Knifeを用いてのRIC手技でESDを行う方法も選択肢となり得る.しかし,本例では,RIC手技を併用したESDでは肛門側の断端陰性を確保することが困難と考え,病変を避けてRICを行うことで吻合部狭窄を解除した後で,Dual Knife Jを用いたESDを行った.RICは,狭窄部を放射線状に切開した後で,管腔にナイフを沿わせて切開し,線維化組織を取り除く方法である.食道術後吻合部狭窄に対するRICとEBDの比較研究において,12カ月後の開存割合がRICで61.5%,EBDで19.8%と,RICが優れていたことが報告されている 9.また,EBDは狭窄部全体へ圧力がかかってしまうが,RICは任意の部位での線維化組織の除去が可能である.本例のように狭窄部に病変がかかっている場合,EBDによる病変損傷が報告されており 10,RICで病変以外の部位の線維化組織を除去することで,病変を損傷することなく狭窄を解除できた.

Ⅳ 結  語

食道癌術後の吻合部狭窄直上から口側に存在する残食道内SCCに対する内視鏡治療の工夫として,RICを併用したESDにより一括切除し得た1例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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