2025 年 67 巻 2 号 p. 140-148
十二指腸球部に60mm大の有茎性の粘膜下病変を認められた.Brunner腺過形成が疑われたが,病変の大きさから切除を検討された.しかし,本人に切除の希望がなかったため,経過観察をされた.診断から11年後,心窩部痛をきたし,CTで同病変の十二指腸水平部への嵌頓を認めた.そこで,病変をESDで切除した上で,開腹で切除検体を回収した.最終的に75mm大のBrunner腺過形成と診断された.Brunner腺過形成は,十二指腸の粘膜下病変として発見されることが多いが,確定診断は容易ではない.したがって,増大傾向がある場合や通過障害の原因となる場合には,腫瘍との鑑別のためにも切除の対象となることがある.今回,経過観察中に増大し,嵌頓をきたした十二指腸Brunner腺過形成を内視鏡的に切除しえたが,病変の体外への回収には開腹手術を要した症例を経験した.
Here, we present a case of giant Brunnerʼs gland hyperplasia. Although it is often discovered as a submucosal lesion in the duodenum, a definitive diagnosis is challenging. Moreover, if the lesion is large or tends to increase in size, it may be difficult to distinguish it from a malignant neoplasm or it may result in an impaired passage or a complicated obstruction. A74-year-old woman had a 60-mm-sized submucosal tumor in the duodenal bulb, which was suspected to be Brunnerʼs gland hyperplasia. However, the patient did not wish to undergo treatment at that time, which led to the decision of just observing the patient. Regular follow-ups were performed; however, the lesion did not increase in size or cause any subjective symptoms. Eleven years later, the patient presented with epigastric pain. Contrast-enhanced CT and emergency esophagogastroduodenoscopy revealed the same lesion in the duodenal descending part. The lesion was resected via endoscopic submucosal dissection in the presence of a gastroenterology surgeon. Pathological examination revealed a 75×32×26 mm Brunnerʼs gland hyperplasia lesion. Since giant Brunnerʼs gland hyperplasia may cause obstruction or incarceration in the future, early prophylactic resection could be considered as a treatment option.
十二指腸Brunner腺過形成は,十二指腸の粘膜下層に存在するBrunner腺が,領域性をもって,異型のない状態で過剰に増殖したものである.腺開口部を有する表面平滑な粘膜下腫瘍様隆起で,Cushion sign陽性であるものが特徴的な内視鏡所見とされる 1)~3).しかし,内視鏡所見のみでは確定診断が難しいことも多く,粘膜下に病変の主座があるため,生検での確定診断も困難である 1)~3).また,30mmを超える大きさの場合や増大した場合には,腫瘍との鑑別が必要であり,増大に伴い通過障害や出血をきたすこともある 2),4).今回,経過観察中に増大し,十二指腸水平部に嵌頓したため,内視鏡的に切除して外科的開腹下に回収した74歳女性のBrunner腺過形成の症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
患者:74歳女性.
主訴:心窩部痛.
既往歴:高血圧,脂質異常症,糖尿病(発症時期不明),右乳癌(2011年).
現病歴:2011年1月,当院での乳癌術前のスクリーニングCTで十二指腸球部から上十二指腸角にかけての隆起性病変を指摘され,上部消化管内視鏡(EGD)が施行された.EGDでは,十二指腸球部を基部とする長径60mm大の有茎性粘膜下腫瘍を認めた(Figure 1).超音波内視鏡(EUS)では病変表面は均一な構造を認め,病変基部に向かうにつれて腺管構造が増え,Brunner腺の過形成により正常粘膜が管腔側に押し出されている所見と考えられた.生検では過形成ポリープの病理診断であった.以上から,Brunner腺過形成疑いの診断とした.サイズが大きい病変であり切除も検討されたが患者が切除を希望せず,当科外来でCTやEGDで経過観察し,増大や症状出現なく経過していた.2022年6月,心窩部痛の訴えあり,当院を受診した.腹部CT,EGDにて病変の十二指腸水平部への嵌頓を認めた.十二指腸粘膜の虚血性変化や穿孔は認めなかった.病変の十二指腸陥頓と診断され,緊急入院となり,絶食と経過観察の上,嵌頓の解除と病変の切除を行う方針となった.

発見時のEGD所見.
腫瘍の先端は十二指腸下行部に位置していた.
来院時現症:体温 36.9℃,血圧 142/72mmHg,脈拍 98回/分整,呼吸数 20回/分,SpO2 98%(room air).腹部は平坦で軟.心窩部に軽度の圧痛を認めるが,反跳痛は認めない.
来院時血液検査:WBC 10,800 /µL,RBC 409×104/µL,Hb 12.4g/dL,Ht 37.4%,Plt 235×104/µL,PT-INR 0.97,APTT 21.6sec,TP 6.2g/dL,Alb 3.5g/dL,T-Bil 0.9mg/dL,AST 19IU/L,ALT 15IU/L,ALP 80IU/L,γ-GTP 19IU/L,LDH 179IU/L,CK 102U/L,AMY 107U/L,BUN 18.0 mg/dL,Cre 0.52mg/dL,Na 140mEq/L,K 3.7 mEq/L,Cl 103mEq/L,CRP 0.91mg/dL,Glu 123 mg/dL,HbA1c 7.3%.
腹部造影CT:十二指腸球部を基部とする内部低吸収,一部不均一な病変が水平部まで引き延ばされていた.腸管の造影効果は良好で,明らかな消化管穿孔を示唆する所見を認めなかった(Figure 2).

来院時造影CT画像(冠状断).
十二指腸球部を基部とする内部低吸収,一部不均ーな腫瘍が水平部まで引き延ばされている(白矢印).腸管の造影効果は良好であった.
EGD:十二指腸球部を基部とする病変が水平部まで引き延ばされ,下十二指腸角付近で病変が管腔にはまり込むような状態であった.病変先端は十二指腸水平部に位置し,十二指腸粘膜に虚血所見を認めなかった(Figure 3-a~c).

当科入院時内視鏡画像.
a:十二指腸水平部における腫瘍先端の内視鏡画像.腫瘍先端は牽引され水平部に位置していた.
下十二指腸角における内視鏡画像.下十二指腸角の屈曲部において腫瘍が嵌頓していた.
c:上十二指腸角から十二指腸球部を見上げた内視鏡画像.腫瘍基部は十二指腸球部から起始していた.
入院後経過:絶食,経過観察で症状の増悪がないことを確認し,入院第7病日にEGDを再検した.把持鉗子で病変先端を把持し,上十二指腸角まで還納することで管腔へのはまり込みを解除したが,胃内への牽引は困難であった.有茎性病変であり,内視鏡的切除は可能であったが,サイズから切除後の病変回収困難が予想され,小腸への切除検体落下によるイレウスのリスクも考えられた.そのため,そのようなトラブル時に直ちに開腹的病変回収に移行できるように,外科医待機の下,手術室にて全身麻酔下に内視鏡的切除を行う方針となった.
EGD再検後14日目に内視鏡的切除を施行した.十二指腸下行部の処置となり,スコープの操作性が悪いことが懸念されたため,マルチベンディング2チャンネルスコープ(GIF-2TQ260M,OLYMPUS社,Tokyo,Japan)を用いた.局注材にはヒアルロン酸ナトリウム(ムコアップⓇ,ボストン・サイエンティフィックジャパン社,Tokyo,Japan),切開,剝離には先端型ナイフ(Flush knife BTSⓇ 突出長2.5mm,FUJIFILM社,Tokyo,Japan),ハサミ型ナイフ(SBナイフJrⓇ,住友ベークライト社,Tokyo,Japan),出血時や予防的血管焼灼に高周波止血鉗子(CoagrasperⓇ,OLYMPUS社,Tokyo,Japan),高周波装置はVIO3Ⓡ(AMCO社,Tokyo,Japan)を用いて内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した.病変付着部にヒアルロン酸ナトリウム局注を行い,先端型ナイフで切開と剝離を行い,適宜止血鉗子で止血処置を行いながら病変基部を切離した.切除後潰瘍は可及的にクリップ(シュアクリップⓇ,Micro-Tech社,Nanjing,China)で縫縮した.その後,まず切除検体を把持鉗子で胃内に移動させたのち,検体を内視鏡用回収具(エンドキャリーⓇ,八光社,Nagano,Japan)を用いて経口的に回収しようと試みたが,胃噴門を通過しなかった.病変を分割しての回収も検討したが,悪性腫瘍との鑑別も考慮すると回収具に収めた上での一括での病変回収が望ましいと考え,外科医とも協議の結果,開腹下で胃壁を切開し,経腹的回収の方針とした.上腹部に約4cmの小開腹を置き,胃体中部前壁を短軸方向に切開,回収具ごと標本を回収した(電子動画 1).切開した胃壁は長軸方向にGambee法で縫合閉鎖し,閉腹して施術終了した.
電子動画 1
切除標本は75×32×26mmであった(Figure 4).粘膜下にBrunner腺の過形成からなる結節性の病変があり,導管の拡張が目立ち,悪性所見なく,Brunner腺過形成の診断となった(Figure 5-a,b).術後経過は良好であり,術後13日目に退院となった.当科外来にて経過観察中であるが,明らかな再発や術後合併症は認めていない.

切除標本のマクロ病理画像.
大きさは75×32×26mmで,導菅構造がみられた.

切除標本のミクロ病理画像.aは弱拡大.bは強拡大.大小の導管構造を認める(黒矢印).
本論文は,十二指腸球部のBrunner腺過形成が11年の経過で嵌頓をきたし,ESDで切除しえた症例の報告である.しかし,その回収に開腹手術を要したことから,適切な治療時期を考える上でも示唆に富む症例と考えた.
1965年1月から2023年1月末までの期間において,医学中央雑誌およびPubMedにて,「Brunner腺過形成」「Brunner gland hyperplasia」のキーワードで検索し,論文中に切除した検体の病理診断結果がBrunner腺過形成であったという明らかな記載が確認できた本邦の症例報告はそれぞれ44編45例であった(Table 1) 2),5)~46).それらの報告と本症例とを比較したところ,本症例の切除標本の長径75mmは,Brunner腺過形成を内視鏡的に切除した報告の中では最長であった.さらに,嵌頓をきたしたBrunner腺過形成を切除した報告は2021年の渡邉ら 6)の報告1件のみであり,挙上空腸に発生したBrunner腺過形成の1例であった.同報告において渡邉らは,Brunner腺過形成が原因での腸閉塞に至った報告はこれまでになく貴重な症例であるとしており,本症例のような十二指腸内でBrunner腺過形成が嵌頓した症例報告は希少であると思われた.

本邦でのBrunner腺過形成の切除例.
Brunner腺過形成は十二指腸に発生する良性病変であり,腺開口部を有する表面平滑な粘膜下腫瘍様隆起,Cushion sign陽性などの内視鏡的特徴をもつ.しかし,増大傾向がある場合,悪性新生物との鑑別が困難な場合,出血による貧血などの合併症が懸念される場合は,内視鏡的切除が提案されている 2),4).
Brunner腺は主に粘膜下層に存在するため,過形成性に増大しても表面は正常の小腸上皮に被覆されている.しかし,サイズが増大してびらんや潰瘍を生じると,Brunner腺がむき出しになり,そこから再生性・化生性に胃腺窩上皮型細胞が発生し被覆するようになる 47).本症例の場合,発見時には既に病変のサイズが大きかったため,発見以前の病変の生活史は正確には不明であった.しかし,十二指腸球部において,自覚症状を伴わない程度のびらん形成を繰り返してBrunner腺過形成が増大し,サイズが大きくなることで胃酸曝露面積が増大し,またさらにびらん形成と再生・化生を繰り返してサイズが増大していったという機序が推察された.
Brunner腺過形成を切除する場合,切除検体の大きさによっては切除検体が幽門もしくは噴門を通過できない場合があり,検体を分割しての経口的回収の報告がある 43).しかし,本症例のような胃内への検体牽引すら困難が予想される場合や,悪性腫瘍との鑑別が比較的困難である場合は,内科医による適切な回収具への十分な検体収納と,外科医による病変腹膜播種に十分に注意した開腹回収手技を組み合わせた合同回収術を考慮してもよいと思われる.近年では開腹的回収 21)に加え,腹腔鏡内視鏡合同切除術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery:LECS)で切除,回収をした報告が散見される 5),9),13).さらに,Otowaら 48)は,一般的に穿孔しやすいとされる十二指腸におけるESDの際のD-LECSの有用性を報告している.また,先述した症例報告群のうち,本症例のようにBrunner腺過形成を内視鏡的に切除しながら,何らかの理由により内視鏡以外の回収方法や検体を分割しての回収を選択せざるを得なかった症例 21),43),45)を検討すると,すべて最大径が30mmを超えていた.そのため,少なくとも最大径が30mmを超えているBrunner腺過形成の内視鏡的切除においては,病変切除後にトラブルが発生する可能性や,回収方法に工夫が必要になる可能性があることに留意するべきであると考えられた.
十二指腸内で嵌頓をきたし,内視鏡的切除後に,経腹的に回収したBrunner腺過形成の1例を経験した.本症例のような60mmを超えるBrunner腺過形成は,閉塞や嵌頓の原因になるため,切除を検討すべきであると思われた.
補 足
本症例報告の内容は2023年2月10日に宮城県仙台市にて開催された第169回日本消化器内視鏡学会東北支部例会において一般演題として発表した.
謝 辞
本症例において,開腹術のご執刀ならびに胃内より切除検体を回収して下さった秋田大学第一外科,佐藤公彦先生,阿部ゆき先生,渡邊剛先生にこの場を借りて深く御礼申し上げます.