日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
経肛門的シングルバルーン小腸内視鏡により虫体を摘出し,回腸粘膜所見の変化を追えた小腸アニサキス症の1例
中野 貴博奥山 祐右 澤井 剛植原 知暉提中 克幸田中 信稲田 裕中津川 善和戸祭 直也佐藤 秀樹
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2025 年 67 巻 2 号 p. 149-154

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要旨

症例は41歳男性.サバとカツオの刺身を摂取した翌日から心窩部痛が出現し,右下腹部に移動したため,救急外来を受診した.腹部造影CTで終末回腸に浮腫状の壁肥厚,周囲の脂肪濃度上昇と腹水を認めた.病歴より小腸アニサキス症を疑い,経肛門的シングルバルーン小腸内視鏡検査を施行した.終末回腸は粘膜下腫瘍様に隆起し,管腔は狭小化していた.回腸粘膜に刺入したアニサキス虫体を認め,生検鉗子で摘出した.症状は速やかに改善し,処置翌日に退院した.4週間後の内視鏡観察では,以前の所見は消失していた.小腸アニサキス症も,胃と同様に虫体の摘出が早期の症状の改善につながり,粘膜所見の変化を観察することができた貴重な症例である.

Abstract

A 41-year-old man was admitted to our hospital with upper abdominal pain and discomfort in the lower right abdomen. He had eaten raw mackerel and bonito the previous day. A contrast-enhanced CT scan of the abdomen showed ascites and localized thickening of the terminal ileum, along with signs of inflammation. Given the suspicion of ileal anisakiasis, we performed transanal single-balloon endoscopy (SBE). The procedure revealed a swollen, submucosal tumor-like appearance in the terminal ileum. Anisakis larvae were found at the site and successfully removed with endoscopic forceps. The patientʼs symptoms improved quickly after the procedure. Follow-up SBE four weeks later showed that the swelling had fully resolved. Ileal anisakiasis displayed characteristics similar to gastric anisakiasis, with the distinctive feature of a “vanishing tumor” appearance.

Ⅰ 緒  言

消化管アニサキス症は,アニサキス第3期幼虫の寄生した海産魚介類を生食し,その虫体が消化管粘膜に刺入することにより発症する.発症部位は胃が93.2%と圧倒的に多く,小腸は2.6~4.5%と稀であることに加え,特異的な腹部所見がなく,検査法が限られることによって診断と治療に難渋する 1),2.今回われわれは,事前に小腸アニサキス症が疑われた患者に対し,経肛門的シングルバルーン小腸内視鏡(single-balloon endoscopy;SBE)を施行し,アニサキス虫体を発見,摘出した.SBEでその後の回腸病変部の粘膜変化を内視鏡で観察したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:41歳,男性.

主訴:心窩部痛,右下腹部痛.

既往歴:右拇指中手骨骨折,糖尿病,脂質異常症.

内服薬:メトホルミン塩酸塩,シタグリプチンリン酸塩,ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物,プラバスタチンナトリウム.

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴:調理師.

現病歴:2021年6月の夕食時にサバとカツオの刺身を摂取した.明け方から心窩部痛があり,近医を受診し,内服処方をされたが改善せず,摂取日から2日後に右下腹部に疼痛が移動したため,当院救急外来を受診した.

受診時現症:体温 36.4℃,脈拍 86/min,血圧 136/74mmHg,SpO2 97%.眼瞼結膜に蒼白なし,眼球結膜に黄染なし.胸部異常所見なし.腹部は平坦,軟.右下腹部に圧痛と腹膜刺激症状を認めた.

受診時臨床検査成績(Table 1):白血球は正常で,好酸球の上昇はみられなかったが,CRPの軽度の上昇を認めた.また,後に測定した非特異的IgE,アニサキス特異的IgEはいずれも上昇を認めた.

Table 1 

臨床検査成績.

腹部造影CT検査(Figure 1):終末回腸の著明な壁肥厚と周囲の脂肪濃度の上昇を認め,近傍に少量の腹水の貯留を伴っていた.

Figure 1 

初診時腹部造影CT.

回腸の脂肪濃度の上昇を伴う限局性壁肥厚と腸液貯留(白矢印),近傍に少量の腹水の貯留(白矢頭)を認めた.

経過:嘔吐や下痢はなく,心窩部痛は改善していたが,右下腹部痛が増強し,腹膜刺激症状を認め,入院した.病歴から小腸アニサキス症を疑い,経肛門的SBEを提案するも,当初は希望されず点滴の投与を行ったが,症状の改善が乏しく,第4病日には経口洗浄液を服用の下,経肛門的SBEを施行した.回腸粘膜は浮腫状で,一部に粘膜下腫瘍様の隆起を認め管腔は狭小化していた(Figure 2-a).同部位に刺入しているアニサキス虫体を認め,生検鉗子で摘出した(Figure 2-b~d).病理組織所見より,線虫であるアニサキスに特徴的な縦走索,側索と多筋細胞型である筋細胞を認めた(Figure 3).入院第5病日には右下腹部痛は改善し,退院された.その後,腸閉塞症状を来すことなく,退院4週間後の腹部造影CTでは,回腸の壁肥厚,脂肪濃度の上昇,腹水の貯留は消失し(Figure 4),経肛門的SBEでは回腸の浮腫状粘膜,粘膜下腫瘍様の隆起,管腔の狭小化は改善していた(Figure 5).

Figure 2 

経肛門的シングルバルーン小腸内視鏡.

a:回腸は浮腫状で粘膜下腫瘍様の隆起を認め,管腔は狭小化していた(白矢印).

b:浮腫状の粘膜に刺入するアニサキスを認めた.

c:虫体を生検鉗子で摘出した.

d:摘出された虫体.

Figure 3 

病理組織検査.

縦走索(黄矢印)と側索(白矢印)を認め,筋細胞は多筋細胞型であった.

Figure 4 

退院4週間後の腹部造影CT.

脂肪濃度の上昇を伴う限局性壁肥厚と腸液貯留,腹水の貯留はいずれも改善していた.

Figure 5 

退院4週間後の経肛門的シングルバルーン小腸内視鏡.

回腸の浮腫状粘膜,粘膜下腫瘍様隆起,管腔の狭小化は改善していた.

Ⅲ 考  察

消化管アニサキス症は海産魚介類に寄生したアニサキスが粘膜に刺入することにより発症する感染症である.発症時期は,以前は11~4月までの冬季に多かったが,自験例がそうであったように6~9月にも発生し,現在は主な感染魚であるサバとイカが旬を迎える夏から秋にかけての疾患と考えられる 2),3.発症地域は,主に水揚げ地が近い北海道と九州であるが,近年は鮮魚の流通網の発達のため,内陸部各県からの報告も増加している 2),3.小腸アニサキス症の臨床症状と画像は非特異的なものが多く,急性期の診断が困難であるため,食事内容に関する詳細な問診が重要であることはいうまでもない 2

本症例は,海産魚介類の生食歴と腹部造影CT所見から小腸アニサキス症を疑い,経肛門的SBEで虫体を摘出し,回腸粘膜所見の変化を観察することができた.診断時は粘膜下腫瘍様の浮腫と隆起を来していたが,4週間後の再検時には改善し,悪性腫瘍やクローン病などの炎症性腸疾患も鑑別の上,除外しえた.vanishing tumorは胃アニサキス症の2~4%で生じ,粘膜下層に大量の好酸球を中心とした細胞浸潤と著明な浮腫を特徴とするといわれている 4)~6.本症例において特徴的な回腸粘膜の浮腫性肥厚所見は可逆性であり,胃のvanishing tumorと同様に短期間で消失することが示された.

1998年から2022年まで「小腸アニサキス症」,「バルーン小腸内視鏡」または「intestinal anisakiasis」,「balloon endoscopy」のキーワードで,医学中央雑誌およびPubMedで検索したところ(会議録は除く),本邦において内視鏡で診断された小腸アニサキス症に関して,10例の報告がみられる(Table 2 7)~15.病変部位は回腸が多く,虫体を摘出した7例において,小腸内視鏡を使用したのは4例で,いずれも経肛門的ダブルバルーン内視鏡を用いており,SBEを使用したのは本症例が初めてである.

Table 2 

内視鏡で診断された小腸アニサキス症.

小腸アニサキス症に伴う著明な浮腫性変化の経過を内視鏡で観察した症例が,1例報告されている.病歴,抗アニサキス抗体陽性所見と粘膜生検における好酸球を主体とする炎症細胞浸潤により診断が行われ,8週間後に粘膜所見の改善を確認しているが,虫体の確認とその摘出には至っていない 8.臨床症状発現後,早期に経肛門的SBEを行い,アニサキス虫体の確認とその摘出を行うことにより,症状の早期改善と回腸粘膜所見の改善を確認した点で,本症例は示唆に富む症例と考える.

アニサキス虫体は,約7日で死滅するため,小腸アニサキス症に対する治療としては,イレウス管による減圧治療やステロイドの点滴投与による保存的加療も許容できる 8)~10.ただし,虫体を確認し,摘出しえた症例はいずれも腹部症状は速やかに改善しており,特に腸重積合併例においては外科手術を回避することが可能であり,既報の平均入院日数に比べて,より短期間での退院を目指すことが可能となる 7),11)~16.問診,放射線画像診断にて小腸アニサキス症を考えた際には,患者への十分な説明と同意の上,小腸内視鏡検査を行うことにより,早期の確定診断と適切な治療を行うことができうると考える.

Ⅳ 結  語

経肛門的シングルバルーン小腸内視鏡により虫体を摘出した小腸アニサキス症の1例を経験した.虫体の摘出後の臨床経過を追うことで4週間後には回腸の著明な浮腫性変化が消失,改善することが示された.

本論文の要旨は,第107回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会において発表した.

謝 辞

執筆に際し,ご指導をくださいました京都第一赤十字病院病理診断科稲森理先生,樋野陽子先生,浦田洋二先生および京都府立医科大学大学院感染病態学客員教授山田稔先生に心より御礼申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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